紫陽花とクローバー(小説)

紫陽花とクローバー(小説)

YUKI  2016-08-21 01:55:44 
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  • No.21 by YUKI  2016-09-14 02:18:56 

二時間程過ぎると、店内はすっかり落ち着きを取り戻す。
落ち着いた時間の中軽食を取りつつ、外を眺めていると彼の姿が見えた。
「いらっしゃいませ」
彼に今日、二度目の挨拶をする。
「少し、落ち着いたみたいですね」
「ええ、素敵な本は見つかりましたか?」
彼からの問いかけに答えながら、奥の窓辺の席へ案内した。
「書店に立ち寄った際、気に入ってるシリーズの新刊を手に入れました」
席に座る彼の手元には、近所の書店のロゴ入り紙袋が握られている。
「あの時出かけて正解でした」
そんな会話をし互いに微笑むと、彼は買ってきたばかりの本に目線を移し、藤白は仕事に戻る。
彼におしぼりと飲み水を運んだ後、藤白の名を呼ぶお客様の声に彼は反応したようだ。

  • No.22 by YUKI  2016-09-14 23:13:36 

再び彼の元に行き注文を聞いていると、彼から唐突な質問をされた。
「あの、店主さんは藤白さんというお名前なんですか?」
「そうですよ、あ、ちょっと待っててくださいね」
彼からの今更な質問にあっさりと答えた後、藤白はカウンターに向かい、レジ横にあるお店の名刺を持て来た。
「はい、どうぞよかったらお持ちください」
その名刺は、裏はスタンプカードになっており、表にはお店の名前、住所と電話番号、休業日に開店時間。
そして、店主の藤白の名前が印刷されていた。
「藤白雪、さん」
「はい、先ほどのお客様達はそのカードを見てから私の名前を知ったらしくて、それからは名前呼びなんですよ」

  • No.23 by YUKI  2016-09-15 02:03:22 

そういえば、彼はいつも会計時にスタンプカードを出していなかった。
いつも初めて来店したお客様にはスタンプカードの話しを一言添えているのだが、あまり何度も伝えるのも失礼かと思い、藤白は一度断られたらそれ以上は言わないようにしている。
常連のお客様のほとんどの方はカードを持っているが、持たない物も少なくはない。
おそらく彼も煩わしく感じ、作るのを断ったのだろう。
「なるほど、では、僕も藤白さんとお呼びしても良いですか?」
「はい、では、ご注文の品を用意するので少々お待ちくださいね」
そんなこと、わざわざ聞かなくても良いのにと微笑を浮かべ、藤白は厨房に向かう。

  • No.24 by YUKI  2016-09-15 02:42:08 

彼からの注文の品物を作りつつ、他のお客様にお飲物を用意し、運び、食事を終えたお皿を片づける。
学生の頃から続けていた仕事のせいか、今では慣れたものだ。
しかし彼から見たらそうではないらしい。
「喫茶店のお仕事って大変そうですね」
注文を受けていた作りたてのオムライスを彼の元に運ぶと、突然彼は藤白に呟いた。
「そうですね、土曜日や祝日のランチタイムは忙しいですけど、それ以外はそうでもないですし、この仕事が好きだし、楽しいから忙しくても平気です」
確かに忙しい時や力仕事の時は大変だけど、それでもこの店が、仕事が嫌になったことなど一度もない。

  • No.25 by YUKI  2016-09-16 00:54:44 

毎週水曜日の休みもあるし、体調さえ崩さなければ一人でも何とかなるものだ。
「確かに藤白さんはいつも楽しそうですね、ではいただきます」
彼がオムライスを食べ始める様子を片目に、藤白も厨房に戻る。
その後、一時間もするとお客様は彼だけになった。
先ほど食後の飲み物を届けにいった後からは、彼とは特に会話もない。

  • No.26 by YUKI  2016-09-17 00:42:29 

窓の外は相変わらずいい天気だ。
店先でも掃除をしてこようかとドアへ向かう藤白の足取りを止めたのは、先ほどまで本に集中していた彼だった。
「そろそろ帰りますので、会計をお願いします」
「え、あ、はい…」
藤白は急いでカウンター横に向かい、その側に来た彼の伝票を確認した。
「760円です、スタンプカードも押しておきますか?」
「はい、じゃあお願いしようかな…っ」
彼が鞄の中から財布を取り出そうとすると、引っかかってしまったのか携帯電話や手帳などが床に落ちた。
「大丈夫ですか?」
落とした物を彼とともに藤白も拾う。
すると藤白が手に取った生徒手帳には彼の名が書いてある。
「天宮(アマミヤ)、煉(レン)?」

