霜月タルト 2017-01-03 19:12:07 |
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「あ、そろそろ授業始まっちゃう」
茜は少し急いで席に着いた。私も前に向き直り、先生が来るのを待つ。
(でもあの青葉くん本物なのかな...)
もし本物なら次元を壁を越えてこの世界にやってきたことになる。
(ありえるの?そんなこと...)
何故か悲しそうに見える青葉くんを横目で見て、ため息を吐いた。
(待てよ…?)
その時、私はあることに気が付き、思わず声を出してしまいそうになった。慌てて口に手を当て黙ったものの、動揺は収まらない。
(あの青葉君は…、私が夢の中で会った青葉君にそっくりじゃない。)
そうである。あの小説に挿絵は入っていない。だから、登場人物の外見は文面から想像するしかなかった。それなのに、今、同じ教室にいる青葉君は私がイメージしていた実写版の青葉君そのものなのである。
(そうだよ。でも、だとしたらこれは、どういうことなんだろう…。)
あのサイトのリレー小説を通じて、私のイメージが現実になったのだろうか。それとも、あの青葉君は私と夢で会ったことのある青葉君なのだろうか。頭がこんがらがってきた。
(聞いてみよう。そしたら分かる。)
でも、授業が終わっても、すぐ訊ける感じにはならなかった。
青葉くんは持ち前の性格のよさで、既に何人か友達ができていて、話しかける隙がまるでなかったのだ。席から立ち上がって、青葉くんの方を見て、人だかりができてるのを見て、諦めて席に座る。そんな動作を授業が終わる度に繰り返していたら、あっという間に放課後になってしまった。
今日はもう、諦めるのしかないのだろうか。
はぁ、と深い溜息をついて、通学カバンをゆっくりとしめる。脱力しきったその行動に、茜が苦笑を見せつつ「なにかあった?」と気にかけてくれるが、それに返事を返すのも億劫になってしまった。
「うぅん...何でもない」
「そう?なんかあったら言いなよ?」
「うん...」
じゃ、私部活あるから。茜はそう言い残して、教室を出て行った。
(聞いてみたい、けど...)
鞄を握りしめたまま俯く私に声をかけたのは、
「愛ちゃん、聞いた?今日、葛城先生がいないから部活はお休みだって」
千秋は私たちが入っている部活が今日はないことを告げた。
「えーそうなの」
「うん、だから一緒に帰らない?」
手芸部の顧問の葛城先生がインフルエンザにかかったらしいという噂は聞いていた。私は千秋と一緒に帰ることにした。
「うん、部活ないならやることもないしね」
言ってから青葉くんのことが気にかかったが、彼の姿はもう教室から消えていたし・・・
「帰ろ」
私は千秋に笑顔を向けた。
帰り道、私の頭からは青葉君のことが離れず、千秋と何を話したのかはよく覚えていない。千秋に転校してきた彼のことは聞かれた気がするが、実のない返事をしてしまったかもしれない。
「ただいまー」
そうこうしているうちに家に帰り着いた私は、「お帰り」と返事をしてくれたお母さんがいる居間には立ち寄らず、真っ直ぐ二階にあるお父さんの書斎に向かって、そこでパソコンをつけた。
(あのリレー小説…、どうなったかな)
「やっぱり...」
パソコンを立ち上げあのリレー小説の内容を確認すると、やはりそこには自分の体験や心情が文章となって書き連ねられていた。しばらく文章を眺めていると、新しい投稿がされていることに気が付いた。そこにはこう書いてあった
「…青葉、…君…?」
ポツリと、声が溢れる。まさか本当にあの青葉君なのか、それとも誰か別の人の、物語の中としての書き込みなのか_解らない、けれど確かにそこにはそう書かれていた。そんな事を考えている間に、また一つ更新されたらしい。そこには…
そこまで書いて、不意に先程まで文字を入力していたパソコンを閉じる。
(…何で俺は、こんなことを…?)
