鏡音 2017-02-17 16:19:07 |
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「好きになってごめん。」
漫画やドラマではよく見るけれど、私はいまいちよくわかっていなかった。
好きになることは良いことの筈なのに、何で謝るんだろうって。
でも、ようやくその答えがわかった。
私は親友の彼氏を好きになってしまったのだから......
親友は可愛くて頭が良くて、皆に優しい。彼氏も格好良くて運動抜群、周りへの気遣いがしっかりしてる。
2人はお似合いだから、私が口を挟むまでもない。
いつも凄く幸せそうで、笑顔が眩しい。近付かない方がいいからって気を遣おうとしていると、声を掛けてくれる。
3人でいるのは気まずくて、2人が付き合いだしてからは彼氏の親友と4人で過ごすのが日課になっていた。
「なあ、バレンタイン近いけどさ、お前何すんの?」
「何って。まあ、デートはするつもりだけど?」
親友が顧問に呼ばれて席を外している間に、もうすぐのバレンタインの話が出てきた。やっぱり2人で過ごすつもりか......去年までは親友といるのが普通だったからか少し寂しく感じる。
「そうそう、プレゼントって何渡せばいいと思う?」
「え?」
ぼーっとしていたせいか、変な声を出してしまった。ちゃんと聞いてないのバレバレ。
「これとかどう?」
雑誌を広げ、親友が好きそうなものを指差す。これなら多分喜んでくれる。
「あー、そういうの好きなんだ。有り難うな」
嬉しそうに笑みを浮かべたかと思うと、軽く頭を撫でられた。待って、何でそういうことするの?少し顔が熱くなるのを感じ俯いていると、親友が帰ってきた。
「あ、お帰り」
「ただいまっ」
表情が明らかに違う。好きじゃないなら勘違いさせるような行動とらないでよ。変に意識するでしょう?
そんな私の気持ちは知る由もなく、話は進んでいく。親友の彼氏が格好良く見えるのが怖い。今まで何ともなかったのに、急に緊張してきた。
『もしかしたら、好きになってしまったかもしれない』
『他に大切な人がいることなんてわかってるけれど、止められないの』
ドラマのワンシーンが脳裏に浮かび上がる。そういうこと、だったんだ......。今更わかるなんて、遅すぎる。
" 星が綺麗ですね "
空一杯に広がる星を思い浮かべながら、この恋はそっと胸に秘めておくことに決めた。
もしかしたら、本当は気づいていたのに認めたくなかったのかもしれない。意地なんて、張らなければ良かった。
今更後悔しても遅いなんてわかってるけれど、一度だけ時間を巻き戻したい。そう、両片想いだったあの頃に......
「皆、好きな人とかいんの?」
バレンタインが近いからか自然にうつった恋の話題に少し戸惑う。
「いるよー!」
「本命、渡すつもり」
友達は素直にそう答えていたのに、私はつい嘘をついてしまった。
「別に、いないけど」
本当は好き。でもそれを知られたくなくて。関係を壊したくなくて自然とそう言っていた。
その日は雑談して終わり、バレンタインが来た。校内も甘い雰囲気に包まれており、皆が幸せそうにしている。
「おはよー!はい、これ」
「ありがと。はいっ」
「あ、可愛いっ」
早速仲の良いメンバーと交換をしつつ、あいつを探してみるけど何処にもいない。この時間ならいつもは教室にいる筈。
「あいつなら呼び出されてたよ、屋上に。多分告白じゃね?」
「意外とモテるよねー、あいつ」
実は私も告白しようと思って本命チョコを作ってきていた。不安が募る。もしOKしてしまったらどうしよう。足音を立てずに屋上まで行って耳をすませると、2人の声が聞こえてくる。
「好きです。これ、よかったら受け取って?」
「有り難う。俺もお前のこと好きだったから、凄い嬉しい」
