大倶利伽羅 2016-07-11 22:55:28 |
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【次郎太刀】
(黒髪の彼は大丈夫そうだが、隣にひっついている眷属はちょっと大袈裟にからかっただけであの怯えようだったから、駄目な部類かなと思いつつ様子を伺っていると、眷属はきょとんとした表情で首を傾げている。それに対して竜神が『…怪談というのは、ようするに怖い話のことだ』と簡潔に説明するのを聞いて顔を青くさせては、ぶんぶんと勢い良く首を横に振って黒髪の彼にしがみついてしまった。耳を塞ぐと良いとアドバイスをされていたはずだけど、どうやらそれすら頭から飛んでしまうほどに怖がっている様子。「大丈夫大丈夫、怪談と言っても本格的な奴じゃないさ。分かる人には怖いと感じちゃう話ってだけだからね」と明るく笑みを浮かべてみせると、眷属は迷っているかのように竜神と黒髪の彼を交互に見つめた後、こくりと小さく頷くのが見えて「うんうん、素直でいい子は大好きだよ」と告げる。「さて、それじゃあ話すとしますか。愛欲に溺れて堕ちてしまった男の話をね」と切り出しては意味深に微笑んで)
【大倶利伽羅廣光】
(悪霊の正体は、この花街に住む花魁の女に恋をした男だった。その男の想いは常に一方通行であり、女が想いを受け入れることは無かった。男はその想いを暴走させ、無理矢理に女と心中しようとする。しかし、最終的に命を落としたのは男だけだった。男の想いはそのまま憎悪へと形を変え、悪霊となって蘇ってしまった。『…で、その花魁の子は赤い蝶の簪を付けていたそうでね。それに似た簪を付けていたが為に、あの子達は襲われちまったのさ』と口にしてから、次郎太刀は手に持つ杯に入った酒を飲み干した。…悪霊についてと二人の遊女が襲われた理由は分かったが、一つ腑に落ちないことがある。「そこまで分かっているなら、何故アンタが動かないんだ」と率直に聞いてみると、次郎太刀は空になった杯に再び酒を注ぎながら『それが厄介なことに、悪霊が出て来るのは決まって朝方なんだよ。アタシら妖怪は日が高い内は上手く力が発揮出来ないからねぇ…人間相手ならまだしも、人外でしかも悪霊が相手となっちゃあ難しくってさ』と、どこか落胆したような表情で答えた。それならば、妖怪の住むこの花街で連続して事件を起こすことが出来たのも頷ける。『だからって何もしてないわけじゃない、悪霊退治までの段取りは考えてあるんだよ?ここに特別に作らせた赤い蝶の簪がある。これを着けた誰かが囮になって、まんまと釣られた悪霊をバシッと退治するって寸法さ』と、懐から簪を取り出して見せながらそう告げられるやいなや「そうか。それなら話が早い、俺が囮になる」と迷う事無く当然のように囮を買って出ると『あっ、主!駄目です!主が怖い思いをするのは絶対駄目ですっ!』と眷属の焦った声が聞こえ、振り返るより先に思い切り背中に抱きつかれて)
(/了解しました!自分で複数の案を出しておいてなんですが、よく考えたら倶利伽羅が二人を囮にさせるわけが無かったので、囮作戦は倶利伽羅を女体化させて実行しようと思いますー)
(次郎太刀さんの口から語られていくのは、何とも浅ましくも気の毒な或る一人の男性の恋情噺しだった。両想いで、相手も死ぬ気なら心中と言う選択肢でも良いと自身は思ってしまうのだが、実らない片想いならば潔く身を引くのが美徳だろうと思いつつ、最後まで複雑な表情で話を聞いていく。そうして聞き終われば、つまるところ今回の犯人はその心中しようとしたが失敗し且つ一方的な想い人を逆怨みして悪霊になった元人間、と言う事かと納得していく。更に被害者は、その想い人と勘違いされてしまった為に今回被害を受けた訳であり、原因は赤い蝶の簪らしい。次郎太刀さんの囮作戦を聞きつつ、遣るならそれぐらいしか役に立てない自身が遣ろうと手を挙げ掛けたが、その前に彼が名乗り出た為に目を瞬かせ「えっ?伽羅ちゃん、危ないから僕が遣るよ?」と心配気に見て相手の背中に抱き着いている眷属くんを宥めつつ言ったものの、しかしふと気が付いた事があり、最悪自分では囮役以前に足手纏いだと思っては「…それとも、危ないからこそ力のある君が遣った方が良いのかな?」と情けない事に自分自体には何の力も無い為に、眉尻を少し下げて苦笑気味に問い掛けていき)
(/了解ですー。光忠の性格上、大切な伽羅ちゃんに危険な事をさせるぐらいなら自分が進んでやりたいけど、逆に足手纏いになるんじゃ無いかと思って悩んでいますが、お気になさらずにそのまま伽羅ちゃんで囮作戦を実行して下さい。/・あっ、それとですが初期の頃から思っていましたが眷属くんとても可愛いです…!癒しです…!)
