赤の騎士 2017-03-01 00:05:01 |
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――(向けた我儘はそれが彼女を傷つけると十二分に承知していた事、にも関わらず傷ついた表情を見て胸を痛めるとは何て自分勝手なのだろうと言葉が喉に燻ぶり。パシンと音を立て頬に与えられた刺激なんて優しい物、痛みを訴える頬以上に傷つけたのだと文字通りの罰を受けて。ヒリヒリと決して力加減の無い痛みがどれ程彼女を痛めたのか、その心の傷の深さを現すようで。肩口に感じる身体の些細な震えや呼吸の荒さ、掠れ上擦るような涙声に己のした仕打ちがどれ程まで酷いのかを胸に刻み、それだけの罰を受けても尚後悔が無い、己の傲慢さを理解して。先ほどまで髪を梳くように撫でていた髪を、今度は己に抱き寄せるために触れて「勿論だ。……他の誰でもない、君に俺の名を呼んで貰いたい」抱き寄せる彼女へ顔を寄せれば募る罪悪感と、同時に今まで以上に早く名を思い出さなければと奮い立ち。己が我儘を向けている自覚が有ればこそ、抱きしめる腕の中の彼女をこれ以上に傷付けたく無いと力強く抱き留め「君と出会わなければ名前を探すことも無かった、――名前を呼ぶことがこんなに嬉しいことだとも、俺も呼んで貰いたいと思う日が来るだなんて思わなかったんだ」言葉を重ねた所で結局は我儘、それでも欲深く名前に拘ってしまう。「ありがとう」そして己の我儘を見越した上で叱咤し受け止めてくれた彼女の優しさに心からの感謝を口にして)
(何時から自分はこんなにも弱々しい女性に成り果ててしまったのだろうか、淑やかに立ち振る舞うことなど随分慣れてきていたはずなのに相手が関わるとこうも簡単に崩されてしまう。今だって子供っぽくぐずぐずと相手の肩を涙で濡らし、嫌だと駄々を捏ねそうになる口を噤むのが精いっぱいだというのにそんな自分さえ優しく抱きしめ理不尽に平手を見舞った頬の痛みすら受け止めてくれる相手にきゅっと胸が詰まる様な感覚を覚えれば一層強く相手に抱き付いて。「__待ってる、から」か細く一言を口にするのも精一杯で、寂しさに急き立てられるように滲む涙を相手のシャツに染み込ませながら小さく鼻を啜るとそれ以上の言葉は飲み込み。女性として相手の言葉を待つのは心細いけれど、それでも自分だって相手の本当の名前を知りたいのは同じ。だからこそこれ以上相手を困らせてしまうような弱音を口にしてしまわないようそっと唇を噛み締め。突然の寂しさに胸を痛め涙してしまったからか、はたまた夜更けのホットミルクが今頃効いてきたのか、相手の腕の温かさに安堵を覚えるからか、次第にぎゅっと喉を掴むような奥底の寂しさがぼやけ緩やかな倦怠感が体を襲うと、相手の肩に顔を埋めたまま静かに意識を眠りの世界へと飛ばして)
(何よりも愛しい彼女を悲しませる、その行為の何処が騎士なのか。肩から感じる小さな震えが我儘を強く指摘する中で、待っていてくれると最後に告げられた言葉を胸に抱き。抱きしめていた彼女の身体から少しずつ力が抜けていくことに気が付けば小さな寝息を立てるその身を確りと抱き抱え、起こしてしまわない様に涙の跡が残る頬を指の腹で撫でて。その身体を抱き抱えたまま、己のベッドへ運べばピンと皺無く張られたシーツの上へ寝せて。