自分でもわからない。何故、こんな書き込みをしたのか。そもそも、家に着いて真っ先にこのリレー小説を開いた事から可笑しい。まるで、何かに導かれるようにこれを見付けたのだから。…そして、正に今日の自分自身の行動の一部が書かれて居ることに気付き、咄嗟にこの二つを書き込んだ。
(……訳がわからない。)
愛side
「今日の青葉くんは何だか変だったな」
「どうしたの急に」
「だってさ茜、ずっと黙ってて授業中も上の空だったんだよ?」
「よく見てるね」
「へっ!?ぇあ、べ別にそんなつもりなかったけど」
「ふぅん...」
青葉くんが転入してから一週間ほど経ち、最近になってようやく周りのほとぼりが冷めてきたように感じる。いつもなら相手の話を微笑んで聞いてくれている青葉くんだが、今日は何か可笑しかった。
「どうしたのかな...」
結局あの青葉くんは小説の青葉くんなのか、それすらも聞けていないまままた今日が終わった。
「ふぅ...」
次の日…
今日は休日なので、青葉君とは会うことはない。
なので、聞きたいことを聞くことも出来ない。
「はぁ…暇だなぁ。」
私は暇を紛らわせるために、例のリレー小説を開いた。
ホイールを適当に動かしていくと、akaneというニックネームの人が書き込んだ内容に目を止めた。
私が来れない間にたくさん進んでて、楽しく読ませて貰いました
たくさんの人に参加してもらえて、とても嬉しいです!
これから私は忙しくてなかなか来れないかもしれませんが、このリレー小説をよろしくお願いしますねー
ニックネーム akane
---
愛、君に伝えなければいけないことがある。
青葉、あいつは危険だ。
近付いてはいけない。
理由は今は言えないがいずれ、君が苦しむ事になる。
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それは小説というよりは誰かに向けたメッセージみたいだった。愛という人物あてだけど私のことなのかな。リレー小説と私の今までの出来事の一致、それを考えるとこのメッセージもただの悪戯だとは思えなかった。
「っあ、青葉くん」
昨日のことがあったにも関わらず、私は彼に話しかけてしまった。
だって、珍しく、青葉くんが1人でいたから。いつも周りにいる彼の友達はいない。話しかける絶好のチャンスだと思った。
あいつは危険?近付いてはいけない?私が苦しむ?
知ったことか。見えもしない未来に怯えていては、何もできまい。
……なんて、勢いでいってしまった故に、青葉くんに話しかけにいったこの足はもうガクガクで、手汗もぐっしょりなのだが、バレていないだろうか。ノリと勢いだけで作ったこの笑顔は、不自然じゃないだろうか。ああ、好きな人に話しかけるって、こんなに緊張することだったっけ。
「佐々木…さん?」
これまでも、時折彼女が此方を見ていることには薄らとながら気付いていた。
そこに含まれる感情迄は別として。
別に、話しかけてもらえるようにしてた訳じゃない。偶然、今一人で居ただけで。
「どうかした?」
いきなり声を掛けてきた彼女への返事には、その感付いている事も何も悟らせないようにしながら。
「う、ううん。ちょっと聞いてみたいことがあってさ…。」
私は知らなくてはいけないと思った。
青葉君は私の好きな小説の中の人物なのか、青葉君は私のせいでここに来てしまったのか。
ずっと聞きたかった。
でも、やっぱり怖かった。
もし、私のせいでここに来たことを知っていて恨んでいたら?嫌われたら?
そう考えると胸の鼓動はどんどん早くなっていく。
このリレー小説は良いよねw文章への思い入れが伝わってくる人が多くて(^-^)
>主/霜月タルトさん
完結させる予定はあるのでしょうか?
でも聞きたい。知りたい。
私の中の探求心が、私自身の背中を押した。
「青葉くんってさ、あの青葉くんなの?」
「?」
「あの小説...『colorful days』の青葉くんなの?」
やっと吐き出せた。
ずっと気になっていたこと。
知りたかったこと。
じっと青葉くんを見据えると、彼は口を開きこう言った。
そう答えると、彼女は「え?」と不思議そうな声をあげた。
「わかんない、と言うかさ。漠然と、ここは俺の居るべき場所じゃないような気がしてる。けど、その…君の言うそれが何かは分からない、って感じ。誤解させたみたいだね」
ごめん、そう言って少し苦笑いする。
(だけど、分からないのも、居場所じゃないのも、どちらも本当だ)
きっと、この二つの疑問が解けたとき、何かが起こるのだと思う。それもまた、何と無くに過ぎないけれど。
枯れ草さん>
「完」って書いた人がいるみたいですが、終わらせても終わらせなくてもいいと思ってます。
もし、終わってもまた新しく始めてもいいと考えていますし。
このリレー小説は自由なので、その「完」から「終わりだと思いましたか?残念ですが、私の物語はまだ続きます」みたいな感じで続けても構いませんw
第2章「新緑の若葉達」
あれから何年か経って
学校は所々修理するために私達の卒業後、
4年程の年月が過ぎ、
彼等も既に大人になっていた。
例のリレー小説ももうどこかで終わっているだろうと見なかったし、友達との会話の話題にも登らなかったため、
青葉、という男の存在さえ私の記憶には薄れ掛けていた。
昔自分が使っていたおもちゃを見て懐かしいなぁと
顔を綻ばせていると一冊の大きな本が目に止まった。
<○×小学校 第〇〇期>
うわ、懐かしいな、これは私の小学校の卒業アルバムだ。
中を見てみると、顔写真がずらりと並んでいる。
私の顔を探していると、1人の女の子が目に入る。
「あかね…」
>77 主/霜月タルトさん
返信をありがとうございました。お返事が遅くなってしまい、すみません(-.-;)
委細、承知しました!