【大倶利伽羅廣光】
(遠慮なしに力を込めて抱きついている眷属に、片手を動かして頭を撫でてやる。自分と同じ色をした髪がふわりと揺れ、不安そうな表情でこちらを見上げてきたのを見て「大丈夫だ」と告げる。続いて光忠の方へ視線を向けて「元々は俺に出された依頼だ、アンタにやらせるわけにはいかない」と、改めて自分が囮役を引き受けることを告げる。自分は心が読めるわけでは無いが、困ったように笑う光忠がまた自分のことを必要以上に卑下しているように感じ、真っ直ぐ相手を見据えて「…俺は、アンタが無力だと思ったことは一度も無い」と、余計な言葉は使わずいつものように短く自分の思っていることを告げ、眷属に光忠の元へ戻るように伝えてから、次郎太刀の方に向き直る。次郎太刀はまたニヤついた表情をしていたが、その事に突っ込んでもまともな答えが返って来ないのは分かっていたので黙っていると『囮役が決定したのはいいけど、具体的にどうやるんだい?幾ら自我を失った悪霊でも、さすがに男と女を見間違うことは無いだろう?まあ倶利伽羅は綺麗な顔してるし、女装して化粧を施せばイケそうな気もするけどねぇ』と至極最もな問いかけをされては、さほど間を置かずに「それなら問題は無い」と答える。即答されたことに次郎太刀は意外そうな表情をしていたが、すぐに面白そうだと言いたげな笑みを浮かべて『へえ、どうする気なんだい?』と聞いてきた。実際にやって見せようと、一旦目を閉じてはパチン、と片手の指を鳴らして)
【次郎太刀】
(何をするつもりなのだろうと内心で楽しみにしながら眺めていると、竜神が指を鳴らす。すると部屋全体を眩く照らすような閃光が一瞬だけ起き、気が付くと目の前に座っていたのは一人の美しい女性だった。畳の上に落ちる程の長く淡い甘栗色の髪に大きくぱっちりとした睫毛の長い金色の瞳、線の細くなった体格に先程まで無かった胸の膨らみ…どこからどう見ても女性そのものだ。『わぁっ、主のその姿、とっても久し振りですね!』と、無邪気にはしゃぐ眷属の声が聞こえてようやく我に返り「うっそぉ…神様ってホントに何でもアリなんだねぇ…」と心の底から驚嘆しながらそう呟くと、目の前の女性…竜神は表情一つ変えずに『見た目の性別を変えるぐらいは神なら誰でも出来る』とさらりと口にしてきた為に、つくづく神という存在は常識離れしていると感じるも、それだけとてつもなく面白いとも思う。現に自分はすでに目の前で起きた現象に慣れているし、驚きよりも楽しいという気持ちの方が遥かに強い。「あっはっは!これだけの美女に引っかからない男がいるはず無いねぇ!囮じゃなくても最高だよ、この簪もきっとよく似合うだろうさ!」と大きく笑いながらそう言って、竜神に向けて赤い蝶の簪を差し出す。「これは預けておくとするよ。明日の明朝、それを着けて適当に歩き回ってみな。必ず釣れるはずさ」と言ってから、続けて「今から帰ってまたこっちに来るのも面倒だろう?今晩はこの部屋で休みなよ。アタシは別の部屋を使うから気を遣う必要は無いからね」と、今日の所はここで休むように告げて)
(/分かりました!遠慮なく囮作戦をやっちゃおうと思います。自分でも気が付かない内に眷属がマスコット的存在になってて驚いてますが、そう言って貰えると嬉しいです!これからも全力で愛情表現してくると思うので存分に癒やされてやってくださいー)
