黒猫 悠華 2016-07-27 20:46:22 |
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「まってよ、なにいってるの?私とユウヤが互いに互いの生きる意味を作るっていうの?」
「…できないことはないだろ」
「……。じゃあできるとしてどうするの?互いに…その、けっ、結婚、とか、すんの…!?」
わーレナがめっちゃ動揺してる。レアなんじゃないかとひとりでに思う。
「あー違う違う、そーゆー意味じゃなくてだな。なんていうんだ…その、互いに互いを必要とするだけでいいんだよ。そしたら生きる意味ができるだろ。俺はレナに必要とされていて、レナは俺に必要とされている、そういう関係。生きる意味は互いのため、っていう」
ねぇ…。
「助けて」っていったら
助けてくれる?
頼ってもいい?
救ってくれる?
『僕』を、殺してくれる?
『私』を、見つけてくれる?
深い深い海の底に沈んだ私を、
僕というものに蝕まれた私を、
君は━━━━━━━。
そういうとレナは少し考え、こっちを向く。
「…じゃあ、私はユウヤを、必要とすればいいのね?そうすれば、ユウヤの生きる意味ができる、と?」
「あぁ、そういうこと。俺がレナを必要とすればそれが生きる意味になってレナは下界へ戻れる、っていう…。そう考えたんだが、それをあの黒猫人形が許すかどうかなんだよ…な…」
俺は言葉をストップさせる。それはレナと向かい合っている机の上に突如、あの黒猫人形が現れたからである。
黒猫人形は先ほどと変わらないトーンで話し出した。
〖やぁ〗
「…やぁ、じゃねえよ」
俺が突っ込むと黒猫人形はケタケタと笑った。
〖で!呼んだかい?〗
黒猫人形は俺を向いて問う。
俺は少し目をそらし、さっき話していたことを話してみる。
黒猫人形は珍し(いかはわからないが)く真剣に聞いてくれた。そして俺が話し終えると手をあごにあて、こくこくと頷いた。
〖…できるかもね〗
「…かも?」
俺が咄嗟に聞き返すと黒猫人形は少し位置を移動し、俺とレナを見る形になって言った。
〖それは僕が決めることじゃないんだ。ごめんよ。でもそれは…すごくいい考えだと思うよ!あの人も、満足するんじゃないかなー?でも、君たちが望んでいる形に事を進められたら、だけどね!〗
「お、 おい、あの人って誰だよ」
〖やば!んじゃね!ばいばーい!〗
そういって黒猫人形は慌ただしく煙になって消えた。
「ねぇ、あの人って…」
レナが口を開く。
『あの人』。ここには支配者的なものがいるらしい。
「わからん。少なくともここにきてからレナとあの人形にしか会ってないし…。あいつを問い詰めればなんか分かるんだろうが、消えちゃうんじゃな…」
「…そもそもここに私たち以外の人と会うことができるの?」
「…やってみるか?」
俺は席をたち、少し広くなっているところに移動する。
「…ほんとにやるの?ひ、人の名前だけじゃ、いっぱい出てくるかもしれないじゃない。どうするの?」
「任せとけって。誰出そっかなぁ」
黒猫人形は“生きる意味”以外ならなんでも出せる、的なことをいっていた。じゃあ人も…ということになるのかならないのか。それを実践してみようじゃないか。
『…えーと。俺の血縁関係で妹にあたる………』
こんな感じだろうか。名前はもちろん、俺との関係、年齢、在住所など思い当たる限りを手を前にだし唱える。
何秒か待ったが一向に何も変わらない。
「…まだ?」
「いや…一応お願い的なものはしたぞ?」
「そう…こんなカオスな世界でも動物とかは出せないようね」
「まぁそんなことだろう」
レナはほおずえをつき欠伸した。
「…そろそろ寝るか」
「うん」
あ、レナがうんっていった…。
そんなことはどうでもいい。
俺とレナはそれぞれ部屋へ向かった。
***
「━━っぁ……!?」
起きると隣に人がいた。
ユーヤ、じゃない。女の人。すごく見覚えがある。最近となっては顔も合わせてなかったけど。
「…起きた?久しぶりね、レーナ」
「…ひ、さ、しぶ、り……?」
頭が混乱してまともに会話できない。
「レナー?起きてるかー!」
下からユーヤの声。少し混乱がほぐれる。
この部屋は下界での自分の部屋と似ているよーに作ってて、ほんとのお姉ちゃんは私の部屋なんかにこない。
なんでこんなへんてこな世界に。そして私の隣に。
……ほんと嫌だ、こんな世界。
「……ゆ、ユウヤ!来て…お願い!」
自分でも慌てているのか混乱しているのか何をしようとしているのか、あんまり分かってない。
ユーヤに助けを求めたところで何が出来ると?
