大倶利伽羅 2016-07-11 22:55:28 |
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(如何やらもう一方の神様とは別れる様で、相手の言葉を聞いた後に薄っすらとした何かの気配が消えて行くのを肌で感じ取る。たぶん、言葉的にその神様とは後で落ち合うのだろうと思いながらも「うん、帰ろう」と頷く。それから薄暗い山の中でも綺麗に光る神域の入り口を見れば、中に入ろうと思ったものの丁度良く眷属くんが帰って来たので足を止めて「あっ、お帰り。お疲れ様」と笑みを向けて労いの言葉を掛ける。その後に何故か嬉しそうに旋回し自身の肩に乗った眷属くんに首を傾げたが、彼は何か分かったらしく“仲良しらしいぞ”と告げて来る相手に、こちらはもう一方の神様の青い小鳥の眷属が見えない為に益々不思議に思ったが、けれど彼の笑みを見れば細かい事など如何でもよくなって、自身も嬉しくなってくすりと微笑みを零すと「ふふ、よく分からないけど伽羅ちゃんと仲良しか。嬉しいな」と伝えれば相手を追って入り口を通り抜け神域へと戻る。再び、目を開けると景色は鬱蒼とした森ではなく神秘的な光が舞う中庭へと変わっていて、無事に神域へと帰って来た事が分かる。相手や自分の事を出迎えてくれた光もとい他の眷属くん達に小さくお礼を言いつつ、前に居る彼を見ては「…そう言えば、話は居間でするかい?立ちっぱなしは君にも悪いしね」と今日一番動いたのは相手である為に疲れているだろうと考えて、座れる場所で話す事を提案していき)
(見慣れた景色と眷属達を視界に入れ、戻ってきたことを改めて認識する。力を多く失ったのと負傷したのとで体から抜けなかった疲労感が少し軽くなり、昨日程では無いが僅かな眠気も感じる。この程度ならば、自分の意思とは関係無く突然眠ってしまうような事態にはならないだろう。出来ればあの時の相手の顔はもう見たくはない。眠気を払う為に何度かまばたきを繰り返しつつ「そうだな」と短く返事をし、中庭を横切って居間へと向かう。自分が昨日と似たような状態になっていることに眷属達は気付いているようで、光達は何か言いたげに点滅を繰り返し、池を泳ぐ鯉達はぱしゃぱしゃと水飛沫をあげているのが見えて「大丈夫だ」と告げるも、彼らからの訴えが止まることは無い。眷属達は自分から相手へと訴えの矛先を変えたようで、幾つかが周りを飛び、幾つかが相手の背中を軽く押している。『主を休ませてください!』という眷属全員の総意が伝わってきて「おい、よせ。光忠とあいつの三人で話すことがある、休むのはその後だ」とやめるように言うも『そう言って昨日はあんなことになったじゃないですか』と言わんばかりの意思が突き刺さってきて何も反論が出来なくなる。どうして自分は誰かに心配をかけてばかりなのだろうかと自らの不甲斐なさを情けなく思いながら「分かったから、光忠を巻き込むな」と観念したように呟けば、光達は相手の傍から離れて辺りを漂い始め、鯉達は水飛沫を上げるのを止める。再びため息を吐いては「…すまない」と相手に謝罪をして)
(居間へ向かおうとした所で、不意に眷属くんや池の鯉が慌ただしく点滅したり水音を立てている事に気付いて、動かしていた足をピタリと止める。次いで背中を押されれば、一瞬驚いて目を瞬かせるも何かを訴えている事をヒシヒシと悟ると、それを汲み取ろうと眷属くんに問い掛けようとしたタイミングで、彼の言葉を聞けばそう言う事かと察する事が出来る。“休むのはその後”と言う言葉から推測するに、眷属くん達はパッと見では分かりにくいが恐らく相当疲れている相手の事を心配して、きっと今でも休む事を訴えているのだろう。彼に無理をさせてしまうのは自身にとってもそれは不本意だ。謝罪を述べてくる相手に視線を遣ると、なるべく優しく諭す様な声色で「…ねっ、伽羅ちゃん。やっぱり休もうか。ほら僕もお腹空いたしさ。それに話は明日でも僕は大丈夫だよ」と少し狡いが自分も休む意思を敢えて伝えれば、彼も休みやすくなるだろうと踏んでそう笑みを浮かべて話していき)