(伽羅ちゃんの性分的に、彼はとても優しい性格だからこう言った危険な事は自分で行なってしまうだろうと思っていれば矢張り予想通りで、しかし正論であった為に此方は何も言わずにいて。不意に無力云々に関して言われると、言葉には出していなかったものの顔には出てしまっていたのだろうかと考えたが、相手の優しくも温かみのある言葉に何だか胸内の重荷がすっと降りたような気がして、ぽつりと「…ありがとう」と緩やかにはにかんでは御礼の言葉を述べていく。それから囮作戦について話し合いがされていくと、確かに男性と女性だと体格差もあって女装をしても厳しいのではとボンヤリ考えながらいれば、何か策があるらしい伽羅ちゃんの返答に次郎太刀さんと一緒になって自身も興味津々に彼を見遣る。すると、指が鳴らされたと同時に一瞬の閃光が部屋を埋め尽くし再び目を開ければ目の前に居たのは見知らぬ女性。いや、見知らぬではなく褐色の肌、金色の瞳、甘栗色の髪と見覚えのあり過ぎる特徴に少し間を置いては、彼女が伽羅ちゃんだと言う事に遅れて気が付く。神様って何でもアリなんだなぁと次郎太刀さんと全く同じ事を思っては、普段から綺麗な容姿ゆえ女性になっても凄い美人だと思いつつ、赤い蝶の簪を渡されていくのを見ていく。アレで悪霊を釣るのかと考えては、如何やら部屋を貸してくれるらしい次郎太刀さんに「ありがとうございます」とぺこりとお辞儀をしては、伽羅ちゃんの方に近付いて「えっと、伽羅ちゃん…だよね?何だか凄い美人さんだから話し掛けるのも恐縮だけど、…神様って見た目の性別まで変えられるんだね、凄いや」と笑みを浮かべたまま包み隠さず思っていた事を話していき)
(/了解しましたー。眷属くんは本当に浄化的な存在です、これからも沢山癒されていきますねー。では他になければこれにて失礼しますが、大丈夫でしょうか?)
(次郎太刀の提案はこちらとしても有難かったので頷いておく。場所が場所なだけにこの時間帯に宿を探して出歩くのは光忠と眷属に別の意味で危険が及ぶだろうし、次郎太刀の息が掛かったこの建物ならば安全も保証されているだろう。自分の頷きと光忠のお礼を受けた次郎太刀はにっこりと微笑んで『それじゃあアタシは外に繰り出すとするかな。また明朝にね~』と片手をひらひらと振りながらそう言い、そのまま部屋の外へと出て行った。それを見送った後、言葉は何処か遠慮がちながらも性別が変化した自分に対して素直な感想を話す光忠に「別に大した事はない、こういう時でも無ければ役に立たない力だ」と自らの華奢な手を眺めながらそう告げる。見た目の性別が変わったからといって力が劣るわけでは無いのだが、男の体と女の体では使い勝手も違ってくる。少しでも慣れる為に明朝の作戦決行までこの姿のままでいるかと考えていると、眷属が『あっ!』と声をあげたのが聞こえてそちらを向く。『簪って、髪を難しいやり方で纏めないと使えないんですよね?僕、やり方知らないです…』と言ってきたのを聞いては、そういえば自分も髪の纏め方を知らない事に気が付き、どうしたものかと畳の上に散らばる自分の髪を見つめる。知っていそうな次郎太刀はすでに出掛けた後で、この建物にいるであろう遊女達に聞くのは少々怖い気もする。「…適当に束ねて挿すか」と、どうせ自分の髪なので多少雑に扱っても良いかという考えからそう呟いて)
(/はい、大丈夫です!ありがとうございました、また何かあったらお願いしますね!)
