赤の騎士 2017-03-01 00:05:01 |
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――!(向けた提案を参考の一つと捉えた少女が秘密の話でもするように声を潜め向けた問い掛けに、よもや、自身の人生の中で人の赤裸々たるディープな恋愛話を、それも同僚の様な男の事をふざけるでもなく、酒が入った状況でも無く、素面な上におふざけなしの真面目な状況でされる日が有るとは思わずに、汚くもぶっと吹き出す様に息をするのも大変だと肩でゲラゲラと笑い「__あきめせんて、そら。へえ、赤の彼は見た目に寄らず案外むっつりなんやねェ」片手は笑いを無理やりに押し込めるように口を覆い隠し、それでも尚ヒイヒイと笑いが後を引いた状態で肩で呼吸を行い。とは言え、顔を赤く染めながら尋ねる彼女は本気なのだから答えてやらないのは酷いだろうと乱れた呼吸を落ち着かせて「そら、リンリンちゃんのことを大人として見てるっちゅうこってしょ。子供にするキスなら眠る前に額にキスだけで良か」口に当てていないもう片方の手をヒラヒラと揺らしながら「話してて、おいちゃんが照れちまいます。__リンリンちゃんを大人として見てるから子供のキスやなくて大人のキスだってしたいんとちゃいますか」胡坐をかいていた体制で其の儘後ろへ倒れ込むようにゴロンと空を見上げる様に寝転がり、生真面目な同僚の赤裸々たる恋愛話とは思いがけない収穫だと、今度はそれをネタにからかうのも良いかもしれない。なんて悪い考えを頭の隅に置きながら「そういや、聞きました。彼、自分の名前を思い出そうと躍起になってはるって。__それもこれも、全部リンリンちゃんが関わってたんねぇ」すっかり気分は親戚のオジサンか、カラカラと愉しげな声で点と点が繫がったようにつぶやいて「おいちゃんなら、思い出させること出来ますよ」片手で口を覆い隠しているからこそ素性を出す様ににやりと笑みを浮かべて「おいちゃんは時計屋だけとちゃうくて、一人一人の時間を管理してんねんな。赤の彼の時間を戻せば記憶は戻るし、その彼に名前を教えてもろうた上でまた時間を戻せばえぇんです」口元に手を宛がいながら恰も親切心の様に提案をして)
(/わざわざご連絡有難うございます!そのお心遣いとても嬉しいです。ぜひ、私生活を優先して下さい。此方へはお時間のある時にお返事を頂ければ全然大丈夫ですので、お気になさらず…!)
大人、の……ふふ、よかった。
(自分の質問は相手が吹き出してしまうほどの案件だったのだろうか、一気に吐き出されたその息に思わず驚いたようにびくりと肩を震わせながら相手の方を覗き込めば普段陽気な彼でも珍しいと思うほど笑うその様に余計に羞恥心は強まってしまい。とは言え恥を忍んで聞いたかいはあった、自制するように口を閉ざしてしまった騎士の内情を相手の言葉で漸く想像することが出来て。何となくあの夜の逢瀬の雰囲気から察してはいたものの自分はまだ15の少女、相手の口から明確にその意味を教えてもらったことでかの騎士がきちんと自分を大人の女性として扱ってくれていた事実を噛み締めることが出来、復唱するように小さく呟いてから込み上げてくる嬉しさに思わず口元を緩めると締まりのない顔を直そうとするように自身の両頬を抑えながら安堵の言葉を漏らして。「__ふふ、折角のお話だけれどそれでは意味がないの。私は今の騎士様から名を聞かせてもらうのを待っているし、騎士様も今の彼だから私に名を伝えたいはず。時間は名を思い出させても、意味が伴わなくては文字通り無意味なの」彼の本当の名を早く知りたいと思ったことくらい、自分にはいくらでもあった。婚姻を仄めかしたあの夜だけではなく、彼と出会って以来の色んな場面で思ったこと、けれど名を知りたいと思うに至る今日までの時間を巻き戻す等根本の意味を伴わない行為だとも分かっていて。相手の提案に首を横に振りながら語る言葉は自分と騎士との間にいつもあった"名の意味"という考え方に基づくもの、逸る思いよりも優先されるべき意味を説けばそっと地面に腰を下ろし、寝ころぶ相手を覗き込みながら困ったように肩を竦めて見せて)
