大倶利伽羅 2016-07-11 22:55:28 |
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(光忠に続いて出ようとした瞬間、肌を刺すような強い神気を感じて一瞬だけ体が硬直する。しかしすぐに持ち直して視線を動かした先に立っていた人物に、今度は驚愕のあまり動けなくなってしまう。神無月の集会で何度もその姿を見たことがある上に、国永と縁の深い存在でもあるから、気配を察知した時からすでに確信は持てていた。それでも呆然としてしまったのは、その人物が神々の中でも位の高い『三条』に属する存在であり、月の化身と名高く知られ信仰されている『月読命』であるからだ。こちらの様子に気付いてか、相手は朗らかな笑みを浮かべて手招きしているが、緊張を解けという方が無理な話だ、月の神に対等な態度を取れるのはそれこそ同じ三条の者か国永ぐらいしかいないだろう。しかし、自分が動揺したり過剰な緊張をしてしまえば、光忠がそれを敏感に感じ取ってしまう。一度深呼吸をしてから、その場からは一歩も動かずに片膝を付き頭を下げて「…三条三日月宗近殿、貴殿がこのような辺境の地へ来られたのには、何か理由がお有りと見受ける」と普段の口調から丁寧な口調へと切り替えつつ「神無月の集会を欠席した咎めならば受けよう。だが、貴殿が一介の神を処罰する為にわざわざ動くとは思えない。差し支えなければ、この場に訪れた理由を偽り無くお教え願いたい」と、敬意を払いつつも決して下手には出ない凛とした声でそう告げて)
【長船光忠】
(人当たりの良さそうな和らげな声で、手招く姿が見えるものの何だか本能的に近付くのが畏れ多いと思ってしまい、逆に小さく礼をしてから後ろへと退がる。たぶん神域に入って来れたと言うことは神様なのだろうと考えつつ、月を連想させる服装や双眸から月の神様なのかと考える。流石に声を掛けることは出来ず、失礼の無いように口を噤んで待機をしていれば徐ろに伽羅ちゃんが至極真っ直ぐな言葉遣いで対応をしていった。とても位が高い神様だと言う事を薄々感じ取りつつ、神無月での集会の事が話題に出れば神様にとってアレは必ずしも行かなければならない事だったのかと思っては、緊張気味に三条三日月宗近と呼ばれた神様を見て返答を待ち)
【三条三日月宗近】
(警戒心を緩めて貰おうと話し掛けたのだが、何やら逆に緊張をさせてしまった様だと人の子を見ては内心で思う。それから丁寧な言葉で竜の子から返答をされると、矢張り三条の位のせいかと鶴の旧友だった為に距離を置かれて少ししゅんとなる。しかし、“咎め”やら“処罰”やらの言葉が聞こえて来れば首を傾げ「…はて?お主に落ち度など無いぞ。神無月の集会での件は俺が出席の代行をしたからな、文句を言う者など誰もおらんかったぞ」と裏も毒も無くサラリと言ってはにこにこと微笑んでいく。付け加えるように「嗚呼それと、礼を言うのなら鶴に言うとよい。俺は可愛い鶴の頼みを受けてから、動いただけなのでな」と弟もしくは我が子の様に目を掛けている幸福の神の名を上げては、再び棘の無い声色で緩やかな笑みを浮かべいく。実のところ心中では今日はせっかく此処まで足を運んだのだから、帰りは鶴の神域に寄り道しようとまで思っている程に目を掛けている。ふと、ついつい話が脱線していたことに気が付けば「それで、理由だったか?なに、簡単な事だ。俺がお主の出席の代行をした故その集会の内容を伝えに来ただけだ。詳細はこの手紙にしたためている。受け取るとよい」と、最近各地で不吉な事が起きているのでその問題を解決するため土地神には依頼を遂行し人や妖、果てには神絡みの問題解決を図る仕組みが出来たと言う内容の手紙を渡していき、再度口を開いて「まあ、後は鶴が親しくしている友人と話してみたくてな。要は爺の気紛れだ」と何処か子供の様な無邪気さを持って本心を述べていき)
(拍子抜け、という言葉は今の状況こそ相応しいと思う。国永や貞が上手く立ち回ってくれたにしても、何らかの罰を受けるとばかり思っていた。だからこそ月の神が告げた言葉には驚いたし、思っていたよりずっと友好的…というか、むしろ警戒心が無さ過ぎる相手にどう対応していいものか分からなくなってしまった。自分が国永の知り合いだからかとも思ったが、その程度の繋がりでここまで無防備になれるものなのだろうか。それとも、国永の知り合いならば信頼に値すると無条件で思うほどに国永を信じているのか。『三条やら月読命やらと大層な称号ばかり目につくが、実際はただの好奇心旺盛で構いたがりな爺さんなんだ』と、国永が苦笑しながら話していたのを思い出し、一度目を閉じて思案してから、再び目を開いて立ち上がり、差し出された手紙を受け取り、その場で封を切って一通り目を通す。「成る程、大体は把握した。…国永の言う通り、アンタには気を使うだけ無駄だったみたいだな」と、自然といつもの口調に戻っては「代行をしてくれたこと、改めて礼を言わせて貰う。それと、無礼を承知で言わせて貰うが、アンタがわざわざ出向くことは無かったんじゃないか?手紙なら眷属を飛ばせば済むし、話がしたいならそちらから呼び出せばいいだろう」と、あまりに気軽な月の神の様子に若干心配になりつつそう問いかけてみて)
【長船光忠】
(妙な緊張感のまま二人の遣り取りを見ていたが、如何やら見た目や雰囲気とは違って三日月さんと言う神様は意外とお茶目なようだ。加えて、鶴さんの名前が何回か出ている為に、彼とは親しいんだろうなぁと推測も出来る。そうして三日月さんから伽羅ちゃんが手紙を渡されれば、中身は気になったもののきっと悪い内容では無いはずと独り勝手に思っていく。それから、いつもの話し口調に戻った彼の言葉を聞きつつも確かにそうだなぁと感じては、対面の神様の様子を伺い)
【三条三日月宗近】
(何やら少々ぽかんとしている双方に、着物袖で口元を隠してはくすりと笑みを零していって手紙を最後まで読み切ったのを見届ける。すると、自然体と思われる話し口調になった為にそれを嬉しく思っては、三日月の浮かんだ双眸を細めていく。いつもの調子で「はっはっは。うむ、気は使わずともよい。その方が此方も話し易いからな」と軽快に笑うと、至極友好的な言葉を返していく。不意に、こうしてこの場へと足を運んだ事に関して言及をされると「俺がお主と話したいと思った故、ならば己が足を運ぶのが礼儀だろう?仲を深めたいと思うのなら尚更だ」と当然のように言ってはにこにこと笑みを零していて、続けて口を開けば「それに、鶴の神域にも行く用事があったからな。_まあ兎にも角にも、俺は自らの足で会いに行く事に意味があると思っている」と告げて言って)
(相変わらず笑みを浮かべたまま返ってきた言葉を聞いては、納得するのと同時に流石は国永と縁がある神だと感心すらしてしまう。月の神に世話になったという話は聞いたことがあったが、もしかすると国永の自由奔放さは目の前の神に影響を受けたからなのかもしれない。「そうか。アンタの考えに口出しするつもりは無いが、国永に心配を掛けるような真似だけはしないでくれ。アンタは国永にとって大事な存在なんだ」と、月の神の話をする国永の楽しげな表情を思い出しつつ、自分なりの勝手な解釈を含めてそう告げる。自分自身も『大事な存在』の一人であることには勿論気付いていないので、自分のことを棚にあげた発言になっていることへの自覚は無い。「それと、この手紙の二枚目に書かれている内容だが、俺に課せられた依頼と受け取って構わないか」と、片手に持っている二枚の手紙へ視線を向けながら確認の為に問いかける。一枚目は月の神が言った通り集会での内容を詳しく書き記した物だったが、二枚目は全く別のことが書かれていた。そこには竜神たる自分が守護と管理をしてる地域を詳しく調べた報告書のような文面となっており、何人かの知り合いの名前も書かれている。それは自分が神域で休息を取り始めて丁度一ヶ月分の情報で、何やら不穏だったり不可思議だったりする文章が所々見られることから、これらを解決することを要求されているのだろうと解釈して)
【三条三日月宗近】
(おもむろに言われた事にきょとんと目を瞬かせたが、直ぐに「はっはっは、それはお主にも言える事だぞ。竜の子も鶴にとっては大事な存在だ」と楽しそうに友人の事を話していたあの子の姿を脳裏に思い出しながら、惜しげも無く返していく。それに自身が何者かに手を出されたとしても己は三条の名を持つ故、大方は返り討ちに出来る。だからこそ、こうやって外をフラついている訳だが。ふとそれから話が手紙の方へと戻ると「嗚呼、それはお主に_竜神へと我々が依頼をしたものだ。間違いは無い」と答えていく。そう言った後、付属されていた二枚目の手紙を指差しては「先ずは一番上から順に熟していって欲しい。確か…最初は『花街で起きている連続傷害事件の解決』だな。詳細や地図は裏に書いてあるぞ」と告げては、ゆっくりと上げていた手を降ろしていく。そうしてさり気なく神域の空模様を確認すれば、一度目を閉じて緩慢に開き「さて、俺はそろそろ御暇させて貰うが…お主の活躍期待しておるぞ。_では、またな。竜の子と人の子よ」と緩やかな上品さを持って二人に微笑めば、そのまま踵を返して空間を裂き神域から出て行こうとして)
【長船光忠】
