黒猫 悠華 2016-07-27 20:46:22 |
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嘘をつく時、何を考えるか。
メリットやデメリットを考えるのは当然だとして、私はバレた時のことを考えるね。
まぁそりゃさ、どうやってバレないようにするかとかバレなかった時の結末とバレた時の結末とか
いろんなものも考えるけど、結末ではなくて本当にバレた時のことを考える
バレた時、この人は私にどう思うのだろうって
この人の私への好感度はいいはずだからバレてもストレートでダメージは喰らわないかなって
バレた時怖いからこの人にすりよろって
バレても大丈夫なように、ではなくてバレたら結果的にこうなるかもしれないって。
結末と結果は違うっていう認識上での話だけどね。
まぁ愛想笑いするときにそんなこといちいち考えてられないけどさ。
あとあれだね。
嘘ついたらその内容を忘れないようには心がけるよね。たまに忘れてて、あそうだったけってなるけど。
あーのさ。
好きでもない相手に好きって言うとするじゃん?
それはねぇ、嘘じゃないと思うんだよ。
それは嘘じゃなくて攻撃、かな。
その場で付けた、全体が鋭くひかる刃で相手を傷つけて、それで自分も傷ついて。
それを嘘だと言っちゃいけないと思うんだ。
まぁ私は嘘つきとして生きていくし
からかいのような形で好きだなんて言ったこと、ないしね
ちょっとまておま、、
らっだへいちょ?ぴくとにい?
なんだよお前可愛すぎかよ!!!!!!!
うせやろ???!!!!!!
かわいすぎんか???!!!!!
なんやねんそれは…………
実況見るのが楽しみやろ…………???
今日は寝れねぇなぁあああ??!!!!!
幸せとは
手を伸ばす。
俺とはまた違う、大きな背中がまた一歩遠くへ行く。
あぁ、あなたはどうしていつも先をいってしまうのだろうか。どうしていつも、俺を待ってくれないのか。足早に去っていかないで、ここにいてくれればいいのに。何度そう思ったことか。
『編集出来ましたぜー』
あの人に動画と一緒にそう送ると、数分後に既読がついて返ってくる。
『おう、ご苦労さん。あんま無理すんなよ』
そんな少しの会話も俺には小さなご褒美で。編集やった甲斐があったなぁなんて思ってしまう。
俺はスマホを放り投げてベッドで仰向けになった。
◆
今日は俺の家で予定のない人だけが集まって、生放送の一環としてどんなゲームをするか、マイクラ人狼の方針などを決める会議を開くことになった。
集まったのは鬱先生、ロボロ、シャオロン、コネシマ、しょっぴくん、エーミール、そしてグルッペンだ。
大先生が行くと言ったら自然とロボロとシャオロンは来たし、しょっぴくんはコネシマが誘ったら来た。エミさんはゾムがいないから来ないかななんて思っていたら、差し入れまで持ってこちらに来た。なんだ暇なのか。
そして問題のグルッペン。この会議を開くと決めた当初は行けないと言っていたはずなのだが、都合がついたといって今日緊急参戦した。来ると予想してなくて、俺の心臓は鳴り止まない。俺も人に興味あったんだなと改めて感じる。
「さ、時間になったから会議始めるぞー。終わったら撮影な」
グルッペンがそう呼びかけると、各々話したり煙草吸ってたりしたメンバーがリビングに集合した。
しかしおっさんが八人もいるので、俺とエーミールはキッチンの方で待機。グルッペンはソファーの上、その他は床に座っている。鬱先生の両隣にはシャオロンとロボロ、そしてそれのちょっと後ろにコネシマとしょっぴくんがいた。
部屋の香りはいつもとは違って、煙草の匂いが充満しているように思えた。喫煙者多すぎィ。でもそれが、俺の今の居場所であると実感させる一つのものだったりもするから憎めない。
「よぉし、それでは会議を始める!」
その一言を掛け声に俺らの生放送が始まった。スカイプでゾムとオスマンを呼んでおいたので、二人も放送に参戦しての十人放送だった。
ぎゃあぎゃあと段々うるさくなっていく中、俺は一人だけをぼーっと見つめていた。個性の強いこの九人を仕切り、それでいて自分の個性を十二分に発揮しながら、口には出さないが暗黙の了解のようにグループのリーダーとしてここで笑っているあの人を。