良かったも何も、リンリンちゃんの事好きや言うたんでしょ。__ほんだら、最初から子ども扱いなんてしてないっちゅうこった(一喜一憂するような手探りの初々しさは未だ二人の関係が始まったばかりだと言う事を知らせているようで、からかう様に「おいちゃん相手にあんまし惚気んといてな。あんまりにも可愛い話聞かされたらこそばくて敵わんわ」微笑ましさの滲む、それでいて本人が知ったらどう反応をするのかが今から楽しくて仕方がない同僚の恋愛話に小さく肩を揺らして。向けた提案は、詰まる所実験の様な物。それが成功するならば時間を操ることが可能になる、ただそれには犠牲が伴う事も仕方が無いと飴をちらつかせて都合のいい実験台を手にしようとしていただけ、にも関わらず持ちかけた提案を意味が無いと断るのを聞けば爬虫類のように瞳孔が縦に開く眼を一層と大きい物にして、困ったような顔を浮かべながら単純に名前だけを聞くのじゃ意味が無いと名前に拘るようで名前に拘らないその考えが理解出来ずに怪訝がり。口を覆いかぶせていた手の平をズルリ、と滑らせて口から離し「別に、時間を戻してもまた進ませればリンリンちゃんとの思い出は全部残ったままになりまっせ。それでも意味は無い?」困ったような顔を浮かべていると言う事は少なかれ答えは早くに欲しいはず、そんな考えから尚も食い下がる様に「もしも、赤の彼が自分で名前を見つけられひんかったら。最後の手段でおいちゃんの所においで。いつでも手ぇ貸しますけ」覗く顔へ、額を指先でトンと軽く突いてから未知の一つを提示して)
__私は私を想ってくれている騎士様が、焦れる程溜め込んだ想いと共にその名を囁いてくれるのを待っているの。彼が自分で思い出すと言った以上……女性を待たせるだなんて紳士らしからぬ行動をした以上、甘やかしてあげるつもりはなくてよ。その位の余裕がなくては立派な淑女とは言えないわ。
(ここに訪れたばかりの頃かの騎士でさえこの世界においていかに名が無意味か説いたのだ、同じようにこの世界の色に染まっている相手が名前に対する意味をあまり理解してくれないのも道理だと言えよう。騎士と想いを伝え合いお互いにその意味を理解する関係になれたことによりこの世界の通常をすっかり失念していたようで、相手の提示に肩を竦めれば突かれた額を軽く押さえながら覗き込んでいた体を起こし。今現在自分を想ってくれている彼の口から、というその行為の意味を求める考え方は恐らくどれだけ語ったとしても相手には分からない感覚なのだろう、するりと長く揺れる三つ編みを背中に流しながら口にしたのは相手の提案を受け難いもう一つの理由、婚姻を促した己の想いを留めてまで探すと断言した騎士の本人の労力なく名を取り戻させるなど何となく癪、などという一種の仕返しとも意固地とも取れる言葉で悪戯っぽく微笑むと、そっと傍に置いていたバスケットに手を伸ばし。「ほらジャバウォッキー、いい加減起きて頂戴。でなくちゃ空からタルトが降って来るわよ」バスケットの中から取り出したのは大きめの布の塊、それをはらりと開けば包み紙を挟んだその中に小さめに焼いたエッグタルトが数個あり。それをひとつ摘まみながら未だ寝ころんだままの相手に声を掛けると空を映すであろうその視界に摘まんだタルトをちらつかせて)
――おいちゃんにゃあ、わからへんわァ(語られる言葉から、単純にその響き以上の物を探していることは理解が行くが、名前とはただの呼び名であると言う前提意識が覆らないせいで、食い下がる様に尚も向けた提案を断られれば釈然としない様子でぶー、と息を吐き出してからぼやきを漏らし。覗いていた顔が目の前から消えて、再び晴れすぎた青い空が顔を覗かせればそこに差し色のように現れるエッグタルトの動きを視線で追いかけてから寝転がっていた体を"よーいしょ"と怠慢な声を共に起こし上げ、「おいちゃんも頂きましょ」嬉々とした声色で並べられたエッグタルトのうちの一つに手を伸ばし「ちみっこぉて、めんこいね」市販じゃ中々見かけない一口サイズのそれは食べやすそうで、何よりも小振りで可愛らしく。目尻を細める様ににんまりと笑みを浮かべつつ呟いて。香ばしいタルト生地に歯を立ててさくり、と音を立てれば続いてカスタードの素朴な甘さを堪能するように数回租借を行って。