(三日月さんが読み上げた為に、不可抗力で『花街で起きている連続傷害事件』との案件が聞こえて来れば、他にもそう言った感じの依頼が伽羅ちゃんに来ているのかなと考えていく。それにしても花街かと思うと、なら被害に遭っているのはお客か花魁かなとあまり花街の事はよく分かっていないが中途半端な知識のままそう予測をしていて、そんな事に頭を回していれば三日月さんが帰るようだったので「あの、何も御用意が出来ずに申し訳ありませんでした」と、せっかく来て頂いた客人に対してお茶の一つでも出せなかった事を悔やみつついれば、相手は『なに、気にするでない。俺も急に来てしまったからなぁ。今度は連絡を入れてから来るとしよう』と優しげに微笑んだ後、再び裂いて出来た出口へと入ろうとして行き)
(相手に向けて注意を促したはずが、逆に言い返された言葉に一瞬驚いて「それ、は…」と思わず言い淀んでしまう。これまで自分がしてきた事を考えると国永に心配を掛けているのはむしろこちらの方で、大事にされているのだと自覚したのも最近である為、月の神に何かを言える立場では無い。結局何も言えずにいると、依頼の件についての話に移ったのでそちらに集中するべく思考を切り替える。告げられたのは『花街で起きている連続傷害事件の解決』で、手紙を裏返してみると言われた通りの内容が書かれていた。ざっと目を通しただけでも細部に至るまできちんと纏められており、この内容に間違いは無いと確信出来る。そうしている間にどうやら月の神はここを出るようで、光忠と短くやり取りをしてから神域の外へと去って行った。それを見送ってから「期待、か…」と呟いてため息を吐く。他の神に比べて無名同然の自分が、神として最上位に君臨する存在にそんな言葉を言われるとは思わなかった。どんな形であれ興味を持たれてしまったのは色々と面倒かもしれない。たとえ相手に悪意が無いのだとしても。一旦そこで考えるのを止め、渡された手紙を改めて読み込んでから光忠の方へ手紙を差し出し「光忠、見ておくか?」と問いかけて)
(三日月さんを見送れば、何だかまた波乱な日々になりそうだと思いつつも伽羅ちゃんから手紙を差し出されると、まさか一介の人間が読んでも良いとは思わなかったのできょとんとしたが、気になる事は気になった為に「えっ?良いのかい?ありがとう」と受け取っては、その文面を読み込んでいく。手紙に記されていた内容は『神無月上旬。西の都にある人と妖の花街にて、花魁を狙った連続傷害事件が発生。何れも時間帯は明け方近くで、外で一人で歩いている時に背後から襲われている。なお傷口は刃物の様なものである。被害に遭った二人の花魁は犯人の姿は見ていないと言う』と言ったもので、これは中々解決が難しいのではと率直に思う。手紙の裏側の一番上には『店名は極楽浄土、聞き込み調査、現場検証、犯人確保』と遊女屋の住所とやるべき事が書かれているだけで、少し考えた後、手紙を返しては「伽羅ちゃんはこの依頼を受けるんだよね?人手は多いに越した事はないから、僕も連れて行ってくれないかな?」と問い掛けていき)
(世にはびこる事件は様々で、神無月には多く起こる傾向がある。それは各地の神が一箇所に集まることで一時的とはいえ守護や監視が疎かになり、人ならざる者達の悪意による凶行が多発するからだ。しかし、手紙に書かれていた会議の内容からは、他の月でも神無月とほぼ同等…下手をすればそれ以上に不可解な事件が起きているようだ。もしかすると、例の邪神による事件もそれに含まれているのかもしれない。今回の依頼がその件と関係があるのかどうかは分からないが、自分の管轄で起きているのならばすぐにでも解決しに行くべきだろう。ここまで考えた所で内容を読み終えたらしい光忠がこちらへ手紙を返す。それを受け取りつつ『連れて行ってくれないか』という問いかけに「元からそのつもりだ」と当然のように返す。その気が無いのならばわざわざ手紙を見せたりはしないし、何よりも光忠に傍にいて欲しいという気持ちの方が大きいからだ。「…一応聞いておくが、アンタはこういう場所での経験があるのか」と、手紙に書かれた『花街』『花魁』『遊女屋』といった単語を指差しながらさり気なく気になっていたことを口に出して)
(当然のように了承の言葉を返されると「本当かい?ありがとう」と目元を和らげては嬉しげに微笑んでいく。相手は優しいから足手纏いだなんて言うとは思えなかったが、危ないからと言う理由で神域にお留守になる可能性を考えていたので、少しでも彼の力になれる機会が巡って来て良かったと内心で思っていく。何かに太刀打ち出来る力は持っていないが、情報を収集する為の口と耳と足を自身は持っている。だから、そこで役に立とうと考えつついると不意に問われた事に目を瞬かせ「…え?経験?」と指を差している単語を見れば問い掛けた意味が分かって、そう言う事に関しての知識は薄いものの長編小説を読んでいると自ずと『花街』などの単語は出て来るため意味だけは知っており、しかしそもそもそんな所にすら行った事は無いので「いやいや!僕は経験なんて無いよ…!」と慌てて否定をする。逆にそう聞かれてしまうと、神様だが何だか相手の事情も聞きたくなって「…そう言う伽羅ちゃんの方は?」とおずおずと尋ねてみて)
(経験は無いと慌てた様子で否定され「そうか」と小さく頷きながら短く返す。花街は良い意味でも悪い意味でも老若男女年齢問わずで何者も拒まない場所だ、それに加えて人のみならず妖怪もいるというそこは並の花街より厄介だろう。そういった場所に行ったことが無いのなら尚更光忠から目を離さないようにしなければ…と至極真面目に考えていると、光忠が何やら遠慮がちに尋ねてきた。一瞬何のことか理解出来なかったが、さっきの話から自分にこそ経験があるのかと聞き返したのだと気付いてそれに返事をしようとしたが、不意に思い付いたことを試してみたくなり、口元に笑みを浮かべては「さあ、どうだろうな。…アンタは、どっちだと思う?」と我ながら意地の悪い質問返しだと思いながらもそう口にして)
(花街には行った事は無いものの、たぶん手紙によれば犯行現場は何れも外なので遊女屋の奥には入る羽目にはならないだろうと思いながらも、相手から経験が有るか無いかの返答を待っていく。すると返って来た言葉は、肯定でも否定でも無く曖昧なもので「ええ…!もう狡いなぁ…」と眉尻を下げて呟いたが、たぶん相手の性格上そう言う事はしていないだろうと思っていたので、直ぐに小さく笑みを浮かべては「まあ、君は誠実だから僕は経験が無いと思っているよ」と信頼をしているため一つも疑わずにそう返していく。そして、不意に壁時計を見ては「…確か花街って、夜からだったよね?今から出掛ける準備をして今夜にでも行くのかい?」と聞いてみて)
(自分が仕掛けた軽い意地悪は成功したようで、光忠の困ったような呟きを聞いて内心で満足する。たまにならこういう戯れも悪くないなと考えては、ちゃんとした返答をしようと口を開きかけた所で、いつもの優しい笑みを浮かべた光忠からこちらを信頼しきっている言葉を返され、思わず面食らって反射的に口を閉ざしてしまう。…慣れないことはするものじゃないな、と僅かな照れを誤魔化すように自分も壁にかけられた時計へと顔を向けて「そうだな、行動は早い方がいい。『連続傷害事件』ならまた被害が出ないとも限らない」と、手紙に書かれていた内容を思い出しつつそう告げ、庭の方へと視線をやり「一応、次郎太刀にも協力要請をしておく。あいつの今の根城が丁度そこの花街だったはずだ」と夜市の時に顔を合わせた酒豪の妖怪の名を口に出しつつ、眷属を送る為に部屋を出ようとした所で、相手の方へ顔を向けて「さっきの答えだが」と、先程の経験の有無に関する話を再び掘り返しては「好きになったのも、触れたいと思ったのも…全部、アンタが初めてだ」と告げてから、相手が何か言うより先に部屋を出て中庭へ向かい)
(そうだ、“連続”障害事件なのだからあの二件だけで事が終わったとは限らないと相手の言葉で気付かされながらも、なら早いところ犯人を捕まえないとと更に気を引き締め直していく。ふと、おもむろにあの賑やかな夜市を取り仕切っていた妖の名前に懐かしいと思いつつ、そこが根城だと聞けば驚くも何となく想像をすると確かに似合っているとも考えていて「そうなんだ、次郎太刀さんが花街にはいるんだね。知っている人が一人でもいると心強いね」と言葉を返したところで、恐らく協力要請を送る為に部屋を出て行こうとする相手を見ては、自身も出掛ける為の支度をしようと立ち上がった瞬間_唐突に向けられた率直な言葉に「…!?」と音にならず何度か口を開閉させて、遅れて顔が熱くなるのを自覚すれば「うっ…本当に狡い!」と彼の不意打ちの上手さに思わず片手で顔を隠し、儘ならない熱に翻弄されつつも相手が出て行った先を見ては「…僕だって、君が初めてだよ。好きなのも、触れたいのも、何もかも全部…」と聞こえる訳も無い事をぽつりと呟いては、ようやく顔の赤みを引かせた後に同じく部屋から出て中庭へと向かって行き)
