Shall We Dreaming ？ / 非募集

ふーちゃん、もっと増やしてもええって言うたら怒る？（遠ざけられるように力を込められれば、後ろへと体重は傾き、その流れの儘、一歩後退って。撫でられる事は嬉しいものの、距離が離れた事は寂しく。”むっ”と眉間に皺寄せ、抗議するような視線を送るも、落とされた内容にどうしようもなく心擽られて。ドキドキと騒ぐ心臓は全身に血を巡らせ、血色を良くし。彼の努力を踏み躙るように、再度ぐっと近寄っては前からべったりと抱き着き、甘ったるたい口調と眼差しで誘惑を試みようと。彼がもうちょっと、と言うならば己に反対するつもりはなく。そんなものか、と軽く受け流しては自前という言葉にピクリと反応を示す。「ほな、赤ちゃん頃からピンクやったん？それめっちゃ可愛え！」頭を動かす事は出来ない為、代わりにパチパチと手を打ち鳴らし。次いで昔の事を流れで聞こうと口を開くも、彼が名前も忘れてしまっていた事を思い出せば、零すのは呼気のみ。ポリ、人差し指で頬を掻き、問い掛けようとした事をなかった事にしては、続けられた相手の言葉にこれ幸いと乗り掛かる。「やったら、遊園地で働いた方がええやろかァ。」遊園地の一員、とはなんて素敵な言葉であろう。誰から見ても彼等の仲間だと分かる等、まるで家族のよう。先程感じた弟や妹への別れ、寂寥感がゆっくりと薄まっていく。彼にそのつもりはないかも知れぬが、何となくお礼を言いたくなり”有難うなァ”とポツリと呟く。頭を下げ大人しく染料を落とし。漏れた笑い声に促されるようにそっと瞳を開けては、視界の端に映る綺麗な桃色。ぱぁと煌めきに光る瞳で相手を見上げ、自慢するように染まった部分を掴んで持ち上げる）見て見て、ふーちゃん！同じ色やァ。ごっつ綺麗なァ、めっちゃ嬉しい！

(引きはがし無理やり作り上げた距離は簡単に元通り、寧ろ前よりもと言う様にベッタリとくっつく姿を一瞥し。伝えられる内容はとんだ煽り文句、強いて言うなれば惚れた相手からの言葉は略略その類に収まるが、色を持つ言葉とは比にならない。甘ったるい声は脳味噌に絡みつくようで心臓が跳ねる、上下する喉仏は素直にもゴクリと生唾を呑みこみ僅かな理性と戦うばかり。冷静さを取り戻す為、酸素を目一杯に吸い込むと浅い動きで両方の瞼を落とし。「オッサン誑かしてどーすンだヨ」ジワジワと蝕まれる様に体温が上がっていく、触れてしまいたいと高まる欲を懸命に抑え込みつつ口元をくしゃりと歪めてボヤくような、嘆くような、情けない声色で。彼が遊園地で働きたいと思うならば大歓迎、己の様な部屋に籠る仕事じゃなくともドードーの様に遊園地内の見回りだったら彼に向いている筈だ、と浮上する思いを持ちつつ「お前が此処がイイっつうなら、歓迎だ。……でも、他の誰かン所じゃなきゃ見つからない面白いモンも有るからなァ。」自由なのに己の傍に拘束するのもどうなのか、同時に浮かぶ良心から迷うような口ぶりで言葉を呟き「＿＿俺がアリスなら帽子屋のトコで働きてぇな」不意に閃いたのは普段オーダーを頼むお得意先、大方自由であり好きな物に囲まれた仕事とは！そう思えば僅かながら瞳にキラキラと光を宿して口にして。染まった桃色を気に入った様子の彼を見れば自然と嬉しい気持ちに至り、タオルを手に取ってからそれを頭に被せて「嗚呼、綺麗だヨ」珍しくも素直に、微笑ましさを滲ませた表情で微笑みながら頷いて賞賛を。愛しい人が己と同じ色に染めてくれる事がこんなにも嬉しいのか、目の前にする事で一層と実感し意識せずともジーと見詰めてしまって)

