月の書室

月の書室

月  2016-09-03 18:33:52 
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元ネタ・オリのblが基本の小説集です。
著者は私、月のみですのでよろしく
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では、始めます

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  • No.61 by 雪月桜  2017-02-10 02:09:44 

少なくとも、銀色は糸と相性が悪そうだ。
そんな考えを内に秘め、織と糸の後ろについていく。
屋敷の廊下を数歩進むと、前を歩く二匹の足が止まる。
どうやらこの襖の向こうが客間らしい。
糸が襖を開け先に入り、その後ろを織が楽しそうについていく。
部屋の中には銀色から見て右側に、よく分からない鳥と魚の掛け軸が壁に掛けられており、その下に菖蒲の入った一輪挿しが一つ。
左側には特に何もなく、中央には縦に長い木の卓袱台。
上座と下座には何もないが、奥側には二席、手前には一席の座椅子があった。
「どうぞ、座って」
右側に座った織が、微笑み席をすすめる。
左側に座った糸は、お茶の準備をしているようだ。

  • No.62 by 雪月桜  2017-02-11 01:58:43 

銀色が座イスに座ると、糸は丁寧な仕草で煎茶を入れる。
「さて、銀色君、君の願いをまずは聞こうか?」
糸が入れたお茶で喉を潤し、織が話す。
しかし銀色はその質問に、すぐに答えたりしない。
「その前に、いくつか聞きたい事があるんだけど、聞いて良いか?」
「良いよ、僕達が答えられる範囲なら」
真剣な表情の銀色に対して、織は相変わらずの笑顔だ。
答えられる範囲と言う事は、答えを知っていても、答えられないものがあると言う事だろう。
糸の入れたお茶を一口飲み、銀色は質問を始めた。
「まず第一に、此処の主の名を教えてほしい」

  • No.63 by 雪月桜  2017-02-19 01:19:56 

その言葉に織と糸は互いに視線をあわせ、小さなため息をつく。
「あのさ、糸、なんで此処に招いたお客さんは皆同じ事を聞くのかな?」
「しらねぇよ、俺に聞くな」
呆れたような表情で話す織と糸の言葉を聞き、銀色は疑問を浮かべる。
《此処の主》が願いを叶えてくれる者ならば、その人の名を知り、直接挨拶をしたい。
銀色の考えは正論と言えるだろう。
そんな銀色の真剣な瞳に答えたのは、織の方だった。
「緊張感を壊すようで悪いけど、此処の屋敷の主は僕らなんだ」
織の言葉に銀色は驚きを隠せない。
だが、そんな銀色の精神など無視し、糸が続ける。
「此処の主は僕達、黒衣織と黒衣糸。黒猫の妖人、黒衣兄弟の屋敷なんだよ」
苛立つように告げる糸の態度を銀色は見つめ、再び織を見る。

  • No.64 by 雪月桜  2017-02-19 02:46:35 

「つまり、君達が此処の主であり、願いを叶える力を持つ者っていうことか?」
「だから、そう言っただろう」
銀色の確認の言葉に糸は尾で苛立ちを表し答え、視線だけで織に話を進めるよう促す。
その様子に織もため息を混じらせ、銀色に聞く。
「他に何か聞きたい事は?」
織の言葉に冷静さを取り戻し、銀色は次の質問をする。
「願いを叶えてもらうために、俺は何をすればいい?」
詳細を聞かされていない銀色でも、都合良く簡単に願いが叶うとは思っていない。

  • No.65 by 雪月桜  2017-02-25 01:07:31 

なるべくなら願いを叶えてもらいたいが、対価によっては諦めるしかないだろう。
思考を巡らせる銀色に、織は微笑みを交え答える。
「そんなに慎重にならなくてもいいよ。簡単な遊戯に参加してくれれば良いだけだからさ」
織の言葉に銀色は、自身の名と同じ色の耳を僅かに伏せ疑問を表す。
「もう少し分かりやすく説明してくれないか?ただの遊びではないのだろう?」
銀色の言葉に痺れを切らしたのか、糸は急に立ち上がり不機嫌さをより強く表した。
怒らせてしまったのだろうかと銀色が思う中、糸がとった行動は掛け軸の前に置いてあった一冊の本を持ってくるというものだった。
その本には「楽しい遊戯の進め方」という、直筆による題名らしきものが書かれている。

