切裂 2016-09-10 16:54:31 |
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(/そうですね……。その時その時によってかなり長さが変わってしまうという悩みがありまして……。100以上は確実に回せるとは思うのですが、どうでしょうか?)
「しまった……今日非番だった……。」
今日は仕事が無いにも関わらず、いつもの通り日が昇り始めた数十分後に目を覚ました彼は、慣れた手つきで朝食を作り終えたと同時にその事を思い出した。まだスーツに着替えていなかったのが不幸中の幸いか。けれどももう頭は覚醒してしまっており、いつもなら時間があるから二度寝をしようとするのだが、それすら出来ない状況だった。慣れって怖いな、と小さく溜息をつく。時計を見れば現在は午前7時半前。仕方が無い、と彼はエプロンを外すと同居している彼を起こそうと彼の部屋のドアをノックした。
「……起きてるかー?……」
(/こんな感じで宜しいのでしょうか……!すみません、こんな感じのロルしか回した事がなく……。主様のご希望の回し方等ございましたらなんなりとお申し付け下さい!
それと、不躾なのですが、主様のキャラのお名前の読みを教えて頂いても宜しいでしょうか……?)
「…はい、ちょうど今目が覚めました…」
コンコン、とドアをノックする音に目を覚まし眠たげな声で返事をすれば朝食のいい匂いがする。まだ少し億劫になりながらもそのドアを少しだけ開けてみて、相手の顔を確認。へにゃり、と殺人鬼とは思い難い笑顔を向けると顔を洗いに洗面所へ行き真っ先に手を洗う。相手は警察、自分は殺人鬼。もちろん昨日も人を殺めてきたのだ。念入りに何度も手を洗うと今度は鏡に向かって笑って見せた。心の中で大丈夫と何度も呟く。そうしなければ不安で仕方なかった。そしてまた何も無かったかのように顔を洗い、相手の元につく。
「えっと、立花さんおはよう…ございます」
(/大丈夫です!あ、しんばね、きりさきって読みます。フリガナ打っていなくて申し訳ございませんでした)
「おう、おはよう。朝飯早く食っちまおうぜ。」
顔を洗ってきたのだろうか、洗面所に行き戻ってきた彼からは石鹸の香りが強く漂っていた。
静かに自分に挨拶をする彼に、いつもの通り笑顔で挨拶をし返す。朝食が並べられたテーブルの自分の定位置の場所に座れば、静かに手を合わせて「頂きます。」と呟き朝食を食べ始めた。
今日の朝のメニューはベーコンエッグにチーズを乗せ焼いたトースト。それとお好みでコーヒーだ。
自分が作った料理を自分で評価しながら、今日の予定について口を開く。
「今日さ、久し振りの非番なんだけどさ……榛葉音さえよければ、どっか行くか?」
(/成る程!有り難う御座います!こちらこそ教養がなく申し訳ございません…!)