（目の前にある喉仏がコクリと動く様子に目ざとく気付いては、彼が己の言葉に僅かでも欲情を覚え揺れている事を感知し。期待の篭った眼差しで見遣るも、そう上手くは行かない模様。苦々しいまでの表情と声色で告げられた内容は願っていたものではなく、自身の大きなまでの恋情までもほんの少ししか伝わっていない様に感じては、ムスリとその顔を顰めて見せる。両手を伸ばし彼の首に絡み付いては、ぐいっと唇が触れそうな距離まで顔を近付け。「オッサンとか関係ないわァ、俺んとってふーちゃんはふーちゃんやもん。好きやったら、ちゃんと好きな気持ち伝えたいもん」今迄の会話でも節々に歳の差を気にする素振りあり、愛されることに自信がないように感じたのは果たして己の気の所為か。折角付き合う事になったのだ、彼には出来る限り不安を抱いて欲しくなく、自身に出来る精一杯の愛を捧げる手段が言葉と行動で示すこと。其れは迷惑であったろうか、と間近にある瞳覗き込んでは緩く小首を傾げて反応窺い。時々耳にする”帽子屋”という単語。以前より会いたいと思っていたが、更に目の前で灯る光に好奇心は擽られ。チャンスとばかりに口を開いては「そこ行ってみたい！案内してェや」然りげ無く案内の約束を取り付けようと。タオルで頭を拭いてもらいながらも、褒め言葉にふにゃふにゃと緩む顔は隠せず。染まった一房を掴んで、マジマジと眺めては、今度は光に翳して透かして見たり、と新しい玩具を手に入れた子供のようにはしゃいで。ウズウズと疼く心は早速この宝物を誰かに紹介したい様子）ドドッチもう帰ってくるかなァ？それとも誰か遊園地来てるやろかァ。ふーちゃんのお嫁さんです、って紹介してェな？あ、旦那さんでもええよって。

＿＿(詰められては後戻りが出来なくなる前に、今以上の深みに落ちてしまわないように、僅かな理性で織りなされた自衛だったのだが。脆い思いは距離を詰められるだけであっさりと崩れてしまう、跡形も無く崩れるのは拗ねるように告げられた彼の思いを聞いたからで。繊細なようで細かい事は気にしない大雑把な性分だからか、彼を悩ますくらいの理性とは不要じゃないかと思考は一転し直視する他無い目の前の彼に目を合わせて。浮上する愛しさはティーンエイジャーの健全さ等持っておらず、愛しいと思えば触れたいに変わる欲情を確実に持っているのだ。ただ、欲情のまま手を出すことが出来ないのは彼を大事にしたいと思う気持ちと同量な情けない羞恥心で。ぐぐぐ、と葛藤するような強張る表情で口を噤んでから「好き好き言うな、＿＿知ってっからヨ」照れなど無いとでも言う様に語られるストレートな物言いに愈々勝ち目など無し、ぷしゅうと沸騰するような思いで顔に熱を集めつつ彼の肩口へ己の顔を寄せる事で隠しつつボソリと呟くように口にして。なんて照れくさい、でも嫌じゃない、「おめぇと一緒だと初めての感情ばっかりで大変だ」く、と喉を鳴らす様に小さく笑い声を上げて。思いがけずと、例に挙げた場所に興味を持った彼を見るとパチリと瞬いてから「――良いけど、遠いからまた今度なァ」彼と共に外に出る事は好きだが元来の引きこもりのせいか、今日の外出が実り有る物だった分、暫く外出することは満足してしまったようでポリと頬を指先で掻きながら曖昧にするように返事を返して。すっかり気に入った様子を見れば捻くれた己はと言うと、そんな彼を披露したく無くなってしまい、ウキウキと弾む雰囲気に水を差すのは憚られつつ「綿菓子ィ＿＿……一緒に寝ようぜ、今なら同じベッドで寝てやるヨ」罪悪感から眉尻を落としながらも己の欲求に従えば片方の口角を持ち上げ頭を傾けて反応を伺って)

