躑躅 2017-07-01 16:50:17 |
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「ほうほう、そして我が家の天才はどんな事を思い付いたと言うんだい?父様に教えておくれ?」
息子の話す口調にクスクスと可笑しげに笑うでも無く、かといって真剣な表情をするでも無く、ジョージはおどけた様に同じ言葉で聞き返す。
『僕も一緒に行けば良いんだよ!ほら、素敵な思い付きでしょ?やっぱり僕は天才さ!』
自分が、さも素晴らしい発明をして見せたかの様に自慢気に胸を張る息子をジョージは目を丸くして口をあんぐりと開け見つめていた。
『父様?父様ってば!僕も行くの、父様だって一緒なら寂しくなんか無いでしょう?』
子供目からは奇っ怪で可笑しく見える父を揺すり、先程とは180度違う子供らしい我儘にねだる様な口調で続ける。
息子に揺すられ、数回の瞬きと共に苦笑いの様な複雑な笑みを浮かべアルトの頭にそっと手を置いた。
「一緒か…そうだね、いつか一緒に行けると良いな。」
優しく、けれど確かな拒絶を言葉の内に潜め頭を撫でる。お決まりの様にぷくっと頬を膨らませる息子に眉を下げて見つめるも、突然の来訪者にアルトのお願いは遮られた。
アルトとジョージの居た部屋が何処か弾むかの様に勢い良く開かれた。
「ジョージ!おっと、アルトも居たのか。」
少しばかり地面が響く様な錯覚を起こす豪快な声の正体、それはあまりアルトには好ましくない存在。
『何だとは何さ。バルヒ家の天才、アルト・バルヒ様だぞ。もうお仕事なの?…伯父様。』
ジョイナー・フェルス。ジョージ・バルヒの兄でアルトの伯父である。彼が来ると決まって父は海の向こう、遥かに離れた所に仕事に出てしまう。故に伯父の来訪はアルトをただただつまらなく、ただただ寂しい気持ちにさせるのだ。
少し膨れっ面で強気に返すのが、アルトの小さな小さな反抗である。
「アルト。ジョイナーと話す事があるんだが…良ければ庭から夕食用にベリーを沢山集めて来ておくれ。」
『――ッ……はーい。』
ジョイナーが来ると決まってジョージはアルトを表に出す、しかも外にだ。先月、不服が募り立ち聞きしようとしていたら容易く気付かれた。その時の父の顔は他の何よりも怖かった。
アルトは渋々外にあるベリーの木に向かった。
調理場の家政婦に篭を貰い庭へと出ていく。
一つ、二つ ――…。
小さなベリーを篭いっぱいにするのは幼いアルトにとって、決して容易い事では無い。
『父様と伯父様はいつもどんなお話をしているのかな?』
怒られても怖くても、子供故の好奇心は容易に抑えられはしない。庭から見て一階の左から三番目の窓、其処に父と伯父が居る。
『またお仕事なのかな…。』
またベリーを一つ、二つと篭に入れてはつまらなさそうに唇を尖らせる。その表情に先程の明るさや奇妙な自尊は感じられず、ただ年相応に寂しげに眉を下げた幼い少年が其処に居た。
父に言い付けられてから一時間程した頃、漸く篭にやや盛る位のベリーを摘み終えた。幼いながらもずっとしゃがみ込んでの作業は、細っこいアルトの足は棒の様に疲れきっていた。
調理場に戻りベリーの入った篭を渡す。
『マーシャ、今日のベリーはとても甘そうに熟れた物が多かったんだ。底のは潰れているかもしれないよ、もし潰れていたら今夜のデザートはベリータルトが良いな。』
『坊っちゃんはお好きですね、潰れていなくとも坊っちゃんのお好きなベリータルトは必ず食卓に並ぶようにしますよ。』
ベリーを摘むのは決してアルトの仕事ではない、普段は家政婦や執事が行うのがバルヒ邸では普通とされている。ジョイナーが来た日以外は、の話だ。
毎日食卓に並ぶ甘酸っぱくてキラキラとしたベリータルトはアルトの好物である、毎日並ぶのに敢えてねだる様に言うのがアルトが幼い証拠なのだろう。
調理場に雇われた家政婦の一人、マーシャ・イレイラがアルトにとって唯一話しやすい使用人である。
幼いアルトの言葉に少し可笑しげに笑い優しく微笑んで頷いてくれる、まるで母親の様だと感じる時もある女性だ。
>クルト様
続きが気になる…最高の誉め言葉を有り難う御座います!!!
そんな、有り難う御座います。頑張りますね!
>いっさ様
コメント有り難う御座います!他所で活動されていらっしゃるのですか、御目に掛かれないのが残念です…。
応援有り難う御座います、頑張ります!
