フラミンゴ 2017-03-30 08:35:20 |
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俺、料理頑張るから任せてェや!双子っちに弟子入りせなァな。その前にドドッチにふーちゃんの好み聞かなァ(小さな声量、然しはっきりと耳に届いた言葉にパチリと目を見開き。じわじわと頭が言葉の意味を理解しては、キラキラと金の瞳は輝きを増すばかり。喜びに緩んだ頬はそのままに、ふにゃりと力の抜けた顔で満面の笑みを浮かべては大きく頷き、ぐっと胸を張り、そこに軽く握った拳をトンと当てては自信満々に返答を。そうとなれば、此れから料理を取得しなければならない。やる事はいっぱいだ、と視線を宙に泳がせながらフラフラと組んだ足先を楽しげに揺らし、一つ一つすべき事を挙げて。相手がオススメするレストランなだけあって何れも舌鼓を打つ程、美味しい料理で。もぐもぐ口を動かし、時折彼が頼んだパフェなどを掠め取りながら食事を満喫していた矢先、質問した内容がいけなかったのか、予想外の答えが耳に届く。衝撃的な事実にピタリと動きを止めてしまい、仕事の話をしていた筈が意識は既に別のものへ移ろって。「ちょ、待ってや。何それ…。確かに本名やないと思てたけど、ここの人はみんな名前忘れたん?役職もやけど、…そんなん嫌やもん。今からふーちゃん居らんくなった時の事やなんて考えとうない…っ」相手の冗談に返す余裕もないほど心は千々に乱れ。語勢は無様にも弱々しく途中から途切れがちになり、最後は俯いてしまう始末。ぐっと膝の上で握った手はふるふると震えており。彼に何か質問された気がするも、最早頭の中からその事実は抜け落ちていて、答えられる筈もなく)
(別段重要と思っての事ではなかった言葉が彼にとっては重要とでもいう様子でキラキラと輝くような雰囲気がくすんでしまった空気の変化に気が付いて、弱弱しい言葉を受けるとスプーンに添えていた手はパと離してしどろもどろと手振りを添えつつ「でも、ヨ。若しかしたら元々フラミンゴだったかもしンねぇし、記憶がねぇってだけで不思議の国に生まれたのか俺も元アリスなのかっつうのもわかんねぇンだヨ」虫食いにでもあったようにピースの欠けるパズルと同様にポッカリと一定の時期からの記憶が無いのだ、モゴモゴと口籠りつつも悲観的になるなと言葉を探り。「第一、今日明日にくたばるっつうコトもねぇから。__綿菓子、コッチ見ろ」喋り上手じゃ無ければ無い記憶をもとにしたフォローなんて出来る筈も無く、早々にフォローが手詰まりになると時分に意識を向けさせるべく、うつむいたその顔を呼びかけて「名前が無けりゃ元のクニにゃ戻れない、……嘘か本トがわかンねぇけど。事実、俺はフラミンゴ以外の名前もフラミンゴとして以外の過去も全部知らね。」雑ながら己の知るべく不思議の国のルールを教える様に伝えて、真白な髪に触れる様に指先を伸ばす、サラサラとした髪が指先を撫でるとそれが心地よいと離すことに名残惜しさを覚え。「もしかしたら、お前もそうなるかも。」過去を忘れると言うのがどういう物なのか、察する事さえも出来ない己には余計な事も言えずにオブラートに包むことの無い現実を向け、「__帰ろうぜ」言葉では何も言えないせいか、無性に彼を抱きしめたくなった。そんな感情を押し戻せば触れていた髪の名残を見る様に自身の手へ目を向けてからその言葉を掛け伝票を握り。)
