月 2016-08-05 23:20:23 |
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しかし神田自身はそのことにはふれず、言葉を失っているラビを力強く殴り飛ばした。
「痛いだろうが、この馬鹿力兎っ」
その後すぐに発せられた言葉にラビは俯くしかなく、神田の言葉を待つ。
「ったく、おい馬鹿兎、今から質問する事に簡潔に答えろ」
こんな時にユウからの質問とは何だろうか。
僅かな沈黙を置き、続けざまに神田は続ける。
「お前は俺をどう思っている」
「え?どうって…」
もちろんラビはユウの事は愛しいと思っている。
大切にしたいし、側に居れるのならば居たい。
「さっさと答えろ」
何も答えないラビの様子を見て、神田は苛立ちを隠せないでいる。
「ユウの事は好きさ、恋人として付き合えたらとも思っている、けど」
急かされ、覚悟を決め告げたラビの神田への思いは愛しさと供に迷いが混ざってしまう。
「けど何だ」
その小さな迷いに気づかないはずもなく、強く問う神田の言葉にラビの思いは溢れた。
「俺はブックマンの後継者で、いつか教団からいなくなるかもしれない、そんな俺より、神田にはもっと良い奴が現れるかもしれない、だろ」
ラビの言葉に静かに耳を傾けていた神田は、怒りというよりは呆れたような表情を浮かべている。
「馬鹿だとは思っていたが、ここまでとはな」
なぜこれほど考え悩んだ事を、そんな一言で済まされなければならないのだろう。
神田はラビがどれほど思い悩み苦しんだかを知らないから、平気でそのような事を言えるのだろうか。
そうだとしたら、ラビ自身だって黙っていられない。
「俺はユウの事を思ってっ」
「俺の事を思った上で俺を襲ったとでも言うのか」
神田の一言に何も言えなくなってしまうラビを見て、神田は続けざまに止めを刺さす。
「俺の事を思うなら、俺が嫌がる事をするのはどうかと思うがな」
冷静に考えればユウの言葉が正しいのだろう。
それに比べてラビの考えは短絡的で、自分から自滅をしに行くようなものだ。
冷静になればなるほど虚しさがラビの心に広がっていく。
「俺、ちょっと頭冷やしてくる」
しかし苦笑し部屋を出ようとするラビの動きは、神田の一言で止まる。
「待て、まだ俺は何も答えていないだろう」
この後に及んで答えを言われても虚しいだけなのだが、確かにこちらの言い分のみ伝えて部屋を出るのは失礼かもしれない。
聞きたくはないのだが、そうもいかないのだろう。
「わかった、じゃあユウの答えを教えてくれ」
何ともないと言ったような態度で神田の答えを待つ。
今のラビに出来るのはそれが精一杯の虚勢だ。
しかし、なかなか神田は口を開かない。
十数分はたっただろうか。
突然の出来事や言葉に混乱し答えを探すのに苦労しているのかもしれないが、待たせるくらいなら早く答えてほしいと思うのはラビのわがままでしかないのかもしれないがそれでも長い。
やはり、自室に戻ろう。
そのことを告げようとした時、ようやく神田は口を開いた。
「俺は、先ほどお前の言葉を聞いてようやくお前の気持ちに気づいた。だから、今すぐに是か否かを問えと言われても、答えようがない」
ユウは何が言いたいのだろう。
ラビの気持ちに気づいたのが先ほどなのは、分かりきっている。
なぜ改めて言う必要があるのだろうか。
しかし、その疑問、も次の神田の言葉で意味が分かった。
「それでだな、まずはお前のことを意識し始める事からでは駄目か」
要は、今まで意識してこなかったため、好きかどうかと聞かれても分からない。
だから、意識をしてみるから、それから答えを出させてほしい、つまり保留と言う事なのだろう。
