赤傘の名無し 2016-10-18 23:03:33 |
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それはある日突然、そりゃもう本当に一瞬で、気づいたときにはもう、辺り一面緑と茶色で埋め尽くされていた。
「――こ、ここどこっ!?」
よもやこんな迷子のような台詞を大声で叫ぶことが人生であろうとは思ってもみなかった。だが、それくらいしか咄嗟に口をついて出てくる言葉がなかったのだ。
やや日が落ち始めてはいるがまだ青さの残る空はよく茂った木々でその視界を狭められ、草や木の葉で覆われている地面は日の光が差さないせいか少し湿っている。ここが深い森の中だということは、まあ見れば分かる。
問題は全く見覚えのない場所だということだ。
…それどころか、いつここに来たのかさえ分からない。私は今ここに移動してくる前、一体何をしていた?
「えっと…とりあえず落ち着け、落ち着け…。まず私は…そう、学校から帰ってる途中だった。何時もと同じ校門から出て、何時ものように通学路を歩いて……で、何時もしてるみたいに道をショートカットしようと公園を横切ってそれで…… 」
…それから、どうしたんだったか。
何故か、その後の記憶がスッポリとない。公園を横切ってからその直後が、今目の前に広がっている景色と直結してるのだ。
「…い、いやいやいやいや…それはないっ。私の家の近所にこんな鬱蒼とした森ないし、そもそも公園抜けてすぐ森って…そんな地形じゃなかったし。」
手を振り首を振り、誰に対するでもなく、強いて言うならば自分自身に対して強く否定すると、前後の記憶を思い出そうと必死で考える。しかし、それ以上はどう頑張っても思い出せなかった。
しばらく悩んだ末、代わりと言ってはなんだが、動揺のあまりすっかり存在を忘れ去っていた我が相棒の存在を思い出す。
「…そうだ、スマホ!スマホで地図検索すればいいじゃん!」
そう、今や現代社会と切っても切れぬほどの縁として日常で使われるスマートフォン。もちろん、今ドキ女子高生である私も持っている。依存症というほどでもないが、それでも日々困った時には助けてもらっている便利アイテムだ。ネットにも繋げられるというところがその利便さの最たるところだろう。
「はあ、良かった。とりあえずこれで……」
私は慣れた手付きで片手でスマホの電源ボタンを押し、ロック画面を解除する。
帰れると思った。こいつ(スマホ)さえいれば万事解決すると思ってたんだ。
だが……おお、我が相棒(スマホ)よ。どうしてお前の画面には「圏外」だなんて表示されてるんだい?
そう、見慣れた私のスマホのホーム画面の上方には近頃めっきりお目にかかることが少なくなった「圏外」という文字が浮かんでいたのである。
「充電…は、問題ない。じゃあ、ここが電波も届かないほどの本当の山奥だってこと?
……まじで何で私こんなとこにいんの…?」
相変わらず公園から出た直後の記憶が曖昧な私にとって、この状況はいよいよ謎が深まるばかりである。
便利で頼もしいはずの賢い電話、スマートフォンも電波という壁に阻まれてしまっては、戦力外通告で今や薄べったい時計がわりにしかならない。
時間を確認するともうすぐ18時になろうとしている。
いくら今が5月で日が長くなってきた頃とはいえ、そろそろ日も暮れてしまう。
あいにく都会育ちであまり経験はないのだが、こんな電灯もない森の中はさぞかし暗くなることだろう。
ここがどこだかは分からないが、急いでここを出た方が良いことは明白だ。
「方角は…分かんない。けど、歩いてたらそのうちどこか知ってるところに出るかもしんないし。そしたらスマホの電波も入るかもだし。……とりあえず歩こう。」
一つ大きく息を吸うと、私は不安な気持ちを抑えて道なき道を一歩踏み出したのだった。
あれからずいぶん経ったが、歩けども歩けども一向に森を抜け出せない。それどころか、自分が今どこを歩いているのかさえちっとも分からないのだ。先ほどからずっと同じような景色が続いており、ここがもしかしたらさっき歩いたところかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
そうこうしている間に日が暮れた。…ええ、見事に暮れましたとも。
傾きかけていた日の光はすっかり姿を消してしまい、想像以上に真っ暗になった空には反対の方向からぼんやりと月が上ってきていた。