（肩にかかる重みのなんと愛しい事であろう。惚れた相手が己の一言までこうも表情を一変させ、狼狽える様子は今迄感じたことのない奇妙な感情を芽生えさせる。ゾクリと背筋に走った刺激に両肩を僅かに揺らすも、未だ幼い精神では理解の及ぶ範疇にはなし。心内で疑問に思うも一旦其れは横に置き、目の前の桃色を愛でようと。そっと持ち上げた手でそっと彼の桃色に触れては、最初はおずおずと髪を梳き、次第に手の動きは大胆さを増してくしゃくしゃと掻き乱すまでに。そうしているとムズムズとした気持ちも治り、常のカラリとした快活な笑みを浮かべては、唇を彼の旋毛へ押し当てて。「もっといっぱい俺ん愛を感じて欲しいもん。ふーちゃんに愛情注入〜、伝わりはった？」あまり重くなり過ぎないよう、軽い口調で告げるも、寄せた唇には有りっ丈の愛を込め。どうやらお強請りは失敗してしまったよう。”チェッ”と唇を尖らすも、彼が嘘をつかぬ事はこの短時間で嫌という程体感した、今度と言うならば案内はしてくれるのだろう。肩を下げ、仕方ないと納得しては「絶対やからなァ」と念押しの一言を。頭の中では既にお披露目する事は決定事項、みんなどんな反応をしてくれるだろうとドキドキと気持ちを持て余していると、不意に浴室に響いた台詞。凡そ相手か発せられたものとは思えぬ内容に、ばっと勢い良く振り返り、見開いた瞳で食い入る様に見詰める。最早先程自分が何を提案したのかさえ覚えていない。頭の中は喜びで沸騰し、頬を薔薇色に染めては急ぎ立ち上がり、両手をぐっと握って。「一緒に寝る！早う部屋行こ！」相手の言葉に被さる様に発しては濡れた髪もそのままに浴室から出ようとして）

(良い大人である己ですらがオーダーメイドの服が届くと何かしら理由を付けて外に出たくなってしまうのだ、誰にと言う訳じゃ無く新しい衣装を誰でも良いから見せてやりたいと驕る気持ちに至る訳で、それが周囲との交流に積極的である彼ならば思いの強さもまた同量だろうと察する事は容易である。その癖、そんな彼を隠してしまいたいと思ったのは無自覚の執着か。伺うような気持ちで目を向けたのは彼が誰かに見せたいと言う気持ちがヒシヒシと此方にも伝わっていたからのようで、断られる事も予想の半分。にも拘らず、己の我儘に気付いているかいないのか、喜んでさえいる彼に拍子抜けと瞬きを。結局は彼の優しさだとか大らかさに甘えてしまっている事実に目元を細めてから今一度タオルを彼の頭に被せた状態でワシャリと撫でて「濡れてたら風邪引いちまうヨ」ニコニコと元気な彼に釣れられて口角を持ち上げつつ軽さを含んだ注意を行ってから自室へ、多くの事が有った一日に疲れなかったと言えば嘘だが不思議と楽しかっただとかあっと言う間だったとか、前向きな感想ばかりが浮上して。己にとっては慣れ親しんだベッドへ彼を招いては疲れた体を癒す様に抱き枕にするような動きで両腕を回してぎゅうと抱きしめ夜を明かし)

（前髪からポタリと雫が溢れ頬を伝う。その冷たさに一瞬身震いしてから、ふるふると水気を飛ばす様に首を振り。優しい声色で告げられた注意にきゅんと胸を疼かせつつ、素直に頭に被せられたタオルでわしゃわしゃと髪を拭いて。最早気持ちは彼と一緒のベッドで眠る事に傾いており、乱雑に拭き終わっては、濡れたタオルはそのまま洗濯機へと放り込む。花の蜜に誘い込まれる蝶のようにふらりふらりと彼の後に着いて行き、誘われるままに初めて彼のベッドへと身を滑り込ませて。ふわりと布団から香る彼の匂いを胸一杯に吸い込み、至福のひと時を味わう。自然頬はこれでもかも言うほど緩み、相手に抱き締められればより一層笑みが零れるばかり。するりと胸元に顔を埋めては、疲れ切った体は素直で眠りの世界へ己を手招く。うとうとと瞼は閉じ掛かるも、最後の気力を振り絞り、小さな声量で「ふーちゃん、今日は有難うなァ。めっちゃ楽しかった…。おやす、み…。」軈て睡魔にやられ、語尾は段々と掠れて。気付けばもう早夢の世界へと旅立っており）

