渇望

渇望

黒猫 悠華  2017-05-22 16:43:58 
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声が出なくなった男の子と歌が下手な女の子の話。

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  • No.41 by 黒猫  2018-04-07 08:52:56 

度々、暴力を振られる俺を守ってくれた奴がいた。日谷和輝(ヒノヤ カズキ)っていう、俺の幼なじみってやつだ。
そいつは俺に謝らなかった。一回も謝られたことはない。しかしそれを、俺は無礼だとは思わなかったし、俺とかずきはそういう関係だと割り切っているので俺も謝ったことはない。
声をなくし、部屋に引きこもった俺を毎日毎日
訪ねてきた。俺はその度、部屋にかずきをいれた。その度、勉強を教えてもらったり、ゲームしたり、笑って話したりした。
俺はかずきに救われていた。
ある日、いつものように訪ねてきたかずきに聞いた。俺なんかと付き合ってていいのか、と。かずきは何も迷わず笑って答えた。幼なじみでしょ?、と。
こいつは昔からこういうやつだった。こう言ってにこりと笑った顔には、なんの裏もないような、そんなやつだった。だけど少し引っかかった。幼なじみじゃなかったら、かずきはここにいなかったのか。
そう考えると止まらなくなった。かずきは幼なじみだから、来たくなくても来ているのかもしれない。教えたくもないのに、したくもないのに、はなしたくもないのに、仕方なくやっているのではないか、と。
俺はかずきを知っているのに、かずきを信じなかった。



俺は唯一の救いであるかずきを疑い、遠ざけた。怖かったんだ。
しかし次の日、両親から逃げようと家を出ると、そこにはかずきの姿があった。
「久しぶり、あつし。調子どう?」
俺はぎこちなく頷くと、かずきはニコリと笑った。そのままかずきは黙っていたので、俺は紙を取り出し、ペン先を滑らせていく。
《 なんでここに 》
「・・・あつしは引くかもだけど。あのさ、最近どこいってんの?」
《 どういうこと? 》
「いつもいつもあつしがいなくなるんだ。尾行しても気が付いたらいなくなっちゃうんだ。だから直接聞きに来た。あつし、お前いつもどこいってんの?」
聞きたいことは山ほどあるが、まぁそれはスルーして。
俺は海老名に会ってから大体病院へ行っている。ほぼ毎日病院だ。多分どこに行っているか、と問われたら病院だ、と答えるのが正解なのだろう。
しかし、こいつの言ってることから、多分それは正解じゃない。
《 いなくなるって どういうことだ、 》
それを見せると、かずきはうーんと唸ったあと、こう答える。
「まぁいいや、今日は一緒に病院いこーよ」
話が唐突すぎるのは昔からのことだ。もう慣れた。かずきはこちらに手を差し出す。俺はそれに応える。すると同時に、かずきは俺の手を自分の方へ引き寄せる。
「早く、行こ」
俺は頷く。こいつのたまに見せる冷ややかな目はなんなんだ。身体の芯から冷えきるような、そんな目。これは本当に慣れない。
俺は引っ張られるままにいつもの病院へ行った。

