なんでもないただの部屋

なんでもないただの部屋

黒猫 悠華  2016-07-27 20:46:22 
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そんな興味深いものでもなく。
ただ書きたかったことを綴っているだけなのデスヨ。
サイコパス?多分そんなのはない。
厨二病?…たぶんないヨ…。

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  • No.3802 by 黒猫  2019-06-30 03:23:29 ID:15f351c75

あーーーひまぁぁあ(勉強しないクズ)

  • No.3803 by 黒猫  2019-06-30 03:23:51 ID:15f351c75

運命そーだで八万字………かきますか

  • No.3804 by 黒猫  2019-06-30 03:24:27 ID:15f351c75

それかしんでれら………まぁいっか運命そーだで。
あれ結構好きなんだよね。

  • No.3805 by 黒猫  2019-06-30 03:49:06 ID:15f351c75

● 目次

Ⅰ 目次 あてんしょん
Ⅱ 設定に関して
Ⅲ ~ 本編


 
● あてんしょん。
 
・某実況者集団を元にしたキャラクターによる二次創作です。現実の一切と無関係です。誹謗中傷や晒し、御本人方に迷惑になる行為は絶対にお辞め下さい。お願いします。
 
・元々本人達にあるキャラ設定に自作設定を混ぜた捏造軍パロです。
 
・グロ表現や読み手が不快になる表現があると思われます。許してくださる方のみこの先にお進み下さい。
 
なんでも大丈夫な方のみの閲覧をお願いします。
 
それではどうぞ。



設定
 
・グルッペン 使用武器…ライヒリスリボルバー(リボルバー)・デザートイーグル(マグナム)
  ポジション…総統。
 主な外交はこの人(たまにオスマン)。そして一番の優先順位はこの人。たまに神から薬を処方される(精神安定剤)。なんだかんだでみんな思い。大体トントンとオスマンでなんかやってる。メンバーへいたずらを仕掛けたり、意外と甘党派でオスマンと護衛約一名と共によく街へ甘いものを食べに行ったりなど、お茶目な部分もある。外部からの侵入を酷く嫌っており、自分のメンバー以外は敷地内へ入れることは無い(くられや軍曹は例外)。そのことから自分のメンバー十三人と例外二人以外を雇わず、兵士などの小さな駒も持たない。それでも充分な力を持ったメンバー達なので、そのメンバー達を信頼してのこと。デザートイーグルはこの人が使っているからか、大体護身用で銃を扱う時はみんなこれを使う。ライヒリスの方はドイツ製のもの。
 
・トントン 使用武器…粛清剣・AK-12(アサルトライフル)
  ポジション…グルの右腕兼戦闘リーダー。近接班。
 シャオロン、コネシマ、ひとらんらん、ゾム、ロボロをまとめる。グルと仲いい。全体的にこの人が中心で動いている節がある。みんなのことよく見てる。童貞。大体は単体行動で周りのサポートをしたり、総統の護衛を務める。近接に関してはゾムに次ぐ実力の持ち主。メンバーの自主トレにたまに付き合ってあげたりもする。よくグルッペンとたまにオスマンを交えて、三人で戦略ゲーをすると止まらなくなるので、幹部の人達がどうにかこうにかして止めに来る。静粛剣のことで兄さんのいる武器庫へ足を運ぶことが多い。そこでよくひとらんらんとも会う。この静粛剣(八代目)も軍曹鍛錬のもので、刃が予想以上に欠けたり、兄さんにも手が負えないと分かると、ひとらんらんの刀もついでに持って軍曹の元を訪れたりもする。アサルトライフルの方もロシア製のもので愛着がある。
 
・♂♀マン 使用武器…(口・)自衛用ナイフ・MP5(サブマシンガン)
  ポジション…参謀兼諜報リーダー。指令班。
 グルッペンの代わりとして行く出張外交で自領にいないことが多い。そのため結局どんな班もトントンが全部まとめることが多い。エーミール、しんぺい神、チーノ、それと遠距離系の鬱大先生、しょっぴ、兄さんをまとめる。甘党でJK。よくグルッペンと街へ甘いものを食べに行く。人前ではタバコを吸わない。エーミールとはよく書斎で会う。エーミールが入れる紅茶が好き。それと一緒に出てくるお菓子も好き。物事を客観的に捉えられるため、グルッペンやトントンから作戦の相談を受けたり、直接関わることが多い。ただしあまり自領にはいないため、本人もあまり口出ししないようにしている。
 
・鬱大先生 使用武器…L96A1(スナイパーライフル)・スプリングフィールドM14(バトルライフル)
  ポジション…オスマンの幹部。遠距離班。
 よくしょっぴ、または兄さんと行動する。常時、グルッペンから課せられるレポートに追われている。昔は女遊びが酷く、夜の街へ出かけることも多かったが、最近はコネシマと風俗に行っている。近接は本当に苦手。運動能力もないため、接戦すると重傷を負うことが多い。が、死ぬことはない。重傷でもなんでも誰かの肩に担がれながら帰ってくる。煙草はところ構わずめっちゃ吸う(ゾムに殴られる)、酒も飲む。しかし吐くことが多いのはたまに傷。しんぺい神と仲良い。電子機器の扱いに長けていて、よくロボロに頼られる。さらに敵のネットワークへ入る時もよく呼び出される。
 
・コネシマ 使用武器…近接類(なら大体使う、小さいナイフは使わない(体術が苦手のため))・デザートイーグル(マグナム)
  ポジション…トントンの幹部。近接班。
 よくシャオロンと組むことが多い。と言っても両方不器用なので、細かいことは向いてない。ヘビースモーカーだが酒は飲まない。風俗常連。最近は大先生と行く。心が無いと言われている第一号だが、多分心が消えたのではないかと思われる。怪我をするときは大体急所は意図的に外すため、あまり大事には至らないことが多い。陽動が得意。よくシャオロンと一緒に作戦の一部として使われる。タバコをこのグループ1位2位を争うくらいのヘビースモーカーで、喫煙所に行くと大体いる。シャオロンとは違って銃が使えるが、細かい照準を合わせられなく、拳銃で乱発することが多い。そのため結局ただの目くらましとして使うことが多い。最近はたまにしょっぴに教えてもらう。が技術向上はなかなか見られない。
 
・シャオロン 使用武器…近接類(ならなんでも使う、殺傷力があるものほど使う)
  ポジション…トントンの幹部。近接班。
 よくコネシマと組むことが多い。近接最強。そこに関してはゾムよりも強かったりする(気分による)。基本的不器用。ナイフや剣など、近接類ならなんでも使いこなす。そのため返り血が一番酷く、怪我をした時は一番重傷になりやすい。多分コネシマより不器用。コネシマと同様、陽動が得意。そんなコネシマと一緒に陽動しながら動くのが好き。でも銃はとことん下手。当たらない。もう諦めた。眠いときは甘い声で他メンバーに甘えるが、他メンバーも面倒くさいのか、適当にあしらわれることが多い。イライラすると(逆に言うとイライラした時に)、尋常じゃない量のタバコを吸う。遠距離系が使えないため、作戦での使い方も難しいところではあるものの、グルッペン、オスマン、トントンはコネシマとともに活用することでシャオロン自身の力を最大限に発揮することが出来る環境を整えた。その後ろでしょっぴか鬱大先生が援護射撃をすることが多い。
 
・ゾム 使用武器…Groza(アサルトライフル)・
kar98k(ショットガン)
  ポジション…トントンの幹部。主にスパイ班。
 単体行動が多い。スパイなどが得意。味方最大の脅威の名の元、このグループいちの身体能力の持ち主。よくメンバーにイタズラする。自領内の全ての通路(隠し通路含め)を把握していて、メンバーの会話を盗み聞きするのが好き。たまに会話に入ってくる。スパイ系の出張でいないことがたまにある。でも本当に忠誠を誓っているのは総統様なので、本人的にスパイ任務はあんまり好きじゃない。送り出す時はトントンも渋々。偵察任務は大好き。戦場から帰ってきて殺し足りないとメンバーを襲う時がある。さすがに殺しはしないが、殺気のオーラにやられるメンバーも多数。嫌煙家。主にGrozaを愛用。ショットガンでゲームのようにヘッドショット狙うのも好き。
 
・ロボロ 使用武器…体術・自衛用ナイフ・AK-12(アサルトライフル)
  ポジション…トントンの幹部。指令班。
 自領に残ることが多い。いろんな機械を駆使して敵の動向を見て、皆に指示を出す。近接もいけるものの、冷静な判断で即決出来るので指令班として動く。心が無いと言われている第二号だが、本当にロボロは元から心がないと思われる。近接となると、ナイフと体術を駆使して相手を圧倒する。不意打ちが得意なところもある。なので、戦場に不参加、加えて指令を出さない時も、オスマンの後ろで護衛を勤めていることが多い。顔に紙が被せられているものの、どういう原理か見える(パート1)。銃の扱いは中の上程。ただし弾を込めるのが上手くない。本人も気にしてるからか、装弾されている数より多く打たないことが多い。トントンと同じ銃を所持しており、戦場に出た時に不具合が出たら問答無用でトントンに押し付ける。
 
・ひとらんらん 使用武器…刀(軍曹鍛錬)・体術・デザートイーグル(マグナム)
  ポジション…トントンの幹部。近接班。
 近接であるが、単体で行動することが多い。自分の着ている真っ白な服に血が付くことを嫌う傾向がある。だからゾムやシャオロンのように派手に動き回るのが好きじゃない。自領の裏に専用の農園を持っている。そこでは小麦を育てている。農園のさらに裏にある馬舎にいる馬がめっちゃ好き。愛馬は外道丸。たまにしんぺい神がちょっかい出しに来る。男子高校生のようなノリで突っかかってくることが多いが、戦場に出ると人一倍実力があると言われる。基本自領の建物内でしか煙草は吸わない。軍曹からもらった刀を大切に扱っていて、軍曹と仲が良かったりもする。現場に出た後、一回一回兄さんにメンテナンスに出したり、服を汚したりしないようにするなどの行動からメンバーから几帳面だと思われていたりするが部屋は汚い。
 
・エーミール 使用武器…チーノの作った爆発物・FN P90(短機関銃)・自衛用のナイフ
  ポジション…オスマンの幹部。爆破班。
 豊富な知識量で、オスマンをサポートする。証拠隠滅はお手の物。あまり戦場には出ないが、戦場に出るといつもとは違う雰囲気を醸し出す。自他共に認める行動力のなさで、たまにメンバーを呆れさせる。が、スイッチが入ると普段からは考えることのできないような行動するので、人一倍殺意は高いと思われる。戦争屋ではないと言っているものの、多分生粋の戦争屋。タバコに関しては、人前で吸おうとはしないものの喫煙所に行くと一人で黄昏ている様子がよく目撃される。いつもはグルッペンやオスマンと兼用している書斎に篭って、書斎を訪れた人に紅茶を振る舞う。これが物凄く美味しい。ナイフの扱いもあまり手慣れていないものの、自衛程度なら何も問題は無い。銃の照準は合うか合わないか五分五分なので威嚇にしか使わない。
 
・しんぺい神 使用武器…自衛用ナイフ・デザートイーグル(マグナム)
  ポジション…オスマンの幹部。治療班。
 医師の免許を持っていて、どんな怪我も大体診てくれる。心が広いホモの神。面倒見がよく、メンバーの体調などをいつも気にしている。任務前後にはしんぺい神の体調や怪我のチェックを受けなければならない。タバコ常備。鬱大先生の良き飲み仲間。ひとらんらんの愛馬である外道丸を好いており、よく農園の方へ顔を見せる。本人は煙草を吸っており、自室である治療室は煙草の匂いが染み付いている。そのためゾムは軽い怪我であるものの、人一倍傷ついて帰ってくるくせに治療室に行きたがらない。そのためゾムの部屋には出張しに行く。顔に紙が被せられているものの、どういう原理が見える(パート2)。
 
・兄さん 使用武器…SVLK-14S(スナイパーライフル)・レミントンM860(ショットガン)
  ポジション…オスマンの幹部。遠距離班。大体は武器庫の番人。
 鬱大先生やしょっぴほど出撃はしないものの、それなりの実力の持ち主。煙草メガネマフラーの三点セット。わんわん(性癖)。武器の手入れ専門。その気になれば強化も可能。銃だけでなく剣、ナイフなどの扱いにも長ける。戦場でもタバコを吸う。しかし動くのが好みではないのか、スナイパーを使うことが圧倒的に多い。鬱大先生に銃の扱いを教えた(それがしょっぴにも継がれている)。あまり表には顔を出さず、作戦にもあまり関わらない。武器を派手に壊して帰ってくると怒る。SVLkはロシア製のスナイパーライフルで、射程の距離や威力など、文句無しの高性能。
 
・しょっぴ 使用武器…SLR(スナイパー)・UMP(短機関銃)
  ポジション…オスマンの幹部。遠距離班。
 鬱大先生とともに遠距離班として動く。銃の扱いがこのグループの中で一番上手い。集中力が半端なく、一回集中するとその物事一点にしか注意がいかなくなるので、鬱大先生に助けてもらうことも多い。シャオロンと一緒にメンバーを煽ることが多いが、普段は先輩であるコネシマのキラーとして動くことが多い。その反面、コネシマを慕っていて仲がいい。後輩枠。戦場では煙草を吸わない。物事を冷静に捉えることが出来るものの、自分が一度執着したものになるとその部分が欠けることがある。シャオロンやエーミールなどと遊ぶことが多い。シャオロンのわがままになんだかんだで付き合ってくれるのはこの子。SLRめっちゃ好き。これでたまにわざとコネシマの足元に打つのが好き。
 
・チーノ 使用武器…自分の作った毒ガス・M16(アサルトライフル)
  ポジション…オスマンの幹部。実験班。
 エーミールに渡す爆弾やオスマンに渡す毒薬、ゾムへ渡す睡眠薬、しんぺい神へ渡すいろんな治療薬、近接班に渡す筋肉増強剤、自分で使う用の毒ガスなどを研究している。装備の改造もお手の物。このグループにおいて一番の新人であるものの、後輩としてではなく新人として入ってきた。それはトントンやコネシマとの関係があってこそである。グルッペンにも気に入られた。丸メガネの奥底にはまだ見ぬ何かが秘められている。エーミールやオスマン程ではないが博識で、頭が良く回る。煽りもシャオロンやしょっぴに次いでよくやる。武器の関係でガスマスクは常備。銃はあまり発砲しない。当たらないからと本人は言っているものの、誰も当たったところを見たことがないので多分本当。恥ずかしいのか練習はしない。が、夜中に射撃場に行ったりする時がある。



おまけ
 
・くられ先生
  ポジション…マッドサイエンティスト。
 チーノに薬剤を持ってきたり、薬学の知識を付与したりする。グルッペンやトントンと顔見知り。街では大きな研究所を持っていて、グルッペン率いるグループへ興味を抱いているらしい(特に反応がいい鬱とチーノ)。
 
・軍曹
  ポジション…バーの店主。
 トントンの友人。時たま戦場へ救援物資を運んできたり、怪我人の応急処置をしてくれる。物騒な名前をしているものの、普段は街の方でバーを営んでいる。たまにグルッペン、トントン、オスマンの三人で行っているのを幹部が確認済み。刀などの刃物も嗜んでおり、グループの装備での刃物は大体この人が製造、内部でメンテナンスを行っている(メンテナンスは大体兄さん)。
 
 
 
 
 
●その他
 
・自領と街は少しばかり離れている。自領は山沿いにあり、街は海沿いある。メンバー達はこの街を守る為にも在る。街の権力者とたまに談話を行って均衡を保っている。
 
・グルッペン達が目を置いているのは、くられ先生の研究所や軍曹のバーがある街。ついでにコネシマや鬱大先生が来る風俗店やグルッペンやオスマンが来るカフェもここの街にある。発展度的には、周りの街よりもちょい有能かなレベル(?)。
 
・付近には敵対する派閥も多く、反感を買うことが多々ある。が、結構な悪名で知られていて、グルッペン側に手を出すところは少ない。
 
・みんな共通のナイフを一本ずつ所持(軍曹作)。「護身用ナイフ」を書いているメンバーはまた別にナイフを持っているという意。
 
 
 
 
 
●「赤」にて、自領幹部配置場所等
 
・まずまずの設定的なにか
攻城戦的な‥?僕的には鬱キャッスルが元。でも戦いのところだけだから(日常はなんか都合よく部屋作ったりするので)、戦いシーンの背景描写ではなにも登場させなかった。
鬱キャッスルはあくまでも部屋の間取り的イメージなので。………まぁ意味わからんからどーでもいいか

 
 
・関門場所について
 
第一 → えま-じぇんしーシャオロンホール(名前忘れたんだが)があるとこ。攻城戦にて攻め込む側が第一突破地点、といったところ。
 
第二 → 第一の階段あがったとこ。おにごっこでロロロがtン殺したとこ
 
第三 → 王の間、だったっけ?chはあそこの額縁裏に待機。毒ガス弾などのトラップを設置。
第四 → 射撃班担当場所、第一のサポートのため第一に上がるための階段付近をぶち抜けるように、向かいの塔の上に位置。もう一人はその上(下に行ったら水で落下ダメージ軽減できるとこ)にて、全体的な援護。
 
第五 → シャオロンタワーだっけ。コネさんがいつの日か、上ってきたシャオロンを殺したとこw。上からみんなの場所をロボロを頼りき把握しながら爆弾落とす的な。

 
 
・幹部配置場所
 
kn shと一緒。第一関門地点担当。敵の近接兵処理担当。shとともに背中合わせで戦う。shの影響によって重傷気味(にする予定)になった。彼自身の戦い方は慎重型。ただ不器用
 
sh knと一緒。第一関門地点担当。敵の近接兵処理担当。knとともに背中合わせで戦う。酷く傷を負ったknを庇いながら戦ったおかげでいつもよりも負傷する。
 
ut htと一緒。第二関門地点担当。珍しく前線へ。スプリングフィールドを振り回す。htへの負担を軽減するために動くのが主。いつも遠距離班なので、体術が得意ではなく怪我が多い。
 
ht utと一緒。第二関門地点担当。前線へ出てきたutを活用、出来るだけ最小限の動きで(体力持続のため)敵を翻弄する。utをある程度守りながらで、こちらも怪我がいつもより多かった。
 
si 救護班、第三関門地点担当。chの支援をするのが主だが、バラ園周辺と行ったり来たりして近接班の二人の様子も見守ったりしている。本人は体術もいけるので、出くわす敵は始末。
 
ni sypと一緒。第四関門地点担当。その中でも特に、自領の外側を中心にカバーを行う。sypに連絡とっても返してくれない方が多いので、自分で見に行く事の方が多い節がある。
 
syp niと一緒。第四関門地点担当。その中でも特に、自領の内側(第一、二の場所)に雪崩込む敵をなぎ倒すためのカバーを行う。ここの部分には動く味方が多いので集中力ガン使い。
 
ch 主にsiと一緒。第三関門地点担当。主にガスを使ってここまで上がってきた者達を殲滅。入口付近(味方に支障が出ない程度)の場所にも毒ガスは撒いてある。よくsiを見失う。
 
em 第五関門地点担当。というか仮ボス。上から味方の動きを随時把握しながら爆弾投下したりする。自領が破損するものが総統からは許可を貰っているため、威力の弱いものを使う。
 
rb レーダー。司令塔。いなかったらみんな終わる。モニターや皆の声、音から判断し的確な指示を出す。位置的には攻城戦の防衛側リスポーン位置のイメージ。一人で篭ってる。
 
 

● 「緑」にて役割分担
 
・gr
  侵攻前 : 待機班 侵攻 : 待機班
 kn、siと共にosのいる司令室に入り浸る。rbの時は入らせてくれないのでとても興味津々。しかしそのあと、自ら戦闘にはいるという奇抜なアイデアを提案し、そのまま乗り込む。
 
・tn
  侵攻前 : 待機班 侵攻 : 近接班
 niと組む。niの安定した支援を受けながら、マイペースで敵を圧倒していく。さすトン。grが前線に来たと知ってから、心なしか戦闘が荒くなった。
 
・os
  侵攻前 : 情報収集班 侵攻 : 待機班→司令班
 久々に司令班になったことで少し緊張している様子。慣れにより効率的ではない指示が飛ぶことがあるが、ロボロよりも指示そのものは的確である。
 
・kn
  侵攻前 : 偵察班 侵攻 : 近接班→待機班
 前回の怪我が酷く、今回の作戦に支障を来すと悪いという理由で総統直々に班を変えられた。文句を言いながらも、領地内でちゃんとグルッペンにぴったりくっついて護衛するお仕事を果たそうとがんばる。
 
・sh
  侵攻前 : 偵察班 侵攻 : 近接班
 emと組む。emの爆破の援護を受けながら自分スタイルで突き進む。いつも一緒のknが居ないため、スロースタートとなってしまったものの、emに口出ししながら戦う。
 
・ut
  侵攻前 : 情報収集班 侵攻 : 遠距離班
 遠距離班となったものの、ゾム回収係として、ロボロとともに駆り出された。運動神経はそこそこ悪いものの、なんとか運動神経の良い二人について行こうと頑張る。主に後ろから支援射撃。
 
・ht
  侵攻前 : 待機班 侵攻 : 近接班
 sypと組む。普段あまり馴染みのない同士であるが、持ち前の器量と力でしっかりと連携プレーをこなしていく。今回も自慢の白い服が赤になりそうな予感。
 
・syp
  侵攻前 : 待機班 侵攻 : 遠距離班
 htと組む。前線に出て体を使いながらの射撃であるものの、集中力は途切れず。連携を取るために心にゆとりを持てとknから散々言われてムカついた。
 
・ni
  侵攻前 : 待機班 侵攻 : 遠距離班
 tnと組む。安定した二人となって、楽にできると思っていたがしっかりと働く。支援攻撃を主に、トントンも処理しきれない量の人数で自分の周りに来た人たちを飛ばすくらいは活躍する。
 
・rb
  侵攻前 : 待機班 侵攻 : (司令班→待機班→)近接班
 班を変わってもらった後、utと組みたいと志願。それからutとともにゾムの回収係として、ゾムの元へ向かう。自前の瞬発力とゾムと互角の体術で敵を圧倒する。いつもの癖か、周りの状況を判断して動くことが多い。
 
・em
  侵攻前 : 待機班 侵攻 : 爆破班
 主にshと行動しながら、いろんなエリアの爆破を行う。爆破力がそこそこのやつをshの周りに放ったりもして、shの手助けをする。ちょっかいを出されながらも真剣に、chに作ってもらった爆弾を放つ。
 
・si
  侵攻前 : 待機班 侵攻 : 救護班
 攻めなし。待機班と行動は一緒。やばい時は出る、という役割。であったが状況は一変。一時期grに鍛えられていた体術やナイフの使い方を駆使しながら戦う。久しぶりすぎて慣れてないせいか、動きがぎこちない部分もある。
 
・ci
  侵攻前 : 待機班 侵攻 : スパイ班
 単体行動。スパイするのは苦手であるがzmがいないため、仕方なく駆り出された。内部からの壊滅を図る。あまり描写はされてない(予定)が、結構な活躍を果たす。
 
 
 過去
 
・gr
  詳細不明。身分は貴族で長男であることと、ある所の没落貴族の末裔であることは分かっている。
 
・os
  grと幼馴染。身分は貴族で三男。grの家が没落したことを知り、面白そうだからという理由でgrについてきた。
「俺は俺だけのものをつくる、俺らしいだろ?俺と共に、そのための礎になってくれないか」
 
・tn
  平民。詳細は「緑」参照。
 
・ni
  俺は平凡な武器職人の家に生まれた次男。そんな家系の中でも、群を抜いて腕が良かった。そんな彼は存分にその才能を使い、褒められたいが故に、武器を作り続けた。そのことに対しては貪欲になる。彼は彼自身の人生の末路を知っていたが、ある日、武器職人欲しさに町を練り歩いていたgrが彼の家を訪ねた。
「自分の人生は自分で生きろ。何者にも振り回されていいもんじゃない。お前の生き方は本当にそれでいいのか」
 
・ut
  knと同じ系統の政治家の息子であり、長男。知識があり詭弁。しかし、自身の性格からかそれを出すことはあまりなかった。長男という身分に引け目を感じ、縁を切って放浪、衰弱していたところを拾われる。
「能力は欲に追いつくことが出来ない、お前だけではな。だから、追いつけるための手助けをしてやる。一緒に来い」
 
・sh
  平民よりも一つ下の身分。彼はそんな中生まれながらも、目立つことなく彼なりの方法で上手く生きてきた。盗みにはいる際にosに捕まり、才能を見抜かれそのままgrの元へ。
「能ある鷹は爪を隠す……まさにその通りだ。お前は十分強い。その力を俺のために使ってくれ」
 
・kn
  utと同じ系統の政治家の息子で次男。次男ということもあり、比較的自由が効いていた。そんな彼は、貴族という堅苦しい場所とはまた違う居場所を探していた時に、少し関係のあったosに誘われる。その際、元々疎遠だった家族と縁を切る。
「居場所は自分で作れ、自分で作ってこその居場所だ。その居場所がここでも構わない、それだけの話だ。チャンスにしがみつくか離すかはお前次第だ。今もこれからも、それは一生変わらない」
 
・ht
  平民で数少ない刀職人の末裔であり長男。詳細は「緑」参照。
 
・rb
  貴族、平民やsh.zmとはまた違う身分であることは確かだが、内部について詳細不明である。小さいことがコンプレックスだと言っているものの、種族的に必然的なことであるので牛乳を飲んでも無駄。体を動かすことが好きで、自分の住んでいる場所より外に出ていたところをshに見つかる。
「暗闇で道が見えなくなるのなら、その暗闇をなくしてしまえばいい。俺が光を照らしてやる」
 
・zm
  shと同じ身分。しかし自身の暴走癖により、shとは違い、家族の顔も覚えてないなど、扱いがもっと酷かった。そんな中、噂を聞いたgrとosが保護しに来た。大まかな内容は「緑 」参照。
「死なない技術は俺の仲間が教えてくれるさ、意味の無い死を遂げるくらいなら俺のために**」
 
・si
  平民。小さい頃から親に医師になれと散々言われ続けていた(そのため人より医療に長けている節がある)。しかしそれが息苦しかったため、家族を裏切り、噂に聞いていた組織の医師ポジションへ。(この組織は一応収入制度があるため、収入は全て家に入れている)
「持っているものを使わないでどうするんだ、宝の持ち腐れを見ているのはとても胸糞が悪い。こっちに来い、それを存分に使ってやる」
 
・em
  平民。詳細は「緑」参照。
 
・syp
  貴族。詳細は「緑」参照。
 
・ch
  平民。詳細は「緑」参照。
 
 

 「黒」
 
 
「あれ、グルッペンここにもおらんの?」
 グルッペンの自室でオスマンと俺、トントンで、うちのネット回線に入ってきていた敵と見なしてもいいグループをターゲットするための話をしていると、シャオロンがノックもせずに入ってきてそう言った。
 それを聞いたオスマンの血の気がさっと引いたのが分かった。何か思い当たる節でもあるのだろうか。
「……トントン、なんか聞いた?」
「……いや何も。せやな、今日一回も見てないでほんまに」
 今日の朝ごはんの当番は俺だったがつまみ食いもされていない。いつも俺の時だけつまみ食いに来てドヤ顔して帰っていくのだが。
 グルッペンもオスマンの反応も、何かが可笑しい。気がする。まぁでも大体二人で悪巧みとかしてるからその類なんだろうなと考えて、オスマンの指示を待つ。
「……ちょっと手当たり次第探してくるわ。グルッペンが帰ってきたら言って。無線繋いどくから」
「了解。俺はメンバーに聞いてみるわ。シャオロンは何も知らんのやんな?」
「うん。なんかノリで頼まれてたレポートをちゃんとやったから、褒めてもらおーって思っとったんやけどなぁ」
 どこ行ったんーと大きな声を出しながらシャオロンは部屋を出ていった。グルッペンを探す気は無いらしい。
 オスマンも慌ただしく部屋を出ていった。多分私服にでも着替えて、街に繰り出すのだろう。ただの心配性なだけなのか、単にグルッペンが抜け駆けして甘いものを食べに行ったとでも思ったのか。それともまた別の何かなのか。
 まぁどうであれ、オスマンが行ってくれたから大丈夫だろう。
 俺はグルッペンの机に置いてあった、多分あいつが俺に頼むであろう書類を持って部屋を出た。
 
 
 