(つらつらと述べられる内容は今迄見向きもしなかったこの世界の現状。此処にきて漸く無知である事がどれ程罪なのか、痛感したような心地で。背筋をヒヤリと悪寒が走る。このクニに来て楽しい事ばかりで、あまり以前の事を思い出すこともなかった。ふ、と記憶を探る様に瞑想の世界に耽ってみるも、所々靄がかかっている気がして仕方なく。「俺ん名前は…、イ・テファン。確か弟と妹が一人ずつ居ってん。三人共悪餓鬼やってよう言われとって…でも、彼奴ら今…、今…?」ゆっくりと綴り出した自身のプロフィール。此処に来る前に別れた、たった二人の家族は果たしてどうしたのか。何処に住んでいたのか、どうやって生きてきたのか、その部分が曖昧で不意に詰まる言葉。はっと、片手を口許に当て驚きに見開いた瞳はユラユラと焦点を結ぶ事が難しく。頭に触れた温もりだけが、今の現実。呼ばれるままに頼りなげに頭を持ち上げ、視線を向ける先は唯一このクニで無条件に信頼出来る人物。心の奥底では欠如していく記憶の存在に気付いていたのか、だから過剰に目の前の彼が消えてしまうという話に反応してしまったのかもしれず。だからと言ってどうする事も出来ない。再度項垂れ、促されるままに席を立って店を後にしようと。「…うん、早よ帰りたい」折角お気に入りの場所を紹介してくれた彼には悪いが、楽しむ気持ちにはなれず。大人しく手を差し出しては握ってくれるのを待って)
(既にこの国に置いた役職に生きる生活が全てで有り、それは己だけではなく住人も女王陛下ですら漏れなく有ったかも知れない本来の存在意義を既に記憶から消してしまっている。探り探りと語られる情報とは今まで聞こうともしていなかった事実であり、聞こうともしなかったと言う事はそれほどまでに過去を蔑にしていた証明で。口下手じゃなければ今よりも上手に説明が出来たかもしれないし、彼をこんな風に傷つける事も無かったかもしれない。重なるもしもに向き合う勇気が無く、臆病にも目を背けて。荷物を手首に掛けて差し出されたその手を握り、速やかに支払いを済ませれば握るその手を引いて店を後にして。__何か言葉を掛けてやらなければ、と気持ちばかりが逸る中で何が今送るに相応しいかが見つからず喉まで通りかかる言の葉は再び奥へと押し戻る。景色ばかりが次々と揺らめくのを視界の隅っこで捉えつつ「___綿菓子、帰りてぇ?」繋ぐ手をクイと僅かな力で引いてから、本来であれば伝えたくないその言葉を。もしも彼が帰りたいと述べた所で既に特別と思ってしまった彼を手放せるのか、それはきっと難しい事。心の内の天秤に、己の幸せと彼が幸せになることを掛けたうえで躊躇いつつも「もし、帰りたいなら。おめぇ、未だ名前を憶えてっから……女王陛下に頼んでやるヨ」顔を見ては絶対に言えないその言葉を顔を背けつつ続け、数秒か数分を永久にも思える気持ちで黙りこくり)
(手を引かれるままに店を後にして来た道を戻る。行きは木々の緑も、花々の瑞々しさも何もかもが輝いて見えた。其れが遥か遠くの出来事のようで。揺れる彼のチュチュスカートの先を黙々と眺めやりながら歩いていた矢先。問われた言葉にはっと顔を上げ、見えた背中は何処か余所余所しく頼りなげなもの。自分の事ばかりで、彼にまで要らぬ不安を抱かせてしまった事に、ぎゅっと心臓は縮む。手放したくない、その衝動のままに目の前の背中に追い縋り抱き付いては、広い肩幅に額を押し付けて。「御免やで、ふーちゃん…!ふーちゃんにも辛い思いさせてもた…。帰りたい訳やないねん、ふーちゃんの側から離れとうないもん」彼にしがみ付いている手は無様にも細かく震え、心なしか声までも振動する始末。ただ彼の心配の種を無くしたい、その一心で言葉を只管懸命に紡ぐ。確かに記憶が無くなる事は怖く、弟や妹達の事が心配な気持ちもある。ただ其れを凌駕して、彼への想いが強過ぎて。「一番怖いんは、ふーちゃんが居らんくなる事や…っ。…兄ちゃんとして最低やけど、でも、俺我儘やもん。もう離れられへん…」如何してこうまで醜い思いは溢れてくるのか。激情に身を任せ吐き出した内容は、自分勝手過ぎて彼に嫌われてしまうかもしれない。最早、心と言う名の容れ物に収容しておくには育ち過ぎた愛情は、自分の手には追えないもの。ぐっ、と奥歯を噛み締め、込み上げそうになる嗚咽を飲み込んで)