(気遣うようにそう言われてしまっては無下にするわけにもいかず、こうなることを見越して光忠を頼ったのか、とやや恨めしそうに眷属達へ視線を向けると、その視線から逃れるように光達が散り散りになり、池の鯉達が水底に沈んでいく。こうなってしまっては文句を言うだけ無駄か、と早々に諦めては「…ああ、分かった」と力無く返事をしてそのまま居間へ向かい、畳の上に腰を下ろす。『お腹が空いた』と相手は言っていたが、十中八九自分を休ませる為にわざと言ったに違いない。しかし、昨日も大体このような時間帯に相手が食事を作っていたことを思い出しては、単にいつもの習慣通りにしようとしているだけなのかもしれないと考えて。だったら相手との話は明日にした方がいいだろうか、貞はすぐ戻ると言っていたが、夜遅くになってしまう可能性を考えると無理に相手を付きあわせて睡眠妨害をするのもはばかられる、なら今日の所は貞と二人だけで今後の話をするべきか…と、結局休む気など毛頭無い思考を巡らせそこまで考えてから相手の方へ顔を向けて「光忠、アンタの言う通り話は明日になるが、構わないか」と念のために問いかけて)
(相手の視線を避ける様にして逃げて行く眷属くんと鯉達を見ては苦笑を零し、けれど本当にみんな主である彼の事が心配だったんだなぁと思うと、矢張り休ませると言う選択肢を取った事に悔いは無い。そのまま返事を聞いて居間に到着をすれば腰を降ろした相手を見て、布団は必要かなと思いながら一先ず自分も畳に座って行く。そう言えば、先程にお腹が空いたと言ったからか本当にお腹が空いてきたので軽めに何か作ろうと考えていると、彼から問い掛けられたそれに「うん、勿論。今日は伽羅ちゃんはゆっくり休んでね」とまさか相手が休む気が無いとは知らずに強く頷く。その後に少し疑問に思って「…あっ、君はこのまま寝るかい?寝るなら布団を敷くよ」と食事をするのなら二人分作ろうと考えつつも、神様にはご飯は要らない為に、なら寝る方が優先されるのだろうと思って先に寝るかどうかを聞いていき)
(確かに眠気は感じるが、前はそのまま寝てしまった為に国永と会いそびれてしまったことを考えると眠る気にはなれない。いくら力の回復を早める為とは言っても、旧知の仲である国永と直接話が出来なかったことは今でも少し悔やんでいる。それで今度は貞と話が出来なくなっては目も当てられない。別に起きていてもこの神域にさえいれば力は戻ってくるのだから、今はこのまま起きていようと考えて「いや、必要無い」と短く断っておく。…そういえば食事と同様、力の消費さえ無ければ睡眠も必要無いことを教えておくべきだろうか。しかし食事と違って睡眠は相手に何も関係することが無い行為だから、わざわざ言わなくてもいいのかもしれない。と、割とどうでもいいことを考えつつ、段々強くなっている気がする眠気から瞼が半分程閉じかけていて)
(“必要無い”と言われてしまった為に「うーん、そっかぁ。…けど、無理は程々にね」と神様には睡眠も不必要な事を知らない上に、今朝に相手が良い意味でも悪い意味でもグッスリと眠っていたので余計に必要なものだと思っていて、少しばかり歯切れ悪く心配そうに言葉を返していく。ただ何となく彼の瞬きの回数が増えているなと思えば、やっぱり眠いのかなと考えて、先程に要らないとは言われたものの少々離れた所に押入れから取り出した布団一式を敷けば、心なしかウトウトと眠そうな相手の肩を軽く指でとんとんと叩いて「伽羅ちゃん、もし眠くなったらあの布団を使って良いからね」と驚かせない様に小声のまま柔い笑みを向けて伝えると、再び立ち上がって「それじゃあ、僕は自分の夕餉を作ってくるよ。何かあったら呼んでね」と言えば、居間から出て昨日に借りた炊事場へと向かって行こうとして)