規則正しい肺の動きに合わせて上下する呼吸も、普段は年齢よりも大人びて見せるパッチリとした大きな瞳が瞑られていることも、理由の一つ一つに変わり、あどけない寝顔は本来の彼女を表しているようにも見えて、自らに並ぼうと懸命に大人になろうとするいじらしい彼女は勿論だが、背伸びの無い等身大の彼女に今一度大事にしなければと募る愛しさを胸に落とし、伏せるように和らぐ眼にその姿を映してから、"愛してる"と起こしてしまわない様に潜めた小さな声で、いっそ口の動きだけとも言える大きさの声を囁いてから額へ口付を落とし。華奢な身体を隠すように布団を掛けてから自らもまた、今夜を終わりにして)
御機嫌よう、女王陛下。
今日はね……少し、その。私的な、というか……込み入った相談を聞いてくれそうな人を探しているの。
ご存知の通り騎士様と特別な関係になれたのはとても嬉しいことなのだけれど……やっぱりね、大人の男性とお付き合いするのに、私が無知なような気がして。
恋愛相談と言えばいいのかしら、もう少し色恋について知りたいと思うの。
誰かそういったお話しに付き合ってくれそうな方がいらっしゃったら、どうか教えてくださいな。
恋愛ごとの話が好きなのは帽子屋とチェシャ猫ね、
でも現実味を帯びた相談なら黒兎かジャバウォック、
相談事を楽しんで乗るならディーとダムの双子かしら。
もちろん、わたくしでも大丈夫。
誰か、貴方の心に引っかかる人がいたら良いのだけれど……
沢山の方を紹介して下さって本当にありがとう。
そうね……その、本当に実践的な、というか。男性の本音を聞いてみたいところもあるから、今日はジャバウォッキーの所に行ってみようかしら。
彼にはまだ時計のお支払いが残っているしね。
相談のお礼にと思ってお菓子を作っておいたから、丁度良かったのかもしれないわ。
それでは女王陛下、行って参ります。
_____________
__御機嫌よう、何方かいらっしゃる?
(もう大分歩きなれた公園への道のりを行く道中は自分がアリスではなくなったからか、はたまた今日だけの気まぐれか意地悪をすることもなく素直に進ませてくれて。賑わう公園の出店はいつ見ても心躍る活気に満ち溢れてついつい寄り道してしまいかけるものの目的はその先、今朝焼いたばかりのエッグタルトを詰めた小さなバスケットを携えながら公園の奥へと進んでいくと以前訪れた時計屋が今日も変わらず数多の時を刻む音を奏でていて。そういえば彼の元へこのドレスで赴くのは初めてだったか、着慣れた青の東洋調が施されたドレスにいつもの長い三つ編みを揺らすお団子頭でその店先へと歩み寄れば姿の見えない店主を探す様に視線を揺らし。時計の音に遮られないよう少しばかり張った声で呼びかけを口にすればゆるりと首を傾げて)
ハイハイ、何方も何もココにゃあ、おいちゃんしか__久しぶりやねぇ、今日はメアリー・アンやあらへんの?(煙草の煙をぷかりぷかりと浮かばせながら時計の並ぶ出店の裏側で古びた木の椅子に腰を下ろし、起きるニュースの書かれた新聞の様な物に目を這わせ客人を示す声に顔を上げ。そこにいたのが以前交流を持った少女と知ると読みかけの新聞はぐしゃりと畳み端に寄せて。以前此処で見かけた姿とは少し違うその容姿にからりと笑えば「うんうん、そっちの方がリンリンちゃんによー似合うわ!」目を奪うような青色は凛とした佇まいの彼女に相応しい、メイドの着る服と比べて何倍もそう思うと頭を一度ばかり頷かせて。今一度加えていたパイプ煙草を吸い込んでドーナツ状の煙をぷかあと作り上げてからそれは机に置いて、姿を現すように見せ奥から出てきて「ハロオハロー。リンリンちゃん元気にしてはりました?おいちゃんは毎日元気にしとったよ」先ほど時計の針に負けじと届いた声がすべての答えになりそうだが、軽快な声色で言葉を並べつつ「今日も時計け。今度はどないなのをお探し?」頭を少しばかり傾けて彼女がここへ来た理由を笑みに細める瞳をスルリと少し開きながら問いかけて)