  • No.66 by 雪月桜  2017-02-26 04:25:20 

「今から説明するから黙って聞いてろ。質問は後で纏めてしろよ」
銀色の前に本を置き、糸がページを開いていく。
「期限は無期限で、勝敗が決まるまで続ける。お前が勝てばお前の願いを叶えてやるが、俺達が勝てば俺達の願いをお前が叶える。願いは勝敗が決まってから内容を告げる。遊び方は簡単に言えば相手の願いを叶えても良い、または自身の願いが叶わなくなっても良いと思わせた方が勝ち、思った方が負けだ。だいたいこんな感じだが、何か質問あるか?」
簡潔だが、実に分かりやすい説明を聞き、銀色は最後に一つ質問する。
「参加を辞退したい場合はどうすればいい」
銀色の問いに答えたのは織だった。
「出来ないよ。そもそも遊技が終わるまで、君はこの屋敷から出る事すら叶わない」
お茶を啜りながら平然と告げた織の言葉に、銀色は恐怖を覚える。
辞退出来ないと言う事は、銀色が屋敷に訪れた時に既に遊戯が始まっていたという事だ。

  • No.67 by 雪月桜  2017-02-26 04:58:40 

織の言葉は穏やかだが、そこに先ほどの優しさはない。
後ろの道が途絶えたのなら、銀色が進める道は一つだろう。
「分かった、必ず俺はこの屋敷から出る」
銀色の瞳に恐怖は消え、決意の色に変わった。
その言葉に織は楽しそうに微笑み、糸は訝しげな目線を送る。
琥珀の瞳が銀色を捕らえる。
黒に映える琥珀の瞳は、今は見えない満月の色によく似ていた。

  • No.68 by 雪月桜  2017-03-04 23:22:09 




   ー 弐話目 双黒の刻の始まり ー

  • No.69 by 雪月桜  2017-03-05 02:19:47 

銀色が屋敷に来て始めての朝がきた。
昨晩、あのあと説明を聞き終えた銀色は、糸と織に案内されて客間に通されたのだ。
客間は玄関の廊下を真っ直ぐ進み、突き当たりで右に進み、そのさらに奥の突き当たりの右の部屋だった。
外観からも大きな屋敷なのは分かっていたが、それにしても広い。
『所詮平屋だから、ただ広いだけだよ』と織は言っていたが、この屋敷の管理は相当大変だろう。
なにせ全ての部屋を見て回ろうものなら、一時間はかかりそうだ。
『掃除はしなくても自然と綺麗になる』と、糸が言っていた事が気になるが、今の銀色にそれは大した問題ではない。

  • No.70 by 雪月桜  2017-03-05 16:34:47 

「ここまでか…」
客間の障子を開けると、森の木々の間から朝の木漏れ日が優しく輝く。
柔らかく吹く風は、小さな庭に咲く花々の香りを運んで銀色に届けてくれた。
縁側には下駄があり、試しに進んでみると、庭には出られるようだ。
花にも触れられたが、植え込みの反対側には行けそうもない。
見えない壁、結界のようなものがあるようで、その先には行けない。

  • No.71 by 雪月桜  2017-03-05 18:36:32 

「それにしてもこの結界、随分強力みたいだな」
この広い屋敷を包むのには、随分な妖力が必要なはずだ。
ましてやあの立て札も普段から遠距離で隠しているらしいし、強度もかなりのものだ。
普通の妖人でもこれほどのものは難しい。
「黒猫の妖人は妖力が強いと聞いていたが、これは凄いな」

  • No.72 by 雪月桜  2017-03-12 02:40:31 

結界壁に右手を触れると、透明な壁に似た感覚を覚える。
ガラスにも似ているが、冷たさは感じない。
「変な感覚だな…」
右手を離し、空を見上げていると一陣の風が吹いた。
風は通り抜けられるのに、銀色は通れない。
通すものを選ぶ結界に、思いを浮かべていると背後の銀色の部屋から声が聞こえた。
「朝飯、出来たから、着替えて昨日の部屋に来い。早くしろよ」
糸の言葉使いは相変わらず悪いが、今は少しだけ彼の優しさが分かる気がする。
糸の右手には、銀色が此処に居る間の替えの服が抱えられていた。
糸は別に性格が悪いわけではない。
言葉使いは悪くても、性格は親切で優しさもある。
「ありがとうな、和服か。俺、和服って着た事ないんだよな…」

  • No.73 by 雪月桜  2017-03-12 09:44:32 

受け取った着物は濃緑の生地に、大柄な紫菖蒲と、銀の糸が流れるよう刺繍されていた。
帯は濃紺に、漆黒の糸が刺繍されていて、時折それが煌めいている。
渡されながら困惑する銀色に、糸は呆れつつ再び着物を手に取った。
「たく、仕方がねぇな。着せてやるから来い」
本人は否定するだろうが糸はやはり、優しい人のようだ。
微笑を浮かべ、銀色は急かされつつ部屋にあがる。
「悪いな、というか、この屋敷には和服しかないのか?」
「別に用意するのは簡単だけど、こっちの方が落ち着くんだよ」
銀色の前に立ち、時折腰を屈め着物を素早く丁寧に着せながら糸は疑問に答える。