明るければ足跡などで来た道くらいは分かるかもしれないが、生い茂った草木に阻まれて足元は闇そのものでよく見えない。
おかげで先ほどから変な角度で石を踏んづけて足首を捻ったり、その時手をついた拍子に葉っぱで手を切ったりと散々だ。更に言うなら虫にでも噛まれたのか制服のスカートとハイソックスの間の生足部分が痒い。
決して体育会系ではない私にとって、数時間歩きづめの上のこのダメージはとんでもなく辛かった。
耐えかねて少し休もうかとその場に座り込むが、風に揺れる草木のガサガサという音がとても不穏なものに聞こえてしまって落ち着かないったらない。
私はお化け屋敷とかは平気な方だが、本物の闇とそれとじゃ比べ物にならないことを知った。
夜の森は魔物のようだ。真っ暗な闇が私も周りの草木も全てを飲み込んで私という存在ごと溶けて消えてしまいそう。
木々の隙間から覗く月の、頼りない光だけが私を救い上げてくれるようなそんな気がした。
こんな森の中、早く抜け出したいという気持ちが勝り、悲鳴をあげる体に鞭打ってなんとかもう一度立ち上がり、歩き出す。
歩き続けること更に数十分。足が棒になるとは正にこのことで、私はそこらに生えてる木を支えにしながらふらふらと歩いていた。
今更ながらこれはいわゆる遭難なのだろうかと思ったが、だからといってどうすればいいかなんて分からないし、じっとしてもいられないので歩き続ける。
途中途中でスマホを再度確認するが、相も変わらず圏外のままだ。
あまりに暗いのでスマホの懐中電灯機能を使おうかとも思ったが、あまり電池を消費するのは良くないだろうと思いつけなかった。
いい加減暗闇に目が慣れてきてはいる
が、それでもまだ暗い。…恐い。
このまま、このよく分からない知らない森の中をずっと彷徨い続けるのだろうか。どこにも出れないまま、帰れないまま。
こんなに暗いのは夜のせいだからだということは分かっているが、この闇が永遠に続くようなそんな錯覚に陥る。そのせいか気分もどんどん落ち込んでいった。
「……ここ、どこぉ…。誰かぁ…。」
少しでも元気を取り戻そうと一人で喋ってみるが、自身の声があまりに力なさすぎるのでなんだか逆に泣きたくなってきた。
遂に涙腺までやられそうになったその時、私の視線の先に光が映った。
唯一私の心の支えになっていた月の光よりも明るい、赤い光。
誰かいるのかも……!!
何の光かは分からないが、少なくとも木や草じゃない何かがある。近くには人がいるかもしれない。
そう思うと今まで感じていた疲れも忘れて、私はその光に向かって走り出した。
たぶんあそこに行けば人に会える!そしたら道を訊いて…きっと家に帰れる!
ああ、今何時くらいなんだろう。さっきスマホで確認したときはもう結構遅かったし、お母さん心配してるだろうな。
……怒られるかな、怒られるのはやだなー…。
そんな事を考えながらも、助かったと思うと自然と笑みがこぼれていた。
もう少しであの赤い光の元に着くというところで、光に照らされて揺れる人影のようなものが見えた。
やっぱり…!誰かいる!!
「あの…!」
草を掻き分け、はやる気持ちのままに私はその人影に向かって声をかける。
たぶんその時の私は髪の毛もボサボサで、服とかも泥で汚れまくってて、虫刺されで肌もところどころ赤くなってて、さぞかし滑稽な姿だったことだろう。
しかしそんなものを気にする余裕もないくらい疲れていたし、何よりも人がいるということに安堵していたのだ。
だけど、木々の合間の少し開けた場所に駆けこんできた私の目の前にまず映ったのは鋭い何か。
そしてそれをこちらに向かって差し出している、全身真っ黒な服で顔さえも覆っている怪しい人物。
何が起こってるのか分からず、数度瞬きを繰り返しながら差し出されているその何かを凝視する。
それは、長い長い一本の刃物……いわゆる、剣。
剣の切っ先がこちらに向けられているのだ。
その時、頭のなかでプツリと何かが切れるような音がした気がした。瞬間、暗転していく視界とふわふわと宙に浮かぶような感覚に見舞われる体。
ああ……私倒れてるんだな、なんてやけに冷静な感想を最後に、私は意識を手放した。
とりあえず今日はここまでにしておきます。
注意のところに書き忘れてたのですが、とんでもなく亀更新です。
前置きめちゃくちゃ長いですね…。もっとテンポよく書けるように努力します!
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