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No.2
by 1 2016-07-31 18:10:41 ID:fef322984
ベアトリーチェ_彼女は本当に普通の幸せな家庭で17まで育ったのだろうかと魔女は思考する。と言うのは彼女の無意識から「覗き見」をした普通の幸せな家庭と、客観的な普通の幸せな家庭とでは酷くかけ離れていたからだ。
魔女はもう1度彼女の無意識から記憶を覗く_。
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彼女はただただ従順に何も考えず言われるがままに、まるで着せ替え人形のように屋敷で日々をすごした。それでも彼女は幸せだった。
たとえ、ママだと慕っていた女性が、実は一滴の血のつながりもなく、無抵抗にブクブクと肥え太らされたガチョウのように彼女を17まで育てて、18の時に三枚ぽっちの金貨と引き換えに奴隷商人に引き渡そうとしていたとしても。
何処かの挿絵で見た、遠い島国に咲く曼珠沙華のような紅蓮が彼女を無意味に縛り付けていた屋敷と彼女のママを覆い尽くし、彼女が人間と人間の子供ではなく、人間と魔女の間に生まれた「魔女」であると知るまでは_____。
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「とてもこわい夢をみたの」
彼女はとても酷い汗をかいていて、同情を誘うほど白く不気味な肌は間違ってペンキを零してしまったかのように「青」に汚れていた。
震える手には彼女が「どうしても」と言って離さない白百合の髪飾りが握られていて、それがよりいっそうあなたの夢を鮮明にしてしまうのよ。聡明な魔女は言葉にしないでそっと彼女の頬に手を添えた。
「大丈夫、大丈夫よベアトリーチェ。私がいるわ、ここにいるから」
「ママ、ママ。お本を読んで」
現実を受け入れきれなかった幼い魔女は18歳になる前日に起こった全てを拒絶し、屋敷に閉じこもった。燃えて失われたはずの屋敷は幼いが故の不安定で強力な魔力によって蘇り、かけられた祝福は彼女を守るために魔女を呼んだ。
彼女を優しく見守るママを。
「...どれを読んでほしい?」
「これ、これを読んで」
呼ばれた魔女はラグーシャと言った。
無意識を司る魔女ラグーシャ。私と過ごせばこの子も忌まわしいあの出来事を忘れられるだろう。ベアトリーチェは記憶を「追いやった」だけで決して忘れてはいない。それを私が封じ込めるのだ。私の無意識で。
ラグーシャは手渡された本をゆっくりと読み上げる。幼い魔女はママに抱かれながらゆっくり微睡みに身を任せ、その初心で柔らかな瞼に蓋をし、恐ろしい記憶の欠片と共に思考を手放した。
無意識の欠片の受け皿となった魔女は小さく「ママ」と呟いて少し泣いた。
_彼女にとっての祝福、魔女にとっての呪いとは