xxx 2016-05-20 12:45:36 |
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(相手と少女を門先まで見送った後、師範に今回の騒動のことを苦し紛れな言葉を並べて何とか言いくるめては、どっと疲れが押し寄せ自室に戻り寝床に横になる。
言葉少なで無表情な相手の心情はいまいち掴めず、当然だがそう簡単に警戒心を解いてくれそうにもない。
何とかせねばなと、寺子屋が始まるまでの時間眠りについて。
(受け持つ授業を終えた正午、師範に夕餉の買い出しを頼まれ街に出ると、その期を見計らったかのように町民に扮した組織の男が近づいてきて。
『よう露草。お前、昨日は自分の問題持ち込んでやらかしたそうじゃないか。上の連中がお冠だったぞ。』
「わざわざ難癖つけに来たのか。」
『まさか。』
(そう言って渡された紙には、相手を排除ではなく捕獲するようにと指示があり。
『上層部が侍嫌いなのは知ってるだろ?そいつ(相手)、は裏じゃ顔の知れた腕利きで相当な賞金が掛かってるらしい。侍を消せて金も手に入れば上にとっちゃうまい話しだよな。』
「…この話、俺じゃなくても良いんじゃないか?」
『うちの組織が刺客を雇う余裕ないの知ってんだろ。』
(肩を叩かれ去られてしまえば、やはり下っ端の自分が引き受けるしかないかと溜息を吐き、相手をうまく言いくるめ捕獲する方法を考えつつ頼まれた使いをすべく花街にほどちかい高級な食材を扱う宿場町に向かって。
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( まだ寒さが厳しい3月の早朝、孤児荘の縁側にて白い息を吐いては欠伸を漏らし伸びをする。
長期の海外での仕事、メアリー直々の頼みとあれば断れる筈もなく数ヶ月程米国にて住み込みの仕事をしていたところ昨日の深夜帰って来たというところで。
久し振りに自室での睡眠を取った物の子供達に無断で帰って来たため早く起きてしまい、かと言って起こすのも忍びないと煙管を咥える。
あちらの国の葉巻も中々好みではあったが、やはり此方(煙管)の方が慣れている。
相手はどうしてるだろうか、せっかちのメアリーの事もあり相手に連絡出来ずに米国に行ってしまった。
何度か『手紙でも送ったらどう?私とっても可愛いレターセット持ってるわよ!』と勧められたが自分が手紙など書ける筈も無く何度か挑戦はした物のそれは挑戦のままで終わってしまい。
『え………?』
( 抜けた声に振り返ればそこには年長の少女が今起きたという風に立っており、自分の姿を見ては驚きを隠せずにいて。
『なんで?………え、兄さん?』
「昨夜帰った。起こすのも忍び無くてな」
( 無事を強引に確認されては相手はどうしてるだろうかと聞こうとするも口篭る。
数ヶ月、その時間は実に長い。
しかも男女問わず人気な相手の事、急に姿を消した自分になど愛想付き他に誰か恋仲の存在があるかもしれない。
「先生は、元気か?」
( 沢山の保険を掛けた様な問い掛けをしては少女はぱあっと微笑み『先生ね!昨日ご飯作りに来てくれたのよ!お野菜も分けてくれたり、子供達だけじゃ心配って色々してくれてたのよ?あの大量のお洗濯も手伝ってくれてたし…』と。
これは礼を言いに行かなきゃならないな、と相手に会いたいと言う気持ちに“礼を言いに行く”とこじつけては恋仲の存在があるのかの確認も含め、昼前には向かおうと。
起きて来る子供達に帰りの挨拶を済ましては久し振りに大勢での朝餉にして。
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(早朝、小脇に竹ザルに盛った野菜を抱え、ここ数ヶ月日課となった孤児荘までの道のりを行く。
孤児荘に着き門をくぐってすぐいつもと違う空気を感じとっては訝しみつつ玄関の戸を叩こうとするも、中から子どもの『ああ!爛兄ちゃんの魚一番大きい!ずるい!』と声が聞こえピタリと手を止めて。
_相手が消息を経って数ヶ月、相手のことを考えなかった日など一日もなく、一日、一月と時を重ねるごとに募る不安は相手は死んでしまったかも…という悲観までいくほどで。