  • No.42 by 黒猫  2018-04-08 01:24:01 

いつも通り、病院の前へ着く。隣にはかずき。
「ここでいんだよね」
かずきはさっきの冷ややかな目とは全くの正反対の、澄んだ目でこちらを見つめる。俺はこくこくと頷く。いつものかずきだ、そう、思う。
かずきはまたずかずかと歩き出すだろうから、息をゆっくり整える。しかし、なかなか歩き出さない。うつむいていたものだから、顔をあげると、病院の入り口には俺らと同じくらいの女の子が仁王立ちでそこに立っていた。
「・・・誰だ、あんた」
かずやが訝しげに彼女の方へたずねる。風が吹いて、その女の子の長いストレートの黒神が揺れる。前からはわからないが、後ろで少し束ねている。セットアップってやつだ。確か。
たずねて一時経つと、彼女は急に口を開き、饒舌なまでに話し始めた。
「私に名前を先に聞き出すより、あなたが先に何者なのか答えなさい。私はあなたを知らないわ。そんな見知らぬ人に名前を聞かれて答えるのバカなんているわけないでしょ。名前を聞く時は自分から名乗るべきだわ。それに、初対面の私に向かってあんた、なんてほんと、あってはならないことだわ。知らないの?初対面の方にはこうやって、敬語で話し合っていくものよ。そんな上から目線で言われても、普通の人は話す気にもなれないわ。いい?それが礼儀ってものよ。初対面の方には特に気をつけていかなきゃいけないの。これから社会に出て困るわよ。君なら分かるよね、玉森くん」
言ってきた内容なんてよく分かってなかった。しかし、いきなり俺の名前が彼女の口から紡ぎ出されたことに驚き、つい頷いてしまう。
隣のかずきは表情こそはあまり変わらなかったが、俺の腕を握る力が増した。正直痛い。離してほしい。かずきはふぅ、と息を吐き、ゆっくり口を開く。
「・・・俺は、日谷。知ってるかもしれないが、こいつは玉森。で、あなたの名前はなんですか」
そう言うと、彼女は口角を少しあげ、満足そうな顔をする。そして再度口を開く。
「言ったらわかるみたいね、かずきさん。私の名前は、板橋里(イタバシリ)。以後お見知り置きを。」
彼女、板橋里は軽くお辞儀をした。
「今思ったけど、さっきあんたも敬語ではなかっただろ」
かずきがそう問うと、板橋里はきょとんとした顔をして、
「なんのことかわかりませんわ、私、数秒前のことは忘れてしまいますから」
「はぁ?」
ちょっとイライラが溜まりすぎているかずきの背をさすり、なだめながらも俺は考えた。
彼女は何者なんだ。なんで俺の名前を知っている?俺は彼女と初対面、のはずだ。
なぜとどうしてが混ざりあう。
・・・まさか、あの一応俺の元カノじゃ、なわけないよな。名前違うし。
「さぁてと。玉森くんは今日もゆうちゃんのお見舞い?」
ゆうちゃん、と言われて中々ピンとこなかったが、思い出した。海老名の下の名前はゆう、だったはずだ。今日はかずきがいるから行く気はなかった。だから、俺は首を振る。海老名にはこのことをあとで何らかの方法で伝えておけばいいと思ったから、今日は会わないつもりだった。
「今日はお友達もいるから?玉森くんは他の人なんて連れてこないと思っていたから、そうだとは思ったけど」
玉森くん玉森くん、毎回毎回気になるので、紙を取り出し、言いたいことを書く。
《 なんで俺の名前を知ってる? お前は何者だ、 》
それを板橋里はゆっくりと目を動かしながら読む。それと同時にまた口角があがっていく。
「・・・私、あなたに会ったことあるのよ?」
背筋が凍る。なぜだろうか、別にそこまでのことではないのに、体が動かなくなる。それに気付いたのか、かずきは口を開く。
「・・・行こうぜ、あつし」
そう言うとかずきはまたしても、俺の腕を引っ張って、元来た道を戻っていった。
それから俺たちはうやむやに解散した。
じゃあな、とかずきが言って、俺が手を振って。かずきは向かいの家だから、かずきの家の扉の開閉音が聞こえた。俺もゆっくり、家へ足を踏み入れた。
明日はまたカウンセリングだ。もういいんじゃないか、そう考えながらベッドへ転がる。俺の記憶の中で板橋里を探すが、一切見当たらない。
俺は考えることを放棄し、一旦眠りについた。





カウンセリング目当てで病院へ来ていた。
いつものように人々を観察していると、顔の見たことがある男の子が目に付いた。じっと観察すると、その子はこちらをふいに向いた。
俺はとんでもないことに気づいた。あれは・・・俺じゃないか。小さい頃の、明るかった頃の、俺じゃないか。
なんで、そんなこと、あるはずない。だって今は俺が18歳で、あの頃は多分、ここに少し通っていた頃の小学一年生ほどだ。なぜだ、なぜ、、。俺は考えた。考え続けた。
ふと立ち上がると、記憶が甦ってくる。

髪の長い、今の俺の歳と同じくらいの女の人がこちらへ近寄ってくる。そして俺に、1枚の紙を手渡した。
「ねぇねぇ僕。お名前なぁに?」
「僕?僕はたまもりあつしだよ!おねえちゃん、どうしたの?」
「おねえちゃん、困ってるの。たまもりくん、これをあそこのお兄さんに届けてくれないかなあ?」
「これ?なぁに、これ」
「誰からって聞かれたら、ゆうからって言ってね」
「? うん、わかった!」
「それから、あのお兄ちゃんに君の名前はしーっだよ?」
「しーっ」
口元に人差し指を当て、女の人と一緒にくすくす笑った。
俺は目的の男の人のところへ行く間に、気になって気になってしょうがなかったから、中身を、みた。
『 病室に来てください。いつでもいいので、待ってます。』

なぜ?なぜ俺が俺にこの紙を届けているんだ?あいつは・・・板橋里?なにが、どうなっている?
なんで俺は・・・今の今まで忘れていたんだ?


  • No.43 by 黒猫  2018-04-09 00:36:21 

悪い子、なんて言う変な子供だなと思った子は自分だったのか。たしかにあのとき、手紙の中身を見た自分は悪い子だと言って、そのことを隠そうとした。
確かあの時は、小学一年生。運動会で転んで、結構な大怪我をして、七、八週間は通っていたはずだ。俺自身にその手紙を渡した時はもう傷が外側からはあんまり分からない状態になっていたし、多分今ここにいる小さい頃の俺も完治寸前のはずだ。
しかし、なんでそんな俺が今の俺の目の前にいるのか。
板橋里。引っかかるのはあいつだ。
なんで小さい頃の俺の目の前に現れたのか。なんで今の俺の前にも現れたのか。そして、どうやって今も俺の小さい頃と変わらぬ姿で俺の目の前に現れることが出来るのか。
あいつは俺の名前を知っていた。そりゃそうだ、本人から聞いたんだから。
ぐるぐると思考を回転させながら、上の空でカウンセリングを受けた。そのせいか、今日はカウンセリングに対する苛立ちもなかった。
海老名の病室へと向かう。俺は今、無性に海老名に会いたがってた。