  • No.27 by YUKI  2016-09-17 02:21:34 

思わず口に出して読んだ事を、藤白は後悔する。
いくら偶然とはいえお客様の個人情報を知り、その上声に出すなど非常識だろう。
「すいません、見なかった事にしますので…」
焦りながらも謝罪する藤白の様子を見て、彼も慌ててるようだ。
「いや、落としたのは僕のせいですし、名前ぐらい気にしませんから」
それでも申し分けなさそうな顔をする藤白を見て、彼は少し悩んだあと一つの提案をする。
「では、僕が藤白さんの名を呼ぶかわりに、藤白さんも僕の名を呼んでくれませんか?それなら平等ですし」
彼はこれなら問題ないだろうと、自信のありそうな表情を浮かべた。
確かに、お客様の中には名前を呼びあう仲の人もいる。
そう考えればそれほど問題でもないのかもしれない。
何よりも提案を持ちかけた彼の表情は、名案だろうと言いたげで笑いを誘う。

  • No.28 by YUKI  2016-09-17 05:25:54 

「わかりました、では、天宮さんとお呼びしますね」
「はい…、て何で笑っているんですか」
声は出さないでいようとしてもどうしても笑いが隠せない藤白に、天宮は少し怒ったフリをする。
その様子がより高い笑いの波を起こし、もう藤白には押さえられそうもない。
天宮は天宮でどうしたらいいのかと別の悩みが生まれているようだ。
ようやく落ち着いたのは十数分後で、ずいぶんと会計を待たせてしまった。
「では、天宮さん、またのお越しをお待ちしていますね」
「また来ます、藤白さん」
店を出る天宮を見送り、そのまま店の前の花壇に咲く紫陽花に目をやる。
青空の下の紫陽花は、薄い青を帯びていて綺麗だ。
明日も良い天気になることを祈り藤白は店に戻った。

  • No.29 by YUKI  2016-09-18 00:08:11 



   + 三杯目 猫とクローバー +

  • No.30 by YUKI  2016-09-18 00:31:47 

あれから二週間もすると日々の暑さも増してきて、さすがに藤白もバテ気味だ。
お客様の注文も冷たい飲み物や食べ物が、ほとんどになってきた。
去年よりも暑く感じているのは藤白だけかと思っていたが、今朝のニュースの話ではやはり今年は去年より暑くなるようだ。
「もう暑くならなくていいよ」
弱気な言葉はお客様が少ないから吐けるものである。

  • No.31 by YUKI  2016-09-18 01:15:23 

「夏は暑いものですし、諦めるしかありませんね」
店のドアを開けながら藤白に言ったのは、すでに馴染みのお客様の天宮である。
天宮の手元には、なにやら小さなケーキの箱らしき物があった。
「暑中見舞いです、冷蔵庫に入れて後で召し上がってください」
渡されながらも藤白は戸惑う。
「このような物は受け取れません」
経営者としてお客様から物を貰うのは、良い事ではないだろう。

  • No.32 by YUKI  2016-09-18 01:32:41 

「せっかく買ってきたのに返されても…、じゃあ他のお客様にもサービスで出すのはどうですか?今ならお客様も少ないですし、藤白さんのも僕の分も足りるでしょう」
天宮は少し考えてから、一つの提案をあげてきた。
藤白が箱の中身を確認すると、ゼリーのようで数は八つ。
店内の人数は六人。
確かにこれなら足りるだろうが、良いのだろうか。
「でも、お客様から貰うのは…」
「では、これは知り合いからとして受け取ってください、それなら問題ありませんよね」

  • No.33 by YUKI  2016-09-18 02:11:43 

知り合いから貰うのは問題ないだろうが、流されている気がする。
でもこのまま頂いた物を返すのも、失礼だろう。
「わかりました、では後ほどお持ちしますね」
とりあえず納得した藤白はゼリーの入った箱を冷蔵庫に入れ、天宮を席に案内する。
席についた天宮の手元には相変わらず、一冊の本があった。
「本当に天宮さんは本が好きですね」