「お、お姉ちゃん…」
「ん?なぁに?レーナ」
「どうした!?レ、ナ…?」
ユーヤも突然の状態に動きがとまる。
しばらくして何かを思いついたようにユーヤは息を吸った。
「……く、黒猫。黒猫!黒猫人形!!出てこい…出てこいって!!」
「ねぇ、レーナ。この子は誰なの?」
「お、おね、えちゃ」
私はまだ衝動を隠しきれない。
目の前にお姉ちゃんがいるなんて、夢みたいで。
目の前にお姉ちゃんがいるなんて…最悪だ。
あの頃の思いが思い出される。
いつもいつもみんなはお姉ちゃんを見てた。いつもいつもみんなはお姉ちゃんを誉めた。
いつもいつも、私は一人ぼっちだった。みんな私を見てくれなかった。誉めてくれなかった。頭をなでてもらえなかった。誰も私を必要としなかった。誰も私の存在証明してくれなかった。
もう、消えてしまいたかった。
「なぁ、なぁ!黒猫人形っ!」
だから、ユーヤが、心の中で、私のことを、どう思ってるか、なんて。知りたくない。
「…おねえ、ちゃん」
「? レーナ?」
「……どう、してわた」
〖はいはーい!呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーいだぁっ!?〗
ユーヤは人形をぶったたいた。痛そう。
というか私、今、勇気もって言おうとしたんだけど。
「おっせぇんだよ!生意気人形!!これはどーゆーことだよ!?」
〖だぁかぁらぁー!言ったでしょー?“生きる意味”以外はなんでも出るって!僕は忠告したもん!〗
あぁ。そういうことか。
私が昨日(といえるのか定かではないので、寝る前のこと、っていう会釈で)、ふとお姉ちゃんにあいたいな、なんて思ったから、本当に出てきたんだ。
「じゃあなんで俺のときは妹が出なかったんだよ!」
〖そりゃあ君がどこか出てきてほしくないとでも思ってたんでしょー!とにかく僕のせいじゃないかんねー!〗
「じゃあそれでいいからどーにかしろ!」
黒猫人形は私の方を向いた。私にどーするか目で訴えてるつもりだろう。よくわかんないけど。
「……ちょっと、まって」
「……おう」
どうせ、最後なら。どうせ、偽物なら。
本音くらいいったって、伝わらないならいいじゃない。
全部、吐き出してしまえばいい。
そう思ったのを汲み取るように黒猫人形は笑った。
〖じゃあ悠哉くん!ちょっと外でようか!〗
「……ん」
1人と1体はドアの外へ出て行った。
突然心の中に響いてきたのは黒猫人形の声だった。
〖伝わるか伝わらないか、それは君次第さ。僕らが決めることじゃない。この世界は気持ちの大きい方が無敵なんだ。気持ちさえあればなんだってできる世界だからね〗
よくわからなかったが私はお姉ちゃんの前にたった。
「お姉ちゃん」
「どーしたの?そんなに改まっ」
私はお姉ちゃんの言葉を遮るようにぶちまける。
「大嫌いだよ。私のこと気にかけているフリしてるのも、私を見て笑うのも、正義ぶってるのも、涙を流してるのも、テストでいい点とって頭をなでられてるのも。私はお姉ちゃんが大嫌い。というか、さっきの人形にいわれたとおり。もう、憎いや」
言い終えるとお姉ちゃんは本当のお姉ちゃんのように硬直した。
さっきからの作り笑顔も、消えてしまった。
「ばいばい。おねえちゃん」
「やだ、そんな風に思ってたの、まって、やだよ、私、一番、レーナに嫌われたくなか」
おねえちゃんは消えた。私が心の底から消えてほしいと願ったから。出てくるし、消える。この世界はほんとに不思議。
嫌われたくなかった?そんなの、嘘。嘘に決まってる。
おねえちゃんの、嘘つき。
こんな世界、嫌いだよ。
もう。嫌。
消えたい。
こんな苦しみ、こんな痛み、
もう何もかも全部やだ。
私に頼んな。
私に構うな。
私に情なんてかけんな。
無駄。無駄。ぜーんぶ無駄だよ?