 †
 

 
 俺、グルッペンは指定された路地裏に足を運んでいた。
 目の前には六人の青年がそれぞれ、ゴミ箱の上やら換気扇の上やらの場所に座っていた。その中の黄色が基調の青年と水色が基調の青年が口を開いた。
「……ちゃんと一人で来たんだ、逆にすごいね」
「なんだかんだ律儀なんですね、総統様、でしたけ。さてと、さっそく本題に入りましょうか」
 ここにいる六人の青年が仕切るグループは、リーダーというものが存在しないことで有名だ。後ろの方にいる赤と緑が主戦力だという噂はよく聞くが、この話には興味が無いようでそっぽを向いている。
 最近、こいつらが俺達のネット回線に入ったとの報告があった。その直後、俺宛に一通の手紙が届いた。送ったのは目の前にいる男達らしく、例の無断侵入について話がしたいから一人でここにこい、とざっといえばそんな内容だった。
 馬鹿正直に一人でここに来た俺も俺なのだが、どうせ俺が窮地にたっても助けてくれるんだから大丈夫だろ、みたいな軽い思考だし許してくれるだろう。総統だし。多分……赤い豚と緑のJKには怒られそうな気はするが。
 水色が続けて話す。
「本題っていうのはもちろん、あの侵入についてです。俺たち自身、あれで得られた情報も少ないのでどうこうするつもりはありません」
 俺達に対する敵対行為をしながらも、にこりと微笑みながら淡々とそんなことを言う青年が少し恐ろしく見えた。
 あの侵入で得られた情報は少ない、というものの俺達の基地の位置やその他雑な情報は流れているはず。だからこいつらはいつでも体制を整えてこちらに仕掛ける準備が出来ている、という解釈でいいだろう。
「……こちらに危害を加えるつもりは無いと?」
 俺がそう聞くと、次は黄色が口を開いた。
「まぁ基本的には。なので一つ、条件を出していいですか。まぁこれを話すためにここに来てもらったんですけどね」
 そこまで黄色が喋った途端、ふっと俺の横を何かが通った。さっきまで奥にいた赤と緑がいない、ということは二人が動いたと判断していいだろう。横を通った、ということは後ろに二人で待ち構えたりしているのだろうか。
 兎に角、その一瞬でここの空気の温度が変わったのがわかった。俺は今、動けない状態にあることを悟る。
「……そちらのグループにいる……トントンさん、でしたっけ?をこちらにくれませんか」
 首に冷たいものが当てられた。拒否ったら殺す、という意思表示で捉えていいだろう。……なんとまぁ、物騒な。
「……それはトントンに聞いてくれ。俺のグループを続けるのも脱退するのも、トントン次第だ」
 降参だ、という風に手をあげると冷たいものが引いた。こんな曖昧な答えでも許してくれるらしい。実は悪い奴ではないのでは……なんてことは思っていない。抜けがないやつらだと、純粋に賞賛している。
「トントンっていう赤いマフラーのやつが肯定すれば、いいんだな」
 黄色と水色の後ろで黙っていた黒が口を開いた。それは交渉結果を確認するかのようで、俺の答えの中で何かを探しているような、そんな雰囲気だった。
「あぁ、止めやしないさ」
 そこまで話すと黄色と水色は俺に軽く会釈をして、六人はすたたっと路地裏の暗闇に消えていった。
 ……トントンをどうする気だろうか。
 侵入してきた敵組織を特定したのでそこを襲撃する算段であったが、その敵と直接対峙した今となると、もうちょっと考えなければいけないかもしれない。
 ……エーミールに爆破でもさせようか。万が一敵の領地内に俺たちのデータが残っていたら困るし、まず第一に胸糞わるい。なぜ、俺の駒がこんな奴らに取られなきゃいけないんだ。むしゃくしゃする。
 俺はふっと一息吐いて、裏路地からゆっくり出た。光が眩しい。
 後ろ……さっきまでいた路地裏の方からがたんと音がした。それでもさっきの異様な六人の雰囲気に未だに蹴落とされているからか、振り向きもせずに街へ歩いた。
 昼になり、全体的に騒がしくなってきた街を少し歩いていると、グルッペン、と聞き慣れた声がした。
「ちょっと、どこいってたん?!一人で出掛けるのはなしっていったやろ!」
 オスマンはすごい勢いで俺の方へ走ってきて、そう言いながら俺の肩をぐわんぐわんと揺らした。すまんすまんと軽く謝ると、オスマンは大きく息を吐いた。
「なにやってたんかしらんけど、怪我はない?何も無かった?」
「あぁ、特に何も。散歩してただけやぞ。なにをそんなに心配しとるんや?」
 俺がそういうとオスマンは、俺の頭をぽかりと軽く殴る。それから俺の方を再度見て、自分の怒りを抑えつけるかのように言った。
「軍曹んとこ行って!甘いもの食べて!さっさと帰るよ!いい?」
「お、じゃあオスマンの奢りな」
「この前私が払ったから今日はグルッペンめう!」
 そんな言い合いをしながら軍曹のバーで二人で甘いものを食べた。結局俺が払うことになったものの、新作だと言って出してくれた小さなケーキがとても美味しかったので満足だ。
「ありがとな、軍曹」
 俺がそういうと、軍曹は静かに微笑んだ。
 オスマンも大分落ち着いたようで、いつもはあまり好んで飲まないコーヒーとともに一息ついて、バーを出た。
 自領に帰ったら案の定、赤い豚に怒られた。
「あんたがいなくなったら俺らめっちゃ困るんやで?一人で行くのは無しやって約束やったやろ?罰として一週間出禁な」
「はぁああ?そ、そんな事言われても俺はオスマンと一緒にまた行くゾ!」
「はぁ……グルッペンは出禁か……。残念めう……今週はお気に入りのパンケーキ屋さんの新メニューが発売されんのに。感想はちゃんと言うね」
「嫌味だろそれ」
 俺達はそんな会話をしながら、ネット侵入を図った敵領地を攻める計画を練り始めた。ちなみにその敵領地というのはさっき会った六人の組織の部下組織、みたいな位置にある。
 あいつらが何も行動しないという根拠はない。だから先に行動を起こそうと、二人にあいつらに会ったことは言わないまま適当な事言って、上手く計画を練る事に付き合わせた。
 ……なぁトントン。懐かしいな、俺がトントンを拾った時、お前は言ってたよな。俺とこの組織にこの身を差し出す、みたいなことを。
 お前は大事な俺の駒だろ、信じてるからな。……いや、勝手ですまんが、信じさせてくれよな。
 
 


 
 「赤」

 銃声。叫び声。生臭い匂い。もういい加減嫌になってくる。
 そんな中、ぴぴっと軽快な音が鳴って、慣れた声が俺、鬱の耳に届いた。
『遠距離班の二人、援護射撃やめてえーで。今から爆破班が入る。侵入してた人回収してきてや』
「はいよ。……ほら、俺らがあいつ回収するって」
「あ、了解っす」
 俺は短く返事して、隣にいる集中力が半端なかったからか、ロボロの命令に対して何も反応しなかった彼を軽く肩を叩きながら呼ぶ。それから各自愛用の銃を背負う。
 しょっぴくんは背伸びをぐいーっとして、軽くジャンプし始めた。動く気満々らしい。俺もちょっとだけ真似をする。
 内部にいるチーノを回収してこいというのを俺らに任せるロボロもロボロだと思うが、任されたからにはやるしかない。
「じゃ、ちゃちゃっと行きまっか」
「ういーす」
 ルートはロボロが付きっきりで指定してくれている。それに沿って、二人で派手に銃をぶっぱなしながら突撃していく。
 ちょっとしたスペースにガスマスクをして堂々と仁王立ちをしている彼が見えた。多分あそこに近寄ると本当にやばいので、名前で呼び寄せる。こちらに来たチーノはぱかっとガスマスクを自分の頭上に動かし、俺らに乾いた笑いをしながらため息をついた。
「あざす……。死ぬかと思った……」
「はは、死なせんで」
「殺されそうになったのサポートしてたの誰だと思ってるんすか」
 あれは仁王立ちではなく、ただ単に一人が怖くて固まっていただけだったらしい。かっこ悪。
 そんな会話をしながら足早に来た道を戻る。帰りはチーノも加わって銃撃戦となった。
 着用可能のぎりぎりまで防弾チョッキは着ているものの、死ぬ時は死ぬ。これでも最小限の銃撃戦だ。だけど敵の数が尋常じゃないのか、絶えることなく俺らは撃っていた。銃弾もあんまりない。
 やっとのことで外に出て、ロボロの安堵の声が聞こえる。それからロボロは全体に対して指示を出した。ロボロが退却指示を出したと同時に、俺らとは入れ替わりでエーミールが敵領地へ走っていった。
 俺らはエーミールが乗ってきたであろう車に乗って、近接班の彼らよりも一足先にシートに座る。
 これからゾムが入ってくるので煙草は吸えない。まぁすでにタバコの匂いが染み付いてはいるが、今吸えばゾムの拳が飛んでくるので、代わりにため息をつく。
「……どしたんすか、ため息ついて」
「ほんとやん。らしくないで大先生」
「……ほっといてや……僕は煙草吸いたいねん……」
 早く帰って、お菓子でも作ってみんなに振る舞って、からかわれて笑われて、こちらも笑って。そんな平和な生活のために、命を何個も何個も奪い取っていく。
 俺らがいつも仕事をするのは、死が隣り合わせと言っても過言ではない……「戦場」とでも言おうか。一瞬も気を緩められない、俺らみたいに、仕事中に余裕の笑みが出てくる方がおかしい「戦場」で仕事をこなしている。
 これまでにうちのメンバーで死者が出なかったのが不思議でたまらない。無茶するやつだって山ほどいる。重傷者は出たことがあるが、今のところ、しんぺい神と自身の再生力によって乗り越えてきている。
 まぁどれだけ大きな怪我を負ったとしても、これを続けているのは仕方がないと皆がそう言う。悪い意味でもう俺らは頭がいかれてしまっているのだろうけど、こうでもしないと生きられないんだから文句も言えない。
 人を殺して殺しまくっても、もう誰も叱ってくれない。誰も罰を与えてくれない。それどころか報酬まで貰える始末だ。この世の中は案外ぶっ壊れていたらしい。
 爆音とともにエーミールが帰ってくる。彼はいつもの優しい笑みで人数確認をして、いつもの声色で迎えに行かなきゃですね、なんて言った。エミさんはエミさんで吹っ切れているのかもしれない。はたまた最初からこうなのか。
 先の爆音とは裏腹に、静寂に包まれたこの場所で、エーミールは軽快に車を走らせた。
 
 
 
 †
 
 
 
「……了解」
 俺はいつもと同じく、無機質にそう答えた。
 耳についている機械から聞き慣れている声で指示が届いた。退け、との指示で俺、またはその他のメンバーも一旦自分が任されている箇所から離れる。
 近接班である俺、トントンはメンバーの簡単なヘルスチェックをしようと、同じ近接班のコネシマやシャオロンの方へ足早に近づく。
「怪我は」
 ぶっきらぼうにそう聞くと、顔色もよさそうな二人とも笑って答えた。
「なんともないで」
「大丈夫や」
 シャオロンは近接しか武器がないため、よく怪我をして帰ってくる。コネシマはそんなシャオロンを庇うことが多いせいか、こちらも怪我が多い。今も結構な傷の量だと思うものの、見たところ深いものは無い。本人達が大丈夫だと言っているからまだほっといても良さそうだ。
 軽く会釈をして、二人から遠ざかる。
 ロボロの指示がまだ来ないので、次のペアであるひとらんらんとゾムの方へ駆けつける。ゾムが俺に気付いたようでささっとこちらに近付いてきた。
「よぉー! 元気?」
 にこりと微笑みながらそう聞いてくる。その頬には赤黒いものがべったりと付いていた。
 ゾムはたまに止まらなくなってか、前線以上に攻め込んで一人で深手を負って帰ってくることがある。今日はひとらんと一緒なのでそんなことはなさそうだが。
「おん。そっちは」
「元気やで。ほら、あいつの服もあんま汚れてへんやろ?」
 そう言ってゾムがひとらんを指さす。彼なりのこだわりで血を自身につけない戦い方をしているのはいいが、たまに大怪我を負って帰ってくるのでこちらも要注意だ。今日は大丈夫そうだが。
 指をさされているのに気付いてか、ひとらんはこちらを見てひらひらと手を振った。
 そこまで確認して、辺りは爆音と砂埃に包まれた。突然のことだが、俺達は特に驚きもしなかった。
 珍しく潜入していたチーノの仕事が全て終わり、遠距離班の鬱先生やしょっぴくんによってチーノが回収されたのか、エーミールのパワーみがアップされた手榴弾が敵領地内に放たれたらしい。だからロボロは俺らを引かせたんだな、と一人で納得する。言ってくれればいいのに。
 予定ではこんなに派手にしでかすことは無かった。ちょっと俺らのネットに入ってきたのでその仕返しを、と言って立てた計画だ。裏でなにかあったのだろうか。
 あまり外には出ないエーミールが出動したということは、証拠隠滅をしなければならない何かがあったと察していいだろう。盗まれたデータのことだろうか。しかし、多分今どき色んなところに保管しているだろうし、こんな派手なことする必要すらないと思うのだが。
『……任務完了。さっき来てもらうついでに、エーミールにみんなが乗れる分の車を出させてあるで。やからみんなそれに乗ってーやー』
 さっきとは違う、気の抜けた声が耳に届く。それを聞くと毎回、終わったんだ、という実感を覚える。血で噎せ返るようなこの場所から離れようと、ゾムの方を再び向く。
 ゾムは俺の足を見て動きを止めていた。
『……総統がお待ちやで』
 再度ロボロの声が聞こえる。低く唸るような声だった。
 ひとらんが俺に近づいてきて、それからゾムと同じように俺の足を見つめて動きを止めた。
「……なぁトントン、その足、どないしたんや」
 ゾムとひとらんの声でもない声が後ろから聞こえた。振り向くとコネシマとシャオロンの姿。
 俺はついに力尽きて、地面に怪我をしてない方の足の膝をつける。
 俺の左アキレス腱の辺りに一突き、ナイフが刺さっていた。呑気に人の健康状態を見れる状態ではなかったのは確かだった。
 ……痛かったけど、俺はそれよりも仲間の方を優先した。
「……あー。早く帰ろーや。総統様が、待っとるで」
 俺はそう言って、コネシマの肩を借りて歩き出す。
 エーミールの運転する車がこちらに来て、早く乗れと促した。中にはすでに鬱先生としょっぴくん、チーノがいた。総統であるグルッペン、総統のお傍にいるオスマン、そして武器庫の管理をしている兄さんは自領で待機しているのでこれで全員だ。
「……えっとんち?」
「……どしたんすかトントンさん」
「……は、どないしたんそれ」
 先に車に乗っていた三人がそれぞれ、俺の状態を見て言った。俺はそれに対して軽く笑ったものの、周りの四人は目を逸らして黙っていた。しばらくしてその三人も目を伏せる。
「……皆さん、早く乗ってください。帰りますよ」
 エーミールが静かにそういうと、近接班の四人はぞろぞろと車の中に足を踏み入れた。もちろん俺も。
 シートに座って一息つくと、視界がぐわんと歪んだ。突然のことで、声も出ずに隣のひとらんの方へ上半身を倒してしまった。ひとらんは小さく声を出すも、何事も無かったかように再度窓の外を見つめ始めた。
 俺には他人の血もついている。ひとらんがせっかくあまり汚さなかった白い服を汚してしまって申し訳ない気持ちと、このままでいさせて欲しい気持ちが混在する。
 しかし最終的には意識が遠のいて、そのまま目を閉じた。
 本当にこれでよかったのだろうか。
 
 
 
 †
 
 
 
 ロボロの退避指令直後、俺、コネシマとシャオロンの身を案じてこちらへ近付いてきたトントン。彼の問いかけに俺ら二人はにこやかに微笑む。
 さっきの戦闘中に横腹の方に浅い切込みを入れられた俺は、至る所に傷が出来たシャオロンの方を見る。こいつはいつも危ない戦い方するくせに無邪気な笑顔で返り血を浴びていくんだからタチが悪いと俺は思っている。
 トントンは軽く会釈して、ゾムとひとらんがいるであろう場所に行った。
 そんなトントンが一瞬、足を引きずっているように見えた。
 ただの気の所為だろうと首を振るも、一度気になったらいろんなことが頭によぎる。あのトントンが、メンバーの中で唯一ほぼ無傷で帰ってくることの出来るトントンが、今回に限って怪我を負うなんて。
「……どしたん?コネシマ」
 シャオロンがそう言って俺の顔を覗き込む。俺は他人によって赤く染められたシャオロンの頬を拭ってやった。
 どぉぉんっと爆音が鳴る。俺らの戦力の一部であるエーミールの大量の手榴弾が爆発した音だと推定すると、ロボロがあの指令を出したのにも納得がいった。
 それから一転、その場が静まり返る。俺はシャオロンの質問に答える。
「……トントン、怪我してへんかった?」
 俺がそう言って数秒もしないうちに、シャオロンは俺の腕を掴んだ。俺が咄嗟に焦った声をあげると、シャオロンは俺を真っ直ぐ見つめて言う。
「んなわけあらへんやろ。行くで、トントンのとこ」
 怪我なんて日常茶飯事な彼でもトントンの怪我は心配するんやな、なんて呑気なことを思った俺の腕をそのまま引っ張る。俺はそれについて行くように足を動かした。
 俺たちがトントンに追いついた時にはゾムとひとらんが絶句していた。
 それは俺の気の所為ではなかったようで、俺たちを心配するトントンの足には慣れないものが刺さっていた。俺たちも見覚えのある、小型のナイフ。
「……なぁトントン、その足、どないしたんや」
 トントンは俺の問いかけに答えることなく、俺の肩を貸してくれとせがんだ。俺は快諾し、力尽きたようなトントンをずるずると引きずりながら、ロボロの指示通り、エミさんが乗ってきた大型の車にみんなで乗り込んだ。
 いつもとは違うトントンの様子をメンバーは察したのか、異様に張り詰めた車の中でトントンの意識が飛んだのが分かった。
 今もトントンにナイフは刺さっている。下手に抜いて、これ以上血液が出ても困るからそのまま。トントンがこんだけ憔悴しきっているのと、いつもならこの車の中で傷だらけのまま騒ぎ合うメンバーが黙りこくっているのは、怪我が原因というよりも、多分この一本のナイフが原因だと思われた。
 なんと言われようとも、このナイフは俺達の、俺たちしか使ってないナイフであることは事実だ。軍曹さんが作ってくれた特注品みたいなもので、メンバー全員これを一本ずつ持っている。
 ならばどうしてこれがトントンに刺さっているのか。メンバーの中の誰かが刺した、なんて考えたくもないし、考えられないだろう。トントン以外の全員は二人で同時に行動していたし、エーミールもトントンが刺された後に戦場に足を運んだから、犯人を探すならみんな除外していい。
 だったら誰のナイフで誰がやったのか。答えのない問いが頭の中をぐるぐる回る。
 もうすぐ自領につく、というところで耳に直接ド低い声が届いた。何も考えなくてもわかる、グルッペンだ。 
『聞こえるか。誰も死んでないな?』
 その声はグルッペンには似合わない、焦り散らしたような声色で、早急に答えを欲しがっているのがわかった。
 ロボロが状況を察して呼び寄せたのだろうか。それとも、報告とともにグルッペン自身がすっ飛んできたのか。俺は後者の方が有力だな、なんてことをぼーっと考える。
 それからグルッペンが他の誰かと喋っている声、ロボロとオスマンの声も響く。多分、司令室には待機組の兄さん、しんぺい神を含めた五人が集まっているのだろう。
『はよ帰ってこいや、ペ神待っとるで』
『みんな大丈夫?帰りも気をつけるんよ』
 それらの声に俺ら全員静かに肯定し、やっと口を開けたシャオロンは、いつもの調子でエミさんを急かし始めた。
「エミさんもっと飛ばせんの」
「え、これ以上やったら危ないでしょ?! 怪我人乗せてるんですからね?!」
「いーの。早く帰るんやから。早く!」
 シャオロンがぶーぶー言っていると、ゾムまでもがエミさんに文句を言い出す始末。俺とひとらんはそれを聞いて笑いを零す。エミさんは文句を受け流しながらも、出来るだけ早く帰れるように車を走らせる。
 メンバーが黙りこくっていたあの雰囲気は無くなっていた。代わりにトントンの静かな寝息が聞こえる。もうちょっとしたら、この寝息も平和ないびきに変わるだろうか。
 そうこうしているうちに車が自領の車庫に入った。俺達は早急にドアを全開にし、寝息をたてているものの、未だ意識が飛んでいるトントンをみんなで運ぶ。最終的には治療室の奥の処置室に運んで、それからしんぺい神による処置が始まった。
 トントンが無事に処置室に入ったのを確認して、各々行動を開始した。
 しんペい神が言った通りのものをチーノ、それと一緒にエミさんが取りに行った。ゾムとひとらんはロボロとともにグルッペンとオスマンに報告に行って、鬱先生はトントンの着替えを取りに、シャオロンと兄さんはトントンの武器をとりあえず武器庫へと言って持っていった。
 待合室のような状態となった治療室に残ったのは俺としょっぴくん。しょっぴくんは俯いたままで、俺の方を向きもしない。彼らしくないなと思って、俺は声をかける。
「……しょっぴくん」
「……先輩。あれ、俺らのナイフですよね」
 それに対して、俺は咄嗟に何も言い返せずに黙ってしまった。しょっぴくんが俯いたまま発した言葉は俺も分かっていた嫌な事実だった。
 このことをグルッペンにどう伝えろと言うんだ。誰かが刺したかもしれないのに、あの総統に言えるわけない。
 少しして、俺は答える。
「……せやな。でも状況的に誰も刺せる訳ないんや」
 だからメンバーの中の誰かがトントンを傷つけた、なんてことはまずない。そうやって半ば自分に言い聞かせるように放った言葉だったものの、しょっぴくんもそれで安心したのか、顔をこちらに向けた。
「そう……っすよね。誰も仲間にはあんなことしませんよね」
 そう言いながら、大層疲れ切った表情でこちらに微笑んだ。
 普段は戦場から帰ったあとのしょっぴくんは彼特有のずば抜けた集中力によって体力をガン削りされているからか、メンバーいちと言っていいほど元気がない。今日はチーノの回収作業にも言っていたそうだし、普段よりも疲れているのだろう。
 俺はそんな彼の頭を雑に撫でた。彼は子供じゃないんですから、なんて言いながらも、あまり抵抗はせずに受け入れた。
 しばらくしてメンバーが各々の用事を終わらせて集まってきた。トントンの処置がまだ終わっていないのか、しんぺい神は処置室から出てこない。
「……ナイフ、だったそうだな」
 グルッペンが重々しく口を開く。敵領地に出向いてない人以外の全員、総統から目線を逸らしたいが故に目を伏せた。
「……ナイフ持ってるよな。一人一本で予備とかないんやから、なかったらバレるんやで。そんな不器用なこと、せぇへんよな」
 ロボロが早口にそう言う。それからグルッペンがナイフを出せと指示した。
 しかし誰も動かない。俺も動けない。
 そう、バレるのだ。これをやれば、誰かがナイフを持っていないことが分かるのだ。そうすれば必然的に疑われる。たとえ、そいつがナイフを落として、拾ったやつにトントンが刺されたのだとしても、総統の怒りの矛先はナイフのないそいつに向かうだろう。
「……俺は持ってるで。ちゃんと。俺は、使ってたから」
 何分か皆沈黙のままだったが、何も事が動かないことに痺れを切らしたゾムが未だ赤く光るナイフを取り出して、ぽつりぽつりとそう言った。
 それに続いてシャオロンがゾムと同じようなことを言う。俺もそれにつられて、ゾムやシャオロンと同じようなことを言った。言いながら、誰のものであるかも分からない赤黒いものが付着している、自分のナイフを右手に持った。
 ひとらんも鬱先生もしょっぴくんもチーノもエーミールも、それらに続いて、黙ったままナイフを懐から出した。それを見た自領内にいたメンバーも自分のナイフを懐から取り出す。
 俺は思わず目を疑った。みんな持っている。誰かが落とした訳でもないらしい。
 じゃあ、あのナイフは誰のなのか。
 そしてトントンは誰に刺されたのか。
 ここのメンバーではない、つまり敵戦力であるのは間違いない。だがしかし、敵だからといって、わざわざこのナイフでトントンを傷つけるなんて、ヘンテコなことをする必要は無い。
 司令官で敵の監視カメラさえも占領していた頼みの綱に等しいロボロの目はチーノの救出に向いていて、当時の経過が分からないらしい。結局、ロボロは何も見ていなかったと言える。
 まぁそもそもトントンの戦いは安定したもので、見ても見ていなくても一人、あるいは二人でばちこりと任務をこなしていく有能だから、俺がロボロの立ち場に立っていてもチーノの救出を優先したであろう。
 それに加え、戦いに出ている全員の声はロボロのところや各々のところに常時届いているはずのもの(秘密裏に進めるものは通話を分けたりもする)の、トントンの呻き声や刺された時の声などを誰も聞いていなかったらしい。もちろん、俺も。
 そこまでばっと確認して、その場が静寂に包まれる。誰も動かない、何も発しない。
 そんな中、ガラリと処置室の扉が開いた。
「しんぺい神、トントンの足は……!」
 グルッペンが一目散に、そして早口でそう聞く。俺らだってその質問の回答が欲しいので、黙ってしんぺい神の返答を待った。
 しんぺい神によると、幸い傷は浅かったという。アキレス腱が切れたと思っていたものの、元々アキレス腱自体が強靭で、そこを外れて刺さっていたという。それとアキレス腱の左上の辺りに刺さっていたから、歩行可能かどうかは経過次第でないと分からないらしい。
 それから「あとな」、としんぺい神は俯きながら言った。俺らの前に差し出したしんぺい神の右手にはトントンの足に刺さっていたであろう小型のナイフが収められていた。
「……これな、トントンのやったんよ。しかもな、服の状態からして、落としたわけでもなさそうやねん……」
 トントンのものであろう血で赤く染まったナイフが憎たらしくキラリと光る。
 そもそもトントンはあまりこれを使わない。トントンが言うには、感覚的に小型ナイフ自体にしっくり来ないらしく、非常事態に備えていつも持っている程度だ。あとがん担ぎとして、とかも言ってた

  • No.3806 by 黒猫  2019-06-30 03:58:07 ID:15f351c75

っけな……。
 だから、俺らから見ても取り出しやすいなという位置にはさしてなかったはず。しんぺい神が落としたわけではなさそう、ということは服の損傷や激しい運動によって落ちる状態ではなかった、ということだと解釈していいだろう。
「……え、どゆことなん」
「……意味わからへんねんけど」
「……本当にトントンのなの、それ」
 シャオロン、ゾム、ひとらんがそれぞれ発する。頭が混乱しているらしい。まぁ実際俺も同じような状態だが。
 しかしながらこうなると、本人に聞いてみなければ何一つわからない。手がかりも何も無いこの状態で真相を明らかにする方が難しい。
 トントンは今ぐっすりと寝ている状態で、足以外の怪我は大したことはなかったという。じゃあ今度はみんなの傷見せて、としんぺい神が言うと、怪我をしている人達がシャオロン、大先生、俺、ひとらん、チーノ、しょっぴくんの順番で並んだ。ゾムはひっそりと、しんぺい神に会釈をして自室に戻った。いつもの様にあとで個人的に見てもらうらしい。
「コネシマ」
「なんや?」
 俺の後ろにいたひとらんが呼びかける。俺が振り向くと、ひとらんはなんとも言い表せないような曖昧な表情をしていた。小さく息を吸って、ひとらんは言った。
「……トントン、俺に倒れてきた時、泣いてた」
「……え」
 それからすぐに俺の順番が来て、詳しくは聞けなかった。だが俺は、それに大きな違和感を持った。
 
 
 
 †
 
 
 
 トントンが怪我をして何日か経った。怪我は実際そんなに深くなく、今も問題なく歩けるようになったらしい。まだしんぺい神からは安静をと言われているが、生活に支障はないと本人は言っていた。
 しかしそんなトントンは最近ずっと自室に篭もっている。総統という立ち位置にいる俺が仕事を与えていない限り、あいつは何もしなくてもいいはずなのだが、食事や訓練に付き合ったりする時以外はずっと自室。エーミールなんかがお茶を提供しているらしいが、本当に何やっているかは不明である。
 ……ノック音が響いた。特に何も不都合はないので肯定の意を示し、中に入るよう促す。
 こうやって律儀にノックするやつも相当少なくなってきた。オスマン、しょっぴくん、エーミールと、それから。
「グルッペン」
「……なんや」
 この男、トントンを含めたメンバーくらいではないだろうか。ここのメンバーは案外常識人が多いと思っていたのだが、その認識も危ういのかもしれない。
 トントンは何か辛辣そうな顔をして、ゆっくりと俺の部屋に入ってきた。背中には、俺がいつの日かにあげたバックパックを背負っている。只事ではないのだろう、と直感でそう思い、今まで忙しなく動いていた手を止めてトントンが口を開くのを待つ。
 トントンが部屋に入ってきて一、二分後。やっとトントンは口を開いた。
「……ちょっと俺、出掛けてくるわ。戻ってこーへんかもしれん」
 トントンはそう言って目を伏せた。
 どうせ俺がそれを否定したところで、こいつが何もしないということはないだろう。なのに何故聞いてきたのか。それをする中で勘づいて欲しい何かがあるということ、または一応俺の立場を考えてのことか。まぁいずれにせよ、彼は彼なりの事情があるのだろう。
 彼が決めたのなら、私は何も文句ない。……でも。
「必ず戻ってこいよ」
 俺がそう言うとトントンは小さく吹き出した。それから、今までの重い雰囲気を蹴落とすような笑顔をこちらに向けた。
「頑張るわ」
 扉が閉まる。
 俺は俺自身の仕事に戻った。
 
 
 