(思っていた以上に力の消費が激しかったのか、それとも別の理由からなのか、起きようとする自分の意思と反して視界はどんどん暗くなっていく。意識も段々と薄れてきた中、肩を叩かれる感触と共に相手の声が聞こえ、暗い視界の中に自分が好んでいる笑みを浮かべた相手が映る。何を言われたのかはよく聞こえなかったが、そのまま何処かへ行こうとする相手の姿に思考を動かすことも出来ず、ほとんど無意識に手を伸ばして腕を掴む。嫌だ、いなくなるな、駄目だ、迷惑になる、でも傍に、と、頭の中で単純な言葉ばかりがぐるぐると巡り、どうしてそんなことを思ってしまうのかも分からないまま「みつただ、いくな」と懇願するようにそう呟く。そこで意識が保てなくなり、頭の中を巡る単語もぷつりと途絶え、掴んでいた手からも力が抜けて畳の上に落ちてはそのまま完全に寝入ってしまい)
(居間から出ようとしていた所で、おもむろに誰か…とは言っても一人しか居ないのだが急だったので腕を掴まれればきょとんとして、慌てて後ろを振り向いていく。自身の腕を掴んだのが彼だと分かれば、益々驚いて普段の相手からは想像も出来ないほど弱々しい声でそんな事を呟かれると、心配すると同時に何だかじんわりと胸の内が熱くなる様な形容し難い気持ちを覚える。ただ彼に声を掛けようとした瞬間、途端その場に崩れ落ちてしまったので流石に吃驚しては「!?か、伽羅ちゃん…?」と、直ぐにしゃがんでそっと相手の背中を揺するものの全く起きる気配は無く、完全に寝てしまっている事を悟る。どうしようかと思ったが元々自分の方が背も高いし体格も悪く無いので今朝の様に問題無く運べると思えば、倒れている彼の脇に腕を通して正面から抱き込む様にして持ち上げ、予め敷いていた布団へと寝かしていく。けれどその後に炊事場へと行くのも憚られたので夕餉は食べなくて良いかと考えると、相手の傍で正座をしては布団で寝ている彼の右手をそっと掴んで「…僕は、ここに居るよ。何処にも行かない」と手を握ったまま呟いて自身もゆっくりとこの瞳を閉じていき)
(また、水の中を漂っている夢。青と黒だけの世界には自分一人しかおらず、優雅に泳ぐ魚も暖かな陽の光も、何も無い。あの時は光忠の声に引き上げられたのだったか、とぼんやりとした意識で思い出していると、視界の端に白色が映ったのが見えた。そちらを向いてみると、そこにあったのは小さな白い光の球。決して強くは無いが何処か優しい輝きを放つそれは、昨日の夢で水面に差したあの光と同じもの。あの時は自分を呼んでくれた、そして今は。「傍にいてくれるのか」と呟くと、白い光がそっと寄り添ってくる。夢は願いや感情をそのまま形にするという話を国永から聞いたのを思い出しては、白い光を片手で抱き寄せるように触れ、目を閉じる。自分から遠ざけて、関わることを恐れて、だけど、本当はずっと、誰かに傍にいて欲しくて。その誰かが、この水の中より深く澄んだ黒色を持つ彼であってくれたなら。「・・・光忠」と、大事な壊れ物をそっと扱うように、優しく名前を呟く。・・・と、その瞬間意識が途切れ、次に目を開けた時に視界に入ったのは見慣れた天井。明るくなっていることから、どうやら朝になっているようだ。しばらくぼーっとしたまま天井を眺め、自分が寝てしまっていたことをようやく認識するのと同時に慌てて勢い良く起き上がると、右手に何かが触れていることに気付く。顔をそちらに向けると、自分の右手を握りしめたまま小さく寝息を立てている相手の姿があり、目を見開いて驚いてしまう。まさか、ずっとこうしていたのだろうか。なんとなく手を離すのを惜しく感じ、左手で肩に触れて軽く揺すりながら「光忠、起きろ」と声をかけて)
