夕立 2016-07-07 23:11:25 |
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ふふ、少しは力になれたのかしら?
( 今までの言動からして、相手は有力な情報を提供できなかった己に対し責め立てるようなことを言う人物ではない。しかしそうわかっていつつも内心は不安であったため、感謝の意を表されれば暫しきょとんと気抜けした顔になるも直ぐに頬へ手を添えながら嬉しそうに微笑み。先程から雲行きが怪しいとは思っていたが、ついに本格的に降り出した雨。今後の予定を把握しては列車で移動するという相手の背を、丸帽子片手で押さえながら追いかけ )
( 乗車してから四半の刻が過ぎた頃、閻魔庁付近で一度停車して。操縦士に一言置いてから門を守るように番をする隊士に亡者の身柄を引き渡した後、再び乗ると列車はゆっくりと動き出し。静かな時が流れる中で、ガタンゴトンと線路を走る音のみが心地よく耳に届き。ふと、船と名乗る彼女はどのように暮らしていたのか気になって。それは好奇心に近い感情で、彼女に興味があることに多少の驚きを感じつつ「愛宕、お前の生前の話を聞かせてほしい。…これは調査のためではなく、俺個人からの頼みだ。」ぎゅ、と鍔を握ると視線を僅かに下へ向かせ )
生前の話…──元は私、鎮守府っていうところにいたの。其処には私みたいに舟である女の子達が大勢と、提督っていう指揮官みたいな人がいるのよ。皆凄く仲が良くて毎日が充実してたわ!
( 相手の後に続いて己も列車に飛び乗ると、疲れで今にもよろけそうな体を支えるべく目の前にある手摺りに掴まって。途中、すっかり大人しくなった化物の身柄引渡しをてきぱき行う彼の姿に頼もしさを感じては安心した様に微笑みを浮かばせ。暫く続いた沈黙の時間でこの後どんな所へ連れていかれるのか想像を膨らませていると、此方に疑問を投げ掛ける相手の可愛いらしい仕草に小さく笑みをもらしては楽しそうに答えはじめ。始めは言葉を弾ませながら答えていたものの、次第に表情が暗く変化し出せば「 でもね、私達には敵対する艦船群──〝深海棲艦〟っていう強敵がいるの。それのせいで轟沈してしまった子達も少なくないのよ 」と悔しそうに下唇を噛んでは潤む瞳を相手に見せまいと顔を俯かせ )
深海棲艦…か。そいつらはお前にとって忌むべき存在なのだろうな。
( 楽しそうに語る様子をどこか眩しそうに眺めつつ真剣に耳を傾けて。その声音から本当に明るくて良い場所なのだということが言葉を通して伝わり、ふっと微かに表情を柔らかくさせ。しかし、先程の嬉々として話していた姿とは一変し、重々しく口を開かせて悔しそうにさせる中に深い悲しみが見えたような気がして。轟沈――すなわち、彼女らにとって死を意味するのだろう。仲間の死を彼女自身の目で確認したことも少なからずあるはずで。心境を察せば独白するように呟き、胸元のポケットからハンカチを取り出すと「これを使うといい」と、そっとそれを差し出して )
ありがとう、斬島さんって凄く気が利くのね。
( 隠し通したつもりであった為自身の方へ差しだされたハンカチを見るなり目を丸くさせるも、己の窮地を救ってくれたりその後の面倒を見てくれたりと何かと優しく接してくれる彼へ次第に緊張感も薄れていっては自然と柔らかい笑みを見せ。そっと相手の手からハンカチを受け取ると裾の方で目尻に溜まった涙を拭き取り、ぎゅっと手で握りこんだままその手を下ろし。己の話のせいで暗い雰囲気にさせてしまったため、どうにかこの空気が変わらないかと思案しては「 暗い話しちゃってごめんなさい…、良ければ今度は貴方の話──そうね、今から行く場所なんかについても教えてもらいたいわ 」と出来るだけ明るい声色で聞いてみて )
そうだな…。窓の景色を見て気付いているとは思うが、この獄都という首都はいくつかの区域に分かれている。
( 愛宕のせいではない、そう言おうと開きかけた口を閉じて噤み。彼女は話の展開が変わることを望んでいるのに己が再発させてどうするというのだ。一度思考をリセットさせてから行き先のについてどう伝えるか暫し考え。やがて言葉がまとまっていけば列車の窓の外へ僅かに視線を傾け、話を始めて。雨粒を受けて滲む風景は油絵のように幻想的に写し出しており「先程愛宕が居た場所は現代、近未来、平安、江戸…そしてこれから行く館は大体明治大正から昭和初期頃になる。」と説明を終えたと同時に列車は止まり。どうやら目的地へ到着したようで「――着いたみたいだな。降りるぞ。」すっと座椅子から立ち上がると相手の方へ手を差し伸べ )
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