(神様にとっては些細な力でも矢張り人にとっては時に奇跡の様に見え、謙虚でも謙遜でも無く本心からの相手の科白に小さく笑みを零しては、緩く首を傾げ「そうかな?けど、君のその術のお陰で助かったよ。有難う」と改めて感謝の言葉を伝える。流石に男が女装と言うのは無理があっただろうし、敵が理性無き悪霊とは言え変装に無理があって出現しなかったら元も子も無いので、危険な事を任せてしまうのは如何にも気が引けるもののそんな風に思考を巡らせていると、不意に聞こえて来た眷属くんの短い言葉に視線を其方へと流す。何やら簪の使い方に関して戸惑っている様で、髪を結われる方の件の彼も遣り方を知らない様だ。ならと口を開いては「伽羅ちゃん、もし良ければ僕が髪を結ってあげようか?折角綺麗な髪をしているのだから乱雑に扱ったら勿体無いしさ。格好良く…じゃなくて、可愛く纏めてみせるよ」と畳に流れる様に広がっている艶めいた甘栗色の髪を見つつ部屋の鏡台を一瞥してつげ櫛がある事を確認すると、良く母親の髪を束ねていた記憶が朧げながらも有るのでそう尋ねてみて)
(/遅れて済みません…!あまり声を大きくして言える事ではないのですが、身内に不幸が有りまして手続きをしていましたら此処に来るのが遅くなってしまいました…。一言書き置きをしておけば良かったのですが、其処まで頭と手が回らない状況でした…誠に済みません。まだトピ主様がいらっしゃるかは分かりませんが、お返事を置かせて頂きます)
(自分の大雑把な発言を見かねてか、それとも実際にやったことがあるからか、あるいはその両方か。光忠からの思いもよらない発言に少し驚いていると、眷属がぱっと笑顔を浮かべて『主!ぜひ光忠さんにやってもらいましょう!』と何処か楽しみにしているような様子で進言され、特に断る理由も無いので「それもそうだな」と呟いた後、光忠の手に赤い蝶の簪を渡し、鏡台の前まで移動してからそこに腰を降ろす。鏡に映ったいつもと少し違う自分の姿を数秒眺めてから、鏡越しに光忠へ視線をやり「アンタの好きにするといい。特にこだわりは無い」と、どんな風になろうと自分は一切口出ししないことを暗に告げる。その言葉を聞いて何故か眷属の方が表情を輝かせ『光忠さん!すっごく可愛くして欲しいです!主がもーっとキラキラしちゃうくらいがいいです!』と抽象的で無茶振りにも思える要望を光忠にしているのを聞いては「…程々でいい」と釘をさすように呟いて)
(/いえいえ、そのような事情でしたら仕方が無いと思います。お返事が貰えただけでもこちらは充分です!あまり気になさらないでくださいねー)
(眷属くんの後押しする様な嬉々とした声が聞こえて来れば、伽羅ちゃんから了承の言葉と共に向けられた赤い簪を壊さないよう慎重に受け取っていく。一足先に鏡台へと移動をした相手の後を追うかの如く、自身もそちらに足を進めるとつげ櫛を手に取り彼の髪を梳きやすい様に膝立ちになっていき、ふと双方から告げられた要望を確と耳に入れると「うん、任せてくれ。程々に可愛くするね」と二つの言葉を組み合わせて返していく。そう言えば花魁の髪型は確か、横兵庫、島田髷、勝山髷などがあるものの何れが相手に一番似合うだろうかと考えていって、髪も長い事だし後ろから見ると蝶々の様な形に纏める横兵庫が良いかもしれないと思っては、早速つげ櫛を持った手を動かしていく。何度か細長い髪を梳き梳かした後、正直見様見真似だが何とか横兵庫の髪型になるよう髪を括っていき、四苦八苦しながらも其れに近い感じのアップの髪型を作れば簪を差して恐る恐る「取り敢えず、こんな感じだけど…如何かな?」と問い掛けてみて)