  • No.44 by 黒猫  2018-04-16 00:02:46 

がらりと戸を開ける。いつもの海老名の反応がない。少し不安になる。
俺がいない間にあいつになにかあったら。そう考えるだけで虫唾が走る。
早足で海老名のベッドの方へ向かうと、海老名はただたんに、寝ているだけだった。すぅすぅ、と小さく寝息をたてている。俺はその姿にとてつもない安堵感を覚える。
海老名を起こすのも悪いと思ったから、椅子へ腰をかけ、あたりを見渡す。
人の気配がある程度感じられないこの無機質な部屋で、俺は何を思っているのかと聞かれれば、それは海老名のことだ、と答えるだろう。海老名とここで笑い合えるのはあと何秒だろうか。海老名と外であそんだりする日はくるのだろうか。
海老名は未だに俺に病名を教えてくれていない。きっと、これからも教えないつもりだろう。でもこれだけ、毎日と言っていいほど通っていて、俺か知らないはずない。
海老名の病気は【突発性拡張型心筋症】。
心臓移植でもしないと治らないっていう、難病リストにも記載されているものだ。
海老名には自覚症状である、動悸や呼吸困難が現れているはずだ。だけど俺には見せなかった。多分、俺には見せないようにしていた。度々俺は、不自然にそして強引に帰される。まるで、俺には気付かれたくないんだ、というふうに。
俺は寝息をたて、眠っている海老名を見つめる。心の中で海老名を攻める。甘いんだよ考えが。
ちらと、ベッドの隣にあるテレビが置いてある棚をみる。戸棚の隙間から、何かがはみ出ていた。すこし気になり、手に取る。
ノートだった。表紙にも裏表紙にも何も書かれていない、真っ白なノート。
ノートをめくる。一ページには大きな字で『 私 』と書かれていた。次のページからは、表紙や裏表紙とは対照的に、真っ黒に染まっていた。小さな文字で、いろんなことがかいてある。
海老名はたまに、俺が病室へ入るとここへ何かを隠す。それが気になっていたから。悪いことをする気分だが、しょうがない。
適当なページを開き、じっと見つめる。

【 人だから楽な思いも苦な思いもする。楽な思いばっかする人もいれば苦な思いばっかする人もいる。人だから感情が豊かですぐにそれを表すことが出来る。他の動物にもコミュニケーションはあるんだろうけど、私はよく知らないから触れないでおく。豊かに表すことが出来るからこそ、伝えられることがあって、それが元になるトラブルもある。ひとつの出来事が過剰に表現される。ひとつの出来事が一人によって上書きされる。言葉っていうのはいろんな力を持つ。その言葉が今、どんどん強くなっていく。インターネット上で一言言えば、それで世界が動く人だっている。人は伝えなきゃいけない。自分はなにをしたいのかを、これをどうしたいのかを。それを伝えるのには言葉がいる。僕らの前世に作られたであろう言葉が、言語が、私たち には必要不可欠なんだ。でも言葉の重みを知らない人があーだこーだ言ったところでなにも変わっちゃくれない。ただ時間が過ぎてくだけ。人に自分の何かが伝わるのはある意味、運だと私は思う。この世界、大体は運で成り立っている。お金と運。金はどーにかできるとしても、運は生まれつきだ、どーにもならない。私たち一人一人が産まれてこれたのも、息をしているのも、会社が成功するのも、宝くじが当たるのも、一人一人が死んでいくのも、全部運だ。たとえシナリオを神様が決めていたとして、神様が最初から私たちの運の量を決めているから、私たちはあらがいようがない。私たちは自分の道を歩んでいるようで、決まった道を歩いてる、ってことかな。私の持ってる要らない思いは、醜くって汚くって真っ黒なドロドロの思いだよ。誰へ対してかって?こっちが聞きたい。分かりたくもないよこんなの。ただあるのだけはわかってる。】
・・・よく分からなかった。海老名はこんなことかけたのか。海老名は、こんなこと思ってたのか。
途端に海老名が怖くなる。何を思っているのか、急に分からなくなる。
再度、ノートをめくっていくと、最後のページには、またマッキーで走り書きがされていた。
〝あつしくん、みつけてもよまないで〟。
読んでしまった。読んだあとだ。どうにも出来ない。
俺はそのノートをゆっくりと元あった場所になおす。そして再度海老名の方へ目を向けた時、海老名の目がゆっくり開いた。
「・・・あつし、くん?」
《 おはよ 》
「おはよー」
海老名は目を擦りながら答える。この様子だと見られていないらしい。よかった。
少し話してから、俺は話題を切り出す。
《 歌蝶病、って知ってるか? 》
それを見ると、最初は普通に考えていた風でいたが、途中から手を顎に当て、うーんとうなり出した。
「珍しく字が綺麗・・・ということは君の好きなこと、ということは歌か二次元か・・・そんな病気あるの?」
《 すいりすんな 》
どうやら推理をしていたらしい。海老名が楽しいからいいじゃん、と無邪気に笑う。
《 そう、病気 二次元の中限定のな 》
「へぇ、そんなのあるんだ。その、かちょうびょう?ってどんなの?」
少し時間をかけて言葉を書いていると、海老名が珍しくまだぁ?と催促した。俺はささっと書き終わって見せる。
《 歌を歌おうとするとその歌がちょうになる。と同時に寿命が縮む 》
かいて見せると同時におーと海老名が声を上げる。
「珍しく漢字が多い・・・。え、歌が歌えなくなるの?」
《 俺はもううたえねーけどな 》
《 そんなびょーきだったらいいなって おもったことがある、それだけだ 》
そう見せ終わると、海老名はこっちを見つめ、静かに言った。
「・・・それは、だめだよ。だって、まだ君は、歌えるじゃん」
俺はその純粋な瞳が眩しくて、目を逸らした。返事は、かかなかった。
少しすると、海老名が口を開いた。
「・・・じゃ、またね。君は明日も来るの?」
ほら、こんな風に俺を帰らせる。俺はそれを追及せずに、すっと立ち上がる。
《 わからない たぶん、こねー 》
「そっか、じゃあ、また」
そういって海老名は目を閉じた。俺は静かに病室をでた。
時間もまだ余っていたので、俺は霜川さんのところへ行くことにした。

