胡蝶と夢の亡者(小説(建て直し))

胡蝶と夢の亡者(小説(建て直し))

YUKI  2016-11-19 22:11:18 
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◎ 此処は胡蝶と夢の亡者の建て直し小説トピです

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内容:スランプに落ちた小説作家と、とあるバーのバイト青年のNL小説です



では、始めます

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  • No.1 by YUKI  2016-11-20 02:02:05 




     プロローグ


始まりがあるから、終わりがある。
出会いがあるから、別れがある。
そんな事は誰もが知っているはずなのに、彼らはそれを何度経験すれば学ぶのだろう。
そしてそれは、彼女と僕にも言える事だ。
彼女は何故、意味のない時を過ごすのだろうか。
何も渡せない僕は何故、彼女の側にいるのだろうか。
そう、過去という夢のように古い記憶を指先で辿る、亡者のような僕に、捧げられる物など何もありはしないのに。

  • No.2 by YUKI  2016-11-27 01:05:22 




     一の蝶 夜の出会い


  • No.3 by YUKI  2016-11-27 01:24:58 

その日の夜、園崎茅人(ソノザキカヤト)は、普段より僅かに緊張していた。
いつものように軟派な態度と、人好きする笑みを浮かべごまかしてはいるが、出来る事ならすぐにこの場を去りたい。
(やっぱり、断れば良かった)
心の内で後悔を呟く茅人に、隣のカウンター内に立つ友人の新世水城(アラセミズキ)が声をかけた。
「どうだ?少しは場に慣れてきたか?」
「はぁ?そんなにすぐに慣れるわけないだろ。ていうかさ、僕が聞いていた話とここの仕事、随分違う気がするんだけど」

  • No.4 by YUKI  2016-11-27 02:06:04 

呆れながら言葉を返す茅人に対して、水城は飄々とした返事を返す。
「嘘はついていないだろう?『大学の講義後に働けて、週休三日の割りの良いバイト』に間違いはないからな」
それだけを聞けば確かに水城は、嘘をついてはいない。
そのかわり、彼曰く言い忘れた事があっただけだ。

  • No.5 by YUKI  2016-12-10 14:03:44 

確かにここのバイトは時給は高いし、休みも時間も融通が聞く。
だが、飲酒経験がまだ少ない茅人にとって、酒の種類や、それを楽しむ人々の相手はなかなか難しい。
友人に紹介してもらった以上、簡単に辞めるわけにはいかないが、茅人の中の後悔が消えるまでに時間はかかるだろう。

  • No.6 by YUKI  2016-12-11 02:25:55 

それでも心の中に水城への不満はあるが、仕事中に私語ばかりするわけにはいかない事ぐらい、茅人にも分かっている。
その後、一時間ほど仕事に集中していると、先ほどの緊張間も少しずつ抜けていき、茅人にも店内に視線を巡らす余裕が出てきた。
その様子を少し離れた距離で見つめていた水城は、肩の力が抜けてきた茅人に優しい笑みを浮かべ、茅人を挟んだ向こう側のカウンターのマスターと視線を交わす。
そんな事に気づきもしない茅人は、店の隅のテーブル席にうなだれている、一人の女性に気づいた。
(あの女の人、結構酔ってるみたいだけど、大丈夫なのかな)

  • No.7 by YUKI  2016-12-17 23:06:20 

その女性はもう二時間以上、ハイペースでお酒を飲み続けている。
飲酒経験に疎い茅人の目から見ても、あまり良い飲み方とは思えない。
「なぁ、水城。あの奥のテーブルのお客さん、止めた方がよくないか?」
茅人に声をかけられた水城は、さりげなく茅人の言う席に視線を合わし、なんて事はないと言うかのように返事を返した。
「あぁ、あの常連さん、そこそこ売れている小説作家らしいんだけど、最近全然書けなくなっちゃったらしくてさ。結構荒れてんだよ」
「へぇ、物書きの先生っていうのも大変なんだな」
水城の言葉を聞いて茅人は、女性のいるテーブル上の様子に納得した。
テーブルの上には開かれたもののほとんど触れもしないノートパソコンに、やたら分厚い紙の束や、いくつかの本があり、しかしそれらを拒絶するかのよう女性はお酒を飲み続けている。
あの様子では、日常生活も荒れていそうだ。

