強めのホラー/タヒ有。
*東郷さんネタ有。
*ドッペル?有り。
――パラレルワールドって知っているダスか?
デカパン博士のラボに、巨大なポットが六つ置かれていた。
――パラレルワールドっていうのはいわば違う生き方を選択した世界ダス。そんな自分を見てみたいとは思わないダスか?
このポットは脳内記憶からイフのデータを取り上げ、その世界を構成するマシンダス。世界にある家も町も人もさらには感覚まで現実そのものに味わえるんダス。そんな人生も見てみたいとは思わないダスか?
……その誘いに乗ってしまったことを後悔することになるとは、俺達は思わなかった。
「すげー!パラレルの世界!?まんま俺たちの町じゃん!ポットでほんとは寝てるだけなんてしんじらんねー!」
「ふっ、アナザールートを選びし自分に会うのも悪くはない…」
「家も普通にうちなんだ……すごいね」
「まあどーせパラレルだろーとなんだろーと変わんないよ、クズはクズ…」
「二人いたらやきうできるね!たーのもー!!」
「野球しにいくんじゃないよ、十四松兄さん。」
「よし、家に入ろうぜ」
「い、いいのかな?自宅とはいえ違う僕らがいるんじゃないの?」
「でも入んないと会えないし行くとこないよ?」
「そゆことそゆこと!んじゃおっじゃましまーす!………あり?」
「どしたのおそ松兄さん?」
「……なんか、ちがくね?電話もないし……」
「……殺風景だよね」
「人気がないな」
「…引っ越したとか?」
「だったらここに飛ばされた意味がわかんねぇだろ、…戸はあきっぱだったんだけどなー。おーい、誰か―!」
「手分けして見てみようか」
「…どの部屋も家具ひとつないよー?」
「まっさか。きっと寝室でシコ松がシコ松ってるにちがいない」
「どういうことだ長男コラァ!」
「てなわけでちょろちゃんおじゃましま…………、………………え、」
「……いやなにドンびいてんの?僕もさすがにパラレルでまでそれは」
「おそ松…?どうした、口に手なんて当てて」
「………ッ…あ、…あ……!!?…う、……嘘だ、ろ……嘘だ……!」
「!おそ松!?」
「兄さん!?どうしたの!?」
「あ……俺、…俺……!あ、う、ああああああ!!!」
「にーさん!!」
「…どいて、過呼吸起こしてる。袋とかない…ねえ、大丈夫?」
「…ちょ、おそ松兄さ………、………え?……なに、あれ……」
「……チョロ松。ここは…寝室……だよな?」
「……うん……でも、……なにあの、壁の、おふだの数…」
「ち、……血も、見える……よ?」
「……俺が見てくる、皆はここに居るんだ。」
寝室…のはずの場所に辺り一面張られた札の山は神社で見るようなそれだった。…あまり見る習慣なんてないけれど、わかる。これは、――真夏にやるふざけたような心霊特番で見るような…。
しかも壁には文字がある。…おそ松はこれを見て絶叫したに違いない、……パラレルのおそ松の物だろうな。
だって、これはあいつにしか書けない。
「クソ松」
「一松、…待ってろと…、あまり見ない方が」
「別にいい。…それよりこれ。」
「…ああ。」
「…間違いなく、この世界の俺達は殺されてる。」
「……全員が殺されているかどうかは定かではないが、…全員死んでいる」
「……母さんたちは?」
「さあ……」
「……、……これ」
「…たぶん血…だろうな。染みきってしまってるのか消えそうにない」
「不自然じゃない?」
「……え?」
「…いくら血でもこれ壁だろ?土壁ならまだしも木製だし…ここでなんかあったにせよ札まで貼るくらいなんだからきれいに落とさない…?」
「……さすがに落ちるよな」
「……早く帰った方がいいかもわかんねーぞ、ここ。いろいろおかしいし。……そもそもおそ松兄さんが今マズイ」
「ああ……」
ちらりと目にする壁の赤文字。…そのそばにかけられている白黒の六つの顔写真。
「…可愛そうな目にあったんだな…」
「……これ、書けるのおそ松兄さんだけだよな?」
「………。」
「…俺はよく知らねぇけど……寝てるときうなされて名前何回か聞いてるんだよね」
「……」
「お前はなにかしってんの」
「…察してくれ」
「……わかった、とりあえず帰………!」
「……!おそ松……?おまえ、さっき、チョロ松たちのとこに…大丈夫なのか?」
「え?全然?大丈夫にきまってんじゃーん!俺天下のお兄様よ?あっ、そーだよカラ松ぅ!せっかくだから遊びに行かねぇ?俺今わくわくしててさあ」
「え、…お、おそ松?」
「……クソ松、だめ」
「え?」
「……おそ松兄さんじゃないよ、こいつ」
「いや〜、まいったまいった!まっさか……兄弟一人一人皆が皆災難にあって俺ひとりぼっちになるなんてさあ。もーさみしくてさみしくて仕方ないよねー。そんなときにこんな昔の知り合いに殺されちゃって?この世の終わりかと思ったー!」
「え、…え、」
「…………」
「でもそんなときにプログラムとしてでもよみがえっちまうなんてすっごいよねぇ、俺今生きてる?亡霊?まどーでもいーけど!やり直すチャンスってわけで!…てなわけでカラ松、一松。悪いんだけど〜。」
金かしてくんない?
