黒猫 悠華 2016-07-27 20:46:22 |
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「…るせーよ、黙れ」
「…まって…どういうこと?あなたは誰?なんでそんなこと知って…」
レナが口を出す問題じゃないのに。それにも少し腹がたったが、猫の人形の並べる言葉を止めてくれたのには感謝。あれ以上続ければ飛びかかってた。
そう、俺は孤児だ。多分。まぁ小さい頃に引き取られてずっと家族だと思ってた。でも夜、聞いた時から少しずつ受け入れてきた。俺は、孤児なんだな、って。
〖レーナは姉が憎い〗
「…っえ…?」
今まであまりリアクションをしなかったレナが目を見開く。
姉が憎い…?どういうことだろうか。そっちには本物の家族がいるだろうに、なんで憎む必要が。
…俺には分からないに決まってる。本物の家族とちゃんと話したこともなければ会ったこともない。(多分)
俺には、分かるわけがないのだ。
「…違う、違うんです。憎んでるわけ、ない。私はただ、お姉ちゃんが、うらやましかっただけ!」
〖そんなのは最初だけだった。今はそれが大きくなりすぎて憎くなった。そうじゃないのー?〗
「違う…違う違う違う!」
レナは崩れ落ち、手で顔を覆い、必死に否定する。
なにがあったかは知らないがレナは姉への本当の気持ちを隠してたんだなと1人で納得する。バレないようにと隠していたものを暴露され、訂正され。そりゃそうなるか。
……憎かった、か。
〖君たちには1つの共通点がある〗
黒猫はまた話し始める。
ボタンの目が俺とレナをいったりきたりで見る。
しっぽを振っているのからして楽しんでいるのであろう、この状況を。
…つくづく腹のたってくる人形である。
〖…聞きたいかい?〗
「…」
レナはもう消沈してる。バレたのがよっぽどショックだったのだろうか。
「…できる限りの情報はほしい。だから、教えてくれ。共通点でもなんでもいいから」
〖じゃあ話そう。僕が話せる限りの情報を君たちに与えよう。でも、それを知ったところで何も変わらない。どうせ君たちには{何も変えられないのだから}。〗
「何も、変えられない…?」
俺がそうつぶやくも黒猫の人形は無視して“共通点”を話し始めた。
〖桐羽…いや、紅林悠夜といった方がいいのかな。は、孤児なのにも関わらず赤の他人と普通に暮らしていた。そのため、その引き取ってくれた家族にも少しずつ{邪魔}という意識が芽生えてきた。まぁ実の子供が出来た、ということもあるのかもしれないけどね。いいかい?君は今まで引き取り人の心を満たすためにいたんだ。その中、君を上回る者が出てきたら君は意味がなくなる。…今の君に、『生きる意味』は、あるかい?〗
「…っ…」
長い言葉の羅列。俺は一時絶句していた。
邪魔。俺は、邪魔だったのか。そんな俺には、生きる意味なんか、ないのかもしれない。
〖次はレーナ・アリー、だけど…言っていいかな?〗
「……やめて。そんなことなら、言わなくていい」
レナは人形を拒絶。手で顔を覆っている。
俺は、出来るだけの情報を聞き出そうと足で音を鳴らし、人形にこっちを向かせた。
〖? あぁ、情報ね。じゃあ、僕はなんでさっき、どうせ何も変えられない、っていったでしょーか!〗
「…んなこと言ってないで早く言え」
〖えぇー!ちょっとー?呆れないでよー!教えるからー!