(辺りを漂う眷属の一つを呼び寄せ、指の先に留まらせては「次郎太刀に使いを頼む。今日の夜にそちらに行くから詳しい話はそこでする、と伝えてくれ」と必要最低限のことを伝えるよう命令をすれば、眷属が指先で数回跳ねて『分かりました!』と意志を伝える。このままの姿だと遠くまで一人で行ける程の力を持つことが出来ないので、何か適当なモノに変化させようとすると、眷属が自分の後ろを覗き込むかのように光る体を傾けてから『光忠さんと同じ姿がいいです!』と要望をされた。そういえば、光忠と出会ったばかりの時にも眷属の一人を光忠そっくりな人間の姿へ変えたことがあったのを思い出し、僅かに迷ってから「…分かった」と頷き、指先へ力を集中する。するとたちまち眷属を中心に辺りが光に包まれ、それが収まる頃には指先から眷属が消え、代わりに立っていたのは光忠に瓜二つな青年。両目が揃っていることと、髪色が自分と同じ色であることが唯一の違いだろう。眷属は嬉しそうにはしゃぎ、自分に向けてぺこりとお辞儀をしてから、後ろにいた光忠の方に駆け寄ると、何の迷いも無く思い切り抱きしめた。『光忠さん!主を選んでくれてありがとうございます!これからもずっと主の傍にいてくださいね、僕達は光忠さんのことも大好きですから!』と、言葉を話すことが出来ない為か声なき声で光忠に語りかけるのが聞こえて「…その為にその姿を選んだのか」とやや呆れ気味に呟く。『えへへー、だって僕らの声って普段は主にしか聞こえないですから。それに、人の姿なら光忠さんをぎゅーって出来ると思ったんです!』と、どこか誇らしげに告げられて)
(遅れて中庭に着くと、そこに居たのは伽羅ちゃんと自分にそっくりな人…いや、恐らく前にこの姿を借りて来た事があったから眷属くんだろうと考える。ただ前回とは違って髪色が甘栗色なところを見ると、彼と同じ色だと何だか嬉しく思ってしまう。そして何故だかはしゃいでいる様子の眷属くんを微笑ましく見た後、お遣いの見送りをしようとしていたのだがその前にこちらに駆け寄って来るのが視界に入れば、何だろうと思いつつ声を掛けようとしたもののそれよりも早く抱き締められてしまうとその行動に目を瞬かせて驚いてしまう。だが、更に頭の中に眷属くんの声が響いてくれば益々驚くものの同時に嬉しくもあり、背中にそっと手を回しては抱き締め返して「ううん、お礼を言うのは僕の方だよ。僕を受け入れくれてありがとう。…勿論、時間の許す限りずっと伽羅ちゃんの傍に居るよ」と確りと声に出して伝えていく。それから、周りの光達にも視線を向けた後「僕も君達のこと大好きだよ」と微笑んでいき、最後にもう一回抱き締め返してはゆっくりと離れていって、眷属くんと倶利伽羅ちゃんの会話を微笑ましげに聞いていき)
(光忠に抱きしめ返されたのが嬉しかったのか、離れた後も幸せそうに笑いながら光忠の傍にひっついている眷属の様子に『いいなー!』『ずるいずるい!』と周りの眷属達が騒ぎ始める。殆ど喧騒に近い眷属達の訴えに深い溜め息を吐いてから「早く行け」と改めて命令を下す。すると眷属はびしっと姿勢を正し、敬礼の真似事をするように額に伸ばした手を当てて『はい!それじゃあ行ってきます!』と気合の入った声音で告げ、自らの手を目の前にかざして入り口を作り、そこに向けて駆け出す。そこを潜る直前でこちらを振り返りながら大きく手を振ったのを最後に入り口が閉じたのを見て「…人の姿にしたのは失敗だったか」と、二度目の溜め息を吐き出す。ただでさえこの神域から出る機会が無い上に、ここの眷属達は揃って無邪気で好奇心旺盛だ。人相手ならともかく、妖怪に良いように遊ばれてしまわなければ良いのだが…。やはり早めに合流するべきかと考え「光忠、予定変更だ。夕暮れにはここを出たい」と、夜になった後ではなく、夜になる少し前に行動を早めようと提案して)
(弟がいたらこんな感じなのだろうかと思いながらも、にこにこと笑っている眷属くんの頭を思わず可愛さ故に甘やかす様に撫でていき、不意に心なしか点滅している気がする光の眷属くん達には、言葉が分からないため首を傾げてしまう。それから改めて出発して行く眷属くんに「気を付けて行ってらっしゃい。無茶はしない様にね」と大きく手を振る相手に手を振り返して行く。あのように純粋な為に悪い人とかに騙されないと良いけどなんて保護者的な目線で考えつついれば、横から伽羅ちゃんの苦労が染みた溜め息が聞こえて来る。それに何とも言えず曖昧な笑みを零していると、続いて聞こえて来た時間変更の言葉に「夕方かい?うん、分かったよ」と頷いて、時間を早めた事に疑問を持ったが眷属くんの事を心配してかな?と予測をしながら中庭で踵を返せば「じゃあ、伽羅ちゃん。出掛ける準備をして来るね。出来たら酉三つ刻にここに戻って来るよ」と伝えた後、縁側へと上がって部屋に行こうとしていき)
(眷属の様子が余りにも気になる故の予定変更だったが、光忠は特に気にした様子も無く了承してくれたので内心で安堵する。準備をしてくると告げて部屋がある方向へ向かい始めたのを見ては「ああ、分かった」と短く返事をしてそのまま見送る。昼過ぎとはいえ夕刻まで時間がある、それまで鍛練の続きでもするかと考えていると、周りを漂っていた眷属達が自分の周囲に集まってきた。「どうした?」と問いかけると、眷属達は数秒間沈黙したままだったが、すぐにそれぞれが意志を伝えてくる。『主、よく表情が変わるようになりました』『笑顔もたくさん見せてくれて、僕達とっても嬉しいです』『ずっとずっと昔の主に戻ったみたい』と次々に告げられたそれらに、少しだけ思考を巡らせてから薄く微笑み「そうだな。お前達がそう感じるのなら、そうなんだろう」と穏やかに答える。自分が竜神として生まれて今日に至るまでずっと傍にいてくれた彼らの言葉だ、間違いなどあり得ない。『光忠さん、受け入れてくれてありがとうって言ってました』『でもでも、光忠さんも主や僕達のこと、受け入れてくれた!』『だから、主も光忠さんも、これからはずーっと幸せいっぱいですよね!』と、信じて疑わないといった様子でそう伝えられては「…ああ。この先、何があったのだとしても…俺は間違いなく幸せだ」と答える。どうか、光忠もそうであって欲しい。自分と同じだけの、いや、それ以上に幸せだと思って欲しい。『あ!じゃあ僕、主から幸せのお裾分けして欲しいでーす!』『じゃあ僕もー!光忠さんと同じ人の姿にして欲しいですー!』『光忠さんにぎゅーってするのは先越されちゃったから、僕は主にぎゅーってしたい!』『ずるい!僕も僕も!』とさっきまでのしんみりとした空気は何処へやら、いつもの調子に戻って騒ぎ始めた眷属達に肩を竦めつつ、口元には笑みが浮かんでいて)
(中庭から自室へと戻って来ると、さっそく持って行く物を準備していく。ただそれも必要最低限の物で、金色の鈴が付いたお財布と書き物と笠ぐらいだ。あまり物を持ち過ぎても却って邪魔になってしまう。あくまでも花街に観光に行く訳ではなく、調査をしに行くのだから。そこは間違えてはいけない。しかしどんな感じのところなのだろうとは好奇心ゆえに思っており、煌びやかで艶やかな着物を着た人達が沢山いるのだろうかと中途半端な小説の知識で考えていく。自分は無いだろうが、あまり伽羅ちゃんが客引きに勧誘されないと良いなと複雑な心持ちでもいつつも、朝に部屋の掃除をしていた為に着ていた服が少し汚れていたので、黒色の布地に金色の刺繍が一点施された着流しに手早く着替えていく。これは伽羅ちゃんと鶴さんに買って貰った中でも一等気に入っている着物だ。何処と無く気分良く着替え終えれば、時間になるまでは服が汚れない程度の家事を行なっていき、それから酉三つ刻になると件の中庭へと戻って「伽羅ちゃん、準備出来たよ。僕はいつでも出発出来るよ」と話し掛けていき)
(眷属達にせがまれている内に池の鯉達すらも一緒になって騒ぎ始めたので鍛練どころでは無く、両方の相手をしている内に時間が過ぎてしまった。もう出発の時刻になったのだと気付いたのは光忠に声を掛けられてからで、本日何度目かも分からない溜め息を吐き出しては「お前達、いい加減静かにしろ。帰ってからまた聞いてやる」と話を締めるようにそう告げると、途端に騒ぎ声と池の水音がぴたりと止んだ。単純だな…と内心で思いながら光忠の方へ向き「すまない、待たせた」と一言謝り、さっそく依頼の手紙に書かれていた西の都に繋がる入り口を作り出す。一応は知っている場所なので繋げることは可能だが、ここからかなり遠い場所なので入り口が多少不安定になってしまう。国永程の術の使い手になればどれだけ遠くても確実にその場所へ行けるだろうが、自分はまだそこまでの練度に達していない。万が一にでも別の場所に飛ばされてしまわないよう注意を払いつつ「行くぞ、光忠」と声を掛けながら手を差し出して)
(何やら騒ぎを鎮めていた相手に謝られたので「ううん、気にしないでくれ」と時間に関してはまだまだ充分に余裕もある為そう笑みを返していく。そうして西の都へと繋がる入り口が形成されていくのを見ては、確か自身の村からは何日も掛かったぐらい遠い場所だったなぁと考えつついると、完成したようなのでそちらへと近付く。いつもこの入り口を潜る時はドキドキすると思いながら心の準備をしていたところで、おもむろに彼から手を差し伸べられれば、嬉しくてついぱあっとした笑みを向けては「うん、行こうか」と手を繋いで一緒に入り口を通り抜けて行く。次に視界を開けた時は、茜色に染まったまだほんの僅かに明るい花街の景色。張り見世には格子女郎は居らず、全体的に客も少ない開店前の状態だ。しかし徐々に芸妓屋や遊女屋は準備をしているのか、左右にずらりと並んだ楼の提灯には明かりが灯っていた。奥まで続く遊郭の楼と提灯の景色は圧巻の一言に尽き、更に奥の中央広場らしきところには秋にも咲く不断桜の大きな樹があって綺麗に花を咲いている。ふと、何気無く後ろを見ると、すぐ近くに木製の大門があって此処が入り口よ近くだと分かり、ただ花街の道は分からないので「伽羅ちゃん、次郎太刀さんが何処に居るかって分かるかい?」と髪色を隠す為に笠を被り直して問い掛けてみて)