ふふ、貴方は相変わらずね。今日はこの間の時計の埋め合わせと……その、ね。少し、相談というか……。
(店の物陰から顔を出した彼は以前会った時と変わらず今日も何処か抜けた様な愉快な調子で姿を現し、その賛辞に応える様に軽くドレスの裾を摘まみながら会釈をすればふっと笑みを零して。今日の目的を伝えるためその傍へと歩み寄ると時計を購入した際に約束した手土産をそっと持参したバスケットを差し出すことで示し。しかしながら本当の目的は菓子の差し入れではなくちょっとした相談事、込み入った話だからこそそれを口にするのは少しばかり恥ずかしく口ごもる様に歯切れの悪い言葉を漏らすと相手のすぐ間近まで近寄り「__れ、恋愛相談、なの。お話、付き合って下さる?」そっと口元に手を添えながら小声で囁くように伝え。正直色呆けしている自覚はあるものの先日かの騎士との逢瀬の時に感じた恋愛に対する知識の差を思い出せば己にとっては深刻な問題、頬が熱を帯びる程の羞恥心を堪えてでも誰かに指南を請いたい事態で。困ったように眉を下げながら恥を忍んで言葉にした願いを相手がどう捉えるか、そろりとその金の瞳を見上げながら返答を待って)
ンン?___オトモダチの相談聞くんはとーぜんでしょう。えぇよ、お客さんもおらんし(どうやら、口約束のそれを彼女は本当にしてくれたらしい。向けられるバスケットから察しては、続く相談事が何よりも己の好奇心を煽り。初々しい反応で紡がれたのが恋愛関連であると言うこと、普段は何に怯える事も怯むことも無かった瞳が少しの不安さえ覗かせて伺うように己をみるものだから、一層と興味好奇心に火が付いて。もっともらしい返事を返してから周囲を見渡し「どーします、此処でもえぇけど、静かなとこの方が話しやすい?」キョロりキョロり周囲へ目線を向けてはその視線の先を彼女に戻し、緩い動きで腹部で腕を組み頭を傾げ「もし、静かな所が良かったら、折角の差し入れもあるみたいやし。涙の湖にでも行きません?そこやったら誰かに聞かれるっちゅーことも有りません」提案するように案を向ければ、まずは頭を左右にコキコキと動かし音を鳴らし、その後に両腕を空に向けて伸ばしグググの背伸びをする様に裏に篭もりきっていたせいで固まっていた身体を解して)
んん……そうね、出来れば静かな方がいいわ。その湖にも行ってみたいし。
(羞恥心を堪えながら伝えた言葉を相手はどう受け取ったか、正直この世界で出会った誰よりも相手の真意は読みにくく不安でもあったがYESの返答に肩に入っていた力を抜くと安堵したように小さく息をついて。一瞬だけその瞳にどこか面白がるような色が浮かんだようにも見えたがこの際嫌がられてさえいないのならそれで良くて、バスケットを抱え直しながら体を解す相手の邪魔にならないよう二、三歩距離を取ると続いた問いかけに考える素振りを見せて。相手に相談を持ち掛けるのさえ心臓を擽られるような言い知れぬ恥ずかしさを覚えた位、人気はないに越したことはなく、それに加えて初めて聞く湖の名に心惹かれたこともあり小さな頷きと共に言葉を紡いで。かの騎士と言葉を交わす時はどうしても自分を包み隠すのが下手になるのは自覚していたが、彼が関わっただけでこうも感情に振り回されてしまうとは思っておらず。出会いにより確実に変わりゆく自分自身を感じながら頬の熱を散らす様にぺち、と軽く両手で刺激を与えてから顔を上げると未だ見ぬ湖に思いを馳せて)