ふーちゃん、今日はいっぱい付き合ってくれておおきに。
ごっつ楽しかったでェ。念願の髪も染めれたし、何よりマーキングしてもろたから幸せやわァ。
なんて、言うたら照れてまうやろか？

次は帽子屋の人ん所に行って仕事紹介してもらおかなァ。
序でに弟達も来てへんか探して来てみるわ！

髪も自慢せなあかんしねェ。

はぁい、アリ＿＿じゃないね。今は遊園地の看板息子だ(仕事の手伝いをしてくれる人は常時欲している、常に猫の手でも借りたい思いで有ればフラミンゴより相談を受けた内容は願ったり叶ったりなこと。その話を受ければトントンと日取りを決めて自身の元で目を掛ける派手な色味の鳥を迎えに出して。甲高い鳴き声で鳥が邸に戻ってくると引いては傍にいるのが紹介を受けた子だと察し、当初こそ普段の癖でアリスと呼び掛けたものの頭を左右に揺らしてからすぐに訂正の言葉を添えて。ニマと口角を持ち上げてから「フラミンゴから話は聞いてる？アタシが帽子屋、今日は宜しくね。」握手を求めるように片手を差し出して「アンタには今作ってる作品のモデルをやって欲しいんだ。トルソーだと想像力が湧かなくて」肩を竦ませ大げさな動きで困った困ったとぼやき、「早速なんだけど、仕事場に案内してもいいかな」笑みを浮かべる事で目じりの皺を深くしつつ案内するために一声を掛けてから、一か所だけ染められる色味に己と同じ人工的な物を感じ取ると「綺麗な色、遊園地のコって感じだねぇ」アハハと笑い声を上げつつからかい交じりの言葉を付け加えて)

（フラミンゴと出掛けてから数日。彼の話では本日、件の彼と出会えるよう。まだかまだか、とソワソワしながら待つ事幾許か、出迎えに来たのはこのメルヘンな世界に似合いの目にも鮮やかな色を纏った鳥。案内されるままに森の中を進み、軈て拓けた先に見えたのは一つの屋敷。庭先には何やら楽しそうな名残を残したお茶会の跡が。それを横目に今日の目的を達成するべく、玄関先へと赴く。出迎えてくれた彼はフラミンゴが目を輝かせるだけはある、ハイセンスな人物で。キラキラと興味深げに眺めてはつい「ごっつカッコエエ！」と素直な感想を。求められた握手にハッと我に返っては照れ笑いしつつ、気負う事なく握手を返し。きゅ、と手を握っては「今日は宜しゅう頼んます。ファンって呼んでェや。ふーちゃんのお嫁さんやっとります」冗談交じりの自己紹介を行う。求められた仕事内容は何とも面白そうな内容。任せろ、と言わんばかりに大きく頷き作った拳でトンと胸を叩き。モデルとなれば何かポーズを取らなければいけないのか。乏しい想像力の中で思い付くのはそんなもの。「もちろん、任せてェや。どんなポーズがええやろかァ」乗り気な様子でその場で2.3ポーズを取ってみるあたり落ち着きない子供そのもの。仕事場に案内される中、不意に聞こえたのは褒め言葉。正しく本日自慢したかった事柄に運良く触れて貰えては、タタッと彼の横へ駆け寄り、桃色に染められた三つ編みを掲げて見せ。「やろ？ふーちゃんに染めてもらってん！ふーちゃんみたいに綺麗な色やわァ」相手に見せ付けている筈がいつの間にかうっとりと自分が見惚れてしまうのは、惚気の一種か）