  • No.8 by YUKI  2016-12-17 23:26:16 

視線を奥に向け、今にもため息を吐きそうな茅人に、水城は苦笑いを浮かべ助言をくれた。
「…とはいえ、お客様の体を気遣うのも店員の仕事だからな。とりあえず、これでも届けてこいよ」
水城が差し出したのは、冷たいミネラルウォーターの入ったグラスと、よく冷えた布製のおしぼりである。
それらを受け取り、トレイに乗せ、茅人は水城に一瞬目線を合わせ苦笑し、女性の席へと向かった。

  • No.9 by YUKI  2017-01-29 02:42:21 

「お姉さん、喉、乾いてませんか?お水で良かったらどうぞ」
茅人は酔い始めているらしい女性、水無月汐(ミナズキシオ)の目の前のテーブルに、冷水入りのグラスをそっと乗せた。
茅人の言葉に、自身の喉の乾きを自覚し、汐はグラスに触れる。

  • No.10 by YUKI  2017-02-03 00:21:02 

冷えたグラスは、体温が高くなっている汐にとって心地よく、指先から手の平で包むよう片手でグラスを持つ。
それを汐自身の口元に寄せ、透明な液体を体内に取り込む様子を、茅人は洗練されていて綺麗に思った。

  • No.11 by YUKI  2017-02-04 00:27:39 

「ごちそうさま、ところで…」
汐の声を聞き我に返る茅人は空のグラスを受け取り、汐の言葉を待つ。
努めて冷静に、茅人自身の思いを内に押さえ。
「貴方、此処の新しい店員さん?初めて見る顔だわ」
「はい、今日から働かせてもらっている園崎です。失礼」
軽く会釈をし挨拶をすると、常に携帯させられている紙製のコースターに、胸元のポケットから取り出したペンを走らせる。
《Bar淡雪、園崎茅人、20歳、出勤日月・水・金・土》
書き終えたコースターをすっと汐の前に置き、テーブルの上の空になったグラスをトレイに乗せていく。

  • No.12 by YUKI  2017-02-04 23:12:53 

置かれたコースターを汐は手に取り、一通り目を通し、それを厚い紙の束にクリップで留めた。
その後、自身のセカンドバックからステンレス製の名刺入れを取り出し、その中から取り出した一枚を茅人の持つトレイに乗せる。
乗せられた名刺にはこう書いてあった。
《小説家、水無月汐、ペンネーム、深蝶、Tell○○~》
シンプルな、営業用名刺。
そして深蝶(ミチョウ)という名が、茅人の記憶に僅かに触れた。
遠い昔、と言うには浅く、しかし確かに愛しく思っていた人。
その人がよく口にしていた小説の著者。

  • No.13 by YUKI  2017-02-05 00:05:23 

『茅人、茅人も絶対楽しめると思うよ。凄く素敵な話を書く人なの。今度プレゼントするね』
そんなふうに言ってあの人がくれた本は、今も茅人の本棚に収まっている。
そう、一度も開いた事のないまま、捨てる事も出来ずに。
しかし今は感傷に浸る時ではない。
仕事に私情は挟むべきではないし、それはお客様に失礼になるだろう。
「小説家さんですか、お名前も、お姉さん自身も素敵ですね」
その場をごまかすかのように言葉を並べる茅人に、汐は不機嫌さを醸し出す。

  • No.14 by YUKI  2017-02-05 02:13:35 

「園崎君だったかしら?無理なお世辞は言わないほうが身の為よ」
口調は優しいが、汐の瞳は冷めきっていた。
その瞳に、茅人の心は焦る。
新人でなれない仕事とはいえ、さすがに常連のお客様の機嫌を損ねる事は避けたい。
こんな時の対処法はまだ習っていないし、経験もない。
そんな事を考えている凪を見つめ、小さくため息をついて汐は言う。
「でも、まぁ、本音か建て前かは別として、褒め言葉ではあるし、今回は許してあげる。悪気はないのでしょう?」
今度の汐の瞳はその声と同じで、優しいものだった。
「もちろんです、ただ気分を悪くさせてしまう発言であったのなら、申し訳ありませんでした」