(/お優しい言葉をありがとうございます…。毎度毎度こちらが迷惑を掛けてしまい申し訳ありません)
(どんな髪型にしようか考えているのか、少しの間黙っていた光忠が不意に手を動かして髪に触れ、そのまま櫛で綺麗に整えていくのを鏡越しに見つめる。くすぐったいとも心地良いとも思う感覚と、時々手を止めては悩んでいる表情を浮かべる光忠に、自然と表情が緩んでしまう。自分を含めた部屋にいる三人共が無言のまま数十分が経過し、光忠から問われた言葉に改めて鏡に映る自分を眺める。使っている装飾品が赤い蝶の簪一つのせいか、自分が知る遊女の豪華絢爛さには到底及ばないだろう。…だが、自分は目立つのはあまり好きじゃないし、そもそも遊女でも無ければ女でも無い。髪型に特にこだわりは無かったが、このぐらいが自分好みだと思う。「ああ、これでいい」と短く感想を伝えれば、黙って見守っていた眷属が『すごいです光忠さん!あんなに長い主の髪をぱぱっと纏めちゃうなんて、魔法みたいです!』と例の如く大はしゃぎするのを見て「…あまりはしゃぐと、明日まで持たないぞ。今のお前は少し力があるだけの人間だからな」と遅すぎるような気もする忠告を口にする。すると眷属がハッとした様子で『そうでした!明日の朝一番でしたよね、だったらもう寝ないと!』と言った後、部屋の隅に置かれていた布団を手際良く敷いていく。大方、光忠の動きを見て覚えたのだろうと思いながら様子を見ていると、眷属が光忠の手を両手で握り『光忠さん!一緒に寝ましょー!』と無邪気にそう告げて)
(/こちらこそ、いつも返事をする時間がバラバラで申しわけ無いです…。これからもお相手よろしくお願いしますね!)
(短いながらも嫌がっている声色ではなかったのでホッとし、やや緊張気味だった硬い表情から緩く笑むと「そっか、お気に召した様で良かった」と言っては持っていたつげ櫛を鏡台前へと置いていく。次いで眷属くんに魔法と称されれば髪結いの技術など全然だが、そう評価される事自体は嬉しかった為「ふふ、有難う。少しは役に立てて良かったよ」と嬉しげな声色で言い微笑む。それにしても、自身の拙い髪結いでも矢張り元々伽羅ちゃんが美人ゆえ赤い簪も相俟って綺麗だと、思わず見惚れてしまい掛けるも耳へと相手と眷属くんの遣り取りが聞こえて来れば、確かに作戦の決行は早朝なので早く寝ないとと思い。使ったつげ櫛を椿油に浸してはそれから布団を敷こうと腰を上げたところで、どうやら既に準備をしてくれたらしい眷属くんに手を握られると、弟を持った兄の様な気持ちになってほっこりしつつも「うん、僕なんかで良ければ是非此方からもお願いしたいな」と頷いていく。ただ寝る前に彼へと向き直っては「あっ、伽羅ちゃん。髪だけど一旦解くかい?肩が凝っちゃうと悪いしさ」と確か神様は睡眠を取る必要が無いので髪型が夜通しそのままでも平気だとは思うが、窮屈なのも申し訳無いと考えて問い掛けてみて)
(/いえいえ、それは私もそうですのでお構い無く…。済みません、改めて此方こそ宜しくお願いします!)