「―――なーんも悲しいお涙頂戴の話と違うんやけど、おいちゃんも。むかーしむかしにアリスの恋人がおってんね」指に残るタルトの欠片を舌先でペロリと舐め取って。胡坐をかくような体制で背を丸めれば「でも、あきませんでした。アリスじゃないのにこの国にいるんが耐えられなくて、結局死んじゃってんです」甘いタルトは素朴だからこそ、素朴な幸せだったころを思い出すようで。ホロリホロリと語るのは善意も悪意も無い、ただ、幸せに浸る彼女の世界を第三者として少しでも見ていたいと言う気持ちの表れか。「リンリンちゃん、めーっちゃ美味いわぁ。もひとつ貰お」もしも、彼女がこの子のように誰かの意見に惑わされることが無ければ、もしも自分が彼のようにすべてを捨てる覚悟を持っていれば。そんな下らないモシモ話を頭から掻き消すようにエッグタルトをまた一つ頬張って"あー、甘いなー。甘くて美味いなア"と口いっぱいに感じて独り言のように呟いて)
__死は、肉体的には貴方と貴方の愛しい人を別けたかもしれないわ。けれど想いは死を以てしても、それこそ世界の誰にも断つことなんて出来ないものよ。
(自分の拵えてきたタルトを口にしながら漏らしたのは先程己の頭にも過ったひとつの可能性を裏付ける真実で、自然と零れていくようなその言葉をじっと相手を見つめながら静かに聞いていれば口元へ運びかけていたタルトを膝に敷いた包み紙の元へと戻し。その声はただただ過去の事実を語るもの、自分と騎士の関係に対しその過去から暗い想いを抱いている訳ではないことはすぐに分かり。そんな相手だからこそ向ける言葉に同情も憐憫も不要、ただその事実への己の想いを語りだせばそっと目を伏せ。「貴方も、アリスを辞めたその方も、それ程までにお互いを愛していたのでしょう?なら死別は貴方の言う通り悲しい物語の結末なんかじゃない……気高い愛に、結末なんて語ることすら無粋だと私は思うわ」相手の陽気さの影に見え隠れしていたものはこれだったのだろうか、恋人の死を嘆くでもなく淡々と語る相手が今に至るまでどんな想いで過ごしていたかなど自分には分からない。けれど彼がその愛を後悔などしていないだろうことは自分にも今現在想う相手がいるからこそ一種の確信として感じており、死別を経たとしても愛の気高さは損なわれないというひとつの考え方を語り。それから漸く自身もタルトを一口齧るとその仄かな甘さを口の中で楽しみながら相手の方に視線を移せば柔らかく微笑んで見せて)
___(直線に吊るし上げられた左右の瞳は普段から目付きが良いとは世辞にも言えず、そんな眼は彼女の言葉を受ける事で瞬きを忘れたように動きを止めて。呼吸一つ喉を通らないのは、下手な慰めを不要としていたその心を読み取られたように、過去を踏まえた上で偽善の言葉を見せずに認められたからだろうか。堪らずに押し留めた呼吸が酸欠に苛まれ掛けたその限界でヒュウと本能のままに再び呼吸を繰り返したことで意識は再び戻り、唇を少しだけ歪に片方を持ち上げる様にして釣り上げて。瞳を鏡代わりに出来る程真直ぐな眼差しで目を向ければそこに映る柔らかな微笑みを数秒見返し「リンリンちゃんはァ、じゅーぶん立派な淑女ですわ」あっはっは、と屈託なく笑い声を上げては肩を上下させてピシと伸ばした人差し指を使い彼女を指さしながら"敵わないわァ"と続けるように付け加えて。「ウンウン、赤の彼の為やあらへん。リンリンちゃんの為に、彼に名前が戻ることをおいちゃんも祈らせて貰います」前半は頭を数回上下に揺らしながら、後半は片手を祈るときのように目の前で真直ぐに立てつつ口にして。本当は、誰かに伝えたかったのだろう、その思いを吐露したことで自分なりの気持ちの整理がストンと落ちたそんな気分で「なんや、おいちゃんがリンリンちゃんに相談してしもたね。」からり、と笑顔を浮かべながら手の内のタルトを食べ終えて。「また、なんか困った事あれば声かけぇね。リンリンちゃんは特別や、おいちゃんがいつでも力を貸したろ」そうは言っても強さを持つ彼女が己を頼ること自体少ないのだろうが、それでも胸を張る様にその言葉を伝えて)
……ふふ。時には相手を頼ったり、相手のために何かをしたいと思うのがお友達でしょう?