 †
 

 
 今日はグルッペンと今後について話をするために私、オスマンはグルッペンの部屋にいた。
 この前、トントンが怪我した件で攻め入った組織が再建したらしい。大体、そいつらが私達が使っているネットに入って、表面上の偽情報ではあるものの、それを盗んだことが悪かったんだ。だからエーミールを使い、殲滅するにあたった。
 私はその時ちょうどグルッペンと対面していた。ロボロが敵のハックに気付いてグルッペンに報告した瞬間、グルッペンの目の色が変わったのが分かった。
 それからは楽しそうに経過を見つめていた。トントンの情報が入ってからはまた別の意味で目の色が変わったが。
「ねぇグルちゃん!」
 ノックもせずに大先生がグルッペンの部屋へ入るなりそう叫んだ。落ち着け大先生、とグルッペンが宥めるのを聞かずにまた大先生が叫ぶ。
「とんちが帰ってこんのん、なんかあったん!?」
 その言葉に私は少々驚いたものの、グルッペンは顔色ひとつ変えることなく、大先生から目を逸らした。
「あぁ、ほっとけ」
 そんな軽い言葉に、大先生はまたも驚いて口を開ける。私にもグルッペンの言葉の真意が掴めなかった。
 少し経って、大先生がきょとんとした目でグルッペンに再度問う。
「……へ……?グルちゃん、なんか知っとるん?」
「しらん。あいつ、脱退でもしたんじゃね」
「は……?」
 グルッペンのよく分からない素振りに俺も大先生も振り回される。だがしかし、グルッペンはさも当然であるかの如く俺たちに言う。
「大丈夫だろ。あいつは必ずここに戻ってくる。なぜなら、ここはあいつにとって居場所も同然だ。それに」
 グルッペンが少し目を伏せて、静かに微笑んだのが分かった。
「ここを与えたのは俺だ。そんな易々とあの駒を誰かに渡すつもりは、無い」
 
 
 
 †
 
 
 
 少し前の話だ。
「……吐き気がする」
「あはは、仲間思いだった君はどこいったの」
「……今の仲間はお前らやろ」
「ふ、そうだったねー。んでなに?要件があるからここに来たんでしょ?」
 目の前の、いつもと同じ黄色い着物のようなものを着た男がにやりと口角を上げる。こいつはここのボスで、俺の事を相当気に入っているらしい。前線にまで来て、直接勧誘なんて光栄だ。
 その横には怪獣パーカーを着た男、熊の着ぐるみを着た男と俺と同じ赤を基調とした刀が主武器の男がいる。外には水色を基調とした男やピンクを基調とした男もいた。多分こいつらがここの主要メンバーなのだろう。
 俺は俺がやること全部やってきた。やり残したことがないとは言いきれないが、もうあとは任せるつもりだ。
「……あいつらを、殲滅してくれません?」
「ふふっ……いいよー。新入幹部の要望だしね。実行は……四日後くらいかな。ちゃんと準備しといてね」
「……有難い」
 ……信じてるから、俺は裏切るよ。
 じゃあな。
 
  
 
 †
 
 
 
 それからというものの、私たちは忙しなく動いた。
 まず大先生がグルッペンの部屋に来た直後、二つの連絡が入った。一つはロボロの部屋でトントンが書いたであろう紙が発見されたこと、もう一つはゾムの部屋で同じくトントンが書いたであろう紙が発見されたこと。
 グルッペンは速やかに緊急会議を開いた。
 ロボロの方の紙には、見たことの無い領地の敷地内マップ、そして設備がぎっしりと書かれてあった。ゾムの方にはそれの侵入ルートがいくつも。後に調べると、そこは例の再建した組織が加わったであろう領地だった。
 それからしんぺい神がトントンの怪我の状態について述べた。細かいことを要約すれば、あの傷はどう見ても他人に刺されたものでは無く自傷である、とのことだった。それをトントン本人に聞いたところ、その事実を本人は肯定、それから内緒にしといてくれと言われたらしい。
 後日。ゾムに頼んでその例の組織領地に潜入してもらった。するとゾムはあと三日後にはこちらに攻め込んでくる、という情報を掴んだ。それとトントンの姿を、遠くからであるが見かけた、とも。
 これによって、自衛をするためのはっきりとした日付、それからトントンの生存を確認が出来た。
 その後グルッペンは、参謀という役にいる私、オスマンと一緒に素早く計画を立てた。グルッペン自身、腹を立てていたのだろうか、時折情緒不安定になりながらも計画が出来上がった。
 内容は簡単。攻め込まれているならこちらもトントンを回収するついでに攻め込めばいいのでは、というもの。撹乱の意も込めている。
 回収班はグルッペン、ゾム、私の三人。総統直々なんて、トントンはどれだけ愛されてるんだと思いつつも了承した。潜入するくらいならこの人数で問題ないだろう。
 一番の問題は私達の領地を守りきれるか。
 領地にいるのはたったの十人。
 今まで滅多に攻め込まれたことなどなかったため、なにがあったとしてもこの人数で充分だった。まずまずこの場所自体、特定が困難になるように作られたものだからだと思われる。
 しかしハックされたのは表面上の偽情報だけである、というのは名ばかりで、それがなされたということは場所特定もされやすいということにもなる。それに総統のこだわりで小さな駒、つまり兵はここにいない。
 だったら攻め込まれにくくすればいい。それと、例え攻め込まれたとしても、少人数で多数を巻き返せるだけのスペース、トラップがあればいい。
 町で平和に暮らすくられ先生や軍曹を招いて、入口、それとその周りの技巧を凝らした。それと入口周辺の空間の密閉(チーノのガスを使うため)や壁をぶち抜かれてもすぐに対応出来るような設備、完全に殺されないための処置などなど、三日の間でやれることは全てやった。
 そして今日がその日だ。
 私はグルッペンを乗せて、敵領地へと進むために車を走らせていた。
 ゾムはすでに敵領地に待機済みで、もう敵の侵攻軍は出発しているらしい。今回も結構な人数だという報告も入った。少なくともその中にトントンの姿はなかったという。
「……トントン、どうしてるかねぇ……」
「あいつはあいつで何かやっているだろうと期待してるゾ」
 そう言うグルッペンはやけに楽しそうで、鼻歌までやり始めた。私はさすがにそんな気分にはなれず、それをただ聞いていた。
 ちなみにグルッペン自体は戦力になる、といっても皆ほどではない。
 いつも机仕事しかしていないものだから、体がなまっていたらしい。だからグルッペン直々の志望で、この三日間はいろんな人に先頭の技術を改めて教わり続けた三日間だった。それはそれで本人も楽しかったようだが。
 ロボロがこちらの戦況までに目を向けていて前のようなことが起こると大変だから、とグルッペンが言って、こちら側はロボロの協力を得ないことになった。
 こちらの三人、またはトントンが入って四人は敵領地内の情報を片っ端から頭の中に入れている。それもまたトントンが本当に内部の至る所まで調べ尽くしているから成せる技だ。こうも有能なトントンは、逆になにが出来ないんだろうと思う時がある。
 しばらくして、敵領地周辺に着く。そこでゾムと合流した。
「あっちのみんな、元気そう?」
「あの十人は心配せんでも大丈夫やろ」
 グルッペンがぶっきらぼうにそう言う。いやぶっきらぼう、というか信頼を置いているというのか……まぁとにかくグルッペンはあまり気にかけていないようだ。それはそれでいいのかもしれない。
 それから作戦の確認を再度三人で行った。
 今回の目的はトントンの奪還。殲滅は二の次。弾も限りがある。無駄なことはしないと三人で再確認した。
 さぁ、いよいよ始まる。
 ……何をどうしたらこうなったのか知らんけど、帰ったらみっちりお説教やからねトントン。 
 
 
 
 †
 
 
 
 俺、ロボロはいつも付けているヘッドフォンを一旦外し、目を瞑る。
 今日はいつもよりも気を張ってしまいそうだ。逆にそれで空回りでもしたら一溜りもない。
 自分の首から垂れている銀色のネックレスがきらりと光る。いつから付けていたか忘れたが、これに触れると若干落ち着いたように感じられた。
 当日。作戦室に集まったみんなの顔はいつもよりも引き締まって見えた。
 コネシマが先頭となって、作戦の確認を急ぐ。俺は司令塔であるから、作戦書の内容は全部頭に叩き込んだ。昨日ゾムが書き上げてくれた敷地内の裏道も、全て頭に入れた。
 それから一区切りがついてみんな一息つく。
 今日はフル出動。兄さんは主に武器庫周辺を、しんぺい神も治療に回りながら俺たちをサポートするという。
 失敗など許されない。それが個人個人に重くのしかかる。
 一人が失敗すれば誰かが犠牲になったりもする。
「……話はそのくらいにしましょ。ボスはいつ来るんすか」
 しょっぴくんが話を切り上げ、ぶっきらぼうにそう言う。
「……もうすぐ来る」
 誰かがそう言ったちょうどその時、ガチャりと扉が開いた。
 そこには、しっかりとした真っ黒のジャケットを着込んだ、瞳の色素が薄い茶髪の男が立っていた。男はいつもとは少し違う雰囲気を漂わせて、にこりと微笑んだ。
「じゃあ……始めましょうか」
 俺達は不文律に完全に縛られている訳では無い。いつだって臨機応変に、そして最善策を選択し続ける。
 グルッペン、オスマンは二人でターゲットである敵領地の裏に、トントンのメモを頼りに回り込み済みだ。ちなみにゾムも少し前からそこに潜入していて、三日前に潜入した時には襲撃日が今日であることを掴んだ。
 だから、俺らの任務はただ一つ。俺らの居場所を守る。ここは少しも汚さない。汚させない。絶対に。
 
 
 
 †
 
 
 
 まず俺達はゾムと合流した。敵領地より少し離れた場所で連絡を取り合って、俺達が目的地に着いた二三分後にゾムは目の前に現れた。
「よー二人とも。久しぶり」
「おう、久しぶり」
「久しぶり、元気やった?」
 それから作戦の確認を行う。ロボロから敵の軍が俺達の領地へ到着したという報告が来るのを合図に、俺とオスマンがまず正面寄りの裏口から潜入。少ししたら暴れて、こっちに目を引かせる。その隙をついて、ゾムはガチの裏口から潜入し、トントンの救出を図る。ざっというとこんなものだ。
 目的はあくまで救出。仇を取りに来たのではない。そこまでを確認して、ゾムと別れた。
 ゾムの姿が見えなくなったあと、オスマンが上に羽織っていた重そうな緑のローブを脱ぎ、それを乗ってきた車に置いた。オスマンが珍しく、黒のタンクトップと黒いパンツを着た姿になった。
 俺は俺でジャケットを脱ぎ、黒い長袖と黒いパンツを着た姿になる。すーすーするので、俺はあんまり好きじゃない。まぁでも今から動くのだから仕方ない。
 二人で、車に積んであったくられ先生特製防弾チョッキやなんやらを着込んだ後、俺達は歩き出した。
「……なぁ」
「どしたん?」
 今から敵領地内に入るのにも関わらず、ふわりとした声で俺の声に答えるオスマン。それが無性に愛しくて、小さく笑ってしまう。なんで笑うんー?なんて言ってるオスマンへ、俺は大層真面目な声で言う。
「……死ぬんじゃねぇぞ」
「それは総統様も同じことめう」
 俺の声とは対照的に、いつもとは変わらない声色でそう言う。銃を遊ぶようにカチャカチャ振り回しながら鼻歌を歌い出すオスマンは尊敬に値すると言ってもいい。多分こいつは本当に死というものを恐れていない、と思う。何故かはしらんが。
 それから俺たちは静かに敵領地内に潜入した。なんでここの領地がこんなにガバガバなのかは知らないが、スムーズにこのコースを選べるのは裏切りやがったトントンのおかげだ。
 ……帰ったら某戦略ゲームでボコボコにしてやろ。
『敵がこっちに着いたっぽい。始めるで。みんな配置についてる?大丈夫?』
 ロボロの声が俺の耳に届く。何時間か前に聞いたはずなのに、何故か懐かしく感じられて思わず口角が上がる。
 それからみんなの声が短く聞こえ始めた。俺とオスマンもそれに紛れて答える。
「準備完了」
「いつでもおっけー」
 あぁ、この慣れ親しんだロボロの声も今から聞けなくなるんだよな。そんなことを思いながら今いる場所の隙間から領地内を覗く。
 最後に大先生の声がして、みんなの声が止む。全員を把握したのか、ロボロがまた声を出した。
『……健闘を祈る。戦闘開始』
 俺はその声とともにオスマンと駆け出した。見回りやら自由時間でウロウロしている連中らを、誰これ構わず銃やナイフで赤く染めていく。しばらくすると領地内の警報のような音がけたたましく鳴り響いた。
 血飛沫や叫び声を聞くのが久しぶりで鳥肌が立つも、俺はどんどん前に進む。オスマンもそれに着いてくるように進む。
 所詮俺達はゾムへの目線を逸らせるためにあるだけだ。暴れればそれでいい。
 しかしそれだけならシャオロンやコネシマの陽動でいい。が、あいつらの陽動はロボロの指示があってこそ。今回はそれが出来ないということで、あまり前線に顔を出さない俺とオスマンが出ることになった。裏ではゾムが働く、という構成。
 ここでの仕事が終われば直行で自領に行くつもりだ。十人であの人数はきついだろう。二人でこの人数も相当きついが。
 ゾムからの交信が来次第、俺達は次のフェーズへ移ることになっている。しばらくはこのままだ。
 俺に出来ることは弾も入れ替えながら陰に隠れ、それでいて目立つように戦うのみ。
「ちょっと……。派手にやってくれたね。容赦しないよ」
 怪獣のパーカーを着たような男が姿をこちらに現しながらそう言った。こいつがここの指揮をしているらしい。多分、こいつも幹部の一人なのだろう。
 多数対二人。それもそのうちの一人は多分俺たちよりも戦闘能力が同じ、あるいはそれ以上だと思われる。
 あぁ、無理だ。知っている。俺たち二人にこれを圧倒する力はない。
 俺が目を合わさずとも、オスマンは退きながら戦うことを選んだ。もちろん俺もそうするつもりだったし、自分たちが帰れる程度の状態を維持しなければここに来た意味がなくなるから、被害は最小限に抑えようと必死で捌く。
『……総統』
 ゾムの声が聞こえた。ということは、トントンの回収が終わったのだろうか。
 そう思ったと同時に、敵の幹部一名が退いていたことに気付いた。俺もオスマンもそれを見逃さなかったが、二人じゃどうすることも出来ないので、次々とくる奴らを必死に捌く。
 後ろの方で味方を殴っているのが見えるが、多分気の所為だろと横目で流す。こんなところで謀反起こすやつの気が知れない。
『本人が全部やった。ここのトップも、護衛してた水色の人も、指令室にいたピンクの人も、俺が行った時にはもう、倒れてた。
 ……その本人は一応回収完了。そっちに向かうで』
 無数の敵の声で掻き消されそうなゾムの声を聞き取って、安堵する。
 なんだ、やっぱりトントンはトントンじゃないか。心配して損した。どんな事情があったのかは知らないが、あとでみっちり聞いてやらないとな。
「了解。合流し次第退いて、自領の援護に行くぞ」
『了解。死なんといてや』
 そこまでゾムと話すと、オスマンと目が合った。オスマンの頬には赤い液体がべっとりとついているし、服も赤黒く染まっている。
 なのにオスマンはにこりと微笑んだ。俺も釣られて、口角をめいっぱい上げる。
 指揮官である怪獣男がいなくなったからか、少しずつ兵も乱れてきた。これは好機だと言わんばかりに、オスマンも俺も舞う。
 さぁ、あとちょっとだ。
 
 
 
 †
 
 
 
 寝返るかもしれない。そんな疑念を持たれたせいか、俺は侵攻軍には入れてもらえなかった。……が、これは好都合。
 今頃、大勢の人間が俺の元領地に行っているのだろう。俺の元仲間を殺すために。
 そんなことを考えながら、俺は部屋で大きく伸びをする。そろそろ行かないとなぁ、と呑気に思った直後のことだ。
 物凄い音量で敵の侵入を告げる警報がけたたましく鳴った。ストレートにうるさい。自室にいても、ここの幹部の部下達が慌てふためくのが聞こえた。
 タイミング的に、ここで攻めてくるのはあいつらしか居ない。しかし、まさか攻めてくるとまで思っていなかったが……これもまた好都合だ。
 俺は部屋を出て、指示を貰うためにボスの部屋へ急ぐ。その時、後ろからばたばたと忙しない足音が聞こえた。
「トントンさん!」
 俺は足を一旦止める。俺の元に配属された部下の中で、滑舌悪いのがたまに傷な黒髪の青年が息を切らしながら俺の前に止まった。本人自作の黒い蝶ネクタイが特徴的で、非常時である今も首にはそれがあった。
「……どした、なんかあったんか」
「いえ、一つだけ言っておきたくて」
 青年はそう言うと、俺に向かって綺麗に敬礼をした。
「俺、今だけはトントンさんの仲間れすから。指示されれば何でもします。俺だけじゃない、あなたに配属された部下は全員そう思ってます。俺が広く、伝えましたからね!」
 青年はそう言ってドヤ顔をした。
 指示するのはいいのだけど、俺はこの軍にとって反逆的な行為を今からする。……でも多分、こいつはその事を分かっている。その上での「指示されればなんでもします」なのだろう。
 だからこそ、俺のいなくなったあとが心配になって問いかける。
「……あとで殺されるぞ。わかってるやろ」
「はい。大丈夫です。みんなは俺が守ります」
 青年はいつになく自慢げな顔になってそう言った。
 俺が簡単に今からの動きを説明すると、じゃあ配置に着きますね、と言って颯爽と去っていった。
 会って五日ほどなのに、配属された五十人もの部下を一人に任せてしまえるのもあの青年の魅力だなと思いながら、俺は再度足を動かす。ここ三日間自室に篭っていたので、ここに来るのは久しぶりと言えば久しぶりだ。重々しい木の扉が目の前にきて、俺は大きく息を吸う。
「……失礼します」
 ノックをしながら扉を開ける。
 そこにはいつもの余裕の笑みを作ったような表情を浮かべた黄色の男が座っていた。側には不思議な格好をした水色の男が立っている。
 多分いつも澄ました顔をしているピンク男は指令室、赤い剣士の男と熊の男は侵攻軍の指揮、怪獣の男は侵入者を阻むために動いているはずだ。
 ……俺だったら二人くらい、いけるだろ。
「……警報、鳴ったの聞こえなかったの?早く前線に行きなよ。それが君の仕事でしょ」
 黄色がそう言い終わったと同時に、俺の愛用の銃であるAK-12を手に収め、水色の頭に照準を合わせ、なんの躊躇もなく撃った。
「……う゛っ、え……?」
 水色は情けない声を出しながら力尽きて倒れ、そこに血溜まりを作った。ぴくぴくしているのを改めて見ると気持ち悪いななんて不謹慎なことを考える。
 目線を黄色の方へ向けると、黄色は鬼のような形相でこちらを睨む。あまりのことに驚いて声が出ないのだろうか、はぁはぁと息が荒くなるばかりだ。
 そんな黄色へ照準を合わせようとした時、黄色は素早く机を飛び越え、こちらへ走って叫びながら拳を振り上げた。
 ここのボス、そして幹部は幼馴染同士だと聞いたことがある。互いへの思い入れは十二分にあったのだろう。
 でもここに情は必要ない。死んだらそこで終いだ。そんな世界だろ、ここは。
 俺は勢いに任せて近づいてくる黄色に腹パン一つぶちかます。それからふらついた黄色に再び照準を合わせ、撃った。
「……ごめん……っ」
 黄色はそんなことを最期に倒れ、これもまた血溜まりを作った。
 そこまですると、ボスと幹部のみに渡されているインカムにピンクの慌てふためいた声が響く。
『し、新人幹部が裏切ったっ……あとその兵も全員……!三人とも、黄色と水色が……っ!ねぇ、まって、戻ってきて、みんな、戻って、どうしよう、二人が……っ!』
 ……次はピンク。指令室へ足を動かす。
 廊下の窓からちらと俺に配属された部下達の様子を見ると、俺の事前の指示通りにしっかり動いていた。
 俺の元仲間……いや俺を助けに来たであろう仲間を裏取りしようとしているここの兵に片っ端から気絶を入れたり、時には俺の仲間にカバーを入れながら戦っていた。
 俺が託したあの青年……多分元から凄いやつなのだろう、しっかり統率が取れており、指示も的確にできる。たまに、滑舌が悪いことに対して文句を言われたりしているものの、信頼もされている。これなら大丈夫。
 俺が指令室の扉を開けると、銃弾が一発俺の横を掠めた。
「……殺したんですね。殺します」
 ピンクはそう短く発すると、銃を乱射してきた。一旦退いて弾は掠っただけだったものの、多分もうすぐで前線で戦っていた怪獣の男が来るはずだ。その前に片をつけなければいけない。
 ピンクの弾切れを狙い、一気に距離を詰める。それからまたAKで一発撃った。近距離には慣れていないものの、緊急時だから仕方ない。
 ピンクは最期に一声上げてから、倒れた。
 ピンクが先まで見ていたであろうモニターに映っていたのは、金髪と茶髪の見覚えのある顔が二つ。
 ……総統直々だなんて、光栄やな。そんな呑気なことを思っていると、後ろに気配を感じばっと振り向く。そこには見慣れた緑パーカーが、なんの配慮からか両手を挙げて立っていた。
 久しぶりに見たその人を呼ぶ。
「……エロ小僧やん。よお来たな」
「……トントン……!」
 俺の名前とともに、こちらへ近づいて首に飛びついてきた。それが苦しくて、ゾムのぽんぽんと背中を叩く。
「心配したんやぞ……!お前がおらんくなったら、裏通路から忍び込んで驚かせる人が一人減ってまうんやからな!あと仕事もできん!大先生じゃ無理やもん!」
 ……理由はともかく、素直に嬉しかったのは確かだ。やっぱ信じてよかったなと心の底からほっとする。
 ゾムは少しして俺から離れ、インカムに手を当てる。それから、前線で戦っているグルッペンとオスマンにこちらの状況を淡々と述べた。内容を聞いていると、俺がここのボスと幹部二人殺したのがゾムにバレていたのが分かってさすがやな、なんて思ってしまう。
「よし……じゃ、二人んとこ行くで。早く皆のとこにも行かんとやしな」
「せやな。久しぶりに会いてーわ……騒がしいのが懐かしい」
「ふは、でもお前がおらん時、びっくりするくらいみんな静かやったで」
「それはそれでおもろいな」
  などと言いながらも、ゾムはここの構造を全て把握しているのか、なんの迷いもなく進む。俺は何を言うことも無くそれについていく。
 それから少しして、ゾムがピタリと足を止めた。俺も素直に足を止める。すると前から見慣れない顔の兵が次々と出てきた。それと共に、後ろから聞いたことのある声。
「……お前……お前が殺ったんだろ」
 予想通り、怪獣のフードが特徴的な男が前線から下がってきたらしい。兵を何人か連れてここまで来たっぽいが、もう遅い。
 兵の方はなんら問題はない。多分二人ならなんとか捌けるだろう。ただし問題なのはその後ろの怪獣の男。一人で自軍の兵の半分以上もの指揮を執る男だ、実力も俺たちと同等、またはそれ以上だと考えられる。
 睨み合いが数秒続いた後、ゾムがふいに増援だと呟いた。するといきなり敵の兵士の最後列の誰かが倒れた。それから次々と倒れていった。明らかに敵の増援ではない。
 それを見てゾムの方をちらりと見ると、いつになく驚いた表情をしていた。多分ゾムたちの仲間側に味方はいないのだろう。だとすると。
「トントンさん!あなたの仲間、あっちで頑張ってますから!早く行ってあげてくらさい!」
 見覚えのある顔、いや多分一生忘れないだろう。例の青年が自分が執っていた兵をそのままこちらに流してきたらしい。
 怪獣の男を含めたこの数の兵を、あの少数で相手するのは難しそうだが……彼ならやってくれる。そんななんの根拠もない自信が、俺を前へと動かした。
「……あれ、俺の元仲間や。全部あいつらに任せるぞ」
「あぁそゆことね、了解。総統達はこっちやで」
 ゾムはこの状況を前に、一瞬で思考を切りかえ、臨機応変に対応した。それからゾムはくるっと方向転換をしてまた走り始めた。俺はそれについて行く。
 後ろを振り返るとあの青年が楽しそうに笑っていた。俺が青年を見たのはそれが最後だった。
「……あの人もいなくなったし、本領発揮だね。もう殺しちゃっていいよーみんな。終わったら『はうす』に帰ろーねー」
 _____青年はそういってどす黒い笑みを浮かべていたことをトントンは知らない。
 それから俺たちとグルッペン達が合流し、怪獣の男が離脱した時点で崩れ始めた軍を四人で叩き潰した。
 それから適当なところで脱出し、俺達はオスマンの運転で自領に急いだ。
「じゃあな」
 五日間弱お世話になった場所にそれだけ言って、俺はこの場を後にした。
 
 
 
 †
 
 

 聞きたくもないざわめきが鳴り止まないのが分かる。銃の発砲音や人の叫び声が飛び交う中、私はたった一人、上の方で下を見ていた。
 今私はボスという肩書きを背負っている。
 それは重く、そして死との隣り合わせであることをひしひしと感じる。
「……あの、皆さんどんな感じですか。死んだりしてませんよね」
 いつもの口調でインカムに向かって話しかける。するとロボロさんもいつもの口調で返した。
『誰かが死んだら、いの一番にあんたに伝えますからー!安心しといてくださいー』
 ちくちくとした声でそう言うロボロさん。
 ……忙しいのに邪魔をされて気が立っているらしい。謝罪したい気持ちでいっぱいだったが、多分それはまたイラつかせるだけだと勘づいて押し黙る。
 再度窓から下を見下ろすと、敵幹部のような二人の姿が目に入った。
 するとタイミングよく、ロボロさんの声がまた聞こえた。
『……あんたも暴れたいんです?じゃあいいよ暴れて。そこから敵幹部さんが見えるならな』
 それを聞いて数秒後、私は息を大きく吸う。それからいつもの笑みを浮かべて、チーノさんが作ってくれた愛用の手榴弾を何個か右手に持ち、安全ピンを手早く外した。
「私は「戦争屋」ではありませんからという理由で、問いに対してはノーコメントで突き通しますが……敵幹部が見えてしまったからにはしょうがないでしょう?」
 はいはい、なんていう適当な返事が聞こえたのもつかの間、俺は勢いよく手榴弾を投げた。
 俺はここにいる。それを示すかのように窓際に立って、口角を上げる。
「さぁ、楽しいショーを見せてくれよっ……?」
 それを言うと同時に、俺の手榴弾は爆発した。
 
 
 
 †
 
 
 
 第一関門地点、担当はコネシマと俺、シャオロン。
 俺たちはもちろん、敵近接兵を捌く位置にいる。ロボロの指示や現状報告がくるのを聞きながら、できるだけの数を二人で処理する。
「おいよそ見してんじゃねーよ、クソチワワ!」
「っ……わかっとるわクソポメラニアン!」
 壁を越えなだれ込んでくる、とてつもない数の敵兵。
 誰がやったのかも分からない爆音が鳴り響いたあとすぐ、敵幹部の二人……茶色い熊のような着ぐるみを着た人と赤が特徴的な剣士のような人が余裕そうな笑みで壁を越えてきやがった。
 あの二人に動きがあり次第報告するのも俺たちの任務なので、その事を速攻ロボロに伝える。
 コネシマはそちらに目を向けていたのか、偏差値114514の顔にピッと傷が入った。ちなみに俺ももうすでに、いつもよりも怪我を負っている。
 やっぱり俺たち二人には、敵を把握しながら、大勢の人たちを目の前に背中を取られないよう二人で互いを察知しながら戦う、みたいな器用なことをするのは難しかったようだ。コネシマも俺も、珍しく息が切れている。
 倒れた近接兵がとてつもなく邪魔だった。遠距離で打ってくるやつもいるが、事前にここの領土自体に入りにくくしているため、壁を越えられたやつしかこちらには来ていないはずなのでまだ楽な方なのは重々承知している。
 ちなみに敵は壁を越える際にしょっぴくん、兄さんによる弾幕を受けるので、此処までくる兵士も最小限のはずだ。
 俺がいろんな意味で血塗れになりながらも戦っていると、隣でさっきよりも赤く染まったコネシマがこちらを見ていた。俺はコネシマに対して再度悪態つきながらも、彼を彼自身に集中させる。自分よりも他人の心配してんじゃねーよ心無いシマめ。
 しばらくして、ふいにインカムから聞き慣れた声が聞こえてきた。
『……第一関門の二人。陽動かけられるか。第二まで一旦下がるプランで』
「おうよ!」
「いつでもこいやー!」
 俺たち二人はそうやって元気に返事をしながら改めて息を整える。
 コネシマと目が合って、二人でにかっと笑った。今回は二人揃って傷が多いな、なんて呑気なことを考えながら剣を振り回す。主に切るのではなく鈍器のように扱いながら、ひたすらに気絶させる、または殺害する。
 第二関門地点には鬱とらんらんが配備されていて、珍しく大先生も近接班として戦っているはずだ。あの言葉の意を汲み取ると、陽動を仕掛けながら第二まで下がれ、ということだろうか。コネシマも俺と同じようにそう解釈したのか、俺と同じような動きで陽動をかける配置につく。しかしもしその解釈があっていたとすれば、大先生かひとらんがなにかやった、ということなのだろうか。そこまで酷く怪我をしてないといいのだけど、なんて思ったがこの数じゃあ無理もないかもしれない。
 少し間が空いてロボロがまた喋った。
『おっけー。じゃあ合図をしたら第一部隊は陽動開始、それからは第一第二で合体して、四人で一フロア使って戦ってくれ』
 それから数秒経って、再度ロボロの声が聞こえてきた。
『第二関門の二人、いっぱい来るから覚悟しといてね。……第一関門の二人。陽動開始』
 了解の言葉も発さずに、いつものように敵の前から一旦姿を消す。それから前に来た手頃な兵をぼこって、また姿を消す。その繰り返しでどんどん前線を引いていく。
 あのロボロの口振りから察すると、多分ロボロ的にはひとらんと鬱先生が心配だった訳ではなく、俺達二人の怪我の具合が心配だったのだろう。
 まぁでも正直有難かった。さすがにこの数を二人で捌き続けるのは無理がある。実際怪我も結構負っている。特にコネシマは腹の方が痛むようで、動きが鈍くなってきた。
「おいチワワ!死ぬんじゃねーぞっ!」
「はっ、それはお互い様やでっ!」
 気付いた時には鬱先生が付けたであろう銃痕がある部屋に着いていた。中心を見ると白い服が赤く染まったらんらんの姿、その少し遠くに絶賛乱射中の鬱先生の姿があった。
 俺はらんらんの方へ、コネシマは鬱先生の方へ近寄って援護に入る。
「助けに来たで!」
 そんな冗談じみたことを言うと、ひとらんは一瞬だけ笑みをこぼしながら、助けてもらうのはそっちだろと呆れたように言った。
 敵兵を薙ぎ倒しながら俺がひとらんと背を合わせた時、しばらく聞いていなかった声が耳に入ってきた。
『俺は無事やで。心配かけてすまんかった。事情は後で説明する。まずは今の状況についてや』
 