(怖い、怖い、と年甲斐も無く返事一つを恐ろしく思ってしまうほどサヨウナラと見送れる簡単さは欠片も無い。永久にも思えた間が背に感じる熱を共に安堵に姿を変えると結局は身勝手な感情のままに、彼が己を選んでくれた事実を心底嬉しいものと思ってしまい。家族のいる場へ戻れるかもしれない蜘蛛の糸を自らの意志で断ち切るのがどれ程まで辛い決断なのか、それは震える身体や声が全てを物語っている。震える身体を力強くグイッと抱き寄せれば己の胸の内へ彼を包むように閉じ込めて、その際に光を受けながら波打つ綺麗な白色に心を惹かれつつ目一杯に己へ抱き締め顔を寄せ。「戻れなくなっちまっても、もー知らねぇからな」今の一度のチャンスだって己からすれば最大に勇気を振り絞ったのだ、狡い己を自己分析すればきっと彼が戻りたいと願ったところでもう手は貸せない。身勝手で自分本位、そんな己の事を彼はどう解釈するだろう。頬を寄せるように顔を近づければ鼻孔を擽る彼の香りに、当てられて「お前が思ってる以上に、___俺はお前の事が好きなんだヨ」覚えるのは確かな羞恥、気恥ずかしさから声は上ずり目元に熱を集めてしまう。それでも伝えなければ後悔するとその一心で、彼を思うだけで自分とは優しい人かもしれないと錯覚を覚える気のままに口角を持ち上げ薄らと笑みを浮かべて)
(不意に力強い腕で抱き締められ、寄せられる頬。彼の吐息を間近で感じては、漸く冷え切った心と体に熱を取り戻し。知らず震えていた手の動きも止まり、きゅっと背中へと回せば、固く結んで離すまいと仕草で示す。戻れなくなるなど、寧ろ上等ではないか。堂々と彼の傍に居れる理由を授かる様なものだ。彼の頬に自身の頬を寄せ、スリッと数度摩りつけた後、コツンとおでこ同士を合わせ。ニィと常の勝気な笑みを口元へ浮かべて見せては、凛とした声音で宣戦布告。「望むところや。一生俺ん時間、ふーちゃんにあげるて約束したもん。男に二言はないで」薄っすらと笑みで彩られた彼の表情を守る為ならば、過去の記憶など捨ててしまえる。それ程までに覚悟は強く。失ったのならば、此れから先、様々な想い出を作れば良いだけのこと。それに自身に似た弟と妹のこと、飄々と逞しく生きている様子は易々と想像出来るというもの。「弟らも、俺ん似て前向きやし、人生謳歌しとるやろォね。それに、若しかしたら今後このクニで再会するかもやろ?そうなったら、ふーちゃん一緒に面倒見てあげてなァ」都合の良過ぎる未来を語っているかもしれない。だが希望を捨て切るつもりもなく、カラカラと冗談交じりに伝えては、弟達に振り回される相手を思い浮かべたのか”くっ”と吹き出し笑いを。告げられた想いは痛い程に鼓動を打ち鳴らし、口下手な彼からの精一杯の告白だからこそ、喜びもひとしお。持ち上げられた唇の端に軽く”ちゅっ”とリップ音を響かせ、唇を触れさせては、輝きを放つ瞳和らげ。「俺らめっちゃ両想いやねェ。ここで、ちゃんと生きてく為にも、このクニの事を勉強するわ。そんで仕事して、将来は二人でお菓子屋になるんも面白そうやねェ」彼の隣に自信を持って立てる男にならねばならない。その為にはクニの在り方を知り、職に就くのが絶対条件のような気がして仕方なく。今の甘えたままの自分では、彼を支える事は困難に近く。何れは頼ってもらえるよう、大人の男になろう、と楽しげな声音で未来を語りつつ、密かに胸中で決意固め)
―――(己と共に居る為に過去を捨てさせてしまう、自分勝手な考えが彼にどれ程刃先を向けている事だろうか。それでも前向きな言葉が重石の様に乗りかかっていた罪悪感をストンと軽くしてくれて、「綿菓子にそっくりなのが後二人……そっちばっか可愛がったら悪いなァ」何を思って彼が噴出したのかはわらから無いが、彼が笑っていると言うだけで単純にも釣られてしまい、く。と喉を鳴らしながら返事を添えて。子犬の愛情表現の様に愛らしい口付を受けると続けられる恥ずかしい言葉も今は愛しく、今一度己へ抱き寄せる為、後頭部へ手を宛がってから己の胸へ彼の顔を寄せさせ「そりゃイイなァ、……でも俺、不器用だから。おめぇが作った奴、食うしかできねぇわ」語られる夢物語に水を差して「働くんなら、俺の手伝いでも良いし、双子も猫も帽子屋も手伝いは探してる。客商売がやりたいならジャバウォックや羊に紹介してやるヨ」抱き寄せていた腕を離して数少ない交流の中から己の紹介できる働き先を提案し「ドードーに頼めばもっと増えるケドよ、兎ん所は厳しいぜ」自分なら御免だと言う意識を込めながら厳格で厳しい二匹の兎を頭に浮かべて、「どんなのしてみてぇ?」少しだけ頭を傾けると何よりも先ずは彼の希望をと伺うような眼差しでその姿を捉えつつ問いかけて)