(心の根本を隠してしまうのが上手い相手に自分の言葉がどれだけ響いたかはその陽気な表情からははかり知ることなど出来ない、けれど屈託のないその笑顔が心からの笑みだと信じ微笑みを返すと残った手の中のタルトの欠片をぱくりと口に含んで。相手は逆に相談をしてしまった、などと口にするものの相談に乗り乗られそうしてお互いを助けていくこと、お互いを助けたいと思うことこそ友人という関係だと指摘したのは過去の相手、その時の言葉を返すようにゆるりと何処か悪戯っぽく笑みを浮かべながら口にすればそっと自らの唇に人差し指を添え。互いの話も一区切りつき持参した菓子もなくなる頃には思ったより長く語ってしまっていたのか青かった空は少しばかり橙の光に染まり始めており、夜を連れてくるような少し冷たい風に小さく身を震わせ手から靡く髪を指先で押さえると「__すっかり話し込んでしまっていたみたいね。ちょっとした相談だけのつもりだったのに……こんなに長い時間相談に付き合ってくれて、本当にありがとう」時計屋から相手を連れ出し、空の色が変わるほど長く話に付き合わせてしまったことに少しの罪悪感を感じつつ相談の礼を口にし。すっかり空になった包み紙や布をバスケットに仕舞うと、そろそろこの場の終止を探す様にそっと立ち上がって)
ホントやね、とーっても楽しいと時間が進むんもあっという間で困ります(茜色の空はその色味だけで不思議と帰宅することを促すようで、静かな湖に食器を片づける音が響けば閉じていた背中の翼を再び広げて「おいちゃんが、ちゃーんと城まで送ったるから安心してね。一人で帰したら女王やなくても赤の彼に怒られてしまいますでしょ」水辺と言う事も理由の一つか、少しだけ肌を刺すような冷たい空気に一度瞬きだけ行って。シャツに添える様に避けていた眼鏡を再び顔にかけてから羽織っていたスーツの上着を腕にかけてから立ち上がり。ストンと落とすように彼女へ被せれば「スピード出して帰りますから、寒いと思うんで使ってえぇよ。__ア!ちーっとばっかし、おいちゃん臭かったらごめんなァ」羽織るジャケットが無くなれば少しばかり体が軽くなるのを感じてから腕を伸ばし「ほな、帰りましょか」来た時のように彼女の体を抱きかかえて、青色だった空が茜色に色味を変えたそこへ向かって羽を大きく羽ばたかせ。先に伝えたとおり、星が顔を出すよりも先に城へと彼女を送れば「リンリンちゃん、今日は楽しいお話をホントにありがとォね。おいちゃん、とーっても楽しかったわ。またいつでも誘ってな」抱えていた身体を降ろしてから「エッグタルトも甘くてホントに美味しかった」うんうん、と思い出すように言葉を添えてから爪の鋭い手をヒラリと揺らし「早く見つけられるよーに、おいちゃんも願ってるわ」羽織らせたジャケットを受け取る際に口角を持ち上げては柄じゃないが人の為と言えるその言葉を残してから"バイバイ"と挨拶を添えて背を向けて)
煙草の匂いはあまり好きではないけれど、貴方の匂いだと思うと不思議と平気なの。ふふ、時計屋さんで嗅ぎ慣れてしまったのかしらね?
