餡蜜 2016-12-11 21:12:39 |
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【竹井と九条】
俺は竹井に嫌われているようだ。
竹井とは同じ大学で、専攻するゼミも一緒。
少人数のゼミだから言葉を交わすことも少なくないが、竹井とは必要以上な会話はしないし、俺とまともに目を合わせてくれない。
合ったと思ったら気まずそうに直ぐ逸らされる。
初めはコミュ障なのだろうと勝手に結論付け気にしないようにしていたが、そうでないことはそう時間が経たない内に分かった。
よく笑い、交友関係も広く、年上の女性に可愛がられるようなタイプのようでコミュ障とは程遠い奴だった。
因みに同じゼミになって三ヶ月ほど経つが竹井に嫌われるようなことをした覚えはない。
俺だけが避けられ、その疑問は膨らむばかりだ。
気付けば竹井を目で追うようになっていた。
ゼミでの飲み会。
やはりと言ってはなんだが俺と竹井の席は一番遠い。
視線を感じそちらを向けば竹井と目が合った。
しかし慌てた様子で逸らされてしまう。
「……なんで」
目を逸らす理由を聞きたい。
一度深く話してみたい。
竹井が気になって仕方がなかった。
酒が進んだ頃、竹井が席を立った。
外で風に当たってくると言う竹井の顔は酒のせいか赤く火照っていた。
ついていこうかと心配する隣の友人の申し出を断った竹井だが足取りは覚束ない。
これでは外に辿り着く前に転んでしまう。
なんて思った直後、案の定座布団に躓き転びかけた竹井を俺は咄嗟に立ち上がり支えた。
「俺も酔った。竹井と一緒に風当たってくる。」
酔ってるなんてただの口実。
何か言いかけた竹井を無視し、ゼミの仲間にそう告げると竹井を強引に引き摺り俺は外へ出た。
ゼミの仲間が無駄に笑顔なのが気にかかるが、今はそんなことどうでもいい。
飲み屋の前。
お互い座り込み、涼しい風が火照った体を冷ましていく。
先ほどから無言でいる竹井の顔を覗き込んだ。
風で揺れるチョコレート色の髪にやや垂れ目がちの瞳、色白な肌は仄かに赤みを帯びている。
そういやこんな近くで見るのは初めてだ。
「相当酔ってるだろ」
「…っ、大丈夫、大丈夫だから…」
竹井の逃げ場を失った目が泳き、色づいている頬と同じように耳が赤く染まっていく。
――…あれ?
なんだ、その反応は。
おかしいだろ。
俺のこと嫌いなんじゃないのか?
酔っているとしても竹井の反応は嫌いな奴を前にしての反応というより…なんというか真逆の…。
「俺のことが…好き?」
思わず言葉に出してしまった。
竹井の目が見開かれる。
「…ぁ、俺、は…」
否定の言葉はなく、揺れる瞳は俺に向けられた。
「…なっ!?」
次の瞬間、さらに顔を真っ赤に染め竹井は逃げた。
高校時代陸上だったらしい竹井の走りはそりゃあもう素晴らしいのなんの…じゃない。
残された俺は呆然とするしかない。
竹井は結局帰って来ず、ゼミの仲間に問い詰められるのは少し後の話。
竹井からの告白はさらに後の話。
――――――End
【綾瀬と新條】
――屋上へ来てください。
2-B、新條 正人
朝、下駄箱を覗けばこんな内容の手紙が入っていた。
差出人の名前にため息がでる。
クラスは違うが同学年の新條は甘ったるいミルクティー色の髪にこれまた甘ったるいマスクをしたイケメンで、時と場所関係なしに何度も俺に告白してくる、言わば迷惑の種だ。
手紙をくれたのはこの際構わないが、一つだけ言わせてもらいたい。
「いつ行けばいいんだよっ!」
無視すればいいのにそれができない性格の俺は、一限の授業が終わってから新條の教室へ向かった。
俺の突然の来訪に驚く新條だが、直ぐ様嬉しそうに駆け寄ってきた。
周りの生徒がニヤニヤと笑いながら「今日も頑張れよ。」と新條に声を掛ける。
悲しきかな、新條が諦めず俺に何度も告白していることは学校内に知れ渡り、恋を実らせようと応援する者も続出している。
「まさか、ゆー君から来てくれるなんて思わなかったよ。嬉しいなぁ。どうしたの? あ、ラブレター気付いた?」
「どうしたの、じゃねぇから。5W1Hの“いつ”を書いてねぇだろお前。」
「え、嘘!? 書き忘れてた? 昼休みって書いたつもりだったんだけど…。」
「場所しか書かれてねぇよ。」
あちゃー、と額を押さえた新條は俺を見て口許をニヤつかせた。
「それでわざわざ来てくれたんだ。ゆー君のそういうところ大好きだよ。」
「…っ、…ほら、用事。なんか用があったから屋上に来いって書いたんだろ? ここでもいいなら今聞くけど。」
「あー…そうだね、本当は屋上から叫びたかったんだけど…。ん、今でもいいや。」
……叫ぶ?