(確かに、夜通しこの髪型というのは正直辛い。この髪型をするだけで頭が重くなったような感覚がするのに、遊女達はこれに多くの髪飾りを着けているのだ。なんともないように振る舞う遊女達の我慢強さを身を持って体感するとは思わなかったと内心で考えつつ「ああ、そうさせて貰う。明日、もう一度頼む」と光忠にまたやって貰いたいことを伝えては、簪を抜いて髪を解く。ぱさりと音を立てて畳に落ちた髪を片手で払う仕草をしていると、眷属が何かを思い付いた顔になってこちらに駆け寄り『主も一緒に寝ませんか?』と妙な提案をしてきた。一瞬呆けた後に首を傾げていると『だって、僕ばっかり光忠さんを独り占めするのは良くないです…』という言葉を聞けば、そんなことを気にしていたのかと思わず笑い混じりの声が漏れる。手を伸ばして眷属の頭を軽く撫でながら「悪いが、俺は次郎太刀と話があるからここを離れる。俺の代わりに光忠を任せたい、出来るな?」と、その場の思いつきで適当に作り上げた断りの理由を口にしては、視線を光忠に向けて「(しばらく付き合ってやってくれ)」と眷属には聞こえないよう声無き声を送って)
(見るからに重たそうな髪型にしてしまった為に緩やかな動作で艶やかな髪が解かれる様子を見つつ「うん、勿論だよ。また任せてくれ」と何度でも相手の役に立てるのは嬉しいので和らげに微笑んでいく。予め起きる時間を少し早めておこうと考えながらいると、不意に伽羅ちゃんへとある提案をした眷属くんを眺めつつ、其の理由に何だか自身の扱いをそう言って貰えて凄く恐縮だと思ったが、ただ彼と同じくそんな眷属くんをつい微笑ましく思ったため小さな笑みを零す。それから、声無き声で伽羅ちゃんから言葉が送られてくればきっと次郎太刀さんとの話し合いは本当では無いのだろうと色々と察し、了解と言わんばかりにこくりと頷くと眷属くんの側に寄ってはその手を優しく掴んで「眷属くん、伽羅ちゃんもそう言ってくれた事だし二人で寝ようか。彼が頼りになるのは勿論だけど、君も頼りになるから今日も安心して寝られそうだよ」と頭を撫でては寝室に促そうとして行き)
【大倶利伽羅廣光】
(多くを語らずとも光忠は自分の思惑を悟ってくれたようで、眷属に話しかけながらさりげなく寝室へと誘導する。眷属の使命である主の命令と、光忠と一緒にいたいという願いを同時に叶えられることに気付いたのか、ぱあっと明るい笑顔を浮かべては『はい!任せてください!』と力強くそう言い、光忠の誘導に従って上機嫌な様子で寝室に向かって行った。良くも悪くも単純な奴だ、と僅かに苦笑を浮かべては「さっきの言葉は適当だったが、次郎太刀と話がしたいのはあながち嘘じゃない。少し出て来るが、その間よろしく頼む」と改めて光忠に眷属の面倒を見てくれるよう頼んでから、部屋の襖へと手を掛ける。…と、そこで襖の向こう側の気配に気付いて僅かに顔をしかめてから「…遅くなるかもしれない」とぽつりと呟くように付け加えては、襖を開いて部屋の外へと出た後、振り返らずに素早く襖を閉める。それから、目の前に立っている二人の妖怪へと視線を向けて「立ち聞きか」と問いかけて)
【次郎太刀】
(この建物はありとあらゆる場所に妖怪の術が施されている。唯一術の影響下に無いのが竜神と黒髪の彼、そして眷属がいる部屋だ。神とは真逆の妖の力が満ちたここでは、得意の気配察知もまともに機能しない…と、思っていた。それなのに部屋を出る前に自分達のことを察知した竜神には感服するしか無く「あっはっは!さすがは竜神様だねぇ、バレちゃったか!」と大きく笑ってみせる。隣に立つのは自分の部下であり、彼らの案内役を務めた女性型の妖怪が口元に手を当ててくすくすと微笑み『ほんに、面白いお方ですわぁ。さすがは次郎さまが見込んだ殿方ですこと』と言うのを聞いては、竜神が部下に向けて鋭い視線を向ける。「まーた余計なちょっかいかけたのかい?」と部下に聞いてみれば『だぁって次郎さまぁ?あんなに素敵な黒い髪をお持ちの方を目の前にしたら、わっちらなんかマタタビ与えられた猫同然ですやろぉ?』と艶っぽく笑うのが見えて、反省の色が全く無いのがよく分かる。