ほんだら、行きましょ。__歩いてったら日が暮れちまいますけぇ、おーいで。(身体を十分に解し終えれば背に生える龍の翼を大きく広げ、にんまりとした笑顔のままに腕を広げ。バサバサと空気を切るような音を立てて砂埃を上げる様に数回翼を羽搏かせると「おいちゃん、あんまし力無いけ。暴れられたら落としちまうわァ……リンリンちゃんのコト、落としたないから暴れんでね」よーいしょ、とお道化る様に声を掛けながらお姫様抱っこをするように抱え、翼の羽搏きを繰り返しては少しずつ浮上するように空に上がり。少しずつ己の店が小さくなるのを見下ろしては、空を散歩するように翼の動きに合わせて湖の方角へ進み始め「やあやあ、今日はお客さんおらへんくて暇しとったから。リンリンちゃんの顔見れて良かったわァ」けたり、と笑い声を上げながらまったりと語り「高所恐怖症とかちゃいます?、もし高いトコ平気やったら折角やし見下ろす不思議の国を堪能したら良か。」自身にとってはすっかり慣れた景色、見下ろす国は色とりどりの植物が絵画のように世界を築き上げていて、そんな景色をちらりと見下ろすように目を伏せては「此処からの景色は赤色の彼にゃあ見せられへん」あっはっは、と以前時計を選んでいたその姿を頭に浮かべて今回の相談事もその彼に携わる物だろうと踏んだ言葉を添えて)
__綺麗。地上から見ていても夢のような風景だったけれど、こうして見下ろすと本当に御伽噺の絵本の世界のようね。
(湖までどうやって行くのだろうかと考えていた中相手が提案したのは正しく彼にしか出来ない案内だろう、急に抱えられる体勢の変化に少々驚きバスケットを両手で胸に抱えながら目を白黒させてしまったが少しずつ浮き上がる感覚は何だか不思議と怖くはなくて。相手につられるようにゆるりと笑みを浮かべながら促されるままに目下の景色に視線を映せば見知った城や公園、それより先に広がるまだ知らない色とりどりの世界の広がりにほう、とため息交じりに胸がいっぱいになる程の感動を漏らして。「……ふふ、この景色は彼には秘密にした方が良さそう。教えてしまったら、いじらしく羽ペンで空を飛ぶ練習でもし始めそうだもの」やはり相手には中々敵わない、相談事の根本を見透かしたようにかの騎士を暗喩してくるその問いかけに困ったように眉を下げると風に靡く長い三つ編みをそっと指先で押さえながら言葉を続け。案外嫉妬深く愛らしい恋人のこと、きっとこの風景の話をすればどうにか自分も空を飛ぼうと努力してしまいそうに思え、そんな想像に頬を緩めながら冗談を語って)
ソーでしょ、それに下を歩きゃあ何かしらと邪魔が入ります。空にゃ、おいちゃんかグリフォン、後はパンの虫に目に痛い位の派手な鳥くらい。足を引っ掛ける草木も余計な仕事を持ってくるトランプ兵もおりません(どうやら、高い所は平気みたいだとその様子から察して、少しだけ遠慮を消せば進む早さを強ませて。語る言葉は普段と何ら変わらない飄々とした口振りで、彼女から戻る言葉を聞くとけたりけたりと楽しげに笑い声を上げ「そらえぇですわ。ぜひ拝見したいわァ」もしも今、彼女のことを抱えていなければ両手を叩き笑っただろうそんな素振りで目を細め。