それに対して相手の兄は『馬鹿だなー、あいつは菊が殺さない限り死なないよ。』と冗談を言うも不安が消えることはなく。
…生きてた_。
(吐き出す息と共に小さく呟いては、すぐに顔を見たい衝動に駆られるも相手との最後が決して良いとは言えなかったため足は一歩も動かずに。
止まること数十秒、渦巻く様々な感情を打ち払うと持ってきた野菜を玄関前に置き、さっさと帰って寺子屋の準備を始めてしまおうとその場を静かに立ち去って。)
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( 久し振りに子供達と遊んだり他愛もない話をした後、そろそろ寺子屋も昼休みの頃だろうかと考えては上着を羽織り年長の子供達に“寺子屋に行って来るから子供達の面倒を頼む”と告げて。
玄関口まで送られふと気付いたのは籠に入った沢山の野菜、きょとんとそれを見詰めてた所少女が嬉しそうに籠を覗き込んで。
『これ…先生からだわ!でも………なんで今日は上がってってくれなかったのかしら、先生の作るご飯私すごく大好きだし一緒に食べたかった…』
( 口を尖らせる少女に「取り敢えず、礼を言いに行って来る」と告げ孤児荘を後にしては久し振りの街をやや早歩きで歩いて。
ここの所、外人を見る事も増えたし彼処の文化にも大分染まってきている。
手土産と言っていいものかどうなのか、メアリーに渡された焼き菓子やらを片手に漸く寺子屋の前に訪れては、どういった様子で相手に顔を合せたらいいものかと暫し頭を悩ませる。
その刹那、扉が不意に開いては子供達が勢い良く飛び出して来て。
『あーーー!!!』
( “見た事がある!”とでも言うように自分の顔を見るなり騒ぎ出す子供達を静めては相手は今中にいるのかと問い掛けて。
『先生中にいるよー!宿題の丸付けやってる!』
( ぐいぐい引っ張る子供達に軽く笑を返すもここまで来てどんどん弱気になり、いっそ子供達に手土産を渡して貰い帰ってしまおうか、なんて思い浮かぶもそれではあまりに大人気ないかと。
相手の部屋の前まで案内されるなり子供達はまたぱたぱたと遊びに行ってしまい、ここまで来たのならもう行くしかないかと扉を軽く叩いて。
扉が開くなり、久々に見た相手の姿。
もうずっと会っていなかった、ずっと会いたかった相手が今目前にいる事にどこかぎこちなくなっては手土産をすっと渡し。
「子供達が…色々世話になったみたいで。………迷惑かけたな。昨日、こっちに帰ってきた」
( この時ばっかりは言葉足らずな自分を恨みつつ僅かに視線を逸らしながらぽつりぽつりと話し始めて。
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(相手の帰郷を知ってからというもの仕事はミスの連発で、午後からは切り替えて行こうと採点に没頭していた矢先、当の本人の声が聞こえては顔は上げないまま筆先だけ止めて。
別に、迷惑なんて思ってない。……というか他に言うことないのかよ。
(なんで黙っていなくなっただとかどれだけ心配したかとか言いたいことは沢山あるのに、口に出た言葉は冷たい物言いになって。
しかし、不器用な相手から顔を出してくれた上に目の前の辿々しさを見ては、なんだか全てがどうでもよく思え、筆を静かにおき眼鏡も外すとゆっくり立ち上がり相手を前に行き。
そして一瞬視線を交えた後、差し出された土産はそのままに自分より少し高い位置にある相手の後頭部に手を回し自分の肩に額を押さえつけるように引き寄せ、グッと濃くなる煙管被りの相手の香りにじんわりと相手の存在を実感しては、ただ一言「おかえり。」と。
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( 懐かしい相手の香りに心が緩まるのを感じつつ改めて相手に向き直ってはやはり今回の長期の仕事の事についてちゃんと話すべきだと判断し口を開くも、自分が声を発するより先に先程自分を案内してくれた子供達がまたぱたぱたと走って来て相手の前に並んで。
『先生ー、またお客さんだよー!髪の毛がきんきら金色のお姉さん!』
( 子供達より送れて来たのは見るからに外国人の女性、自分より2つ3つ歳上と言った所だろうか。
自分に頭を軽く下げては『ちょっと、先生をお借りしてもよろしいかしら』と流暢な日本語で問い掛けられこくりと頷いて。
