月 2016-08-05 23:20:23 |
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ソファから立ち上がり談話室をあとにしたラビは、廊下にある窓から夜空を眺めながら、ため息をついた。
冬の夜空に輝く星達はあんなにも明るいのに、ラビのアレンを思う心は、欠片ほども明かりを灯してくれない。
「アレン、どうしたらいいんさ」
思い人を思い浮かべ長い廊下を歩いていると、不意に後ろから声が聞こえた。
「あ、ラビ!帰ってきていたんですね」
「なっ、ア、アレン?」
先ほどまで思い浮かべていた人物の声に、ラビは思わず動揺してしまう。
聞かれて困るような事は言っていないが、過剰に反応したラビにアレンは疑問を感じたようだ。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもないさ、それより俺これから食堂行くんだけどアレンも来いよ」
まさか目の前の人の事を考えていたとは言えず、ラビはなんとか話を逸らしてみる。
そしてどうやら『食堂』という言葉がかなり効果があったらしく、アレンはあっさりと食いついた。
「行きます、僕もちょうど小腹が空いてきたところですし」
「アレンの小腹は、普通の人の一食よりずっと多いさ」
瞳を輝かせラビの前を歩き始めたアレンの様子を見つめ、その後ろで苦笑しながらラビもついて行く。
「僕は普通ですよ、他の人達の食べる量が少ないんですよ」
アレンをからかいつつ食堂に着くと、食堂内は思いの他空いており、ラビは適当な席に目をつけながら、軽食を頼んだ。
注文の量が少ないラビが先に席に着いていると、軽食とは言いがたい量を注文したアレンの食事が少し遅れてようやくすべて出来上がったらしい。
相変わらずのアレンの食欲に呆れ笑いを浮かべ、ラビはアレンに手を振り席を伝える。
ラビの姿を目にしたアレンは、嬉しそうに食事を乗せたワゴンを運んできた。
「確かに、いつもよりは少ないな…」
ラビの呟きを聞きながら席に着いたアレンは、笑顔で頷く。
「はい、時間も遅いし、とりあえず少ない量にしておきました」
そう微笑み食べ始めた料理は、アレンから見れば少ないかもしれないが、ラビには食べ切れそうもない量だ。
いったいその体のどこにその量が入るのかと思いながら、ラビも自身の食事に手をのばす。
しかしそんな時でも、やはりラビの気持ちは揺らぎ続ける。
いい加減に伝えて、決着をつけてしまいたい。
しかしどのタイミングで伝えれば良いというのだろう。
なるべく邪魔が入らず、互いに時間に余裕がある時などそうそうありはしない。
そう、今のような時間など滅多にありはしないのだ。
最後の一口を口にしたラビは、ふとある事に気づいた。
そうだ、今の時間こそ気持ちを伝えるのに良いのではないだろうか。
しかし、ここでは人の出入りが多いため落ち着いて話せそうもない。
自身の部屋にはブックマンがいる可能性が高いため、とても話せそうもないし、となるとアレンの部屋しかないだろう。
問題はアレンだ。
任務の予定はないとコムイから聞いていたし、この時間に用事があるとは思えないが、確認は必要と言えるだろう。
平常心を装い、落ち着くよう自身の心の内で呟き、ラビはアレンに聞いてみる。
「なぁ、アレン、このあと何か予定あるのか?」
「別にありませんけど、どうかしましたか?」
内心緊張しているラビと違い、アレンの反応はいつもと変わらない。
心の中で難関を一つ突破した事を喜び、ラビはさらなる質問を続ける。
「じゃあさ、このあとアレンの部屋に遊びに行って良い?」
平常心を維持したまま、飲み物に手をのばして言うラビに対して、アレンは首を傾げながら答えた。
「別に良いですけど、なんか今日のラビ、いつもと違う気がします」
「気のせいさ、じゃ、俺はコレ片づけてくるさ」
平常心を装っていたのがバレたのではないかと内心焦り、空になった食器を返却しに向かう。
精神力を大分消耗した気がするが、ここまできたらあとには引けない。
食器を片づけアレンの食事が済むと、ラビはアレンと供に食堂をあとにした。
考え事をしているラビにとって、食堂からアレンの部屋に続く廊下は、いつもより短く感じてしまう。
アレンになんと告げるべきだろうか。
前を歩いていたアレンが立ち止まったのは、言い言葉が浮かばずラビがため息をついたのと、ほぼ同時だった。
「着きましたよ、ラビ」
「え?あ、あぁ、邪魔するさ」
アレンの後に続き室内にはいると、ラビは後ろ手でドアを閉め、鍵を締める。
今から話す事は他の誰かに聞かれるわけにはいかない。
「ラビ?座らないんですか?」
アレンの声が近く聞こえるのは、距離だけではないのだろう。
アレンの声が近いのも、心臓の音が響くのも、ラビ自身の緊張からくるものだ。
「ん、そうだな」
響く声に引かれるよう、ラビは静かにアレンの隣に座った。
日付がもうすぐ変わってしまう。
あと少しでイブが終わり、クリスマスとなり、それはアレンの誕生日となる。
