黒猫 悠華 2016-07-27 20:46:22 |
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「あ、グリフィン!お疲れ様ですー」
俺がその声に振り向くと、また多くの資料を持ってふらふらと廊下を移動していたのであろう、うちのリーダーがそこにいた。それを見た俺は半ば反射的になりつつも、即座に半分以上の資料を彼女から受け取り、彼女の隣に立ち歩き始める。
「毎回この書類の量じゃ、寝る時間もないんじゃないんですか」
彼女の目の下の隈が心配になりそう口に出すと、彼女はいきなりこちらに顔を寄せ、にっこりと笑顔を作る。
「いえいえ、このくらいなんてことないですよー。グリフィンも一緒にやります?」
不意打ちなそれに心臓の鼓動が早くなった気がする。俺は彼女から目を逸らしたものの、ふんわりと香ってきた、いわゆる女の子の匂いに慣れていない俺は圧倒される。平常心を保とうと、いつも付けている後悔をぐいと上にあげた。
「……そうですね、今月の残業時間はまだ余裕がありますし」
「え、ほんとにやってくれるんですか?! ありがとうございますー!助かります」
彼女が笑う。俺も釣られて、口角が上がる。
きっと後悔でその口角は見えてはいないのだろうし、俺は相手のために目元を笑わせることができる器用な人間じゃない。だけど彼女には伝わったのか、彼女はいつも言う。
「ふふ、やっぱりグリフィンは笑ってる方がかっこいいですね」
どういう意図でその言葉を伝えているのか、最後まで理解することは無かった。
だけど俺は、匂いもしない、肩を並べることも出来ない、そんな機械に成り果ててしまったマルクト様の前でも、俺は。
「……マルクト様、数枚資料が落ちていますよ。半分持ちますね」
「あ、グリフィン!お疲れ様ですー。ありがとうございます、お言葉に甘えて!」
俺は、精一杯、彼女のために笑っている。
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