魔法の鏡 2017-08-22 21:12:21 |
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あるところに、それはそれは美しい白雪姫という娘がおりました。
艶やかな髪は黒檀のよう、柔らかな肌は雪のよう、唇は真っ赤に熟した可愛らしい林檎のよう。
ところが彼女の美しさを妬み、森の奥へと追放した意地悪な継母がいたのです──
『……というのが、白雪姫が小人たちに語りきかせた身の上話ってことになってるようだぜ王妃様』
「ちょっと待ってよ! そりゃあの子だって綺麗だけど、世界一美しくて比肩する者すら空前絶後なこの私が、あの子に、嫉妬!? 有り得ないっ! しかも追放したですって!? あの子が家出したんじゃないの!! 『さがさないでください しらゆき』なんて手紙までご丁寧に送ってきて!こっちがどれだけ心配してると!?」
『いやーまあほら、アレでしょうよ。良い歳した国王さんが──実の父親が──娘の自分とそう歳の変わらない若い女を後妻にとったの、年頃的にキモかったんだろ』
「……返す言葉もないけれど。でも陛下は、実家が没落して身売りされそうになった私を憐れに思って、救うためだけに娶って下さったのよ。公の場では夫婦として振る舞うけど、本当は私のことも娘のように思っていて、関係なんて一度も持ったことが──か、鏡?」
『……そうか、それは……それは、良かった。それじゃ、あんたに手を出しても──バチは当たらないってことだよな』
……ある国のお城には、どんなことを問うても真実を答えてくれる魔法の鏡がありました。
元はと言えば、嘘つきの邪悪な魔人を討伐した伝説時代の英雄が、鏡の中にそれを閉じ込め、真実しか言えぬ魔法で罰を与えようとしたのです。
しかしこの国の国王の元に嫁いだまだうら若いお妃様は、ご自身の美しさに大変な自信の持ちようで、毎日鏡の中の魔物に「世界でいちばん美しいのはだあれ?」『はいはいそれはあなたです』というアホな問答を何百回となく繰り返させるほどでした。
しかし、この鏡の中にいる魔人。そんなアホ可愛いお妃様に、いつしか恋をしていたのです。
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