(肌寒さを感じていた肩にふわりと掛けられた上着は冷たい外気から体を守り、少しだけ残った体温の温もりだけではなくその心遣いの温かさがほわんと内から体を温めてくれるようで。風で万が一にでも上着を空に落としてしまわないようそっと指先で押さえる様にしながら行き同様相手の腕に身を任せると僅かに煙草の煙の臭いが感じられる上着に鼻先を寄せ。ただの煙草の煙は少しばかり肺を圧迫するような苦しさを感じるもの、けれどその匂いが相手のものだと思うだけで何だか温かみを感じてしまうのは時計の音が響くあの店で煙を吹かす相手の情景を思い出すからだろうか、小さく笑みを浮かべながらそんな擽ったいような嬉しさを語り。鮮やかに色を変え、その橙色を静かに深い青へと移り変えていく景色を眺めていたのも長い時間ではなく、優しく地上へと下ろしてくれた相手に此処まで風から身を守ってくれた上着を返し。「ありがとう。お返しに、私も貴方の夜が安らぎに満ちるよう願うわ」挨拶代わりに夜の暗闇が相手に寂しさを感じさせてしまわないように、告げられた願いへの返礼を口にしながらドレスの裾を摘まみ礼をすると、浮かび始めた夜の星を背負う城へと帰っていき)
御機嫌よう、女王陛下。
あら、いつもと何処か違って見える?……ふふ、少しだけね、いつもより念入りに身なりを整えたの。
かの方はお洒落な方だと伺ったものだから、粗相が見咎められないように、ね?
今日は帽子屋さんのところへ、お話を伺いに行ってこようかと思っているの。
まだ彼の所でお洋服を仕立ててもらうにはお金が足りないだろうから……この国の服装について、まずはお洒落について知識を深めたいのよ。
お金を貯めたはいいものの、着こなしがいまいちじゃあ服に失礼だもの。
それでは女王陛下、行ってまいります。
(時刻は昼過ぎか、温かい紅茶を準備してティーポットを片手に中庭へ。数々と切らす事の無い多くの菓子が普段と比べて少し豪勢なのは事前に来客が有ることを教えられたからで。普段より巻髪も化粧も力を入れて紅茶の準備やお茶菓子の用意、出迎える為の支度をこなした所で時計を確認。いつもと変わらず、昼の暖かい日差しにやられて、お茶会の際にいつも使っている固定席にて項垂れる様に眠っている眠り鼠さえ除けば完璧な前準備に腕を組んで得意げにウンと頭を縦に揺らして。途中、城へ向かう三月兎に”何をそんな張り切ってるの”と茶々を入れられたが、初めて此処に顔を出してくれる客人をお持て成しするのに力を入れない主催が何処にいるのだと完璧なテーブルを見て改めて思い。あとは、客人がここへ到着するのを待つだけ。森に意地悪をされていないだろうか、此処の動物たちは嘘をつくから間違った方向への案内を受けていなければ良いけれど、そんな心配を胸に屋敷の出入り口まで迎えに行き。教えられている情報は少なく、女性の元アリスで濡れ羽色の長い髪を三つ編みにしていると言う事、ここらでは少し変わった服装を纏っているとも言っていた。キョロキョロと周囲に目を向けながら姿が見えるのをソワソワと待ち)
__御機嫌よう、貴方が帽子屋さんかしら?元アリス、名を劉 詠凛と申します。お出迎え感謝致しますわ。
(帽子屋邸宅までの道のりは予め教えられているものの初めての道を一人で歩むのはこの世界では中々不安の募るもの、果たして道に迷わされてはいないか、自分自身道を間違えてはいないか時折メイドに描いてもらった地図のメモと見比べながら進み行けばどうやら正しい道を選んでこれたらしい、程なくして見えてきた屋敷の影にほっと胸を撫で下ろして。すぐ傍に門が見えてきた頃、その前で遠目でも何処かそわそわと落ち着きのない影を見つけ。