おそらく、神田が言いたい事はそういう事だ。
「それは、返事は保留って事?」
ラビはその場に崩れ落ち、念の為神田に確認してみる。
「そういうことになるな」
「なるなって…」
さらりと告げられた神田の言葉に、ラビの体は力が抜ける。
先ほどまでの覚悟は、いったい何だったのだろうか。
しかし鈍い神田に気づいてもらえただけでも、まだ良いのだろう。
二人が供に入れる時間は刻一刻と流れていく。
それは誰にも止められないもので、ラビの中からその意識が消える事はない。
それでも、ラビと神田の距離が僅かでも近づいていくのなら、その最後の時が来る時迄に少しでも近くに居れるのなら、決して悪くはないのかもしれない。
ラビの中にある黒い物が綺麗になくなったわけではないが、それでも最後の時まであの夜の闇に照らされた美しい月をユウと供に見れるならそれも悪くはないだろう。
そんな風に思うラビと、この気持ちを知らない神田の間には、窓から月明かりが輝いていた。
それをとても優しい明かりに感じたのは、ラビだけではないと今は願いたい。
end
十月三十一日の夜。
俺の部屋には狼が現れた。
誤解のないよう説明するが、教団内の俺の部屋に入団してから今まで、狼が現れた事はない。
なのに俺の目の前にはよく分からない獣が居る。
狼の格好をした馬鹿な兎という獣が。
どうやら俺は疲れているらしい。
***
その日の夜、風呂上がりに自室に戻った神田は、明日の昼から向かう任務先の書類に目を通していた。
昨日任務を終え、明日には新たな任務とはなかなかのハードスケジュールである。
それなのに今朝から教団内はやたら騒がしい。
聞けば今日は『ハロウィン』なるイベントの日らしく、やれ南瓜だ、菓子だ、仮装だと色々忙しいらしい。
先ほどコムイ等にも仮装をすすめられたが、あんな格好をして何が面白いのだろうか。
そんなわけで神田は、厄介事に巻き込まれる前に自室に戻ることにしたわけである。
「ユーウー、居る?」
ベッドで書類に目を通している神田の耳に、自室のドアの外から馬鹿兎の声が聞こえてきた。
面倒事に巻き込まれるのは御免だと、神田自身がその声に返事を返す事はない。
しかし、それは意味のない抵抗だったようだ。
「いないのか?邪魔するさー……って居るなら返事ぐらい返してほしいさ」
「うるさい、居ないとは言ってないだろう」
返事がなければ諦めるだろうと思っていた神田の予想はみごとにはずれ、ラビは堂々と神田の部屋に入室してきた。
「居なかったら返事なんて出来ないだろ、つうか無視とかユウ冷たいさ」
「さっさと用件を言え」
ラビの言葉に苛立ちを感じながら、神田はラビがなぜここに来たのだろうと思い聞き返す。
「じゃあ、言うさ、トリックオアトリート!」
「はぁ?」
意を決して発したラビの言葉に神田は呆れた声を発した。
「今日ハロウィンだろ?だから『トリックオアトリート!おやつをくれなきゃイタズラするぞ!』って言いに来たんさ」
「俺には関係ない、菓子もないしな」
必死にアピールをするラビは、どうやら狼の仮装をして神田の部屋に遊びに来たらしい。
しかし神田には関係のない事だし、ハロウィンに興味もない。
神田の態度に何かを察したらしいラビは、唐突に神田との距離を詰める。
「おい、何のつもりだ」
迫るラビに対して一歩後退する神田の背には、もう壁が近い。
「お菓子がないなら、イタズラするしかないだろ?」
ニヤつくラビに苛立ちを覚えた神田は、ラビの鳩尾を拳で殴る。
「いきなり殴るなんて酷いさ」
力加減はしたが、それなりにダメージはあったようだ。
「気色の悪い顔をするお前が悪い」
