殺人鬼 2016-11-24 00:45:04 |
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ある晩、架空日本のお茶の間に激震を走らせる速報が報道された。
13人を殺害した連続猟奇殺人犯が、東京拘置所を脱獄したのだ。
彼は何故か、拘置所内でいつの間にか知り合っていた女性の囚人も解放していた。
駅という駅、道という道に武装警官が配置され、街は惨劇の再開に怯えた。
けれども──次に起きた事件は、彼らの予想から外れていた。
*
「……何故貴方のような殺人鬼が、少年院に?」
「決まってる。どうか、俺の家族の一員になってほしい」
男女が別棟に収容されているとある少年刑務所、そこに現れたのはかの殺人鬼。
『家族になってほしい』
謎の願いを持ちかけて、殺人鬼は己の選んだ3人の少年少女を解放する。
彼の傍らには、ともに東京拘置所を脱出したあの女泥棒の姿もあった。
「……具体的に、何をしろと?」
「そうだね、一緒に仲良く暮らしたいんだよ。のんびりと、慎ましやかに。もう独りきりの暗い生活はこりごりだ。巻き込まれてくれるかい?」
「……そんなの、巻き込まれたくた妻て無理に決まってる。自分も貴方も、いつか捕まる」
「本土にいる限りは、それもそうだなあ。──おーし、それじゃ高飛びするか!」
*
──かくて、殺人鬼の奇妙な願望が、現実のものとなる。
東京拘置所の脱獄事件、次いで、少年刑務所の失踪事件。
それから幾日も経たぬころ……日本の片すみの、小さく平和な島の上。
奇妙な取り合わせの犯罪者一家は、粗末な空き家に住み始めた。
最初は赤の他人どうしというぎこちなさがあったものの、お尋ね者という自覚が、不思議な連帯感を生みだす。
正体を偽りながら、5人は島の人々と平和な暮らしを送るようになる。
特に一家と親しい島民が、ふたりだけ存在していた。
願わくば、この穏やかな時間が、ずっと続いていられますように。
偽物の『家族』と、ずっと一緒にいられますように。
身勝手だと、わかってはいても。
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