(ふと、気が付けば真っ暗な空間にいた。けれど何度も繰り返し見ている為に、此処が夢の世界だと悟る事が出来ると「…この夢、か」と小さく呟く。頭上にある空は黒一色で太陽すらも黒く、足元には沢山の真っ赤な彼岸花が咲いている。視線を前の方へと遣れば、其処にはこちら側とあちら側を分断する様に大きな川が流れていて、その川…三途の川の向こう側にはいつも父と母の後ろ姿が見える。但し顔を見る事は出来ない、これは自分自身が両親の顔を思い出す事が出来ないからだろう。しかし何も神域に居る時にまでこの夢を見せなくてもと、自身に対して愚痴を零していれば、急に一際強い風が吹いて髪を乱していく。それが只の“あの合図”だと割り切れたら良いものの、如何にもこれから起こる事に体が強張ってしまい耐えられる様にと奥歯を噛み締めようとした_瞬間、足元に咲く彼岸花から一気に炎が燃え上がる。それは向こう側も同じで、対岸でも赤く黒い炎が火の海の如く燃え広がっており、火達磨になって悶え苦しむ両親の姿が目に焼き付く。徐々に炎は強くなっていき、咄嗟に顔を庇った自身の腕や地に着く足の方にも火は燃え移り、その息苦しさと熱さで両親を呼ぶ声や悲鳴すらも出させない。痛い、熱い、苦しい。夢だと分かっていても伸し掛る感覚に、口から吐き出せずに胸内で叫んでは、噎せる様に咳き込んで。早く終わって欲しいと、いつ途切れるか分からない悪夢の終わりを切に願う。…そんな時、バシャリと何かが川の水面から出て来た音が聞こえて、火の粉と煤だらけの視界の中、霞む視線を上げれば其処には一匹の竜が目に映る。初めて夢に出て来た見覚えの無いその存在に驚くも、何とか声を振り絞っては「…か、伽羅…ちゃ_ん」と何故か勝手に彼の名前が口から紡がれる。すると竜は大きな声で啼き、それに呼応するかの様に黒い天から雨が降り出す。火傷の痛みや炎などの全てを洗い流してくれる慈雨に、思わず込み上げて来るものがあり、竜の神へと手を伸ばして相手の名前をもう一度呼ぼうとした所で_ぷつんと、意識が途切れる。そうして再び目を開けた時には夢の世界ではなく居間に戻って来ており、体を揺すられている事に気付くと「…ん。朝…?」と言いそちらへと顔を向けて「…あっ、おはよう。伽羅ちゃん」と何事も無かった様に朝の挨拶を交わしていく。繋いでいた右手を見ては、このお陰だったのかなと先の夢での出来事を思いながらまだ離したくないと考えつつも、手を繋がれていては彼も不便だろうと感じて、自然にそっと手を引いていく。そのまま自身は畳で寝てしまっていた為に、草が付いていた着物を直しつつ「起こしてくれてありがとう。僕は良く眠れたけど、君は良く眠れたかい?」と夢見が悪かった事を悟らせない様にしれっとした顔で尋ねていって)
(良く眠れたか、という問いかけに関しては迷いなく頷くことが出来る。眠るたびに見る水の夢で、独りであることを突き付けられている気がして心が軋むばかりだったそれに、初めて寄り添ってくれる存在が現れたのだから。『夢は願いや感情の現れ』。夢の中でも思い返していた国永の言葉を頭の中で反復させては、ようやく自覚を持つ。光忠が大事だ。光忠を失いたくない。光忠の傍にいたい。…自分は、ずっとそう思っていたことに気付いた。自覚することを放棄していたのは、いつ消えるかも分からない不安定な自分が誰かに何かを望むことは、不毛であり無意味でもあると考えていたからなのかもしれない。勿論、その考えは今も全く変わっていない。けれど、自覚したことを今更無かったことにする気も無い。自分が相手の幸せを望むことは不毛でも無意味でも無いはずだ。そう考え、いつの間にか離されてしまっていた右手を伸ばし、忌み子の証たる黒髪に触れる。そのまま指を動かすとほつれの無い糸のように指の間をさらさらと髪が通り抜ける感触がして、綺麗な髪だな、と改めて思いながら「光忠」と名前を呼ぶ。