 
 
 †
 
 
 
『第二関門の二人、いっぱい来るから覚悟しといてね。……第一関門の二人。陽動開始』
 俺、ひとらんらんは集中を切らすことなく刀を振り回していた。今日は服なんて関係ないと、躊躇せずに切っていく。すっかり俺の服は赤く染まってしまった。
 ロボロの合図から数秒後、見慣れた金髪と赤いニット帽が見えた。
 金髪のコネシマは一心不乱に乱射している鬱先生の方へ、ニット帽のシャオロンは俺の方へと近付いてきた。
 二人はいつもより血塗れで、倒れていない方が不思議なくらい怪我を負っているように見えた。自分の血なのか他人の血なのか分からないものの、顔の傷や腕の傷などが目立つ。
「助けに来たで!」
「助けてもらうのはそっちだろ」
 この期に及んでまだ明るい声を出すシャオロンは、少しばかり狂気を孕んでいるようにも見えて恐ろしかった。が、その前に仲間だ。信頼していない訳では無い。しかしながら、まだまだ元気だと言う二人の口とは反対に、動きが鈍い二人の体を見て不安になる。
 そんなシャオロン達が来て、シャオロンと戦いながら背を合わせあった時、インカムからロボロではない声が聞こえた。
『俺は無事やで。心配かけてすまんかった。事情は後で説明する。まずは今の状況についてや』
 ……トントンだ。間違いない。この声は、トントンのものだ。
 シャオロンは一瞬動きを止めて動揺していた。こんな中だっていうのに不器用なやつだな、なんて思いながら、敵兵の腹部をざっくりと切った。
『今、俺がいた組織の方は壊滅状態や。多分ほっといても消える。
 やけどここの組織にはまだ上があってな、所属組織がこんな状態になっているとしても、そっちにいる幹部二人は引きもせずに戦い続けるやろう。多分今もそうやろ?それが上からの命令やったから、と考えた方が筋が通る』
 トントンを含めた四人で一つの組織を壊滅状態に押し切るなんて、どんな人達なんだと心底驚きながらもそれを聞いていた。
 それからトントンは言葉を続けた。
『俺達四人はあともう十分弱でそっちにつく。お前達の援護する。じゃああとでな。死ぬんじゃねえぞ、絶対やで』
 それを聞いた後、安堵を込めて息を吐く。それから愛用の刀を振り回しながらも考えた。
 あの日、トントンが自分で自分にナイフを刺したあの日。何故彼は涙を流したのか。
 最初彼が敵の方へ寝返ったのだろうとグルッペンが結論を出した時、正直に俺は思ってしまった。トントンが裏切ったのではないか、と、多分、彼はこれを恐れたのだろう。彼は意外にも繊細な人だ。だからあの時、彼は考えてしまったのだろう。裏切ったと言われ、見捨てられることからの恐怖を。それで、涙を流したのではなかろうか。
 彼自身は俺たちを信じて、自分のやってることを理解してくれると思ってこの行動を実行に移したのだろう。でもその途中で、俺達が彼は裏切ったのだと結論づければどうなるか。多分俺達は彼を見捨てる。
 でも今の俺達にそんな決断はできないし、何より彼を信じていた。きっと彼は彼なりに何か考えていることがあるのだろうと。
 俺達は彼を見捨ててうなされる三日間よりも、彼が俺たちに託した二枚の紙から彼の意図を探ろうと必死になった三日間を先決した。
 ……トントン。俺達はあなたの理想通りに動くことが出来ましたか。俺達はあなたが信じている人達で在り続けられているでしょうか。なんて、俺らしくないし、今考えても無駄なのは分かってる。
 あとで、いの一番にトントンにド突いてやろうと企んで、このことを考えるのをやめた。
 
 
 
 †
 
 
 
 それからは早かった。
 トントン達はこちらに着くなり、敵の後ろから襲いかかった。それで体制が崩れた敵軍はどんどん前線を引いていった。ゾムが幹部の後ろに回った時にはもう壊滅状態だった。
 今までカメラを見ながらみんなに指示を出していた俺、ロボロが指示する間もなく、辺りの雰囲気がまた変わった。終わった、と考えていいだろう。
『……任務完了、かな。しんぺい神、みんなをよろしく。みんなはペ神の所、医務室に直行。動けない人は伝えて。俺が迎えに行く』
 それだけ伝えて、俺はまた沢山ある画面を見つめる。見慣れた廊下や庭は真っ赤に染まっていた。
 俺は血を流しながら息をしていない多くの死体に向かって手を合わせた。
 形だけの行為に意味は無いとグルッペンは言っていたけど、ここにいる全員が安らかに眠れるわけではないことを考えれば、俺一人でも祈ってあげていた方が楽に**るだろ後から出てこられても困るし、なんて若干不謹慎なことを考えながらいつもこんなことをしている。まぁ半分は癖になっているからやっているだけだが。
 それからヘッドフォンを外しながらこの部屋を出て、みんなが向かっているであろう医務室へと向かう。
 途中まで行って、ピピッと俺のインカムが鳴って、さっきまで元気だった人の声が聞こえた。
『ロボロー、動けへんくなったー。足とか腕とか折れたかもー。ついでにコネシマも動けへんらしいから来てくれへんー?』
 シャオロンの声。声色や口調から察してもう気の抜けたモードに入っているであろう彼は、コネシマ共々動けない状態にいるらしい。
 近くにはひとらん、鬱先生の二人がいたはずだが、多分ひとらんは鬱先生の介護で忙しいだろうから、コネシマとシャオロンの二人は置いていかれたのであろう。
「了解、すぐ行くから無理せんといてや」
『ありがとーホビット』
「誰がホビットやねん!もう行かんぞ!?」
『わー!ごめんロボロ、はよ来てや、シッマが唸ってんねん!』
「それを先に言わんかい!」
 確か、前線が下がった時と同時に前線をまた上げたコネシマとシャオロンは第一関門付近にいたはずだ、と瞬時に判断してその方向へ走った。
 途中で、ほぼ怪我が見当たらないオスマンと合流し、二人で二人の救援に向かう。
 第一関門付近につくと、そこにはカメラ越しよりもやばいくらいの凄惨な風景が広がっていた。臭いもだいぶきつい。これを片付けるのは至難の業だ、先が思いやられる。死体を容赦なく踏みながら二人の元へ急ぐ……これはさすがに不謹慎か。……まぁええやろ死んどるし。
 そんなフロアの隅の方に、まだ生きてはいるものの血塗れになった二人の姿が見えた。
「シャオロン!コネシマ!怪我の具合はどうなんか」
「あーロボロ、とオスマンもおるやん。俺よりもコネシマの方が結構傷、酷いっぽいんよー」
 なんて言ってるシャオロンもシャオロンだ。さっきまで元気に動いていた右腕もだらんと下がっている。完全に切られてはないものの、結構深い傷が入っていることを察する。なのにシャオロンは自分よりもコネシマを優先して、と俺とオスマンに乞うた。
 コネシマは目が開いているものの、何も喋らない。多分もうそんな気力も残ってないのだろう。自身よりも自分を優先するシャオロンを胸くそ悪い目付きでじとーっと見つめているのがわかった。
「さっきな、俺がヘマしたらコネシマがすっ飛んできて庇ってくれてん。それまでの傷も相当酷いはずやねん。だから早くこいつを」
「……オスマン、コネシマ頼んだ。見た感じ、喋ってはないけど意識はありそうやし、足と腕、胴体も傷入ってそうやから慎重に支えてやってくれ。俺はシャオロン背負うから。痛いとこあったら言ってくれ」
 俺がそういうと、オスマンは黙って頷いてコネシマの方へ歩み寄って、簡易的に怪我の具合を見始めた。俺はシャオロンの方へ近寄って、動かしていない右腕や伸ばし切ったままの足をぺたぺたと触っていく。誰のかわからない血がついたとしてももう、関係ない。
「………腕も、足も、背中も、お腹も、めっちゃ痛いねん……間合いにはいられるなんて、思ってなかった」
「そりゃあの人数やったらな……。よお頑張ったな、シャオロン」
「……んー」
 シャオロンはもう気が抜け切っているのか、適当に相槌を打ちながら目を細めた。
 シャオロンの傷の状態はやっぱりいつもよりも相当酷かった。いつもは痛みに関してなんとも言わない彼が、痛いと俺に伝えてきただけある。骨は折れ、肉は切れ、憔悴し切った彼の折れていない左腕を主に力を入れ、シャオロンと共に立ち上がった。
 オスマンも傷の状態をだいたい把握したのか、俺と同じようにコネシマと共に立った。
「いこっか、ロボロ。早く行かないとこの二人に文句言われるし」
「せやな。はよ行こか」
 医務室に着くなり、しんぺい神の用意してくれていたベッドに寝かせてやった。それから、比較的軽傷で済んだグルッペン、オスマン、ゾム、チーノ、しょっぴくん、兄さんと俺、そしてトントンが重傷組への手当てを行った。
 トントンが接する相手は必ず、文句をブツブツ言いながら、嬉しそうに微笑んでいた。自分の容態よりも仲間が帰ってきたことの方がよっぽどのことらしい。このグループらしくていいなと思うが、いつもはこんなに穏やかな感じではない面々を見ていると少し寒気が襲った。
 それから重傷組の処置が大体終わった後、軽傷組の手当てが行われた。軽傷と言っても、ゾムとチーノ、俺以外はまぁまぁの傷の具合だったが、このぐらいで済んで良かったわと兄さんがしょっぴくんに向かって笑っていた。しょっぴくんも同調しながら口角を上げた。
「……トントン」
 俺は医務室内の椅子のグルッペンの隣に座る、赤のマフラーが特徴の男に話しかけた。
 なんだか何年ぶりかのように感じてしまうのは気の所為であるが、思わず手を伸ばしたくなるような期間であったことは確かだ。この人がいないだけで、あんなにグループの雰囲気が違うだなんて考えもしなかったから。
「……心配かけたな」
「おかえり。トントン」 
 若干トントンの言葉に被せながらもそう伝えた。するとトントンはふっと小さく息を漏らし、こちらに微笑んだ。
「……あぁ。ただいま」
 それから、重傷者が一人、また一人と動けるようになる度にトントンはそいつのされるがまま流されていた。
 トントン自身も楽しそうであったから何よりだと言おうとした矢先、グルッペンがしばらくは仕事なしやーと豪語して、俺に仕事を押し付けてきた。ちょっとムカついた。
 領地の掃除はメンバー十四人と、軍曹、くられ先生、それと街のプロにも来てもらって二週間ちょっとで終わらせた。
 今では臭いもだんだん薄れてきて普通に廊下なども行き来できるが、掃除中はマスクやチーノのガスマスクが必須となるくらいには臭くて吐きそうだった。実際、鬱先生は酒飲んだ後に廊下で吐いた。
 またこの十四人でわいわいしていけるのだと思うとなんか感慨深いものがある。
 ……おいそこ、心無かったんちゃうかとか思わんといてや?仲間と過ごすのは俺も楽しいんやからな。……まぁでも、実際そんなのだけじゃ締まらないしつまらないしな。
 さぁ、戦争をしよう。
 身も毛もよだつような、血が滾るような、今までの自分を超えられるようなものを見ようじゃないか。
 to be continued、とでも言っておこうか。
 だって主役は我々なのだから。
 
 
 
● おまけ。
 『あの時とその時と、今』
 
 
 ロボロの指示があるまではここで暴れることになっている。今、中にはチーノを回収するために鬱先生としょっぴくんが入っているはずだ。
 それまで出来るだけこちらに敵を引き付けようと、近接班の各々が頑張っている。
 ちなみに俺は一人で敵を捌いていた。そろそろ息も切れ始める頃だろう。こういうところで歳を感じる。
 そんな中、一気に敵が引いた。あまり内部まで行くと、回収してる二人とチーノに迷惑をかけてしまう可能性があるので、俺はここで一旦止まる。集中力を切らさないまま、壁を背にして敵の方を睨む。 
「なぁ、君……トントンって言ったっけ」
 集団の中から秀でて出てきた、黄色が特徴的な着物姿の黒髪の見たことも無い男が俺の名前を口にした。それが酷く気持ち悪くて、気分が悪くなった。
「……なんや、交渉でもしたいんか」
 俺が武器を構えたままそう言うと、黒髪の男は部下のみんなに武器を捨てさせた。どうやら本当に交渉したいらしい。敵が武器を持っていないのを見ても、俺は武器を下げず、問いかける。
「……要件は」
「今、君の基地内には俺の幹部が五六人ほど侵入済みなんだよね」
「は……っ?」
 あまりの突然のことに言葉が出なくなる。
 ロボロからの連絡も来ないということは、ここのセキュリティとは月とすっぽんの差もあるであろう、うちのセキュリティをなんの警報も鳴らさずに突破したということだろうか。
「あぁ、報告はしないでね?君のボスの首が飛んじゃうから」
 笑いを含めたその言葉に俺はただただ押し黙る。
 ……こいつの目的が分からない。復讐はあるかもしれないが、見る限り俺達が襲ったところのやつではないっぽいし、全くと言っていいほどわからない。
「ね、トントンさん。交渉、しようか」
 黒髪は俺に近づいてきた。俺は動けずに、ただ睨みつける。
 そして目の前に差し出されたのは、小さな紙切れ。裏をめくると、数字の羅列が書いてあった。どこに繋がってるかはさておき、敵側の連絡先のようだ。
「俺は君っていう人材が欲しいの。まぁ、拒絶すれば俺の幹部が速攻暴れ始めるけど」
 それはやだよね、とそいつは黄色い袖を口に当ててにこりと笑った。
 今ボス……いやグルッペンがいる場所は、俺の居場所と言っても過言ではない。あそこがこんな奴らによって壊されるのは絶対に嫌だ。
 ……俺がこの身を差し出すことで俺の大事なところが守られるのであれば。
「……ええぞ。いったんわ」
 命だって差し出してやろうじゃないか。
 その答えを聞いた黒髪は口角を大きく上げ、そっかーと満足そうに言った。
「じゃあ、これが終わったら俺達の基地に来てね。あと一つ……必ず君はあそこから脱退してこっちに来るのが俺らのもう一つの条件ね。……当然飲めるよね?」
「……あぁ」
 そこまで俺が肯定すると、黒髪が一枚の紙を俺に渡した。ちらりと裏を見ると数字の羅列があった。電話番号かなにかだろうか。
 またねとだけ黒髪が言って、アイツらの影が遠のく。
 それを見届けた俺は力尽きて、特に何も考えずすとんと尻を落とした。
 それから頭をフル回転させる。
 どうすればアイツらを殲滅させられるのか。一人じゃ無理だ。でも今歯向かえば何が起こるかわからない。……一人じゃ無理だ。だったら。
 それから徐ろに自分のナイフを取り出して、それを静かに自分の足に突き刺した。
「……っ」
 さすがに痛い。それによって頭がくらくらするくらいには痛い。
 酸素とともに声を飲み込む。万が一、ロボロに聞かれていたら後で面倒だ。内緒だと言ってもあいつは総統様に告げ口しそうだし。
 こうすれば、少しの間くらいの猶予は与えられるだろう。傷が治る間くらいは待っていてくれるはずだ。アイツらの目的は俺の脱退だと推測すると、無理に引き込むことはしないだろうと考えた結果だ。
 その少しの間、俺は俺に出来ることをしよう。戦争屋のアイツらの目をこちらに向けさせる準備をしよう。
 自分を過信している訳では無いが、自分があそこからいなくなれば誰かが心配してくれると信じている。俺は彼らを信じていたい。
 そう決めて、重い足を無理矢理動かしながら立ち上がった瞬間、ロボロの声が俺の耳に響いた。
『只今チーノの回収が完了した。皆退いてくれ』
「……了解」
 俺はいつもと同じく、無機質にそう答えた____。
 

 
 †
 
 
 
 四日後に、ここの大量の人達が俺の仲間を襲うことになった。
 日の光を窓から目いっぱい射し込んでいる明るい廊下をすたすたと歩く。途中でピンクの幹部と目が合って会釈をした。廊下を少し歩いて、俺の部屋だと準備された部屋に入ろうとしたら後ろから声をかけられた。
「トントンさん!さっき、あの人達と何話してたんすかー?」
 振り向くと、自前の黒蝶ネクタイをつけた黒髪の好青年が立っていた。ちなみにこの青年は滑舌が悪い。俺の部下として配属された青年で、何故か執拗に絡みに来る変なやつだ。
 情を入れそうになるのを飲み込み、青年から目を逸らしてドアノブを握る。
「……四日後に俺の元グループに襲撃を仕掛ける。俺の部下に伝えといてくれ。出来れば、広く」
 多分偵察にきているであろう誰かに届くように。
 青年はそれを聞いて、いつもの明るい声ではなく、似合わない低い声を出した。俺はそれを遮るように声を出す。
「トントンさん、こっちに来てよかったんすか。その上、わざわざあなたの仲間を、どうしてあなたが」
「……俺の今の仲間はお前らや。怪我したりせんといてや」
「……当たり前っすよ、了解っす。広く伝えればいんすね。ちゃんと、伝えてきます」
 青年は噛み締めるようにそう言って、くるりと向きを変えてすたすたと歩き出した。
 俺はそれから目を背けて、自室に入る。
 _______この青年が他軍のボスだったことが判明したのはまた別のお話。
 



 「緑」
 
 
「本当に行くん」
 
 そう言うと、当たり前だと言わんばかりに彼は頷く。
 
「……なんや?二人で決めたやん」
 
「……せやな。いってらっしゃい」
 
 彼が自分に向かって拳を突き出した。自分も同じようにして、拳同士をくっつける。
 彼はいつもの笑みを残して、背中を見せた。
 
 彼の行方は誰も知らない。もちろん、自分も。
 
 
 
 †
 
 
 
 トントンの騒動があって数ヶ月経った。
 領地内もメンバーもすっかりいつも通りに戻った。みんなの傷も大体は癒えている、としんぺい神からも報告を受けた。
 
 ……ほっとしたのも束の間、とでも言えばいいのだろうか。
 
 俺、グルッペンの自室にはトントンとオスマンがいて、三人で今の情勢をチェックし、要注意な組織をピックアップする作業を行っていた。
 そんな中、いつも通りと言っても過言ではないだろう、自室の扉はノックされずに開かれた。そこには少し息の切れた大先生がいた。
 少しだけ息を整えて、大先生は口を開く。
 
「ねぇグルちゃん。ゾムがどっか行ったまま、帰ってこーへんのやけど。またなんかあったん?」
 
 トントンの時とは違って、そう言いながら大先生がへらっと笑う。
 でも俺はそれに対して目を見開く。今回はゾムからも何からもこんなの……何も聞かされいないからだ。
 
「……は、今なんて?」
 
 俺がそんな感じで素の反応をすると、大先生が固まる。それを見ていたトントンとオスマンは俺を見て、それから二人で目を合わせた。
 大先生が硬直から解放され、少し早口になって話しだした。
 
「……え、だからゾムがいなくなってん。今日で二日目やし、何も

  • No.3807 by 黒猫  2019-06-30 03:59:30 ID:15f351c75

任務聞いてないから、どしたんやろなー、って……」
 
「……俺は知らないな……。トントンとオスマンはなんか聞いてへんか?」
 
 俺が二人にそう聞くと、片方はマフラーを触りながらぶっきらぼうに、片方はにこりと作り笑いをして答えた。
 
「ん……特に何も聞いてへんで」
 
「知らないめうー。……でもゾムのことだからどこかで元気にやってんじゃない?」
 
 オスマンのその言葉で俺は目を曇らせる。
 
 ゾムには暴走癖がある。当然そのことはみんな知っている。今じゃ大したことないが、一昔前は相当なものだった。街で暴れるそれを止めたのが、ゾムが俺についてくるようになったきっかけだ。
 今も発作的になるらしく、回数は格段に減ったものの、止めることができるのは俺だけらしい。潜入任務に行く前は、俺がゾムに一日構ってやる時もある。が、幸い任務中に暴れだしたりはしたことない。
 でも、一人でいなくなったのなら、もし何かあったら。少しの刺激で大暴走が始まるかもしれない。俺が確実に止められるという保証もない。
 
「……それが怖いんだよ。ゾムだからこそ、怖いんだ」
 
 俺がそう言うと、大先生が目を伏せながら小さくせやな、と呟いた。
 俺は大先生にロボロへこのことを伝えるようにと指示をした。大先生はいつもの適当な返事とともに俺の部屋を出ていった。
 
 俺がゾムを探そうと声をかけると、オスマンが手早く準備を始めた。ちなみにオスマンは明日から外交の予定がある。帰ってきてくれないと困る。
 ゾムを探しに行くとなって、いつもの分厚いローブ的なものを脱いで動きやすい姿になったオスマンは、慣れた手つきで自分のポケットの中に入れていたインカムを耳につける。今日は朝風呂にだったらしく、今まで付けていなかったらしい。
 
 それから俺が探しに行きたいと懇願すると、オスマンとトントンの両方に止められた。……案外総統というのもつまらないものだ。
 
「よし……じゃあ探してくるわ。グルッペンの時みたいに、無線は繋いどくから何かあったら伝えて」
 
 自室のドアノブに手をかけ、オスマンは手を振った。どんな事態になったとしても口角は上がったままで、なんと言っても彼らしかった。
 
「了解。報告は随時頼むぞ、オスマン」
 
「おっけー。じゃトントン、みんなをお願いね」
 
「おん。気をつけてな」
 
「うん、ありがと。行ってくるわ」

 そんな会話を最後に、オスマンは俺の部屋を出た。そのあとロボロによる一斉伝達が行われ、トントンはオスマンの報告を受け取って記録するために自室に篭もった。
 
 俺は暇になったので、適当に自分のPCの中身を整理し出す。しばらくすると、あの時のきっかけ……俺が一人で交渉のような話をしに街へ行くきっかけとなった一通のメールを見つけた。
 
 まだこいつらは健在している。多分今日もどこかで人を殺していたりするのだろう。俺達にはあれ以来接触してきていないものの、今まで友好関係にあった軍がいきなり縁を切ったりするのが立て続けに起こっているのは、十中八九こいつらのせいだろう。面倒な奴らだ。
 ……まぁメールくらいは記念として取っておくか。
 
 呑気に部屋の掃除まで始めた俺の動きを止めたのは、トントンのある報告だった。
 今日の夕方頃……つまりついさっき、ゾムがいそうなところを見つけた、というオスマンからの報告から彼との通信が途絶えた、という。かれこれ三十分経ったらしい。先までは十分ごとに交信していたと言って、部屋に入ってきた直後のトントンは酷く焦った様子だった。
 
「信号も聞こえんし、電源を切ったか……あるいは壊されたか」
  
 心配そうに俺に状況整理してくれたトントンを宥めながらそんな話をしていると、それから五分後くらいに俺のインカムから一人の声が聞こえた。
 
『ごめーん!インカム切れてたんやな……。トントンの声が消えたからどうなったんかと思った……』
 
 いつものオスマンの声。トントンが安堵感からか一息ついた。
 俺は顔色も変えずにインカムに話しかける。
 
「……オスマン、無事だったか。心配したんだぞ、なんか見つかったか?」
 
「いや何も。ゾムが行きそうなとこにはおらんかったわ……結構探したんだけど。インカム切れてるの気づかんでごめんなー、いつ切れたんやろ……」
 
 オスマンは明日も仕事あるしすぐ帰るね、と言って黙った。木々の擦れ合う音がかすかに聞こえるから、多分走りながら帰り始めたのだろう。
 それを確認したトントンは俺を夕食に誘った。俺は今日の夕食当番をトントンに聞きながら一緒に部屋を出た。ちなみに今日の料理当番はなんだかんだで料理の上手い大先生らしい。
 
 そんな中、俺の霊感が言う。これは何かおかしいぞ、と。
 
 少しメタくはなるが、探しに行く前にあんだけ心配そうにしていたのに、今の声はそうでもないように感じられた。
 そして引っかかるのがオスマンの言葉。インカムが切れる前のオスマンの一言である「ゾムがいそうなところを見つけた」、それから今の「ゾムが行きそうなとこにはいなかった」。あれほど口撃が得意なオスマンにとっては珍しいことだと言える。言ってることが、ずれてるだなんて。
 
 俺達が夕食を食べ終わって、それぞれが風呂から出たくらいにオスマンは帰ってきた。オスマンの表情はいつもと同じく、穏やかなものだったものの、彼の後ろにゾムの姿はなかった。
 それからオスマンは夕食はいらないと言って、すぐにお風呂に入った。
 
 
 
 †

 
 
 それから数日が経った。
 ゾムはまだ帰ってきていない。
 
 俺、兄さんはいつもの武器庫に籠って、今日はトントンの静粛剣を手入れしていた。ゾムのことは御三方に任せるつもりだったし、その御三方を支えるために武器の手入れをするのは俺の役目だから、いつも通り静かに手入れをしていた。
 
 かんかんといい音が鳴る。その音に耳を傾けながら、ひたすら剣を研ぐ。
 たとえ血塗れになったとしても、こいつがトントンを守ってくれるように。鈍い器になんてさせないように。トントンを守るため、相手を切って叩けるように。
 
「にーいさん」
 
 後ろから声がかかる。作業を止めて振り向くと、そこには領地内を監視しているはずのロボロの姿があった。
 
「……どしたん。こんなとこに来んの、めっちゃ久しぶりやない?」
 
「おう、ちょっと用事があってな」
 
 そう言ってロボロは自前の、俺たちが共通で持っているナイフよりも刃が長い短剣を取りだした。最近あんまり使ってないからか刃先が鈍っている。
 
「これ、手入れしてくれへん?人の皮も破けんくなっとんねん」
 
 そう言って自分の左手首を俺にみせた。そこにはうっすら線が入っているものの、血の痕跡などはない。自分に切り付けるのもどうかと思うが、まぁそのくらい鈍っていることは分かった。
 そんな短剣を受け取って、もう一度ロボロと向き合う。
 
「分かった。でもどしたん急に、何に使うん」
 
「んー?秘密やで」
 
 ロボロはそう言って人差し指を唇に当てる。それから軽い足取りでここを去った。
 
 ……怪しい。なんか企んでる。
 そうは思ったものの、言及する必要も無い。このグループはそういうグループだ。
 仲間も疑え、と総統たるグルッペンは言うけれど、トントンの時だって、誰一人としてトントンを疑う者はいなかった。もちろんグルッペンだってトントンを信じてた。
 
 俺に被害が被りませんように。
 そう願いながらトントンの剣の手入れを再スタートした。ロボロの短剣をどう手入れしようか考えながら、一日が過ぎていった。
 
 へい
 
 †
 
 
 
「グルちゃん、入ってもええ?」
 
 俺が扉の前でそう言うと、適当な返事が返ってきた。それを聞いてガチャりと戸を開けると、何か神妙な顔をしたグルッペンがそこにいた。
 
「……何か用か。この前提出しろと言ったあれ、提出日過ぎてるが」
 
「えっ?あぁ……なんかそんなのもあったなぁ……。んでもそんなことより大事なことがあんの!」
 
 自分の罪を隠すように大きな声を出して、グルッペンに近づく。グルッペンの目の前で俺はひとつの資料を取り出した。
 
「この前オスマンに言われてこれを調べとってんけど……当たったわ」
 
 そこには日にちと時間、場所割りと侵攻作戦的なものが羅列していた。そこに載ってる名前はどれも知らないものばかり。
 それを見てグルッペンは首を傾げた後、俺の方をがばっと向いて、俺の方を見つめた。
 
「お前……これどこの組織だ?仕事できたんだな」
 
「一言余計だよグルちゃん!……実はこれねぇ、前に攻め込んだ組織の裏、つまりは主犯のとこだよ」
 
「……あいつら、か」
 
 グルッペンはそう言って自分のPCをいじり始める。俺はそれを横目で見ながら、口角を上げる。
 
「お、知ってんの?さすが。んでオスマンが言うには、ここにゾムもいる可能性が高いんやて」
 
「全く……うちのメンバーは他組織に移動したら自分の組織を攻撃するのが好きらしいな……迷惑やっつーの」
 
 グルッペンは頭をくしゃくしゃ掻きながら、インカムの方へ手を当てる。それから得意の低い声を出して、あと三十分後に皆が会議室に集まるようにした。
 ……あー、お仕事いっぱいして疲れたし、久しぶりに女とでも遊びたい気分。
 
「大先生、説明諸々頼んだ」
 
「えぇ?めんどくさいねんけど。オスマンにさせ……マンちゃん帰ってくるん?」
 
 くるりと背を向けたグルッペンに文句を言いながら資料をまとめる。
 今オスマン、それに加えシャオロンは、ゾムを探しに遠出している。なのでここにはいないし、三十分で着くような所にはいないはず。つまり説明は結局俺がすることになった。面倒。
 