視線を逸らす神田の顔を見つめ、ラビはわざとらしくため息をつく。
まったく、この馬鹿兎はこんなくだらない理由で、神田の部屋に訪れたのだろうか。
だとしたら、どうやら随分暇なようだ。
「用はそれだけか」
呆れた声で神田が聞くと、ラビはドアに向かい後ろで手を振る。
「うん、そんなとこさ」
ラビがドアノブに手をかける瞬間、背後からそれを遮ったのは神田の手によるものだった。
混乱し硬直するラビをよそに、神田の指先がドアの鍵をかける。
「え、と、ユウ?」
神田の行動にラビの声が裏がえる。
しかし神田にはそんな事はどうでも良い。
神田はラビの二の腕を右手で強引に掴み、自身のベッドに向かう。
「な、痛い、痛いさユウ、謝るから離して」
力の隠る右手には、神田の感覚以上の力が入っているのかもしれない。
しかしそのラビの声すらも、神田の耳には届かなかった。
「うわっ、何?何なんさ」
ベッドに乱暴にラビを倒すと、ようやく神田は声を上げる。
「俺はイタズラされるのは嫌いだが、お前に大してする側ならしても良い」
ベッドに倒れたラビの上に乗り神田は不敵な笑みを浮かべた。
その行為にラビの喉が鳴る。
しかしラビも黙って、良いようにされる趣味はない。
「ユウ、さん?落ち着くさ、それにイタズラする側って…」
引きつった笑みで、ラビは神田の行為を止めにかかるが、神田に止める様子は見えない。
「俺は落ち着いている、焦っているのはお前の方だろう?そういえば、アレを言うんだったな」
神田の言葉よりも、その距離に落ち着かないラビの耳元へ神田の低い声が囁かれる。
「トリックオアトリート」
ラビの顔が薄紅に染まり、より距離は近づく。
「イタズラって…」
「されてみれば分かる」
ラビの言葉を飲み込むように、神田の言葉が耳元で重なる。
ラビが抵抗できないのは、自身の手元にお菓子がないからと言い訳してしまう。
おとなしくなったラビの様子を了承と捉え、神田の行為は加速する。
先ほどまで耳元にあった神田の唇は、ゆっくりとなぞるようにラビの首筋に口付けを降らす。
「…っ、ぁ」
微かに触れる感覚はラビの知らないものであり、羞恥と心地よさが混ざり合っていく。
自身の声に驚きを覚えているラビを余所に、神田の指先はラビの襟元を緩める。
「…っ、ん…何…?っ…」
鎖骨に触れた神田の指先に微かに気づいたラビの口元は、すぐに神田の口付けで塞がれた。
行為についていけず悩むラビに気づいた神田は、口元が離れる瞬間小さく囁きを落とす。
「お前は、黙って感じればいい」
その言葉を聞いたラビは、心臓を掴まれたような気持ちになる。
なぜ俺はユウ相手にこんな気持ちになるのだろう。
今まで一度も同性を意識した事などないのに、なぜこんなにも鼓動が高鳴るのだろうか。
しかし神田の口元が鎖骨に触れた時、ラビの意識が少し冷静になる。
「や、駄目だ、これ以上は駄目っ…っ」
ラビの抵抗する腕に僅かな力が入ったと同時に鎖骨に微かな痛みを感じた。
すると、神田はようやく口付けを離し、最後にラビの耳元で囁きを落とす。
「今は、ここ迄にしてやる」
その後すぐにラビの上から降りた神田を呆然と見つめ、ラビ自身も起きあがり、衣服の乱れを直す。
「なあ、ユウ?今のって…って、なんなんさこの痕っ」
ラビの鎖骨の辺りにあるのは、世間で言う『キスマーク』なるものに見える。
おそらくそれは、ラビだけではなく、他の人達から見てもそう思えるだろう。
そんなラビの言葉をよそに、神田は微笑し視線を窓の月に向け言った。
「その程度にしてやったんだ、感謝しろ」
「な、こんなん他の奴にバレたら…」
先程まで熱を帯びていたラビの体は急速に冷め、冷静さを取り戻していく。
