※ 2017-03-05 03:04:28 |
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十数年前『知識の魔法使い』と呼ばれ、その世界で密かに地位と名声を得た魔法使いが存在していた。
魔法学院を飛び級で合格し、若くして資格を取得した彼はその後、確実に力を発揮する。
多くの依頼を受け成功させた彼の名は、当時の業界で名を残すには十分のものだった。
しかし彼は一年前、突然表舞台から姿を消した。
彼が今何処で何をしているか知る者は少ない。
薄暗い書庫の中に窓際のカーテンの隙間から、爽やかな昼下がりの風が吹き抜ける。
初夏が近づいているせいか日々気温は上がり、そろそろ衣替えをしたいところだが、腰が重くやる気は出ない。
「眠い…、二度寝、するか…」
薄目を開け屋敷の主、ノエル・ミラー・ワイトは、再び毛布に潜る。
暖かい日差しに柔らかい毛布、爽やかな風と傍らにはお気に入りの書物。
これほど昼寝に向いている環境はそうそうないだろう。
ノエルの意識が薄れる直前、書室につながる扉が勢い良く音を立てて開かれた。
「何時まで寝て嫌がる、この蓑虫魔法使い!」
扉を蹴破り登場した長身の男性は、新緑の瞳に苛立ちを滲ませ、ノエルを睨みつける。
彼の左手には四つ目牛印の牛乳パック、右手にはそれを注ぎ入れた透明なグラス。
頭上には紺色の立ち耳が、濃紺の髪に埋もれながらも立派に主張している。
「おはようアスト、そして…おや、す…み…」
「だから!起きろって言ってるだろ!昼飯作ったから早く起きろ」
両手の飲み物を書庫の隅にあるサイドテーブルに置き、アスト・ルイスは自身の主、ノエルの毛布を無理矢理剥がしにかかった。
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