途中でグルッペンがこちらを振り向いたのでさっと視線を他にやる。……気付かれていなかっただろうか。気持ち悪いと、思われていたりしないだろうか。
そんなことを思っていると、エミさんが俺に優しく声をかけた。
「トントンさん、大丈夫ですよ」
その言葉の意図や真意は何一つ分からなかったが、エミさんに俺がずっとグルなんちゃらを見ていたことかバレていたということは分かった。
◆
放送も終わり、撮ってみようと企画した実写撮影も撮り終えた。夕方になると、みんながパラパラと帰りだす。
「じゃあなーお疲れ様」
「お疲れ様!ばいばーい!」
「お疲れー、またねー」
鬱、シャオロン、ロボロがそうそうに帰っていった。鬱からなんとなく事情は聞いてあるので、あとでどうなったか確認してみようかな、だとか思いながら見送った。
「お疲れ様でした。それではまた!」
エミさんはそう言って礼儀正しく帰っていった。帰りにゾムの家に寄るらしい。ほんとに好きだな、食害されてろ。
「じゃあまたなーお疲れ!」
「お疲れ様でした、じゃあの」
先輩後輩組はいつものような絡み合いを見せずに帰っていった。放送の時は普段通りだったものの、最近ちょっとギクシャクしているのが見ていて分かる。まぁあいつらの事だし何とかなるだろうと、優しく笑って見送った。
「……トン氏、これ読んでから帰っていいか」
グルッペンは俺がこの前買った小説を指差す。特に断る理由もないし、元々グルッペンは読むのが早いので了承。
みんなが帰る時、ずっとこの人はこれを読んでいた。だからもうそろそろ読み終わるはず。そう思っていたが、グルッペンはなかなか腰を上げようとしない。
俺はしびれを切らし、電車間に合わんくなるでと呼びかけると、んーと雑な返事が返ってきた。
外はもう暗い。昼からの撮影で元々みんな帰るのが遅かったのにも関わらず、この人は未だに同じ本を手にソファーに座っている。
俺はグルッペンが座っている隣に座ってみる。グルッペンはなんの反応も示さない。ページはあとほんのちょっと残っていた。しかしいつもより明らかに読むスピードが遅い。
「ねぇグルさん」
俺は隣で静かに本を読んでいる人の名前を呼びかける。またんー?と気だるげな返事が返ってきた。それを聞いてさらに続ける。
「……同性愛って、どう思う?」
俺が問いかけながらうつむくと、グルさんはページをめくる手を止めた。
何故自分が今こんなことを聞いたのかも分からなかった。でも、いつかは聞いてみたいことではあった。
……ああ。いつからだろうか、こんなことを気にし始めたのは。でもこれは、事実なんだ。事実だからこそ、苦しい。
「……急な質問だな……。まぁあの二人のこともあったし、急ではないか」
ふうと息をついてグルさんはこちらを見た。
人からみればそんなに深刻な質問ではないはず。なのに今のグルッペンは一つ一つの動きが慎重になっている気がする。……もしくは俺の顔が深刻すぎて心配しているのだろうか。
グルッペンは言う。
「同性愛というものはこの日本の中では社会的に否とされる存在だろ」
胸にズキリと何かが刺さった。分かっていることなのに。
静かにグルッペンは言葉を続ける。
「……だが俺はそんな偏見を持つつもりはない。その選択が自分の最良の選択だと、幸せだと断言できるのであればそれでいいだろう。この世界の上でそういう幸せっていうのは大切になる。それが叶う保証はないが」
そう言ったあと、グルさんはページをめくり、また静かに読み始めた。それを聞いた俺はボーッと窓から見える外を眺める。今日は満月らしい。大きく見えるそれは、イレギュラーとなり得る俺を照らしているようにも見えた。じっと見ていると、まぶしすぎて目を伏せてしまうような、そんな光が俺を照らす。
他に何もすることもなくて、そういえば動画編集終わってなかったことに気づく。きっとグルッペンも読み終わったらそのうち帰る、そう思った。さっさと終わらせてしまおうと立ち上がる。
……いや、立ち上がろうとしたその時、右手がぐいとあらぬ方向へ引っ張られ、また同じところに尻をつけた。そんな一連の動きに思考がついていけずに動きが止まる。
「トントン、次は俺の話に付き合ってくれないか」
グルッペンがいつもの低い声で俺に問いかける。俺は反射的にこくりと頷く。