 俺はグルッペンの部屋を出て、ロボロが見ているであろうカメラを見つめる。あいつ最近ピリピリしていて、絡むのもだるい。ホビットのくせに、態度はでかいんやからほんま……。
 
 そんなことを考えながら自分の部屋に入って一息つく。
 それからロボロに渡された皆お揃いのインカムを付けている耳とは別の方につけたインカムに手を当てる。
 
「……おいクリーパー。聞こえる?」
 
 そう問いかけて何秒かすると、いつもの明るい声がした。
 
『おん、聞こえるで。総統様にちゃんと言った?』
 
「言った言った。おかげで今から会議。あんた今なんしとんの」
 
『俺今自分の部屋でごろごろしとるで。さっき偵察終わってん』
 
 そんな会話をしながら、さっきグルッペンに見せた、自分で作った侵攻作戦に目を通す。
 これから始まる会議のことを夜伝えるから時間空けといて、ということだけ伝えるとゾムはぷちっとインカムを切った。
 
 ……皆さんお気づきだろうか。俺たちがリーダーたる総統様を騙していることに。
 
 確か一か月前の話だ。
 
 ■
 
 ちらと見たレシピがとても簡単で作りやすそうだったから、俺は一人でキッチンを借りてクッキーを作った。それを運悪くゾムに勘づかれたのが始まりだった。
 
「なんしよん?」
 
「クッキー作ったからみんなに配ろーかと思って」
 
 純粋な気持ちでそう答えると、ダクトから顔を出していたゾムがふわっとおりてきて、俺の前に立ちはだかった。
 
「なにゆうとんねん大先生!もっと尖れ言うとんねん!ほら、二人で食おーぜ?」
 
 わっるい顔しながら微笑むゾムにつられて、俺もにやっと笑う。
 
「ふ、しゃあないな。よっしゃ、二人で食うか!」
 
 俺がそう言うとゾムは行儀よく椅子に座った。ゾムの目の前に焼きたてのクッキーを出すと、勢いよく食べ始めた。
 
 ゾムはコーヒーが飲めない、紅茶はエミさんのしか飲まないので冷蔵庫にあったオレンジジュースを出してやる。ちなみに俺はブラックコーヒー。よく飲めるな、とゾムにはよく言われる。お前が飲めないだけやで。
 
 一通り食べ終わった頃、ゾムが俺の目を真っ直ぐ見つめた。それでなにか言いたそうに黙っているものだから、俺から声をかけてやる。
 
「……どした?」
 
 するとゾムは少しだけ目を逸らし、いつもよりはっきりしない声で言った。
 
「いや……やっぱ大先生に話そーかな思て。オスマンに話すつもりやったけど、あの人もなかなか大変そうやし」
 
「遠回しに俺はめっちゃ暇そうって言ってるんやなそれ、よく分かった。要件はなんや?」
 
 呆れた顔をしながら言ったつもりだったが、ゾムの雰囲気がちょっと違うことに気づく。多分これは真面目な話なんだろうと勘づいてふっと切りかえる。
 
「俺、グルッペンに内緒でこの前戦ったとこの上の組織っての?に潜入しようかと思ってんねん」
 
「……はぁ?」
 
 突拍子すぎて素の声が出てしまう。
 しかも、そんな大事なことをこんな所で話すのは気が引ける。ゾムがここで話をしてしまっているのは、決意を既に固めているのか、それとも目の前のことに集中しすぎているのか。
 ……ゾムのことだから後者だろうな。ロボロかなんかが聞いてるかもしれないのに。
 
「でも俺ってあんまり情報収集したり出来ひんからさ、誰かに頼みたいなー思っとってんけど」
 
「……それが、俺?ってか一人で行くん?グルちゃんとかに話さんのん?」
 
「そう、大先生……いや大先生がええ。二人で内緒ごっこしよや。グルッペンには言わんで、大先生と俺だけの作戦、作ろーや!」
 
 ゾムはキラキラとした声でそう言った。
 少し詳しく話を聞いていると、ゾムはあと数枚残ったクッキーをなんの躊躇いもなく食べながら言った。
 
「俺な、グルッペンが朝からおらん時あったやん?あん時、グルッペンのあとを尾けててんな。そしたら六人の若いヤツらと密会しててん……!その六人な、トントンが欲しいとかなんとか言いよったんよ。やからそいつらをぶっ倒したい。俺達の仲間を狙ってるアイツらを、ぶっ倒したい」
 
 それから一息ついてまた目を煌めかせた。
 
「敵を騙すからにはまず味方から、って言うやろ?それにトントンもやりよったし、そのほうがかっこええやろ!」
 
 ■

 そんな会話から一ヶ月の間、二人で密会してはこつこつと計画を練っていた。
 そして実際にゾムが侵入して、分かったことがある。二人じゃ相手方の膨大な情報量を掌握することが出来ないことや、潜入しているゾムもゾムで俺が全て見えている訳では無いので動きにくいこと、グルッペンに課せられたものでトントンに怒られそうな仕事を終わらせるので俺が手一杯であること。
 
 俺の部屋が誰かにノックされる。そろそろ会議が始まるらしい。
 俺は資料の入ったノートパソコンを持って部屋を出た。
 
「お、大先生。一緒行こや」
 
 さっきノックしたやつとはちがうであろう、俺と合流したコネシマがそう言いながら俺に近づく。その提案を快く引き受けると、コネシマは肩を組んできた。俺も組み返して、同じ廊下を歩いていたしょっぴくんも巻き添えにして会議室へ歩いた。
 
 会議室につくと、すでに半分以上のメンバーは揃っていた。先程言った通り、オスマンとシャオロンは遠出しているので欠席。ロボロは警備の関係でこの場にはいないもののインカムでの参加だ。つまりここには自分を含め十一人が集まることになる。毎度のことだが暑ぐるしい。
 
「じゃあ始めるぞ、主にゾムに関してのことだ。大先生よろしく」

「あっ全任せなの?うそん」
 
 そんなことを言いながら資料を元に状況説明やこれからのことを俺は淡々と述べていく。
 久々に仕事した感が半端ないが、まぁ所詮は嘘なのでバレたら殺される。怖い。辻褄の確認はオスマンにしてもらったものの、下手に質疑応答されてバレたら殺されそうな勢いでなので本当に怖い。
 
「……で、今回は敵さんがこっちに来る前に、こっちから奇襲しようと思うんやけど、どうやろグルちゃん」
 
 俺の目的はメンバーをゾム側に仕向けること。仕向けさえすれば、あとはゾムと連絡取ってなんとかなる。
 だからなんとしてでも俺はこの会議で「奇襲」という形に持っていかなければならない。そういう作戦だ。
 
 グルッペンが黙っている間、心臓が飛び出てきそうな勢いでバクバクしていたが、突然インカムから響いた声で落ち着く。
 
『ええんやない?こっちに攻め込まれても片付け面倒やろ』
 
 その一言で会議が進んだ。一応「奇襲」という方針でこれから動いていくらしい。
 オスマンとシャオロンが帰ってきたらまた役割分担するとのことだ。多分シャオロンとコネシマが偵察しに行ったり、オスマンとトントン、そしてロボロが情報収集したりするのだろう。
 
 一時解散となって俺は部屋に直行する。ベッドに倒れ込みながら、ゾムからもらったインカムの方へ手を当てる。
 
「……JKの方、聞こえる?」
 
 へい
 
 
 †
 
 
 
『……JKの方、聞こえる?』
 
 ちょうど帰ろうかという話をしている時に、自分だけに聞こえる音声で受信が入った。大先生の声だ。
 
「あー、シャオロン、ちょっと先帰っとってくれん?街で軍曹の方に用事あるからそっちに行ってくるから」

「おっけー、帰ったら会議やろー?めんどない?」
 
 そう言いながらシャオロンは自分の帰り道を指示してもらえるようにロボロへ要請した。
 
 たまにコネシマと任務に行くと迷子になったりする時があるので、ロボロが案外必要になる。
 以前は仕事を増やすのを懸念した二人がロボロになにも言わない時も多かった。しかし迷子になってしまう方が仕事となることに気付いたあとは、毎回ロボロに道案内を頼むようになった。
 
「そんなこと言わないの。じゃあちょっと行ってくるね」
 
「はいよー」
 
 シャオロンは素直に領地の方へ帰っていった。それを確認すると、私、オスマンはさっき連絡があったインカムの方へ手を当てる。
 
「なぁに、会議終わったん?無能さん」
 
 そう告げると、通信相手である大先生は苦笑いしながら私に報告をした。
 
『無能さんて……ひどない……?会議は終わったよ、奇襲作戦に移るらしいで』
 
「お、よかったやん。作戦通りやね」
 
 ゾムと大先生が今回の主犯と言っても過言ではない。そしてそれに加担した私も私だ。
 ついこの間、最初に一人でゾムを探しに行った時のことだ。あの時私はゾムに会った。
 
 ■
 
「ゾムいそうなとこみっけた、探してみるね」
 
『了解。何かあったらすぐに連絡してや』
 
「わかってるって」
 
 トントンへ連絡をしたあと、ゾムがよく来ていた森の中へ入る。
 ゾムはどこへ行ったのだろうか、そんなことをずっと考えながらいろんなところを走り回っていた。
 
 途端に動きを止められて、それから目の前が真っ暗になる。目隠しをされたような感覚のあと、後ろを取られたことに気付いた。これが敵ならいいように使われて終わりだ。
 でも違った、後ろからふわりときた声と匂いは馴染みのあるものだった。
 
「なんでここにおるん、オスマン」
 
 ……ゾムの声。それに気づいて喋ろうとしたら口も塞がれた。それとインカムも電源を切られたらしい、今まで聞こえていた機械の雑音が消えた。
 
「……これ、みんなに内緒やねん。報告すんのはやめてくれん?」
 
 そう言われて、私は素直に肯定する。ゾムがそれを確認すると同時に、私の顔を覆う手をどけた。
 
「……どしたん、何かあったん?」
 
 私が咄嗟にそう聞くと、ゾムは穏やかににこりと微笑んだ。
 
「今ね、グルッペンに内緒で別の組織に潜入してる」
 
 なぜそんなことをするのか。意図をつかめないことが顔に出ていたのか、ゾムはまたさらに言葉を重ねる。
 
「……俺知ってるんよ。グルッペンが一人で今入ってる組織について調べてたこと、それからグルッペンが一人でいなくなった時の出来事。……入って分かった、この組織は俺達を狙っとるんよ。んで狙っている俺たちの組織が弱体化したことにするために、グループ最強の俺がこっちに寝返った、ってことにした」
 
「……つまり、どゆこと?」
 
「グルッペン達を襲った時のトントンみたいに内部からばーんってやりたいねん!」
 
 そう言いながらにかりと笑う緑のフードの青年はやたら楽しそうに見えた。趣旨はだいたい把握出来たが、それでも彼がなぜそこまでするのかよくわからなかった。
 
 グルッペンに拾われた時、彼はグルッペンに忠誠を捧げた。その時の真っ直ぐな目は本当に
美しかった。心の奥底から自身の感情を出しているような無邪気な目で、とても眩しかったことを覚えている。
 そんな人があのグルッペンを裏切る、なんて考えで敵に寝返ったりしないことは俺達が一番わかっている。
 
 ……私は私のことがよく分かっているつもりだ。目的のためなら何でも使うような残忍な自分のことは、自分がよくわかっている。
 でもそんな私を変えたのはグルッペンだった。私にだって、あの人とその仲間しかいないのだ。
 
 万が一ゾムに何かあったら困る。グループの中心核に近い私がそばにいれたらいくらか心配は少ない。そう考えた。
 
「……奇遇やね。私もここの組織の情報が出来るだけ欲しいんよ。やから、手伝ってもええ?」
 
「えっ、いいん?大丈夫なん?グルッペンに怒られるで?……あっ、そうなったら俺と一緒になるんか。それならいいかも。三人やったら怖くないな!」
 
「かまわんよ、一緒に怒られよーな……って三人?」

「うん、大先生も協力してくれてん。俺一人じゃこんなことできへんよ。オスマンは大先生と一緒に情報共有、それから俺に情報提供してくれんか?俺だけが潜入するから」
 
 そう言われて納得した。一人ではないゾムほど頼もしいものはない。逆に一人だと何しでかすか分からないので怖い。
 ゾムはそう言うと、背中を向けた。私も同じように、ゾムへ背中を向ける。
 
「……了解」
 
 それからゾムに切られたインカムの電源を入れて、報告がなくて怒っているであろう二人へ連絡をする。
 それから帰ってもいい許可を貰えたので、領地へ帰った。
 
 玄関では大先生が煙草を吸っていた。そんな大先生が私に向かって手招きをしたので、なんの抵抗もなく大先生に近寄る。
 
「おかえり、オスマン。グルちゃんへの報告が終わったら、ちょっと僕の部屋来てくれへん?」
 
「わかった」
 
 ゾムとの通信手段でもあるのだろうか、いつもの優しい声でそう言った大先生は私がそっち側に加担したことをもう把握しているらしい。
 
 グルッペンとトントンへの報告が終わったあと、大先生の自室の扉をノックする。すると楽な声でどーぞと聞こえたので扉を開く。
 扉がしまったと同時に鬱先生はこちらへ向き合った。
 
「さっそく本題入ろか。ゾムからどこまで聞いた?」
 
「……なんか、大ちゃん楽しそうやね」
 
「ふふ、なんか大ちゃんって久しぶりに呼ばれたわ」
 
 大先生はそう言いながら自分のPCを起動させた。俺はゾムと会った時のことから、会話の内容まで全てを大先生に話した。
 
「まぁ、あんまり詳しくは聞いてないで。大先生に全部聞けって丸投げされてたし」
 
「あいつほんま……。まぁええわ、じゃあ話すな」
 
 PCが起動してすぐに、画面には大量の資料が出てきた。仕事する時はする大先生をゾムは信頼して頼んだんだろうなと思う。
 
「ゾムがあそこに入った理由も含めて説明していくな。……せやせや、マンちゃんもこれ付けとって。俺とゾム専用のインカム。今はゾムの方も静かやから何も気にせんとってええよ」
 
 そう言って渡されたのは、ロボロから渡された皆用のインカムとはまた別タイプの、小さなピアスのようなものだった。私はそれを受け取り、ロボロのインカムとは反対方向につけた。
 ちょっと前にシャオロンが大先生の右耳を指さして、このピアスなにー?みたいなことを聞いていたのを思い出す。その返答が女からもろてん、とか言っていたがこのことだったのかと納得する。
 
「じゃあ説明するね。まず目的なんやけど……単純にぶっ倒したいから、っていう……本当に馬鹿みたいな理由やねん。
 でもそれにも理由があってな、トントンがこの前、少しだけこの組織から離れとったやん?あれは、今ぶっ倒そうとしてる組織からの命令やったらしいんよね。まぁトントンが寝返らんかったからよかったものの、そういう話をグルッペンと組織の幹部とで話してたらしいんよ、あのグルッペンがおらんくなった日に。それをゾムが見とってんな……」
 
 そんな話と今までの活動の話や、今からの計画の話を淡々とされた。よく二人でここまでやったなぁ、というのが正直な感想だ。
 
 一通り説明が終わると、大先生はしゅんとした顔で私にいった。
 
「ちなみにオスマン、ごめんな。意図的に巻き添え食らわせてん。さすがに二人じゃちょっと危険なことが多すぎてな。ゾムに見つかりやすいところに出てきてもらって、わざと合流させてん。ごめんな」
 
 その言葉で納得した。偵察大好き大得意なゾムが、のこのこ自分の前に現れるわけがないとどこかで思っていたからだ。
 そういうことで私を選んでくれたのなら、とても嬉しかった。
 
「ふ、何言ってるん。嬉しいよ、私を選んでくれて。二人に尽くすわ」
 
「……ありがとう。頼らせてもらうわ」
 
 私と大先生はそういいながら軽く握手を交わした。その後、ゾムのことについて話しながら二人でお茶をする約束をして、私は自分の部屋に帰った。
 
 ■
 
 それから私も計画の再思考を行ったり、その計画途中の奇襲作戦をうちのメンバーにさせるための資料作りであったりを、ゾムの捜索片手に手伝った。私も完全な共犯者だ。
 
 しかしそんな中、一つ気になったことがある。
 たまに大先生とそういう話をする時、わざとかは分からないが、ロボロが見ているであろうカメラの近くですることがあるのだ。
 私自身そのことを指摘はしなかったものの、いつも疑問に思っていた。
 
 大先生の報告を受けた後、私が領地に帰ると、シャオロンが玄関近くで待っていた。多分一緒に総統の部屋を訪ねて、会議中に決めたであろう分担を聞きに行こうというお誘いをするためだろう。
 案の定、私はシャオロンに呼び止められて一緒に行くことになった。
 
 グルッペンの部屋の前に着くなりシャオロンは、私がノック、と声をかける前にがばっと扉を開けた。
 
「グルッペーン!帰ったで!」
 
 シャオロンが大声でそう言う後ろで頭を抱える私。グルッペンと、部屋にいたトントンは動きを固めてシャオロンを見つめた。
 
「だからノックしろと言っているだろう……」
 
「ばり驚いたやんけ……」
 
「ごめんごめーん、で会議どうなったん?」
 
 二人を見て笑いながらも、面倒がっていた会議のことをちゃんと聞くあたり律儀だなと思いながら私も声を出す。
 
「奇襲、って言ってたっけ?大先生からちらっと聞いたけど」
 
「あぁそうだ。ロボロが事後の領地内を片付けるのを心底嫌がっていてな」
 
 ……そんな理由で作戦方針を決めるここのグループもどうかしていると思うが、まぁ助かったと言っておこう。
 
 それからまたみんなで集まって役割分担が始まった。シャオロンはまだ役割を振ってなかったことにまた文句を言っていた。加えて言うと、それにコネシマも参戦してトントンがうるさい、と怒っていたのを目にした。
 
 最終的には攻め込む前は情報収集班と偵察班と待機班に、攻めるときは通常通り、遠距離班と近距離班と、司令班と待機班でわかれた。
 私は情報収集班と待機班に分けられた。ちなみに大先生は情報収集班、それと遠距離班だ。
 私も大先生も、能力的に前線に立ってゾムを支えられない。それがなんとも惜しい。
 
 会議室から出て自分の部屋に向かおうと思ったその時、インカムから声が届いた。
 
『こっち来て』
 
 ゾムでも大先生でもない声。ロボロだ。
 個人的に呼び出すなんて珍しい。それもロボロが私に何か用があるなんて。用件の方は全く検討もつかなかった。
 
 私は素直に、ロボロがいるであろう司令室に足を動かす。それから司令室の扉をちゃんとノックすると、いつもの間の抜けた返事が聞こえた。それからゆっくり扉を開けた。
 
 久しぶりに見た、部屋にある無数のモニター。それぞれにはそれぞれの場所や音声が流れている。
 最近、司令の方はずっとロボロに任せていて自分はグルッペンの護衛にいることが多かった。だからここに来るのも久しぶり。
 
「よお、オスマン」
 
 くるりと椅子を回しながらヘッドフォンを外し、ロボロはこちらを向いた。
 ……ちらと紙の隙間から見えたその顔にぞっとした。ほとんど見た事がなかったロボロの黒い笑みを突きつけられた感覚だった。
 何を企んでいるのだろうか、なんて思っているとロボロはくるっと紙を回し、自ら自分の顔を出した。もうその時には元の顔に戻っていた。
 
「どしたの。なんか用?」
 
 自分が怪訝そうな顔をしているであろうことが、自分でもわかる。この男は侮れないなと改めて思った。
 
「提案したくてな。今回、俺が司令でオスマンが待機やったやろ?ちょっと入れ替えてくれへん?」
 
「……え?」
 
 配役を入れ替える。そんなことは総統を通してからじゃないと認められないはずだと言うと、もう許可はとってあるとロボロは言った。
 
 私は考える。私的に司令に回った方が大ちゃんもゾムも動きやすくはなる。ロボロはそれを見越しているのかなんなのか……真意は分からないものの、これに乗らないわけにはいかない。
 
「……わかった。じゃあ私が司令で、ロボロが待機やな?」
 
「そそ、今のところはな。さんきゅ。じゃあ、仕事あるから」
 
 そう言うと紙をいつも通り正面に戻し、ヘッドフォンをつけまたモニターとにらめっこをし始めた。
 
「ん、わかった。じゃあね」
 
 私はそう言って、司令室の扉を閉め移動、それから自分の部屋に入った。
 
 ロボロが言った今のところは、ということはまた入れ替えでもするのだろうか。本当に何考えているのか分からない。が、私が深く言及することも無い。
 
 私は今から行われる大先生とゾムとの密会を聞くためにベッドに横たわった。
 
 へい
  
 
 †
 
 
 
 この薄暗い中に複数の明かりが自分を照らす部屋にいる俺、ロボロは、一日中ずっと画面と睨めっこなことが多い。食事も大体はトントンか鬱先生かに持ってきてもらうシステムだ。トントンよりも引きこもりなのではないかと最近思うようになってきた。
 
 この領地内にあるカメラの位置やいつもの風景が全て頭の中にインプットされているため、この前の建物内の片付けの時に家具の配置がいろいろ変わった時は本当に違和感でしかなかった。
 あと動くものには勝手に目がいくようになった。動くものには敏感、と言ってもいい。最近はいつもよりも警戒していた。
 原因はトントンから聞いた侵入者の話。俺の視界であるこのカメラの数々を通り抜けてここに侵入していたらしい、と聞いた。トントンは念入りに嘘かもしれんけどな、と言ったが、もしそんなことがあれば俺のプライドに関わる。
 
 この部屋は俺の目だ。この部屋の数々のものは俺の体の一部と言っても過言ではない。……寝る時間は惜しいので俺が寝ている間だけは他のメンバーが交代で見ているが。
 その目をくぐり抜けることは絶対に許さない。
 
 時は少し遡る。
 
 ■
 
 脅威の身体能力をもって、人の盗み聞きをするために秘密通路で行き来するゾムの居場所を把握する者はこのグループにいない、わけではない。
 さすがにゾムが知ってる秘密の抜け道にカメラは無いものの、その周辺のカメラが音を拾うため、大体みんなはゾムを探すとき俺を訪ねる。俺だって急にいなくなっては困るから、ゾムの位置は常に確認している。本人には内緒だが。
 
 そうやっていつも通り緑パーカーをおっていると、ゾムはキッチンにいた鬱先生と合流した。鬱先生が作ったクッキーを二人だけで食べながら和やかに会話をする姿を見て、少し息を吐いた。
 起きてから五時間が経った。今日は少しコネシマと体術トレーニングをしたのだが、そろそろ耳が痛くなってきたので、ヘッドフォンを一旦外し、常備してある飲料水を口に含む。
 
 そして再度、カメラの向こうに移る二人に目をやると、ゾムが活き活きした顔をしているのが見えた。
 俺の直感が言う、何か面白いものがあるぞ、と。
 俺はすぐさまヘッドフォンをつけ、耳を傾けた。
 
『__俺達の仲間を狙ってるアイツらを、ぶっ倒したい』
 
 ゾムがそう言ったのが聞こえた。その後に鬱先生からの賛同の声。
 ゾムはよく、唯一カメラのついていない自分の部屋以外で秘密を打ち明ける。自分が領地内のいろんな道を知り尽くしてるからこそ、そこで余裕が出ているのだろうか。
 ……でもそれは甘いよ、ゾムさん。
 
『敵を騙すからにはまず味方から、って言うやろ?それにトントンもやりよったし、そのほうがかっこええやろ!』
 
 そんなゾムの言葉に相手である大先生は静かに息を漏らした。きっと大先生はゾムのそれを叶えるために動くんだろう。なんだかんだでお人好しな彼はただ微笑んで、最善策を導き出すために前に進むんだろう。
 
 俺は一人ぼっちのこの部屋からそれを眺める。頬杖をついて、じーっと二人を見つめる。
 これを見てしまったからには俺は選択をしなければいけない。これを総統たるグルッペンに報告するか、二人が行動を開始するまで見て見ぬふりをするか、それとも手伝うか。
 
 悩む暇はない。俺は俺で行動を起こさねば。
 
 俺は監視任務をコネシマに任せ、ネットの世界にしばらく浸かることにした。
 
 ■
 
 そんなこんながあって、俺は俺で敵対組織について調べたりしていた。領地内への侵入をされないように、セキュリティの精度も上げながら一人ここに籠って、自分の網に引っかかるものを全て丹念に調べあげていた。
 ちなみにこのことは大先生にもオスマンにも言っていない。
 
 会議が終わったのと同時に俺はオスマンのインカムへ音声をつなぐ。

『こっち来て』
 
 しばらくしてオスマンが来る。
 予定通り役割を変えてもらったあと、今度はグルッペンに音声をつなげる。
 
「総統、提案よろしい?」
 
 俺がそう言ってしばらくすると、プツッと音がしてグルッペンの声が入ってきた。
 
『……なんや、天の声』
 
 グルッペンは寝る前なのか、いつもよりももう少し低い声でそう答えた。俺はそんなことお構い無しにグルッペンに話を持ちかける。
 
「チワワの怪我、まだ完全に治ってなかったやんか。俺今JKと役割を交代してもらった状態なんやけど、それをまたチワワと入れ替えるのって、どう思う?」
 
 つまりはこうだ。
 最初に俺が配属になったのは司令班。みんなの動きを見ながら指示する仕事だ。俺がいつもやっている。俺はそれをオスマンと入れ替えた。
 オスマンが配属になっていたのは待機班。みんなが別の場所で戦っている間、ここを留守にするわけにはいかないので、総統たるグルッペンと軍医たるしんぺい神とともに領地内に待機、非常時は総統の護衛として動く仕事だ。大抵は俺かオスマンがやっている。
 そのことから今現在、俺が待機班でオスマンが司令班であることになっている。
 
 そこでまた俺は、グルッペンに提案をした。コネシマの配属場所と入れ替えて欲しい。
 コネシマの配属場所はもちろん近接班。メンバーと協力しながらも前線を上げていく仕事をもつ。大抵ここが主戦力となる。
 俺がここにはいることが出来れば。
 
『……おう、いいぞ。チワワの野郎にちゃんと話通しとけよ』
 
「うん、ありがと」
 
 俺はそう言ってグルッペンとの会話を終わらせた。俺は再度カメラを見つめながら、じっと耳を傾ける。
 大先生が自分の部屋に入った直後、オスマンが遅いーと文句を言う声、それから大先生の煙草を吸っていたという熱烈な抗弁がうっすらと聞こえるようになった。
 
 ……これでオスマンは司令、大先生は遠距離、ゾムは一人で偵察という役割についた。ちなみに俺は近距離。
 オスマンが司令である方が二人も動きやすいし、大先生はいつも通り後ろから援護がしやすく、加えて状況把握がしやすい。
 
 俺は天と書いた紙の下で口角を上げながら、カタカタとタイピング音を軽快に鳴らした。
 
 ……んふ、俺は全部知ってるで?三人とも。
 俺は全部全部分かってる。大先生が俺に聞かせるためにわざわざ廊下に出て話をしていたり、オスマンが俺を少し警戒してるのも分かってる。
 ちょっとだけ手助けをしてたの、忘れとるんやないぞ。三人だけで楽しいことなんて、俺が面白ないからな。なーんて、三人は深刻そうでも俺はそんな軽い気持ちである。
 
 最近はずっと部屋に籠ったままだった。愛用のナイフもすっかりさびれてしまっていた。兄さんに直してもらって、人肌を裂けられるようになったナイフを俺は手遊びのようにくるくる回す。
 ……一番は、体が疼いてたまらなかったからなんやけど。
 
 さぁ、戦争をしよう。俺だって、戦える。
 
 へい
 
 
 †
 
 
 
 人殺しは悪だと人は言う。何をしてもいいと貴方は言う。
 自分が一番だと人は言う。仲間を守れと貴方は言う。
 全ては正しいと人は言う。全てを疑えと貴方は言う。
 人を信じろと人は言う。俺だけを信じろと貴方は言う。
 ならば俺は自由に生きる。
 ならば俺は仲間を守ることを優先する。
 ならば俺は時にその仲間だってを疑う。
 ならば、俺は貴方だけを信じ続ける。
 
 俺が暴走したあの日、今日も俺をこの暗い底から引っ張ってくれる人はいなかった、はずだった。
 
「おい、ゾムと言ったか」
 
 いつも暴走している間は記憶が無いものの、これだけは覚えている。多分一生忘れられない。
 
「瓦となって全からんより玉となって砕けよ」
 
 意味のわからないことを言われて腹が立った、のかは覚えていないが、持っていたナイフをそちらに向けて俺は走った。勢いよく突進するも軽くかわされる。
 それからその男はこう言った。
 
「……殺されるぞお前。こっちに来い、青年。死なない技術は俺の仲間が教えてくれるさ、意味の無い死を遂げるくらいなら俺のために**」
 
 その言葉が俺の救いだった。
 貴方が貴方でいてくれるから、貴方が俺に手を差し伸べたあの日から、貴方にこの身を捧げると決めたんだ。
 俺は貴方を、貴方の仲間を選んだのだ。俺は、自分の意思で選んだのだ。それを簡単にねじ曲げるつもりは、ない。
 
「なに暗い顔しとんの、グルッペン。何話したん?」
 
「ん……特に何も話してないぞ。まぁ言うなれば……悪法もまた法である、そう言うだろ?」
 
 いつの日か、お偉いさんの会合からお説経垂らされて帰ってきた貴方は、また難しいことを言いながら、悲しく笑って目線を下に向けた。
 俺はそんな貴方はもう見たくなかった。いつもみたいに貴方らしく、楽しく笑って欲しかった。
 
 もう外は暗い。月も光っている。大先生とオスマン側が会議をして役割分担をしてから、もう五日が経った。
 
 そんな中外出許可を得て一人、再度大先生の連絡が入るまでと、現拠点の近くの木が生い茂ったところをうろうろしていた。
 ぼーっとしているだけだったのに過去の記憶がぶわっと蘇ってきて、同時に人に見下されるようなあの目を思い出した。無性にいらいらして、そこら辺にある適当な木にもたれ掛かる。
 
 我に返ると、一帯の木の幹に切り傷が何個も入っていた。……軽く暴走してしまったようだ。
 最近はこんなことが続いていて、自分でもいつ爆発するかわからないから怖い部分がある。が、大先生とオスマンには言わないでおこうと胸に秘め、現拠点へと足を動かし始める。
 
 二人によると、あちら側の侵攻作戦は明日行われるらしい。まぁ作戦会議から一週間弱で侵攻、という行動に移るのならまぁ早い方だろう。
 ちなみにそのことをここのボスのような六人に伝えてみたが、大丈夫でしょと余裕をぶっこいていた。俺の仲間を舐めるんじゃないぞ、なんて言ったら速攻殺されるので、その時はにこにこして黙っていた。
 
 自分の拠点がちらと見えてきた時、自分がつけているピアスから小さく声が聞こえた。
 
『やっほー。話せる?』
 
 その声を聞いてくるりと方向転換、それから木陰に隠れる。
 自分の部屋で話すのもいいが、一番はこうやって何もないであろうところで話すのが一番安心する。どうも拠点内だと大っぴらに話しずらくてストレスが溜まる。
 
「おん、ええよ。そっちはどう?明日やろ?」
 
『うん。やから皆はよ寝てしまったわ。子供かってほんと……』
 
 呆れながらも、みんなが早々に自分の部屋に戻っていく様子を見ていたであろうオスマンはふふっと笑った。大先生はそれに同調しながら静かに笑った。
 俺はええなぁ、なんて言いながらみんなの話を催促する。
 
『せやなぁ……今日も天の声がポメラニアンと近接戦やってたかなぁ。結構天の声も勘を取り戻したみたいやったけど、腕痛なってきて戦えへんってチワワが拗ねてたわ」
 
『俺は今日、教授に持っていく分のクッキー作ったら新人くんに見つかってしまってさぁ。俺、もう一回作り直す羽目になってんよ。んでもう一回作ったと思ったら、今度は新人くんが後輩くんと総統を連れてきてな……』
 
 聞いてるだけで想像ができるみんなの日常を聞きながら笑って、つっこんで、俺もそこにいたかったなぁ、なんて呟いた。
 すると大先生とオスマンは一旦黙ったあと、改めてこう言った。
 
『でもな、みんな何かが足りん、って口揃えて言うんやで』
 
『邪魔してくれるあいつがいないと寂しいんや、って』
 
 俺は無性に寂しくなって静かに頬を濡らした。
 バレないように鼻をすすって、また明日と言ってから木陰を後にした。
 それから拠点内に戻って風呂を済ませて、自分の部屋に入る。はーっと大きく息をついてベッドに倒れ込んだ。
 
 次に目が覚めると、小鳥の声が耳に入ってきた。窓に目をやると、外はもう明るかった。
 はっと気付いて時計に視線を動かす。あいつらが攻めてくるのは十二時ぴったりと言っていたはず。秒針の短い針は十の位置を指していたことに安心し、ご飯を食べに行こうと部屋を出る。
 
「おはよ、ゾムさん。よく眠れた?」
 
 扉を開けると待ち伏せされていたかのようなタイミングで、ここのボスの一人である水色が話しかけてきた。俺は驚きながらも少し頭を下げ、肯定の意を示した。
 
「そっかそっか、ならよかった。今日は忙しくなりそうだから準備、よろしくね」
 
「えっ」
 
 水色はにっこりと笑いながら、またねと言ってこの場を去った。俺はその場に立ちつくす。
 
 ………バレた?
 