シルクハットを被った人物はその目立つ容姿から話で聞いた彼だということはすぐに見当がつき、白兎やジャバウォックとはまた違った意味で前の世界では見かけない独特の容姿にふ、と笑みを浮かべればその傍へと歩み寄っていき。ドレスの裾をそっと摘まみ目を伏せながら軽く礼をすると念のために彼が目的の人物かの確認と、簡単な自己紹介を口にして。初めて訪れる場所だったからこそ門の前で出迎えてくれたその行為は個人的にとても有難く、その気遣いへの礼を告げると女性的でありながら体格はしっかりと男性らしい彼を改めて見上げて)
(事前に教えられていた情報と重なる少女が姿を現すと安心した様子で口角を持ち上げ、目の前までやって来た礼儀正しいその動作に応える様に頭に被せる帽子を一度降ろしてから「いらっしゃい、よく来たね。」と出迎える挨拶を送り。畏まるのは此処まで、とでも言う様子で再び帽子を頭に乗せて肩の力を抜く為と一度肩を上げてからストンと落とし「まー、そう遠慮しないでね。宜しく、詠凛__アタシは帽子屋、お茶会の準備はもう出来てるからこっちにおいで」愛想の良い明るい笑顔とハキハキとした声色で言葉を続けながら中庭につながる道を進むべく方向として手の平で示し、見上げるように向けられる目線に応えるべく、一度目を向けてから「良かった。迷わないで来れたみたいで安心したよ」彼女がここへ来れたことで胸を撫で下ろし。歩調を合わせる様に早くなりすぎてしまわないよう横目でその姿を時折ちらりと確認しつつハイヒールを前へ前へと進ませて「初めて来るアリスは中々此処に辿り着けないことが多くてさ、どーにも。惑わすみたいに鳥もリスも嘘をつくみたい」困っちゃうよね、と語れば呆れる様に肩を竦ませて。中庭までたどり着くと先で眠る鼠を示し「あっちは眠り鼠、ごめんね。せっかく来てくれたのに一度寝たら中々起きないんだ」片方の瞳を顰める様に苦々しく細めては彼が起きないことを先に詫び「さぁ、好きな席にどうぞ」仕切りなおして先ずは御持て成しと席へ案内し)
そうね……私が、もうアリスではないのも可愛らしい悪戯を受けない理由なのかも。もしくはあまり先を急ぐものだから、揶揄い甲斐のない娘だと思われていたりしてね。
(明るく凛としたその声はやはり容姿同様どこか女性らしさを窺わせるもの、異性が苦手という訳ではないもののこの世界では同性と言えばメイドや女王陛下位のもの、相手の女性的な雰囲気が親しみやすさを感じさせるようでヒールの靴音を鳴らすその後ろを付いて歩きながらゆるりと表情を緩ませると先の言葉に返答を口にして。アリスの役目を放棄して以来何だか少し道を行くのが楽になったような気がするのは単なる気分の問題なのか、それは定かではないもののそんな一つの可能性と共に逸る気持ちで足を急がせた道中を悪戯っぽく語ればどこかおどけた様に小さく肩を竦め。案内された中庭に広がる景色は豪勢な、しかし品の良さは損なわず並べられた茶会の席「__ふふ、起きたら驚くんじゃなくて?素敵なお茶会、お話は伺っていたけれど……今日はとっても素敵な時間を過ごせそうだわ」時折城での手伝いの合間に茶会の席を設けることはあるもののそれとは比べ物にならない行き届いた支度に胸の高鳴りが抑えられず、嬉しさに仄かに赤みを帯びる頬をそっと押さえながら自然と微笑みを浮かべて。乙女心を擽ってくる繊細なティーセットや可愛らしい菓子の数々に目を奪われながらも、勧める声に応える様に傍の席へと腰を下ろして)