(周りに花が咲く幻覚が見えるような明るい笑顔を浮かべた光忠が手を握るのを見て、こちらも緩く笑みを浮かべてはしっかりと握り返し入り口を通る。一瞬にして変化した華やかな景色を見渡し、ここが目的地である西の都にある花街だと確認をして密かに安堵の息を漏らしては、光忠からの問いかけに対して「ああ、それなら…」と返事をしようとした所で『おやまぁ、まだ日が降りてない内に来はるだなんて…随分とせっかちな殿方はんでありんすなぁ』と不意に声を掛けられる。声がした方を向くと、そこには赤の布地に紫の縁の着物と深い緑色の帯を締め、赤みがかったうす茶色の長い髪を金色の簪で結った女性が立っていた。帯の締めをわざと緩くして肩と胸元を強調するようにはだけさせており、手には薄い灰色の煙を吐く煙管を持っている。女性は面白がるような怪しくも美しい微笑みを浮かべながらこちらに近寄り、笠に隠れた光忠の顔を下から覗き込んでは『こちらの殿方はん、ほんにお綺麗で可愛らしい顔してはりますなぁ。それに、夜とも闇とも取れる黒の髪…素敵ですわぁ』と、どこかうっとりとした表情をしながら告げる。明らかに獲物を狙う眼差しをしている女性に鋭く尖った視線を向けると、それに気付いたのかくすくすと笑みをこぼして『でも、ざぁんねん…隣の甘茶と金の殿方はんがこわぁい顔してはりますし、つまみ食いはやめときます。ふふ、ほんに残念やわぁ』と言って下がる女性と光忠の間に割り込むように移動してから「アンタ、妖怪だろう。それも相当力が強い」と問い詰めると、女性は赤い瞳を輝かせ、僅かに裂けた舌先を覗かせては『ご名答、さすがの慧眼でありんすなぁ。水の寵愛を受けし竜の神…まさにその名に相応しい清廉なお方ですこと。次郎さまの仰る通り』と、女性は覚えのある名を口にして微笑み)
(不意に第三者の声が聞こえて来ればそちらへと見遣り、格子ではなく店前に居た一人の遊女が目に映る。人目を惹く程の艶やかな着物だが色々と目のやり場に困る着方をしていたので、笠を深く被りやや視線を彷徨わせていると突然下から覗き込まれたので驚いて少し後ろへと退がる。しかも女性には言われた事の無い褒め言葉を言われたのだから返答に困って「いや、あの…そんな事はありませんよ」と苦笑気味にやんわりと否定をするのが精一杯で、微かに冷や汗をかく。この様に華やかな花街で自分になんかに声を掛ける客引きなど居ないと思っていたので、どうしようかと考えていれば間に割って入ってくれた伽羅ちゃんにほっとして、情け無くて格好悪いがすすっと後ろに隠れさせて貰う。それから自身には全く分からなかったが、目の前の遊女は妖怪なのかと会話の遣り取りを聞いてやっと気付き、その口から今まさに探している次郎太刀さんの名前が出れば、この人はあの人の知り合いなのかな?と事の成り行きを大人しく見守っていって)
(まだ日も落ちておらず、店も準備の途中であるこの時間帯に遊女が一人で客引きをしているのはおかしい。遊女を狙った連続傷害事件が起きているのなら尚更だ。そして、その疑いは光忠の黒髪に興味を示した時に確信へと変わった。呪いや不幸だと疎まれているその色を手放しで褒めるのは、人の常識に囚われない神か妖怪のどちらかだ。「大方、次郎太刀に言われて俺達が来るのを待っていたんだろう」と告げると、女性は微笑みながら『ええ、その通り。そちらの殿方はんによう似てはる可愛らしい子が尋ねて来はってなぁ、わっちは次郎さまに出迎えを命じられたんですわぁ』と言ったのを聞き、どうやら無事に次郎太刀の元へ行けたようだと内心で安堵する。しかし、それを聞いた後で新たに分かったことに関して問い詰めようと鋭い視線を向ける。「…アンタ、全部分かってて光忠に言い寄ったのか」と僅かに怒りを滲ませた声音で言うと『やぁん、そないな顔せんでおくれやす。わっちら妖怪の定義、竜神さまだってご存知ですやろぉ?』と妖艶な笑みを浮かべて悪びれる様子も無く告げて『面白ければそれで良い。そう、面白ければ何でもするのがわっちらなんどす。ゆめゆめ、お忘れなきように』と、何処か忠告のようにも聞こえる言葉を口にしてから、くるりと身を翻して『さぁて、お話はここまでにして、次郎さまの所に案内させて頂きますわぁ。しっかりついてきておくんなし』と言って歩きだした女性の背中を数秒見つめてから、後ろに身を潜めるように隠れている光忠へ顔を向け「光忠」と名前を呼ぶ。位置が変わったことで離れてしまった手をもう一度繋ぎ直しながら「大丈夫だ、行くぞ」と短く声を掛けて歩き出し)
(出迎えとの言葉を聞けば、嗚呼だからこんな芸妓屋や遊女屋が開いていない早い時間帯にも関わらず一人だけ遊女の方がいた訳かと、納得をしていく。しかしそうだとしたら、自身にあのように声を掛ける必要は無かったのではと純粋に疑問に思って首を傾げていると、心なしか伽羅ちゃんの少し怒った声が聞こえて来たので慌てて自分は大丈夫だと言うように、背中を軽くとんとんと撫ぜていって落ち着いて貰う為にそう行動で伝えていく。ただ遊女の方はその声色にも動じずに、くすくすと妖艶に笑っていたので何処と無く妖怪の本質を垣間見た気がして、背筋に悪寒のようなものが走る。人型であって人ではない。情のある神様ばかりと接していた為か、妖怪の底知れなさには気を付けようと考えつつ聞き慣れた声で名前を呼ばれると安心して「伽羅ちゃん…ありがとう」と思わず自然に笑みが溢れて今度は離さないよう手を握り締める。そうして、遊女の方の後をついて行って歩いて行けば花街の中でも一際大きな楼の前で足を止め『此処が次郎さまの居る楼どすえ。中には彼方から入っておくんなまし』と着物袖で促されたのは木製の大きな入り口で、如何にも遊女屋と言った雰囲気が漂っていて中々に入りにくいと考えながらも「えっと…行こうか」と伽羅ちゃんの手を引いていこうとし)
【大倶利伽羅廣光】
(歩いている内に段々と辺りが薄暗くなっていき、少しずつ人が増えてきた。夜が近付くにつれてまるで別世界のように独特の景色と雰囲気を放ち始める街中を視線だけ動かしつつ眺めていると、目的地であろう楼へと辿り着く。どうやらこの花街で最も大きな建物のようで、主に赤系統の装飾で飾られているそれは絢爛豪華という言葉が相応しいだろう。指し示された入り口から香る花のような甘い匂いに目を細めながら、入ろうと促す光忠に「ああ」と短く返事をして中に足を踏み入れる。ここまで先導してきた女性は外に立ったままゆらりと片手を振り『わっちはここまで。次郎さまによろしゅうたのんますわぁ』と告げるのが聞こえ、頷きだけを返して奥の方へと進んでいく。徐々に強くなっていく花の香りは恐らくお香ではなく、妖怪が用いる術か道具の一種だ。詳しいことは知らないし知りたいとも思わないが、妖怪が扱う香りや匂い系統は人間に対して幻覚や誘惑の効果を発揮することが多いと聞いたことがある。万が一にでも光忠が惑わされないよう繋いだ手に強く力を込め、立ち止まることなく真っ直ぐ進む。そうして辿り着いたのは赤と金の花模様が描かれた大きな襖で、この先から感じる気配に大きく息を吐き出し、襖に手を掛けて思い切り横へ滑らせると、その先にいたのはあぐらをかいた状態で上機嫌に酒を飲んでいる次郎太刀と、その上に小さく座り込んで頭を撫でられている眷属の姿で、眷属はこちらに気付くなり嬉しそうな笑顔を浮かべて『主ーっ!光忠さーんっ!』と無邪気に両手をぶんぶんと振って)
【次郎太刀】
(最初に姿を見た時は、何でこんな所に一人でいるのかと大層驚いてしまった。けれど、よくよく見れば髪色と両目が違うことと、見覚えのある神気を纏っていることに気が付き、そこから竜神の眷属であると頭の中で結びつくのは早かった。そして眷属の言葉通り、竜神と黒髪の彼がこの部屋へやって来たのを見やり「ようこそ、お二人さん!夜市以来だねぇ!」と明るく笑ってみせる。眷属の頭を撫でていた手を降ろして軽く背を押してやると、眷属はこちらを見上げてにこっと笑みを浮かべ『次郎さん、ありがとうございました!』と礼を告げてから二人の元へと駆け寄っていく。「ここを根城にしてるアタシも悪いっちゃあ悪いんだけどさぁ、こーんな無法地帯にそんな純粋な子放り込んじゃ駄目じゃないのさ。もしも営業中の時間だったら、きっと喰われちまってたよ?」と少しからかい混じりにそう言えば、眷属がぴゃっと小動物のような声をあげて二人の後ろに隠れてしまった。竜神はそれを見て仕方ないと言いたげに肩を竦め、黒髪の彼と繋いでいた手を離しては『光忠、世話を頼む』と後ろにいる眷属のことを指した言葉を口にしてから、自分の近くまで歩み寄り、静かにその場に座る。『次郎太刀』と表情一つ変えずに名を呼ばれれば「うんうん、用件を伺っちゃおうか。単に世間話をしに来たわけじゃないんだろう?」とあくまで笑顔は崩さずに話をするよう促して)
(/背後失礼します!今回の依頼ですが、具体的な犯人等は考えていらっしゃいますでしょうか?もしそうなら教えて頂きたいです!)
