都々 2016-06-18 21:21:15 |
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屋根を叩く音は数時間前に比べ、随分と控えめなものになっている。何をするでもなくバス停に座り続ける姿は、傍から見れば奇妙な絵だろう。けれどこんな雨の日に、用もなく廃線になって長いバス停に立ち寄る者もそういないはずだ。その証拠に雨が降り出してから今までの間、バス停の屋根に入る者は疎か、ここから見える整えられていない道路を通る者すら現れていない。
同じ姿勢で座り続けていたからか、体の節々が痛みを訴える。両手を組み腕を前に伸ばして息を吐き出す。何をするでもなく、とは言ったが目的がない訳ではない。待っているのだ。ここに来るはずの人を。
「 雨、上がっちまうじゃねえか 」
傷んだ屋根の隙間から見える空は、未だ曇天ではあるものの少しずつ明るさを取り戻している。雨上がり特有の地面の匂い。その中に僅かな夏の香りを感じた。梅雨が始まる頃は冷えていた雨上がりも、これからは蒸し暑さを呼ぶものに変わって行くのだろう。
ポケットに入れていた端末が震え、メッセージの受信を知らせた。今日はもう来ないつもりなのだろう。半ば諦めた気持ちで端末を取り出し、ホーム画面を開く。そこで思考が止まった。
7月1日。日付を示す数字は確かにそう表示されていた。勢い良く体を起こし、バス停の外へ出る。遠くに見える田畑、背後に聳える山々、人気のない田舎道。彼方此方へ視線を向け、夢中で水色の傘を探す。その途中、見つけたのは淡い水色ではなく鮮やかな黄色だった。手にしていた端末が舗装されていない地面にぶつかり、鈍い音を立てて転がる。
蒸し暑い空気。高く伸びた雑草たち。花開こうとしている一輪の向日葵。
そうか、夏が来てしまったのだ。
「 またね 」と微笑んだ彼女の声が、どこか遠くで聞こえた気がした。彼女のいない日々が、また始まる。
東京喰種:re、終幕。
コミックス派だったから少し遅めの最終回読破。遂に終わっちゃったなあ‥。どの作品の時もそうだけど、余韻がすごい。
んんんんん、3周年ガチャエクストラかキャスターどっちを引くか迷う〜!マーリン宝具レベルアップを狙ってキャスター行くか、それともアビーちゃんしか持ってないサリエリガチャを引くか‥!今勢いに任せて決めたら後悔しそうだからもうちょっと考えよ。
ペルセウス座流星群、無事観測。星が流れない時間はずっと変わり映えしない空なのに、時間を忘れて眺められてしまう不思議。夜空には人を惹き付ける魔力的な何かがあるとしか思えない。
願い事を言い漏らさないようにずーっと同じ言葉を唱えてるのに、いざ流れた時は「あ!」とか「流れた!」とかありきたりな感想を述べてしまう流星群あるある。
しんと静まり返った街、そこを流れる冷え切った空気を太陽の光が照らし始める。自分の呼吸音だけがやけに大きく聞こえるその時間、世界にひとりきりになってしまったような、そんな錯覚に時々陥る。
吐き出した息は白く、手足の先も冷たく感覚が麻痺仕掛けている。朝晩は冷え込みますが昼間は暖かな陽気になるでしょう、そんなテレビの音声を昨晩聞いたような気がする。表情だけはにこやかに、けれど淡々とした声で話す天気予報士の姿が印象に残っていた。
大学から徒歩3分、格安の小さな古いアパートでひとり暮らし。多くの学生や教員が利用する表門に回ればこの時間であっても誰かしらの姿を見かける事は出来るだろう。しかし、このボロアパートは裏門側、それもすぐ側に木々が鬱蒼と生い茂る雑木林に面した、学生特有の賑わいから一歩遠ざかった位置に面している。朝、まず立ち寄るのは新しく立て直されたC棟や新築のG棟と対極の場所に存在している旧B棟。3階に上がって一番奥、日当たりの悪い小さな部屋で小説を読み進めるのが毎日の日課だった。
存在しているのかも分からない、歴史だけはあるが人気のない文学サークルに宛てがわれた部屋は、何処かに穴でも空いているのか、何時でも隙間風を感じられた。中に入ってすぐに暖房を付けるが、古い冷暖房機は盛大な音を立てることはあってもすぐに温かな風を送ってくれることはない。首元のマフラーを巻いたまま、持ち込んだポットに水を入れて電源を入れる。
半年程前、他の部活やサークルが新校舎に次々と拠点を移動させる中、自分に移動命令が下されるのは恐らく最後の方だろうと悠長に構えていた。何しろサークルメンバーはたった一人、表立った活動だって殆どしていないのだから。一つ、また一つと部屋が空いていく。そして旧B棟が空っぽになった後も、文学サークルに声が掛けられることは遂になかった。
忘れ去られているのだろう、という自覚はあった。けれど態々此方から移動申請をする程の気力や熱意が、己にはなかった。単位を取り損ねるようなことさえなければ、どうせあと一年で卒業だし。そんな思いも何処かにあったのかもしれない。
朝、この部屋に来てから1限目が始まる10分前までを読書の時間と決めていた。数ヶ月前まではちらほらと聞こえていたはずの人の声も、今は全く耳に届かない。使われなくなった校舎でただ一人、無心になって活字を追いかける。目覚めてから授業に向かうまでの朝の時間、人と会うことがなくなっていた。
おや、と違和感を感じることはそれまでにも何度かあった。変わっている小説の並び、洗った覚えのないマグカップ、払い落とされた埃の跡。初めは気のせいかと思っていたが、幾つもの違和感が重なる内、それは確信に変わっていた。けれど、悪戯にしては気が利く上に、全く己に害がないことが不思議でもあった。何より、そこには確かな優しさが含まれている。少しの不気味さすら感じさせない気配の薄さも相まって、己はその違和感を受け入れることに決めた。
今日その違和感を感じたのは読書を終えた後、この部屋に置きっぱなしにしている教科書類の中からルーズリーフの束を引き抜いた時だった。ルーズリーフを取り除いたことでできた隙間、そこからはらりと何かが床に落ちる。拾い上げてみるとそれは白いくて細長い、シンプルな栞のような一枚の紙。見覚えはなかった。ふと何気なく裏返すと、綺麗な字が並んでいる。一文字ずつ丁寧に書いたのだろうと、そう感じさせる字。長い間ひとりきりだった空間に、今は確かに人の気配を感じる。心地よく受け入れていた違和感達が、温もりを持った瞬間だった。
『貴方の好きな本を教えてください。』
大丈夫だから、大人になって。
こどもの頃に読んでたらまた違った意味を持ったんだろうな。大人と呼べる年齢になってしまったからこそ、心に突き刺さる作品でした。ありがとう。
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