普通の日常をー【非募】

（のっそりした動きで上体を起こし軽食に手を伸ばして気の抜けた大きな欠伸をひとつ、目尻に浮かんだ涙を指で拭い「ここでって、飲み続けるのか？」弟にしては珍しい考えだが悪くはないと感じ手始めに貰ったばかりの酒を飲み干し

この街でって意味だからな、ここでは酔わない程度に
（グラスを手に取り一口飲んでは軽食をつまみ、自分の考えと兄の考えが一致しているかどうかわからないため後者の言葉を少し強めの口調でつけたし

だよな、びっくりした
（空のグラスと交換に出てきた酒の入ったグラスを受け取り、まさかバーで飲み明かすなんて言うと思えなかったため安心すれば勘違いしたのが可笑しく笑い転げ

当たり前だ
（誤解が解けヤレヤレと首をふり、笑う兄をほっといて酒を飲み勧め

それにしても行く先々で、俺らのストーカーでもいるんだろうか
（ちまちま飲んでつまんで、ふと思えば行く宛もなく移動しているにも関わらず何かに出会っている訳で。考えたくないが何かもっと巨大な敵に誘われてるような気がしてならず、首を左右に振り嫌な考えを払って

人じゃない限りストーカーはつきものだろ？
（その言葉にそういえばと思い、どの世界行っても仕事ゆえ人以外はみんなストーカーだと思えば多少の余裕があるとつけたし

そんなのにモテても嬉しくないがな
（人気なら人間の女性の間でなりたいが仕事柄それはなく、長い溜め息をつき机に突っ伏して額をぐりぐり動かし。その体勢のまま弟の方に顔の向きだけ変えて「幽霊のストーカーに余裕も何もあるかよ」文句をこぼし唇を尖らせ

そんなに知りたければ聞いてみたら？
（グラスの淵を唇につけたまま視線を動かし、口角を上にあげいたずらっぽくニヤリと笑い。壁掛け時計を見てもうこんな時間かと「まだ飲むつもりならモーテルに行くぞ」丸まった背中を叩き

んー、じゃあ会計よろしく
（上体を起こすことなく手だけ動かし財布から偽名の書かれたカードを探し当て相手に渡し。ゆっくり起き上がり残りの酒を一気に流し、悪魔が抜けすっかり可愛くなった女性にウィンクを飛ばして

はいはい
（残りのお酒を一気に飲み干し、カードで支払いを済ませ女性2人に軽く手を振り店をあとにし

良い事やってるのに、追ってくるのは幽霊と警察だもんな
（際に見た彼女達の楽しそうな笑顔に胸を撫で下ろすものの、警察に追われる事もあり割りに合わない仕事だと不貞腐れ。愛しの車に乗り曲を掛けモーテルまでの短い距離を飛ばして

警察からは逃れられないよ
（ダッシュボードからはみ出る偽のカードを引き抜き、誰のでもない名前を見ては呆れ元の場所に戻し。徐々に暗くなる外を眺め「大抵の警察はディーンが連れてくる」指差し

俺が？俺のせい？
（自分を指差し驚いて目を見開き、思い当たる節はあるものの「無賃金の仕事だから仕方ないだろ」偽造カードの言い訳をし、反論させまいと相手が口を開く前に車内でかけている曲を口ずさみ

（言い訳はなしと口を開こうとするがそれを阻むように鼻歌を歌い始め、これじゃ何も言えないと諦め窓枠に肘をつきモーテルにつくまで目を閉じて

お前が真っ当な道に進みたかったのは分かるよ
（ハンターの道しかなかった自分と異なる弟を羨む気持ちも少しはあり、曲に負けて聞こえない程度の声で呟き。わき見運転でスーパーを見つけ、目をつぶる弟の肩を揺らし「モーテルに入る前に酒買うか？」普段あまり利用しない店を提案し

（なにか反応をしようか迷ったが聞こえないふりをし口角を上げ。しばらく目を閉じてると肩を揺さぶって来る兄に「いや、僕はいいよ。これ以上飲むとやばい」片手をふり

ん、分かった。じゃあこのままモーテルに行くぞ
（そんなに飲んだ覚えはないと首を捻って小さく笑い了承し、酔いを冷まそうと窓を開け左手を外に出して片手運転し

なぁ、反応しなかったけど・・さっきの言葉聞こえてたよ
（再び喋る話題がなくなり、何を話そうと思いそういえば何か言ってたなとうっすら記憶を呼び起こし兄がどう反応するのだろうと面白がり

あー、お前があれっぽっちの酒でグデグデだって笑ったのが聞こえた？悪かったよ
（さっきの言葉が別のものを差すことは勿論分かるが誤魔化し、笑い声を上げ左手をハンドルに戻して右手で弟の肩を軽く数回叩き

そんなことかよ、聞かなきゃ良かった
（茶化しているなと分かれば、鼻で笑い損をしたと自分の言った言葉を消すかのように頭上を手ではらう仕草をして