ちら、と覗くと相手は仲の良いメンバーの1人だった。そういえば、確かに姿見えなかったっけ。先程誰に呼び出されたのは言わなかったのは、勝手に言いふらすと悪いと思ったからだろうか。
その場にいられずに離れていこうとすると、有り得ない言葉が聞こえてきた。
「でも良かったの?あんたあの子が好きだったんじゃ......」
「前は、な。でも、今はお前の方が大事だから」
そう、両想いだったんだ。全然気付かなかった。もっと早く。素直になって気持ちを伝えていれば、こんな思いをしなくて良かったなんて。本当馬鹿だなあ、私。
自然と一筋の涙が頬を伝う。耐えられないけれど、此処で泣いたら気づかれてしまう。涙を止めようと静かに俯くと、誰かに肩を叩かれた。
「ごめん、さっき止めなくて」
「別に、あんたは何も......」
「悪いよ。だって、好きな奴を泣かせたんだし」
何を言い出すんだろう。変に慰める必要なんて無いのに。御世辞なんて聞いても辛いだけ。
「ふざけないでよ」
「本気だから。俺はお前が好きだ」
「急に言われても困るよ」
「ちゃんと待つから、考えておいてほしい」
翌年、彼に本命チョコを渡して両想いになれることを、今の私はまだ知らない。
『好きです』
たったこれだけのこと。それだけ言えばそれで伝わるだなんて簡単すぎる。
そんな風に勘違いしていた私を今すぐ怒ってやりたい。そして教えたい。その言葉を伝える為にどれだけの勇気が必要かってことを。
好きになる前は普通に話せていたのに、
意識し出してからはまともに顔を見ることすらできない。当然会話も成り立たない。それどころか逆に心配をかけてしまう。
「お前らしくないな」
そうやって笑う顔に、ひとつひとつの仕草にドキドキさせられているのは私だけ。貴方は何とも思っていないんでしょう?......気付いてよ。なんて。
気付かれたら、この関係は終わってしまう。気まずくなりたくない。貴方がモテるのはわかってる。隣は無理でも、せめて友達ではいたい。
そう、本当は自分に言い聞かせてるだけで。あわよくばって思ってる。いつも。ずっと。関係を壊したくないからって臆病になってるだけ、なんだ。ただの予防線。こう考えておけば彼女が出来ても傷付かない。
結局自分のことしか考えてないな、私。傷つきたくないが為に予防線を貼って。偽りの笑顔を作って。でもそんなの、もう止める。
正直になってみよう。
「あのさ......」
声を掛けた私と振り向いた貴方の髪を、優しい風が撫でていった___
私は貴方が好きで。貴方はあの子が好きで。あの子は貴方の親友が好き。そうやって、片想いの連鎖が続くことで関係を保ってきた。
「好きです」
そう、貴方の親友が私に告白してくるまでは___
「何、してるの」
「何って?」
あの子が近付いてくる。これは、もしかして。もしかすると。いや、もしかしなくても。
「さっきの告白、返事は?」
「考えとく、かな」
私には他に好きな人がいる。だから付き合うことはできない。でも、あの子がいる手前そんなことは話せない。
「何でよ、断ってよ」
「私と彼の問題なんだから関係ないでしょ」
「断りなさいよ!」
ヒートアップ。何で決められなきゃならないの?恋は自由なのに。貴女は他の人に好かれてるんだよ。私が見ているあの人に。見てもらいたいのに見てもらえないのは同じでしょう?
「もうやめろよ!」
「え......」
好きな人。私が好きな貴方が此処にいる。何でだろう。もう帰った筈じゃ。
「人の恋愛に口出すとかおかしいだろ。相談はいいとして断れとか流石に酷い」
「そんな......」
語尾がどんどん弱くなっていく。正論を言われて言い返せなくなってるのはある意味見てて面白いかも、なんて。
「お前が彼奴を好きなこと、知ってた。彼奴の好きな奴がこいつだってことも」
「そ、そんなにわかりやすかった?」
いきなり自分も話に巻き込まれたようで驚きを隠せない。もしや、私の気持ちも......?