「そうですね、起きた時からお腹ぺこぺこですよ…」
ぐぅ、と腹の虫を鳴かせながらそう言えばとても説得力があった。机に並べられた朝食をまじまじと見てなんだかカフェのモーニングフードのようだと思えば自身でコーヒーを淹れ、癖のように食事の隣にお気に入りの小説を起きいただきます、と手を合わせそのまま小説を手に取りゆっくりと朝食を味わっていた。
自分の名字をよばれビクッとするも、今日の予定を聞かされれば目をキラキラと輝かせ、珍しく自己の意見を主張する。
「行きましょう、行きましょう!僕でかけたい…」
名前を呼ばれ身体をビクつかせたかと思えば、子供の様に目を輝かせて意見を主張する彼に、思わず小さな笑いが出る。
「はは、分かった、分かったから。飯食い終わるまでに何処行きたいか考えておけよ?それと……。」
スッ、と彼が持っている本を指させば、「行儀悪いぞ?」と小さく笑う。彼と食事を共にするようになってから気付いた彼の癖で、最初はあまりよく思っていなかったものの、最近は気にならなくなっていた。それ程までに本が好きなのだと感じられるし、自分ですら一人暮らしの時はやりかねなかった。実際やった経験もある。だからこそ、あまり強くは言えなかった。何処か葛藤しながらも、「まぁ、いいか。」なんて自己完結し、トーストに齧り付いた。
「あ、あぁ…ごめんなさい。今日の朝食、カフェのモーニングフードと似てたからつい…」
注意をされてここがカフェ出ないことを思い出す。
彼から諦めの言葉が出た時に、2人で食事をしているのにこんなことをして良いものかと自問自答を繰り広げた結果、良くないと判断し、本を隣に置きこちらもトーストに小さく歯形をつけた。
相変わらず、美味しい。
そう感じると自然と食べるスピードもましていき、早くもトーストを完食してしまった。
「…図書館とか、ショッピングなんてどうでしょうか」
2人での食事なのに無言は寂しいと感じたためか、先ほどの話___出掛ける先について提案してみた。
「図書館に買い物か……よし、そうするか!」
提案された場所を反復するように呟き返せば、うん、と納得したように小さく首を縦に振った。確かに、最近何かと忙しくて落ち着いた場所に行ってないし、買い物もしたかった。何より、場所のチョイスが彼らしいな、と感じる。場所が決まった事により何処かワクワクしてきた彼は、食事を取るペースを早めにした。出掛ける事が楽しみだなんて、何年ぶりだろう。
「まずは図書館行ってからだな。あ、それとも本屋にするか?後服とかも見たいな……。」
久し振りの休みに行きたい所が多すぎる。もう少し長い休みが取れたら、旅行とかも行きてぇな。なんて想像して小さく笑った。
「ふふ、早く食べすぎて喉つまらせないで下さいね…!」
そんなこといいつつ実は自分もとても楽しみでいるなんて言えずただニコニコと笑っている。相手もなにやら考えてクスッと笑ったところを見届け早めに完食してしまえばごちそうさまでした、と言うと幾度となく読んだのであろうページを捲った後を何重にもつけてしまった先ほどの本を手にした。確かに人を殺める目的なしで2人で出かけるなんていつぶりだろうか、と記憶の糸を辿りながら紙をめくる。
「本は帰りでも大丈夫ですよ、僕。というか、ファッションに無縁だから服、見に行きたいです僕も」
控えめに言えば口元を隠し行きたい所の絶えない相手に殺人鬼であったとは思えないような優しい微笑みを向けた
「じゃあ、服見に行って、 足りない日用品買って、本屋か図書館だな!」
残った朝食をかき込めば、「ご馳走様でした!」とその勢いのまま手を合わせる。
小さく微笑む目の前の相手に軽く照れ笑い返せば、椅子から立ち上がった。食器を持ち、水場へ向かう。
すぐに食器を洗ってしまおうとスポンジを手に取れば、これからの予定が楽しみすぎるのか、小さく鼻歌が溢れた。そこでふと、初めて彼にあった時の事を思い出した。あの時の彼は人を誰も寄せ付けず、誰も信用しないと言った暗く、寂しく、とても凶暴な目をしていた。それが、今じゃ普通の人と何ら変わりない生活に、随分と柔らかくなった表情。変わったんだな、と1人でに納得する。うんうん、と頷けば、彼の分の食器も纏めて洗ってしまおうと声を張り上げた。