グルさんの方を見ると、いつになく真剣な目でこちらを見つめていた。俺もそれに応えるようにグルッペンを見つめる。
「……トントンは、同性愛のことどう思うんだ?」
「……俺は」
言葉が詰まる。
こんな自分のことをあなたはどう思うのだろうか。あなたは大層優しい人だから、俺のことを肯定してくれるのだろうか。
否、きっとそれは違う。
俺はゾムやエミさん、その他のメンバーとは違う。だってきっと他の人から見れば俺はグルッペンというリーダーの右腕的存在のはずで、俺は“普通”でなければいけない。
なのに、堕ちてしまった。誰が綺麗なスターリンだ、もうそんなやつはここにいない。
「……グルさんは幸せならそれでいいって言いはったけど俺、想いましたくっつきましたはい幸せに、なんてないと思うんや。だから」
そこまで言って声が出なくなった。もう、もう自分を傷つけたくなかった。自虐するのはもう、懲り懲りだった。
グルッペンの瞳を見つめきれなくなってうつむいた。涙が零れないように必死になりながら、早くここから離れたいと願っていた。
どのくらい経っただろうか。ふいに俺の身体はあたたかいものでつつまれた。
目の前は真っ暗で額に金属のような冷たいものが当たる。これがグルッペンのかけていたネックレスであると、そしてグルッペンの胸の中だと気づくのには時間を要した。
俺が思考停止している中、グルッペンは口を開いた。
「……だけど、俺はお前のことが愛おしいと思う。やっぱりこんな俺は“普通”じゃない、すまん。トントンは“普通”だから、俺を否定するんやろな」
好きになってごめん。今まで何回思ったことか。
ふわりと香る匂いも体温も手も胸もすべてが温かいのに、声だけが冷たい。
やっと今のことに思考が追いついた俺は考える。この人は今、なんと言った?俺が、愛おしい?そう、言った?
離れてしまいそうなグルッペンの腕に気付いた俺は、咄嗟にグルッペンの背中へ自分の腕を回す。そして離れていかないように強く強く抱き締めた。
「否定なんか、してない。俺は“普通”なんかじゃない。グルさんと、同じ、やから……。だから、もう、どっかいかんといてくださいよ……っ!」
やっと、手が届いたのだろうか。そういうことでいいのだろうか。
俺はついに涙を零す。らしくない。でも頬に伝うことなく、グルッペンの服へと染み込んでいく。まるで今までの俺の気持ちが直接グルッペンへ流れていくように。
俺の肩が震えているのに気付いたのか、グルさんは俺の頭をゆっくりと、あるいは恐る恐る撫でた。
俺が拒否なんてするわけがない。だってこの人は、グルッペンは、人に興味がないはずの俺が想った唯一の人で、一番大切な人なんだから。
その意思を表すようにさらに強く抱き締める。俺はここにいると、俺はあなたを受け入れると心の中で叫ぶ。
「……許して、くれるのか」
「……あたりまえだろーがよー……!」
グルさんはそれに応えてくれるように、俺と同じくぐっと抱き締めてくれた。もう、それだけで十二分に幸せだった。
「ていうか、俺がいつお前を置いていったんだ……?」
「グルさんは知らなくていーんですー……!」
いつまでこうしていただろうか。長い間こうしていたような気がする。そのくらい幸せだった。
またグルッペンの口から紡ぎ出された言葉に俺はまた泣きそうになった。
「……あぁ、トントン。俺、幸せにするから。なんて照れくさいけどな、幸せになれないとか悲しいこと、言うな。そんなことには、させねーから」
「はえー……めっちゃ幸せですやん……!」
もう、この手を離さないでいてくれますか。
“普通”じゃない自分を、受け入れてくれますか。
それなら俺は応えましょう。
俺はあなたとともに、“普通”ではない自分を貫いて見せましょう。
だってそれは自分が望んだ幸せだから。
僕の考えってそんなにおかしい?
筋は通ってると思いたいんだけど(たまに矛盾が発生するくせに何言ってんだ)
んーまぁ。
私は私で生きますわ
怖いくらい、覚えてるの
あなたの匂いや、仕草や全てを。
おかしいでしょ?
そう言って笑ってよ。
別れているのに、あなたのことばかり。
なんて、私が言っちゃダメなんだけどな!!!
……ダメなんだけどなぁ。
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