嫌な予感がした。
そんな俺の不安をよそに新條は息を大きく吸い込み、次の瞬間馬鹿でかい声を発する。
「2-B、新條正人は、2-A、綾瀬夕陽のことを愛して……ぶふぁんッ!」
言葉が途切れたのは俺が殴ったから。
そりゃあもう思いっきり殴りましたとも。
爆笑する周り。
羞恥で顔が赤くなっているだろう俺は倒れた新條の上に馬乗りになり胸ぐらを掴んだ。
「何叫んでんだよっ! つか今のを屋上でやろうとしてたってことかっ!?お前馬鹿なのアホなの!?」
「ゆー君のことに関しては馬鹿にもアホにもなれます。」
「ドヤ顔で言わんでいいから!」
休憩終了を告げるチャイムが鳴り響くが騒がしさはおさまらない。
そんなこんなで新條からの告白はまだまだ続くのだった。
―――――――End
【綾瀬と新條◆2】
俺が甘い物が好きだという情報をどこで入手したのか知らないが、最近毎日のようにお菓子を貢いでくる新條。
お菓子自体は嬉しいんだけど、相手が新條なのが素直に喜べない。
昼休憩、今日も今日とて新條が俺の教室へやって来た。
手にはポッキーの箱。
「ゆー君、一緒に食べよー。」
丁度誰も座っていなかった前席の椅子の向きを変え、そこに座る新條。
さっそくポッキーの封を開け、楽しげに一本取り出した。
「ねぇ、ポッキーゲームしようよ。」
「いや、しねぇから。」
「えー…。」
落胆する新條。
クラスの連中がいる中で、たとえ冗談でもそんなことできるか。
直ぐに良からぬ噂が広まってしまう。
新條はポッキーを見詰め、何を思ったのか恥じらい顔でそのポッキーの先端部分を俺の口に寄せてきた。
「なら……ほら、これを俺のだと思って。」
「………随分と細くて貧相な粗チンだな。」
正直引いた。
そして迷うことなく噛み切る。
短い悲鳴と同時に片手で自分の股間を押さえる新條。
「痛っ! 痛いって!」
「痛くねぇだろ。なんで連動してんだよ。」
「いきなり噛むなんて、ゆー君の鬼畜っ! 舐めようよ!」
「ポッキー舐めて食う奴がどこにいる!」
俺らがぎゃーぎゃー騒いでいると近くにいたクラスメイトが近付いてきた。
「相変わらずラブいよなー。お前らいつ付き合うんだ?」
「んー?もう付きあっ」
「ってねぇよ、アホっ!」
――――――――End
【向日葵のような君】
君は向日葵みたいな人だ。
オレンジがかった金色の髪や、明るい笑顔に日焼けした健康的な肌。
太陽が似合う君。
そんな君が好きな花も向日葵だっけ。
今でも覚えてるよ。
転んだ俺に君が手を差し伸べてくれたこと。
虐められていた俺に、分け隔てなく接してくれたのは君だけ。
君は俺を助けてくれて、友達だと宣言してくれた。
嬉しかった。
モノクロの日々は君によって照らされ、明るく色づきはじめた。
消えない虐めも前ほど苦にならなくなった。
頭から水を被った日には、君はジャージを貸してくれたっけ。
君の匂いがするジャージを着るのは、なんだかものすごく照れくさくて。
ドキドキして。
暫くして気が付いた。
君に恋をしていることに。
人気者の君に、嫌われ者の俺が恋をするなんて迷惑な話かもしれない。
でも。
「ごめんなさい、…好きです。」
俺は君が好きなんです。
告白しても、君は言葉を返さない。
俺の方を見てくれない。
授業後の君しかいない教室で、君は俺の席を見詰めるだけ。
席じゃなく俺の方を見てよ。
「ねえ、なんで…そんな顔してるの?」
君の頬は濡れていて、俺の目から君と同じものが零れ落ちる。
歪んだ君の表情。
やめてよ。
俺は君の笑った顔が好きなんだ。
君には笑っていて欲しいんだ。
太陽へ顔を向け明るく咲き誇る向日葵のように。