「おいちゃんが消えて赤の騎士がジャバウォックになるー言うなら、赤の彼もこの景色を見られるんやろけど。おいちゃん未だ死にたないもんなぁ」なんの事のないようにサラリと告げるのはこの国での住人が与えられた名前によって姿が変わることで、森を抜ける頃には空に上がった時と同様に少しずつ身体を降ろして行き「さー着きました。此処が涙の湖言います。今日はグリフォンもおらんくて丁度えぇね。いつもなら、鳥の彼が此処にいるんです」久しぶりに訪れたそこで、広がる湖を瞳を細めるように一拍分見つめてから抱えていたその姿を降ろして)
ふふ、大丈夫。もしそんなことになっても彼は赤の騎士を辞めたりはしないわ__彼は彼でいる、そういう約束なの。
(役職についた赤の騎士が名前を忘れてしまったように、この世界での呼び名は恐らく何らかの力を持っているのだろう。ただ職業や特徴を指すだけの言葉とは考えにくい相手の言葉に少しだけこの世界の別の顔を垣間見た様な気分になるもののアリスを辞め女王候補を降りた今は何を知ろうが自分には関わることのできないことだろう、楽しい空の散歩に水を差す様な無粋な詮索は止めておきその言葉にふと笑みを漏らすと緩む口元に指先を添え。かの愛しい彼は今では赤の騎士としての役目を降り本来の名を探している、その行動の意味を役目の重要性を仄めかす会話で再度噛み締めるとそれ程の判断をしてくれた彼を想い何処か愛しさを滲ませたような優しい呟きを漏らして。「__素敵な湖。青く透き通っていて、静かで何処か神秘的ね。そのグリフォンさんにはまだお会いしたことがないけれど、この湖のように凛と澄み切った方なのかしら」たどり着いた湖はこれまで見回ってきた場所とはまた違う、張りつめたような静寂と揺れる水面の安らぎが何処か故郷で見た景色を思い出させて。その辺でバスケットを落とさないようそっとしゃがみ込み神聖な雰囲気をそのまま宿したかのようにきりりと冷たい水面に指先で波紋を立てながら言葉を続けると、まだ見知らぬグリフォンという人物についての想像を膨らませて)
そらまた、随分と赤の彼を知ってる風な口ぶりやね(戻る返事は以前会った際には感じなかった感覚が有り、それは察しの良い己からすると合っているかは別として二人の関係に何かが有ったことを関連付けるに十分であり。関心をするような声色でそれを告げてから湖に寄り添うそれを少しだけ離れる様に眺めて「グリフォンっちゅうのは__この湖みたいに無駄にでかい。マーそらあもう、でかすぎるっちゅうぐらいに大きい鳥ですわ。ほんでもって、白兎と同じくらい融通が利かない堅物やき。おらんくて安心です」その存在を嫌がる様に身震いをしてからウーと囃し立てるように怯えた声をわざとらしく上げて、それから傍に真似る様にしゃがみ込めば「マアまア、あんな大男の話はえぇんです、置いておきましょ。今大事なんわ、可愛い可愛い恋愛トークにおいちゃんを選んでもろたってこと。さてさて!時間は限られとります、リンリンちゃんのお話を聞かせて下さいな」にんまり、にんまり、と口角を上げた笑顔を浮かべ剽軽たる声色で本題を引っ張って来て「アリスが此処の住人と恋をするなんて、夢のある話やもん。そら楽しみで心が躍るってもんです」笑みに細める瞳の隙間から覗くのは、単なる興味本位と言うよりも手探りの推理のようで、さあ早く、早く、と言葉を急かすようにしゃがんだ膝に肘をついては頬杖を行って)