今日は素敵なお客さんが来るって聞いていたからさ、気合入れちゃった(賛辞の言葉を受ければ頑張った甲斐が有ったと努力を認められたようで誇らしく、ティーポットの中身をトトトと花柄のティーカップに注いでからソーサーの上にのせて彼女の前へ。ちょっとしたビュッフェのようなスタイルのお茶菓子を取れるように小皿を共に置いて「口に合えば良いな、遠慮なんてしないで好きなの沢山食べて」用意したテーブルの上を目にする彼女の表情が女の子特有のきらきらとした雰囲気を纏っていることに気が付いて、そんな表情の変化すらも疲れが吹っ飛ぶように嬉しくて。己の分のティーカップにも紅茶を注げばカップを少しだけ掲げて「素敵な出会いに、」と乾杯代わりの言葉を添えて。少し落ち着けば"ふふ"と息を漏らすように笑みを零して「折角来てくれたのにごめんね、アタシ、まだアンタのこと何もわかんないんだ。__だから今日は沢山教えてよ」最初は瞳を細める様に申し訳なさを覗かせながら、後半にはアハハとこの出会いを楽しむ様に弾む声色で続け「凄いね、凄い長い髪なのに痛みが無いなんて。ちゃんと手入れがされてる」目線を向けては何よりも目を引く艶ある髪色に自身の心は掴まれて、褒めると言うよりも素直な感想を伝えて)
ふふ、髪は女性の命というでしょう?母譲りの自慢の黒髪なの、気に入ってもらえたのなら嬉しいわ。
(ポットから注がれた鼈甲色のそれは自分が慣れない手際で入れたものよりも遥に香り高く、ほんわりと立ち上る湯気に頬を緩めながら繊細な細工のティーカップを手に取ると相手の言葉に応える様に乾杯、と掲げた後紅茶を口にして。口の中で一層華やかに広がる風味に自然と笑みが零れれば微かに陶器同士が触れる音を立てながらソーサーへ一度戻し、それから賛辞を向けられた己の髪に指を滑らせると美意識の高い相手だと伺っていたからこそいつもより一層丁寧に編み込んだ長い三つ編みを撫で。かの騎士やそれ以外にもこの世界で出会った面々に髪を褒められるのは勿論嬉しいこと、けれど特に美に関する感性が鋭い彼から言葉を向けられるのは女性としてはやはり嬉しいもので、念入りに身支度をした甲斐があったと報われるような思いを感じながら髪を背に払い流し。「……自慢の黒髪ではあるのだけれど、この髪もこのドレスも、この世界では少し浮いてしまっているでしょう?折角だから流行りのものを身に付けてみたくとも、勝手が分からなくて」自分の容姿を疎ましく思って等いないもののやはり西洋風の文化が色濃いこの世界ではその稀有な様が浮いてしまっているだろうことも事実。だからこそ年頃の女性として相手にその指南を、という今日訪れた目的を明かせば少しばかり困ったように肩を竦めながらそちらの様子を窺って)
甘いのが良かったら砂糖もミルクもあるから好きなのを使って(紅茶に口を付けたのを確認してからそのタイミングで付け添える様に角砂糖の入る小瓶とミルクピッチャーを示し。褒めた髪を浮いているかと言われれば否定の為に口を開きかけ、とは言えその後に続いた言葉からこの国に合わせたお洒落と言う事で先の否定の言葉は飲み込んで。それからマジマジと真直ぐに彼女の姿を見詰めれば「もう知ってるかもしれないけどさ、この国って入れ替わりに色んな年代の色んな子が来るから流行なんかもチグハグで……第一にほら、此処にいる人ってみんなお洒落に疎い奴ばっかりだから」最初はこぞって好まれている生地や色をぼんやりと頭に浮かべ、しかし途中で両手を胸元まで上げればお手上げとでも言う様に顔を顰めて。だからこそ、こういった類の話が出来る事が嬉しく、また心が躍れば「アンタのドレスも凄く可愛いんだけど、淡いパープルを使ったワンピース型のドレスなんかも似合いそうだね。深みのあるパープルも、パステル風のパープルも、うんうん。どっちも似合う」片方の瞳を細める事で視線の先を集中させて、頭の中に浮かぶ生地を重ねながらニッと口角を持ち上げて「体のラインも綺麗だから折角ならオフショルなんかも良いかもね、___最近多く頼まれるのなら、差し色にゴールドやシルバーで刺繍をちょっと入れる事かな。あとは腰を締めるコルセットの代わりに少し大振りのリボンを頼まれたり、……なんて、いきなり言われても困るよね。アタシったら楽しくなっちゃって」次々と浮かぶイメージを止めることなくお喋りな口は綴り続け、それから我に返ったようにアハハと笑い声を上げてから言葉を押しとどめて)