  • No.45 by 黒猫  2018-04-30 10:33:53 

ドアを開けると、霜川さんの姿が目に入る。霜川さんは窓の外を見ていた。じっと、何かを思い起こしているように。
俺は邪魔をしてはいけない、と感じ、後ろへ下がる。と同時に霜川さんと同じ病室の同じ年代のような人が俺に声をかけた。
「おーあんちゃん!また来てたのかい!また霜川さんに用かい?」
そう大きな声で、俺という存在に反応すると、霜川さんはくるりとこちらを向いた。反応した人はこちらを向いて、にかりと笑う。
この病室は二人しかいない。俺はその二人に向かって礼をする。
「おいで、こちらにお座り」
俺はこくりと頷き、霜川さんのベッドへ近寄る。常備の椅子を取り出し、俺はそれに腰をかける。
俺は思う。最近、来る度にちょっとずつ、ちょっとずつ霜川さんの体がなにかの病に蝕まれていっているな、と。その要因はさすがに知らないが。しかし、こういう時間の中でそれを聞くのはどうかと思うところもあるので俺はそのことを黙っていた。
「よく来たね。もう海老名ちゃんのお見舞いには行ったのかい?」
こくりと頷く。霜川さんは将棋盤をとりだそうとするので、俺が率先的に手を伸ばす。将棋盤を机の上にセットし、駒を所定の位置に移動させ、霜川さんはふぅ、と一息ついた。
「さぁ、はじめようか」
先手はいつも霜川さん。霜川さんが駒を進める。俺も続けて駒を動かす。
静かでゆったりとした時間が流れる。この静けさが愛おしい。
勝負も終盤に差し掛かった時、霜川さんが次に動かす駒を考えながらも口を開いた。
「あつしくん。君は海老名ちゃんの何になりたいんだい?」
霜川さんがゆっくり駒を動かす。次は、俺の番だ。
俺は海老名の何になりたいのか。
俺は駒を動かす。現状、俺が優位だ。このままいけば、いつものように勝てる。次は、霜川さんの番。
ペンと紙を手に持ち、すらすらと書いていく。
霜川さんが駒を動かしたのを見て、書いた紙を渡す。
《 俺は海老名の偽善者になりたくないんです 》
次は、俺の番。

  • No.46 by 黒猫  2018-07-01 18:46:51 

よっしゃー
今からいっきに投稿すんぞー

  • No.47 by 黒猫  2018-07-01 18:50:21 


!!¡¡!! 

あれから次の日。
うう、とバイブの音がした。目を開ける。俺の頭上にあるスマホを手に持ち、電源を入れる。朝の八時十三分。目をこすって画面をいじる。
見ると、俺を起こしたのは目覚まし時計ではなく、メールの着信音だった。
体が起きてしまったので仕方なく、スマホを手に取る。
海老名からだった。
滅多に来ない海老名からのメール。俺からも送らないが。開くとそこには嫌な文字が送られてきていた。
《 私、死んじゃう 》
「・・・っ!?」
その文字を読んだ途端、声にならない叫びが上がる。静かにたじろぎながら辺りを見回すと、自分のデジタル時計が目に入った。
四月、一日。
午前中は、嘘をついてもいい時間。
・・・タチの悪い嘘だ。
海老名のことだから、行事には俺を巻き込むはずだ。そう考え、そう思い込み、信じ込ませ、素っ気なく《 へぇ 》と返した。
・・・信じたく、なかった。
スマホを放って寝っ転がって、目を閉じた。

再び目を開け、時計に目をやる。
四月一日、十二時三十二分。
昼。嘘をばらして笑う時間。
メールを開いて確認する。既読すらついてなかった。嫌な予感がした。
カーテンの隙間から刺す光が、うざったいくらいに眩しい。
いかないと。嫌な予感をかき消すように繰り返す。本能が叫ぶ。感情が俺を責め立てる。
今、あいつは何を思っているのだろうか。今、あいつは。なんで、なんでなんでなんで、俺は。
うわぎを乱暴にとって着る。必要なものをさっととって、階段をかけ下る。
「ちょっと、どこ行くの」
母さんの声。今日は父さんが朝早くから仕事でいないらしい。その声を無視して俺はドアを開け、外へ飛び出す。
「あつし!」
ドアが閉まる。と同時にスマホが鳴った。スマホを取り出し、スワイプする。
海老名からの、メールだった。
中を開く。送られてきたのは三文字だった。
《 嘘だよ 》
俺は病院の方へ、全速力で走った。

!!¡¡!! 

