はとむぎ茶 2017-03-09 16:39:28 |
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春になったら、また遊びに来るから。
そう言って去って行った大好きないとこのお兄ちゃんは、翌年の春、本当に帰ってきた。
隣に綺麗な女の人を連れて
『春の宵』
「いやぁ、しかし駿君がこんなに美人な嫁さん連れてくるた思わなかった」
「ちょっと、まだ嫁さんって決まったわけじゃぁ……ごめんなさいね、こんな田舎つまらないでしょ」
まだ昼過ぎなのに顔が真っ赤になるくらい酔っぱらった叔父さんと、その膝を叩きながらも嬉しそうな顔で笑う叔母さんは、すっかりその女の人を気に入ってしまっていた。
駿に呼ばれたのは嬉しかったけど、どう考えたって場違いなのは私だけで、一刻も早く家に帰りたかった。
「いえ、そんな。こんなに賑やかなのは久しぶりで」
鈴の鳴る音みたいに軽く透き通る声で話すその女の人は、優しい笑顔を私にも向けてくれた。愛想笑なんかじゃないということがよく分かる笑顔だ。
小さく会釈を返すだけしかできなかったことが、自分の敗北をより一層深く感じさせた。
(休憩)
(部屋でいつもと同じようにソファに並んで座ってテレビを見ていただけなのに、バラエティ番組の司会の何気ない一言のせいで、空気は何となく重くなってしまっていた。それは同性同士の恋愛観に関するもので、別に俺たちはそういう関係ではなかったけど。この空気が、そういうことなのかもしれないと思い知らせてきて、余計に重くなるのが分かり。口を開かないと。そう思うけど、何を言おうか考えれば考えるほど、嘘を吐くにしても、真実を言うにしても、言ってはいけない言葉が口をついて出てきそうで、ぐって下唇を噛むのに全神経を集中させて。テレビの向こうの人たちは、俺たちのそんな気持ちを知らずに、やかましく騒いでいる。切ってしまおうかと思ったけど、そんなことをしたら余計に気まずくなるだろう。「――お茶、取って来るわ」ようやく当たり障りのない言葉を絞り出して、この場から離れる切欠を手に入れればゆっくりと重い腰を上げて)
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