相手に目をやり、一体この女性が誰なのか何の用事で来たのか等と様々な疑問が浮かぶも話の邪魔をする理由にも行かず子供達と共に庭に出て。
『なんかねー、英語のお勉強教えてくれるって。何回かここに来てたんだよー』
( 中庭にて子供達に先程の女性の話をされては、外国人の教師であったのかと。
となれば、あの女性はここで相手と一緒に働くのだろうか等とまたもやもやとした何かが浮かぶ。
折角来たのだし出来ればゆっくり相手と話をしたかった、と。
( その頃、外国人の女性は相手の部屋にてアルファベット文字が手書きで書かれた女性お手製の教材を相手に手渡していて。
『徹夜で頑張っちゃったわ!あの子達、アルファベット文字を面白そうに見てくれるんですもの』
( 何処となく照れ臭そうに微笑んではまたいつもの如く、ここで教師として雇ってほしいと頼み込んできて。
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(ここ最近よく訪れる女教師、始めは警戒していたし雇う余裕はないと断っていたが、その熱心さや目の前の出来の良い教材を見れば、子どもたちためになるのは確かなこと。
加えて自分の拙い英語よりもネイティブの英語の方が断然良いだろうと考え。
「他よりも労賃は少なくなるが、それでも良いならお願いするよ」
『構わないわ!それで早速なんだけど、どう授業を進めるか話し合いたいから今晩お時間頂けるかしら?』
「今晩って…徹夜なんだろ?次の休みの日にでもゆっくり」
『駄目よ!授業は明日もあるんだから今日やらないと!私早く子ども達に教えたいの』
(にこやかに言う女教師の押しの強さに若干押されつつ、その前向きさには好感がもて、同じ教育者同士語れるのは楽しみに思い「じゃあ…」と頷いて。
『ところでさっき部屋にいた背の高い格好いい男の子はあなたのご友人?』
「…いや、友人というか……」
『よく来るの?』
「前はな。でも最近はずっと会ってなかったから」
(その後も相手のことを聞いてくる女教師に絶対相手に気があると思い、変に相手に近寄られる前に先に手を打っておこうと話の区切りがついたところで一度女教師と別れ、子どもたちと遊ぶ相手の元へ向かって。
話の途中だったのに悪い。その…ゆっくり話たいんだが、午後の授業始まるから次の休みにでも会わないか?_二人で、ちゃんと話したい。
(始め言いづらそうにするもいつもより積極的に出れば最後はまっすぐに相手の目を見て返事を待って。
(その頃、女教師はと言うと漸く子ども達に教えられると意気込み、休みも返上して教育に取り組むつもりで浮足立っていて。
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( 話が終わったのであろう相手の姿に気付き、その誘いに内心喜んでいたが数ヶ月の溝か何なのか表情には出せないままこくりと頷いて。
子供達に別れを告げそのまま寺子屋を後にしては特に何か用事がある訳でもなくふらふらと街を彷徨い。
この街にも外国人はかなり増えたし、服装から文化から大分変わった。
刀を下げる者すら少ない上に銃の取り引きや輸入が増えてからは、侍はいなくなったと言っても良いくらいだろうか。
孤児荘への道のりをやや遠回りしながら帰っていた所、通り沿いの川にて自分と瓜二つの青年が孤児荘の子供達と釣りを楽しんでるのに気付き足を止めて。
『あれ、ほんとに帰って来てたんだ』
( 顔立ちは同じと言えどそのコロコロとした表情の変わりようは別人、クスクス笑いながら歩み寄って来た兄に「あぁ、昨夜帰った」と短く返す。
暫くあちらでの暮らしなど他愛もない話を交わすも風が吹いたのと同時に兄が薄い笑みのまま表情を止めては1枚の紙を渡してきて。
『銃の取り引きが盛んになってるから、暗殺業も中々難しくなって来てね。爛も好い加減銃の扱い学んだ方がいいんじゃない?』
「あっち(米国)で何度か教えられたが肩への反動でかくて好きじゃねぇんだよ、俺はこれ(刀)のが慣れてる」
( 紙を受け取り開き見るとどうやら自分の所属してる組織で起こってた事やこれから頼まれるであろう依頼の数々が記されていて。