「俺は知らん」
上着を着直し、神田の指先が部屋の鍵を開ける。
「知らんって…酷いさユウ」
ラビ自身も衣服を整え終えるが、その声には哀愁が漂う。
その間も神田は何事もなかったかのようにベッドに腰を下ろし、先程の任務の書類に目を通していた。
訳がありお返事が遅れました、作者の者です。
いつもご愛読ありがとうございます。
ですが、大変申し訳ありませんが始めにご意見・ご感想等はEND後~次作のタイトル迄に載せていただくようお願いしているので、このように文面中に載せられる事はこちらとしては、話の腰が折れてしまうので好みません。
今後はENDの度にその事を提示しますが、そちら様にもご理解いただけると幸いです。
なお、この事への返答もEND後にお願いいたします。
その上でご理解いただけない場合は更新を打ち切らざるえない可能性もありますので、ご了承ください。
では、今後は続きをどうぞ
その姿にため息をつきラビはドアへと向かい言う。
「ユウが何を考えているのか、お兄さんにはさっぱり分からないさ」
その声に僅かに反応した神田は、去り際のラビに声をかけた。
「そのうち分かる、そうだな、次の任務を終えた時お前が生きていたら教えてやっても良い」
月明かりが逆光となり神田の表情はよく見えないが、その口元には僅かな笑みが見えた気がした。
「へえ、じゃあなんとか生きて帰れるよう頑張るさ、その時のためにな」
いつもの笑みを浮かべ立ち去るラビの様子は、どこか楽しげであり、その後ろ姿を見送るのは月明かりと供に佇むハロウィンの魔物、神田ユウだけであった。
その年の初雪は早かった。
黒の教団の中庭にも深々と雪は積もり、まるで黒いキャンバスに白い絵の具を落としたように思える。
しかし書物を漁り、記憶を取り続けるラビの体に冷気が触れる事はない。
それは行為による集中力からくるもどなどではなく、この室内にある暖房によるものだ。
「はぁ、ようやく終わったさ」
任務後にブックマンから渡された書物を一時間ほどで記憶し終え、ようやく休めるとラビは体をのばす。
あと数日で今年も終わる。
今年もどうにか生き延びて、教団を離れずに年を越せそうだ。
唯一の心残りは、アレンの事だけと言えるだろう。
もちろん伯爵との戦いにおいて、イノセンスと適合者の捜索も重要だが、今のラビにはアレンと自身の関係の方が優先と言える。
なぜなら、こんなふうに日に何度もアレンの事を考えていては任務に集中出来ないし、記憶する作業の速度も落ちてしまう。
解決する事に時間のかからない悩みならば、即座に解決すべきなのだろう。
「いつ言うかな…」
ソファに横になり呟く言葉は、ラビの耳に伝わり、室温に溶けていく。
アレンに伝えたい事は二つだ。
恋愛としての好きの気持ちと、それに対する返事の催促である。
たった二つの何とも簡単な事だと分かってはいるのだが、その簡単な事を実行するのは思いのほか難しい。
難しい理由もラビ自身すでに理解している。
それは結果への恐怖。
この感情は、誰もが一度は恋をすれば、理解し合えるはずだろう。
ましてや同姓への恋は、報われる事の方が少ない。
ただ振られるだけならまだ良いのだが、嫌悪の対象に思われる可能性も少なくはないし、好きな奴に嫌われるのはラビとて辛く悲しい。
そんなふうに思われるくらいなら、今のまま仲間としての日々を過ごした方が幸せなのではないかという思いが、気持ちを伝える覚悟を揺るがすのだ。
しかし、だからといってラビが現状に満足しているわけではない。
確かに今のままならば仲間として側に居る事は出来る。
だが、いつかアレンに恋人が出来た時、ラビは冷静に『仲間』として側に居られるだろうか。