「悪いねぇ、倶利伽羅。あたしら妖怪ってのはこういう種族だからさ」とフォローになってないような発言をしては、がっしりと今は細くなった竜神の肩を掴み「と、いうわけで!お詫びの印にこれから一杯やろうじゃないのさ!」と誘いをかければ露骨に竜神の顔色が変わり、逃げようとする体に足払いをかけて傾いた所を瞬時に俵担ぎする。『やぁん、次郎さまったら鮮やか~!』『おい!降ろせ!アンタと飲むとろくなことが無い!』という周りの声を耳にしながら、襖の向こう側に聞こえるように「みっちゃーん!倶利伽羅借りてくよ~!明朝までには戻るからね~!」とどさくさ紛れに親しみやすい呼び方を混じえつつそう呼びかけてから、暴れる竜神が落ちないようしっかり支えつつ歩き出して)
(無邪気に笑う眷属くんを見ては、素直で可愛いと思いつつ寝室へと向かって行くのを見届けて、続けて掛けられた声に後ろを振り返れば「そっかぁ、うん分かったよ。任せてくれ。伽羅ちゃんは次郎太刀さんとゆっくり話して来て大丈夫だよ」と相手から頼み事をされれば責任を持って全うしようと密かに意気込みながら、ひらひらと小さく手を振っていく。が、不意に何やら襖を開ける彼の手が一瞬止まったように見えたので首を傾げたものの、次いで聞こえて来た言葉に何か遅くなる要因でも察したのだろうかと、またもや不思議に思ったが「時間については気にしなくて平気だよ」とだけ伝えて、部屋からその二回りも小さくなっている背を見送っていく。それから数分もしない内に響き渡った次郎太刀さんの声に、嗚呼だからかと納得しては「ええ、分かりました。明朝までには必ず戻って来て下さいね」と口端に片手を充てて少し大きな声で返答すると、伽羅ちゃんってお酒強いのかなと思いながら大丈夫かなと心配しつつ、眷属くんの待つ寝室へと入って行く。冬に近い秋ゆえ少し分厚い羽布団を持ち上げては「さてと、消灯の時間だね。寝る準備は大丈夫かい?」と寝る前に遣り残した事は無いか眷属くんに問い掛けてみて)
(僕がずっとずっと思っていたこと。それは、人間のように自由に動く体と聞こえる声で光忠さんにたくさん気持ちを伝えること。主を通してしか言葉を伝えられなくて、小さな体を一生懸命動かして意志表示するしか無くて。光忠さんはとっても賢いから、僕の言いたいことをいつも察してくれていたけれど、それでも直接言葉を伝えたかったし、ぎゅっと抱きしめて安心してもらいたかった。でも、眷属の姿を変えるには主の力を借りるしか無くて、少しずつ弱っていく主を見てきたから人間の姿にして欲しいなんて言えなかった。でも、悪い神様をやっつけて、前より元気になった主に人間の姿を与えて貰って願いが叶った。だから僕は、人間の姿でいられる今の内に光忠さんにたくさん気持ちを伝えたい。僕の気持ちはちゃんと光忠さんに伝わってるのかな。そんなことを考えていたら光忠さんから声を掛けられて『はい!ばっちりです!』と答えてから、先に布団の中に潜り込む。ぽかぽかとした暖かさとふわふわな感触が気持ちいい。光忠さんが入れるようにあまりスペースを取らないように気を付けながら『光忠さん、暖かいですよ!早く早く!』と呼びかけてみて)
(思えば、眷属くんとこう言う風に音のある言葉でやり取りをするのは矢張り新鮮だなぁと思いながらも、子供の様に純粋無垢な相手を微笑ましく見ては「うんうん、それじゃあお隣に失礼するね」と続けて布団の中に入り込んでいく。ふわふわとした感覚を下に感じつつ、羽毛布団特有の温かさに眠気が誘われるものの格好悪いため欠伸などは出来ず我慢し、ふと直ぐ横で床に着いている眷属くんを視界に入れては「本当だ。この布団温かいね。良く眠れそうだ」と笑みを零すと、おもむろに手を伸ばして其の頭を緩やかな手付きで撫でていき、隣に温もりが有るのは心地良いなと口元を緩めれば「…誰かと布団で一緒に寝る事なんてあまり無いから、何だか凄く嬉しいよ」と小さな声ながらも伝えていって)
