霜月タルト 2017-01-03 19:12:07 |
通報 |
「愛!ねぇ聞いた?青葉くんサッカーの練習試合中に倒れて病院運ばれたって!」
「えっ…?」
頭が真っ白になって、自然と体が震えてきました。青葉くんが倒れている姿が目蓋に浮かび、貧血を起こした時みたいに景色が白く見えます。
私は病院に駆け込んだ。
ナースステーションで青葉君の病室を聞き、病室に向かう。
病室は一人部屋のようで、奥に青葉君の姿が見えた。
青葉君はベッドの上で上体を起こし、病室の窓から外を見ているようだった。
「青葉君っ!」
私が駆け寄ると、振り向いた青葉君は左手で私を制し、右手の人指し指を自分の口元に当てて、静かにというジェスチャーをした。
「ここ病院」
「ごめん...」
看護師さんに怒られるぞ、と呟いて欠伸をする青葉君の横顔はやっぱりかっこよくて。
胸がとくりと高鳴り、頬の温度が上がっていく。
「青葉君……でも…私…」
頬の温度が上がっていくと同時に液体が伝うのを感じた。
「心配したんだよぅ…。」
「いや、ちょっ泣かないで…;;大丈夫だよ、ちょっと体調崩しただけだからさ。」
それでも私は青葉君が普通に接してくれてとても嬉しかった。
(やっぱり、好きだな。)
「そういえば、一人で来たの?」
「…っへ?!あ、う、うん!」
ふうん?と青葉君は不思議そうに首を傾げる。
それもそうだろう。あくまでも私は、同じクラスの女子程度の間柄。此処まで急いで来たことにも、怪しまれても仕方ない。
そういえば…青葉君、嫌じゃないのかな?
ふと、視線を上げて青葉君をそっと見つめる。
すると、思いもかけず目が合ってしまった。青葉君も私のことを見つめていたのだ。どきりと、さっきよりも大きく胸が高鳴る。
「佐々木…」
青葉君が私の名前を呼ぶ。胸の高まりが収まらない…。
突然現れた自分の知る現実的なものとは異なる裂け目に抵抗どころか、驚く暇もなく二人はそこへ容易く吸い込まれてしまった。思考はプツリと糸が切れるように消え、無意識に目を閉じる。
どれほど時間が経ったのか。ゆっくりと目を開き微かに声を漏らす。ぼんやりとした視界は徐々に明確になっていき、そして今の光景に驚いた。どこかの物語に出てくるかのような、或いは世界遺産にでもあるようなそんな造りの建物内にいる。見た限りでは遺跡、と表現する方がいいだろう。
先程まで病院にいたのにここはどこなのか。薬品の匂いが控えめに漂う白い病室と違い、土埃の匂いがする。
「……あ、青葉君。……青葉君は!?」
ここでもう1人いた筈の存在に気が付く。ハッとした声を上げ、すぐさま立ち上がり青葉を捜そうとした。
「………っていう夢を昨日見たんだけどさー」
昼休み中、私はそんなことを友人の茜に話した。
呆れ顔で話を聞いていた茜が鞄の中の教材を取り出しながら言う。
「だからさー。その青葉くんってあれでしょ? 人気連載恋愛小説に出てくるサブキャラの……」
「そうだよっっ! 必死になっていろいろ頑張る姿がカッコいいの!!」
そんな私を見て、茜はやれやれと首を振る。
「まぁ、好きにしなさいな」
ちょうどその時、授業開始のチャイムが鳴った。
もう、わかってないな茜は。
べーっ、と相手に舌を出し机に向き直る。
(かっこよかったな...青葉君...)
授業中もあの夢を思い出してしまい、全く集中できなかった。
先日、転入してきた千秋という女子生徒が弁当を片手にして立っている。クラスは互いに別なのだが、部活で知り合い意気投合したのだ。趣味の合う自分の友達から昼食を誘われ、断るつもりなどない。
「うん、いいよ。一緒に食べよっか!」元気良く返すし、もう一度口を開くと「そうそう。私の事さ、別にさん付けしなくていいんだよ?名前で呼んでほしいなー」とお願いをする。
その様子に千秋はどこか恥ずかしそうな笑顔を浮かべながらも、コクリと頷いた。
ヒロインとして活躍する同級生の女子が、これからメインキャラクターの男子に告白をするという設定の状況にいるのだった。しかし、自分に他人の告白の瞬間を見る趣味はない。その場を離れようと動き出す。
トピック検索 |