自分以外の誰かが彼に触れ、寄り添い、微笑みあう姿を目にした時、平然と祝福するなどラビには出来る気がしない。
そう思うと、結果への恐怖と、時の流れへの焦りが、ラビの中にある天秤のような心を揺らしてしまうのだ。
しかしそんな思いを日々抱いても、時は流れゆくばかりで、さすがにこのままではいけないだろうと自覚したラビは『今年中に思いを告げる』と決意したのである。
ところが実行出来ないまま日々は過ぎ、今日の日付は十二月二十四日になってしまった。
リナリーや、コムイ達は今日がクリスマスイブだという事もあり、一日中楽しそうに騒いでいる。
リナリーは任務がないから良いが、コムイは溜まった仕事をすべきだろうと内心苛立ちを感じ、思ってしまうのは『今年中に思いを告げる』という心の目標を果たせていないからだろう。
大体もっと早く思いを告げていればラビだって、アレンと楽しいイブを過ごせていたかもしれないのだ。
意気地のない自分が悪いと思っていても、苛立ちは消えてくれそうもない。
「腹減ったな、食堂にでも行くか」
ソファから立ち上がり談話室をあとにしたラビは、廊下にある窓から夜空を眺めながら、ため息をついた。
冬の夜空に輝く星達はあんなにも明るいのに、ラビのアレンを思う心は、欠片ほども明かりを灯してくれない。
「アレン、どうしたらいいんさ」
思い人を思い浮かべ長い廊下を歩いていると、不意に後ろから声が聞こえた。
「あ、ラビ!帰ってきていたんですね」
「なっ、ア、アレン?」
先ほどまで思い浮かべていた人物の声に、ラビは思わず動揺してしまう。
聞かれて困るような事は言っていないが、過剰に反応したラビにアレンは疑問を感じたようだ。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもないさ、それより俺これから食堂行くんだけどアレンも来いよ」
まさか目の前の人の事を考えていたとは言えず、ラビはなんとか話を逸らしてみる。
そしてどうやら『食堂』という言葉がかなり効果があったらしく、アレンはあっさりと食いついた。
「行きます、僕もちょうど小腹が空いてきたところですし」
「アレンの小腹は、普通の人の一食よりずっと多いさ」
瞳を輝かせラビの前を歩き始めたアレンの様子を見つめ、その後ろで苦笑しながらラビもついて行く。
「僕は普通ですよ、他の人達の食べる量が少ないんですよ」
アレンをからかいつつ食堂に着くと、食堂内は思いの他空いており、ラビは適当な席に目をつけながら、軽食を頼んだ。
注文の量が少ないラビが先に席に着いていると、軽食とは言いがたい量を注文したアレンの食事が少し遅れてようやくすべて出来上がったらしい。
相変わらずのアレンの食欲に呆れ笑いを浮かべ、ラビはアレンに手を振り席を伝える。
ラビの姿を目にしたアレンは、嬉しそうに食事を乗せたワゴンを運んできた。
「確かに、いつもよりは少ないな…」
ラビの呟きを聞きながら席に着いたアレンは、笑顔で頷く。
「はい、時間も遅いし、とりあえず少ない量にしておきました」
そう微笑み食べ始めた料理は、アレンから見れば少ないかもしれないが、ラビには食べ切れそうもない量だ。
いったいその体のどこにその量が入るのかと思いながら、ラビも自身の食事に手をのばす。
しかしそんな時でも、やはりラビの気持ちは揺らぎ続ける。
いい加減に伝えて、決着をつけてしまいたい。
しかしどのタイミングで伝えれば良いというのだろう。
なるべく邪魔が入らず、互いに時間に余裕がある時などそうそうありはしない。
そう、今のような時間など滅多にありはしないのだ。
最後の一口を口にしたラビは、ふとある事に気づいた。