カーテンが風を浴び靡く。
君の向日葵みたいな髪が揺れ、風に乗った黄色い花弁が君の頬を掠めた。
「―――…隼人?」
俺を呼ぶ君の声。
大好きなこの声を、俺は忘れないよ。
だから君も、俺のこと記憶の片隅にでも置いてくれると嬉しいな。
それだけで俺は幸せだ。
さようなら…大好きな、俺の大切な人。
君の視線の先。
教室の窓からは、顔を覗かす一輪の向日葵が風に揺れていた。
――――――――End
【獣】
※カニバリズム注意
主食は生肉だ。温かな血の滴る肉は極上の味で、獲物を前にすると涎が垂れそうになる。食いたい衝動に駆られるんだ。
その日は運が悪かった。無力だと思い込んでいた獲物は、知識と学習を活かし大勢で罠をしかけていた。間抜けに引っかかった俺は縄で拘束される。待っていたのは終わりのない監禁と暴力。
どのくらい経ったのか。運ばれてくるのは死んだ動物の臭い生肉。それを用意する獲物である男とは毎日顔を合わせている。俺の世話役に任命されているのかもしれない。
はじめビクビクしていた男だが、日が経つにつれ慣れてきたのか話しかけてくるようになった。男の言葉は分からないが、一緒にいる時間は不思議と苦ではない。
新たな一日が始まる朝、俺は男を待つ。だが、今日は違った。やたら外が騒がしい。男の声もする。
「彼は人間です。」
「獣に育てられたんだぞ!? 奴も獣同然、現に人間を食らうじゃないか!」
「そういう環境に晒されていたら誰だって彼のようになるでしょ。彼はまだ若い。今からでも十分にやり直せる。」
「奴に村の奴が何人殺されたと思っているんだ…!殺人鬼は同等の償いをさせるべきだ!」
…うるさい、うるさい。何を話しているんだ。
男はいつもの時間に来ず、結局誰も来ることなく、何も口にすることもできないまま数日経った。
大分弱っていた。このまま死ぬかもしれない、そう頭に過った頃、男は真夜中に現れた。
「ごめんな、アオ」
“アオ”は俺のことらしい。男は何を血迷ったか牢の鍵を開け、手足の拘束を外してくれた。此方へ伸ばされる手を俺はぼんやり見詰める。
この手の意味はなんだろう。分からない。なあ、俺は喉が渇いているんだ。腹が減って死にそうなんだ。
「アオ、早く。逃げるんだ」
言葉が分かればいいのに。
男の手に食らい付く。男は一瞬目を見開くが、今までの獲物と違い抵抗はなかった。代わりに優しく抱きしめられる。ああ、うまい。血が渇いた喉を潤す。男が耳元で何か囁いたが意味は分からなかった。
そのまま、男の温もりが消えるまで俺は食らい続けた。目の前には男だったモノ。なんだろう、この消失感は。心臓を締め付けるものは。獲物を食っただけなのに。血にぬれた自分の口をはじめて汚く感じた。
「……うう…う…」
ああ、ほんと、
呻き声をあげる獣の気持ち悪いこと。
―――――――End
【獣◆2】
※カニバリズム注意
※男side
村人たちが獣を捕らえたとの朗報を耳にした。生け捕りにしたようだ。直ぐに殺さないのはいたぶる為。それほどまでに仲間を食われた村人の恨みは激しかった。
その日の夜、僕は村長に呼び出され餌係り任命された。拘束しているとはいえ、相手は何人もの人間を殺してきた獣だ。餌を与えるのも命がけ。みな自分の命は惜しい。だから、身寄りがなく、病に蝕まれ長く生きられない僕はまさに適任だそうだ。
薄暗い狭い牢屋。そこに居たのは、まだあどけなさの残る少年だった。まさか獣が人間だとは想像すらしていなく驚いたが、刺し殺すような鋭い眼差しに、確かに少年の中に潜む獣を感じた。