(漸く何時もの彼らしく笑ってくれれば、少しは蔓延っていた不安も昇華出来たかと安堵の息を吐き。然し弟達ばかり可愛がる、という一言には大らかな心を持って受け流す、等といった大人の対応は出来ず。むむ、と眉間に皺を寄せ沸いて出た嫉妬心のままに素直に気持ちを吐露。「そんなん、アカンアカン。ふーちゃんの世話になってええのは俺ンだけやもん。来たらドドッチとかに任せたらええ」先程とは真逆の提案を行い、其れが正しいと信じて疑わぬ真っ直ぐな眼差しをぴたりと注いでは、同意を求めるように小首を傾げて見せて。引き寄せられる儘に胸元に顔を埋め、触れる温もりを幸せを感じて。緩む頬はそのままに、グリグリと額を摩り付けながら彼の話に静かに聞き入り。まだ其処まで詳細な事を考えてはおらず、職に就くことも言ってしまえば今日初めて意識しだしたぐらいで、何とも曖昧なもの。次から次へと提案される内容も半数以上は知らぬ人物達の名前。こうなってくると、矢張りこのクニの事から知るのが一番なのか。小さな脳味噌をフル稼働させ考え込むも、結局疲れるだけの作業で終わり。くたり、と凭れるように相手の肩先に頭を乗せ。「…よう分からんわァ。色んな所に手伝いに行ってみて自分に合いそうなん、見付けてみるんでもええ?」分からぬなら実際経験してみたら良い。最終的に行き着いた答えを述べ。その出先で色々と情報収集すれば一石二鳥である。寄り掛かっていた頭を退け、彼の視線を真正面で受け止めては、反応伺うように上目で見詰め)
__(舌の根も乾かぬ内に兄弟を可愛がってくれと述べたのに、一転して意見を覆した彼の正直すぎる対応に思わず落としたままの眉尻の形を少しばかり上げて。こうしてみてわかる嫉妬心を向けられることとは案外悪い物じゃない、素直にそれを伝えることは出来なくとも嬉しい物で引いては嬉しいからこそ虐めたくなってしまい「綿菓子にそっくりだ、っつうなら。ドードーより俺に懐くかも」愛らしい仕草に茶々を入れてしまうのは可愛い子ほどと言うやつか。再び歩みを再開するべく足を進ませる際にチラリと余韻を残すように彼の姿を瞳に映してから未だ見ぬ彼の兄弟を口にして。働き口はそれこそ需要と供給が伴わないまでに多く有る訳で、事実日替わりと時折働くことに意欲的なアリスが珍しく手を貸してくれる状況と有れば人当たりの良い彼とは引く手数多であることが想像できて、頬を指先で軽く掻いてから「……おめぇが、ちゃんとウチに帰って来ンなら。好きな所行って来いヨ」伺う様な不安を滲ませる彼を一瞥してからデコピンをパチンと一つ、彼が戻ってこない事なんて考えられないが、それでも心配性且つ執着心の強い己とは彼を手放したく無い様で「マ、綿菓子なら上手にやれンだろ」彼と過ごす中で幾分か自分よりも人づきあいは上手だろうと自信が有り、普段彼からされる事が多いように己の手を伸ばせば手を引くように手を重ねて)
(指摘された内容は正しく心の奥底で不安に思っていた部分をピンポイントで攻撃するもの。図星に”うっ”と顔を顰め、視線をくれながらも先へと進む彼の背中。台詞と共に遠ざかって行く姿に何とも言えぬモヤモヤした不快な気持ちが湧き上がれば、其れを隠そうともせずに頬を膨らませ。尖らせた唇と声音で「そんなんニイちゃん権限で許さんもん。ふーちゃん、俺ん兄弟…いや、他の人ともやけど浮気したら許さんからねェ」嫉妬心露わに背後から彼の耳に甘噛みを仕掛け。”マーキング”とその際に囁きを落として漸く満足したのか、悪戯げに笑いペロリと舌を出してみせ。額に生じた衝撃に数度瞳をパチクリと開閉させ、言われた言葉の意味を理解するのに数秒要し。