「いつも、見てたから。本音言うとお前のこと好きだったし。けど冷めた。まさかそんな最低な奴だったとはな」
さらっと言ってのけるの凄い。逆上されるのが怖くて私なら多分言えない。
「そんなの、知らない!あんたのことなんてこれっぽっちも気にしてないから!」
走り去っていく。親友に好かれようと必死で可愛く振る舞ってたことが窺える。頑張ってたみたいね、一応。まあすべて台無しになったけれど。
「ごめん、余計なこと言って」
「謝らないでよ、助かったし」
四角関係は崩れたけれど、貴方と友達でいられるのならそれでいい。
私の心は晴天のように澄み渡っていた。
両想い。良い響きだけれど少し苦手だ。
だって。私が好きになる人にはいつも好きな人がいる。それで、その人は無事に付き合うことになる。
見てるのが凄く苦しいから、一線引いていたのかもしれない。
私はあの人のことは好きにならない。ただの友達だから恋なんてしないって。
でも、わかったんだ。
恋はするものじゃなくて、落ちるものなんだって。
恋の始まりとかは重要じゃなくて。気づいたら好きになってるんだって。
それで思ったの。私は無理矢理好きになろうとしていたってことを。
『この人のことを好きになるかもしれない』なんておかしい。
そうじゃない。恋って本当不思議、なんだよね。
楽しくて、嬉しくて、幸せで。
でもその反面、悲しくて、辛くて、苦しくて。
すべてを共に乗り越えられる人に出会ってみたいと切実に思った。
俺はいつも一人だ。こう言うと、哀れみの目を向けてくる人もいるかもしれない。確かに孤独だ。毎日自分の部屋に閉じ籠ってPCに触れているうちに1日が終わっている。
そのせいで色々なことが難しくなっているのは事実だ。まずはコミュニケーション能力。そして滑舌。あまりにも会話する機会が無さすぎて、電気屋に行ったことに会話が成立しなかった。あいつに注意されたのは言うまでもない。
でも、だからとはいえ退屈な訳ではない。PCを弄るのは楽しいし、皆といるのも楽しいと思うようになってきた。最初に見たときはどうなることかと思ったが。
妹も知り合っていたことには本当に驚いた。気づいたらベッドに寝かされていた上、目の前にはあいつらと妹。妹の携帯に迷惑な青い髪の電脳ガールが潜んでいたときは何があったかと不安になったものだ。
思い返してみれば、あいつらと出会ってからは一人じゃない。孤独じゃない。2年前に戻りたいと思うこともしょっちゅうだが、"今"を楽しめるようになれた。俺が変われたのは、もしかしたらあいつらのおかげかもしれない。
「ごしゅじ......」
朝、いつものように声を掛けようとして躊躇ってしまいました。
" おっはよーございます!"
" いい天気ですねえ!何処かに出掛けたい気分です!"
" 早く起きて下さい!"
普段なら言える言葉が言えなくて、起こさないように静かに見守ることにします。なんて、私らしくないって笑われちゃいますかね?
でも。今はそっとしておこうと思います。
「アヤノ......」
2年前から忘れられない相手の名前を呟きながら、涙を流すご主人。
この状態で邪魔をするほど性格悪くないですからね、私も。
大好きな人......そうですね、私にもいましたよ。電脳世界から現実に戻ったって、もう会えないってわかってはいますけど。
「......エネか?はよ、いつもより静かでびっくりした」
「そんなことないですよ、私はいつも元気です!」
『もう一度だけ、会えればいいのに』
そんな言葉を飲み込んで、いつも通りの笑みを浮かべます。ご主人はアヤノさんの夢を見てたでしょうし、心配なんてさせたくないですから。
「また、4人で集まれたらいいのにな」
「......何、言ってるんですか」
やめて下さいよ。おかしすぎて、笑えませんよ?
「エネ」
「......」
不器用なくせに。コミュ障なくせに。人の気も知らないくせに。
時々優しい笑みを浮かべるのは反則です。
「集まれるはず、ないですよ......」
「大丈夫だ」
温かい雫が頬を伝ってきます。......何で泣いてるんでしょう、私。ご主人が何で優しいのかもわかりません。でも、これだけはわかります。
ご主人も私も、過去を大切にしながら一歩ずつ、未来に向かって歩き始めているということを。
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