(仕事の手伝いを行って貰うと言う事から簡易的な紹介は受けていたものの実際に対峙した彼とは話に伺っていた人物像よりも明るく人当たりが良い、そして何よりも遠慮をさせないような人懐っこさを持っている。元気いっぱいな雰囲気や尻尾が見えそうな子犬のように無邪気な雰囲気に堪らず口元に笑みを含ませながら、伝えられた自己紹介に堪えきれず声を出して吹き出し笑いを。くっく、と引きずる笑いの余韻を見せながら肩を揺らして「そー、フラミンゴの嫁さんだって言うなら丁重に迎えなきゃダメだ。＿＿あ、そーだ。フラミンゴにそろそろ顔を見せなさいよって伝えといて、アンタの顔なんてとっくのとーに忘れたわってサ」落ち着きのない動きを見せる彼を宥めるように髪型を崩さない程度の力でくしゃりと頭を撫でて。誇らしげに説明をされれば先ずは確りとその言葉を聞いてから、此方までつられて幸せになりそうなエピソードに相槌を行い。彼を誘導するように己の作業部屋であるアトリエへ招くと「ぶきっちょなアイツにしては上手に染めたねぇ、……これも愛の成せるワザ？」最後にはアハハと笑い声を交えてから"なーんてね"と冗句に変える言葉を添えて。扉を開けば部屋に入る前に確りと彼の頭部を図る様に両手を使いペタペタと何度も触れてウンと頷きを見せてから「中に椅子あるから自由に座ってね、＿＿飲み物は紅茶でも良い？」触れていた手を離してから手の動きで中を示して尋ねかけるように声を掛けて)

（室内に反響する笑い声は明るく、こちらまで楽しい気持ちになるから不思議なもので。ゆるゆる緩んだ頬はそのまま、大人しく頭を撫で受ける。キラキラ光る髪の毛も、弾けたような笑みもまるで彼がそこに居るだけで暖かくなるから太陽のようだ、と胸中で思い。そうなるともう早、癖になった渾名をつける行為に続くわけで。日向のような彼、安直に閃いたニックネームは”ひなちゃん”。「任せてェや！ふーちゃん連れ出すんは得意やねん。それに”ひなちゃん”の作る服とかめっちゃ好きやから、喜んで来るわァ」思い出すのはこの仕事の話を紹介する際に、珍しく煌めいていた金の瞳。少しばかり其れに嫉妬したのはここだけの秘密で。案内されたアトリエを不躾にならぬ程度に見回しては、色とりどりの布、作りかけの帽子に、トルソーに着せられた個性的な衣装が目立つ。ほんの少しだが、今窺い見ただけでもワクワクと逸る気持ちは抑えられず、フラミンゴが楽しげに語っていたのも分かるというもの。些細な嫉妬など既に消えて。「せやろ、ふーちゃんの愛の大きさが分かるやろ？」くすくす、と喜びから洩れる笑いは止まらず、漸く自慢出来た事も相俟って、より彼に見てもらおうと掲げ持った桃色の一房をぐいぐいと顔に近付け。促された言葉には”はーい、紅茶楽しみやわァ”と良い子ちゃんの返事を返し、机の上や床の上に広がる衣装や布を汚さぬよう、少し離れた位置に置かれている椅子へ腰を落とし。「今はどんなん作ってるのん？」キョロキョロ視線をあっちやこっちへ忙しなく動かしては、子供らしい好奇心が顔を覗かせて）

へぇ、素敵な呼び名。アリガト(プレゼントの様に送られた物が己を示すものだと直ぐに察することが出来ると呼ばれ方に拘りが無い為かすんなりと受け入れてから目元を細める様に笑みを浮かべて喜んでいる事を表現して、彼を椅子に誘導しながら先ず取り掛かるのは己も愛しているお茶のセットで有り、これが無ければ始まらないとでも言う様子で手際よく二つのティーカップと数種類のクッキーを乗せたお皿で「この紅茶、少しだけチョコレートの風味がするんだ。フラミンゴも気に入って飲む奴なんだけど、フラミンゴのお気に入りならアンタもお気に入りになるかな」尤も渦中の彼はこれに大量の砂糖と蜂蜜を追加するのだからフレーバーはすっかり姿を消しているのだが、余計な事は情報に出さず"長くなるかもしれないから飲み物も食べ物も遠慮しないでね"と付け加えの注意を行って。その後現在制作途中の作品をいくつかピックアップして持ってくると少し大きめの形のシルクハットにいくつもの布を巻き付けた物や、デザインは同じながら色の違うガルボハットを数種類、これからの時期に向けて用意されているカンカン帽やベルジェールハット、それに合わせて多くのリボンや飾り、ビジューに多色の布やレースと荷物を沢山拵えて「作ってるのは沢山あって紹介しきれないくらい、……こんなのフラミンゴに似合うんじゃない？」真白なガルボハットを手に取ってからストンと軽い力で被せる様に彼の頭に置いて、今一度彼の髪に入るメッシュの色を真剣に見てから「この布をさ、こーやって……ホラ、」縫い付けた訳じゃ無い布は派手に動けば解けてしまうが、結び目を花のような形で待ち針を使い止めつつ白色の薔薇柄レースが顔元に掛かる様に装飾をして"じゃーん"と着せ替え人形を楽しむのにも似た雰囲気で全身鏡を彼の前に置いて見せ)

