綿菓子 2016-08-14 23:57:17 |
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っ…あ。…あぁ、そうか。すまない。
(体を重ねたならこの不安定な気持ちも落ち着くかもしれない、そんな一縷の望みに賭けていたせいで行為を中断されると調子が狂ってしまい。指摘通りずれていたのかどうかさえ確かめないまま取り敢えず眼鏡を中指でくいっと位置修正したものの、再びムードを作って誘う器用さも持ち合わせておらず。感情を読まれたくないばかりに「そろそろ風呂に入って寝るぞ」と室内の時計見遣れば、彼の髪をさらりと撫でながら入浴を促し)
(己も大分人の事は言えないのだろうが相手の様子には明らかな違和感を感じざるを得ず、髪を撫でられても心地良さに浸ることができず。咄嗟に口を開くも言葉が支えて声に出すことは叶わないまま視線を落とすと、誤魔化すように笑みを浮かべて「…じゃあお風呂にお湯いれてくるね」と呟き腰を上げて浴室へ向かい)
真冬…!──今日は…38℃にしてくれ。
(ここで黙って行かせてしまっていいのか結論も出ないままに声に出した名前が部屋に響き、その後に続けたのは伝えたかった本音とはかけ離れた内容で。引き止めようと伸ばし掛けた手を戻しては、テレビをつけてやり過ごしながら風呂が沸くのを待ち)
…分かったよ。
(突如室内に響き渡る相手の声に驚いて目を見開き振り返るも、告げられたのは拍子抜けする程なんの変哲も無い要求で。やはりその様子が心に引っ掛かってならないのだが、何を問い掛ける事も無くただ承諾の意を示し。浴室で温度設定をし風呂を沸かし始めると、謎の気まずさはあれどあまりに普段と違う様子を見せるのも憚られソファに座る相手の隣に少し間隔を空けて座り)
(言えなかった不甲斐なさもあるのだがはっきりしない安堵感が得られたのも事実であり、しかしその中途半端な気持ちのせいで何とも言えない気まずい空気を作り出してしまい。いつもならもっと近いはずの隣の彼が今日はとても遠く感じ、寂しさ紛らわすために普段は必要最低限しか触れない携帯取り出せば意味もなく操作してみて。慣れないことをしたことが裏目となり、どこをどう間違えたのか気づけば“発信中…”の文字が画面に見えるとわたわたと慌てだし。数回のコールの後、電話の向こうに聞こえた数少ない友人の声に心の準備もないまま「もしもし、夜分遅くにすまない…」と反応しながら落ち着かない様子でリビングから出て行って)
(黙って隣に居るだけでは何も変わらないのは言うまでも無いが、何か言葉を交わすきっかけでもあればと話題を探していて。しかしそんな最中相手が手にしたのは操作なんて殆どできないはずの携帯であり、一体何に使うのだろうかとそれとなく様子を窺っていれば予想もせず誰かに電話を掛けているらしく。普段己には全然掛けてくれないのに、なんてこんな状況にも関わらず淡い嫉妬が顔を出し表情を曇らせ。相手が早々にリビングから出て行ってしまえば一人この場に取り残され、少しの間悶々と思案を重ねた後に立ち上がって相手の声が聞こえるのに従ってリビングを出て)
いや…特に用事は無いんだが──
(そもそも目的があって電話を掛けたわけじゃないので話したいこともなく、これといった話題も思い浮かばず困り果てた様子でリビングから少し離れた和室の畳に胡座を掻き。相手方には申し訳ないと思ったが数分と経たずして通話終了の方向に転換しようとしたその時、携帯を当てていない反対側の耳がリビングの扉が開閉される音を捉えて。たったそれだけのことで全神経が彼のもとに向かってしまい、まるで依存染みている己の執着心に眉を下げては「…そうだ。今度都合が良い日…食事でもどうだ?」と友人に話を切り出して。少しでも彼への依存や重たいであろう好意を減らすために踏み切った手段ではあるものの、まさかその声が彼の耳に届いてしまっているとも知らず)