じわじわと喜びで頬を薔薇色に染め、常より考えていた事を彼に伝えるチャンスではないか、と思案して。重ねられた手をきゅっと握り「俺ん帰る所はふーちゃんの所以外ないで!せや、前言ってたメッシュ入れてェや。ふーちゃんのモンって証」彼の元に帰ってくる、という印にしては少しばかり効力は弱いかも知れぬが、此れが今出来る自身の精一杯のこと。くいっと手を引っ張り、小首を傾げ提案という名のお強請りを。大それた事を言ってはみたものの、心根の方はまだまだ甘ったれの子供。早々に根を上げて彼の元に戻って仕事をするかも。自分に対しては柔らかくその双眸が緩むのを知っているから余計で。「…もし、直ぐふーちゃんの元に戻って来ても怒らんといてェな?」自信無さげに小さな声量でポツリと伺うように一言述べ)
―――!、(尚も戻ってくる不満の言葉に少しばかり苛め過ぎたか、と考え直したその時に耳に刺激を受けると驚きに弾く様子で眼を開き。状況をワンテンポ程遅れてから理解すれば可愛い悪戯に注意を促す為唇を開き。その唇は結局彼の悪戯めいた年相応の愛らしい表情に水を差すことが出来ず飲み込むこととなり。チリチリと焼ける様な擽ったさを持つ、今し方悪戯を受けたばかりの耳を己の指先で弄るように触れつつ受けた強請りを聞き入り。強請られたのは以前軽い気持ちで伝えた内容であり、彼がお揃いにしたいと言うもの。それを彼が覚えてくれているだけで十二分に嬉しいのに、染める理由が己の執着心を見抜いたような物であるからこそ一層とその嬉しさは募るばかり。「何処に入れンだァ」ちらり、と横目に日に照らされてキラキラと光る髪を目に移せば肯定代わりに問いかけを、「サイド?襟足?インナー?」目に見てわかる様に、彼に己の色が乗ると言う行為は背徳的で己を悦ばせる。だからこそ逸る気持ちのままに問いかけを重ねると「人の髪なんてやったコトねぇから、失敗したらゴメンなァ」言葉とは裏腹に口角を持ち上げては意地悪を滲ませ。そんな中でぽつりと聞こえた声を聞けば肩を竦めてから己の頭をガシガシと数回掻き毟り「怒んねぇヨ、___俺だって余所じゃ上手くやれねェし」人付合いが得意であれば今ももう少し外との交流が有っただろうに、己を振り返れば眉尻を落としつつ言葉を返してから「それに、お前が傍にいねぇ方が落ち着かねぇヨ」すっかり、彼のにぎやかさが己に馴染んでしまったのだ。責任を取ってもらわないと困る、そんな風に目を向ければ言葉を添えて)
(彼の耳元に付いた薄い歯型にクツクツと笑いは漏れるばかり。ポツポツ溢れる喜びを彼を共有したいのか、己の長い髪を掻き揚げ、右耳を眩い光の元に晒しては、甘える様な其れでいてどこか挑発的な視線で彼を上目に見詰め。「ふーちゃんも、俺ん耳に跡つける?」ゆるりと下から覗き込み、普段の快活さは鳴りを潜め、艶めかしい色を含んだ声音で囁きを落とし。一房髪を摘み、クルクルと弄っては尋ねられた内容に首を傾げ。思案する様に数秒沈黙し、視線はユラユラと宙に泳がせて。ボンヤリと想像してはみるものの、どの位置も捨て難い。何処が一番目立つだろう、と考えた際に思い浮かんだのは以前その話題が出た時に告げられた選択肢で。ピンと閃いた、と言わんばかりに瞳を光らせ、三つ編み部分を掴んでは目の高さでヒラヒラと揺らめかせて。「三つ編みにしとる部分がええ!そこがいっちゃん目立つやろ?」ニィと両方の口角吊り上げ、染める部位の指定を。染色は誰か別の、美容院的な所ですると勝手に思っていた為、思わぬ言葉に”ええ”と驚きの声が上がる。想像もしていなかった贈り物を貰った子供のように喜色を満面に浮かべ、彼の両手を握ってはぶんぶんと上下に振り。「本間?ふーちゃんがやってくれるんやったら、どんなでもええよ。だってふーちゃんがしてくれる事に意味があるもん」失敗されても、それはそれで思い出になり、愛しくなるもの。「…!やったら、もう離れられんねェ」己も彼の隣が心地よく、もう早其処を絶対の居場所として認識してしまっている。自分にとっての安全地帯は彼の隣だけ、腕を絡め、瞳閉じ安心しきった顔で寄り掛かって)