組織での変化の文のとある一行で目を止めては兄に向き直る。
『うん、そこ菊が所属してた組織だよね。一悶着あったみたいで敵対になるってさ』
「……………」
『爛の組織にとって困るのは、彼処さん(相手の組織)は銃に優れてるからねー。その分銃の取り引きとかあんまりしてなかった爛の組織にしてみれば大焦りってとこじゃない?』
( 面倒な事になったものだと眉間に皺を寄せるも、取り敢えず今宵の密会には帰って来た事を知らせる為にも参加しなければならない為その時にでも組織の事を聞こうと。
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( その夜、約束通り女性教師を自室に招き明日からの授業の段取りを話し合っては、思いの外話がはずみ月が高く登っていることに気づくと遅いから家まで送ることにして。
暗い夜道、時代が流れ以前よりは危険が減ったとはいえ、悪行は耐えない。
女教師と話しながらもつい癖で周りに気を配りながら歩いていると、曲がり角に差し掛かったところで女教師が足を止めて。
『此処からすぐだし、ここまででいいわ。今日はありがとう。また休みの日にでも話しましょう。それじゃあまた明日。』
(返事を待たず足早に去っていった女教師の背を見送りつつ、夜道は大丈夫だろうかと思うも、会って間もない男(自分)に家を知られるのを避けているのかもとさして疑問に思わず一人納得し来た道を戻り。
既に頭の中は、次の休み相手と何を話してその後どう過ごすか考えていて、考えるうち漸く今日出会えた相手に少しでも良いから会いたい衝動にかられれば、迷惑は承知の上で、“たまたま”近くに立ち寄ったから挨拶してすぐ帰るだけと言い聞かせ足先を逆方向の孤児荘へと向けて。
無論、この時相手と自分の組織が敵対関係になったことも知らず、また相手が仕事に出ているかもということは考えもせず。
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( 夜、久し振りに組織の密会場である宿屋の奥の部屋へと入れば既に面子は揃っており。
自分の席へと向かいどかっと座れば隣に座っていた男から書類と思しき紙を渡される。
『とある組織と敵対になった。確かお前の知り合いがいたんじゃなかったか?…取り敢えずあちらとは敵対関係にある事を同意する書類だ、裏切り者が出て情報なんぞ漏らされたら堪らんからな』
「………何があったかも知らずに同意出来るか」
『こちらの組織に歯向かい害悪な存在となった、これだけの理由があれば満足な筈だが?』
( 同意したその瞬間から相手とはあまり、否、全くと言って良い程に会えなくなるだろう。
数ヶ月の溝が生まれたばかり、次の休みには会う約束さえしている。
「次の密会までに…持ってくる」
( “猶予をくれ”と言わんばかりに書類を胸元に仕舞い込めばこれからの依頼の話を聞いて。
( その頃、孤児荘へ向かう途中の相手にばったりと出会した相手組織の下っ端は相手とさも親しいかの様にへらへら笑いながら駆け寄って。
『おや、お疲れ様です。仕事帰りですか?』
( 笑みを浮かべる下っ端の腰の刀は血で汚れており、それは彼が仕事帰りである事を物語っていて。
ちらりと路地から見える孤児荘に目をやっては汚い物を見るかの様な視線を送り『あーこの辺あんま彷徨かない方が良いですよ。なんてったってほら、ここの孤児荘の旦那はあちら組織でしょ?うちらの組織は怖いから、勘違いされて拷問にでもかけられたら…』と、相手が組織の変化を知らないと言う事も知らずに話して。
相手が口を開く前に下っ端は『それじゃあ』と一言残し去って行ってしまって。
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(男の不愉快な態度と相手を悪く言う物言いに男が立ち去った後も苛立ちが残るが、男の言葉の節々には引っかかるものがあり、何かあったのかと勘ぐり。
相手とは別の組織のため話せないこともあるだろうが、どうせ今から会うのだから直接本人に聞こうと思うも当然相手は留守で。