(此処まで案内をしてくれた遊女の方にお辞儀をしては、伽羅ちゃんと共に大きな楼閣へと足を踏み入れて行く。すると、漂って来た花の蜜の様な甘ったるい匂いにぐらりと頭を揺さぶられる感覚がして、思わず眉を顰める。この匂いは一体何なのだろうかと戸惑いつつも着物裾で鼻を覆っては何とか匂いを和らげて行こうとするが、奥に行けば行くほど甘ったるい匂いは一層濃くなっていく。意志に反して足が止まり掛けるものの、固く繋いでいた彼の手と温もりが先導してくれていたお陰で、その誘惑を振り切って奥まで辿り着く事が出来た。煌びやかで大きな襖の前まで来ると、甘い匂いはマシになっていた為に少し噎せつつも着物裾を外して普通の空気を取り込んでいく。そうして、呼吸を落ち着かせれば開けられた襖の中を見て其処に眷属くんがいる事を確認すると、ほっと安堵の息を零しつつ笑みを浮かべて小さくひらひらと手を振り返す。それから、こちらに眷属くんが戻って来て次郎太刀さんの言葉に、確かに営業時間だったらあぶなかったなぁと、先程の自身の体験もあって苦笑をしていれば怖がってしまった眷属くんを伽羅ちゃんから頼まれたので「うん、任せて」と快く頷き、離れた手を今度は眷属くんに向けて「眷属くん、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。ほら、手を繋ごうか」と相手を安心させるため手を差し出していき)
(/犯人は、自我を失った悪霊です!ある花魁に一方的に恋をしており、身請け出来ないからと強制的に一緒に心中しようとしましたが花魁は拒否して、結果悪霊だけが死にます。それが憎悪へと変わってしかし憎むあまり自我すら失い、その花魁…赤い蝶の簪が特徴なのですが自我を失っているので、本人ではなく偶々それと似た簪を付けた二人の遊女を襲いました。何故朝方なのかと言うと、その悪霊が死んだ時間なので最も顕現しやすいからです。ザッとこんな感じですが…アレでしたら犯人変えますので何なりと言って下さいな!/・あっ、それと500越えましたねー。これからも宜しくお願いします!)
【大倶利伽羅廣光】
(優しく諭すような光忠の言葉に、眷属は何度も頷きながら差し出された手を強く握りしめ、そのまま光忠にくっついて動かなくなった。あの様子なら大丈夫だと判断し、視線を次郎太刀の方へ戻す。次郎太刀は何処か面白がるようなニヤついた笑みを浮かべており、それに対して怪訝な顔をしながら「…なんだ」と短く問いかけてみるも『いやー、別にぃ?』とはぐらかされてしまう。このまま追求した所で適当に流されるのは分かっていたので、早々に本題に入ろうと思考を切り替える。「三条派の神からの依頼でここに来た」と余計なことは言わずに簡潔に告げると、次郎太刀は目を大きく見開いて『前々から思ってたけどさ…あんた、良くも悪くもとんでもないツキの持ち主なんじゃないのかい?』と言われ、それに関しては何と答えて良いのか分からなかったので返事はしないことにして話を続ける。「ここで起きている『連続傷害事件』の解決を求められた。アンタにはその協力をして欲しい」と、自分達がここに来た理由を伝えて)
【次郎太刀】
(竜神の口から告げられた言葉に「そのことか…」と小さく呟き、片手に持った杯を揺らす。勿論、その事件のことは知っている。それが人間ではなく人外によって引き起こされているということも。正直に言って、人間と妖怪だけでは例の事件を解決することはほぼ不可能に近い。だからこそ竜神が解決に乗り出してくれたのは非常に有り難いのだが、果たして彼に出来るのだろうか。妖怪である自分とも繋がりを持ってくれる程に優しい神である、彼に。「協力云々の前に、事件について話しておこうか。この事件の犯人が人間じゃないことは察してるんだろう?そうじゃなきゃ、神が直々に解決しに現れるわけ無いからね」と問いかけると、竜神は小さく頷いて見せた。それにこちらも頷きを返してから再び口を開き「人外と言ってもね、アタシら妖怪でも無ければ、あんたみたいな神様でも無い。その正体は聞いて驚くなかれ、死して尚この世に留まる人の魂…すなわち『幽霊』。それもとびきりたちの悪い『悪霊』さ」と告げる。予想と反していたのか僅かに驚いた表情になっている竜神に笑みをこぼしつつ「ちょっと長くなっちゃうかもだけど、悪霊になってしまった人間の話…聞いてみるかい?後ろのお二人さんが怪談話に弱くないなら、だけどね」と竜神の後ろにいる黒髪の彼と眷属を見やりながらそう言って)
(/ふむふむ成る程…一方的なヤンデレは怖いですね…。いえいえ、犯人はこのままで大丈夫だと思います!それで相談なのですが、悪霊を引っ張り出す為に囮作戦をしようと思っています。その案として、倶利伽羅か光忠さんか眷属くんの誰かに囮役をして貰いたいのですが、その場合この三人の誰かに女装あるいは女体化してもらうことになります。女装は三人全員可能で、女体化は倶利伽羅と眷属くんの二人が可能です。誰がどのように囮をするか希望はありますか?女装や女体化が駄目な場合は別の作戦を考えますので遠慮なく仰ってください…!)
(差し出した手を握られれば、体温を分けるようにぎゅっとその手を握り返していく。あまりくっ付かれると言った経験は無いので何だか新鮮だと感じつつも、仕草の一つ一つも相まって可愛いと思っては、自身と同じ髪色ではなく一等好いている彼の髪色と同じ甘栗色を撫でていく。そうしながら、視線と意識は二人の方へと向いていて遣り取りを眺めていくものの、幽霊や悪霊の単語が出て来れば、それこそきょとんと目を瞬かせる。それもそのはずそんなのはこの世に居ないと思っていたからだ、しかし現にこうして妖の方に言われていると言う事は実際に存在しているのだろう。怪談話と聞いて、特に自分は怖いものは大丈夫な為に「僕は平気だよ。眷属くんは平気かい?駄目だったら両耳を塞ぐと良いよ」と少し心配気に見た後、そう提案していき)
(/採用して下さりありがとうございます!そうですね、女装も女体化も平気ですよー。希望は特には無いのでトピ主様がやりたい展開で大丈夫ですよ!/・あっ、いえ!抜けはお気になさらずに!はいっ、宜しくお願いします!)
【次郎太刀】
(黒髪の彼は大丈夫そうだが、隣にひっついている眷属はちょっと大袈裟にからかっただけであの怯えようだったから、駄目な部類かなと思いつつ様子を伺っていると、眷属はきょとんとした表情で首を傾げている。それに対して竜神が『…怪談というのは、ようするに怖い話のことだ』と簡潔に説明するのを聞いて顔を青くさせては、ぶんぶんと勢い良く首を横に振って黒髪の彼にしがみついてしまった。耳を塞ぐと良いとアドバイスをされていたはずだけど、どうやらそれすら頭から飛んでしまうほどに怖がっている様子。「大丈夫大丈夫、怪談と言っても本格的な奴じゃないさ。分かる人には怖いと感じちゃう話ってだけだからね」と明るく笑みを浮かべてみせると、眷属は迷っているかのように竜神と黒髪の彼を交互に見つめた後、こくりと小さく頷くのが見えて「うんうん、素直でいい子は大好きだよ」と告げる。「さて、それじゃあ話すとしますか。愛欲に溺れて堕ちてしまった男の話をね」と切り出しては意味深に微笑んで)
【大倶利伽羅廣光】
(悪霊の正体は、この花街に住む花魁の女に恋をした男だった。その男の想いは常に一方通行であり、女が想いを受け入れることは無かった。男はその想いを暴走させ、無理矢理に女と心中しようとする。しかし、最終的に命を落としたのは男だけだった。男の想いはそのまま憎悪へと形を変え、悪霊となって蘇ってしまった。『…で、その花魁の子は赤い蝶の簪を付けていたそうでね。それに似た簪を付けていたが為に、あの子達は襲われちまったのさ』と口にしてから、次郎太刀は手に持つ杯に入った酒を飲み干した。…悪霊についてと二人の遊女が襲われた理由は分かったが、一つ腑に落ちないことがある。「そこまで分かっているなら、何故アンタが動かないんだ」と率直に聞いてみると、次郎太刀は空になった杯に再び酒を注ぎながら『それが厄介なことに、悪霊が出て来るのは決まって朝方なんだよ。アタシら妖怪は日が高い内は上手く力が発揮出来ないからねぇ…人間相手ならまだしも、人外でしかも悪霊が相手となっちゃあ難しくってさ』と、どこか落胆したような表情で答えた。それならば、妖怪の住むこの花街で連続して事件を起こすことが出来たのも頷ける。『だからって何もしてないわけじゃない、悪霊退治までの段取りは考えてあるんだよ?ここに特別に作らせた赤い蝶の簪がある。これを着けた誰かが囮になって、まんまと釣られた悪霊をバシッと退治するって寸法さ』と、懐から簪を取り出して見せながらそう告げられるやいなや「そうか。それなら話が早い、俺が囮になる」と迷う事無く当然のように囮を買って出ると『あっ、主!駄目です!主が怖い思いをするのは絶対駄目ですっ!』と眷属の焦った声が聞こえ、振り返るより先に思い切り背中に抱きつかれて)
(/了解しました!自分で複数の案を出しておいてなんですが、よく考えたら倶利伽羅が二人を囮にさせるわけが無かったので、囮作戦は倶利伽羅を女体化させて実行しようと思いますー)
(次郎太刀さんの口から語られていくのは、何とも浅ましくも気の毒な或る一人の男性の恋情噺しだった。両想いで、相手も死ぬ気なら心中と言う選択肢でも良いと自身は思ってしまうのだが、実らない片想いならば潔く身を引くのが美徳だろうと思いつつ、最後まで複雑な表情で話を聞いていく。そうして聞き終われば、つまるところ今回の犯人はその心中しようとしたが失敗し且つ一方的な想い人を逆怨みして悪霊になった元人間、と言う事かと納得していく。更に被害者は、その想い人と勘違いされてしまった為に今回被害を受けた訳であり、原因は赤い蝶の簪らしい。次郎太刀さんの囮作戦を聞きつつ、遣るならそれぐらいしか役に立てない自身が遣ろうと手を挙げ掛けたが、その前に彼が名乗り出た為に目を瞬かせ「えっ?伽羅ちゃん、危ないから僕が遣るよ?」と心配気に見て相手の背中に抱き着いている眷属くんを宥めつつ言ったものの、しかしふと気が付いた事があり、最悪自分では囮役以前に足手纏いだと思っては「…それとも、危ないからこそ力のある君が遣った方が良いのかな?」と情けない事に自分自体には何の力も無い為に、眉尻を少し下げて苦笑気味に問い掛けていき)
(/了解ですー。光忠の性格上、大切な伽羅ちゃんに危険な事をさせるぐらいなら自分が進んでやりたいけど、逆に足手纏いになるんじゃ無いかと思って悩んでいますが、お気になさらずにそのまま伽羅ちゃんで囮作戦を実行して下さい。/・あっ、それとですが初期の頃から思っていましたが眷属くんとても可愛いです…!癒しです…!)
