黒猫 悠華 2016-07-27 20:46:22 |
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「君は今、なんの"言い訳"を作ったかい?」
俺の手をつかんだのはいつの間にかここに来ていた主だった。
面白そうな顔をしていた。すごくむかついた。
「···何の、こと、ですか」
「いやいや、警戒しないでよー。せっかく僕が出してあげたのに。せっかく僕が見て見ぬふりをしてたのに。···せっかく、僕が時間をあげたのに」
そう主が言い終わった瞬間、向こうに行ったとはいえ部屋のなかにはかろうじていたユウキの姿が消滅する。俺の大事な人が、再度消えた。なんだろうか。胸の奥が、声にならない叫びをあげているようだった。それはまるで、小さな子供が母親を目の前でなくしたときのような、小さな子供が子供なりに自分の気持ちをバカな大人に必死に伝えるような、そんな、悲しい、叫び。
「···だから···だから?俺には時間なんてカンケー、ねぇ。人を殺せば食っていけるんだから」
「はいはい、分かったから質問に答えてよ。時間なんてカンケーない人が、どうして、あんな女の子と日々を過ごしたか。そして、なぜ今、手を女の子の方へ伸ばしたのか」
「それは···っ!!」
俺は言葉を失う。俺は、なにもいえなくなった。
「じゃあ、もう一回聞くよ···。今度はちゃんと答えてね。君は今、なんの"言い訳"を作ったかい?君は今、どうして手を伸ばしたんだい?君は今、どうして···そんな悲しい顔をしているんだい?」
「ぁ、あ···」
···俺の頬を涙が伝う。あーぁ。また、泣いてしまった。あいつがいなくなってから毎日毎日、ふとんにはいると溢れてくるあの涙と同じもの。心の中にある何かが、少しだけ切れたときに溢れてくるあの涙と同じもの。止めようとしても、止めることのできない厄介なもの。
主が俺の涙を拭う。
人の体温が恋しい。俺が、ましてや殺人鬼がこんなこと、思っちゃいけないのに。
「あーぁ。君の折角の美しい顔が、台無しだ···。あの女のどこがよかったんだか···」
「···あいつのこと、知らねぇくせに」
俺もそんなに詳しくはないけども。絶対こいつよりは知っている。自信がある。
「ごめんごめん。じゃあ、君に依頼だ」
主は俺を楽しそうに眺め、こういった。
「君は今から自由に生きなさい。そして、さっきの答えを探してくるんだ。僕が満足する答えを君が言うまで君は僕のおもちゃだから、逃げられるなんてことは思わないようにね。それと···その間は絶対、人を殺しちゃダメだよ。いい?わかったなら僕に君の血を少しだけでいいからくれるかな?」
自由。
今まで、自由になんてなったことがなかった殺人鬼に、その依頼は苦というものだ。
俺は自由の使い方を知らない。そもそも、殺人鬼の俺はこの地球上に生きている限り、自由にはなれないのだ。
「···なんで、そんなこと」
「僕の趣味は人間観察だからね。そんな僕は君に興味を持ったんだよ。つまり今、君がこれを受け入れたら、だけど、僕は君に"生きる意味"を再度与えたんだ。人を殺す、じゃない別の"生きる意味"をね。さぁどうする?受け入···わお」
俺はおもむろにナイフを取りだし、手首をザクッと切った。
血が溢れ出す。自然と涙はとまった。
「うん。そのくらいでいいよ、ありがとう」
主は俺の血を飲んだ。すると、俺の手首から一瞬、ぽぅと光が灯った。
「さあ、僕の世界にご案内だよ···」
俺は唐突な光に目を眩ました。目をつぶった次の瞬間、俺は白い空間にいた。
「···ここは、なんですか」
呆然としながらも俺は主に問うた。
「ここは僕が作った世界」
「···主さまは天使かなんかだったんですか。世界の創始者?」
「君、そういう知識はちゃんと持ってるんだね。まぁそんな大きい存在じゃないんだけどね。···じゃあ、これは知っているかい?夢、っていうのは叶い続けていればいつかは叶うものらしいよ。僕は叶うのが早かっただけ。あーそれか僕の前世のときから叶い続けてたのかな。まぁそんな感じ。ちなみに血をもらえばもらった分だけ、僕はその人の望むものを出すことができる。ほら、最初に君から血を貰ったでしょ?あれであの女の子をだしてたわけ。生きていても、死んでいても、その人の意識みたいなものはこっちにきてるみたいなんだよね。生きてる人の場合はこっちで体験をしたことが全部、寝ているときの夢に反映されるっぽい。出し入れは僕の自由」