(まるで挑発でもするような煽る言葉と眼、それらを一度己の中で噛み砕いては性分の根に強くある負けず嫌いが顔を出してしまい。数秒ほど晒される耳を覗くように真直ぐと視線を向けたもののスルリと腕を伸ばして首元に触れて、下から上へ撫でる様な手つきで親指で喉仏の当たりに触れてから逸らすことなく目を真直ぐに向けたまま顔を寄せて今し方触れたばかりの首元に唇を触れさせて。吸い付くようにキスマークを一つ残せば猫が行うように付けたばかりの痕を舐めり、舌を這わせてから煽られたことを仕返しだとばかり己がされた歯型を残すべく歯を立てて「__満足かァ」触れていた指を離してからそれを使いヒラリと揺らしては途端、込み上げてくる大人げなさだとかをひっくるめた羞恥に顔を背けて。目立つからとメッシュの場所を決める彼が続けるいじらしい言葉や思いに胸を打たれつつ、それを素直に受け止められない己に嫌悪を抱きつつ、言葉で返さない代わりに横目にその姿を映してから「変にしてやる」顎を使い三つ編みを示してからクと息を零す様に冗句を送り。絶対的な信頼を向けるように己に身を任せる彼は、どうしたって己に執着するのだろうと疑問が途切れないまでに不思議であり。己が持っていない物を多く持つ彼に、自分が惹かれるのは十分に理解が行く。それでも逆とは疑問ばかり、それでも手放す事なんて考えは一つも無く腕を引きながら家に戻り。「汚れても良い服、何でも良いから着て来いヨ。バスルームで準備して待ってっから」決まれば早いとサーカス小屋にドードーの姿が無いのを確認してから指示を出し)
(耳にくるものと思っていた刺激は何故か来ず、熱視線は首元へと注がれている。撫でられるままに素直に顎を少し上げ首元を晒す様は、彼へ全てを委ねている証。唇が触れたと思った次の瞬間、湿った肉感を感じ、ふるりと睫毛を震わせ。其れで終わり、と勝手に思っていたからか、更なる追撃で肌に歯が食い込む刺激を感じては”っ”と小さく吐息を零して。ふるふる揺れる瞳を向けた先の犯人は既に顔を背けており。ついさっき、己に悪戯した彼と今現在恥ずかしげに顔を合わせようとしない彼のギャップが愛しく。問われた質問に返答すべく、ぐっと両手で彼の頬を挟み此方へ再度顔を向けては朱に染めた目元で見やり。「めっちゃ、満足や。癖んなってまいそう。なァ、ふーちゃん、よう見てェや。綺麗に跡ついとる?」ニンマリ満足気に笑えば、首元に咲いた赤い花を見せ付けるように顎を逸らして見せ。彼の捻くれた答え等何のその。最早慣れてしまったその言葉の応酬さえ楽しいもの。勝手に承諾と受け取っては「ええもーん。変なっても、ふーちゃんが貰ってくれるもん」無邪気に周りをくるくる回っては喜びを示し。森の中の散歩も彼というならあっという間。いつの間にか着いた家に目をパチクリ。「はーい、了解やでェ。今から何や楽しみやわァ」敬礼した後、弾む声音と足音を残して自室へ戻り。適当に服を選んではあまり時間をかける事なく着替え。三つ編みにしていた部分も紐解、結んでいたゴムを右手の手首へ括り付け。パタパタと音を立てながら行儀悪く廊下を走っては恐らくバスルームで準備しているであろう彼の元へ走って。「ふーちゃん、準備でけたー!」勢い良く扉開いて中にいるはずの彼へ声を掛け)
___(問い掛けを送ったのは己の筈なのに、いざその返事が戻されると羞恥を今一度自覚させられているような気持ちに至り。居た堪れない気のまま背けていた顔が彼の手により直視せざる得ない状況にさせられるとそれ以上言葉を述べる事も叶わず。見せつけられるような赤がやけに目に焼き付いてしまうとその色味が伝染するように顔へ熱が集まって。決まりが悪そうに触れる手を払い視線を背けると「家帰ってから自分で確認しろヨ」ゴホンと咳込み動揺を掻き消してから羞恥のままに愛想の無い返事を行って。邪魔にならないように己の髪を高い位置で一本に括り、シャツの腕元をグイと捲し上げて。