(微かに聞こえた時咄嗟に足を止めてしまい、のし掛かってくる重たい諦感に目を伏せて。そこへふとリビングから風呂の準備が完了した事を知らせる電子音が聞こえてくると、意識は現実に引き戻されそれを口実にしてしまうべく相手の様子を見詰めながらその場に佇んでおり)
そうか、それなら…日程は追々相談するか。…突然悪かったな。それじゃあまた。
(食事の誘いにいい返事してもらうと取り敢えず安心感は得られたようで頬緩め、約束を取り付けたところで部屋の向こうから独特の電子音が聞こえてくれば日程の詳細を後回しにし電話を切って。愛して止まない子供から親が離れるように己も愛しい彼を解放し自由にしてやらなければ、そんな思いから他の人との交流の一歩を踏み出してみたもののまだ踏ん切りはついておらず。晴れない表情のまま立ち上がると足早に部屋を出て行ったまでは良かったが扉の近くに居た彼の存在に気づくや否やハッとして足を止め、声が聞こえていたかだとかいつから此処に居たのだろうとか疑問ばかりグルグル頭を駆け巡り。バツ悪そうに頬を掻く仕草をしながら「…風呂、沸いたか?ゆっくり湯船に浸かってこい」と不自然に一番風呂を勧めて)
…分かった。
(結果として会話の一部始終を聞いてしまったが、電話の向こうとの話が進められるに連れて相手から切り捨てられる未来が少しずつ現実味を増していき。相手との関係はお遊びの延長線上にあるのだと考えている己が思うにはあまりに自分勝手だが、いずれ来るのであろう飽きられる時への漠然とした不安が払拭されず。今までこんな感情に苛まれる事も無く後腐れなんて少しも無いまま関係を終えられたはずなのに、よく分からない感情が胸中に居座っていて。戸惑いを隠せず表情を曇らせていた時いつの間に通話を終えたのか相手の声が聞こえ、弾かれたように顔を上げると一瞬の間を置いて小さく頷き。しかし少しの間その場に止まると「…電話、掛けれるようになったんだ。これからは俺が勝手に来なくても必要な時呼んでくれれば大丈夫になるね」と果たして突き放したいのか繋ぎ止めて置きたいのか自分でも判然としないまま静かな声で告げて)
──ああ。…だが、お前に電話はしない。
(彼が風呂から上がるまでリビングで待機していようと歩み始めた時、後方から聞こえた声に一瞬言葉を失い。全部聞かれていたのだろうと一種の罪悪感のようなものに苛まれるも、しかしこれこそが彼のためであると思っている自分もいて。突き放すかの如く連絡しない旨を告げたのだが、少し間を置いてから振り返れば「好きな時に来てくれたらそれでいい。鍵はいつも開けておく」と独占できなくともせめて彼の気が向いた時に会ってくれるだけの関係を繋ぎ止めておきたくて)
…ねぇ、俺気にしないよ。
(相手はまだ自分を求めてくれるのではないか、なんて淡い期待を抱いていた自らには苦笑するしか無く、あっさりと告げられた言葉は別れの言葉のようにも受け取られ。相手が振り向いた事で視線が絡むもせめてもの優しさか憐れみか、与えられた温情に縋るのはあまりにも滑稽に思えて力無い笑みと共に視線を落とし呟いて。普段ならばどれだけ曖昧な関係であれお互いに満足するならば惰性で続こうがそれで良かったはずなのに、それがどう頑張ったってできそうになく「飽きたら終わり。俺の周りにはそんな関係の奴ばっかりなんだし、今更傷付かないからさ」等と殆ど自分に言い聞かせながらへらっと笑って嘯き)
(近頃の若者の考えにはついていけないし知りたいとも思わない、でもそれが彼のこととなれば黙っていられず。関係を軽んじている彼だからこそ此処にも来てくれているのかもしれないが、少しだけもう少しだけでもいいから彼自身の気持ちを大切にしてほしくて、そして叶うなら彼を本気で想っている人物がいるということにも気づいてほしくて「そんな薄っぺらい関係なんて切り捨ててしまえ。本気でぶつかり合って、傷つく恋をしろ」と彼と真逆の見解を述べ。こういう時にも無理して笑っている彼に珍しく怒りの感情を覚えてしまったのか、返事を待たずに踵を返すとリビングに姿を消して)