仕方ないと普段持ち歩いているメモ用紙を一枚ちぎり【次の休み、折角だからお茶でも飲みながらゆっくり話したい。馴染みの茶屋の個室を取っておくから、正午に茶屋の前で】と書き置き、散々迷って【遅くまでお疲れ様】と書き足し二つに折ると扉に挟んで気恥ずかしさを紛らわすようにその場を足早に立ち去って。
(数日後の休日、未だに組織対立について耳に入っておらず、突然相手の悩みなど知る由もなく今日会えることをただ楽しみに思えば、あれだけ相手とは気まずかったのに自分も単純だなとよそ行きに袖を通しながら苦笑を漏らし。
そしてどうせ仕事ではないし穏やかな気持ちで相手と過ごしたいと普段腰に下げている二振りの刀を自宅に置き、脇差だけさして街へと向かい。
(茶屋についたのは待ち合わせ時間よりも少し早い時間。店の軒下に立ち道行く人々を何の気なしに眺めながら相手を待って。
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( 孤児荘へと戻るなり、扉のメモにはすぐに気付き中身を確認しては複雑な気持ちになり。
真昼間から会うなどと危険は承知だが“自分はまだあの書類に署名してはいない”だなんて屁理屈をこじつけては行く事を決めて。
( 数日後の休日、小さく不安を抱えたまま孤児荘の玄関口でブーツの紐を結び直していて。
ジャケットの胸元に入ってる書類には既に名前は書いてはあるもののそれを提出する勇気はまだ無く。
「行ってくる」と子供達に告げ待ち合わせ場所である茶屋へと向かえば直ぐに相手の姿が見えやや急ぎ足で其方へと向かう。
挨拶もまともにしないまま相手とやや強引に個室に入ってはそのよそよそしさを隠そうとしながらここで漸く相手と向き直り席について。
「久し振り、元気だったか?………前は、悪かったないきなり訪ねて」
( 茶を啜りながら上記を言い、相手の顔をちらりと盗み見ては相手は組織対立の事を知っているのだろうかと。
その事を聞くにも中々簡単に聞き出せる話では無く、いつもの無表情のままに自分が江戸を離れてた間の話でもしようと口を開いた所で個室の襖が開いては茶屋の娘が茶菓子を運んで来て。
熱い茶が注がれるのをぼんやりと見詰めてた所『熱っ…!!!』と言う小さな悲鳴と共に娘がお茶を零してしまっては、後ろから慌てて店主が布巾やらを持って来てくれて。
『申し訳ない、服に掛かっちまったでしょう?』
( 吹いてくれるのはありがたいが長時間襖を開けていられるのは個人的によろしくないと、「悪い、後はやるから」と布巾を受け取りしまった襖を確認しては相手に布巾を渡して。
畳に零れた分をふこうと屈んだその刹那、胸元のポケットからするりと書類が落ちては零れたお茶に染み込み、運悪く相手組織との対立に同意するという欄に自分が署名した箇所が透けきってしまって。
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(どこかぎこちない相手の様子を不思議に思うも、黙って居なくなったことにまだ後ろめたさを感じているのだろうと解釈し、そんなことはもう気にしなくていいのにと穏やかに対応する。
しかし運ばれてきたお茶が派手に零れれば、自分のことは二の次で床をふこうする相手に自分のハンカチを取り出し相手に近づいて。
「火傷してないか?それにすぐに拭かないと染みに…__これは…」
(零れたお茶によって紙に浮き出される文字に瞠目し、瞬時にことの経緯を察し表情が険しくなるもこれは組織のこと、相手にだって事情があると責めるつもりもなく。
「驚いたな…。知らなかったよ。……でも大丈夫だろ。俺たちなら隠れてでも会える。それにしても、名前書く前に少しくらい話してくれたってよかったじゃないか」
(そんなこと難しいと分かっていても、会えなくなるかもという懸念がありその動揺を隠すように楽観視して言えば、ハンカチで相手の濡れている部分を拭いてやる。しかし不安は拭えず「会えるよな?」と相手の様子を伺い。
次の瞬間、部屋の襖が乱暴に開かれると相手組織のガラの悪い男二人が押し入ってきて。
『よお、爛。さっき襖が空いてるときたまたまお前が見えてよ。なんか焦ってるように見えたが何をコソコソしてんだ?……よりにもよって敵対組織のやつとよ』
『まさか情報漏らしてんじぇねーだろうな』
(声に凄みを聞かせて言うと、自分には死角で見えないように服の下に隠した拳銃で自分を狙い、相手に目だけで“とっとと出ろ”と示唆して。