染める為のカラー剤はそれ用のベリーに少しのミルクを足した物、確認を取るより先に己の色と似たものにする為の調整を行っていて。準備が出来たと彼が現れれば「ソコ、大人しく座ってな」と事前に運んだ簡易的な椅子を示して、カラー剤は避けて「染める所分けるから動くなヨ」先ずは注意を促すように言葉を一つ、不器用だと言う自覚が有るからこそ真剣の様で、普段彼が三つ編みとして結っている分を不器用なりに取り分けて他の部分と区別するようにダッカールなどを用いて纏め、それだけで十分気力は使い"ふー"と達成感の息すら零しつつ「綿菓子。折角綺麗なのに、勿体無ぇなァ……」指先が汚れないように黒色のゴム手袋を一度口を触れさせて膨らませてから手にはめて、その際に名残惜しむ様に眉尻を落としつつ数秒程見つめ。直ぐに薄っすらと口角を上げれば躊躇いなくメッシュ部分にベリーで作ったカラー剤を塗り「マー、お揃いにしてやるさ」そう告げる声は何処か楽しそうに満ちたもので)
(見る見る林檎のように頬を赤く染めていく彼の表情の変化が楽しく、愛想のない返答もその変容だけで台無しで。似た者同士なのか、そんな態度を取られれば益々構って欲しい気持ちは高まり、意地の悪い餓鬼大将の様な笑みが口元を緩めるばかり。振り払われた手を今度は肩にそっと置き、背けられた視線を良いことに、隙をついて耳元へ”ふっ”と吐息を吹き掛けながら「家帰って確認してる所、ドドッチに見られてもええのん?」言葉の裏には彼が今ここで確認して言葉をくれなければ、もう一人の同居人にフラミンゴから付けられた経緯を赤裸々に告げ、彼の代わりに確認してもらうかもしれない、という意味を暗に含め。浴室の扉を開いた先、案の定早速とばかりに準備をしてくれている相手の姿が目に入っては溢れる笑いが抑えられず、軽く両方の肩を揺らし。”はーい”と良い子ちゃんの返事を返し、促されるままに椅子に座る。彼にはいつも髪を褒めて貰っている気がする。勿体無い、等とんでもない。髪を取りまとめてくれている邪魔をする訳にもいかず、首を振って否定する事はないものの、彼の言葉に被さるように声をあげ。「嫌やわァ、今からもっと綺麗になんねんでェ?ふーちゃんと俺ん色が混ざるって、めっちゃ素敵やない?」ニンマリ細めた瞳で伺うように斜め上の彼に視線くれては、まるで二人だけの秘密、共有物だ、と大切そうにそっと囁きを。体の前面に設置されている鏡で、己の一部が彼の色に侵食されていく様子を食い入る様に見。その行為が終わるのを今か今かとと待ち侘びる。「わァ、ふーちゃん見て!染まっていってるでェ」はしゃいだように明るい歓声を上げては、ブラブラとその気持ちのままに足を動かし)
(体温が上昇し茹だる意識に冷や水が掛かったのは共に暮らす第三者の名が挙がった事で、その彼が良識ある人物だったならば別段気にする事も無く"勝手にしろヨ"と返事を返せたのかもしれない、それが出来ないのは彼がどの過ぎた色狂いである事を知り尽くしているからで。もし、その現場に居合わせたならば餌を見つけたとばかり隙を突いて手を出すはず、人としての信頼と色としての信頼とは別なるものだと彼に関しては言い切れる。そんな考えが己の熱を沈めて冷静さを取り戻させるとグ、と言葉に詰まる様子で唇を尖らして。片方に転べば羞恥に至り、もう片方に進めば彼に手を出されてしまう。二択あるようで一択しかない答えに肩を落とし腹を括る様にため息をついてから伺うような眼差しで晒される首元へ目を、「痕、ちゃんと残ってる」自らが付けたそれの説明とは、なんて酷な事を!そんな思いでボソボソといつにも増して小さな声量で答え。ベリーを使っているからか、ふわりと香る甘酸っぱい匂いが鼻孔を擽るのを感じつつ、丁寧に。丁寧に、ムラが出てしまわないように意識をしつつブラシを通し。時折掛かる明るい声に返事が出来ないほど集中しながら決して多い訳じゃ無い一房をピンクに染めて、やりきった頃には達成感にウンと頷きを一つ「色がちゃんと乗るまで動くなよォ。中々上出来だ」ご満悦と機嫌が良い様子で使った道具をバスルームの片隅にて片付け始めつつ「ドードーの奴、怒るカモなァ」ふは、と小さく笑い声を零せば己だけじゃ無く彼もまた綺麗な白を気に入っていた筈だと頭に描いて呟き)