髪に触れていた手を少し動かし、次に触れた箇所は目尻。そこから涙が伝うように指を下へと滑らせ、目尻から頬、頬から顎へと順番に触れる。先程、彼は『起こしてくれてありがとう』と言った。相手の性格を考えれば当然の言葉かもしれないが、それにひどい違和感を感じている。それはつまり『眠りから覚めたことへの喜びあるいは安心』であり、そのような感情が浮かぶということは、自分と同じくあまり良くない夢を見ていた可能性もあって。「隠さなくていい」と短く告げ、そっと手を離しては「人間は脆い。アンタは特にそう感じる。溜め込んだ分だけ降り積もって、いずれ心が壊れてしまう。だが、今は俺がいる。頼りたいなら寄りかかればいいし、吐き出したいなら幾らでも話せ。アンタがして欲しいことがあるなら、俺はそれに従おう」と強い口調で、しかし優しさも滲ませた声色でそう言っては、じっと相手を見据える。もちろん、杞憂であるならばそれはそれで構わない。これは自分の単なる自己満足で、幸せになって欲しいという一方通行の想いでもある。「光忠」と、駄目押しのようにもう一度優しく名前を呼び、答えてくれるのを待って)
(こちらの言葉に頷いた相手を見ては、如何やらあちらは夢見が良かった様で密かに安堵の息をつく。悪い事と言うのは伝染するとよく聞く為に、自身の悪夢が彼に感染っていないのなら幸いだ。ただあの夢は最後に救いがあったので、完全な悪夢とは言い難いが。しかしながら自分自身では過去なんて割り切っていたと思っていたものの、何時までもあの様な夢を見るなど、矢張りまだまだ心の底では整理が付いていないのかもしれない。両親の顔はとっくの昔に思い出せない癖に、あの時の鮮明な炎の色はハッキリと脳裏に焼き付いている。…何で今日あの悪夢を見たのだろうと考えつつも深く考えても意味の無い事かと思えば、今は相手が目の前にいる為に、この事を考えるのは止そうと思考を振り切ろうとした所で_おもむろにこの黒い髪に触れられれば、思わず隻眼を見開いて条件反射でビクリと肩を強張らせる。一瞬昔の事を思い出し掛けて、存外悪夢を引きずっているのか柄にも無く混乱し掛けたが、直ぐに自身を叱咤しては表情を直し「…えっと、如何したんだい?」と名前を呼ばれたので小さく微笑む。するといつの間にか目尻に溜まっていた雫が落とされて、そのまま輪郭をなぞられる様にされれば擽ったさを覚えつつも髪から手が離れると無意識の内に安堵してしまい、それに対して自己嫌悪なるものを覚えてしまう。本当に己は自分勝手だと考えつつ、せめてこんな押さえ込んでいる過去の古傷などが相手に伝わりませんようにと思っては、続く彼の言葉を待っていたが“隠さなくていい”と言う其れに「え、?」と目を瞬かせる。恐らく夢見が悪かった方が分かってしまったのだろうかと冷や汗が頬を伝うものの、しかし相手の強い想いの籠もった真っ直ぐな言葉を聞けば誤魔化そうとした口は開けなくなる。迷惑を掛けたくない、嫌われたくない、幻滅されたくない、彼には自分の汚い部分を見せたくない。様々な気持ちがぐるぐると胸内に渦巻くも、それでも相手を信じたいと言う想いはあって再び名前を呼ばれれば、色々と思う所はあるが長い沈黙の後に意を決した様に「……昔から、同じ悪夢を見るんだ。気分を悪くさせてしまうかもしれないけど、聞いてくれるかい…?」と目を伏せたまま小声で問い掛けてみて)