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( 衣服の濡れた場所を拭いてくれながら、確認する様に問い掛けて来た相手の言葉に中々返事を出来ずにいた所、開かれた襖と共に組織の男が現れてはやはり内心穏やかではなく。
やはりこちら組織も銃を仕入れたか、等と呑気に考えてる余裕すらなく立ち上がり銃を構える男の腕を引いては男の耳元で「手出すな、彼奴は俺が殺る」と其の場しのぎにも恐ろしい一言を言い。
『は、お前があの男と通じてるのは知ってる。誰が貴様の言葉など信じるか』
「そりゃそうだろうな。だが俺も彼奴を殺る事で幹部にして貰う条件貰ってんだ、幹部のが金も良いしな」
『……………』
「俺は金で動く男だぜ?忘れたか」
( 男は納得行かない様子、どうやら引き返してくれる素振りはない事に溜息をついては1度相手の元に戻り濡れた書類をひょいと拾い上げる。
大丈夫、演技だ、気付け、なんて勝手な思いを抱きながら相手の前で堂々と書類を開き「こういう事だ。あんたも自分の組織から聞かされるだろ」と短く告げ男達と共に茶屋の外へ出て。
何とも運が悪い、帰って来て早々これはなんだ、等と苛立ちを噛み締め濡れた書類を男に押し付ける様に渡しては「それ、乾かして渡しとけ」と。
演技と言えど酷い態度をとったにも関わらず自分の頭の中にはこれからどうやって相手と連絡をとりどうやって会おうか等と色々な策を考えており。
取り敢えず今夜の依頼に支障が出ない様に考え込むのはよそうと、頭をガシガシとしては孤児荘への道を早歩きで歩いて。
今宵の依頼が相手組織の密会に忍び込みその内容や銃の取引先を盗み聞きする内容だなんてまだ知らずにいて。
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(重苦しい空気が残る茶屋の個室、暫く動けないまま混濁する思考の中に残るのは先程の相手の言動。演技、とは分かっていてもそこは流石相手で、まるで本心から言われたような胸の痛みがありその演技力に感服する。
否、実際のところ、この胸の痛みの原因がそれだけでないことは気づいていて。
「あいつからまだ何も聞けてないな…。」
(思えば、未だにここ数ヶ月なにをしていたかも聞けていない。此処に誘ったのも自分。相手の無表情も自分が色眼鏡で見て心を許してくれていると独りよがりに感じていただけかもしれない。
そこまで考えて、また自分の悪い癖が出たと軽く首を横に降っては、不安を打ち消すように自分の湯呑みの御茶を一気に流し込んでは茶屋を後にして。
(その夜、久々に裏の仕事である密会場へと向かうと案の定、組織対立の話を聞かされ、相手と同じように契約書を渡されれば、どうせ断れないのだからと無言で名前を記し。
『よし、じゃあ早速本題だが、今回の銃の取引は、菊…お前が行け。なに、初めてだから数も一挺だけだ。取引先はこの紙に書いてあるから明日までに取ってこい。』
『失敗はないからな。一挺とはいえ、高額な品だ。盗もうなんざ考えるなよ。』
「そんな無益なこと考えないさ」
『どうだか。既に相手組織に一挺渡ってる。お前が上手く取引先を動かして親しくしてる餓鬼に渡したんじゃないか?』
「まさか。言いがかりだ。俺もあいつもその件には関与してない」
『ほう、餓鬼のことよく知ってるようだな』
(男の面白がって探るような態度に、これ以上話しても分が悪くなるだけだと男を一瞥した後、渡された取引先が書かれた紙と必要な大金をコートの内ポケットに閉まってはフードを深くかぶり直し暗い宵の街へと出て人目のつかない路地裏を行き。
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( 深夜、組織の者に会い今宵の依頼内容を聞かされては『ついでに邪魔出来る様であればその取り引きもぶち壊して来い。その分報酬は弾むし此方組織としても彼処組織には銃は増やされたくないしな。既に何人殺されたか分からん』と。
報酬が絡むなら何としてでも取り引きをぶち壊すしか無いなと考えつつ、路地に身を忍ばせてた所これから取り引きへと向かう相手組織の者であろう人影(相手)が見え足音を立てずに尾行して。