  • No.74 by 雪月桜  2017-03-18 22:26:49 

繊細で丁寧な糸の指先の動きは、普段の慣れが見て取れた。
男にしては細く長い指先、日に焼けていない滑らかな肌が、銀色の瞳を捕らえてやまない。
「どうかしたか?」
その視線に気づいていなかったらしい糸は、着付けを終え銀色の様子を見つめる。
「いや、なんでもない」
糸の言葉に銀色は我に返り、視線を外す。
やましい気持ちなどはないが、どこか落ち着かない心を隠すには他にしようがなかった。
「きつくはないと思うけど、どうだ?」
「問題なさそうだ、ありがとう」
糸が帯を確認しながら訊ねた言葉に、銀色も作り笑いで礼を述べる。

  • No.75 by 雪月桜  2017-05-03 21:52:45 

「別に礼とかはいらねぇよ。ほら、冷めないうちに朝飯にするぞ」
訝しげに銀色を見つめ立ち上がると、糸は廊下へ続く襖を開け振り向く。

  • No.76 by 雪月桜  2017-05-04 00:28:35 

糸の数歩後ろを歩きながら、銀色は先ほどの結界について聞いてみた。
「あのさ、さっき庭に出てみたんだけど、結界みたいなものがあったんだ。結構頑丈に出来ているみたいだったけど、あれは誰が作っているんだ?」
銀色の問いに振り向いた糸の瞳には、呆れの色が見える。
「お前、やっぱり頭悪いだろ。あんなに強くて広くて濃い結界が一人で作れるわけないだろう。あれは簡単に言えば俺と織、二人の妖力から出来ている」
話しながら歩みを進めていたせいか、糸と話している間に目的の部屋についてしまったようだ。
糸が襖を開けるとすでに織は席についており、おひつのご飯を三人分の茶碗によそっていた。
「おはよう、銀色君。話は朝食を食べながらにしよう」
織の優しい声に従い、銀色も昨日座った席につく。

  • No.77 by 雪月桜  2017-05-05 01:40:39 

卓袱台の上には三人分の朝食が並べられていた。
焼き鮭に大根おろし、だし巻き卵にこまつなのお浸し。
味噌汁の具が葱と豆腐という事は、彼らが葱科の食物を食べれる証明と言えそうだ。
「いただきます」
丁寧に手を合わせる銀色を織は微笑み、糸は意外そうな表情で見つめる。
「銀色君って、以外と礼儀正しいんだね」
焼き鮭を摘みながら織は思った事をそのまま言葉にした。

  • No.78 by 雪月桜  2017-05-06 01:21:54 

「そうか?そんなつもりは特にないけど」
首を傾げ、だし巻き卵を摘む銀色を、織は満足そうに見つめた。
そんな二人を見つめ糸が先ほどの話を、食卓に交える。
「さっきの結界の話だけど、詳しく説明しておいた方がいいか?」
糸の言葉に一瞬の間を置き、銀色は頷いた。
あれだけの話では今一要領が得ないし、可能なら聞いておくに越した事はないだろう。
しかしその説明は糸の口から説明されず、その隣に座る織から告げられた。

  • No.79 by 雪月桜  2017-05-06 01:45:22 

「それについては僕から説明するよ。先ほど糸から聞いたのは、どこまでかな?」
食事の合間に話すのはあまり行儀が良いとは言えないが、屋敷の主が承諾しているのならば問題はない。
銀色は味噌汁を一口啜り、先ほど糸に聞いた話を簡潔に織に言った。
箸を進めながら銀色の話を聞いた織は、食後のお茶を啜り結界についてさらなる細かい説明を銀色にする。
「確かにあれは僕と糸の妖力を元にしているけど、それはこの屋敷の力を利用しているからなせる技なんだよ」
「屋敷の力?」
銀色の疑問に織は小さく頷き、説明を続ける。
「この屋敷は契約した主の力を増幅し、屋敷内のすべてを支配する事が可能になる。だからその力を行使する事で、屋敷の管理から強結界の発動、維持も可能っていう事なんだよ」

  • No.80 by 雪月桜  2017-05-06 01:51:35 

世間話でもするかのように発せられる織の話は、銀色を驚かせるには十分だった。
だがそれとともに、銀色の中には小さな疑問が生まれる。
「確かにそれならあの結界の事も、掃除が不要な事も納得できる。だけど、それにはそれに見合うものが必要だろう?」

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