(悪夢という単語を耳にして僅かに眉を潜める。自分と同じ良くない夢を、と先程は考えていたが、自分が思っているよりもっとひどいものを相手は見続けていたのかもしれない。もしかするとここに来てからもずっとそうで、全て笑顔の奥深くに押し隠していたのだろうか。自分に対する後悔と怒りで思わず拳を強く握るも、表情はあくまでいつも通りを保ったまま「ああ、構わない」と迷わず了承して。視線を動かして居間の外を見ると、そこには心配そうに外で漂っている光…光忠に懐いている眷属がいて、一緒にいさせた方が良いだろうかと一瞬考えるも、これから話すであろう悪夢は、きっと相手にとって口に出したくないもので、心の傷跡を自ら抉る行為に近いのだろう。今だけは本当の意味で二人きりの方が良さそうだと判断し、眷属に声なき声で『ここにしばらく寄るな。…と、他の眷属にも伝えてくれ』と命令する。すると眷属は頷くように上下に揺れた後、中庭の方へと飛んでいった。それを見送ってから改めて相手の方に向き直り「話してくれ、光忠」と促して)
(了承してくれた相手に小さく「…ありがとう」と感謝の言葉を述べては、目を伏せたままゆえ眷属くんが気を遣って中庭に去って行った事には気が付かずに、改めて促されれば「…うん」と今度は視線を上げてしっかりと彼の目を見て頷く。声は震えない様にしながらも、ゆっくりと悪夢について語り始めて「…僕のいつも見る悪夢は、空や太陽すらも真っ黒な空間で、足元には彼岸花が咲いていて、目の前には大きな川…たぶん三途の川が流れている世界に居るものでね。その対岸には顔は見えないけど両親が居て、僕が話し掛けても絶対に振り向いてはくれないんだ。僕自身が両親の顔を思い出せなくなってしまったのが、原因だと思うんだけど…。それで少し経つと急に強い風が吹いて、足元で一面に咲く彼岸花から一気に炎が燃え上がるんだ。…でも僕だけではなく両親も火に呑まれていって、何度も目の前で火達磨になって苦しむ姿を見せ付けられる。僕も火に巻かれているから段々と火傷が酷くなって、最終的には息が出来なくなって…散々無様に炎に苦しめられた後、気が付いたら目を覚ましているんだ。それが…昔から見ている僕の悪夢だよ」と一遍に話してはそこで一区切りを付ける。無意識の内に、手が自身の胸元の服を握り締めており、少ししてから付け足す様に再び口を開くと「…何でこんな悪夢を見るか、不思議に思うよね。たぶん、僕の両親が数十年前に家で起きた火事で死んでいるからなんだ。ただ火事の原因は不明で、故意か自然発生かは分かっていない。僕もその火事に巻き込まれたんだけど、幸か不幸か両親を差し置いて助かってしまってね。…悪夢はその時から見ているんだ。きっと、脳裏に焼き付いたあの光景とこの罪悪感が見せるものだと思う…」と酷い火傷を負った事だけは如何しても自身から言えずに隠してしまうも、それ以外は全て真実のままに伝えていく。落ち着かせる様に深く息を吸っては、その後に「…伽羅ちゃん、話を聞いてくれてありがとう。だいぶ楽になったよ」と本心からの言葉を述べては、耐える様に自身の胸元の服を掴んでいた手を離していき)
(黙ったまま耳を傾けていれば、まさしく悪夢以外の何者でもなく、むしろ地獄とも言える内容に目を細める。竜神の生け贄として選ばれた時点で両親については大体の予想が付いていたが、よりにもよってそんな酷すぎる別れ方をしていたのか。相手の性格を考えれば両親の死さえも自分の責任として捉えていそうで、実際にそうなのだろう。でなければわざわざ夢の中に登場し、同じ別れ方を何度も繰り返すはずがないのだから。感情を抑えつけるかのように自分の胸元を強く握りしめている姿は見ていて痛々しかったが、話が終わるまで何も言わずにただ聴き続けており。やがて話し終えたのか、大きく息を吸いながら礼を告げる相手に無言のまま小さく頷く。すでに手は胸元から離されていたが、その手が僅かに震えていることに気付いているのだろうか。「…光忠、悪いが、今度は俺の話を聞いてくれ」と唐突に切り出し、相手の反応を待たずにそのまま口を開き「神も眠れば人間と同じように夢を見る。…俺が見る夢は決まって、水の底に一人で沈んでいる、というものだ」と、こちらも自らが見る夢の内容を話し始める。相手の悪夢に比べれば聞く価値も無い、大したことの無い夢だろう。