名無し 2016-10-10 00:20:45 |
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一 或る男の追憶
鉄の塊であった付喪の神は、審神者と呼ばれる女に人の身を与えられ、歴史を守るべく自身を振るい、戦の終焉を迎えると静かに眠った。
―――肩を並べて戦った男への、秘めた想いを身体と共に捨て置いて。戦いが終わればお前は消えるのだと、そう聞かされて諦められる程度の恋だった、わけでは決してない。ただ、どうにもできないことをどうにかしようとは思えなかっただけなのだ。
どうすることも、できなかっただけだった。
しかし男は再び人の身を手にすることとなる。今度の身体は傷の治りが遅い。厄介なことに「病気」も患っていた。不便を感じる事も多かったが、これが「人間」ってやつなのだろう。幼子の頃から朧気にあった過去の記憶は歳を重ねるにつれて完全なものになり―――いや、過去の記憶というのはおかしいかもしれない。西暦199X年。付喪神として目を覚ましたあの頃よりも、200年以上前の時代に、記憶を持って、本当の人間へ、生まれ変わったのだ。
不思議なこともあるものだ。実は戦いは終わってなんかいなくて、自分が今ここに存在するのもまた歴史改変の一欠片なのかもしれない。いつかなんの前触れもなく、何処かの本丸の誰かによって歴史が正されて、自分は消えてしまうかもしれない。
それでも良いと思っていた。置いて行ったはずの恋心を燻らせたまま、あの人のいない世界で生きるなんて、そんなの。
「 ――――、か? 」
ああ、運命だと思ったさ。消えたくないとも、思ってしまった。
だから今度は届いてよ、どうか。
二 或る男の独白
鉄の塊であった付喪の神は、審神者と呼ばれる女に人の身を与えられ、歴史を守るべく自身を振るい、戦の終焉を迎えると静かに眠った。
―――己に肉を与えた女への、秘めた想いを身体と共に捨て置いて。戦いが終わればお前は消えるのだと、そう聞かされて諦められる程度の恋だった、とは思いたくないけれど。ただ、どうにもできないことをどうにかしようとは思えなかっただけなのだ。
どうすることも、できなかっただけだった。
しかし男は再び人の身を手にすることとなる。今度の身体は傷の治りが遅い。本当の「人間」だ。幼子の頃から朧気にあった過去の記憶は歳を重ねるにつれて完全なものになり―――いや、過去の記憶というのはおかしいかもしれない。西暦199X年。付喪神として再び目を覚ましたあの頃よりも、200年以上前の時代に、記憶を持って、本当の人間へ、生まれ変わったのだ。
不思議なこともあるものだ。実は戦いは終わってなんかいなくて、自分が今ここに存在するのもまた歴史改変の一欠片なのかもしれない。いつかなんの前触れもなく、何処かの本丸の誰かによって歴史が正されて、自分は消えてしまうかもしれない。
それでも良い。置いて行ったはずの恋心を燻らせたまま、あの人のいない世界で生きるなんて、そんなの。
耐えられない。早く、終わってしまえばいい。
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