息を切らしながら病院へ辿り着く。病院の正門の前に、見たことのある顔の女がいた。長い髪の毛のハーフアップに、見たことのある制服姿。
そんな格好の板橋里が立ちふさがる。俺は無言で睨む。すると板橋里はにこりと微笑んだ。
「私、君の全てを知ってるの。声を失った理由も、声を出さない理由もね。で、質問なんだけど・・・君は海老名ちゃんの何になりたいの?」
笑顔を崩さず、こちらを見つめ続ける板橋里。
ついこの間、問いかけられた質問だった。答えは今日、自分で分かった。
俺は板橋里の目を見つめ、はっきりと答えた。
「正義」
がらがらと俺から出る音。汚い汚い音。昔とは比べ物にならないほどの音。喉がヒリヒリする。久しぶりに声帯を使ったせいだろうか。
 板橋里は一瞬目を見開くと、すぐにいつもの微笑みに戻した。
俺は誰かの何になりたいのか。俺は海老名の正義に、ヒーローみたいなやつになりたかった。子供じみたような考えだけど、もう俺はそれになる権利はないだろうけど、それでも誰かの正義になりたかった。
正門をとおった瞬間、板橋里は微笑んだまま、すっと消えてしまうのが視認できた。しかし今、そんなことはどうでもよかった。
海老名のところへ。
帰れと言われても、なんと言われても、俺はここにいなければいけない。そんな不確定な決意で、廊下を進む。速度が上がっているのを看護師に注意されながらも、それでも前へ進む。
俺は海老名に会うために、前へ。
しばらく進んで、海老名の病室の前に立つ。
海老名はなんというのだろうか。自分を見捨てた俺に。
深呼吸をする。足が自然とすくむ。心臓の鼓動がうるさい。
ゆっくり俺の心臓を落ち着かせると、自然と歌が聞こえた。病室の、中から。
・・・海老名の、声だ。生きてる。
そう分かると、我を忘れ、ガラリとドアをスライドさせた。窓際には、ベッドの上で寝たまま、歌を歌っている海老名の姿があった。ドアが開く音に気付き、歌をやめ、こちらへゆっくり首を動かした。
「・・・あつし、くん?」
俺がこくりと頷くと、海老名はいつものように微笑んだ、かのように思えたが違った。
海老名は、作り笑いをした。俺の前ではしなかった、作り笑い。
俺はそれに気付き、目を細める。俺は何てことをやってしまったんだ。もしかしたら、とりかえしのつかないことかもしれない。
あれ以来会ってなかったが、あの海老名の母さんが頻繁に見舞いに来るとは思えない。じゃあ、来るとしたら誰だ。自意識高いように見えるが、俺だ。俺が来なかったら、海老名は、一人だ。一人は怖い、一人は、寂しい。
その一つの事実に打ちひしがられていると、ドアの開ける音が聞こえた。俺は振り返る。見えた姿に驚愕する。
「あら、あつしくん。来てたのね」
長く垂らした茶髪が印象的な板橋里の姿だった。さっきと同じ微笑みで、しかしさっきとは服装ががらりと違う。肩の出たヒラヒラした服に、細く長い綺麗なシルエットの見えるジーパン姿だった。
 こんな短時間に着替えてこちらへ来るなんて、有り得ない。
「あ、ゆうちゃん。おかえり。あつしくんのこと知ってるの?」
状況が把握しきれない。
なぜ板橋里がここにいるのか。ゆう、というのは板橋里のことだろうか。なぜ海老名は板橋里を知っているのか。俺は板橋里のこと、一言も言ったことないのに。
・・・海老名は、俺だけでいいのに。
「ええ。そういうゆうも知り合いなの?」
「うん。知り合い」
板橋里が柔らかな笑みで海老名と話す。海老名も、いつも俺に見せていた素直な笑みで返す。
それがなんだか、腹が立った。
そう感じた時、我に返る。俺は何を考えてるんだ。海老名にだって人間関係はあるし、俺が腹立つ理由もない。さっきからなにか、俺のなにかが可笑しい。
俺は聞きたいことを紙にささっと書いて、海老名に見せる。
《 病状は? 》
「ううん、別になんともないよ」
そう言って作り笑いをする海老名。バレないとでも思ったか。どうして頑なに俺には作り笑いをするのだろうか。
ここで俺が帰ったら。もう海老名に会えないと思った方がいい。そう直感的に思った。
「玉森くん、今日はどうしてここに?」
板橋里が俺の名を呼ぶ。そちらに目をやると、板橋里はわかったようにニヤリと口角をあげる。こいつの笑みも、海老名の作り笑いとは違う気持ち悪さがある。
俺はそれを見て、迷わず返答を書いた。
《 えびなに、会いたかったから 》
そう書いたのを見せると、板橋里は少し俯いた。海老名も見えていたらしい、一瞬作り笑いをくしゃりと崩し、また立て直した。
ふと思った。こいつの、海老名の心のなかを覗いてみたい。もし、覗けたら、俺は壊れてしまうかもしれないけど。それでもいい。海老名には今、何を思っているのか。いや、俺には想像もつかない。
「・・・それは」
板橋里が口を開く。さっきの俺を卑下するような笑みは消え失せ、さっきよりも俯いて拳を握りしめていた。
俺はそれを黙って見つめる。海老名も同じだった。
「あなたの自己満足。綺麗事言わないで。どーせさっきまでゆうのそばにいられなかったから、その詫びかなにかで来たんでしょ?」
すっ、と板橋里が顔を上げる。憤怒と傲慢が混じったような、曖昧な表情をしていた。
「私が、ゆうのそばにいたの。あなたの代わりなんかじゃない。ただあなたは、私の代わりにゆうのそばにいただけ。私がゆうのそばにいるときは、あなたはいらないの。だから」
意味が分からなかった。何を言っているのか。
理解できなかった、と言えば少し嘘になる。理解、したくなかった。
「消えてよ」
海老名の方をちらと見ると、今度は海老名が俯いていた。俺は顔を顰(しか)める。
俺だけのなのに。海老名には俺だけいればいいのに。海老名がいなかったら、俺は。
存在意義が、消滅する。
俺は静かに足を動かした。もうこんなところにいたくなかった。
もう海老名は、俺を必要としていなかった。それだけは確かだった。
 