···なに言っているのかよくわからなかったが、まぁ慣れたら分かるだろう。
ユウキの意識は、俺といて、冷たくあしらわれて、どんな思いをしたのだろうか。俺は、どんな思いをさせてしまっただろうか。
もう一度会いたい。
もう一度会って、ちゃんと話をして、謝りたい。
せっかくこんな変な主のもとにいるのだから、俺もバカ正直に従ってみようではないか。
「···お願いだ」
多分こいつは、全部分かってる。
「ふふっ、なんだい?」
「俺とユウキだけの世界を作ってくれ」
もるくん大好き
あーもう疑心暗鬼で殺されたし
そのあと
回りながら何回も死んだ
ジングルベルのもるくんかわいすぎでしょ
むねしゃんもやけどー
あーもう死ぬ
「君と、女の子だけの世界、かい?」
主はおもしろそうに首をかしげる。
「…もういっかい、あいつと、話がしたい。だから」
「…うん、まぁいいや。それでちゃんと依頼をしてくれるのなら」
主が手を上に上げる。光が放たれ、目が眩む。
主はいつの間にか消えていた。
多分ここは、主が作ってくれた俺だけの世界。…ありがたく、使わせてもらおうじゃないか。
「……ユウキ、お願いだ。お前が、いいのなら、ここに、俺の前に、もう一度」
目を、静かに閉じる。視界は真っ暗。何も、見えることはない。ただ、感じることはできる。
少しして、気配をかんじた。
こんなときに限って、俺は弱くなる。会いたく、なくなる。
何て言われるだろうか。嫌われるだろうか。嫌われただろうか。それとも、この気配はあいつじゃなくてzあいつはもう、ここに来てくれないんじゃないのか。
怖い。なんて弱虫なのだろうか。
「···ユウ、キ···」
何回も、なん十回も、もしかしたら何百回も同じことを繰り返している気がする。
もう、なんも、しんじられなくなってきた。
目を開けるのが怖い。いるなら返事でしてほしい、なんていうのはワガママすぎるか。
もし、目を開けても、ユウキがいなかったら。それは、ユウキが俺を拒否したのと同じなんじゃないのか。
もし、目を開けても、ユウキがいなかったら。それは、俺がただ、ユウキを拒んでいるのと同じなんじゃないのか。
何回も、何回も、何回も、何回も。-(マイナス)なことを考えては打ち消す。考えては打ち消す。それ繰り返し。キリがないことは自覚してる。でも、考えずにはいられない。
「···ユ···」
「さっさと目、開けてよ」
「!!?」
突然の、女の声。俺がよく知ってる···一番会いたかった人の声。
ゆっくりと、まぶたを上に。目を、開ける。
ちょうど、目の前に、ユウキと思われる存在がそこにいた。
「ユ、ウキ···?」
「うん、ユウキだよ」
「ほ、ほんとーに?!ほんとにユウキなのか!?」
「そうだよ。さっき軽くるあーに振られたユウキだよ」
「っ···。ごめん、なさい」
俺が謝ると、ユウキは微笑む。
何度も思った。これからも、何度も何度でも思うだろう。こいつは、俺なんかといて、いいのか、と。
こいつは、普通の人と同じ生活が、出来たかもしれないのに。俺があんな父親から少し遠ざけたら自力で生きていけるような強い人間だ。
それを引き留めたのは、俺だ。それを台無しにしたのは、俺だ。ユウキを、この手で、殺した俺は、殺したあともこいつといていいのか。ここで、少女と殺人鬼が、一緒に笑いあっていいのか。
答えは、NOだ。
「ふふ、まぁいいよ。もう一回いう、ね」
「いわなくていい。いわなくていいから」
「えっ?」
ユウキは困った顔をした。俺には、こいつの考えていることがわからない。
···分かるわけ、ない。自分が殺した、相手の気持ちなんて。
俺は俯きながら言葉を吐き出す。
「···お前は、なんで、俺と、俺なんかと、一緒に、いるんだよ···っ」
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