「食器今のうちに洗っちまうから、持ってきてくれー。」
「はい、お待たせしました!」
よいしょ、という掛け声とともに食器を運んできて小さくお願いします、といいながら相手に渡した。
しばらくは台所の隅に立って相手の後ろ姿をぼんやりと眺めているとふと、なんとなく相手に触れたくなってそのまま後ろから優しく小さいけれど何処か強く感じるその背中に顔を埋め暖かい、と感じるとずっとおしのように黙ったままゆっくりと手を回し離れないように締めた。
しばらくすればちいさく呟く。
「もっと早くに触れていたかった…なんて。」深い言葉を投げかけた後、それを取り消すように笑い飛ばす。それでも今はなんとなく離れたくはなかった。
可愛らしい掛け声と共に食器が置かれ、「おう、ありがとな。」と彼に微笑む。
そのまま食器を洗い続けていると、背中に何か温かい温度が伝わってくる。軽く驚いていると、今度は手が回ってきた。彼が呟いた言葉に心がどこか重くなる。
「……何だ、今日は甘えんぼかー?……ほら、おいで。」
食器を全て片付け手を拭けばクルッと半回転をし、手を大きく広げた。たまに彼は自身の事を重く見つめる時がある。そういう時はいつもこうして彼を精一杯抱き締める。長い時間をかけて、ゆっくりと、お互いの体温が同じ温度になるまで。
まだ、彼と同居をしていない、まだ出逢ってもない時のこと。彼を逮捕する為に一方的に追いかけて、彼の事を調べていた時のこと。どういう経緯で彼の過去を知ったのかは覚えていない。けれども、知った時の衝撃は、感じた事は、1ミリも逃さず覚えている。『あぁ、きっと、寂しかったんだ』『きっと、誰かから愛されたかったんだ。』『誰かの、大切な存在になりたかったんだ』そう感じた瞬間、涙が溢れたのを覚えている。「大丈夫。もう1人じゃねぇよ。」なんて子供をあやすような優しい声で呟いた。
優しい声で呼ばれた。そうしてゆっくりと抱きしめられた。ずっと一人ぼっちだった自分には感じたことのなかった温もり。死体のように冷たくならない温もり。それを早く感じていたらこんな手を汚すことなんてなかっただろうにと抱きしめながらも手を見つめた。
しかし温もりだけでなく彼は気持ちまでわかってくれた。そう思うと心の柱が崩れて今にも自分が壊れそうに感じた。
もうひとりじゃない…そんな言葉に嬉しいとお萌えたものの抱えた闇の大きさに涙は出てこなかった。
「…牢屋は、冷たいですか?…僕はまた一人ぼっちになってしまいますか?」
自首しようということではなく、なんとなく聞きたかった。
いきなり刑務所の話をされて驚くも、うーん、と小さく唸った。そのまま彼をあやす様に背中を何回か優しく叩きながらその質問に答え始めた。
「まぁ、当然ながら俺は入ったことないから分かんないんだが……今は設備も充実してきてるらしいし、寒くはないと思うぞ?後ほかの受刑者もいるだろうから、寂しくもないかもなぁ……。でも、」
そこで言葉が止まる。そのまま言おうとした言葉が、今の立場で言っていい事なのか。そう自覚してしまい喉で突っかかった。『でも、俺は寂しくなる』なんて、普通一端の刑事が殺人鬼に言っていい言葉ではない。いや、同居している時点でもう普通ではないのだが。けれども、彼にしてしまえばそれは建前で、本当は彼と離れることで『寂しい』と思ってしまうかもしれない、という自分の事実を認めたくなかった。だって、彼が自首してしまえば、捕まってしまえば、一生会えなくなるのは確実なのに。そこまで彼は罪を重ねすぎ、彼の罪は大きく膨らみすぎたのだ。
「まぁ、榛葉音を捕まえるのは俺の役目だし、もし自首したとしても毎日でも会うことになるだろうな。取調べとかで。」
暗くなった自分の考えを、気持ちを吹き飛ばすように小さく笑った。
「それなら安心ですね、立花さんの顔を見れるなら安心です。立花さんにならなんでも話しますよ…捕まれば助からないですけどね」
優しく叩かれる背中に安心感を覚え、捕まった時のことを想像しなんとも思っていないのか助からないと簡単に悟った。ここまで捕まらずにやってこれたのは奇跡なのだ。たくさんの命を摘み取り、命が消えゆくその瞬間をこの手で腕の中で幾度となく感じてきた。愛されなかったからこそ得られなかった暖かさを胸にしまい込むように抱きしめて。血に塗れるのは少し暖かくて心地よかった、など不謹慎なことを思い出せば頬が緩み微笑んだ。