 でも最後、俺が振り返った時。
 なんであんなに物欲しそうな表情でこちらを見ていたのだろうか。



VI
 
 あれから、早一ヶ月。俺に平和な日々が訪れていた。
 病院には度々行っているものの、海老名や板橋里の姿も見かけない。その代わり、といってはなんだが、再度日谷と遊ぶようになった。今度は家のなかではなく、住宅街から、病院とは反対方向に外れたところにあるゲームセンターで、だ。
 日谷と遊ぶのは楽しい。もちろん、家から離れられる、というのもある。それと、人と接している、というのも。
 しかし、日谷と、となるとまた違う。昔からの付き合いからか、日谷といると、心が落ち着くのだ。それは日谷も同じのようで。
 俺は何度か日谷に聞いた。こんな俺なんかと一緒にいていいのか、と。返ってきた答えは一緒。もちろん、ただそれだけ。でも俺にとってはそれがとてつもなく嬉しくて。
 俺も日谷もゲームが上手く、クレーンゲームに限らず、いろんなゲームで遊んだ。格ゲーや音ゲー、対戦など、まぁとにかくいろいろ遊んだ。お金の方は、これ以上使い道のない俺が七割方出した。別にこれといった支障はなかった。
 日谷と遊ぶ日は絶対家に何か持って帰ったし、ものが取れた時の爽快感はたまらなかった。日谷と遊ぶのは本当に楽しかった。何もかもが忘れられた。
 家に帰ると、母さんが必ずと言っていいほどいる。母さんは俺に唯一、おかえり、と言ってくれる。俺は軽く頭を下げる。父さんは目障りだ、という風に見るだけ。といっても別に気にしてない。俺が中卒してからはずっとこれだ。それもそうだ、仕事もせずに呑気に遊んでいるばかりだから。声が出せないことなんて、父さんは全くわかってないんだと思う。
 だから最近、深夜にバイトを始めた。昼にもまたちょっと違うバイト先に顔を出したりもする。声を出す練習も兼ねて、だ。バイト以外では声を発さない。
 バイトに関しては母さんからの許可を取っているだけで父さんには言っていない。だから変わらず目障りだ、というサインを送ってくる。このサインを受け取ったあと、古くさい自転車に跨り、バイト先へ行く。
 俺も案外声を出せるようで、人並みには遠いが、いらっしゃいませ、ありがとうございました、は綺麗に言えるようになった。綺麗、と言っても声帯はまだヒリヒリするし、すぐ喉が痛くなるし、声自体は綺麗ではないが。
 そして、これで金を貯めたら、ある程度独学で勉強して、参考書買ったりして、高卒認定試験を受けようと思っている。さすがに中卒じゃまずいと思ったから。
 声が出せなくなって以来、学校というものに微塵も関わってこなかった。高校なんて、行こうという気もしなかった。声が出せないなんて、俺にとっては大きすぎるペナルティだったからな。
 俺は、新しいことを始めた。始める度に、心の中がざわつく。俺は、これでいいんだとそれを無視する。
 そんな新しいことが慣れてきたある日のこと。俺のスマホに一通の通知が届いた。
 無機質に海老名、と書かれた通知が表示される。海老名からのメッセージだった。そう認識した途端、俺は無意識に両手を湿らせる。
 恐る恐る海老名からのメッセージを開く。そこには見た事のある文、一行のみ書いてあった。
 
 病室に来てください。いつでもいいので、待ってます。
 
 シフトを確認し、薄手の上着を手に取る。スマホと財布をを別々のポケットの中に突っ込んで、俺は家を出た。
 ただ今の時間は、午後二時。今日はカウンセリングの日だ。そして十時からバイト。頑張らなければ。

  !!¡¡!! 
 