そうね、二杯目はミルクティーにしてみようかしら。紅茶もお茶菓子もこんなに用意してもらったのだもの、ゆったりと色々な味を楽しませてもらうわ。
(絶妙なタイミングで紅茶へのアレンジを提案してくる様は流石はこのお茶会の主催者といったところ、豪勢な準備は勿論のこと茶会の席では重要な気配りまでもそつなくこなす相手に感心したように一度頷いてから言葉を続けると、まずこの一杯は紅茶そのものの香りや深みを味わうことにして。傍の硝子のケーキスタンドに並べられていたチョコレートを一粒摘まみながら相手の話に耳を傾ければ研ぎ澄まされたセンスを感じさせると共に流行も押さえたいという此方の要望を上手く酌んだ提案の数々にわくわくと胸が高鳴っていき。「困るだなんて、こういう話題は久しぶりだからとても楽しいわ。そうね……少し大人びた雰囲気になりたいから、体のラインや肩の出たドレスには興味があるの。普段肌を見せない分、品よく見せられればきっとかの紳士様にも気に入ってくれるはず」チョコレートの滑らかな甘さを口の中で堪能してからその甘みと共に紅茶を一口、それからテーブルに軽く頬杖をつくと想像しているだけでも素敵なドレスが浮かんでくる彼の言葉に嬉しそうに声を返し。適度に肌を露出し女性らしさを見せることが出来ればより自分の目指す淑女へ、ひいては愛しい人の目を惹きつけられる女性になれることだろう。滲ませた恋情を語ると共に悪戯っぽく笑みを浮かべればまるで同性同士の語らいのような雰囲気に心を弾ませて)
ミルクティーも美味しいけど、特性のイチゴジャムや杏ジャムを淹れたのもオススメだよ。香りがグっと良くなってフルーティな味わいだから飲み過ぎに気を付けなきゃダメなくらい美味しいんだ(クッキーやマフィンに使える様にと、加えてテーブルを彩るためにと飾られる小さいサイズのジャムが入る小瓶の中から二種類を取ればそれを指先で持ちながら光を受けて一層とキラキラ光るジャムの魅力を紹介するように、何よりも彼女が喜んでくれることが主催の醍醐味とでも言う様子で語り。仕事の事、と言うよりも己にとって帽子屋ドレスを作る行為自体が既に趣味や生きがいの一つで、それを作った誰かに喜んで貰えるなら他ではもらえない程の喜びが得られる存在で。だからこそ話し出せば自重することが出来ずに言葉は溢れ出てしまい、それを咎めるでもなく自らが上げた例を生かしつつ更に彼女が求めている彼女らしさを教えられればドレスのデザインもだが、まるで秘密の女子会か、好きな人の話を仄かに香らせるその内容も、加えてそれを語ることで一層と女性らしさが有るような彼女の雰囲気に赤い紅を引いた唇を一層と上げて、行儀は悪いが前のめりになる様に少しだけ距離を詰めつつ頬杖をついて「ドレスが出来たら自慢の髪もドレスに合わせたスタイルにしようよ。ハーフアップにボリューム出してふんわりと巻くのなんてどう?、__髪飾りには赤色を使おうか」最初は提案のように、後半には少しだけ幼気な恋をからかう様に目元を微笑ましさにゆうるりと伏せつつ問いかけて)
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