はじめは怖かったが、日にちが経つにつれ怖さは薄れていった。少年に話しかけてみたが、言葉を知らないのか返事はない。僕は少年にアオと名付けた。アオは一方的な僕の会話にも静かに耳を傾けてくれた。もしかして、アオはそれほど危険な存在ではないんじゃないか。そう思えてきてすらいた。
僕が躓いて転びかけた時、初めてアオは笑ってくれた。その笑顔がとても綺麗で、村のどんな大人たちよりも純粋な綺麗さで。僕はアオに惹かれているのかもしれない。一度だけでもいいから、アオの口から僕の名前を聞きたいと思ってしまうんだ。
アオが死ぬなんて考えたくない。処分の日時が決まった日、僕は異議を申し立てた。だけど僕なんかの意見が通る筈もなく、反乱分子としてアオの処分が終わるまで小さな小屋に閉じ込められることになった。
一週間後、アオは殺される。嫌だ、嫌だよ。僕は人目を掻い潜りなんとか小屋から抜け出した。アオの元へ行き、衰弱したアオを連れ出そうとする。しかしその行動はアオ自身により止められた。突き立てられる牙。手が焼けるように熱い。
そうだ。アオは人間を食らうんだ。アオにとっては普通のこと。不思議と恐怖はなかった。それよりも、一瞬悲しそうな目をしたことが気にかかった。僕はアオを抱きしめる。
どうせ長くないこの身、死ぬなら君の血となり肉となりたい。痛みは既になくなっていた。今はただ、眠いだけ。これは単なる予想だけど、僕の死がきっかけで君は変わる気がする。アオ、遠くへ逃げて。遠く、村人の手が届かない場所へ。
そして、どうか僕のかわりに幸せであれ。
この囁きが君に届けばいいのに。
―――――――End
【怖いものは把握済み】
容赦なく寮の窓を打ち付ける激しい雨音をBGMに、横になり眠りにつこうとしていた俺を、ベッドへ入るなり背後から抱き締めてくる男がいた。
恋人である、後輩の達也だ。
じめじめとした蒸し暑さに寝苦しさを感じていた中、纏わりつかれては寝るに寝られない。
項にかかる吐息もこそばゆい。
さらに身体を密着させてくる達也に、いよいよ俺は口を開いた。
「…暑いんですけど。自分の部屋に戻んないの?」
「今日は先輩と一緒に寝ます。今の時期、人肌恋しいんすよ。」
「嘘つけ。単に怖いだけでしょ。」
「怖くなんかないです。」
「あれれ? 悲鳴あげてたの誰かなー?」
「……」
「怖がりなのにホラー映画なんて見るからだよ。お馬鹿ちゃん。」
「…気になるじゃないっすか。ああいうの。」
ホラーが苦手な癖に好奇心だけは人一倍ある達也は、気になるホラー映画を見つけるとすぐに食い付く。
そして鑑賞し、心底怖がり、俺に被害が及ぶ。
なんという悪循環。
「…ちょっ、」
服の下から達也の手が滑り込んできた。
さりげなく何してくれてんだコイツは。
腹部を撫でられ、肌の粟立つ感覚に俺は慌てて達也の手を掴み引き離した。
「なにして…。」
突如、空に閃光が走った。
何処かで雷が落ちる音。
反射的に身体が強張り、達也の手を強く握ってしまう。
無意識に背後の達也へと身を寄せていた。
そういえば、雷がなんたらって教室で誰かが話していた。
今夜の天気のことだったのか。
「暑いんじゃなかったんすか?」
「…暑い。」
「離れなくていいんすか?」
「…達也が怖いっていうから。今日はこのままでいてあげようかなーって。」
もちろん嘘。
俺が雷が苦手なことを知っている達也がフッと笑った気がした。
「強がり。」
「うっせー。」
「先輩、可愛いっす。」
「…ほら、お子様は早く寝なさい。」
目を閉じる。
…雷鳴は少しだけ怖くなくなったけど、眠れる気がしません。
――――――End
【獣◆3】
※前回の後日談?