『父様は?』
「まだ何も、ノアが先程お茶をお持ちしてから…そういえばノアも戻って来ていなかったですね。」
いつもならば既に書斎から出て、談話室で明るく古美術品でも眺めては子供であるアルトにはつまらないだけの世間話に花を咲かせている頃。
しかし今日はいつもとは違うらしい。ジョージ専属とされた執事、ノア・シュタインもが未だ書斎に行ったっきりらしい。
『ノアも?全く可笑しな話だね。ベリーも摘んだし、父様に報告しなくちゃなのに。』
執事迄もを巻き込んだ話し合いとは一体何なのだろうか、今まで以上に好奇心を刺激されるアルトにも僅かばかりの胸騒ぎ位感じ取れた。
「ご報告なされては如何です?きっとご主人様もお褒め下さりますよ。」
両目が閉じられた屈託の無い笑みを浮かべるマーシャ、笑顔を浮かべるだけでこんなにも幼く見えるものだろうか?不思議な程にマーシャの笑顔は柔らかく、幼ささえ感じさせる。
『うーん…そうだね!今日のベリータルトは格別甘いって教えてあげないと。』
少しの間頬杖を付いて考える様な仕草、アルトのお決まりの癖である。両拳をポンと打てば満面の笑みを浮かべて頷き、父達の居る書斎へと駆けていく。
後ろでは、頭を下げ表情の見えないマーシャがその姿を見送っていた。
>14様
コメント有り難う御座います!構いません、応援下さるお気持ちがとても嬉しいです。
もし同じ方でも別人であったとしても、お優しいお言葉がとても励みになります!
棒の様に疲れきっていた事も忘れ、大好きな父の元へひたすらに駆ける。大きな屋敷には幾つものドアが立ち並び、その奥の部屋は広い物ばかり。この部屋を全部使いきれている事が、アルトには不思議であった。
一つ、二つ、四つ、五つ…まだ着かない。
六つ、七つ目がジョージの居た書斎だ。アルトは上がった呼吸を胸に手添え整え、ドアノブに手を掛けた。
「しかし、今回はどうしたものかな…まさか息子を連れて来いだなんて。」
中から聞こえて来た伯父の声に身を強張らせドアノブに手を掛けたまま、アルトは固まってしまう。
『(僕を連れて来いだって…?仕事に?一体何の為に?)』
「アルトは連れていけない、いや…連れて行きたく無いんだ。」
疑問が湧き出した頃、父の悲痛とも取れる声音にアルトはドアを見詰める。
「そうですね、坊っちゃんを連れて行くのは…。」
執事、ノアの声だった。言い辛そうに掠れた声は、幼きアルトにも事が重大であるという事は理解出来た。
あっ違います同一人物じゃないよここではクルトはクルトいっさはいっさだからあまり変な事言わないで(^_^;)
まぁ小説完結するように応援してるね♪行き詰まりありそうだけど頑張って!♪
>いっさ様
お返事にかなりのお時間を要してしまい、誠に失礼致しました!
やはり同じ方では無かったのですね。
有り難う御座います!ゆっくりですが必ず完結させたいと思います。
いっさ=クルトですよ。
本人が言ってましたから。
紛らわしいですよね。
何がしたいのか意味不な奴なので無視した方が良いかと思います。
執事ノアの発言以降しん、と静まり返ったドア一枚挟んだ書斎が重苦しい。
『(父様…そんなに僕を側に置いておきたくないの?)』
一緒に行く。そう提案してから、アルトの居ない所での゙連れて行きたく無い"という父の言葉に哀しみという感情にアルトの胸は支配される。眉を下げ、ドアを見詰めていると一つの足音がドアへと近付いて来る。
『(…!父様に気付かれてしまう、又叱られてしまう。)』
慌てふためき、おろおろと辺りを見るも其処には誰か居る訳も無く。からからに渇いた喉を潤す唾も今は湧いて来ない、息を飲みドアノブを強く握るとアルトはそのまま勢い良く開いた。
『父様!ベリーを沢山摘んで来たよ、今マーシャに渡したんだ。今日のベリータルトはとても甘くて美味しいと思うよ!』
そして勢い良く父に飛び付いた。ジョージといえば、一瞬この世の終わりの様な驚いた表情を見せるも息子の言葉に数回瞼を瞬かせてはホッとした様な表情を見せた。
>20様
お気遣い有り難う御座います。ですが当人様の仰有った事を優先したいのと、ただ私の小説を書くというだけのトピでこの人は同一人物だ、いや違う別人だと正体を探るという目的も趣向も私には御座いません。
それに、いっささんとクルトさん。両者が同一人物でも別人でもコメントを頂き、温かい応援の御言葉を頂き私自身元気づけられた事に違いはありません。ですので、こういった誰も幸せになれないコメントは控えて頂けると有り難く思います。
貴方様だけが仰有った訳では無いのに、貴方様にだけ長文にてのお返事をしてしまい誠に申し訳ありません。
何はともあれ、コメントを頂けてとても嬉しかったです!有り難う御座いました。
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