──…ふられちゃったかなぁ。
(唐突に強い口調で告げられた言葉に目を見開いて相手を見詰めるも、驚きのあまり声を発する事ができずにいる間に相手の姿は見えなくなってしまい。掛けられた言葉の深層を見れば意味等直ぐに分かりそうな物なのだが、今の己にはそうする事ができず考える事を止めてしまい。その代わり少なからず相手からの想いが詰まっている言葉は胸の奥深くに仕舞い込み。恐らくこんなにも愚かな己には愛想を尽かしてしまったのだろう、そう思うと足元に視線を向けて呟きを落とし。数回の深呼吸の後に気持ちを落ち着かせると、少し遅れてリビングへ戻り)
(何とも思っていない人物に説教じみた真似をされて、彼はさぞ不愉快だったろうと思えば早くも後悔の念が押し寄せてきて。もう風呂に入ったとばかり思っているためすっかり気の抜けた様子でリビングのソファーにうつ伏せで倒れこみ、悶々と考え始めていた頃開く筈のない扉の音に驚きながらそろりと顔だけ其方に向け。この年齢にもなると心中隠すことに然程苦労しないのか「行かないのか?風呂」と落ち着いた様子で尋ね)
うん。
(問い掛けに小さく頷いてソファに横になっている相手へ歩み寄り目の前でしゃがみ込むと、愛おしむように柔らかく唇を重ね。つい先日までは終わりが来るなんて考えてもいなかったが、行きずりで始まった曖昧な関係にいつまでも相手を縛り付けていた罰なのだろうと自らを納得させてゆっくりと離れ。恐らく相手に恋をしてしまっていたのだろうと今更気付いたところで遅く、自らのこれまでの行動を悔やむ事さえ馬鹿馬鹿しく思えてしまい。「…ばいばい、涼介さん」と笑みを浮かべて囁くと手近にあった荷物を手にリビングを出て)
──っ、…待て。
(悲しいくらいに優しく重なり合った口づけがどんな意味を持つのか分かってしまった気がして、呆気に取られているうちに荷物を持って彼が目の前から居なくなってしまい。これでいいと思おうとしても、突然過ぎる別れの重たさに心が耐えきれず気づけば無意識のうちに体は彼を追い掛けており。玄関に向かって廊下を歩く彼の背中に駆け寄り覆うようにして後ろから抱きしめれば、痛いくらいの力を入れて離す気配はなく)
…どうしたの?
(一度気持ちに気付いてしまえば理解するのは一瞬で、相手への想いを持て余したまま傍を去る辛さが目頭を熱くさせ。こんなに想いは募るのに相手との距離はどんどん開いて行くようで、気を抜けば嗚咽が漏れそうになる中足早に玄関を目指しており。その時不意に後ろから抱き締められると突然の事に頭が追い付かず咄嗟に足を止めて呆然とするが、相手の声が聞こえて来れば漸く状況を把握し。未だ混乱は収まらないが考えれば考える程動揺は加速し、一度思考を止めると至って平静な風を装い問い掛け)
今日は此処に居ろって言ったはずだ。
(取り乱した様子もなく返されたのは淡々とした言葉で、己の存在なんてそれくらいのものだろうと予想していたが現実となると胸がズキズキ痛み。咄嗟にベッドでの話題を引き止める理由として引っ張り出せば、彼を抱く両腕に力を込めて。今日が最後ならせめて彼の存在を色濃く記憶に残したい、切なさと苦しさの中で懇願する様に項に唇寄せると痕を残すつもりできつく吸い付き)
ッ…涼介さんが言ったんだよ。こんな、…薄っぺらい関係、止めろって。
(体に回った相手の腕に強く抱き締められ鈍い痛みを感じる度、求められているのではないかと勘違いをしてしまう。相手の考えている事が分からないがそれを問い質す事もできずに項垂れていると、項辺りに微かな甘い痛みが走り。以前互いに施した愛撫を彷彿とさせる行動に固く唇を噛み締めて漸く声を絞り出すと、振り返る事も相手の腕を振り解く事もできないまま言葉を詰まらせながら告げて)
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