そうだ、今の時間こそ気持ちを伝えるのに良いのではないだろうか。
しかし、ここでは人の出入りが多いため落ち着いて話せそうもない。
自身の部屋にはブックマンがいる可能性が高いため、とても話せそうもないし、となるとアレンの部屋しかないだろう。
問題はアレンだ。
任務の予定はないとコムイから聞いていたし、この時間に用事があるとは思えないが、確認は必要と言えるだろう。
平常心を装い、落ち着くよう自身の心の内で呟き、ラビはアレンに聞いてみる。
「なぁ、アレン、このあと何か予定あるのか?」
「別にありませんけど、どうかしましたか?」
内心緊張しているラビと違い、アレンの反応はいつもと変わらない。
心の中で難関を一つ突破した事を喜び、ラビはさらなる質問を続ける。
「じゃあさ、このあとアレンの部屋に遊びに行って良い?」
平常心を維持したまま、飲み物に手をのばして言うラビに対して、アレンは首を傾げながら答えた。
「別に良いですけど、なんか今日のラビ、いつもと違う気がします」
「気のせいさ、じゃ、俺はコレ片づけてくるさ」
平常心を装っていたのがバレたのではないかと内心焦り、空になった食器を返却しに向かう。
精神力を大分消耗した気がするが、ここまできたらあとには引けない。
食器を片づけアレンの食事が済むと、ラビはアレンと供に食堂をあとにした。
考え事をしているラビにとって、食堂からアレンの部屋に続く廊下は、いつもより短く感じてしまう。
アレンになんと告げるべきだろうか。
前を歩いていたアレンが立ち止まったのは、言い言葉が浮かばずラビがため息をついたのと、ほぼ同時だった。
「着きましたよ、ラビ」
「え?あ、あぁ、邪魔するさ」
アレンの後に続き室内にはいると、ラビは後ろ手でドアを閉め、鍵を締める。
今から話す事は他の誰かに聞かれるわけにはいかない。
「ラビ?座らないんですか?」
アレンの声が近く聞こえるのは、距離だけではないのだろう。
アレンの声が近いのも、心臓の音が響くのも、ラビ自身の緊張からくるものだ。
「ん、そうだな」
響く声に引かれるよう、ラビは静かにアレンの隣に座った。
日付がもうすぐ変わってしまう。
あと少しでイブが終わり、クリスマスとなり、それはアレンの誕生日となる。
もし叶うなら、アレンの誕生日を祝う時『仲間』ではなく『恋人』として傍らにいたいと思う。
「あの、さ…俺、アレンに伝えたい事があるんだけど、聞いてくれるか?」
確認するように聞くラビの言葉を、受け入れるかのようにアレンはラビを見つめ返す。
その真っ直ぐな瞳から視線を逸らしてしまいたい気持ちを抑え、ラビは一呼吸を置いて告げた。
「俺、アレンにずっと言いたい事があったんさ」
「言いたい事?」
ラビの振り絞るような言葉に相づちを打つよう、アレンは言葉を繰り返す。
その様子に愛しさと苦痛を滲ませラビは言葉を紡ぐ。
「俺は、ずっと前から、アレンの事が好きなんさ。もちろん、恋愛的な意味で。それが、エクソシストとして許されない事も、アレンが望まないかもしれない事も分かっていたけど、俺の気持ちは変わらなかったんさ」
一度言葉にすることでラビの思いは優しく流れ出し、その言葉にアレンは何も言えずにいた。
一呼吸を置いたラビは、そのアレンの様子に心を決め告げる。
「アレンには迷惑だろうけど、俺は俺の気持ちを声に出さないと、先に進めそうもないんさ。だから、この気持ちを絶つ手伝いをしてほしい。頼むさ」
アレンが言葉を失ったのは、ラビの望みとは違う答えを意味するのだろう。
始めからこうなる事をラビ自身覚悟していたのだから、この悲しみは予想していた。
好きになっても報われない恋。