  • No.34 by YUKI  2016-09-18 07:49:37 

「今は読むだけですけど、いずれ書く側になれればと思っているんです」
藤白が何気なく呟いた言葉に、天宮は自身の夢を添えて返す。
沢山の本を読んで、色々な知識に触れてきている、そんな人の書く物語はきっと素敵な物だろう。
「いつか、天宮さんの描いたお話が出来たら、私にも読ませてくれますか」
「まだずっと先になると思いますけど、いつかかならずお渡しします」
藤白からのお願いに約束をしてくれた天宮の優しげな瞳には、芯の強さが見える。
「はい、待ってます」
微笑みを浮かべ厨房に向かう藤白の心には、暖かな感情が溢れていく。
この気持ちの『名』は何と言うのだろうか。

  • No.35 by YUKI  2016-09-19 02:11:31 

木漏れ日のような暖かい感情。
けれどまだその名は分からない。
いつか分かる時は来るのだろう。
そんな風に思い馳せながら、先ほどのゼリーを白い皿に乗せ、周りにカットしたフルーツを添える。
そのままでも問題はないのだろうけど、せっかくだからと思い添えてみたのだ。
「お待たせしました、どちらか選んでください」
ゼリーは二種類あり、ベリー系、シトラス系がありトレイに乗せたお皿を天宮に見せる。

  • No.36 by YUKI  2016-10-08 22:16:31 

「いや、僕は残った方で」
「いいから選んでくださいっ」
遠慮がちの天宮に対して、藤白は引く気はない。
その様子に少し間を置き、天宮はシトラスの方へ指をさす。
その表情には苦笑いすら見えるが、藤白は気にしない。

  • No.37 by YUKI  2016-10-12 23:02:28 

「どうぞ、と言っても、天宮さんが買ってきてくれた物ですけどね」
天宮の前に置かれたゼリーは先ほどの箱に入っていた物より、華やかに輝いて見える。
他のフルーツや、フルーツソースと供に盛りつけるだけで、あのシンプルなゼリーがより綺麗に見えた。
「凄いですね、あのゼリーがこうなるなんて」
微笑みを浮かべゼリーを見つめる天宮に藤白は小さく首を振る。
「果物を少し足しただけですし、大した事はしていません」

  • No.38 by YUKI  2016-10-12 23:57:10 

微笑み会釈をし、他のお客様にゼリーを配りに行く藤白を横目に天宮は手元の本を開く。
すると本の最初のページから先ほど買った栞が落ちた。
レジ横で偶然見かけた木製の栞。
本物のクローバーを加工し木目に装着されている、シンプルでどこか暖かみのあるそんなものだ。
普段栞など買う事はないのだが、あのときはつい手が延びてしまった。
なぜ惹かれたのかは分からないが、買って良かったと天宮は思う。

  • No.39 by YUKI  2016-10-14 23:46:37 

藤白の方は、ゼリーを他のお客様に配り終え、自身もカウンター内の椅子に座りゼリーを食べ始めていた。
藤白の口元に運ばれたのは、薄紅のゼリーに包まれたラズベリー。
窓からの明かりが反射して煌めく様子は涼しげであり、口に含むと甘酸っぱく爽やかな味がする。
その様子を眺めながら天宮も薄黄色の冷菓を口に含ませた。
店内は外よりは暑くはないが、外気との温度差で体調を崩さないよう、冷房は控えめだ。
お客様は冷たい飲み物を飲んでくつろいでいる為まだ良いが、朝から厨房で頻繁に調理をしている藤白にはなかなか厳しいものである。
そのせいか、最近の藤白は夏バテ気味だ。
食欲もなく、夜もあまり寝付けていない。

  • No.40 by YUKI  2016-10-15 00:34:40 

明後日は休みとはいえ、やはりこの調子での週一休みは辛い。
しかしこの店は藤白が一人で経営している。
体調が悪いとはいえ、風邪等の病気や動けないほどの怪我でもないかぎり店を休む事は出来ない。
お客様に迷惑をかけるくらいなら、明後日まで多少無理をしてでも頑張りたいと藤白は思っているのだ。
そんな事を知らない他のお客様達は、デザート代わりにサービスで出されたゼリーを食べ終え、会計を済まして店を出て行く。
「今日も暑いわね、こんなに暑いとバテてしまうわ」
「本当よ、藤白さんは凄いわね、こんなに暑いのにいつも元気だもの」
店の外に続くドアを開け、漂う暑さにお客様達は口々に言葉を交わす。

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