※アオじゃなく新たに登場する男side
最近、妙な奴を拾った。人気がなく舗装されていない山道の傍らで、衰弱しきった姿でぶっ倒れていた少年。無愛想で取っ付きにくい冷淡男と周りから散々言われる俺だが、弱った人間を放置できるほど冷めきってはいないつもりだ。
保護し、怪我の手当てをしてやった。別に礼を望んでやったことではないが、目を覚ますなり牙をむいて手当てした恩人に飛び掛かってくるなど誰が予想するだろうか。
俺の喉仏に食らい付こうとした瞬間、少年は一瞬躊躇いをみせた。こう見えても俺は獰猛な獣を狩る狩人として各地を旅してまわる男だ。さっきは油断したが折角うまれた隙を見逃す筈がない。
そして自己防衛兼、反撃に気絶してしまった少年を俺はまた放っておける筈もなく。再び目を覚ました少年は何故だか俺の後を着いてくる。深い事情がありそうだが、敵意むき出しの顔で生まれたての雛鳥のように可愛いらしく旅を同行されても困るってもんだろ。
その事を伝えようとしても、言葉を知らないのか伝わらない。実に変な奴を拾ってしまったものだ。
あれから半年。
「蒼(あお)、早く食え。おいていくぞ。」
「この肉、まずい。しょく、進まない。」
「贅沢いうな。普通の肉だろうが。」
「ぜんぜん、ちがう。」
むくれる少年。俺たちは共に旅をしている。それにしても、よくここまで人間らしくなったものだ。地道に、根気強く言葉から何から何まで教えた俺自身に拍手を贈りたい。
因みに、呼び名がないと不便な為“蒼”と名付けた。少年の深い海色の目にちなんで付けたが、単純だっただろうか。生憎名前のセンスはないんだ。
「…いつか、その肉くってやる。」
「はいよ。おいていくからな。」
「待っ…!」
蒼がたまに見せる狂気。鋭い眼差しは隙あらば俺を食らおうと狙っている。半年も経つのに蒼の心の中に眠る獣は根強く残り中々消えない。
いつか完全に消し去ってやりたいものだ。
隣に並ぶ蒼に視線を向けると目が合った。きょとんとした年相応の顔をする蒼に対し、まるで父親のような心境を抱いている自分に笑いが込み上げてくる。
なんだかんだで俺は蒼との旅を楽しんでいるようだ。
――――――End
アオから蒼になりました。表記が変わっただけです(笑)これからは男と旅をして、年を重ねるごとに蒼は人間らしくなっていくと思います。なんだかんだで面倒見のいい男は頑張ってくれるでしょう←
【時を越えて】
猫又のオイラが初めて愛したのは、人間である義孝という青年だ。
大好きなのに、永く共にいたいのに、妖怪と人間じゃァ生きる時間が違い過ぎる。
「俺は生まれ変わる。だから、また必ず巡り逢おう」
そう義孝は約束してくれた。
あれから、何年の月日が流れたか。
義孝は病で死に、独り残されたオイラは義孝との再会を夢見ながら猫の姿でのらりくらりと生きている。
オイラの首には義孝がくれた首輪ならぬ布製のバンダナ。
趣味の悪ィ唐草模様な上、年月が経ったせいで大分ボロボロになっちまったが、オイラの大切な宝物には変わりねェ。
これさえ巻いていれば義孝に気付いてもらえる。
そう信じていた。
だが現実はそう上手くいかねェ。
「ほら、にゃんこ。こっちにおいでー。」
間違える筈がねェ。
懐かしい声でオイラを呼ぶ青年は義孝の生まれ変わり。
オイラたちは再び巡り逢い、義孝は約束を果たした。
涙が出そうなほど嬉しかった。
…だけどな。
「どうしたんだ? おーい、にゃんこ。こっちこいよー。」
「……」
…オイラのこと忘れちまってたら、意味ねェだろ。
「にゃんこー? おーい。」
オイラはにゃんこって名前でも、おーいって名前でもねェ。
アンタが付けてくれた甘い甘い名前があるんだ。
悲しくて、あまりにも悲しくて、せっかく再開したというのにオイラはアンタから離れようとした。
「餡蜜(あんみつ)」
ぴたりと足を止める。
――餡蜜。
義孝がオイラに付けてくれた甘い名前。
振り返れば義孝の生まれ変わりは優しい眼差しをオイラに向けていた。
「喋らないのか? もしかして言葉忘れちゃった?」
「………」
「義孝だよ。今は彰って名前だけど。
――ただいま」
オイラの欲しかった言葉。
目頭が熱くなる。
覚えていてくれていた。
忘れないでいてくれたんだ。
オイラ、ずっと待ってたんだ。
アンタとの再会を夢見て、ずっとずっと待ってた。
アンタに伝えてェことが山ほどあるんだぞ?
「…おわっ!?」
猫から人間に姿を変えたオイラは、アンタに飛び付いた。
素っ裸なんて気にしねェ。
はやくアンタの体温を感じたかったんだ。
病弱で細かった身体はがっしりと逞しくなっていた。
アンタに一番に贈る言葉は…。
「――おかえり。」
広い空の下、アンタとまた出逢えたことに感謝するよ。
――――――End
自分のニックネームはこの猫又さんから拝借したものだったりします←
ニックネームや名前考えるの苦手なんだよなぁ。
中々思い浮かばない。
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