(光忠さんも暖かいと思ってくれているようで、同じ気持ちになれたのがとっても嬉しい。けれどそれだけじゃなくて、光忠さんは僕の頭を撫でてくれた。主がいつもするような優しい手付きで、主に撫でられた時と同じくらい幸せになる。主が帰って来たら、主にもたくさん撫でて貰いたい。でも今は、光忠さんにたくさん撫でて欲しい。…そう思っていると、光忠さんが小さな声で僕に言葉を告げた。思わず顔を上げると、そこには微笑む光忠さんがいる。けど、さっきの言葉はなんだかちょっと悲しい感じがした。それは主が時折見せる悲しい表情と似ているような気がして、それを無くす為に光忠さんをぎゅうっと抱きしめる。『こうしたら、もっと嬉しい気持ちになってくれますか?』と問いかけながら、じっと光忠さんの一つだけの瞳を見つめてみる。主より柔らかい色をした金色の瞳。主と同じ優しい口調。主のように傷がいっぱいある心。主と光忠さんは全然違うはずなのに、二人はなんだか似てる所が多い。だからこそ、主と光忠さんはお互いを選んだのだと思う。『僕は…僕達は、主や光忠さんが嬉しい気持ちになってくれると、とっても幸せです』と気持ちを伝えて、にっこりと笑顔を浮かべて、それから…なんだか、目の前が霞んできた。段々と目を開けていられなくなって、もしかしてこれが眠るということなのかな、と頭のすみっこで考えて『だから…ぼくは…ずうっと、あるじとみつたださんの、そばに…』と、お願いのような言葉を口にして、それを最後に意識が落ちていき)
突然、ごめんね。
一度お話の方をストップさせて貰うよ。
ちょっと背後が意気地無しでね、僕から大切な事を伝えさせて貰うね。君と君の背後さんとの遣り取りは凄く凄く楽しかったんだけど、色々と此方の理由があってこれ以上続けられそうに無いんだ。…ごめんね、これだけ何度も待たせておいた癖に唐突にこんな事を言うだなんて。…理由については詳細は暈させて貰うね、きっと言っても君と君の背後さんを困らせて嫌な思いをさせてしまうだけだからさ…。ただ、絶対に飽きたとか君が嫌いになったとかではないからね、それだけは絶対に違うよ。こんな立場だから説得力なんて無いけど、それだけはどうか信じてくれたら嬉しい…。
無言で居なくなってしまうのは、さすがに此処まで遣り取りをした君や君の背後さんに失礼だし、それだけはしたくなかったから、こうして伝えさせて貰っているのだけど…逆にこれが嫌だったらごめんね。それと、本当は僕の背後の口から話すのが一番良いのだけどそれが出来ない意気地無しで本当にごめんよ。
…全面的に僕が悪いから、君は何も気にしないでくれ。我が儘な僕に此処まで付き合わせてしまってごめんね、君との遣り取りは凄く楽しかったよ有難う。それと、こんな最後まで自分勝手な文を読んでくれて本当に君と君の背後さんには感謝しきれないよ。
それじゃあ…僕は伽羅ちゃんの幸せを願って、ここで失礼するね。
…そうか、分かった。アンタ達に合わせてこちらも背後ではなく俺が返事をさせて貰う。
まず、アンタ達自身に何事も無くて安心した。こちらが現実の方を優先して構わないと言ったが、実際に返事が無いと何かあったのではないか、こちらに粗相があったのではないかと不安になるのが常でな。大袈裟だが、アンタ達が健在だということが何より嬉しい。
理由も、詳しくは聞かない。誰にでも話したくないことはある、それを無理に聞こうとは思わない。俺も背後も、アンタ達のことを信用してる。だから、『嫌いになったわけでも飽きたわけでもない』というアンタ達の言葉も信じる。
何かもっと、気の利いた言葉を言えればいいんだが…すまない、俺も背後も、上手く言葉で感情を表現するのが苦手だ。だが、アンタ達とのやり取りは本当に楽しかった。幸せだった、と言っても過言じゃない、と思う。…少し恥ずかしいが。
…正直、アンタ達以上の相手が見つかるとも思えない。だから、別の相手を探すことはせずにこの場所はこのままにしておく。
もう叶わないかもしれないが、もし、アンタ達が戻りたいと思った時は…また来てくれ。俺達はいつでも待ってる。待つのは得意だからな。
俺の傍にいてくれてありがとう、光忠。
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