のん 2016-07-16 14:08:39 |
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拝読して着想が沸いたから、勝手な続編。題は思いつかなかったから無題で>>5の終わりより。
序
さて……、母とそんな話をしたのも数十年前のこととなり、当時、少年だった彼も今は立派な青年に成長していた。
彼ことシリウスは、担当している環境保全の仕事を自宅に持ち帰って、片付けている合間にぐんと背伸びをし、凝った肩をほぐす。
「あぁ疲れた。コーヒーが飲みたいな」
呟くとすぐに横から丸いトレイに乗り、カップに入れられたコーヒーが差し出される。シリウスはそれを手に取り、暫し、香りを楽しんだあとに口をつけ「うーん、美味い」と言って満足そうに微笑んだ。彼にコーヒーを差し出したのは、彼が産まれた時から彼の世話をしているロボット「Ss-07」であった。シリウスの好み、性格は勿論、行動パターンまで熟知しており、自分で予想も立てて常に彼が求めるサービスを提供してくれる、素晴らしい世話係兼秘書ロボットである。
「シリウス、可愛い…♪」
コーヒーを楽しんでいると、ふと、背後から声が注いだ。シリウスが振り返ると、そこに立っていたのは恋人のエウロパであった。
「可愛いって何だよ」
言われ慣れていない言葉にシリウスが怪訝な表情を見せると、エウロパは楽しそうに続けた。
「仕事の合間にさ、コーヒーを出されると、すごく満足そうに飲むじゃない。その様子がね、何だか可愛くて」
エウロパにはこういうところがある。女性とはそういうところがあるものなのかもと納得しようとしてきたが、はっきり言って、シリウスにとっては意味不明なのだ。
【良いものを嗜み、幸福を享受する。それを原動力にして、更なる発展を目指す】
クララを祖とする新人類は、そうして繁栄を継続してきた。褒められるべきは努力の末の成果である。それなのに、エウロパは『ただ、コーヒーを楽しむ』というそれだけのことに好感を持つらしいのだ。全くバカらしいと言ったらない。
「よく分からないな」
だから、それだけ答えた。すると、エウロパは更に意味不明なことを言い出した。
「貴方のそんな様子を見ているとね、私はSs-07になりたくなるわ。私にもあの子ぐらい美味しいコーヒーを煎れることができたら良いのに、とね」
シリウスは今度こそ、椅子からずり落ちそうになってしまった。
「君のそういうところは本当に分からないな!」
思わず感情が高ぶり、声を強めてしまった。
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