だが、今はそれが必要だ。「そこには何も無い。ただ青と黒が広がっているだけだ。俺は独りで水の中を漂って…そのまま静かに目を覚ます」と淡々とした口調で告げてから、そっと目を閉じて「…だが、昨日と今日は違った。昨日は、誰かの声が聞こえて水面に光が差した。そして今日は、その時と同じ色をした小さな光球が寄り添っていた。そのどちらも、目を覚ましたらアンタが傍にいた」と告げる。そう、寂しく孤独でしか無かった自分にとっての悪夢は相手の存在によって変化したのだ。ならば、相手の地獄のような悪夢も、自分の存在で変えることが出来るのではないか。そう思いながら、相手の手に自分の手を重ねて緩く握りしめ「過去も、傷も、感情も、俺にはどうすることも出来ない。…だが」とそこで区切ってから、間を置かずに「俺が光忠の傍にいることは出来る。俺の夢が変わったように、アンタの悪夢も俺が必ず変える。だから、これ以上苦しむ必要は無い」と力強く宣言して)
(不意に、相手から話を振られれば、突然の事できょとんとした為に少し反応が遅れてしまったが、しっかりと頷いていく。やっぱり神様も夢を見るんだと思いながらも静かに彼の話を聞いていき、水の底に一人で沈んでいると言う夢は一見穏やかそうなものでいて、しかし何処か少し寂しいものだと思ってしまう。ただ如何やらその夢に変化が起きた様でいて、おもむろに自身の名前を出されればそれこそ目を瞬かせて「…僕?」と己を指差して呟く。確かに昨日も今日も彼の事が心配だった為にその側にずっと付いていた。それが夢にまで影響していたのなら、それは何だか無性に嬉しいけれど、ただ自分なんかで良かったのだろうかと申し訳ない二つの気持ちを覚えてしまう。そんな中、手を握られて告げられた心強い言葉に少し考える様に反芻したものの「…苦しむ必要は無い、か。…伽羅ちゃんは、優しいね」と思わずその優しさに泣いてしまいそうだと感じながらも、こちらも相手の手を柔く握り締めては先程言えなかった事を伝えようとして「あのね、君に聞いて欲しい事があるんだ。さっき話した悪夢の事で」と真っ直ぐに彼の瞳を見詰めては、一息置いて「…今日火に呑まれていた中、川から一匹の竜が現れて雨を降らせてくれたんだ。その雨が火傷も炎も何もかも全部洗い流して、僕と両親を救ってくれてね。僕はその時に初めて竜を見たんだけど、見た瞬間に咄嗟に君の名前を呟いたんだ」と言っては、あの竜は間違いなく彼だと確信を持って告げていく。そうして、微笑みを浮かべれば「だから、伽羅ちゃん。君は既に僕の悪夢を変えてくれているんだよ。君に自覚が無くてもこれだけは言わせて欲しい。本当に…本当に、ありがとう」と、段々涙声になりながらも深々と頭を下げていき)
(自分は優しくない、それを言われるべきなのはアンタの方だ。…と、口にしていればそれを伝えるのは二度目になっていたであろう言葉は、音にならずにそのまま呑み込まれる。それを言葉に出来なかったのはそれ以上に自分が驚いてしまったからで、その原因は相手が話してくれた夢の内容について。夢の終盤ともいえる箇所で川から竜が出現し、雨を降らせて光忠とその両親を救ったのだという。自惚れでないのだとしたら、自分は本当に悪夢を変えることが…光忠を救うことが出来たのだろうか。その考えは他でもない相手によって肯定され、震えた声でお礼を告げては頭を下げられてしまう。「…光忠」と名前を呟いては、繋いでいない方の手で相手に触れようとして宙で止まる。先程髪に触れた時、分かりづらかったが確かに怯えていた。やはりまだ、本当の意味で光忠を救うことは出来ていないだと悟り、伸ばしかけた手で強く拳を握る。…自分に、あとどのくらいの時間が残されているのかは分からない。だが、その全てを費やしてでも幸せを与えてみせる。見返りなどいらない、求めはしない。自覚した感情を伝えることも決してしない。それらは全て光忠の負担になり、意味が無くなる行為だから。触れられない代わりに、繋いだ手を強く握り返してから「それは、俺が言うべき言葉だ。…光忠、ありがとう。最期まで俺の傍にいてくれ」と笑みを浮かべながら告げる。きっと、『最期』の本当の意味は相手に伝わらないだろう。それでいい、構わない。「…そういえば、光忠。昨日はそのまま寝ていたのか?」と、話題を自然に変えつつ、食事や風呂はどうしたんだという意味で問いかけて)