  • No.15 by YUKI  2017-02-06 02:31:10 

汐の言葉に同意と謝罪を重ね、会釈をする茅人の心には、羞恥に似た感情を覚えていた。
それは自身への過剰評価。
茅人も人付き合いが凄く上手いとまでは思っていない。
しかし人並みには上手く出来る方だと思っていたのだ。
そのため、汐相手にも上手く対応する自信があった。
だが、そんな甘い考えは通らず、逆に汐の気分を害させてしまっている。
「おわびに何か奢らせてもらえませんか?よければアルコール以外で」
内心の気持ちを押さえ込み、苦笑を浮かべ茅人は訊ねる。

  • No.16 by YUKI  2017-02-06 02:47:26 

その言葉を聞き、少し間を置いた汐は茅人からドリンクの一覧表を受け取る。
そして指先でドリンク名を辿り、告げる。
「そうね、柚子ソーダにするわ、飲んだことないから」
「かしこまりました、すぐにお持ちしますね」
汐の選んだ物を確認すると茅人はそれを別の注文表に記入し、一礼をしてカウンターに向かった。
(危なかった。許してくれたから良かったけど、もし怒らせたままだったら常連さんを減らすところだった)

  • No.17 by 雪月桜(主)  2017-02-07 01:35:30 

「茅人、大丈夫だったか?」
注文表を受け取り、水城は茅人の顔を見つめる。
「柚子ソーダを奢る事で許してもらえたよ」
その様子に茅人は苦笑いを浮かべ、注文表に自身の名を書いた付箋を張り、厨房に入った。
この店は『Bar』とは名ばかりで、ドリンクの作り方も言われたとおりに作れば誰でも作れるようになっている。
始めに材料を取り出す。
柚子の蜂蜜漬けと炭酸水、スペアミントに氷と、なんともシンプルなものだ。
そしてグラスは縦に長く細めの物を、材料を混ぜるのはガラスの計量カップのようなもの。
計量カップに柚子の蜂蜜シロップを大匙二と、炭酸水を百二十のメモリまで注ぐ。
それをマドラーでまんべんなく混ぜ、細いグラスに三つ氷を入れる。

  • No.18 by 雪月桜  2017-02-07 01:51:07 

そして、マドラーに柚子ソーダをつたわせ注ぎ、最後に蜂蜜漬けの柚子を大匙二杯グラスに入れ、そこにミントの葉を一枚乗せて完成。
簡単なものだが、繊細さとセンスが必要な作業だ。
それはどこか人の世を思わせる気がする。
簡単に見えて繊細で、難しくて優しい、茅人には目の前のそれも、日常のそれも重なって見えてしまう。
「出来た、行ってくる」
「おう、行ってこい」
水城と短いやりとりを交わし、茅人は汐の元へ向かう。

  • No.19 by 雪月桜  2017-02-08 00:22:46 

茅人が持つステンレス製のトレイには、一杯の柚子ソーダと、それにあわせた銀の匙が一つ。
僅かに落とした店の照明に、それらは煌めいている。
「お待たせしました、柚子ソーダです」
汐のテーブルに茅人がコースターを置き、その上に柚子ソーダ、その隣に銀の匙を添える。
「ごゆっくりお楽しみください」
軽い会釈して微笑む茅人に、汐も優しく頷く。
「ありがとう、とても美味しそう」
グラスに触れ一口飲むと、汐は嬉しそうに微笑を浮かべる。
どうやらお気に召していただけたらしい。
カウンターに戻る際、茅人はちらりとその様子を確認し安堵した。

  • No.20 by 雪月桜  2017-02-08 00:42:28 

「喜んでくれたみたいだな」
戻ってきた茅人に、水城は優しく小声で話す。
「最初は少し焦ったけど、機嫌が良くなってくれて助かった」
安堵のため息と苦笑いを浮かべ、水城の言葉に茅人も返事を返した。
「だから初めに言っただろ、『最近荒れてる』ってさ」
水城は別のお客さんのドリンクを作りながら、意地の悪い笑みを浮かべ言う。
それに対して茅人は、帰り際に回収してきた使用済みグラスをシンクに置き、弱々しく反抗する。
「そんな『荒れている先生様』の所に、新人の俺を行かせたのは水城じゃないか」
「心配して行きたそうにしていたのは茅人、お前だろ?」

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