__その、ね。実を言うと私はもうアリスではないし、彼ももう赤の騎士ではないの。……そういう関係、この世界に長い貴方は分かるでしょう?
(グリフォンという人物に対しての感情を身振り手振りを交え表現する彼はそのコミカルさが何処か笑いを誘い、思わず笑いをこらえる様に指先で口元を覆いながらくすくすと笑い声を殺せば水遊びをするように浸していた指先を空中で軽く払ってから引き。傍にしゃがみ込んだ相手が口にしたアリスという呼称、まずはそこから始まる話を伝えなくてはと口を開けば互いに想い合うことでこの世界においての役目を降り、特別な関係となった事実を打ち明けて。「……想いを伝え合って、通じ合って、お互いの特別になれたことはとても嬉しいの。けれど……彼は大人で、私はまだまだ幼い娘で。それが彼に枷を掛けさせることに成りえるのなら、私が色恋について学ぶことでその枷を緩めてあげられないかと思ったの」役目というひとつの壁を乗り越えて、その先にまた立ちはだかった新たな壁。まだまだ幼く無知な己のために愛しい彼に何らかの自制を掛けさせてしまっていることは先日の逢瀬で感じたこと、ぎゅっとドレスの裾を握りしめながら語る言葉は少しの寂しさと彼への申し訳なさが窺えて。だからこそ設けたこの相談の機会であり、そっと隣の相手を見上げると僅かに眉を下げて)
__(頬杖を付いていた指先で自身の顎元に蓄えられる顎髭を親指の腹を使いなぞる様に触れたのは、確かな動揺が有ってか。少なくとも、この世界に紛れ込むアリスの中で彼女は実に聡明であり視野が広く確りとしていた。加えて、赤の彼もそうだ。馬鹿真面目で国の為女王の為と誰の命令なくとも優秀に働きを見せる、そんな人柄だった筈。そんな二人がアリスと赤の騎士と言う役柄を降りて恋愛関係に至ったと聞けばヒュウと吸い込んだ酸素ですら喉で止まるように呼吸を拒み、続けられる相談事までを耳にすれば濁すように"あ゛ー"だとか"ンー"だとか、その場繋ぎの相槌を落とし。顎に添えていた手を使い己の鳥の巣のようなモサモサ頭をガシガシと力強く掻き毟ってから「枷になるのはお互い様。リンリンちゃんだけやあらへん、本当の枷は赤の彼かも」愛しい人の為に少しでも寄り添えるように、試行錯誤と答えを求めるのはなんと健気なのだろうか。普段掛けている丸眼鏡を外し、皺くちゃのシャツに引っ掛けては色のつかないクリアな視界に答えを探る少女を写し。「えぇんじゃないの。幼い娘にゃ幼い娘にしか出せない魅力がたっくさん有りますでしょ、何も黙ってても大人の魅力はやって来るっちゅうに、今しか出せない魅力を殺すことあらへん」湖に手を伸ばせば、触れるスレスレで指先は逃げるように丸まり腕を引き戻し。「リンリンちゃんが生きてて、赤の彼が生きとる。それで充分やろ」しゃがんでいた体をそのまま尻を付くように倒し、胡坐をかいて。「それとも、おいちゃんと浮気して大人の女なります?」からり、と笑みを浮かべては片手をヒラヒラと揺らしてからかうように付け加えて)