【大倶利伽羅廣光】
(遠慮なしに力を込めて抱きついている眷属に、片手を動かして頭を撫でてやる。自分と同じ色をした髪がふわりと揺れ、不安そうな表情でこちらを見上げてきたのを見て「大丈夫だ」と告げる。続いて光忠の方へ視線を向けて「元々は俺に出された依頼だ、アンタにやらせるわけにはいかない」と、改めて自分が囮役を引き受けることを告げる。自分は心が読めるわけでは無いが、困ったように笑う光忠がまた自分のことを必要以上に卑下しているように感じ、真っ直ぐ相手を見据えて「…俺は、アンタが無力だと思ったことは一度も無い」と、余計な言葉は使わずいつものように短く自分の思っていることを告げ、眷属に光忠の元へ戻るように伝えてから、次郎太刀の方に向き直る。次郎太刀はまたニヤついた表情をしていたが、その事に突っ込んでもまともな答えが返って来ないのは分かっていたので黙っていると『囮役が決定したのはいいけど、具体的にどうやるんだい?幾ら自我を失った悪霊でも、さすがに男と女を見間違うことは無いだろう?まあ倶利伽羅は綺麗な顔してるし、女装して化粧を施せばイケそうな気もするけどねぇ』と至極最もな問いかけをされては、さほど間を置かずに「それなら問題は無い」と答える。即答されたことに次郎太刀は意外そうな表情をしていたが、すぐに面白そうだと言いたげな笑みを浮かべて『へえ、どうする気なんだい?』と聞いてきた。実際にやって見せようと、一旦目を閉じてはパチン、と片手の指を鳴らして)
【次郎太刀】
(何をするつもりなのだろうと内心で楽しみにしながら眺めていると、竜神が指を鳴らす。すると部屋全体を眩く照らすような閃光が一瞬だけ起き、気が付くと目の前に座っていたのは一人の美しい女性だった。畳の上に落ちる程の長く淡い甘栗色の髪に大きくぱっちりとした睫毛の長い金色の瞳、線の細くなった体格に先程まで無かった胸の膨らみ…どこからどう見ても女性そのものだ。『わぁっ、主のその姿、とっても久し振りですね!』と、無邪気にはしゃぐ眷属の声が聞こえてようやく我に返り「うっそぉ…神様ってホントに何でもアリなんだねぇ…」と心の底から驚嘆しながらそう呟くと、目の前の女性…竜神は表情一つ変えずに『見た目の性別を変えるぐらいは神なら誰でも出来る』とさらりと口にしてきた為に、つくづく神という存在は常識離れしていると感じるも、それだけとてつもなく面白いとも思う。現に自分はすでに目の前で起きた現象に慣れているし、驚きよりも楽しいという気持ちの方が遥かに強い。「あっはっは!これだけの美女に引っかからない男がいるはず無いねぇ!囮じゃなくても最高だよ、この簪もきっとよく似合うだろうさ!」と大きく笑いながらそう言って、竜神に向けて赤い蝶の簪を差し出す。「これは預けておくとするよ。明日の明朝、それを着けて適当に歩き回ってみな。必ず釣れるはずさ」と言ってから、続けて「今から帰ってまたこっちに来るのも面倒だろう?今晩はこの部屋で休みなよ。アタシは別の部屋を使うから気を遣う必要は無いからね」と、今日の所はここで休むように告げて)
(/分かりました!遠慮なく囮作戦をやっちゃおうと思います。自分でも気が付かない内に眷属がマスコット的存在になってて驚いてますが、そう言って貰えると嬉しいです!これからも全力で愛情表現してくると思うので存分に癒やされてやってくださいー)
(伽羅ちゃんの性分的に、彼はとても優しい性格だからこう言った危険な事は自分で行なってしまうだろうと思っていれば矢張り予想通りで、しかし正論であった為に此方は何も言わずにいて。不意に無力云々に関して言われると、言葉には出していなかったものの顔には出てしまっていたのだろうかと考えたが、相手の優しくも温かみのある言葉に何だか胸内の重荷がすっと降りたような気がして、ぽつりと「…ありがとう」と緩やかにはにかんでは御礼の言葉を述べていく。それから囮作戦について話し合いがされていくと、確かに男性と女性だと体格差もあって女装をしても厳しいのではとボンヤリ考えながらいれば、何か策があるらしい伽羅ちゃんの返答に次郎太刀さんと一緒になって自身も興味津々に彼を見遣る。すると、指が鳴らされたと同時に一瞬の閃光が部屋を埋め尽くし再び目を開ければ目の前に居たのは見知らぬ女性。いや、見知らぬではなく褐色の肌、金色の瞳、甘栗色の髪と見覚えのあり過ぎる特徴に少し間を置いては、彼女が伽羅ちゃんだと言う事に遅れて気が付く。神様って何でもアリなんだなぁと次郎太刀さんと全く同じ事を思っては、普段から綺麗な容姿ゆえ女性になっても凄い美人だと思いつつ、赤い蝶の簪を渡されていくのを見ていく。アレで悪霊を釣るのかと考えては、如何やら部屋を貸してくれるらしい次郎太刀さんに「ありがとうございます」とぺこりとお辞儀をしては、伽羅ちゃんの方に近付いて「えっと、伽羅ちゃん…だよね?何だか凄い美人さんだから話し掛けるのも恐縮だけど、…神様って見た目の性別まで変えられるんだね、凄いや」と笑みを浮かべたまま包み隠さず思っていた事を話していき)
(/了解しましたー。眷属くんは本当に浄化的な存在です、これからも沢山癒されていきますねー。では他になければこれにて失礼しますが、大丈夫でしょうか?)
(次郎太刀の提案はこちらとしても有難かったので頷いておく。場所が場所なだけにこの時間帯に宿を探して出歩くのは光忠と眷属に別の意味で危険が及ぶだろうし、次郎太刀の息が掛かったこの建物ならば安全も保証されているだろう。自分の頷きと光忠のお礼を受けた次郎太刀はにっこりと微笑んで『それじゃあアタシは外に繰り出すとするかな。また明朝にね~』と片手をひらひらと振りながらそう言い、そのまま部屋の外へと出て行った。それを見送った後、言葉は何処か遠慮がちながらも性別が変化した自分に対して素直な感想を話す光忠に「別に大した事はない、こういう時でも無ければ役に立たない力だ」と自らの華奢な手を眺めながらそう告げる。見た目の性別が変わったからといって力が劣るわけでは無いのだが、男の体と女の体では使い勝手も違ってくる。少しでも慣れる為に明朝の作戦決行までこの姿のままでいるかと考えていると、眷属が『あっ!』と声をあげたのが聞こえてそちらを向く。『簪って、髪を難しいやり方で纏めないと使えないんですよね?僕、やり方知らないです…』と言ってきたのを聞いては、そういえば自分も髪の纏め方を知らない事に気が付き、どうしたものかと畳の上に散らばる自分の髪を見つめる。知っていそうな次郎太刀はすでに出掛けた後で、この建物にいるであろう遊女達に聞くのは少々怖い気もする。「…適当に束ねて挿すか」と、どうせ自分の髪なので多少雑に扱っても良いかという考えからそう呟いて)
(/はい、大丈夫です!ありがとうございました、また何かあったらお願いしますね!)
