誰かの姉 2016-07-30 05:13:08 |
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最初に。
私の弟は今年で16歳になる筈でした。
病死です。名前は出せませんが、今の医療技術での完治は難しいとされている病気です。
彼は全てを悟っていました。
周りの人間がどれだけ励まそうと、優しい言葉を投げ掛けようと、彼はいつも微笑みながら窓の外を眺めていたのです。
誰も気付く筈がありませんでした。
彼は優しく、賢明で、それでいて勇気のある子だったからです。
誰も気付けなかった、いいえ、気付かせてもらえなかったのです。
彼が心まで病魔に侵されていたなんて。
幼い頃から身体が弱かった彼は、家と、病院と、学校の往復の毎日で、それ以外の世界をあまり知りませんでした。
なので、よく私に質問をしていました。
「姉さん、電車ってどうやって乗るの?」
「姉さんの学校はどんなところ?」
姉さん、姉さん、と私にくっ付きながら何でもかんでも不思議がる彼が、愛しくて愛しくて。
私は一つ一つの質問に対し、物語を話すように、彼に答えました。
そして、13歳の冬、彼は少しずつ変わっていたんだと、今になって思います。
ある日のことでした。
後ろから、彼が私を呼ぶ声が聞こえたので、私は振り返って彼を見ました。
「姉さん、僕はなんで生まれてきたの?」
突然、そう尋ねる彼の右腕は、赤黒く腫れた切り傷がビッシリと並び、見るに堪えない程になっていました。
腕から顔に目を移すと、彼は眉間に皺を寄せ、目を腫らし、下唇を噛みながら必死に、涙を堪えていました。
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