頼っても、構っても、かけても。
私は壁ではね返す。
もうなにも通さない。
もうなにも信じない。
ねぇ、もういいよ居場所なんか。
もうなにもいらないよ。
ていうかあげたくもないでしょ?
こんな存在価値のない人形なんて早く捨てちゃえばいいじゃないか。
なんで直そうとするの?そんなつもりはないとは思うけど。
なんで近寄ってくるの?まぁ実際は嫌なんだろうけど。
でもさ。ここまで言ってるのに人のココロは読みたくなんだよなぁ。
《回想》
○がつ○にち ○ようび
いい子。いい子。
がんばってべんきょうしてがんばってともだちつくってがんばってみんなにやさしくした。
でもおかあさん、ほめてくれない。
あたま、なでてくれない。
ぎゅーって、してくれない。
なんでだろう。なんで?
○がつ○にち ○ようび
わかったよ。おかあさん。
おかあさんにはおねえちゃんがいるんだよね?
おねえちゃんがいるからわたしにはなにもしてくれないんだよね?
わかったよ。おかあさん。
じゃあおねえちゃんがどっかにいっちゃえばいいんだ。
━━━━
「や、やめて、レーナぁ…」
私は刃物をもってお姉ちゃんへ歩みよる。
お姉ちゃんは後ろに下がる。私は前へ。お姉ちゃんは後ろへ。ついにお姉ちゃんは壁際へ。
「なんで…なんでこんなことするの…?お願いよ、やめてちょうだい!」
「…なんで?わかんないの?教えてあげるよ。それはね、」
唐突にドアの開く音が鳴り響く。
私はドアの方へとっさに目を向ける。お母さんたちが入ってきた。
お母さんは私に歩みよるなり私の頬を叩いた。ぱっちぃーんといい音がなる。じーんと痛い。
「なにしてるの!?この…この悪魔っ!!」
○がつ○にち ○ようび
お母さんはお姉ちゃんを心配する。お母さんはお姉ちゃんの頭をなでる。怖かったね、って。もう大丈夫よ、って。
私は本当のひとりぼっちになった。
「レーナぁー?いるー?」
自分の部屋をノックされる。
「うん、いるよ」
あれからお姉ちゃんは私のことを遠ざけるのかと思ったら逆だった。
お母さんは止めようとするけどお姉ちゃんは私にうんざりなほど構うようになった。でも絶対に部屋には入ることがなかった。
「広場に行かない?」
「……ん」
外は嫌いだからそんなに行きたくはないんだけど、断るとそのあとの方がめんどくさいのでそれ以来断りきれなかった。
「…ねぇ、お姉ちゃん」
「なぁに?レーナ」
「…私のこと、嫌いじゃないの?」
「なんで?大好きよ?私はレーナのことが大好き!」
お姉ちゃんの1つ1つのことばがどんどん嘘に染められていくのを感じたのはこの頃からだっただろうか。まぁ本当かどうかは知らないが。
「…大丈夫、か?」
ユーヤが口を開く。
私は少し起き上がってユーヤの方を見た。
「うん、大分落ち着いたから…。迷惑かけて、ごめんなさい」
「いや…迷惑とかじゃないから、大丈夫」
少しぎこちない会話。違和感がある。
〖レーナちゃん!お姉さんは消えたわけだけどもう悔いはないかな?〗
笑いを含んで私に言った。黒猫人形は首を傾げる。私が涙を零したからだろう。
「……うん。もう、会いたくない」
〖…そう?そんな風には見えないけど?〗
私は黙る。
お姉ちゃんなんか、もう、会いたくない。でも。できることなら、会って、あの頃みたいに、笑って、話がしたいなぁ…なーんて。
〖まぁいいや。ユーヤくん!〗
「ん?なんだよ」
〖君は誰かに会いたいかい?〗
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