(神様にとっては些細な力でも矢張り人にとっては時に奇跡の様に見え、謙虚でも謙遜でも無く本心からの相手の科白に小さく笑みを零しては、緩く首を傾げ「そうかな?けど、君のその術のお陰で助かったよ。有難う」と改めて感謝の言葉を伝える。流石に男が女装と言うのは無理があっただろうし、敵が理性無き悪霊とは言え変装に無理があって出現しなかったら元も子も無いので、危険な事を任せてしまうのは如何にも気が引けるもののそんな風に思考を巡らせていると、不意に聞こえて来た眷属くんの短い言葉に視線を其方へと流す。何やら簪の使い方に関して戸惑っている様で、髪を結われる方の件の彼も遣り方を知らない様だ。ならと口を開いては「伽羅ちゃん、もし良ければ僕が髪を結ってあげようか?折角綺麗な髪をしているのだから乱雑に扱ったら勿体無いしさ。格好良く…じゃなくて、可愛く纏めてみせるよ」と畳に流れる様に広がっている艶めいた甘栗色の髪を見つつ部屋の鏡台を一瞥してつげ櫛がある事を確認すると、良く母親の髪を束ねていた記憶が朧げながらも有るのでそう尋ねてみて)
(/遅れて済みません…!あまり声を大きくして言える事ではないのですが、身内に不幸が有りまして手続きをしていましたら此処に来るのが遅くなってしまいました…。一言書き置きをしておけば良かったのですが、其処まで頭と手が回らない状況でした…誠に済みません。まだトピ主様がいらっしゃるかは分かりませんが、お返事を置かせて頂きます)
(自分の大雑把な発言を見かねてか、それとも実際にやったことがあるからか、あるいはその両方か。光忠からの思いもよらない発言に少し驚いていると、眷属がぱっと笑顔を浮かべて『主!ぜひ光忠さんにやってもらいましょう!』と何処か楽しみにしているような様子で進言され、特に断る理由も無いので「それもそうだな」と呟いた後、光忠の手に赤い蝶の簪を渡し、鏡台の前まで移動してからそこに腰を降ろす。鏡に映ったいつもと少し違う自分の姿を数秒眺めてから、鏡越しに光忠へ視線をやり「アンタの好きにするといい。特にこだわりは無い」と、どんな風になろうと自分は一切口出ししないことを暗に告げる。その言葉を聞いて何故か眷属の方が表情を輝かせ『光忠さん!すっごく可愛くして欲しいです!主がもーっとキラキラしちゃうくらいがいいです!』と抽象的で無茶振りにも思える要望を光忠にしているのを聞いては「…程々でいい」と釘をさすように呟いて)
(/いえいえ、そのような事情でしたら仕方が無いと思います。お返事が貰えただけでもこちらは充分です!あまり気になさらないでくださいねー)
(眷属くんの後押しする様な嬉々とした声が聞こえて来れば、伽羅ちゃんから了承の言葉と共に向けられた赤い簪を壊さないよう慎重に受け取っていく。一足先に鏡台へと移動をした相手の後を追うかの如く、自身もそちらに足を進めるとつげ櫛を手に取り彼の髪を梳きやすい様に膝立ちになっていき、ふと双方から告げられた要望を確と耳に入れると「うん、任せてくれ。程々に可愛くするね」と二つの言葉を組み合わせて返していく。そう言えば花魁の髪型は確か、横兵庫、島田髷、勝山髷などがあるものの何れが相手に一番似合うだろうかと考えていって、髪も長い事だし後ろから見ると蝶々の様な形に纏める横兵庫が良いかもしれないと思っては、早速つげ櫛を持った手を動かしていく。何度か細長い髪を梳き梳かした後、正直見様見真似だが何とか横兵庫の髪型になるよう髪を括っていき、四苦八苦しながらも其れに近い感じのアップの髪型を作れば簪を差して恐る恐る「取り敢えず、こんな感じだけど…如何かな?」と問い掛けてみて)
(/お優しい言葉をありがとうございます…。毎度毎度こちらが迷惑を掛けてしまい申し訳ありません)
(どんな髪型にしようか考えているのか、少しの間黙っていた光忠が不意に手を動かして髪に触れ、そのまま櫛で綺麗に整えていくのを鏡越しに見つめる。くすぐったいとも心地良いとも思う感覚と、時々手を止めては悩んでいる表情を浮かべる光忠に、自然と表情が緩んでしまう。自分を含めた部屋にいる三人共が無言のまま数十分が経過し、光忠から問われた言葉に改めて鏡に映る自分を眺める。使っている装飾品が赤い蝶の簪一つのせいか、自分が知る遊女の豪華絢爛さには到底及ばないだろう。…だが、自分は目立つのはあまり好きじゃないし、そもそも遊女でも無ければ女でも無い。髪型に特にこだわりは無かったが、このぐらいが自分好みだと思う。「ああ、これでいい」と短く感想を伝えれば、黙って見守っていた眷属が『すごいです光忠さん!あんなに長い主の髪をぱぱっと纏めちゃうなんて、魔法みたいです!』と例の如く大はしゃぎするのを見て「…あまりはしゃぐと、明日まで持たないぞ。今のお前は少し力があるだけの人間だからな」と遅すぎるような気もする忠告を口にする。すると眷属がハッとした様子で『そうでした!明日の朝一番でしたよね、だったらもう寝ないと!』と言った後、部屋の隅に置かれていた布団を手際良く敷いていく。大方、光忠の動きを見て覚えたのだろうと思いながら様子を見ていると、眷属が光忠の手を両手で握り『光忠さん!一緒に寝ましょー!』と無邪気にそう告げて)
(/こちらこそ、いつも返事をする時間がバラバラで申しわけ無いです…。これからもお相手よろしくお願いしますね!)
(短いながらも嫌がっている声色ではなかったのでホッとし、やや緊張気味だった硬い表情から緩く笑むと「そっか、お気に召した様で良かった」と言っては持っていたつげ櫛を鏡台前へと置いていく。次いで眷属くんに魔法と称されれば髪結いの技術など全然だが、そう評価される事自体は嬉しかった為「ふふ、有難う。少しは役に立てて良かったよ」と嬉しげな声色で言い微笑む。それにしても、自身の拙い髪結いでも矢張り元々伽羅ちゃんが美人ゆえ赤い簪も相俟って綺麗だと、思わず見惚れてしまい掛けるも耳へと相手と眷属くんの遣り取りが聞こえて来れば、確かに作戦の決行は早朝なので早く寝ないとと思い。使ったつげ櫛を椿油に浸してはそれから布団を敷こうと腰を上げたところで、どうやら既に準備をしてくれたらしい眷属くんに手を握られると、弟を持った兄の様な気持ちになってほっこりしつつも「うん、僕なんかで良ければ是非此方からもお願いしたいな」と頷いていく。ただ寝る前に彼へと向き直っては「あっ、伽羅ちゃん。髪だけど一旦解くかい?肩が凝っちゃうと悪いしさ」と確か神様は睡眠を取る必要が無いので髪型が夜通しそのままでも平気だとは思うが、窮屈なのも申し訳無いと考えて問い掛けてみて)
(/いえいえ、それは私もそうですのでお構い無く…。済みません、改めて此方こそ宜しくお願いします!)
(確かに、夜通しこの髪型というのは正直辛い。この髪型をするだけで頭が重くなったような感覚がするのに、遊女達はこれに多くの髪飾りを着けているのだ。なんともないように振る舞う遊女達の我慢強さを身を持って体感するとは思わなかったと内心で考えつつ「ああ、そうさせて貰う。明日、もう一度頼む」と光忠にまたやって貰いたいことを伝えては、簪を抜いて髪を解く。ぱさりと音を立てて畳に落ちた髪を片手で払う仕草をしていると、眷属が何かを思い付いた顔になってこちらに駆け寄り『主も一緒に寝ませんか?』と妙な提案をしてきた。一瞬呆けた後に首を傾げていると『だって、僕ばっかり光忠さんを独り占めするのは良くないです…』という言葉を聞けば、そんなことを気にしていたのかと思わず笑い混じりの声が漏れる。手を伸ばして眷属の頭を軽く撫でながら「悪いが、俺は次郎太刀と話があるからここを離れる。俺の代わりに光忠を任せたい、出来るな?」と、その場の思いつきで適当に作り上げた断りの理由を口にしては、視線を光忠に向けて「(しばらく付き合ってやってくれ)」と眷属には聞こえないよう声無き声を送って)
(見るからに重たそうな髪型にしてしまった為に緩やかな動作で艶やかな髪が解かれる様子を見つつ「うん、勿論だよ。また任せてくれ」と何度でも相手の役に立てるのは嬉しいので和らげに微笑んでいく。予め起きる時間を少し早めておこうと考えながらいると、不意に伽羅ちゃんへとある提案をした眷属くんを眺めつつ、其の理由に何だか自身の扱いをそう言って貰えて凄く恐縮だと思ったが、ただ彼と同じくそんな眷属くんをつい微笑ましく思ったため小さな笑みを零す。それから、声無き声で伽羅ちゃんから言葉が送られてくればきっと次郎太刀さんとの話し合いは本当では無いのだろうと色々と察し、了解と言わんばかりにこくりと頷くと眷属くんの側に寄ってはその手を優しく掴んで「眷属くん、伽羅ちゃんもそう言ってくれた事だし二人で寝ようか。彼が頼りになるのは勿論だけど、君も頼りになるから今日も安心して寝られそうだよ」と頭を撫でては寝室に促そうとして行き)
【大倶利伽羅廣光】
(多くを語らずとも光忠は自分の思惑を悟ってくれたようで、眷属に話しかけながらさりげなく寝室へと誘導する。眷属の使命である主の命令と、光忠と一緒にいたいという願いを同時に叶えられることに気付いたのか、ぱあっと明るい笑顔を浮かべては『はい!任せてください!』と力強くそう言い、光忠の誘導に従って上機嫌な様子で寝室に向かって行った。良くも悪くも単純な奴だ、と僅かに苦笑を浮かべては「さっきの言葉は適当だったが、次郎太刀と話がしたいのはあながち嘘じゃない。少し出て来るが、その間よろしく頼む」と改めて光忠に眷属の面倒を見てくれるよう頼んでから、部屋の襖へと手を掛ける。…と、そこで襖の向こう側の気配に気付いて僅かに顔をしかめてから「…遅くなるかもしれない」とぽつりと呟くように付け加えては、襖を開いて部屋の外へと出た後、振り返らずに素早く襖を閉める。それから、目の前に立っている二人の妖怪へと視線を向けて「立ち聞きか」と問いかけて)