しかし今は抱きしめてくれる人がいて、面倒を見てくれる人がいる。それが一般人には当たり前なのに、夜になれば今日が恋しくなる。
「もし、僕が捕まって刑を執行されるのならその時は…誰も僕を抱きしめてくれる事はないのでしょうね。誰もなくなった僕を知りえない…さみしい話ですね」
寂しい、とても寂しいけれども嫌ではなかった。何も感じることができなくなるから。世間も平和を望むから。また静穏な日常が、繰り返されるから。
「そうだなぁ…。お前がどんな顔して笑うのかとか、お前の好き嫌いとか、知ってるのは俺だけになっちまうなぁ…。」
人は、他人に何かを残そうとする傾向がある。それは物でも物でなくても同じで。他人の中に、自分の生きた証を、自分が此処にいたという証拠を、自分の体温を、感情を、行動を。もし自分が消えてしまった時、1人でもいいから、自分を覚えていてくれる様に、悲しまない様に、寂しくない様に。「お前の最期は俺の手で消してやりたいなぁ…。」なんて思ってしまうのは、刑事としてはあるまじき考えで、人としてももう堕ちてしまっているのだろうか。
「……俺は、覚えてるから。お前の事、ずっと。」
俺だけが、覚えていればいいんだ。お前の悲しい過去も、お前の体温も、お前との生活も、全て。何処か独占欲に似たその感情は、小さな塊となって心の中へと消えた。
「覚えておいてくださいね。僕はギリギリまで貴方に…全て教えますから。」
相手の言葉に嬉しそうに頬を赤めて微笑みより一層くっついた。ぬくもりだけでなく体の形…骨の形まで、ありとあらゆることを、自分も知りえない自分のことも全て覚えていてもらいたかった。自分が過去の人物になる頃には相手は僕のぬくもりを求め、涙を流してくれるのだろうか。もしかすると死刑の前に相手が僕のことを殺しに来てくれるのではないだろうか。そんなありもしない汚れきった希望を心の奥で温めておいた。「…出かける準備、しましょうか。心に残るように写真でも撮りながら。」我ながらいいアイデアだ、とひとりで頷き沈んでしまった2人の空間を無理やり明るくさせる。ぱっと相手から離れ自身の財布を見る。最近相手と暮らしすぎて金銭感覚が狂っていたのか所持金はまぁ、言うまでもない。金欠…その言葉が頭に響き渡るとなんとも情けない泣きそうな顔で相手をじっと見つめる。これは相手と暮らすようになってから身についた一種の甘えである。その目をぱちくりさせて口を開けばこう言う。
「今からお金稼ぎに行ってもいいですか…」
「お、おう……?」
何処か子犬のような顔をした彼の口からお金稼ぎ、なんて物騒な言葉が出るとは。戸惑い思わず目を丸くした所か首が傾いた。まぁ、気にしないとしよう、とひとりでに納得する。思い出作りに写真でも撮ろう、と言われたのを思い出し着替えつつカメラでも探すか、と自分の部屋へ向かって歩き出した。最近は携帯のカメラも画質が良くなってきて侮れないのだが、あれはどうも苦手だ。消えてしまう確率が高いし、どうせなら形に残したい。部屋着から私服に着替えれば、机の引き出しを開けカメラを探し始めた。
「お、あった……。よし、まだ使えるな。」
一度起動して使えることを確認すれば、それを持ってリビングへと向かった。
「1、2、3……少し足りないかもしれない。」
数分もの間に良からぬことをして手に入れたお金を数えていれば足音に気づきすぐさま財布に戻し優しい笑顔を振りまく。カメラを用意したのか、と目を見開くも初めての写真なんだよなぁと思えば思わず近寄り珍しそうにジロジロと観察をし始めた。いつも映らないようにと思って避けてきたこのレンズの中に自身の形が残ることが嬉しく頬をほんのり赤く染めて微笑んだ。
「かめら…僕、初めてです。間近で見るのも堂々と映るのも」鏡で見るものと違うその一時が、形となって現れる瞬間を想像しては心が高ぶり素早くカバンを取ればキラキラと輝く純粋な眼差しで
「はやく、はやく行きましょう…!」と腕を引っ張り玄関まで引きずった。
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