(歳上の彼が自分の一挙一動でコロコロと振り回される様子の何て愛らしい事。尖る唇に悪戯するように、人差し指で”ちょんちょん”と突つき。小さいながらも、はっきりとした答えを貰っては自分の作戦が成功した事を知り、ニィと両方の口角を吊り上げる。若し言葉通りの状況に陥った所で、相手の急所を突き逃げるぐらいの根性と大胆さは持ち合わせているつもり。更にマーキングを見せびらかす時は彼が隣に居る時だけであろう。何せその時の相手の反応が楽しみで行なうようなものなのだから。だが敢えて言葉にして伝えないのは、心配と嫉妬をしてもらいたいという身勝手な思いゆえ。「ふーちゃん、何の跡が付いとるんかも教えて欲しいわァ」態とらしく小首を傾げ、純真な子供の皮を被ってはより一層の意地悪を。真剣な眼差しを髪へと一心に送る顔を、眺められるのはこんな時だけ、とその瞬間を取り逃さないようマジマジと見詰め。気付けば髪は染め終わっていた様子。途中から髪のこと等すっかりと頭の片隅から忘れ去られ彼ばかりに意識が向いていた己に気付けば、変に羞恥心がじわじわと心を蝕む。動くな、と釘を刺された為、頭を振り顔の熱を逃がすことも叶わず。一度足元へ視線落とし、深呼吸して落ち着きを取り戻そうと。次いで何時もの調子で声を掛け。「どれぐらいジッとしとったらええ?」ソワソワと完成を待ちきれぬ幼子のようで。思わぬ同居人の名前が挙がれば、そうだろうか、と疑問を前面に出し。だからと言ってこの選択肢を諦める、という考えが自身の中ではこれっぽっちもなかった為、受け入れて貰うしかなく。「えー、ドドッチに惜しまれても、もう入れてもたァ。其れにこん髪も気に入って貰える自信があるもん」己が来る前はドードー鳥が彼の面倒を見ていたほど、仲が良いはず。ならばその色を纏った自分は益々魅力的に映るはずだ、と根拠のない自信を表してはピースサインして見せ)
それ以上、__それ以上言うならもっと増やすからな(元来口達者じゃなければ口下手の己が言葉で彼に勝てる見込みは無く、唇に触れる柔らかな指の感触を堪能している場合じゃないと尚も煽る様に詳細を問うてくる彼に眉間に皺を寄せて瞳を細め、脅しの様なそうじゃないような、そんな言葉を投げるのが精いっぱいの抵抗で。細長い腕を伸ばせばズイと己から距離を引き離す様に額を押して業と髪型を乱す様にグシャグシャと頭部を撫でてみて。ミラーに映る己の髪型を一瞥してから問いかけられた言葉を今一度頭の中で繰り返し「あ゛ー……俺のコレ、自前だからなァ。」第一染める現場に立つのも初めてで有ればどうにも歯切れが悪い雰囲気の返事を送り、モゴモゴと口籠る様に「だから、なんだ、……なんとなく、もうちょっと置いてから洗おうぜ」正確にはその答えが分からない、であるのだがそれを伝える事で彼に不安を与えまいと(曖昧な返事の方が不安を与えると言うのは考えに無く)誤魔化す様に言葉を送り、粗方の片付けが終われば傍にしゃがみ込んで自信にあふれるピースサインを眺め、片方の口角を浅く持ち上げると「そーだなァ。これで、誰が見ても綿菓子は遊園地の一員だ」別にこのカラーが指定色と言う訳じゃ無いが、衣装のように分かり易いではないかと頷きを一つ伴いながら返事を行い。「アイツは保守的だから、派手にすると怒るンだ」肩を竦ませれば文句を告げる様な口ぶりで告げて、その後に立ち上がり染めた部分に指先を触れさせれば「ン、たぶん大丈夫。……流すから冷たかった悪ィ」シャワーから水を出し温度の調節を行ってから頭を前に出す様に声をかけカラー剤を洗い流し、ちゃんと色の乗ったピンクを見れば思っていた以上に綺麗な揃いカラーに思わずふはと息を漏らして)
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