この白い空間はある人が作ったもの。ココから出るには何かを自分で作らなきゃならない。…なんだか分かるよねー?〗
察し。レナは絶望の色を見せた。
「……りよ……」
〖ありゃりゃ?〗
「そんなの無理に決まってるじゃない!!こんなへんてこな空間からどうやって…っ!!それに私は戻りたい、なんて一言も言ってないっ!!」
レナはフーッと威嚇。
だけど黒猫の人形は言葉の口調も調子も変えずに答える。
〖そんなの自分が考えるに決まってるじゃない。『生きる意味』を見つけなきゃ、作らなきゃ。そうじゃないと…生き死にもに出来ないよ?〗
「…ずっとこのままってことか?」
〖そーだよ!2人でずーっとここにいるの。ずーっとずーっと。永遠にね〗
生きる意味、なんて考えたことなかった。
ただ、息して。やれっていわれたことやって。それで1日が足早に駆けていく。ただそれだけの毎日だった。
「……ねぇ…なんで…。なんで死なせてくれないの…。私の生きる意味…?そんなの、あるわけ、ないじゃない。意味分からないことに勝手に巻き込まないでよ…っ!!」
レナの頬に涙がつたう。悔し泣きだろう、多分。
俺はうつむく。
心のなかでいるのかいないのか分からない”神”、というものに文句を言う。
俺らの何が悪かったんだ、と。なんで、なんで俺らなんだ、と。
〖まぁここであーだこーだ言われるより実行した方がいいよねー!必要なものはなんでもでるから。生きる意味以外、だけどねー!〗
「…なぁ、オレたちだけなのか?」
〖んんー?どーゆーことかな?ま、いっか。あ、注意!なんでもでるからね!んじゃまたねー!気が向いたら来るよ〗
そういい残し黒猫人形は消えた。
意味が上手く飲み込めない。
なんで俺らだけなんだ。生きる意味がないやつなんかいっぱいいるだろうに。なんか誤魔化されたし。
レナの方へ視線を向けるとやっぱりうつむいていた。俺は体が自由になったので立ち上がり、レナの目の前で止まる。
俺の手は自然とレナの頭の上にのった。
こういうとき、俺の頭には誰の手がのっていたっけ。
「レナ。やろうぜ。それしかないだろ?」
…俺は、気付いたときには1人ぼっちだったから。1人ぼっちはもう嫌だ。
だから一生懸命頑張った。誉められたくて。頭をなでてもらいたくて。自分を認めて欲しくて。ここにいてもいいんだよ、っていう証明がほしかった。
だけど、俺には才能がなかった。
何をやってもだめ。想像した物とは絶対に違う結末になる。全部がBad end。何もおもしろくない。
“生きる意味”がないのも当然、だろ?
レナはまだうつむいたままだ。
「……どーせ、無理じゃない。生きる意味もキョーミないわ。もう、どうでもいい……」
「んなこというなよ。あのな、レナ。お前はお前なんだよ。俺が言う資格はねぇけど、さ。
“生きる意味”がないのなら、作ればいい。
自分を、居場所を、存在を、そして意味を」
「なんでそこまで言えるの。あなたはこのままでいいとは思わないわけ?」
俺は1つ深呼吸する。
「俺は生きたいんじゃない。死ぬ、という人間の最高の時間を体験するために生き返るんだ」
レナの頭の上に乗せている手ではない方の手のひらを上に向ける。
俺は試しに、愛用していたPCを出してみた。……本物…。
「まず…ここに家っていえる拠点でも作ろうか」
「………勝手にして」
俺はレナに好きにしてと言われたので好きにすることにした。
まず頭の中で家を想像し目を閉じる。2人…いや5人ほど住めるくらいだ。間取りとかまで想像し目を開く。
「…成功、だよな。こりゃすげぇ…ほんとに出てくる」
目を開くと想像したとおりの家があった。
俺はさっそく家に入る。何も置いていないので開放感しかない。
てきとーなところにキッチンと風呂、トイレを(いるのかは知らないが)出す。
結構家らしくなってきた。
「……悠夜ぁ……」
俺は一瞬戸惑う。
ここには俺とレナしかいない。
あの声がレナだとしてあんな声聞いたことない。まぁさっき会ったばかりだが。
振り向くと、俺の後ろには少し幼い顔のレナがいた。
「…こ、怖いよ、私、怖い。こんなの、初めて。ねぇ、どうすればいい?私、ずっと1人だったの。どうすればいいの…?」
