「いつか消え失せるなら初めから存在しなかったのと同じだ。
そう遠くない未来にあなたは僕の元を去るだろう。
僕もまた、あなたが去るのをただ何もせずに見ていることだろう。
そしてそれは大したことではない。
僕たちの間に愛なんてものはないのだからね」
男は古い敷布団の上で頬杖をついていた。
橙色の陽光が窓から射し込み、ふぅ、と気怠げに細く吐いた紫煙を照らす。
「そうね」
と、男の隣に寝転ぶ女は言った。
彼女は芳しい煙草の香りの中で解れ髪を病的なまでに白い指でなでつけていた。
「でも、それでいいのよ。ちょっと春にさよならをするようなものだわ」
女の言葉に男は少し笑った。
「消え失せようともまた訪れると、そう言いたいのかね?」
「ええ。だって愛なんてだらしのないものだもの」
男は永遠も、愛も、恋も、全くの虚像だと信じていた。
さりながら奇妙なことに、男はこの女に恋をしたのだった。
《暫くレス禁》