「もういいですよ。君はよく頑張りました」
 カウンセリングの先生から告げられた言葉。
 俺はカウンセリングが面倒で面倒で、先生の前では今までにないほど話していた。そうしていると、予想通りカウンセリングが終わった。
 声が出ない、いや声を出さなかった何年間も通い続けたカウンセリング室を、先生に感謝の言葉を伝え、出る。
 はっきり言って清々しい。もうあの面倒なものを受けなくていいのはこんなに清々しいものなのか。まぁ、最初からカウンセリングという行為は母さんの自己満足のためだけのものだったから清々した、の方が正しいかもしれない。
 白い廊下を歩いていく。すれ違う人達がまた違って見える。そこらに生えている、強く生き抜く力を持った、人間の言う雑草のようだ。俺は雑草を美しいと思う人間だから、決して悪くいうつもりはない。
 ふと思い出した。霜川さんはどうしているだろうか。
 幸いなことに、まだ三時前だ。本来の目的の前に、霜川さんの病室へ行くことにした。
 霜川さんの病室か調べようと、病室一つ一つのネームプレートを見る。
 少しすると霜川さんの名前があった。前と同じ部屋だ。しかし、霜川さんの名前だけしかなかった。前にここにいた元気なおじいさんはどこへいってしまったのだろうか。無事に退院したのだろうか。考えても仕方が無い、と切り捨て、がらりと戸を開ける
 いつものように、窓際のベッドで、外の景色を見ている霜川さんの姿が見えた。霜川さんは人の気配に気付いたようでこちらへ振り向くと、俺だと分かったからか、にこりと笑ってくれた。
「あつしくんかい。久しいね、どうしたんだい?」
 俺は軽く頭を下げる。話をしようと霜川さんの方へ歩み寄る。
 近くに行けば行くほど、嫌なことが見えてくる。会った時とはまた違う元気さが漂っているような、ただ単純に弱っているような。
《 すみません、長い間こちらに伺っていなくて 》
「いいんだよ、あつしくんの好きなときで。ところで、なにかあったのかい?それと、お見舞いに来ていた子はどうなったんだい?」
 大体は俺がイエスかノーで返すことの出来る質問しかしない霜川さんが、こうして紙で書かなかければ伝わらない質問を連続で言ってくるのは初めてで、少し驚きつつも俺は字が見えるように、小さな紙を四枚使って書いていった。
《 声が出ないということに対してのカウンセリングが今日おわって。 》
《 そのついでにあいつのみまいに行こうとしたんですけど、 》
《 行きづらくって。 》
《 すみません、ついでみたいな感じになってしまって 》
 俺が申し訳ない、というような顔を無意識にしたのか、霜川さんがそんな顔しなさんな、と声をかけた。俺はそれに対して、頷きながら口角をあげた。
 俺は気になっていたことを切り出す。
《 隣に寝ていらした方は、どちらへ? 》
「あぁ、この前退院してしまったよ。すっかりこの病室も静かになってしまってね。少し寂しかったんだ」
 そう言って隣のベッドを見つめていた。見舞がない間の話し相手でもあったのだろう。俺はそういう関係が少し羨ましくなった。
 それから霜川さんは思いついたようにおぉ、と声を出し、自分の近くの棚をごそごそと探り始める。俺はなんとなく察し、それを手伝う。
 それを取り出し、机の上へ堂々と置く。
 霜川さんが取り出したのは、見慣れた大きな将棋盤だった。俺と霜川さんが使っていた、あの将棋盤。
「せっかくだし、一戦しないか」
 俺がゆっくりと頷くのを合図に、二人で駒を並び始めた。
 
「・・・お、おぉ!!!」
 霜川さんのこの声を最後に、一戦が終わった。窓から刺す太陽の日差しの暑さに今頃気付く。俺の肌はいつの間にか汗ばんでいた。
 俺は霜川さんに初めて負けた。
 それ以上でもないし決してそれ以下でもない。俺はじいちゃんから教えてもらった戦法を忠実に守って、再現して。それが、破られた。
 なにせ俺はその戦い方しか知らない。俺は将棋というものをじいちゃんの目からしか見たことがない。
 霜川さんは大きく背伸びをし、元に戻ったところでガハハ、と会った時と同じように笑った。
「やっぱりこうすれば勝てるんだな!ずっと考えていたんだよ!上手くいくとは思っていなかったが、やってみるもんだな!」
 屈託のない豪快な笑いと笑みで喜ぶ霜川さん。俺は自然と笑ってしまう。
《 負けちゃいました 死んだじぃちゃんに文句言わなきゃですね 》
《 これを使ったら絶対勝てる、って言われてたんで 》
 それを見ると、霜川さんはそうだなぁ、と笑った。
 「さっきから書かせてばかりですまないが、そのおじいちゃんの名前はなんなのか、教えてくれないかい?」
 霜川さんのことだから何かあるのだろうと、他人であることも気にせずにじいちゃんの名前を差し出す。
《 江神 武嗣 えがみたけし 》
 それをみた霜川さんは納得したような表情で俺を見つめる。俺がそれに戸惑っているのを感じたのか、意図は何なのかおしえてくれた。
「昔の旧友にね、将棋を一緒にしてくれるやつが数名いたんだ。もう何年も会ってないんだけどね。その中に一人、わしが一回も勝てたことの無いやつがいたんだ。そいつが確か、江神武嗣だった気がするんだけどね・・・。もう、亡くなっていたのか・・・。・・・原因を、聞いてもいいかい?」
 そうしみじみ言うと、霜川さんは俺から目をそらした。憂いげな目で、俯いていた。
《 心筋こうそくで、死にました。最後まで、あの人に勝てたことはありません 》
 そう書いた紙を霜川さんへ見せると、霜川さんは俺を再度見つめた。そしてそれと同時ににこりと微笑んだ。
「心筋梗塞、か。抗えない運命だったのかもしれないな」
 そう言いながら見せる霜川さんの笑みには哀愁が漂っているのがわかった。俺はどんな言葉をかければいいのか分からなくて、じっと黙っていた。
 時計を見ると、針は四時を過ぎていた。そろそろ行かねばと椅子から腰をあげる。
「おぉ、そうだな、見舞いか。またな、あつしくん」
 俺が一度頭を下げると、霜川さんが江神に俺はお前に勝ったと伝えてくれ、と笑った。俺はこくりこくりと頷く。
《 次は勝ちますから 》
 そう書いた紙を見せると、霜川さんはがははと笑う。その笑顔がとても眩しい。
「もう勝たせんぞ?」
 そんな大人気ないことをいう霜川さんと一緒に俺は笑う。霜川さんが拳を握ってこちらに突き出してきたので、俺はそれに応える。
 年配の方とこうして笑い合える日が来るなんて思ってもいなかった。それも俺は声を出さないのに。
 ふと考える。今度じいちゃんの墓参りに行こうと決める。そしてもし、霜川さんが元気になったら、二人で。
 