分かっていても消えてくれなかった想い。
でも、僅かな希望を絶てば、自身はまた前に進めるそんな気がしていた。
なのに、なぜこんなにも切なく、狂おしいのだろう。
アレンに振られたとしても、後悔はないが、気持ちはまだ消えてはくれなさそうだ。
そんな気持ちを内に秘め、ラビがアレンの言葉を待っていると、アレンの口からは意外な言葉が発せられた。
「勝手な事…言わないでください」
アレンの言葉には怒りが滲んでいた。
「アレン?」
アレンの顔を覗くようラビが見つめた瞬間、部屋中に怒声が響く。
「誰が迷惑だなんて言いました!僕はそんな事言った覚えありません!勝手な事ばかり言わないでください!」
呼吸を荒らげ響かせた声は、ラビの鼓膜に響き、ラビは驚いたまま固まってしまう。
その息を整えるまもなくアレンは言葉を繋ぐ。
「なんで、なんで分からないんですか!僕だってラビの事好きなのに、それなのに、気持ちを絶つって、そんなこと必要ないんです!さっさと気づけ、この、馬鹿ラビ」
怒声は少しずつ落ち着き、それと同時に、アレンはラビから視線を逸らす。
頬を赤らめているのは怒りのせいだけではないのだろう。
「アレン、俺のほう見て?」
驚きを隠せないままラビは、アレンの視線を促す。
「嫌です、鈍感なラビの顔をなんて見たくありません」
ラビの言葉に対してのアレンの反応は、どこかたどたどしく思える。
しかしラビも簡単には諦めない。
「ごめんな、アレンの気持ち少しも気づけてなかったさ。なぁ、どうしたら許してくれる?」
日付はもうすぐ変わってしまう。
せっかくの両思いならば、あと僅かなクリスマスイブを少しでも過ごしたい。
ラビの心にはそんな思いが浮かぶ。
そんな気持ちが伝わったのか、アレンから小さな提案の声が聞こえた。
「なら、今ここで、もう一度ラビの気持ちを聞かせてください」
アレンの言葉にラビは微笑を浮かべ、改めて、アレンへの思いを告げる。
「俺は、この聖なる夜に誓ってアレンが好きさ。本心から愛しく想ってる。俺の恋人になってほしいさ」
アレンへの思いを囁くラビの二度めの言葉に苦痛はなく、その分愛しさが溢れていく。
その言葉に反応するよう見つめたアレンの表情にも、それと似た恋人への愛しさが浮かぶ。
「僕もラビが好きですよ。僕もラビの恋人になりたいです。愛しています」
視線を逢わし、距離は近づき重なりゆく。
重なった口元からは互いの愛が交わり、より深く濃くなる。
それはイブの夜によく似合う、赤く美しい愛と、白く輝く純粋な思いの重なりとなり。
鐘の音ですらも消せない愛しい、永久の聖夜となった。
d灰短編小説(bl)休刊のお知らせ
上記の通り、短編小説を休刊する事にいたしました。
この中の物語に触れてくれた読者様には申し訳ないのですが、シンプルに言えばネタが切れてしまい、今の私にはこれ以上作品を増やせそうにありません。
しかしいずれまた書き始める日が来るかもしれませんので、その時はまたd灰短編小説を楽しんでいただければ幸いです。
なおこのトピはbl関連のジャンルへ移動願いを出す予定です。
上手く移動できたらいいな。
以上、作者より
移動が出来たという事で、作者から皆様へ。
本短編集を読んで下さり、誠にありがとうございます。
稚拙な上、誤字脱字の多い内容で申し訳ありません。
現在進行形で日々セイチャット内小説を書き、修行に勤しんでいますので、何卒生暖かく見守って下さい。
なおご意見ご感想等いただけると幸いです。
以降、ご意見・ご感想等の投稿をお願いします。
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