この小説トピはとても良かったから、自分なりのアレンジも加え、模倣させてもらったトピを立ててみたくなった。近々そんな感じで倣ったトピを立ててしまうかもしれないが、許してもらえると嬉しい…(・_・*)
「...でも、さっきの発作で何かを思い出した気が...そう、それは、、、」
そう、それは青葉くんへの恋心、、、、、。
>>85
「ここはどこだ!?」
白い天井に、埃一つもない箱のようなその場所。
私は、その中にいた。
――いた。というよりも、収められていた。
――そう。収容されていた。
透明の特殊な防弾ガラスに私の顔が映った。
「なんなんだ? この顔」
青白い顔に、人とは思えないような瞳の色。すべてがグロテスクな。まるで、バイオハザードの映画や、ワールドウォーZなどに出てくるであろう。所謂。――ゾンビのように形成された顔、骨格を目の当たりにした。
しかし、ゾンビ・・・・・・。
ゾンビ。
仮にゾンビだとして、なぜ!? と、いった疑問をわくのは、当然の人間としての判断なのだろうか。そもそも、ゾンビってこんなにも知性的なのだろうか。――そうか、ゾンビのようであって、私自身はゾンビではないのかもしれない。
だって、そうだろう? ゾンビは人襲うように仕組まれたように、ゆらゆらと、無意識なのか、遠隔なのかはわからいけど、そんな感じだ。私が、右を振り向こうと思えば、首を右に動かせるのだし。たちあがろうと思えば、下半身に力が入り、足を延ばして、腰を上げて、立ち上がることができる。
――私は自由でありながら、ゾンビ。
白い箱のような一辺に銀色をした扉を目にした。よく見られる、非常階段に設置されるような安くさい扉だ。どこか、この空間に、異様な雰囲気を放つ。どこか、似つかないような扉の前まで行き、ドアノブを回す。
青葉くんは私の理想の相手だと思っていた。彼は自然とクラスに溶け込み、いつの間にか家族も持っていた。不思議な事だけど・・・そんなことはどうでもいい。だってそれは当然の事だから。
最初のうち青葉くんは私のことを見てくれていた。昼休みに女の子に囲まれても気さくに声をかけてくれた。
でも、私が望めば望む程に彼は、青葉くんではなくなっていった。小説の中の青葉くんじゃない、姿格好だけが同じの別の普通の男子になっていった。
私はあれから色々なリレー小説に投稿した。その度に"これじゃない"、そんな想いに責め立てられる。
自棄になった私は、遂になんとなく、なんとなくそれだけはやってはいけない、そう前から自粛していたことをした。
私はリレー小説に"愛"という人物を登場させた。
そして、・・・アルゼンチン・タンゴの合図に合わせ、虚空の私は小説から消えて、ゾンビになった私は現実に目覚めた。
―第2部―
ハゲてきた岩戸謙介
そう、俺はかわいい。違うか?岩戸謙介・・・
今日も岩戸謙介は、鏡に向かって問いかける。
岩戸謙介は、知らない。岩戸謙介のことをかわいいと思っているのは、岩戸謙介一人だけだということを。・・・
でも、どうしても目につく、ハゲ出した額、頭頂。
催眠、催眠はどうした、岩戸謙介・・・いや、それよりもっ、黒魔術・・・
そう、岩戸謙介は、自分に催眠をかけすぎて忘れている
もう、黒魔術は、効かなくなってきたことを。
「ヅラ・・・か・・・」
心の中で、そう呟きながら、ヅラについて考える
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