本音なのかもしれない。今まで誰も頼れなかった人の初めての叫びかもしれない。叫ぼうとしても叫べなかった。その方が正しいか。
俺は1人じゃなかった。最初は。
初めて自分は1人なんだと思い知ったとき、急に孤独感にかられた。今まで周りにいた人が遠くへ、手の届かないところへ、行ってしまったような気がして。
そんななかで頼れる人なんかいるはずない。
だから…だから。
「なぁ、レーナ。俺らさ、どーせなんかしないと出られないんだろ?だからさ、それまででいいからさ」
それは俺の心の叫びでもあったかもしれない。
それは自分を満たすために言った言葉かもしれない。
でもそれは、一番、2人が互いのことを知るきっかけのような気がした。
「━━家族に、なってくれないか?」
「……か、ぞく…?」
「そう。まぁ家族といっても一緒にいて、一緒に考えて、一緒に…ここから出るだけだから。だめ、だよな…ん、ごめん」
俺はそういってレナから離れようとするとそれを阻止された。
レナが俺に抱きついたから。
「…いーよ、それくらい。……そのかわり、私も出来るだけ何でも言うから、ユウヤも」
そういって顔を赤くしたレナはとても愛おしくみえた。
俺はなるべく笑って抱きかえす。
「当たり前だろ。ありがとう。レナ」
レナは小さく笑った。
俺とレナは離れる。
レナは軽く咳払いして言った。
「家、作ってくれてありがとう。料理はできるからキッチンは使わせてもらう。部屋はユウヤが先に決めてて。後で私も自分の部屋に物を置いていくから。他人…いくら家族でも部屋には入ってこないでよ…?」
「さすがに俺でも、んなことはしねーよ!?俺を何だと思ってんの!?」
あ、なんか急に不安になってきたわ。レナから俺はどうみえてるのか心配だわ。
「…ごめんなさい。じゃあ、作業に取りかかるね」
「お、おう」
*
「こ、こんなもんか…。あれ、いい匂い…!」
一階に降りようとすると(家は二階まである)スッゴくいい匂いが漂ってくる。レナ、料理作ってるのか。
「あ…好み、とか聞かないで作っちゃったけど、食べる?」
「あ、はい!食べます!」
おしゃれな机に並べられていたのは豪華な食事だった。
思わず喉が鳴る。早く食べたい。
「この世界…想像するだけで何でも出てくるけどやっぱり作りたかった」
「料理好きなんだな!」
俺はいただきますというと勢いよく食べ出す。
こんなへんてこな世界でも食欲もろもろの欲は沸くようだ。
「うん…料理を作ってるときは、私が一番好きな時間だから。何も考えなくていいから」
そういいながら一口食べるレナ。
ここの食材もレナの調理の仕方も上手いので最高な料理である。
(つぶやき
ハグってさ人の体温とかあったかさとか感じられるから好き
ハグに限らずですけどね。まぁ今日いろいろ?あったかんね)
ご飯を食べ終わり、自分の部屋を2人とも整え、次にすることを話すためにリビングのテーブルに向かい合って座った。
ここには朝とか昼とか、暑いとか寒いとか、そこら辺がないので2人が眠くなったら眠る、ということにしている。
「…レナ。意味ってどうやって作るんだ…?」
「なんで私に聞くのよ。知らないに決まってるじゃない」
「あ、いや、生きる意味じゃなくて。ふつーにさ、行動するときとかの意味はどうやって作ってたっけ…っていう」
「いや、なんで分からないのよ。行動するとき、意味…というか目的があって人間は動いてるの。それは他人が仕向けるものもあるばそうでない、自分で作って行動するときもある。他人任せで作るか、自分自身の力で作るか、じゃないの?生きる意味は、自分だけじゃ作れないわよ」
…そのとおりだ。あれやれ、っていわれたらやる。あれやりたいな、っておもったらやる。多分そういうことだろ。
俺らはそれを何も他人に影響与えず『レナ(or俺)は生きてほしい』とか思わせないといけないんだろう。
さっきの黒猫人形はそういっていたのだろうと解釈。違っていたら教えなかった黒猫人形が悪い。
「……じゃあ自分たちで作ればいいじゃないか」
「…?」
俺らの力は下界(と呼ぼう。俺らが今まで住んでいた世界を)にまで及ばない。
だったら。
ここで作ってしまえばいい。
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