黒猫 悠華 2016-07-27 20:46:22 |
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唐突に始まるシンデレラ劇場。
あるところにシンデレラ、と呼ばれた少女がおりました。
本名はエリーゼ・グリタニーニ。街ではかわいいと評判の子でしたが、趣味は男遊びで、周りの人から煙たがれていました。
そんなエリーゼをシンデレラ、つまり灰のお姫様と呼び始めたのは、エリーゼの継母。この人は父親がこの世を去った後、連れ子二人と一緒にシンデレラを罵りこき使うことで、シンデレラをどうにか外に出させないよう縛り付けていました。この連れ子二人はとても不気味で、私はこの二人が好きではありませんでした。
シンデレラはこの生活に飽いておりました。心底飽いておりました。
毎日毎日同じことの繰り返し。スリルも満足感もなにもない日々、発散されない自分の欲とストレス、そしてなにより、愛に飢えていたのです。
そんなシンデレラはある日、滅多にない隙を見つけチャンスだと思い込み、計画もなしに洗濯物を巻き散らしながら家を飛び出してしまいました。
継母の子供達は口を開けたまま、シンデレラが出ていったあとをじっと見つめていました。追いかけずに、ただじっと。継母の方は口角を吊り上げ、人間的に嘲笑っていました。
シンデレラはというと、外を裸足で駆け回っておりました。街並は大して変わっておらず、逆に彼女の目には余計に光って見えました。
久しぶりに日光を浴びて、キラキラと自慢の金髪が煌めいていました。瞳も光を十二分に浴びて、まるで無邪気で純粋な子のように。
彼女はふと気が付きました。自分はろくな格好をしていないことに。はっと息を呑むと、自分の知っている道へまた駆け出しました。友達の所へ服を借りに行くのです。このままじゃ久しぶりのたくさんの楽しいことが台無しになるのを恐れた彼女は、扉の前に立つなり、大きく大きく扉を叩きました。
出てきたのは彼女が思っていた人とは違う人でした。
いえ、「違う人でした。」と言うのは正確ではありません。彼女が思っていた友達ではあったのですが、自分と同様に煌めいていたあの頃の友達がここにはいないのです。一緒に馬鹿騒ぎしてくれた友達が、ここにはいないのです。
しかし考えてみると、彼女はここにくるまでに目の死んだ人しか見ていないのです。目の生きた人には会うことがなかったのです。街中の人達みんな、継母の子供のようになるのかと思うとゾッとしました。
彼女は自分が煙たがれていることは知っていました。しかし、笑顔で接してくれているこの街のみんなのことが好きだったからです。
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