 一旦深呼吸をして食堂に向かう。ここには俺らと違って、幹部以外に兵がいるので食堂という場所へ向かうのは毎回新鮮だ。出てくるものもまぁ美味しい。大先生やトントンのには到底かなわないが。
 少し仲良くなった五人の兵と、いつも通り朝ごはんを食べながらもんもんと考える。
 
「どしたんすかゾムさん。なんか悩み事ですか?」

「イツモハ朝カラ、ガツガツ食ベルクセニ」
 
「らしくないですよー、っておい豚が豚食べてるんじゃないよ」

「うるせぇ、お前はゾムさんの心配してるんやなかったんか」
 
「じゃあその豚は俺が貰うわー!」
 
 ぎゃあぎゃあ言いながら話すこの五人は、あの面々を思い出させるようで聞いていて楽しい。俺はふっと息を零すと、青い服に赤いマフラーが特徴的な男がそれを見て笑った。
 
「やっぱゾムさんは笑ってる方がいいっすよ」
 
「……そ、か。せやな!俺はやっぱ俺のままでおらんとな!」
 
 俺はそう言いながら五人に対して、にかっと笑う。五人はそれを見て安心そうに微笑んだ。
 
 トントンをこっち側に戻すためにグルッペンとオスマンとともに潜入したあの組織内で、トントンもこうやって話が出来る部下がいたのだろう。特に最後に会ったあの黒髪の青年は、トントンがあの量の兵と一人の幹部を任せられるくらいに信頼していたことは確かだ。
 
 今一緒に朝ごはんを食べるこの五人は、俺の部下に配属されて、こっちに来てあんまり経っていないのに任務を任せられる毎日で疲れていた俺とともに任務に付き合ってくれていた、数少ない頼れる人達だ。
 別の組織から浮気してこっちに乗り換えたっていう変なご身分な俺に、普通に接してくれたり助けてくれたりしてくれる。俺の方から裏切るので別に裏切られてもなんのダメージはないと思っているものの、なんにも頼るものがないこの場所で異常に頼っていることは事実で。
 
「今日モ任務アルノ?」
 
 全身ほぼ緑の服を着た青年が首を傾げる。昨日、木の枝で引っかかったという手の傷が生々しい。
 俺自身もまだ何も聞いていないのでわからない。が、今日が忙しくなるということだけは確かである。
 
「……今日、俺は君らの傍にいられへんのや。この前一緒に任務したあの男の人に話通しとくから、今日はそっちにくっついといてくれるか」
 
 俺がご飯を平らげてそう言うと、五人は素直に頷いた。
 ちなみにこの前一緒に任務をした人というのは黒いサングラスが特徴的な男の人で、部下も沢山いるし俺にもよくしてくれるのである程度は安心して任せられる。
 
 三十分ほど雑談をして、終わりにありがとうまた夜に、なんて言いながら俺は席を立つ。五人は笑顔でそれを見送った。
 ……もうこの六人で過ごす夜などないことは重々承知である。
 
 少し向こうに座っている例のサングラスの人に、五人を任せる内容を伝えると快諾してくれた。それから俺は食堂をあとにした。
 
 自分の部屋が見えるとこまで来ると、一旦足を止めてしまった。自分の部屋の前に黒が特徴的な青年が立っていたからだ。ちなみに青年は朝会った水色と同じく、ボスの一人だ。

「ゾムさん。今日も任務、お願いできますか」
 
「……そのためにわざわざこっちにまで来てくれたんすか、今日は特別なことでもあるんすか」
 
 ここの組織にはボスと言われる人物が六人いて、明確な一人のボスというものが存在しないことで有名である。この組織の最大戦力は赤色と緑色である、という噂はよく聞くことがあったが本当にその通りで、少し力を抜けば多分俺よりも強いことが分かっている。
 
 ちなみにグルッペンのあとをつけたあの日、この六人と密会していたことは俺が確認済みだ。なんの話をしていたかまでは定かではないが、その話題の中心点がトントンであることは断片的にわかった。そこから察するに、この前の戦いに発展したのだろうと推測した。
 
 そんな六人の中の頭脳的立ち位置にいると思われる黒色が自分の部屋から出るのさえ珍しいのにも関わらず、わざわざ自分の部屋の前にいるのに驚いた。
 今日は忙しくなる、水色はそう言ったがそれは今日の任務がということだったのだろうか。思考が再度ぐるぐるし始めて、体が固まる。
 
「まぁね。任務っていうかまぁ……命令かな。今日は自分の部屋にいてもらうよ、ゾムさん。絶対に出ないでね」
 
「……それはどういう」
 
「理由なら自分でも分かってるでしょ。ちなみに情報源は君のお友達だから」
 
 俺は黒色から目を逸らしながら苦笑いする。
 ……あー、あの時か。任務終わりに大先生から連絡が来て、気を抜いていたからお友達、つまり部下である五人を少し遠ざけただけで連絡をしてしまった時に勘づかれたのだろう。
 
 終わった。攻めてくることまでバレてる。絶対バレてる。逆にバレてなかったらこんなことするわけない。どうしよう。みんなが来る。返り討ちにされたらどうする?俺のせいだ。
 なーんて。
 
「了解、自分の部屋にいとけばいんすよね?」
 
 俺の返事が予想以上に軽かったのにびっくりしたのか、黒色は拍子抜けしたような顔をしてこちらを見つめた。
 
「……あぁ。よろしく頼む」
 
 俺はそんな黒色を見送りながら部屋に入って、時計を確認する。針が上を向いて重なってる。タイミングばっちりだ。
 俺は自分の愛用しているナイフや銃を身につけながら、久しぶりにつけたインカムに手を当て、いつもとは違い堂々とした声を出す。
 
「なぁ無能!ちょっと失敗した、今どこら辺?あーもう近くなん?おっけおっけ、俺今部屋に閉じ込められてるから助けに来てくれへん?あ、もう攻め込める?おっけじゃあ待っとくな!」
 
 俺がそう言い終えた途端、この敷地内にけたたましいほどの警鐘が鳴った。と同時に窓には黒い影。
 その窓をからりと開けると、スーツ姿でいつもと同じ銃を背負った大先生が立っていた。俺を視界に入れるなり、ぱぁっと笑顔が広がる。
 
「無能は無能なりに頑張りましたー褒めてくださいー!」
 
「さんきゅ!あれ、なんか銃ちっさない?」
 
「顔がでかいんやっ!それよりも上でホビット待ってるからはよ行こや」
 
「え?ホビット?」
 
 上を見上げるとそこには、俺よりもペットボトル一個分くらい小さいオレンジの服を着た男がいた。戦場に出てきているなんて珍しい。
 ロボロが垂らすロープを頼りにすたたっと大先生とともに上がると、ロボロは呆れたような顔をしながらおかえりと一言俺に言った。俺はにかっと笑いながらそれに返した。
 
『おかえり、大丈夫やった?』
 
 オスマンの声。ここ数日とは違い、ちゃんとインカムの方から流れてくる。それに安心しながらも、周りを見渡した。

「すまん、JK。本当に途中でバレてしまったわ。中壊滅は全然やってない。データは昨晩、二人と話す前に一通り抜きだしたけど」
 
『うん、ありがと。十分よ』
 
 優しい声でオスマンはそう言った。
 それからオスマンは俺たち三人に向けてこれからの事を話し始めた。
 
 今バレずに潜入出来てるのはチーノと大先生とロボロ。敵に姿を見せているのは近接組である、ひとらんらん、しょっぴくん、シャオロン、エミさん、トントン、兄さんの六人。その他、グルッペン、オスマン、コネシマ、しんぺい神は領地内に待機しているらしい。予定通りに進んでいるようだ。
 今回は敵の数もほかと比べて少ないことからか、遠距離組も近距離組と組んで前線に出ているらしく、エミさんのであろう爆破音やしょっぴくんと兄さん、その他メンバーのものも混じっているであろう発砲音がたくさん聞こえてくる。大きな怪我していないといいけど。
 
 それから俺たち三人に言われた指令は二つ。本格的な内部壊滅のきっかけを作ること、そしてチーノに目がいかないよう、ボス六人の目をこちらに向かせること。
 俺たちが威勢よく了解だと言った直後、頃合を見計らったかのように後ろから声がかかった。
 
「よお、元気にしてる?ゾム……とその仲間」
 
 そこにいたのは、朝会ったばかりのあのサングラスの男の人だった。
 この人はこの軍一の実力を持っていると言っても過言ではない。それほどまでに恐れられ、また尊敬されている人だ。俺も少しばかり戦闘技術を教わった。
 
 そんな人と相対し、ロボロと大先生が敵意むき出しにしているのを手を広げて止める。
 
「……ありがとうございました。でも最初からこうするつもりだったんすわ」
 
「知ってるよ、何かあると思ってたからね。俺はなんだかんだお仲間への情があつい男だからね、ちょっとした提案をしに来ただけさ」
 
「知ってたんすか……んで提案って?」
 
「うん。俺と俺たちの部隊、及び君から任されている部下だった五人は戦闘へ行かせない。その代わり、ここの機密データをちょっとだけ分けてくれない?実は、俺とこの前トントンってやつがいた組織の黒髪の青年、グルなんだわ。一緒にここの組織について探ってたんだよね」
 
 俺があまりにも多くの情報に戸惑っていると、後ろから大先生のフォローが入ってその交渉は成立となった。
 つまり、俺が密かに慕ってる目の前のサングラスの男は敵にはならないってこと。味方でもないけど。
 
 俺たち三人が動き出そうと準備していると、サングラスの男の後ろにいた人が大きな声を出す。
 
「……えっじゃあ、今日俺戦えないの?!うそーん!」
 
「理解遅すぎ、さっきもそう言ったでしょ。かけ算もできない人が文句言うんじゃありません」
 
「ちぇーっ」
 
 確かあの人も結構な実力者だったはず。詳しくは知らないが、よくサングラスの男の人の隣にいるのを目撃していた。仲がいいのだろう。
 
「ありがとうございました、お元気で」
 
 俺が最後にそう言うと、サングラスの男の人の口角がくいっとあがった。
 
「無茶すんなよ」
 
 それから俺たち三人は、ボス六人がいつもいた部屋に向かうことになった。廊下は通らず、俺が見つけていた、人ひとり入るダクトの方をくぐっていく。俺が先頭になって案内して、後ろから大先生をロボロがぐいぐい押しながら進んでいく。
 
 部屋の近くにつくと、赤色のボスの一人が外へ行くのが見えた。ダ

  • No.3808 by 黒猫  2019-06-30 04:02:47 ID:15f351c75

クトからおりて、三人で部屋に突撃する。
 
 そこにはいつもと同じ表情の、ここのボスの一人である黄色がいた。
 大先生とロボロ、そして俺は戦闘態勢に入る。
 
「あれ、任務はどうしたの?ゾムさん」

 そう言われ、いつもの営業スマイルをかまして答える。
 
「拉致られちゃったから任務失敗しましたわ、すみません」
 
 その言葉を合図に三人一斉に飛びかかる。しかし、攻撃は黄色には当たらなかった。
 
「俺が一人でいると思ったら大間違えだよ。君たちと同じように、俺たちは大抵二人一組で動くから」
 
 黄色の前に立ちはだかったのは緑色。ボスの一人であり、この軍一番の戦力と言われ、実際に今三人の同時攻撃を一人で捌いた。
 
 二人一組。ということはさっき見た赤色のやつにもペアがいるわけだ。今前線に出ているのは青色と水色で、ここには緑色と黄色。
 ……うろ覚えではあるが、いつもとは違う組み合わせであることは確かだ。いつもだったら青色と水色、緑色と赤色、そして黒色と黄色が一緒にいるはず。
 
 そこまで考えたところで、俺は気配を感じ勢いよく振り向く。すると、俺たちが閉めたはずのこの部屋の扉がきぃっと開いた。
 
「そうそう。僕たちだってただ闇雲に動いてるわけじゃないし」
 
「俺の計算だって間違ってないし」
 
 そこにはさっき出ていったのを見たはずの赤色と、多分赤色と組んでいるのであろう黒色の姿。そしてその後ろには、見覚えのある黄色い袴の男の人の姿があった。
 この黄色い袴のやつは、確か前にトントンが行ってた組織のリーダー的存在であったはずの人で、トントンが殺したはずの人だ。それを知っているからか、大きな戸惑いを隠せずに動揺してしまう。
 
 この場に敵対する存在が五人、うち二人はこの軍最強と謳われる程の実力の持ち主。対する俺たちは三人、正直俺があの赤と緑に勝てる気はしない。
 
 撤退を考えたその時、インカムから聞こえてきたオスマンのため息とともに、さっき敵三人がこっちにきた反動で閉まっていた扉が、再度勢いよく開いた。
 
 姿を見せたのは、馴染みある金髪が二人、そして顔の前に神と書かれた紙を被せている人の計三人だった。これもまた上手く状況が呑み込めず、頭の上にはてなマークを浮かべる。あの三人は待機組として領地内に残っていたはず。
 なのに、なぜ。
 
「よお、久しぶりだな。邪魔しに来たぞ」
 
 
 
 †
 
 
 
 再度時は遡る。
 ちょうどうちのメンバーが敵領地へ到着した頃のことだ。
 
「……オスマン、これ大丈夫か」
 
 大きな戦力の差を改めてよく見たグルッペンはしきりにそう言っていた。
 俺、しんぺい神は本当に駒に死んで欲しくないんだな、なんて思いながらもグルッペンの行先行先についていっていた。
 
『んん……ちょっと厳しいかもしれない。今回遠距離組も近接に加わってもらったけど、それでも潰すには戦力がまだ足りないかも。というか大前提として、この組織のリーダー六人とかバグってるもん……。幹部も幹部で強いと言われる方々がたくさんいらっしゃるし……』
 
 オスマンはしゅんとした声でそういうと、また画面と向き合った。
 
 俺もその画面を見つめる。たくさんあるカメラの中でも主に、メンバーのどこか(人それぞれつける場所が違う)に付けられたカメラを見ていると、エーミールのカメラにシャオロンの顔がばっと出てきたのが見えた。今から死ぬかもしれないのに、この能天気さは呆れを超えて尊敬させられる。
 そんなシャオロンにコネシマは笑いながらも、再度心配そうにじっと見つめていた。
 
 ……ここにいる四人、全員が全員のことを心配している。戦場に出ていった七人のこと、そしてゾムのこと。
 大切な仲間だから、その一言じゃ片付けきれないほどの何かがこのメンバー内にあることを感じていた。じゃなきゃ、みんなが命をかけてその内の一人を守ろうとはしない。
 
 全員の配置が完了した頃、グルッペンが声を出した。
 
「……よし。俺たちも行くか」
 
「え?」「は?」「……?」
 
 グルッペンはくるりと回って画面に背を向け、この部屋から出ようとする。それを見たコネシマが即座に動いて、グルッペンの裾をぐいぐいと引っ張りこちらへ一旦戻す。
 
「ど、どういうことやグルッペン!ここ守らなあかんのに俺たちが行ってどうすんねん!」
 
「……あぁ。その事なら安心してくれ、ここはオスマン、プラスして軍曹とくられ先生に任せる」
 
 グルッペンが口角を上げながら、ひとつのモニターを指さす。
 そこにはここの入口と、堂々も入ってくる二つの人影が見えた。いつの間にか呼び寄せておいたらしい。
 
「……本当に行くんやな」
 
 俺がそう問いかけると、グルッペンは満足そうに頷いた。それからグルッペンはコネシマと俺に一緒に来い、と言って部屋を出た。
 
「……オスマン、頼んだで」
 
「はいよ。全く……あの人には毎回驚かされる……」
 
 オスマンは頭をクシャッと乱しながら、俺たちに手を振った。
 オスマンが呆れながらも、何も言わずにグルッペンの唐突な提案を受け入れるのは、信頼しているからか、はたまた何言っても聞かないとわかっているからか。
 どちらにせよ、俺はそれに従うしかない。
 
 俺はコネシマと共に、オスマンのいる司令室を出た。
 
 それから三人で車に乗り込み、俺が運転することになった。エンジンをかけ、車を出来るだけ猛スピードで走り出させる。
 その間、グルッペンはまるで子供のようにはしゃぎながらコネシマと会話をしていた。
 
「……よし、着いたで。グルッペン、あんたはあんまり前に出らんとけよ」
 
「あぁ、わかってる。じゃあ三人で正面突破するゾ」
 
「いや今前に出んなやって言われたばっかやろ?!」
 
 コネシマはツッコミに回りながらも、武器を手際よく自分に身につけていく。グルッペンもグルッペンで、デザートイーグルなどを装着。
 
 俺も同じように、デザートイーグルを腰にぶら下げる。それと、自分の通常着である着物の裾をできる限り折って動きやすくさせる。タスキを持ってきていたので、腕の裾はがっちりと固定された。
 そして愛用のナイフを手に持つ。久々の重量感がたまらなかった。
 
「……よし、準備はいいか」
 
 グルッペンがそう問いかけると、コネシマも俺ももちろんだというように大きく頷いた。それからグルッペンが小さく合図して、三人で潜入することにした。
 
 しかしもう戦いは始まっている。実際には潜入もクソもなく、主に前に立つ二人は立ちはだかるものを容赦なくぶっ倒していった。
 
「JK、今どこがやばそうだ」
 
 あくまでも、俺たち三人は支援に回る側。主力にはならず、やばそうだったらグルッペン中心に撤退するのを前提にここに出てきた。
 しかしながら、グルッペンとコネシマは体が疼くとか言って戦闘モードであるし、支援に回るだけじゃ気が済まないんだろうな、なんて思いながらオスマンの返答を待つ。
 
 少しして、オスマンが静かに言った。
 
『……クリーパーの確保が完了したのはさっき言ったよね。そのあとがちょっとやばいかも。一直線に組織のリーダーさんの部屋に三人で突撃したっぽいから、そっちいってくれる?死なない程度でよろしくね、特に総統様』
 
「分かってる。……聞いてたか、行くぞ」
 
「了解」「あいよ」
 
 俺たち二人はぶっきらぼうに返事をして、少し前を行くグルッペンについて行った。グルッペンは大先生とオスマンの情報を全て暗記しているらしく、オスマンの指示が飛ぶ前に右へ曲がったり左へ曲がったりを繰り返す。逆に、焦っているオスマンの指示が雑になっていった。
 俺たちは三人で、前から横から後ろから迫り来る人々を次々と捌いて行った。
 
『そこ、そこの扉の向こう。はよ行ったげて、お願い』
 
 オスマンはそれだけ言うと、別の部隊の指示を飛ばし始めた。
 ……そんなに信用されてても困るんだがね。
 
 グルッペンが扉を開けると、オスマンがあれだけ急いでいた理由がわかった。
 そこにはいかにも劣勢であるうちのメンバーの姿と、おそらくこの組織のリーダーの中の四人の姿、それからトントンが教えてくれた特徴に従順な格好をした黄色い袴の人。
 
「よお、久しぶりだな。邪魔しに来たぞ」
 
 グルッペンはいつもの調子でそう言うと、すたすたとゾムと大先生、ロボロの方に近付いていった。
 
 久しぶりに見たゾムの顔。
 それは少し細くなっていて、割に合わないことをしたのが分かる。でも大先生とロボロと会ったことで少し気分が良くなったのか、いい笑顔をしていた。
 
「……久しぶりですね、グルッペンさん。総統たる貴方がなぜここへ……」
 
 袴を着ていない方の黄色が心底驚いたようにそう言った。
 
 しかし、さすがと言おうか。敵である四人はどんな状況になっても気を抜かずに、ずっと張り詰めている。
 ……うちのメンバーにもこんだけの集中力があればあんなに怪我をしてこなくて済むのに、なんてちらと思ったが、しょっぴくんみたいに集中力がありすぎてもなぁ……と呑気な葛藤が生まれる。このグループ、本当に0と1でしか判断が出来ないから……。
 
「総統であるからこそ、だ。うちの駒は一人一人大変優秀でね、手放す訳にはいかないんだ」
 
 グルッペンはそう言いながらゾムを含めた三人の前に立ち、愛用しているデザートイーグルを敵の方へ向けた。その横に俺とコネシマ。
 
「手放す訳にはいかない……まぁそうですよね。ゾムさんみたいな人、中々いませんよ」
 
 そう言った黄色がくいと口角を上げた瞬間、入口の方にいた赤色の青年と黄色い袴の青年、そして反対方向にいる緑色の青年がいっきに動いた。正確に言えば、黄色い袴はグルッペンの方へ、赤はコネシマ、そして緑は俺の方へ。

 あぁやばい、これは相手にならない。
 直感的にそう思った、その時だった。前に飛び出してきた、緑のパーカーを着た男がその攻撃を受けた。
 
「緑の相手は緑やで!」
 
「ふ、望むとこです」
 
 コネシマの方をぱっと見ると、コネシマはコネシマで攻撃を受けていた。あの赤と対等にわたり合えるとは彼自身も思っていないだろう。
 だからこそ。
 
「俺も入れてーや、赤色くん!」
 
「あはは、二対一なんてずるくない?」

「まぁ世界はそーゆーもんやでっ……!」
 
 コネシマのとこにはロボロがカバーに入った。そしてちらと見ると、さっき喋っていた黄色とだんまりを決め込んでいた黒色がさっきの場所にいなかった。
 
「うわぁぁやばいってこれ!無理無理無理無理!」
 
「うるさい、殺しますよ」
 
 大先生は叫びながら黒色の乱射を受けていた。大先生も負けじと応戦、いつ流れ弾が飛んできてもおかしくない。
 と、いうことはだ。
 必然的に俺が相手するのは、この方になる。
 
「見ない顔ですね、まぁ顔見えてませんけど」
 
「見せんよーにしてるの、神だから!」
 
 黄色が振る剣をこっちは短剣で捌きながら応戦する。なんでこんな武士みたいに一対一で戦わなきゃいけないんだ……こちとらいつも自領でみんなを待ってる立場だぞ……と一人で悲観しながら、集中を途切れさせないよう、剣先と相手の動きを懸命に目で追う。
 
 それからしばらく経った、といっても三分弱くらいかな。その時、バタッと人が倒れる音が聞こえた。
 音がした方を見ると、そこには金髪の男、いや我らの総統、グルッペンが倒れていた。
 
「総統!っ……うあっ!」
 
「よそ見しちゃいけませんよ、神様」
 
「ば、馬鹿にしてんとちゃうで……!」
 
 グルッペンのところに駆け寄りたいものの、そうさせてはくれない。それはみんなも同じで、横目でちらと見ながらグルッペンを見ることしか出来なかった。
 
 少しして、黄色い袴のやつは優越感に浸っているのか、グルッペンの腹の部分に足を乗せ、笑った。それから総統は、それを見ていたゾムへ視線を合わせて呼んだ。
 
「……ぞ、む…………」
 
 聞き取れたのはそれだけ。しかしグルッペンが何か言い終わったその瞬間、この部屋の雰囲気……ここにいる全員の殺気が一人の殺気によって飲み込まれたのを感じた。
 
 グルッペンに呼ばれた張本人、ゾムの方に視線をやると、一目でわかった。
 あぁこれはスイッチが入ってしまったな、と。
  
 
 
 †
 
 
 
「手放す訳にはいかない……まぁそうですよね。ゾムさんみたいな人、中々いませんよ」
 
 そんな言葉を皮切りに、戦闘が始まった。
 俺の相手は、一直線に俺の方へ向かってきた黄色の袴……確かトントンが一時期所属していた組織のリーダで、トントンから殺したという連絡が入っていた人物だ。
 あの時、黄色のヤツだけはなんとか一命を取り留めていたらしい。俺の顔をあの戦闘の中で見ていたのか、すぐさま噛み付いてきたっぽい。
 
 俺はそれに対応してやる。殺意剥き出しな人間ほど荒いものはない。雑になっているその攻撃を躱して、小さなナイフで流して、隙をつこうと図る。
 すると目の前の青年はいきなり口を開いた。
 
「俺は、強い。だから……!」
 
 青年が俺に飛びついてくる。
 俺はそれを丁寧に受け、顔を近づけながら言う。
 
「なぁ青年よ。強さとはなんだ?」
 
「お前を殺すこの力だ」
 
 青年はそう言いながら俺にナイフを振る。俺はそれに対応しながら再度口を開く。
 
「じゃあ、自分の仲間を守る力は強さではないと?」
 
「……ごちゃごちゃうるさい」
 
 どんどん雑に、そして乱暴になっていく絶え間ない攻撃を受けて、汗が頬を伝ったのが分かった。
 それでもお構い無しにまた青年へ話しかける。
 
「しかし守るものがあれば必然的にその力は弱まる。本当にそれは強さと言えるのか?」
 
「うるさい、うるさいうるさいっ!俺はっ……強いんだ、だからここでお前を殺して……っ!」
 
「仇でもとる気か、あぁそうか……お前の仲間は死んでしまったからな」
 
 青年の殺気が増していくのがわかる。そりゃそうだ、仲間のことをこんな風に言われたら俺でも恨めしくなる。
 少し腕に相手の刃先が入って、服が赤黒く染まっていくのがわかった。それでも俺は続ける。
 
「俺はそろそろ疲れた、やめないか」
 
「逃げんのかよ……っ!なんで……なんで俺だけが生き延びて……っ!」
 
「それが定めだったんだろ。変に抗っても辛いだけだぞ」
 
「うっさい!黙れ!」
 
 そう言った黄色い袴のやつは、今まで使っていなかった体術をいきなり使ってきて、俺を圧倒した。体術に関してはロボロが付き合ってくれなかったためか、捌き方も曖昧で、すぐに俺の背中は地へ着いた。
 
