無名 2016-08-15 15:44:54 ID:16c2a71f2 |
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今日も今日とて、私の一日は変わりはしない。
「おはよう、祷」
隣を見れば、赤髪の男の子がいた。ぱっちりとした鶯色の瞳は見ているだけで癒されるような、優しい目。
赤髪は肩にはつかない程度の長さで少しつり目。何を隠そう、彼は私の兄である。
「……ん、おはようございます。庵兄さん」
この灰色だけの部屋で色を放つのは、私と兄の庵だけ。
私たちは忌み子の孤児。
この町で赤髪は禁忌の象徴。なんでも、赤は地獄の炎の色とされ赤髪の子供は生まれるとすぐ殺されてしまうのだとか。
なぜ、赤髪の私と庵兄さんがこうして生きていられるかは知らない。だが、忌み子の孤児として監禁されているのだ。
私たち、子供にとってそれは苦痛でしかない。
いつ開いても同じ色しか映らない瞳を壊して死んでしまいたいと思うこともある。
けれどー…。
「朝ご飯まだかなぁ、今日はパン何味だろう」
呑気で頭のねじが一つや二つ足りない兄さんを残しては**ない。
膝を抱え、目を瞑る。永遠とも言い替えたい時間をこの監禁場所で過ごし、私は推測11歳となり、兄は多分14歳。
文字だって満足に書けない。魔女、悪魔と呼ばれる私たちに人権はない。
突如として、キィッと金属でできた重い扉が開く。そこにいたのはいつもと同じ劣悪な顔の男だった。
「…おはよう、ございます……」
苦笑いしながら、庵兄さんが挨拶をした。
男は顔色ひとつ変えずに、片手にパンを持って近付いてくる。
パンをみたら恥ずかしいことに、お腹が鳴った。
ガァアンッッ!!
「痛っ!……」
その時私は多分変な顔をしていたと思う。男が、思いきり兄さんの髪を引っ付かんで、投げたのだ。
「俺に口を聞くな悪魔ッ!!貴様らは望まれない子なのだから、黙っていれば良いのだッ!!」
その迫力ある怒号に、体が動かない。あぁ、情けない。私は兄さんの側に駆け寄ることもできない。
兄さんは、口の端の血を拭いながら反抗的な瞳で男を見上げた。
「だって、この前挨拶しなかったら、挨拶もできないのか、って…。」
小さな反論は、蹴飛ばされ宙に舞った。
「口答えするのか、忌まわしき赤髪の分際でッ!生かされているだけいいと思え!」
そんな無茶苦茶な、と声を出したい。
声を出しても、無駄なのは知っているけど、相手の矛盾は私にでも分かる。
男は片手に持っていたパンを灰色コンクリートの床に直に投げた。いや、捨てたという表現が正しい。
そして、そのまま……
「あっ…!」
「……ぁ…」
パンを踏み潰した。
私たちのご飯は朝と夜の二回だけ。
加えて私も兄さんも育ち盛り。
きゅう、と私のお腹がご飯はまだかと抗議する。
男は表情ひとつ変えずに暗証番号を片手で解き消えていく。
部屋の中は、私と兄さん、踏み潰されたパンだけ。
「…………祷。」
いつもとは違う鋭い声。怒っている証拠だった。
切られていないせいか、目が隠れるくらいまで長い赤髪のせいで兄さんの表情は分からない。
だけれど、いつも以上に怒っていることが、分かった。
「何?」
前髪が分けられ、兄さんの瞳が見える。
優しい鶯色の瞳には、底無しの闇が含まれていた。
「……ここから逃げよう」
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