黒猫 悠華 2016-07-27 20:46:22 |
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手を伸ばす。俺は必死に、貴女へ手を伸ばす。あぁなんて、なんて遠いのだろうか。
俺の声は届かない。貴女は振り向いてもくれない。そんな状況に絶望しかけた手前、目の前が貴女の育てていた藤の色に包まれ、貴女の背中すらも見えなくなる。貴女の、俺より小さく愛らしい影すらも。
背中が見えなくなる瞬間、貴女が俺の方に振り向いた気がした。大きな帽子の下から見えた貴女独特の緑の瞳が、俺を捉えた気がした。
視界は完全に藤の色に染まり、自分がどういう状況かすらも分からない。何故貴女は終わりを知っていたにもかかわらず、終わりを告げなかったのだろうか。疑問だけが俺の頭の中に振り積もっていく。
俺の服には貴女のものであろう、金色の長い髪の毛が一本付いていた。きっと先程の取っ組み合いで付いてしまったのだろう。それを手に取り、大事にポケットの中へ入れた。そんなことしたって、貴女とのしょうもない喧嘩を想ったって、貴女はきっと戻ってこない。俺はただ、自分の顔を手で覆い隠しながら、涙を流すことしか出来なかった。
透き通った、エメラルドのような青い瞳。そんな貴女の瞳の中に、俺はいましたか。俺は、映ることが出来ていましたか。
俺は、貴女の立派な弟子になれたでしょうか。
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