霜月タルト 2017-01-03 19:12:07 |
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「愛ちゃんって確か、あの小説読んでるんだっけ?」
「そうそう。今のところ全巻持ってるよ~」
「最新巻読んだ?」
「読んだよー。青葉くんが告白する所に遭遇しちゃって、その場を離れるところで続くになっちゃったんだよね。」
私達はお弁当を食べながらも、どうなるんだろうね。なんて話していた。
(別に本気で好きだった訳でもないし)
青葉は今まで読者の期待通りの行動をしてきた。ヒロインの女子に恋心を抱いているというのも、あくまで表側の設定だ。自分の感情で動くことはもはや許されなかった。
「自由に生きたい...」
それはこの小説という枠にいる人物の誰もが思う事だった
その夜、私はまた青葉君が出てくる夢を見た。今度の夢の中では青葉君はアイドルで、私はライヴ会場に駆け付けていた。他のファンと一緒に嬌声をあげて、楽しく過ごした。
ライヴが終わり、帰る時刻になる。途中コンビニで買い物を済ませ、外に出ると、なんとそこには青葉君がいた。
「―…青葉君っ!」
目を丸くし、思わず彼の名前を口にしてしまった私に、青葉君は優しいけれど、どこか寂しそうな笑顔を向けてくれた。
「また来てくれたんだね。」
>23 すみません(汗) ただ異世界ものにすると話がとんでもないことになりそうな気がしたので(ーー;)
青葉の笑顔には優しさと寂しさの入り混じっている。何故そんな表情を浮かべているのか不思議だが、愛にとっての「何故」は今ここに、青葉がいる事だ。なんと言っても自分の大好きなアイドルが目の前にいれば、この反応に可笑しさはないだろう。同時にもはや言葉では説明出来ないと思うほどの嬉しさが一気に込み上げてきた。
「な…なんで、青葉君が……⁉︎」
本当に本物なのか。ああ、駄目だ。格好良くてこのまま倒れてしまいそう。
そんな事を思いながら必死に溢れそうになる感情を抑え、愛はそう訊いた。
「なんでって…前にも来てくれたし、ライブにも来てくれてたでしょ?」
「前って、もしかして…病院のこと?」
「うん。覚えててくれて嬉しいよ」
「もちろん覚えてるよ!だって青葉君は私の…」
「?」
間が数秒あいてしまい、青葉は首をかしげた。
「あ、ううん。なんでもない!」
愛はその先の言葉が「好き」だと気が付き、全力で誤魔化した。
しかし、そこでまた空間に亀裂が入り、古代遺跡に飛ばされてしまうのだ。私はその度に、さっきまですぐ近くにいたはずの彼を探そうとするのだが、毎回このあたりで目が覚めてしまう。
「――…最初は病院だったっけ…。その次がアイドルの夢で…今日の舞台は…何故か茜の家だったな…」
私は寝返りをうって毛布に顔をうずめた。頬が少し上気しているのが自分でも分かる。青葉君に会えた幸福感と、離れ離れにされた孤独感が胸の中で交差する。
でも、次第にそういった気持ちにばかり浸っていられなくなった。
「ここまで連続して似たような夢を見るなんて…やっぱ、ちょっと変かな」
片頬は毛布にうずめたまま、壁にかけてある時計を見ながら、ひとりごちる。夢の中の青葉君が、いつもどこか寂しそうにしているのも、ファンとして気掛かりだった。
(/皆で上手くラリーをしていけると良いですよね。焼きソーバさんの文章も好きなので、また繋げて下さることを期待しています。)
私はこの不可解((いや青葉くんに会えて嬉しいけど! な夢を調べることにした。
ま、調べるといってもネットだけどね☆
検索「夢に好きなキャラがでてくる」
検索してみると、掲示板とチャットが出てきた。
掲示板には私と同じように「夢の中に好きなキャラが出てくる」という題のものと、チャットはリレー小説というのが出てきた。
そのスレッドになんとなく興味が湧き、どんな内容かを見ようと表示されているタイトルを指で押した。画面をスクロールしていきながら、じっくりと目を通す。流石リレー式だけあって、それぞれ異なる書き方の文章がある。読み進めていくうちに愛は違和感を感じ始めた。小説の内容が今まで自分に起きた事と酷似しているからである。いや、似ているだなんてほどではない。書かれているものが、全て同じなのだ。
ドクン、と胸が鳴る。体から温度が抜けていくような感覚に陥る。
一体どういう事なのか分からない。恐怖と混乱ががんじがらめになるが、歪んだ好奇心はどっかりと座り込んでいる。
ここに書いてあることが、自分に起きたことと同じなら...。「青葉君が私のクラスに転校してくる。」ちょっとした好奇心で、書き込んでしまった。
ふと、仕事用に借りているマンションの一室で小説家の菰生つばさ(こもう つばさ)は、急にそれを書かなければいけないような気がした。机の上に広げられた原稿には、意中の男の子に告白したものの、曖昧な返事をされてしまい、希望を持ち続けるのも怖いが、絶望に浸ることもできず、歯痒い思いを抱えたままのヒロインの苦悩が書かれていた。
「そうだ、そうだな。ここで青葉を転校させよう。青葉は二人が両思いになったと思っていて…」
滑りよくペンが進む。ヒロインが告白するシーンを見なかった青葉は、二人が付き合い始めるものと思い込む。しかし、もうすぐ転校する自分には何もできない。
「転校する当日になって、ようやく青葉は美鈴に声をかけるんだ。それで想いを伝え、二人のこれからを応援する、と。」
小説の続きでは、青葉のその行動が、悩みの中にあるヒロインの心をさらに掻き乱すことになるのだ。そして、それが次の波乱を呼ぶ。
「うんうん。なかなか上手くまとまったぞ。」
書き進められた原稿を前に、つばさはニンマリと笑みを浮かべた。まだアラサーの女性なのだが、職業柄、仕事中はてんで化粧っ気がなく、如何にも干物女といった外見だ。
「青葉はここで退場っと。気持ちが実らなくて、ちょっと可哀相だけどね。」
ここまで書いた文章にざっと視線を走らせ、簡単な推敲を終えると、つばさは眼鏡の奥の瞳を少し伏し目がちにして呟いた。
その彼女の独り言は枠の中に届いたのだろうか。そう、小説という枠の中に。その中で青葉は、やっと自由になれる喜びと期待感で胸をいっぱいにしていた―。
だが、自由というものは、青葉が想像していたものとは違った。所詮自分はキャラクター。いくら作品外にでれたとしても、自分の意志で動くことはできない。
青葉の妄想していた未来。こんな生活がしてみたい。そんなものは打ち砕かれ、気付いたら見知らぬ学校へと体が動き、転校生として、黒板の前にたっていた
「転校生を紹介する。青葉君…こちらへ。」
青葉という聞きなれた名前を耳にし、愛は期待に胸を踊らせた。
そしてなにより、チャットに書いた事が現実となったことが驚きではあったが嬉しかった。
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