【次郎太刀】
(この建物はありとあらゆる場所に妖怪の術が施されている。唯一術の影響下に無いのが竜神と黒髪の彼、そして眷属がいる部屋だ。神とは真逆の妖の力が満ちたここでは、得意の気配察知もまともに機能しない…と、思っていた。それなのに部屋を出る前に自分達のことを察知した竜神には感服するしか無く「あっはっは!さすがは竜神様だねぇ、バレちゃったか!」と大きく笑ってみせる。隣に立つのは自分の部下であり、彼らの案内役を務めた女性型の妖怪が口元に手を当ててくすくすと微笑み『ほんに、面白いお方ですわぁ。さすがは次郎さまが見込んだ殿方ですこと』と言うのを聞いては、竜神が部下に向けて鋭い視線を向ける。「まーた余計なちょっかいかけたのかい?」と部下に聞いてみれば『だぁって次郎さまぁ?あんなに素敵な黒い髪をお持ちの方を目の前にしたら、わっちらなんかマタタビ与えられた猫同然ですやろぉ?』と艶っぽく笑うのが見えて、反省の色が全く無いのがよく分かる。「悪いねぇ、倶利伽羅。あたしら妖怪ってのはこういう種族だからさ」とフォローになってないような発言をしては、がっしりと今は細くなった竜神の肩を掴み「と、いうわけで!お詫びの印にこれから一杯やろうじゃないのさ!」と誘いをかければ露骨に竜神の顔色が変わり、逃げようとする体に足払いをかけて傾いた所を瞬時に俵担ぎする。『やぁん、次郎さまったら鮮やか~!』『おい!降ろせ!アンタと飲むとろくなことが無い!』という周りの声を耳にしながら、襖の向こう側に聞こえるように「みっちゃーん!倶利伽羅借りてくよ~!明朝までには戻るからね~!」とどさくさ紛れに親しみやすい呼び方を混じえつつそう呼びかけてから、暴れる竜神が落ちないようしっかり支えつつ歩き出して)
(無邪気に笑う眷属くんを見ては、素直で可愛いと思いつつ寝室へと向かって行くのを見届けて、続けて掛けられた声に後ろを振り返れば「そっかぁ、うん分かったよ。任せてくれ。伽羅ちゃんは次郎太刀さんとゆっくり話して来て大丈夫だよ」と相手から頼み事をされれば責任を持って全うしようと密かに意気込みながら、ひらひらと小さく手を振っていく。が、不意に何やら襖を開ける彼の手が一瞬止まったように見えたので首を傾げたものの、次いで聞こえて来た言葉に何か遅くなる要因でも察したのだろうかと、またもや不思議に思ったが「時間については気にしなくて平気だよ」とだけ伝えて、部屋からその二回りも小さくなっている背を見送っていく。それから数分もしない内に響き渡った次郎太刀さんの声に、嗚呼だからかと納得しては「ええ、分かりました。明朝までには必ず戻って来て下さいね」と口端に片手を充てて少し大きな声で返答すると、伽羅ちゃんってお酒強いのかなと思いながら大丈夫かなと心配しつつ、眷属くんの待つ寝室へと入って行く。冬に近い秋ゆえ少し分厚い羽布団を持ち上げては「さてと、消灯の時間だね。寝る準備は大丈夫かい?」と寝る前に遣り残した事は無いか眷属くんに問い掛けてみて)
(僕がずっとずっと思っていたこと。それは、人間のように自由に動く体と聞こえる声で光忠さんにたくさん気持ちを伝えること。主を通してしか言葉を伝えられなくて、小さな体を一生懸命動かして意志表示するしか無くて。光忠さんはとっても賢いから、僕の言いたいことをいつも察してくれていたけれど、それでも直接言葉を伝えたかったし、ぎゅっと抱きしめて安心してもらいたかった。でも、眷属の姿を変えるには主の力を借りるしか無くて、少しずつ弱っていく主を見てきたから人間の姿にして欲しいなんて言えなかった。でも、悪い神様をやっつけて、前より元気になった主に人間の姿を与えて貰って願いが叶った。だから僕は、人間の姿でいられる今の内に光忠さんにたくさん気持ちを伝えたい。僕の気持ちはちゃんと光忠さんに伝わってるのかな。そんなことを考えていたら光忠さんから声を掛けられて『はい!ばっちりです!』と答えてから、先に布団の中に潜り込む。ぽかぽかとした暖かさとふわふわな感触が気持ちいい。光忠さんが入れるようにあまりスペースを取らないように気を付けながら『光忠さん、暖かいですよ!早く早く!』と呼びかけてみて)
(思えば、眷属くんとこう言う風に音のある言葉でやり取りをするのは矢張り新鮮だなぁと思いながらも、子供の様に純粋無垢な相手を微笑ましく見ては「うんうん、それじゃあお隣に失礼するね」と続けて布団の中に入り込んでいく。ふわふわとした感覚を下に感じつつ、羽毛布団特有の温かさに眠気が誘われるものの格好悪いため欠伸などは出来ず我慢し、ふと直ぐ横で床に着いている眷属くんを視界に入れては「本当だ。この布団温かいね。良く眠れそうだ」と笑みを零すと、おもむろに手を伸ばして其の頭を緩やかな手付きで撫でていき、隣に温もりが有るのは心地良いなと口元を緩めれば「…誰かと布団で一緒に寝る事なんてあまり無いから、何だか凄く嬉しいよ」と小さな声ながらも伝えていって)
(光忠さんも暖かいと思ってくれているようで、同じ気持ちになれたのがとっても嬉しい。けれどそれだけじゃなくて、光忠さんは僕の頭を撫でてくれた。主がいつもするような優しい手付きで、主に撫でられた時と同じくらい幸せになる。主が帰って来たら、主にもたくさん撫でて貰いたい。でも今は、光忠さんにたくさん撫でて欲しい。…そう思っていると、光忠さんが小さな声で僕に言葉を告げた。思わず顔を上げると、そこには微笑む光忠さんがいる。けど、さっきの言葉はなんだかちょっと悲しい感じがした。それは主が時折見せる悲しい表情と似ているような気がして、それを無くす為に光忠さんをぎゅうっと抱きしめる。『こうしたら、もっと嬉しい気持ちになってくれますか?』と問いかけながら、じっと光忠さんの一つだけの瞳を見つめてみる。主より柔らかい色をした金色の瞳。主と同じ優しい口調。主のように傷がいっぱいある心。主と光忠さんは全然違うはずなのに、二人はなんだか似てる所が多い。だからこそ、主と光忠さんはお互いを選んだのだと思う。『僕は…僕達は、主や光忠さんが嬉しい気持ちになってくれると、とっても幸せです』と気持ちを伝えて、にっこりと笑顔を浮かべて、それから…なんだか、目の前が霞んできた。段々と目を開けていられなくなって、もしかしてこれが眠るということなのかな、と頭のすみっこで考えて『だから…ぼくは…ずうっと、あるじとみつたださんの、そばに…』と、お願いのような言葉を口にして、それを最後に意識が落ちていき)
突然、ごめんね。
一度お話の方をストップさせて貰うよ。
ちょっと背後が意気地無しでね、僕から大切な事を伝えさせて貰うね。君と君の背後さんとの遣り取りは凄く凄く楽しかったんだけど、色々と此方の理由があってこれ以上続けられそうに無いんだ。…ごめんね、これだけ何度も待たせておいた癖に唐突にこんな事を言うだなんて。…理由については詳細は暈させて貰うね、きっと言っても君と君の背後さんを困らせて嫌な思いをさせてしまうだけだからさ…。ただ、絶対に飽きたとか君が嫌いになったとかではないからね、それだけは絶対に違うよ。こんな立場だから説得力なんて無いけど、それだけはどうか信じてくれたら嬉しい…。
無言で居なくなってしまうのは、さすがに此処まで遣り取りをした君や君の背後さんに失礼だし、それだけはしたくなかったから、こうして伝えさせて貰っているのだけど…逆にこれが嫌だったらごめんね。それと、本当は僕の背後の口から話すのが一番良いのだけどそれが出来ない意気地無しで本当にごめんよ。
…全面的に僕が悪いから、君は何も気にしないでくれ。我が儘な僕に此処まで付き合わせてしまってごめんね、君との遣り取りは凄く楽しかったよ有難う。それと、こんな最後まで自分勝手な文を読んでくれて本当に君と君の背後さんには感謝しきれないよ。
それじゃあ…僕は伽羅ちゃんの幸せを願って、ここで失礼するね。
…そうか、分かった。アンタ達に合わせてこちらも背後ではなく俺が返事をさせて貰う。
まず、アンタ達自身に何事も無くて安心した。こちらが現実の方を優先して構わないと言ったが、実際に返事が無いと何かあったのではないか、こちらに粗相があったのではないかと不安になるのが常でな。大袈裟だが、アンタ達が健在だということが何より嬉しい。
理由も、詳しくは聞かない。誰にでも話したくないことはある、それを無理に聞こうとは思わない。俺も背後も、アンタ達のことを信用してる。だから、『嫌いになったわけでも飽きたわけでもない』というアンタ達の言葉も信じる。
何かもっと、気の利いた言葉を言えればいいんだが…すまない、俺も背後も、上手く言葉で感情を表現するのが苦手だ。だが、アンタ達とのやり取りは本当に楽しかった。幸せだった、と言っても過言じゃない、と思う。…少し恥ずかしいが。
…正直、アンタ達以上の相手が見つかるとも思えない。だから、別の相手を探すことはせずにこの場所はこのままにしておく。
もう叶わないかもしれないが、もし、アンタ達が戻りたいと思った時は…また来てくれ。俺達はいつでも待ってる。待つのは得意だからな。
俺の傍にいてくれてありがとう、光忠。
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