……なんて、いつものようにはにかむあいつはいなかった。
その体、くれない?
全身の産毛がぞわりとした。恐怖だ。思わずおそ松のような誰かから離れようとした直後だ。首がひやりとした。
「エスケープか?男らしくないぜ、別世界の俺」
「……!!な……」
「っ離せ!!!やめろぉ!!!触んな…!」
「!一松!!」
背後から一松のうなじを掴む人物にぞわりとする。
見覚えなんてもんじゃない!!!
一松!!
「ひひ、…よわっちい。体も生きることも兄弟も家族もみんな揃って甘く生きてる幸福者が。こんまま絞められて逝っちゃう?」
「…っ、かは…!ぁ、…っ!!はな、せ…っ!!…っごほっ!」
「っ…一松……!!一松っっっ!!!!!離せっ!!!」
容赦なんかない。
目の前で首を絞められている弟がいて容赦なんかできっこない。
首に刃物を突きつけるもう一人の自分の腹部を蹴りあげてからもう一人の一松に飛びかかった。
「この…っ!!!」
「うわああああ!!!おそ松兄さん!おそ松兄さん!!」
「トッティ前出ちゃ危ないよ!!ぼ、ぼくが!」
「離れてろお前らは!!…っ、おそ松兄さん立てる!?」
「っ…のやろ……、…ぶっ潰す……!」
他の兄弟たちの悲鳴。
もう一人の一松に拳を振りかぶろうとしたとこで我に帰った。
「一松走れるか、逃げるぞ!!」
咄嗟に一松の腕を引いて廊下へ走り出る。
……チョロ松。十四松。トド松。
ゆらりとした動きを漏らしながら、俺の兄弟を襲っていた。
「逃げるぞ!向こうにも三人いる!」
「無理だよカラ松にーさん、おそ松兄さん怪我して走れないもん!!」
「俺がおぶる!」
「いいからさっさと逃げろ頭カラッポ次男!」
「いいからさっさとおぶられろパチンカス長男!」
「そうだよクズ松兄さん!ゴリラ松兄さんは力しか取り柄ないんだから!」
「「トッティやめて!!」」
「いいから行くよクソ二人……っつーかこれプログラムだろ、切れねぇの?」
「デカパン博士が異常に気がつかないかぎり無理だよ、寝てる感覚すらないんだから!」
「そういうこと」
「!!おそまつ…っ」
「いやだーれがおそ松!?俺のがかっこいいから!つえーから!」
「はぁああ!?ふざけんなし俺のがかっこいいから!カリスマだから!」
「人の背中と目前で喚かないでくれないか!!」
「あはははは、カラ松にーさんさんどいっち!」
「いってる場合か!!」
「…俺達はただの亡霊じゃなく、おまえたちの頭を直接ドッキングしてる機械のプログラムだ」
「つまり、」
「……どこからでも神出鬼没に出てこれるし…」
「マジ自由自在!」
「で、ついでに生きてるみんなの頭を乗っ取っちゃって生き返っちゃおうってわけかな」
「そ、そんなことできるわけないじゃん!そんなかわいい王子様みたいな顔でなにいってんのさ!」
「自画自賛やめてトッティ」
「つーかのっとるってどーやんの?どーやんの?」
「あんね!そっちのにーさんとトッティを倒して頭のなかの記憶媒体におれたちをセーブすんの!」
「プログラムかつ亡霊ってわけ…ひひ」
「鬼ごっこだね、みんな!」
捕まったら大変だよ。
「っ、逃げろ!!!!」
「おいどうすんのこれ、全員戻れるの!?」
「チョロ松あいつらハリセンとかで倒せないの?」
「それ違うゲーム!無理だから!メタイからやめておそ松兄さん!」
「あの、あんね!身を隠した方がいいと思いマッスル!!」
「十四松兄さんの言う通りかも、デカパン博士もなかなか異変に気付かないよ。別れて退散した方がいいかもしれないよ」
「だがおそ松が」
「俺もそろそろ動ける、だいじょぶ大丈夫」
「……もし誰か死んだらどうする?」
「……そん時ゃそいつはもう俺の弟じゃねぇ」
「俺の兄貴でもない」
「……殺してくれる?」
「バカ言うな、そうさせない」
「そうだよ一松、絶対誰も死なない」
「……いい?全力で逃げるんだよ、危ないから…」
「わかってる」
「…亡霊とはいえあいつらにはさわれる、いざとなったら身を守れる工夫もしておいた方がいいかもわからん」
「とりあえず」
「デカパン博士が異常に気付くまで生き延びんぞ!!」
しばしおまちを。