(涙声は抑えようと思っていたのに相手の前だと如何にも格好が付かないと思いながらも、それ程までに自身が彼に感謝の気持ちを抱いているのは分かり、繋いでいる手を握り返されると空いている片手で目元の涙を拭ってから顔を上げて、その笑みを見てはやっぱり笑った顔も好きだなと考えつつこくりと頷いて「…勿論。僕の方こそ、最後まで君の傍に居させて欲しい」と同じく笑みを浮かべれば、今度は両手で繋いでいる手を優しく握り返す。それが自分の命の終わりを指しているものだと思って、この時に言われた“最期”の意味を履き違えたままそう頷いてしまう。分かっていたら、もしも分かっていたら絶対に止めたのにとそんな事を先の方で思う事になるとは知らず。…ふと自然な流れで話題が昨日の事になると、食事やお風呂の事をすっかり忘れていたのを思い出させて貰って「_あ、うん。そうだよ。ごめんね、お風呂はさすがに入っておいた方が良かったね」と当たり前だが神様と人間の体の構造は違うゆえ、人間は毎日お風呂に入っておくのが普通とされているので一つ謝りを入れれば、そっと手を離して立ち上がり「ちょっと朝の身支度を整えて来るね、直ぐに終わらせるから少しだけ待っててくれると嬉しいな」と言っては、身なりには人一倍気を使う方な上に神様の前でこの様な汚れた格好では不躾だろうと思って、居間から出て行こうとしていき)
(/突然の夢の話に対応して頂きありがとうございます。そして勝手に光忠が出て行ってしまって済みません…、こちらの次ロルでは光忠と貞ちゃんが二人とも自己紹介済みで居間に帰って来ますが、それでも大丈夫でしょうか?伽羅ちゃんの前で二人が対面しますと、二人会話になる危険性があるので少し自己紹介は省略したいなと思いまして…。何か不備がありましたら訂正しますので仰って頂ければと…!)
(無意識の上に眠る寸前だったせいか、自分が引き止めたからこうなったということをすっかり忘れてしまっており、しっかりとしていそうな相手にもそんな所があるんだな、と考えては「分かった」と返事をして頷き、そのまま見送って。相手の姿が見えなくなってからようやく立ち上がり、寝かされていた布団を綺麗に畳んでしまいこみ、居間から出て縁側へと座り直す。すると先程命令を伝えた眷属の光が寄ってきたので「さっきはすまなかった」と、光忠のことを心配していると分かっていながらわざと遠ざけてしまったことを謝罪すれば、眷属はとんでもないと言わんばかりに自分の周りをぐるぐると回り、ぽふりと肩に乗る。その一連の動作に小さく笑みを浮かべ、人差し指で軽く撫でてやっていると、綺麗な鳴き声と共にこちらへ飛んできたのは青い鳥。昨日の時に託された貞の眷属たる鳥は、光が乗っていない逆の肩へと留まると耳元で再び鳴き声を出す。「そうか、貞が…」と呟いた所で、何かが神域へと入って来る感触。どうやらたった今、件の神がこの場へ足を踏み入れたらしい。国永の二の舞いにはならなそうだと内心でほっとしながら、光忠と貞が来るのを待って)
(/いえいえ、こちらが見る夢と見事に対照的で、不謹慎ですがとても楽しかったです!分かりました、省略出来る部分はぱぱっと省略しちゃって構いませんよ!)
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