（運ばれてきたカップはこれまた精巧な絵柄が目を惹く一品。繊細なカップを壊さぬ様、性格とは裏腹に優美な仕草で取っ手を持ち、鼻先まで運ぶ。す、と漂ってくる香りは仄かに甘く。其れだけで気持ちが落ち着くから不思議なもので。僅かばかりの動きでもカップの中では湯気を立てながら波紋が広がり。フラミンゴが好むもの、と知れば愛しさが湧くから現金である。口を付け、豊かな風味を舌で味わって。「ほんまや！ほんのりチョコレートっぽい！このお茶っ葉って何処に売ってるのん？」見た目は普通の紅茶であるのに、チョコレートの風味を感じられるのが驚きであり、未知なるものへの好奇心で瞳は煌めく。いつか働いたお金でこの紅茶を買って帰れば彼は喜んでくれるだろうか、と脳裏に桃色の彼を思い出しては然りげ無く情報収集を開始し。多種多様な帽子が紹介されては、自分の想像を遥かに突き抜けるセンスの良い色選びや洒落た小物使いに瞠目するばかり。”凄い凄い！”と幼子の様に同じ単語を繰り返しては、盛大に掌を打ち合わせパチパチと。普段帽子など被らぬ身、ストンと少しの重みを頭に感じては妙にソワソワと落ち着かない気持ちになる。頭上で器用に動く指先は最早達人技、間近で見たいものの動いては駄目だ、と自制心働かせ目だけをキョロキョロとあっちへこっちへと彼の指を追う様に動き。軈てアレンジが終了したのか、目の前の鏡に映し出されたのはハットだけでも優雅な曲線を描き素晴らしい出来であるが、更にアクセントを加える様に付け足されたレース素材がよりハットの魅力を引き出している。そっと花の形を崩さぬ様、指先をレースへ這わせ。「…めっちゃ、キレー…！」ほう、と感嘆の吐息を一つ。語彙力が少ない事に悔しい思いをしたのはこの時ほどない。ただただ綺麗、と馬鹿みたいに呟くしか出来ず）

気に入ったみたいで良かった、＿＿これなら何処でも売ってるよ、公園でも売ってるし森のお菓子屋にも置いてたし。良かったらストック有るから持ってきな、フラミンゴもドードー鳥も喜ぶでしょ(紅茶を味わった彼がその味を気に入ってくれたことは十分に伝わり、明確な反応として喜んで貰えるのは当然の事と嬉しくて自らの持て成し精神とて磨きがかかると言う物、アハハと笑い声を交えながらキラキラと輝く瞳へ自身の目線を合わせて答え合わせを。それからお裾分けと言う様に言葉をしえてから「その代り、今度美味しいお茶菓子が見つかったら持ってきてよ」タダじゃ転ばぬと言う様に目じりを細めてちゃっかりと要望を交えて。素材に触れない日など無いと言う毎日であれば、布の形を変える事とは何とも容易く楽しい行為でもあり。そんなアレンジを奮って見せて、タイムリーに誰かの意見が聞けるのはモデルを雇った時のみの醍醐味であり。マネキンじゃこうも行かないリアルな感想にもともと持っていた自信は一層と強まって、胸を張る様に凛とした佇まいでその感想を聞き入る様にウンウンと頷きを数回見せて「色違いでこんなのは＿＿？」被せていたハットを一度彼の頭から外し、代わりに対照的な黒色のガルボハットを彼の頭部に乗せて。同様に桃色の布で同様の花を作り巻き付けて、帽子と同色の黒色のレースを付ければ、今度はそれだけじゃ無く細身の金色のリボンを差し色のように飾り付けて「ほら、アンタの服にセットアップみたいになったでしょ」この国では少しばかり珍しいそのデザインを真似る事は出来ずとも、色味を真似て己の得意としたデザインに組み込むことは出来、思っていた通りに白い髪に確りと黒色が映えると己の出来に満足をして)