もし叶うなら、アレンの誕生日を祝う時『仲間』ではなく『恋人』として傍らにいたいと思う。
「あの、さ…俺、アレンに伝えたい事があるんだけど、聞いてくれるか?」
確認するように聞くラビの言葉を、受け入れるかのようにアレンはラビを見つめ返す。
その真っ直ぐな瞳から視線を逸らしてしまいたい気持ちを抑え、ラビは一呼吸を置いて告げた。
「俺、アレンにずっと言いたい事があったんさ」
「言いたい事?」
ラビの振り絞るような言葉に相づちを打つよう、アレンは言葉を繰り返す。
その様子に愛しさと苦痛を滲ませラビは言葉を紡ぐ。
「俺は、ずっと前から、アレンの事が好きなんさ。もちろん、恋愛的な意味で。それが、エクソシストとして許されない事も、アレンが望まないかもしれない事も分かっていたけど、俺の気持ちは変わらなかったんさ」
一度言葉にすることでラビの思いは優しく流れ出し、その言葉にアレンは何も言えずにいた。
一呼吸を置いたラビは、そのアレンの様子に心を決め告げる。
「アレンには迷惑だろうけど、俺は俺の気持ちを声に出さないと、先に進めそうもないんさ。だから、この気持ちを絶つ手伝いをしてほしい。頼むさ」
アレンが言葉を失ったのは、ラビの望みとは違う答えを意味するのだろう。
始めからこうなる事をラビ自身覚悟していたのだから、この悲しみは予想していた。
好きになっても報われない恋。
分かっていても消えてくれなかった想い。
でも、僅かな希望を絶てば、自身はまた前に進めるそんな気がしていた。
なのに、なぜこんなにも切なく、狂おしいのだろう。
アレンに振られたとしても、後悔はないが、気持ちはまだ消えてはくれなさそうだ。
そんな気持ちを内に秘め、ラビがアレンの言葉を待っていると、アレンの口からは意外な言葉が発せられた。
「勝手な事…言わないでください」
アレンの言葉には怒りが滲んでいた。
「アレン?」
アレンの顔を覗くようラビが見つめた瞬間、部屋中に怒声が響く。
「誰が迷惑だなんて言いました!僕はそんな事言った覚えありません!勝手な事ばかり言わないでください!」
呼吸を荒らげ響かせた声は、ラビの鼓膜に響き、ラビは驚いたまま固まってしまう。
その息を整えるまもなくアレンは言葉を繋ぐ。
「なんで、なんで分からないんですか!僕だってラビの事好きなのに、それなのに、気持ちを絶つって、そんなこと必要ないんです!さっさと気づけ、この、馬鹿ラビ」
怒声は少しずつ落ち着き、それと同時に、アレンはラビから視線を逸らす。
頬を赤らめているのは怒りのせいだけではないのだろう。
「アレン、俺のほう見て?」
驚きを隠せないままラビは、アレンの視線を促す。
「嫌です、鈍感なラビの顔をなんて見たくありません」
ラビの言葉に対してのアレンの反応は、どこかたどたどしく思える。
しかしラビも簡単には諦めない。
「ごめんな、アレンの気持ち少しも気づけてなかったさ。なぁ、どうしたら許してくれる?」
日付はもうすぐ変わってしまう。
せっかくの両思いならば、あと僅かなクリスマスイブを少しでも過ごしたい。
ラビの心にはそんな思いが浮かぶ。
そんな気持ちが伝わったのか、アレンから小さな提案の声が聞こえた。
「なら、今ここで、もう一度ラビの気持ちを聞かせてください」
アレンの言葉にラビは微笑を浮かべ、改めて、アレンへの思いを告げる。
「俺は、この聖なる夜に誓ってアレンが好きさ。本心から愛しく想ってる。俺の恋人になってほしいさ」
アレンへの思いを囁くラビの二度めの言葉に苦痛はなく、その分愛しさが溢れていく。
その言葉に反応するよう見つめたアレンの表情にも、それと似た恋人への愛しさが浮かぶ。
「僕もラビが好きですよ。僕もラビの恋人になりたいです。愛しています」
視線を逢わし、距離は近づき重なりゆく。
重なった口元からは互いの愛が交わり、より深く濃くなる。
それはイブの夜によく似合う、赤く美しい愛と、白く輝く純粋な思いの重なりとなり。
鐘の音ですらも消せない愛しい、永久の聖夜となった。
d灰短編小説(bl)休刊のお知らせ
上記の通り、短編小説を休刊する事にいたしました。
この中の物語に触れてくれた読者様には申し訳ないのですが、シンプルに言えばネタが切れてしまい、今の私にはこれ以上作品を増やせそうにありません。
しかしいずれまた書き始める日が来るかもしれませんので、その時はまたd灰短編小説を楽しんでいただければ幸いです。
なおこのトピはbl関連のジャンルへ移動願いを出す予定です。
上手く移動できたらいいな。
以上、作者より
移動が出来たという事で、作者から皆様へ。
本短編集を読んで下さり、誠にありがとうございます。
稚拙な上、誤字脱字の多い内容で申し訳ありません。
現在進行形で日々セイチャット内小説を書き、修行に勤しんでいますので、何卒生暖かく見守って下さい。
なおご意見ご感想等いただけると幸いです。
以降、ご意見・ご感想等の投稿をお願いします。
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