__もし私が大人の女性になりたいと誘っても、貴方は浮気なんてしないでしょう?
(いつも奔放で明るくそれでいて何処か根本までは覗かせてくれない心の深さを感じさせる相手、彼にとっての色恋とは一体どんなものなのだろうか。お互いが生きていれば十分なんてアドバイスはいつもの陽気な彼からは少し印象が離れたもの、その言葉の反対の満たされない死を知っているかのような答えに相手を見つめたまま暫しの沈黙を。きっとこの僅かな違和感を詮索することも追求せずに留める同情も相手には失礼な行為だと言えよう、だからこそその言葉の裏にある違和感を語るか語らざるかはあくまで彼に任せる様な曖昧な問いかけと共に薄く笑みを浮かべれば友人としてせめてもの気遣いをと柔らかくあちこちに跳ねたその鳥の巣頭を優しく数度撫でて。「それに女性は自ら磨き上げることで成熟していくものよ、男性には自然と成長しているだけに見えるでしょうけれど。だから未熟な原石を飾るだけの知識と技術を得たいだけ、ね?」そっと触れた髪から手を引き相手を真似するようにしゃがんだ膝に頬杖をつきながら続ける言葉は先の相手の意見へのちょっとした反論、己が男性について疎いように相手も女性について知らないことがあるのだと示すもので。小さな原石から大きな原石になるのではなく自分が目指すのは磨き上げられた煌めく宝石のような女性、小さく肩を竦めながら彼からのアドバイスを請うような姿勢を見せればゆるりと首を傾げて見せて)
――エェ、そんな事ありませんて。おいちゃんは赤の彼みたいに紳士や無いですし……リンリンちゃん、めちゃんこ可愛いけ。おいちゃん、リンリンちゃんとなら大歓迎やわ(試すような言葉を向けられるとは思わずにその言葉を今一度脳内で繰り返してから、そんな考え事すべてを掻き消す様にアッハッハと高らかな笑い声を上げて。高らかと大げさなまでに上げた笑い声には既に先ほどの探る空気は交わっておらず、すっかり茶化すような雰囲気でふざけるように舌先を覗かせて。先ほど力強く掻き毟った頭を撫でられれば続けられる言葉を聞いて、「__見た目を変えるなら、帽子屋にリンリンちゃんの為の服を作って貰えば良き。喋れば喧しい女男やけど、帽子屋の作ったドレスを気に入らないなんて言う話は聞いた事ありません。腕は確かなんやと思います。」彼女が持っている女性としての魅力を少しでも高めるためのアドバイス、その役目に選ばれたのが自分だと聞けば手伝わない訳にも行かず。「後___せやね、おいちゃんと一緒におったら良い子ちゃんだけじゃ手に入れられない考え方を貰えるんとちゃいますか」既に彼女がアリスじゃないならば取り入っても意味は無い、そうとは思うが、それでも彼女の幸せをと考えてしまうのは己を重ねてしまうからだろうか。くは、と吹き出すように笑い声を上げてはピシと己を指さして「ほら、おいちゃん。城にいる誰彼とは少し雰囲気ちゃいますから」どうにもこうにも、優等生が多い城内を例に挙げて)
そうね……見た目を変えるのは良いかもしれないわ。この間寝間着で伺った時も、普段とは違う反応をしてくれたもの。
(高らかに笑う相手は自分が知るいつもの相手、陽気なその笑い声に少しだけ安心したように小さく息をつくと緩やかに笑みを浮かべて。続く相手の提案は確かにすぐに試してみるのであれば一番手っ取り早く有効な案かもしれない、と納得したように頷きながらそっと自分の顎に指を掛けると先日の出来事を思い出し。少々はしたない格好であったことは自覚していたものの素の姿を見せるような様は恐らくかの騎士様には有効であったのではないだろうか。着飾らずとも、と褒められた節もあったが想う相手が着飾って喜ばない相手もいないだろう、帽子屋と口にされたその人物の名を心に留めると「__ねえ、貴方なら知ってるのかしら。その……少し、明け透けな質問かとは思うのだけれど」白兎を筆頭とするような言わば優等生とは一線を画すとばかりに主張する相手に少しだけ訊ねていいものか考える様な沈黙を挟んだ後言葉を紡ぐと「その、ね……__口づけをした時、どうして相手の口の中を舐めるのか、貴方は知ってる?私がまだ幼い娘だからかしら、騎士様は答えて下さらなかったの」こうして誰かに恋愛相談などという羞恥の極みを犯すことを決意した発端とも言える問いを口にして。静かな湖と言えど声を大にして言えることではなく、口元にそっと手を添え囁くような声で訊ねれば頬を仄かに染めつつも至極真面目な様子で返答を待って)
( / 前もってご報告させて頂くのですが、これから数日程顔出しが難しくなるかと思います……。予定が片付き次第また此方にも復帰致しますので、もし一日二日と顔出しが途切れてしまっても本体が忙しいだけですので、どうかご安心ください。何卒ご理解の程お願いいたします。)
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