 俺の部下である四人の視線が注がれる。その中でもばっちり目が合ったのは、さっき久しぶりに会ったゾムだった。
 
 どんっと腹の方を踏まれる。思わず咳き込んで息を吐く。結構な力だったのだろう、喉の奥に血の味を感じた。
 それからゾムと再度目が合った。怒りで満ちた目だった。
 
 ……久しぶりにお前の力を見せてくれよ。一人が得意じゃないのに、こんな柄にもないことをしたお前は、どうせそろそろ潮時なんだろ。
 
「……ぞ、む。お前は、自由だ」
 
 さぁ、暴れろ。味方最大の脅威の名を得た私の自慢の駒よ。
 
 それからは一瞬のようだったと思う。この部屋は彼の独壇場になった。
 
 ゾムは相手をしていた緑を跳ね除け、真っ直ぐにこちらの方へきて俺に足を乗せていた黄色い袴を力一杯に殴った。それからナイフで切りつけて、後ろで焦っている黒色の方へ赴く。黒色の相手をしていた鬱もゾムが来るなり道を譲って、間違ってもゾムの攻撃射程内に入らないように援護を加えた。その後、神とやり合っていた黄色に目をつけ飛びかかり、それを邪魔した緑さえも圧倒した。コネシマとロボロが対応していた赤色の方にも向かい、三対一で圧勝。
 俺は立ち上がりながらそれを見ていた。ちらと見たその瞳には俺が映っていなかったように思える。ゾムはただ、自分が倒していいと思える人物を攻撃していった。
 
 部屋が静かになったあと、俺は息の荒いゾムの方へ近付き、彼を包んだ。
 
「……ありがとう、ゾム。落ち着けるか、怪我はないか」
 
 そう優しく声をかけると、だんだん息が落ち着いていくのがわかった。少しして、俺の瞳を見つめてゾムは言った。
 
「……俺、誰も傷つけてない、よな?あの時みたいやってん、本当に何も覚えてへんねん」
 
 ゾムの瞳はなにかに脅えているようで、初めてあった時のことを思い出させる。
 しかしさっきのように、瞳に俺が映っていないことはなかった。しっかり俺を捉えていた。そのことに対して俺は安堵しながら答える。
 
「あぁ、大丈夫だ。今まで一人で寂しかったんだろ、柄じゃないことするんじゃないぞ」
 
「はぁーい……でも俺頑張ったやろ?いっぱいお仕事したで!」
 
「はいはい偉い偉い」
 
 さっきのしゅんとしたモードはどこへ行ったのやら、にかっといつもの笑みを浮かべてそう言うゾムを、俺は優しく撫でて、それから改めて体制を立て直すことにした。撫でられている彼の顔はいつもに増して和やかだった。
 
『その他の方は大丈夫そう、かな。なんか援軍みたいなのが出来てるんやけど、ゾムの友達?』
 
 オスマンもゾムも、もちろん俺たちも、そのことに対して不思議に思いながら窓の外を見た。
 それを見て、ゾムは一言呟いた。
 
「……どういう風の吹きまわしやねん……」
 
 
 
 †
 

 
 特に外で遊ぶような友達もいなかった俺、トントンは、母さんと父さんが今までコツコツ集めてきた、家にある全ての本を読み漁った。
 それから得た知識を活用こそはしないものの、興味のあるものにはのめり込む、そんな子供だった。一人で打ち込んで、母さんと父さんに結果を言って終わる。頭を撫でられて目を細めて、内に引きこもっていた。
 
「才能だけを、力だけを、知識だけを持っていてもつまらん。使え、お前の全てを俺に捧げろ」
 
 事故で家族を失った俺に声をかけたのは、俺の親の薄い縁のために葬式に来ていたグルッペンだった。
 俺の両親から散々俺のことを相談されたそうだ。俺の両親が、俺が俺の才能を使わずにこのまま凡人として生きていくのを危惧していたようで、何らかの形で俺に居場所を提供させようとしていたことは知っていた。
 
 グルッペンが俺をじっと見つめた。
 自分の全て見ているような深い瞳に俺は魅せられた。
 
 両親の葬式が終わり日を改めて、俺は自らグルッペンの元へ出向いて返答した。
 
「貴方と貴方のその仲間に、俺は全てを捧げます。好きなように使ってください」
 
 このまま今やってる仕事を続けて一人で暮らしていくよりも、親戚のスネかじって生きていくよりも、両親が見つけてくれた居場所に少し興味を持ったから。そんな理由で俺は自らをグルッペンに捧げた。
 __俺の人生はここから再スタートした。
 
「わんわん!」
 
 俺は視界の端に映った、負傷したであろう兄さんの方を向いて彼を呼ぶ。それから目の前の敵を後回しにし、彼の方へ近寄る。
 彼はふらふらと立ち上がり、再度銃を構え乱射し始めた。
 
「自分のことに集中せな」
 
 多分切りつけられたであろう左腕を庇いながらも、しっかりと前を見据えるその姿に安心し、その言葉通りに動く。
 
「……そうさせてもらうわ」
 
 正直、この大群は二人じゃきつかった。グルッペンとコネシマ、しんぺい神がこちらに来たことは知っているが、多分四人のリーダーたちの元へ行った方に加勢しているだろう。
 
 この大群を仕切るのはリーダーの中の一人である、青色の青年。多分裏側の、エーミールとシャオロンがいる場所には水色のやつがいると予想される。
 裏側にいる、と言っても青色と水色は常に近い場所にいて、二人一組で行動している、それから二人でこの大群二つを仕切っていると言っても過言ではない。
 
 これからどうするか。
 思考が戦闘から少しズレたその瞬間、名もない兵士に不意をつかれ、俺は体勢を崩す。それに気付いた兄さんが俺に声をかけるも、こっちはこっちのことに精一杯で何も返せない。
 
『クリーパーのところがもうちょっとで片付きそうだから、みんなもうちょっとだけ耐えて。絶対死なんで……っ!』
 
 こちらの様子が見えているであろうオスマン悲痛な声が聞こえる。でも俺は自分のことに手一杯で、ほかのメンバーの心配をしている余裕なんてなかった。
 ただでさえ厳しい状況下である。それは一回態勢を崩しただけでもう立て直せない程だ。自分が死なないことを最優先に、目の前のことだけを考えて敵を捌いていった。
 
 そんな中、俺にでも分かった。
 この場の雰囲気が少し変わったことに。
 
「こっちは立て直せそう……ちょっと手こずっちゃったけどなー」
 
 そこには仲間であろう人と交信している、頭に赤と黒の独特なデザインをした帽子をつけた青年がいた。その青年はここの兵士である人々の血を被りながら、こちらを見た。
 
「っ……なんや、助けにでも来たつもりか」
 
 俺が普段通りを装いながら態勢を戻した。これでいつも通り戦える。
 青年が絶えず目の前の味方であろう兵を薙ぎ倒していく、という謎の行動に対しての理解が未だに出来ない。しかし、決して主力ではなく俺たちのカバーに入るかのような、綺麗に兵を捌いていくその剣さばきはどこかで見たような気がした。
 
「……ほーん、さてはゾムのなんかやったんか」
 
 あとから来たやつに負けるものかと、意地になって愛用の剣を振り回しながら、初対面の青年と背中同士をくっつける。態勢が整って少し後ろに下がることが出来た兄さんがしょっぴくんと合流、遠くから俺たちの周りの一掃を手伝う。
 
 青年は俺の質問に対して、含み笑いで答えた。
 
「まぁ……あんなにいい上司はいないね」
 
 
 
 †
 
 
 
 私のこの勤勉さは一種の才能であると確信している。学ぶことは全て、みなまで理解しなければ納得いかない、悪くいえば面倒な子供だった。その割にはいつも何かを怖がって、いつも一人で他人から目を背け続けていた。得たものを外に出すのを怖がっていた、そんな気がする。
「失敗を恐れるな、失敗なんて言葉は戯言に過ぎない。次に上手くやればそれでいい。その次の舞台を、俺が作ってやる」
 
 
 
 †
 
 
 
 俺は平民で数少ない刀職人の末裔であり長男だった。俺は作るよりも使う方が筋が良かったのを親が認め、引き継ぎは次男がやってくれた。
「俺たちのリーダーが言ってたんやけどな……。せっかく自分の道を選んだんなら、その道をとことん追求するしかないやろ。才能をゴミにしとるんと同じやで」
 
 
 
 †
 
 
 
 簡単に言えば、嫌味な貴族っていう身分に生まれた、それだけの人間だった。愛想もない、感情もあまり出さない、これといった友達もいない、だけど頭は良くて、それだけが取り柄な変な子供。そんな理由で身内からはよく煙たがられていた。
 
 同じ貴族であるコネシマと学び舎が同じで、何かと関わる(巻き込まれる)ことが多かった。正直にいえば、俺はそれに救われていた。
 先輩自体はとても愛想が良くて、友達も沢山いたにも関わらず、話しかけてくれる人も話しかける気力もない俺に変に付き纏ってきて、構ってくれた。それに俺は親から度々暴力を受けていて、それを癒してくれていたのが先輩だった。だから、俺は勝手に先輩を頼りにしていた。
 
 そんな中、急に先輩が目の前からいなくなった。それを機に、鬱になったりもした。
 俺は耐えられなくなって家を出て、貴族様々の伝手や捏ねを使い、やっと先輩まで辿り着いた。
 
 先輩はなんだか訳分からない組織にいつの間にか属していて、俺と久しぶりに顔を合わせた時にはしつこいくらいに謝ってきた。何も言わずに消えてすまない、と。
 俺はそれをすんなり許して、先輩と一緒に行く場所もないからとここのリーダーへ頼み込んだ。
 リーダーである金髪の男は俺の薄汚れた頬を触りながら言った。
 
「誰にだって役割があって、その時っていうものがあるんだ。もちろんお前にもな。その役割を、俺が示してやる」
 
 先輩はそれを聞いて、わしゃっと俺の頭を撫でた。俺はいつぶりだか分からないくらいの笑みでそれと、この組織を受け入れた。
 それから俺は二度目の人生をスタートさせた。
 
 最初の頃は組織の雰囲気にも、今じゃ愛用しているこのSLRやUMPを含めた銃自体にも慣れていなかったけど、今じゃこれが日常になっている。
 この居場所を与えてくれたグルッペンさんには感謝しているし、先輩にも少しくらいは感謝している。
 だから、だからこそ、こんなとこで死んでなんかいられない。
 
 神経をひたすら集中させる。今日はスナイパーなんて悠長なことやっていられないので、UMPを撃ちまくっていた。弾ならある、あとは実力。
 
「弾変えます……っ」
 
「うん、りょーかい」
 
 今回一緒に編成されたひとらんさんは、どんな時でも俺の声を聞いていて、しっかり応えてくれる。俺が弾を変えている間はひとらんさんがこちら側に来て援護してくれる。
 
 ずだだだだだだだだという連射音が途切れ、ガチャガチャという音に変わる。その間はひとらんさんの自慢の刀捌きを目前で見られる。その姿はとてもかっこよくて、眩しかった。
 なんて呑気なことを考えている場合ではなくなった。液体が俺の頬を赤く染めた。目の前には腕からの出血が見られるひとらんさん。
 
『クリーパーのところがもうちょっとで片付きそうだから、みんなもうちょっとだけ耐えて。絶対死なんで……っ!』
 
 弾の詰め替えが終わった。俺はさっきと同じように銃を構える。
 **ないし、死なせない。
 
「ちょっと下がっててください、俺がやります」
 
「俺のことは大丈夫だか」
 
「いいから早く!」
 
 少し食い気味にそう言って、周りに溜まっていた敵の急所を狙いながら銃で乱射する。
 
「そうそう、怪我人は下がっとかないとー」
 
 ……知らない声。後ろから聞こえた声の方をちらと振り返ると、そこには全身青の上に赤いマフラーが特徴的な人がひとらんさんと共に敵を薙ぎ払っていた。
 
 敵ではないことは分かった、同時にここの組織の人であることも。自分たちが戦っていたここの兵達が驚きながらその男の名前のようなものを発しているから、多分そうなのだろう。
 ひとらんさんの様子を見るに、男と一緒に戦ってはいるものの顔馴染みではないようで、ひとらんさんの頭の上にはてなマークが見える。
 
「誰ですかあなた……っ!」
 
 絶え間なく撃ち続けるも、集中しきれなくてどうも一撃で行動不能にさせることが出来なくなりつつある。
 赤いマフラーの男はそれに気付いたのか、俺に伝えるため、攻撃の合間に少し離れた高台を指さした。
 
「あそこにまたいるから、銃持ってるんならそっち行った方がいいよーっと!」
 
「っ……今は頼るしかないんで、頼らせてもらいますけど、本当にあなた誰なんですか……!」
 
 その男は敵を薙ぎ払いながら言った。
 
「……このマスクくんは任せて、戦い方の特徴はゾムさんにそれとなく聞いてたから」
 
 ゾム、という単語を聞いて、不思議と男に対する嫌悪感は消えていった。しかし仲間の情報を漏らしているなんてバレたら、グルッペンさんに相当怒られそうだが。
 
 俺はひとらんさんに会釈したあと、指をさされた高台に向かって走り出す。ちょこちょこと敵に応戦しながら高台に着くと、そこには兄さんと思わしき人物とあともう一人の影が見えた。
 
「あっきたきたー、あ疲れさん。もう一息だよ」
 
 青い変な被り物をした男がそこにいた。さっき会った赤いマフラーの男と同じく、同じ組織であろう兵達を次々と蜂の巣にしていた。
  
 
 
 †
 
 
 
 人の弱みを握って広めて、影でコソコソ笑っているような、何やっても子供っぽくなくなるこすい子供だった。
 自分の出来ないことは、やってもないことを含め全て避けて、安定な生活だけを選んで今まで生きてきた。唯一好きだった化学に必死にしがみついた時期もあったが、次第にそれも面倒くさくなってやめた。
 俺の人生は諦めるだけの人生。そのはずだった。
 
 化学に必死にしがみついた、と言ったが、決して成果が出なさすぎるからやめた訳では無い。自分の理解度に周りがついてこないのが面倒になったのだ。テストも実技も論文も、いつもいつも一番。俺が参考にできるものが学び舎である場所にはない。それがつまらなくなった。
 
 学び舎から出て半年程たったくらいに、教授であったくられという男に俺は呼び出された。
 それからくられ教授の怪しい部屋に招かれる。度々来ていたこの研究所にはよく、ここの生徒ではない金髪の男や赤いマフラーをした男などが出入りしていたが、また見たことの無い一人の男と出会った。
 
「無理ではない、やるんだ。自分から強くなるしかないことを知れ。知りたくないなら、俺が教えてやる」
 
 それが、グルッペンだった。俺の手を引っ張って、新しい場所へ連れていってくれた。
 
 俺が授業をつまらない、などと思っていることを、今で言うくられ先生は分かっていたのかもしれない。だからこそ、グルッペンに俺を推薦したのかもしれない。でもそのおかげで、今がある。
 俺の人生はここでリセットされたのだから。
 
 敵の中心部となる機密機関室的な場所へあと一歩というところで、大勢の的に足止めをくらった。体術や剣術が十分じゃ無い俺は、いとも簡単に追い詰められていく。
 
 敵とはもう目と鼻の先のような距離感。ここで大勢の死ぬ毒ガスを撒けば、自分の仲間に支障を来たしざるを得ない。ガスマスクをつけている俺でさえ倒れかねない。
 
『クリーパーのところがもうちょっとで片付きそうだから、みんなもうちょっとだけ耐えて。絶対死なんで……っ!』
 
 オスマンさんの声が聞こえる。
 ここで足止めさえしておけば、いずれ誰かが助けに来てくれるだろう。クリーパーことゾムがいる方はこの場所から近かったはずだ。終われば助けに来てくれる。
 なんて他人任せにはしていられない。何とかこの状況を打破して、いい所を見せてやりたい。
 
『潜入班、もう少し先にクリーパー達がいる部屋があるんだけど、そこまで行ける?』
 
 潜入班、と言っても俺しかいないのだが丁寧に指示をくれる。しかし敵の攻撃で距離を詰められていく中で、俺はそれをきっぱりと断った。
 
「いいえ……っ!一人でやります、やらせてください!」
 
 目の前の敵を払い除け、敵の間を出来る限りすり抜ける。ちょうどその時、天井にあるダクトの鉄格子のようなものがからりと目の前に落ちてきた。間一髪だと思う間もなく、上から人が降ってきた。
 全身が緑で覆われている一人の青年だった。どうせ敵だろと考え、その青年に切りかかろうと態勢を整えようとした。すると緑はくるりと俺の方に背中を預け、俺の周りにいる兵を気だるげに薙ぎ倒し始めた。
 
「誰ですか……っ」
 
「コッチ カバー 入ッタヨ 。外 ハ ヨロシク ネ」
 
 俺ではない誰かに話しかけているのか、とても和やかな声で話す背中にいる青年は、とても頼もしく見えてしまった。
 またいい所取られるのか……なんて呑気なことを考えていると、オスマンさんの声が再度耳に届いた。
 
『死んだら、許さないからね』
 
「……任せてくださいよ」
 
 緑の青年が加勢してくれたおかげで大分楽になった現状に少し拗ねながら、目の前の敵の肌を裂く。
 ガスマスクをしていても漂う強烈な臭いは未だに慣れない。だからといって軽く咳き込んでいると、一気に間合いを詰めてくる敵がいるから油断ならないし、一瞬隙が出来ていたとしても油断してはいけない。
 それでも堪らず俺が咳き込んでいると、緑の青年が一気にこちらに来て、小声で俺に話しかけた。
 
「ダイジョウブ? 君 ニ 頼ミタイ事 ガ アルンダケド、イイカナ」
 
 緑はそう言うと、俺の懐を指さした。よく見るとその人が使っているのはナイフなどではなく、自分の手と一体化している刃を器用に使っているようで、新鮮でとても興味深い。
 俺が頼みごとの内容をぶっきらぼうに尋ねると、青年はこういった。
 
「君、 ガス ヲ 撒クノガ 上手インダッテネ。チョット ダケ 分ケテ クレナイ ?」
 
 俺は動揺して少しよろける。それを支えてくれた青年は頭の上にはてなマークを浮かべる。
 
 俺はこの組織内で一番の新人だし、まだこの世界に俺の情報は回っていないはず。少なくともトントンからはそう聞いた。だから戦闘能力は低くても、潜入班として駆り出されることも増えた。こうやってゾムさんがやるような、戦う潜入は度々くらいしかないけど。
 それにここに来てから、俺は毒ガスが入った小瓶やその類を一切外に出していない。ずっと二本の中くらいのサイズのナイフを持って、ここで足止めを食らっている。
 だから、メンバー以外の誰かが俺の本当の攻撃手段など、知っているわけが無いのだ。
 
「……あなた、何者なんですか」
 
 俺がそう聞くと、緑の青年は独特な笑いを零しながら言った。
 
「僕ハ 優シイ クリーパー ニ 恩返シ シタイダケ」
 
 
 
 †
 
 
 くんさんくる
 →「止めたのになぁ……まぁいんじゃねぇの」
 →

 
 コネシマ「……ロボロ、どういうつもりや」
 
 
 
 必死だね、無様だね、滑稽だね、マジで笑える。
 
「なぁ、グルさん」
「なんや」
「俺やっぱここがいいわ」
「……当たり前だろ、急にどした?」
「だってなぁ……俺がグルさんに連れてこられた時も思ったんや。それにな、みんなでわちゃわちゃすんの、楽しいねん」
「……あぁ、せやな。俺も楽しいわ」
「やろ。皆グルさんに拾われたり、そのメンバーが拾ってきたりして集まったやん。ここ作ったんはグルさんやし、皆あんたに感謝しとる」
「知ってる」
 俺がそれに対して即答すると、トントンはふっと息を漏らした。
「知ってる、か。グルさんらしいわ。……俺、グルさんについてきててよかったわ」
「……そうか。俺も強いコマがいっぱいあって楽しいゾ」
「……俺が怪我した時、一番気にしてたんはあんたやったやろ」
「……それは知らんな」
 それを聞いたトントンは控えめに笑って、一息つく。
「……俺ら、いつ死ぬか分からんもんなぁ」
「……明日死ぬかもしれんしな」
「おん。やから今言っとくわ。ありがとな、グルッペン。これからもコマとして、大切に使ってくれや」
 トントンがそう言って俺に微笑む。俺もそれにつられて目を細める。
「お、グルッペン泣いてんの」
 唐突な声が振ってきた。見上げるとそこには緑のパーカーを羽織った男がぶら下がっていた。
 ……俺の目に溜まっているのは水であって、塩水ではない。絶対に。
「……何を言ってる。俺は泣くことなどしないが」
「え、なに?グルッペン、照れてんの?」
「はぁ?!」
 ゾムが笑って、トントンの笑い声も響く。それからノックもされずに俺の部屋の扉がガバッと開いて、別の声もどんどん聞こえた。
「え、まじ?レアやん」u
「せっかくやし、写真撮ろーぜ!」s
「カメラ持ってきたぞー」h
「プロかぁ?」k

  • No.3809 by 黒猫  2019-06-30 04:04:09 ID:15f351c75

セイチャットは多分、字数制限じゃなくて改行制限がなされてるんだろうな
バラバラ字数で制限かかってたから多分そうだな
新たな発見よ

  • No.3810 by 黒猫  2019-06-30 21:49:04 ID:15f351c75


 ごみ絵師さん
 しろくま くーちゃん
 すいちょく
 あわ。
 甲毛
 四季彩みかん。 なっちゃん
 鮭マル
 えがきねこ♪
 ?
 ゆあ
 LanmA
 後輩のがみこ がみちゃん
 紅シャケ
 くろ
 セイデンキ
 猫太郎
 凪
 ぐみでぃ
 もこー
 り、らいむ
 シー
 魚籠
 れい
 もへぃ
 白雪もあ
 谺
 出荷された
 弥代玲也
 にことら にこちゃん
 優樹
 とりたま とりちゃん
 ハナマル はなちゃん
 ぽてち ぽてちゃん
 ナノち
 萃
 さばとあいす
 らるむ
 るう
 モト松 もっちゃん
 らまる
 しじ
 阿なんとかばせん
 かたばみ ばみちゃん
 バルサ おーちゃん
 ぴくみんぬし
 うえたぬき
 20海里 かいりちゃん
 おろしポン酢 ぽんちゃん
 秋ねこ
 ネロ ねろちゃん
 豆 おまめちゃん
 りう りうちゃん
 ジェノサイド じぇの
 レノ れのちゃん
 しゃけ
 プライスレス ぷら
 k
 sさん
 kouji中
 あやみのてーま
 さち
 ひきぬこ
 らためくん
 天紙
 akoko あここ
 狂乱怒涛
 ぼたん
 さきいか
 あっとまーく
 ねくと ねくと
 蘭。
 白餡餅
 優月つばさ
 梛
 クロム くろむ
 伊月
 グラニー ぐらちゃん
 リン (ためおけ)
 こしゅう
 舞華
 暁白奈
 せしる
 骨 (ためおけ)
 おうえん さくら
 ろんろん
 空腹
 ちーのくんまてゅくら かのんちゃん
 れいん チッス れいん
 狂人 チッス
 りー チッス
 ゆきち チッス ゆっきー
 なゆと(なっと)
 なりなつ チッス
 むー チッス
 おたまじゃくし チッス
 くろーふぃあ チチチチーーーッッス ふぃあちゃん
 酢しらす チッス しらすちゃん
 ノム チッス のむちゃん
 あゆ チッス
 らでぃかる チチチチーーーッッス らでぃちゃ
 ずんだもち チッス (ためおけ)
 紅 チチチチーーーッッス
 しゃふ チチチチーーーッッス まふちゃん
 ふっぴー チッス
 りら探偵 チッス りら
 せーら チッス せーらちゃん
 ぼたんもち チッス
 まつくらかのん チチチチーーーッッス かのんちゃん
 まめっくす チッス
 輪廻転生 チチチチーーーッッス りんちゃん
 いるみか チッス るかちゃん
 てぃむ チチチチーーーッッス てぃむちゃん
 静 チチチチーーーッッス
 ももみや チチチチーーーッッス
 よる チチチチーーーッッス ?よっちゃん
 実咲(咲、咲、腐) チチチチーーーッッス 咲ちゃん
 白樺 チチチチーーーッッス
 山田ハク蓮 チチチチーーーッッス
 るむる
 すぃか チッス
 な チチチチーーーッッス
 りんね チチチチーーーッッス りんちゃん
 ひとみ チッス (ためおけ)
 志音 チチチチーーーッッス
 もやしぽんず チチチチーーーッッス ぽんちゃん
 まり チチチチーーーッッス まりちゃん
 明音 チッス
 夏語逢 チッス
 あいん チッス
 bloom チチチチーーーッッス
 あずにゃん チッス
 白菜 チッス
 ゴミ絵師さん チッス
 ちか チチチチーーーッッス ちかちゃん
 ねこぶた チッス
 もけ チッス
 ゆかり チチチチーーーッッス
 ? チチチチーーーッッス →病み垢転向
 あびゃ チッス
 まふゆ チチチチーーーッッス まふゆちゃん
 ほしゅ チッス
 憑依 チッス
 カスミソウ チッス
 アイラ チチチチーーーッッス
 ナル チチチチーーーッッス なるちゃん
 るーた チッス
 卵na チチチチーーーッッス たま
 甘酢
 しょうゆ
 浅葱花 チッス
 πの箱庭 チチチチーーーッッス 箱庭ちゃん
 らんちゃん チッス らんちゃん
 華字 チチチチーーーッッス
 わかめまりゅ チチチチーーーッッス わかめちゃん
 きのこ? チッス
 1010 チッス
 まいる チチチチーーーッッス まいるちゃん
 ひなせ チチチチーーーッッス
 さとうのごはん チチチチーーーッッス
 あかね チチチチーーーッッス
 ましか チチチチーーーッッス
 しょこら チチチチーーーッッス
 おじさん動物園 チッス
 ぽんたかぁど チチチチーーーッッス
 月下(腐)
 あーと チッス
 れーちゃん チッス れーちゃん
 オサカナ チチチチーーーッッス おさかなちゃん
 そう チチチチーーーッッス
 あおにび
 しとの チチチチーーーッッス
 かじゃ チチチチーーーッッス かじゃちゃ
 むとい チチチチーーーッッス むとい
 まにゃこ チチチチーーーッッス まにゃちゃん
 菜種 チッス (ためおけ)
 じじ(ぎゃんこ) チチチチーーーッッス
 てんむす チチチチーーーッッス てんちゃん
 エビカニくん チチチチーーーッッス エビカニくん
 ?? チチチチーーーッッス きのこちゃん
 ベア チッス ベアちゃん
 雪宮 チチチチーーーッッス ゆうきちゃん
 黄金虫(鍵垢) チッス(表)
 榊
 こはく チッス
 Sammy チッス
 かなえ チチチチーーーッッス かなちゃん
 ねむ チチチチーーーッッス
 ロロピッ (腐) チッス
 えだまめ チッス
 レイ チッス
 ありぃ チチチチーーーッッス
 りこ チッス
 高坂 チチチチーーーッッス
 悠 チッス
 きるあ チチチチーーーッッス
 サンガツ チチチチーーーッッス さんちゃん
 コノル チッス カッケー人()
 蒼ノ宮 チチチチーーーッッス
 黒猫のアリス
 まぐ チッス
 露木 チッス
 かな先生 チッス (ためおけ)
 姫島
 りくにゃん(鍵垢)
 ep
 目
 あおゆ
 週末のゾンビ
 夜月うどん
 華
 geko チチチチーーーッッス
 夕凪
 きたしろ
 
 

  • No.3811 by 黒猫  2019-07-01 00:17:12 ID:15f351c75


 君が置いていった煙草。
 僕の大嫌いなものなのに、どうして。
 火をつけてしまった。
 君の匂いがしたのさ、君の匂い。
 一口、吸ってしまった。
 でも、やっぱり蒸せた。
  たばこ / コレサワ
 
  ↓
 
 エミさんは仕事の関係で出張に行ってしまった。今日で三泊四日の中の三日目になる。三日間、俺はこの部屋に一人だった。
 明日になったら、エミさんが帰ってくる。そうやって自分を自分で宥めながら、机の上に置き去りにされたエミさんの煙草を眺めていた。
 エミさんはいつも、抱いてくれたあとに煙草を吸いに行く。それから帰ってくるなり俺をもう一回抱き締めてくれる。煙草の匂いは未だ慣れないものの、その時のふわりと包む煙草の匂いはなんとなく許せた。
 そんな場面を思い出しながら物思いに耽ける。少し経って、俺はさっき取りに行ったライターをポケットの中から出した。
 エミさんの煙草が入った箱を持ち上げ、一本外に出す。その一本を持った手とは別の方の手でライターに指を滑らせる。いい音が鳴って、回りが赤く揺らめいたのを確認して、煙草の方に近づけた。
 火がついたのと同時に、俺の期待通りの香りがふわりと香ってくる。三日前にも匂ったあの香りが俺を包む。あんまり好きじゃないあの香り。
 せっかく火をつけたんだし、と煙草を口元に近づけて、すっと軽く吸った。
「! ゲホッ……ゲホッゲホッ……。……うー」
 ……虚しくなった。
 俺は煙草の火を消して席を立ち、ベットに倒れ込んで毛布にくるまった。
 
 
 
 「ねぇひと口、吸ってみたい」
 と、僕のタバコを欲しがったけど、
 「あげないよ」
 君はまた拗ねて、だけどすぐに甘えてきた。
 そういうとこが好きだった。
  恋人失格 / コレサワ
 
  ↓
 
「なぁ、大先生の吸ってみたい」
 シャオちゃんはそう言って、俺に手を差し出した。俺は白い煙を吐きながら、口角を上げる。
「あげんよ」
 俺はそう言って煙草の箱を仕舞う。それを見たシャオちゃんはぷくーっと頬を膨らましてそっぽを向いた。
 それを見ながら、再度煙草を口元に運ぶ。するといきなり後ろから衝撃を受け、思わず情けない声が出る。振り向くと、さっきまでそっぽを向いていたシャオちゃんが抱きついていた。
 俺は煙の出る煙草を左手に持ち替えながら後ろを振り返って、左手でシャオちゃんを支える。
 シャオちゃんはぱっと上を向いたあと、しまっと俺を見つめながら静かに微笑んだ。
 俺はたまらず、煙草臭い自分の口を少し香りの違う煙草を吸ったあとのシャオちゃんの唇に当てる。するとシャオちゃんがすすんで舌を絡めてきたので、俺もそれに応じる。
「んっ……大先生の煙草、結構美味しいやん」
 彼は口付けしたあとの唇をぺろりと舐めながらそう言った。俺はやろ?と言いながらもう一回同じことを繰り返した。それを嫌と言わず、彼は再度欲しがった。
 そういう所も、好きだと思えた。
 
 
 
 
 
 
 
 二人でエミさんちにて酒を飲む場面にて。
 
「エミさぁん……ぎゅー……」
 虚ろな目で私にくっついてくるゾムさんを抱擁して微笑む。そうすると、ゾムさんが私に抱きつきながらも、私の首筋あたりにゾムさんの細い髪の毛が当たってこしょばゆい。……どんだけ可愛いんだこの人は。
 私も負けじともっと強く抱く。なにに負けるのかは私にもわからないが。
「……すきです、ゾムさん……大好き」
 今私の腕の中にいる、たまらなく愛おしい人の頭をゆっくりと撫でながらそう言う。するとゾムさんがとろんとした目でこちらを見つめた。
 私はそんなゾムさんの口を塞いだ。この行為もだいぶ慣れてきた。今まで何もやってこなかったので、歯が当たった時はゾムさんに死ぬほど笑われたのだが。
 口を離すと、ゾムさんは明らかに物足りなさそうな顔をした。
「……何か物足りませんでした?」
「……っへ?」
「私鈍感だから、言ってくれなきゃわかんないんです……ごめんなさいね」
 そう言いながら優しく微笑むと、ゾムさんの顔ががらりと変わった。頬を膨らませて、不貞腐れたような顔。私は驚いて、あからさまにおろおろしだす。
「え、ゾムさん、私なんか変なこと言いました……?」
「……鈍感やなくてどーてーやろ」
 ゾムさんは言葉を紡ごうとした私の唇を塞いで、酸素を奪い取った。ゾムさんの手馴れたキスに、毎回密かに嫉妬していることにこの人は気づいていないんだろうな、なんて呑気なことを考える。
 唇を離して、ゾムさんは大きくため息をついた。私が戸惑っていると、完璧な上目遣いでこちらに棘を刺した。
「……本当に分かってないん。やからどーてーやねんで、ばーーーか」
 ゾムさんはそこまで言って満足したのか、ふらっと立ち上がって私のベッドにダイブした。
 
 ……童貞だから今まで我慢してたんですよ。
 
「えっ、まってえみさッ」
 いつもなら理性で押さえつける勢いを、抑えることもせずに欲のまま手を伸ばす。その手でゾムさんの手を掴んで、それから左右に避けて顔をこちらに向かせる。
「……いいって、ことですよね。童貞なりに頑張りますけど」
「……えーみーる?」
 予想外の出来事に心底驚いているゾムさんは新鮮で、さらに俺の目が怖いのか知らないがうるっとした目をこちらに向けた。
 ……あーやばい、そそる。
「もう、止まらないんで」
 それだけ言うと、彼の服の下に手を滑り込ませた。ぺらりとめくると真っ白い肌が顕になる。
 
 
 
 
 俺なんかいらない
 なにいってるんですか!、!勝手に人の幸せ決めないで貰えます?!