 海老名由羽。そう書かれたネームプレートだけが扉にある病室の前に俺は立つ。
 海老名と会うのは何ヶ月だろうか。なんだか緊張する。自分から会わなくなったくせに、こういう時になると小心者になってしまう。
 すぅーっと大きく息を吸い込んで、自分の人差し指の関節をドアへ二回ほど打ちつける。すると中から懐かしい声が聞こえた。
 がらりと戸を開け、覗き込むと、海老名はこちらを向いて目を丸めた。遠くからでもそれが分かった。
「・・・あつし、くん?」
 やっとのことで出した声は俺の名前を呼んでいた。凛とした少し高めの、前はいつも俺の名前を呼んでくれていた声。
 俺はベッドへ近付き、紙へ言いたいことを書いて海老名の前へ突きつける。
《 久しぶり。元気にしてたか。俺がこんなこと言うのもあれだけど。なんか用か? 》
 海老名はそれを受け取ると、じっとその紙を見つめていた。どうしたのかと声をかけたいものの止める。俺は海老名の反応を待った。
 数秒後、海老名は口を開けたまま、こちらへ顔を向け、声を発した。
「・・・久しぶり、あつしくん」
 そう言って無表情かつ口を開いたまま、俺の手をとって握る。何をしているのか分からなくて、俺は抵抗もせず、逆、といってはなんだが、反射的に握り返す。
 握り返されたという事実にまた海老名は反応を示す。俺の名前を二、三回呼び、無表情を崩し、ふふふと笑みを零した。訳が分からない。海老名は何がしたいのか。
 最後に会った時はあんなに俺を拒んでいたのに。
 俺が黙ってその様子を見ていると、我に返ったのか急に行動をやめ、今度は咳払いをして俺と向き合う。
「来てくれてありがとう。私、ずっと考えてたことがあってね、それを伝えたくって」
 呼び出し文じゃなくてそのことを電子機器で伝えればよかっただろ、と一瞬思ったが見て見ぬふりをする。霜川さんと話せたし、結果オーライだ。
 言葉を続けようとする海老名をまて、と口パクをして止め、俺は紙を再度取り出す。
《 そのまえにさっきのはなんだ、説明しろ 》
 

  • No.48 by 黒猫  2018-07-01 18:51:22 

おらぁ
ながすぎ読みにく、笑笑

  • No.49 by 黒猫  2018-10-04 19:00:37 

書いてたデータ消えた
悲しいめう
えーーーキスシーンかいててんなーーー
まぉかくのたのしいから多分かくよ
まだ書いてないんすけどね((

  • No.50 by 黒猫  2020-03-14 01:56:13 ID:15f351c75

僕思ったの。
途中書いてて、なんか自分を投影してるみたいだった。
だから消しちゃった。全部。
自分を書いてる作品は、1番つまらない。

  • No.51 by 黒猫  2020-03-14 01:56:49 ID:15f351c75

あぁ、ここを僕の居場所にするの、いいかも。
誰にも見られてないでしょさすがに。
ここまでは見ないでしょ。

  • No.52 by 黒猫  2020-03-14 01:57:04 ID:15f351c75

整地します。

  • No.53 by 黒猫  2020-03-14 01:57:19 ID:15f351c75

やぁっ

  • No.54 by 黒猫  2020-03-14 01:57:33 ID:15f351c75

2時になるまではやるね。

  • No.55 by 黒猫  2020-03-14 01:57:48 ID:15f351c75

とぉっ

  • No.56 by 黒猫  2020-03-14 01:57:59 ID:15f351c75

はぁっ

  • No.57 by 黒猫  2020-03-14 01:58:10 ID:15f351c75

せやっ

  • No.58 by 黒猫  2020-03-14 01:58:29 ID:15f351c75

てりゃあ

  • No.59 by 黒猫  2020-03-14 01:58:41 ID:15f351c75

ふんっ

  • No.60 by 黒猫  2020-03-14 01:58:54 ID:15f351c75

せいっ

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