へぇ〜、そやねんなァ。ほな御言葉に甘えて何個かもろて帰ってもええやろか？（公園も森のお菓子屋もフラミンゴと共に行った事がある場所。ならば今後も行く機会はあるだろうが、折角の魅力的な言葉に断るのは何だか申し訳なく。等価交換として出されたお題など、正に得意分野。更にはフラミンゴを外へ連れ出す理由に出来るのが尚良い。座っていた椅子から勢いよく立ち上がり「任せてェや。とびきり美味いもん見つけてくるわァ」ニッと白い歯を見せて笑っては、取引成立とばかりに彼の両手握り数度上下に振る。それで満足したのか、大人しく座ると今度はクッキーへと手を伸ばし。サクサクの食感にこれ又機嫌良くしては、自分一人で味わうのが申し訳なく首傾げつつ彼へも差し出して見せて。ハットの色と布を変えるだけで、劇的に印象は変わり。黒色に金の差し色が光の元キラキラと輝き、宝石のよう。その中で桃色の花は慎ましく存在を主張しており、其々の絶妙なバランスに舌を巻くばかり。「帽子に俺ん背中の柄の刺繍入れても綺麗そうやわァ。俺ん弟と妹が居ったら喜んで縫いそうやねェ」今は遠い場所に住んでいる己の家族、双子の顔を薄ぼんやりと思い出しつつ、彼等ならば器用に縫った事であろうとここに居らぬ事を少しばかり残念に思い。それと共に此処で出会った双子達、更にはフラミンゴから聞いた情報が脳裏に過る。今はお手伝いに来ている身、先ずはモデルを優先せねば、と思うもののソワソワと落ち着かなげに揺れる身体はどうしようもなく。上目に彼を見遣っては「なァ、お手伝いが終わったらちょっと聞きたい事あんねんけど…ええやろか？」と伺いを立て）

(更なるアイディアを重ねる様に彼から"刺繍"と言う単語が出ると"ほう、"と感心するように相槌を一つ、それからニマと口角を持ち上げ口元に弧を描き「それは素敵だね、＿＿刺繍か。うんうん、」早速参考にするように黒を描く金色の刺繍を脳内にイメージし、ただシックなだけじゃないその出来栄えに今一度頷きを。それから「へぇ、弟と妹がいるんだ。＿＿お兄ちゃんなんだね」会話の中から覗いた彼の家族構成に他愛のない声色で話しかけ。何処か落ち着きを消したような雰囲気に気づきつつ、それでも手の動きは変えずに時折被せる帽子を変えたりして己の中に有ったイメージを進めたり、実際に人に被って貰ったことで異なったイメージを簡単に訂正して見たりと折角彼が此処に協力する為来てくれた時間を無駄にしない様に動きつつ、「別に手伝いながらでも話は出来るから遠慮しなくてイイよ。……あぁ、でも難しい話なら後で落ち着いてから確り聞いた方が良いかも」持ってきていた分の帽子のイメージが有る程度整えば己も一度椅子を引き寄せて傍に腰を下ろし。少しだけ腕を広げて「アタシに答えれることなら教えてあげる、何が聞きたい？ドードーとフラミンゴの弱みでも教えようか」悪戯を含んだ笑顔を浮かべ、冗談めかした声色で場を明るくする為の適当な事を紡ぎつつ肩を少しだけ竦めて見せて、急かす事無く彼の言葉を待ち)

（己にとっては刺繍や染め布が馴染み深く、何と無く発しただけの単語。其れを拾い、笑みさえ見せてくれる相手に擽ったい気持ちになれば「なん、ちょっとでも参考になったんやったら良かったわァ。そんな複雑なんやなければ俺も出来るさかい、手が要りそうやったら言うてや」照れ臭げに人差し指で頬を掻きつつ、一つ提案をして。家族の話をするのは久方振り、懐かしむようにやんわりと目元を細め。自身と似た髪色が風に元気良く揺れる様子が瞼の裏に蘇り。「せやねん、めっちゃ可愛えねんで。手が掛かる子らで、苦労したわァ」話す口振りとは反対に表情で穏やかで。未練がない、と言えば嘘になるも少しずつこの世界で生きていく実感が湧くと共に、悲しむ気持ちより懐かしむ気持ちの方が増していき。くく、と愉快げに肩を揺らして笑い零し。てきぱきと無駄なく動く様子を邪魔しないよう眺めつつ、暫くして相手が側に椅子を持って来て腰を下ろし話を聞く体勢になれば、軽く頭を下げて礼を述べ。フラミンゴとドードー鳥の弱味も気になるが、其れはおいおい彼等と関わるうちに知っていこうと。「其れも興味深いけど、此れから知っていくわァ。それにふーちゃんの弱味の一番は俺にするもん」軽口に同じくニンマリ笑い、自信満々に惚気を付け足し。ふ、と軽くなった心に胸中で感謝を抱き、気負う事なく本題を告げるべく口を開け）
俺、この世界の事、まだよう分かったらんのよ。…名前忘れてもたら、もう元の国に戻れんって話はホンマ？