  • No.3812 by 黒猫  2019-07-01 00:17:38 ID:15f351c75

ぐるとんとかのやつは全部pcにとったはずや

  • No.3813 by 黒猫  2019-07-01 00:18:45 ID:15f351c75

選択肢
 
「ねぇ、知っとん?鬱せんせー」
 シャオちゃんが俺の耳元に甘い声で囁く。甘い声があまりにも、いつものシャオちゃんには聞こえなくて少し驚く。
 また反対方向から別の声で囁かれる。
「俺らの気持ち、気づいてるん?」
 シャオちゃんとは違い、いつもより低くしっかりとした声を出すロボロ。
 ……俺も鈍感ではない。必要以上にこちらを誘ってくるこの二人にはあっけにとられていた。特にエミさんとゾムの件があったあとからは今まで以上に。
 そして、今に至る。
 俺はエーミール宅の書室の少し大きな椅子に座らされ、右にはロボロ、左にはシャオちゃん、と言う具合に挟まれている。そして手には手錠。
 今エーミールの家に呑みに来ていた。家には俺たち三人以外にもゾムやトントン、コネシマだっている。これがバレたらやばいのでは。
 最初ここに座ってーと言われたときは、次はなんの遊びをするんだなんて思っていたが、今回は本気らしい。それはそれで困る。
 俺は二人の機嫌を損ねないように、なるべく早く返答しようと小さく息を吸い込む。
「……知っとーし気づいとるわ。あのさぁ、逆に聞くけど何で俺なん?つか俺の性別わかって……」
「俺はね!」「俺は」
 俺が問いかけ、次の言葉を言おうとした瞬間、二人が同時に口を開く。つまりは二人で被ったってこと。それをきっかけに二人は互いに睨み始める。
 ……埒があかない。こいつらは何歳だ。
 そう感じ、俺がじゃんけんで勝った方からねと提案すると、珍しく二人は素直に頷いてじゃんけんし始める。いつもこうだといいんだが。
 じゃんけんの結果はシャオちゃんがパーでロボロがグーのシャオロンの勝ち。それが分かった瞬間、キラキラと目を光らせてシャオちゃんが話し始める。
「よっしゃあ!俺はね、大せんせ!……」
 そんな意気揚々と語り始めるシャオちゃんと少しむっとした顔のロボロを交互にじっと見る。よく見ると酒をいつもより飲んでいるのだろうか、二人とも頬が真っ赤に染まっているようだった。
 自慢げに俺のことを話しているシャオちゃんをロボロは少し悔しそうにじっと見つめていて、それに気付いたシャオロンはさらに口角を上げて挑発する。それに気付いたロボロはついにそっぽを向いた。
 ……かわええな、こいつら。
「……で!……うーん、話し足りないけど終わらすね、ホビットがかわいそーーーっ、だから」
 そう言って煽ったシャオロンに、いつもは乗せられないロボロははぁーっとため息をついて盛大にその煽りに乗っかった。
「こっっれだからポメラニアンは……やから不人気妖怪になってまうんやろ?」
 にっこりと笑ったロボロはスイッチが入っているようで、シャオロンの頬をぷくりと膨らませた。しかし脹らませただけで何も言い返さない様子からいくと、よほど機嫌がいいらしい。
「じゃあ、次は俺な。だいせんせ、俺は……」
 ロボロは俺へ視線を固定させたまま、シャオロンと同じように狂気じみた言葉を淡々と吐いていく。俺はそれを黙って聞いていた。内容は頭にちっとも入ってこなかったが。
「……まぁとりあえずはこんな感じや。あ、まだまだいっぱいあるで?でもそこのポメラニアンがうるさいからなぁ……」
 ポメラニアンと言われた彼はこの狂気じみた空間に入った時から、目元がとろんと蕩けていて、忠犬のように俺に好意を寄せてくる。まぁ単純に言うと行動がうるさい。 
 そんなシャオロンはロボロの煽りにも動じず、俺に向けて次を催促した。
「で……!どうすんの?大せんせ」
 正直に言う。俺は迷っている。
 まぁ自分で言うのもあれだが、俺は浮気性でると言えるだろう。俺は同時に二人三人、それ以上の人間を愛すことが出来る。
 俺だって本能に従順な男であるし、見た目も中身も大して悪くないこの男二人にこんだけ誘われたらその気になるし、かわいくも思えてくる。これに至っては自分が異常なだけかもしれないが。
「……分かった、考えとくわ」
 詰まったような声でそう言うと、二人は顔を見合わせにこりと微笑む。そしてこちらを向いた。
「どっちか一人やからな?」
「二人はだめだかんね!」
 笑顔でそう言う二人は過去の怖い女を思い出させるようで、少し恐ろしかった。
 
 ??
 
 肺に入る不純物が気持ちいい。ふーっと吐くと煙が自分に纏っていくようで、この感覚がとても好きだ。
 今日はトントンの家で生放送会議兼撮影会。今からみんなでこれからのことを生放送しながら会議した後、実写でカードかなにかで遊ぶ予定だ。んで俺はその前に一服、といったところ。
 トントン宅のベランダで一息ついて、部屋の中の騒がしい会話をBGMに柵から身を乗り出す。
 今日の撮影会にはトントン、エミさん、コネシマ、しょっぴくん、珍しくグルッペン、そしてロボロとシャオロン。トントンは自分の家だから何かと忙しいはず。そしてエミさんはゾムもいないからそれを手伝っているだろうし、先輩後輩、それに加えグルッペンは適当に暇を潰してるだろう。そうなってくると必然的に三人になってしまうわけで。
 これからのことに頭を悩ませる。あの二人が変なことを仕掛けてこないだろうか。他の奴らにこのことがバレないだろうか。……まぁ別にバレてもいいんだけど。特にエミさんになら。
 そんなことを考えていると、突然後ろから窓を開けた音が聞こえた。振り返ると、そこには口に煙草を咥えたシャオロンがいた。そして一言。
「火、ちょーだい」
 こいつはたまにこう言って、煙草を咥えたまま俺に差し出す。まるでキスの代わりのように、俺は自分だけのだと言わんばかりに。
 この前、これでシャオロンの煙草にライターで火を灯そうとしたら逆ギレされたので、咥えている煙草をシャオロンの方へ近付ける。
 じゅっ、と音がしてシャオロンの煙草に少し火がつく。次第に広がり、煙が出てくる。俺とはまた違った匂いの煙草。
 シャオロンはふーっ、と一回吹ききると、ベランダの柵にもたれ掛かり、こちらを向いて「ありがと」と言って微笑んだ。……正直に言うが無性に可愛く感じられた。
 それからシャオロンの煙草が燃え尽きる頃、部屋の中で号令がかかった。シャオロンは俺の灰皿入れを勝手に使って、元気よく部屋の中へ入っていった。
 そしてすぐさまロボロの隣へ座ってドヤ顔しているのが見える。子供かほんま……。
 そんな様子を少し遠くから見ていると、シャオロンが急にコネシマの方へ吸い寄せられた。
「シャオローン!ロボロとなに言い合いよるん、俺とも遊ぼーや!ええやろ?」
 コネシマはそんなことを言いながらシャオロンを自分の横に座らせた。まるでしょっぴくんとひとつ、距離を置くかのように。
 しょっぴくんはそれに対して、不服そうな顔をしながらシャオロンの横に座った。そして俺はその隣に座る。しょっぴくんと反対側にはロボロ。
「……ふふっ、シャオロンざまぁ」
 おいおい聞こえてるぞロボロくん。相変わらず心がないな。
 それから生放送が始まった。
 みんないつも通りわいわいして、スカイプでゾムとマンちゃんも参加して生放送が始まった_____。
 
 ??
 
 
だいせんせ女にふられる
 →エミさんを誘うもゾム関係で断られて思わずやけざけ
 →ロボロ登場
 →一緒飲む(シャオロンがタバコのキスのことをめっちゃ自慢してくる話みたいな)(振られたこと話したらちょっとヤキモチ妬かれた)
 →なんかされると思ったんに、あいつ何もしてこーへんったな、、なんて、何思っとるんや自分。これが普通やろ。吐く。
 
 
 ??
 
 選択を迫られたあの日から二週間程が経った。
 二人のアピールは凄いものの、特になんにもない日々を過ごしていて、今日は仕事も休み。まぁ暇だからデレステを開く。と同時に通知が仕事をした。
『だいせんせ』
『今からそっち行く』
『ロボロと一緒』
 そんなLINEメッセージがシャオロンから、ぽんぽんぽんとリズミカルに送られてきた。
 ……今から?
 俺は俺の部屋を見渡す。まずPC周りには種類豊富なゴミの数々、机の上には一人で飲んだあとの空っぽ缶が数個、床には洗ったあとすぐにしまわない為に散乱する俺の服、キッチンには確か食べかけのカレーが残っていたはず、それから掃除なんてする暇もないので所々に細かいゴミや髪の毛が落ちている。
 ……例え今おかしいあの二人だとしても、これに関してはうるさく言ってきそうだと察知し、まずはゴミを捨て始める。大体集めたあと、服を自分のクローゼットがある部屋に全て投げ入れる。それから簡単に掃除機をかけて完成。少なくともリビングだけは綺麗になった。キッチンにあったカレーにはラップをかけて冷蔵庫に入ってもらった。
 
 
 
「なぁ、どっち?」
 俺は黙る。どっちかって、決められない。
 いつもそうだ。中途半端なことをして、結局みんな離れていく。
 そんなことを考えながら何も答えず俯く。
 しばらくしてふわりと、なにかに包まれた。ふわっと香ってきたのはシャオちゃんの匂い。加えて後ろからも温かいもので包まれる。こちらもふわっと香ってくるロボロの匂い。
「じゃあもう、選ばんくてええよ」
「……えっ……?」
「大先生やから、二人同時にだって愛せるやろ」
「……えーっと?」
「なぁーシャオロン、やっちゃう?」
「やっちゃお!」
 それを合図に二人は俺をベットに投げた。二人は俺の上に乗って身動きが取れない状況にして抑え込む。
「ちょちょちょちょっとまって、なにしとん?!」
「なにって……なぁ?わかるやろ?」
「わからへんって、んっ」
 ロボロがそう言いながら俺のズボンを脱がすと、シャオロンは俺の唇を塞いだ。
 それから顕になった俺のをどちらかの手が触れた。
「うはぁ……もう固いやんだいせんせ」
 声的に触ったのはシャオロンだったらしい。
「ちょっとまってほんまに、んっ」
 次は冷たい液体が股の方に当たって、体がビクリと跳ねる。それが何か分からないまま、ロボロが俺の耳元に来て囁く。
「……力抜いて大先生」
「はぁ?!まって、なにすんのねぇ、うあっ……!」
 あぁ尻の方に違和感。あれか、男同士でする時はここにいれるとか聞いたことあるな、なんて呑気なこと考えてられない。
「ロボロっ、やめてーやっ……んっ」
「ねぇ大せんせ、俺も見て?」
 シャオロンが唇を塞ぐ。シャオロンのキスは嫌に上手くて、蕩けそうになって。下の方はロボロが問答無用で指をいれていて気持ち悪い。
 必死に抵抗するも、全然かなわない。まぁそりゃそうだ、グループ1運動ができる男とグループ1筋肉質な男に囲まれてる中、グループ1の無能が抵抗できるわけない。
 悔しがりながらも必死にもがいていると、途端にびくりと身体が震えた。……嫌な予感がする。
「……ここ?」
 ロボロがにやぁとしながら俺に問う。……やっぱそういうことだったみたいだ。
「違うっ、まって、違うからぁ……!はっ、んんっ!」
 嫌な声が響く。やだやだ。
 シャオロンがこっちを覗き込んでにこにこ笑って言う。
「気持ちいんだだいせんせ。声、もっと聞かせて?」
「しゃお、ちゃ、んっ」
「んふふかわいっ!」
 あたまがふわふわする。しらない。俺は、こんなの知らない。
「知ってる?だいせんせ。俺もロボロにしてもらってん。やから、だいせんせの、はいるよ」
 もうわからない。何言ってるかわからない。知らない。俺は何も知らない。
「やだっ、ねぇやぁてばっ!」
 どんどん声が変わっていく。自分でもわかる。でもなんでなのかはわからない。わかりたくない。
「自分じゃ嫌なんだもんね、シャオロンは。んーもう三本入ったし、いいかな」
「うん、俺も早くしたいー」
「俺からさせてーや。シャオロンは自分の穴いじっとけば」
「えぇ……。わかったぁ」
 しらないしらないしらない。
「やだやだねぇ二人ともってば、ぁっ、ひっ」
 まぁた冷たいものが俺のふともも辺りを伝う。今ならわかる、……いつも俺が使ってるやつ。
「んふ、どしたん大先生。力抜いてーや、痛いで」
「そーで!ロボロのめっちゃでかいんやから、しらんけどーっと。はよしてやロボロ、俺はよ処女捧げたい」
「はいはい、大先生が痛いの見るの嫌やろ?」
「それは、たーだーしー!」
「やかましいわ」
 そんな会話をしながら、ロボロは俺の前立腺を刺激していて。だから声を抑えるのに必死で身体がどうしようもなく震えて、徐々に自然と身体の力が抜けていく。
 ……やばい、いれられる。
「ろぼろっ、やめてってほんまにっ、ひあっ」
「とか言いながら力抜けてきてるやん。まずまず大先生が悪いんやで?」
「へ……っ?」
「大先生が選ばんから。俺か、シャオロンか、それとも女か」
「……あっ」
 女。やばい。俺としたことが。女という選択肢を真っ先に捨てていたなんて、言えない。
 
 
 
 モテ期。みなさんも一度は来たことがあるだろうか。俺は二回程、本当にモテた時期がある。そんな中、言い寄ってくる人達全員と体の関係やら恋人やらの関係になった時、一番初めに付き合った子が言った。
「はぁ?!浮気?!!さいってい!!!」
 そうやって初めて相手に浮気がバレた後、速攻相手から別れようと言われた。浮気はダメなことなんだと実感した瞬間だった。
 しかし、俺がおかしいのだろうか。なぜ別れる必要があるのかが全くわからなかった。
 一般常識的には、浮気というものはダメなことは知っている。でも本当に俺に対して感情があるのなら、許してくれるはずだろ?そんな小さな盲信が徐々に肥大化していった。
 俺はまるで彼女に対して試練を与えるかのように、モテ期を存分に使い果たした。作っては離れ作っては離れを繰り返していた。
 でも俺はそんな中でもちゃんと皆を愛していたし、ちゃんと好きでいられたはずなのだ。
 俺は「一度に二人以上の人間を愛せる」。だからこそ、一人では嫌だったのだ。結局みんな離れていくんだから。
 端的に言えば飽きた。もっと言えば疲れた。
 そんなクズみたいな生活を送り続けて、最後は男ふたりに攻められることに終着するとは思ってもなかった。
 
 

  • No.3814 by 黒猫  2019-07-01 00:20:07 ID:15f351c75

あーーーあーーーー。

  • No.3815 by 黒猫  2019-07-01 00:20:40 ID:15f351c75

なんでもない、なんでもないよーーー

  • No.3816 by 黒猫  2019-07-01 00:23:12 ID:15f351c75

やからどーてーやねんで

  • No.3817 by 黒猫  2019-07-01 00:23:44 ID:15f351c75

……………ん、気のせいか
気のせい気のせい………のはず……………

  • No.3818 by 黒猫  2019-07-01 00:39:14 ID:15f351c75



● 目次

Ⅰ 目次 あてんしょん
Ⅱ 設定に関して
Ⅲ ~ 本編


 
● あてんしょん。
 
・某実況者集団を元にしたキャラクターによる二次創作です。現実の一切と無関係です。誹謗中傷や晒し、御本人方に迷惑になる行為は絶対にお辞め下さい。お願いします。
 
・元々本人達にあるキャラ設定に自作設定を混ぜた捏造軍パロです。
 
・グロ表現や読み手が不快になる表現があると思われます。許してくださる方のみこの先にお進み下さい。
 
なんでも大丈夫な方のみの閲覧をお願いします。
 
それではどうぞ。






[newpage]

[chapter:設定]

設定が長くなりましたので、気になる方はこちらへどうぞ。m(_ _)m

[[jumpuri:設定詰>https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11286435]]

 
 それでは本編へ→



[newpage]

 
  
 人殺しは悪だと人は言う。何をしてもいいと貴方は言う。
 自分が一番だと人は言う。仲間を守れと貴方は言う。
 全ては正しいと人は言う。全てを疑えと貴方は言う。
 人を信じろと人は言う。俺だけを信じろと貴方は言う。
 ならば俺は自由に生きる。
 ならば俺は仲間を守ることを優先する。
 ならば俺は時にその仲間だってを疑う。
 ならば、俺は貴方だけを信じ続ける。
 
 俺が暴走したあの日、今日も俺をこの暗い底から引っ張ってくれる人はいなかった、はずだった。
 
「おい、ゾムと言ったか」
 
 いつも暴走している間は記憶が無いものの、これだけは覚えている。多分一生忘れられない。
 
「瓦となって全からんより玉となって砕けよ」
 
 意味のわからないことを言われて腹が立った、のかは覚えていないが、持っていたナイフをそちらに向けて俺は走った。勢いよく突進するも軽くかわされる。
 それからその男はこう言った。
 
「……殺されるぞお前。こっちに来い、青年。死なない技術は俺の仲間が教えてくれるさ、意味の無い死を遂げるくらいなら俺のために**」
 
 その言葉が俺の救いだった。
 貴方が貴方でいてくれるから、貴方が俺に手を差し伸べたあの日から、貴方にこの身を捧げると決めたんだ。
 俺は貴方を、貴方の仲間を選んだのだ。俺は、自分の意思で選んだのだ。それを簡単にねじ曲げるつもりは、ない。
 
「なに暗い顔しとんの、グルッペン。何話したん?」
 
「ん……特に何も話してないぞ。まぁ言うなれば……悪法もまた法である、そう言うだろ?」
 
 いつの日か、お偉いさんの会合からお説経垂らされて帰ってきた貴方は、また難しいことを言いながら、悲しく笑って目線を下に向けた。
 俺はそんな貴方はもう見たくなかった。いつもみたいに貴方らしく、楽しく笑って欲しかった。
 
 もう外は暗い。月も光っている。大先生とオスマン側が会議をして役割分担をしてから、もう五日が経った。
 
 そんな中外出許可を得て一人、再度大先生の連絡が入るまでと、現拠点の近くの木が生い茂ったところをうろうろしていた。
 ぼーっとしているだけだったのに過去の記憶がぶわっと蘇ってきて、同時に人に見下されるようなあの目を思い出した。無性にいらいらして、そこら辺にある適当な木にもたれ掛かる。
 
 我に返ると、一帯の木の幹に切り傷が何個も入っていた。……軽く暴走してしまったようだ。
 最近はこんなことが続いていて、自分でもいつ爆発するかわからないから怖い部分がある。が、大先生とオスマンには言わないでおこうと胸に秘め、現拠点へと足を動かし始める。
 
 二人によると、あちら側の侵攻作戦は明日行われるらしい。まぁ作戦会議から一週間弱で侵攻、という行動に移るのならまぁ早い方だろう。
 ちなみにそのことをここのボスのような六人に伝えてみたが、大丈夫でしょと余裕をぶっこいていた。俺の仲間を舐めるんじゃないぞ、なんて言ったら速攻殺されるので、その時はにこにこして黙っていた。
 
 自分の拠点がちらと見えてきた時、自分がつけているピアスから小さく声が聞こえた。
 
『やっほー。話せる?』
 
 その声を聞いてくるりと方向転換、それから木陰に隠れる。
 自分の部屋で話すのもいいが、一番はこうやって何もないであろうところで話すのが一番安心する。どうも拠点内だと大っぴらに話しずらくてストレスが溜まる。
 
「おん、ええよ。そっちはどう?明日やろ?」
 
『うん。やから皆はよ寝てしまったわ。子供かってほんと……』
 
 呆れながらも、みんなが早々に自分の部屋に戻っていく様子を見ていたであろうオスマンはふふっと笑った。大先生はそれに同調しながら静かに笑った。
 俺はええなぁ、なんて言いながらみんなの話を催促する。
 
『せやなぁ……今日も天の声がポメラニアンと近接戦やってたかなぁ。結構天の声も勘を取り戻したみたいやったけど、腕痛なってきて戦えへんってチワワが拗ねてたわ」
 
『俺は今日、教授に持っていく分のクッキー作ったら新人くんに見つかってしまってさぁ。俺、もう一回作り直す羽目になってんよ。んでもう一回作ったと思ったら、今度は新人くんが後輩くんと総統を連れてきてな……』
 
 聞いてるだけで想像ができるみんなの日常を聞きながら笑って、つっこんで、俺もそこにいたかったなぁ、なんて呟いた。
 すると大先生とオスマンは一旦黙ったあと、改めてこう言った。
 
『でもな、みんな何かが足りん、って口揃えて言うんやで』
 
『邪魔してくれるあいつがいないと寂しいんや、って』
 
 俺は無性に寂しくなって静かに頬を濡らした。
 バレないように鼻をすすって、また明日と言ってから木陰を後にした。
 それから拠点内に戻って風呂を済ませて、自分の部屋に入る。はーっと大きく息をついてベッドに倒れ込んだ。
 
 次に目が覚めると、小鳥の声が耳に入ってきた。窓に目をやると、外はもう明るかった。
 はっと気付いて時計に視線を動かす。あいつらが攻めてくるのは十二時ぴったりと言っていたはず。秒針の短い針は十の位置を指していたことに安心し、ご飯を食べに行こうと部屋を出る。
 
「おはよ、ゾムさん。よく眠れた?」
 
 扉を開けると待ち伏せされていたかのようなタイミングで、ここのボスの一人である水色が話しかけてきた。俺は驚きながらも少し頭を下げ、肯定の意を示した。
 
「そっかそっか、ならよかった。今日は忙しくなりそうだから準備、よろしくね」
 
「えっ」
 
 水色はにっこりと笑いながら、またねと言ってこの場を去った。俺はその場に立ちつくす。
 
 ………バレた?
 
 一旦深呼吸をして食堂に向かう。ここには俺らと違って、幹部以外に兵がいるので食堂という場所へ向かうのは毎回新鮮だ。出てくるものもまぁ美味しい。大先生やトントンのには到底かなわないが。
 少し仲良くなった五人の兵と、いつも通り朝ごはんを食べながらもんもんと考える。
 
「どしたんすかゾムさん。なんか悩み事ですか?」

「イツモハ朝カラ、ガツガツ食ベルクセニ」
 
「らしくないですよー、っておい豚が豚食べてるんじゃないよ」

「うるせぇ、お前はゾムさんの心配してるんやなかったんか」
 
「じゃあその豚は俺が貰うわー!」
 
 ぎゃあぎゃあ言いながら話すこの五人は、あの面々を思い出させるようで聞いていて楽しい。俺はふっと息を零すと、青い服に赤いマフラーが特徴的な男がそれを見て笑った。
 
「やっぱゾムさんは笑ってる方がいいっすよ」
 
「……そ、か。せやな!俺はやっぱ俺のままでおらんとな!」
 
 俺はそう言いながら五人に対して、にかっと笑う。五人はそれを見て安心そうに微笑んだ。
 
 トントンをこっち側に戻すためにグルッペンとオスマンとともに潜入したあの組織内で、トントンもこうやって話が出来る部下がいたのだろう。特に最後に会ったあの黒髪の青年は、トントンがあの量の兵と一人の幹部を任せられるくらいに信頼していたことは確かだ。
 
 今一緒に朝ごはんを食べるこの五人は、俺の部下に配属されて、こっちに来てあんまり経っていないのに任務を任せられる毎日で疲れていた俺とともに任務に付き合ってくれていた、数少ない頼れる人達だ。
 別の組織から浮気してこっちに乗り換えたっていう変なご身分な俺に、普通に接してくれたり助けてくれたりしてくれる。俺の方から裏切るので別に裏切られてもなんのダメージはないと思っているものの、なんにも頼るものがないこの場所で異常に頼っていることは事実で。
 
「今日モ任務アルノ?」
 
 全身ほぼ緑の服を着た青年が首を傾げる。昨日、木の枝で引っかかったという手の傷が生々しい。
 俺自身もまだ何も聞いていないのでわからない。が、今日が忙しくなるということだけは確かである。
 
「……今日、俺は君らの傍にいられへんのや。この前一緒に任務したあの男の人に話通しとくから、今日はそっちにくっついといてくれるか」
 
 俺がご飯を平らげてそう言うと、五人は素直に頷いた。
 ちなみにこの前一緒に任務をした人というのは黒いサングラスが特徴的な男の人で、部下も沢山いるし俺にもよくしてくれるのである程度は安心して任せられる。
 
 三十分ほど雑談をして、終わりにありがとうまた夜に、なんて言いながら俺は席を立つ。五人は笑顔でそれを見送った。
 ……もうこの六人で過ごす夜などないことは重々承知である。
 
 少し向こうに座っている例のサングラスの人に、五人を任せる内容を伝えると快諾してくれた。それから俺は食堂をあとにした。

(あとがき省略 / 読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m
次の更新日は未定でありますが、そちらも見ていただけたら幸いです……)

  • No.3819 by 黒猫  2019-07-01 00:40:08 ID:15f351c75

かじなるなってどゆ意味なん

  • No.3820 by 黒猫  2019-07-01 00:53:17 ID:15f351c75

夏休みなんてだいっきらいだ
なつなんかだいっきらいだ
来なくていい
汗でベッタリとした肌なんてきらいだ
なつなんかきらいだ
きらい、きらい

  • No.3821 by 黒猫  2019-07-01 00:54:23 ID:15f351c75

夏休みなんて来なけりゃいいのに
もう冬がずっと、つづけばいいのに
春休みは幸せなのになんで夏休みで世界が変わるんだろう
夏休みなんてきらいだ

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