ならお願いしちゃおっかな、あんまり得意じゃ無いんだ(兄弟だけではなく彼も出来るのだと教えられればアハハと楽しげな笑い声を零してからおどける様に片手をヒラヒラと宙で揺らし、実際には彼と接点を持つための理由づけなのだが折角彼が手伝ってくれると言うのだ甘えてしまえとちゃっかりと頼むように話を進め、兄弟を思い出し懐かしむ、その雰囲気や表情、口振り声色から彼が素敵な兄だったことが伺えて興味部賭けに目じりをゆるりと細めてから「アンタって素敵なお兄ちゃんっぽいもんね、面倒見よさそ」クスクスとその様子を想像しながら返事を一つ、脳裏にはよっぽど面倒見が良くなければあのフラミンゴとこうも上手に付き合えないかと重ねる様な納得を行って。自信に満ちた惚気とはいっそのこと清々しく、本題として伝えられる話題に耳を傾け。その質問を確りと自身の中で噛み砕いてから眉尻を少しだけ落として「ザンネンだけど、＿＿少なくともアタシたちは今の名前になる前の事はわからないし、昔の話を探したっておんなじことの繰り返しばっかり。アタシの前にも帽子屋がいてその前にも、女王になるのは迷いこんだアリスの誰か、アリスは皆……」堂々巡りの歴史と呼べるかもわからない国の流れを説き、その中でアリスとは皆が孤児であると言いかけ、その言葉を飲み込み「アンタは、まだ覚えてる？」頭を傾ければ問いかけを一つ)

あんま難しいのは無理やけど、小さい花とかぐらいなら大丈夫やで！（頼まれる事は嬉しく、世話焼きの性分が疼くというもの。握った拳を力強く胸に当てては、大きく頷き快諾して。但し複雑な構造や高度な技術を要する縫い方はあまり得意ではなく、小声で簡単なものなら、と付け加え。面倒見が良い、というより自分以上に人を振り回し、又甘える事に長けた2人の顔を思い浮かべては苦い笑みが口元にのぼって。「ちゃうちゃう、お転婆すぎて目離せへし、世話焼かな愚図るし困ったちゃんやったわァ」あれやこれやと鳥の囀りのようにピーチクパーチク己の周りで喋る2人、構わなければ逆に面倒な事になっていた過去を振り返っては口先尖らせ忠告じみた言葉を零し。落とされた声音で告げられたのは大凡予想していた内容。問い掛けを投げられると、一度瞳閉じ脳裏探るように沈黙を。過る内容は同じようなものばかり。「思い出せるんは双子の事だけや。いっつも3人で居った事だけ覚えとる」蘇る光景は3人で過ごした日々のほんの一部。彼等の名前、顔、声も思い出せるが、それ以外は曖昧。どうやって2人と別れ、この国に来たのかも良く分からず。「あー、アカン！ソジュンとソヨンの事しか出てこォへんわ」ガシガシと両手で頭を掻き毟り、無念の叫びを上げては力尽きたようにガックリと項垂れて。粗方みんなに聞いた内容と相違なく、以前フラミンゴと話した時に共に生きて行く事を心に誓った。それ故、動揺はあまりなく。ふぅ、と吐息を一つ零し、気持ち切り替えるようにカラリと明るい笑みを浮かべ。「まぁ、思い出せんのは仕方ないわなァ。ふーちゃんとこれからの新婚生活を楽しむしかないわ」場の空気を明るくすべく、常の軽口を述べ）