真っ黒な布をすっぽりと被り口元を隠してはそのまま影の後を追う。
訪れたのは洋風な作りの大きな屋敷、ここが取り引き先かとその外観を目に焼き付けては屋敷の屋根まで駆け上がり息を潜める。
外でまつ相手組織の者(相手)をじっと監視してた所、屋敷から現れたのは金髪の外国人の女。
何処かで見た事あるな、と思考を巡らせてはどうやらその女は寺子屋で働きたいと言っていた女でやはり繋がりがあったのか、と。
未だ取り引きをしてる人物が相手だとは認識出来ておらず、金髪の女と何か話してる様子に内心“早く銃を受け取ってしまえよ”と苛立ちを浮かべては刀に片手をかけて。
( 金髪の女はフードを深く被った目前の存在が相手だとはまた気付けずに、合言葉を聞いては『じゃあ、中へ入って』と俯きながら言って。
奥の部屋へと相手を案内し、ガチャリとドアを開ければそこにいたのは日本人ではあるが外国の文化に染まりきった服装の一人の男。
金髪の女性はどうやら雇われてるだけの様子、金髪の女性に『お前は下がれ』と一言言っては相手に先に金を渡す様にと要求して。
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(相手の尾行には一切気が付かず、取引先に来てみれば女教師の存在に驚くも、相手(女教師)は此方に気がついていない様子だし、事を荒立てないためにも今は保留にして案内されるまま奥へと進み。
そして現れた男に金を要求されれば、下手な交渉術は考えず用意されただけの金を差し出しだすと男が手に取り金を数えるのを見て。
『いいだろう。ほら持ってけ』
(床にゴトンと置かれた銃は布に包まれており、手に取ってみるとそのずっしりとした重厚感が本物であることを示していて、黙ってコートの隠しポケットにしまい立ち上がって。
『おっと、ちょっと待て。お前の組織とは何度か取引して信頼がある。』
(含みを持たせて笑む男に怪訝の目を向けると男はニヤリと笑い『実は此処は別邸で本邸は別にある。額は倍以上になるが本邸には質の良い品物が揃えてあるから、必要であればいつでも案内しよう』と持っている金を撫でて。
それに無言で頷くと、再び女教師に戸口まで案内され、そのまま暗い夜道に出て。
静かな路地裏、再びフードを深く被り直しては、女教師の探りをここ数日の間でしなければなと小さく息を吐き。
ポケットにしまわれた銃の重みだけがやけにその存在感を示していて、長く持っているのも億劫のためさっさと今日中に組織の元へ届けて仕事を終わらせてしまおうと路地を進んで。
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( どれ程待っただろうか、玄関口から相手組織の者(相手)が出て来るのに気付いてはやっとかと言わんばかりに再び後を付ける。
狭い路地に相手組織の者(相手)が入ったのを確認しては相手の数m先の所で屋根から降り刀に手を掛けたまま顔を隠す布を取りもせず無言で立ち。
月の光に照らされた刀の刃が光ったのを見せ「取り引き先は仕入れた、後はお前が持ってる銃を大人しく渡せば殺しはしない」と小声で告げて。
未だ目前の人物が相手だとは気付けずにすっと手を出せば“早く銃を出せ”と言わんばかりに。
しかし目前の人物、中々銃を出す素振りは見せずそれに苛立ちを感じれば舌打ち混じりに「殺されてぇのか」と問い掛けて。
数分間そうしていた物の立ち尽くしてる数分間は実に長く刀を鞘から出せば目前の人物に向ける。
「大人しく渡せば良いものを………あんたが選んだんだからな」
( 刀を振り上げ、怪我程度の傷を負わせて銃だけ奪ってやろうと寸の所で考えを変えては腕に刀を滑らせるがその瞬間町奉公の見回りを示す提灯が向こうに見え。
流石に今目立つ動きをする訳には行かずに、その存在を相手だと気付かないまま刀を戻し屋根を掛け上がれば今回は報酬の値を上げるのは我慢するかと取り引き先までの道のりを書き綴った紙を懐にしまい組織の者が待ってるであろう待ち合わせ場所へと向かって。
( 翌日、昼過ぎに目を覚ましては組織の者と会う約束をしてた事を思い出し気怠げに着替える。
遊郭街の奥の茶屋、先に待っていた男に今宵の依頼を聞くべく男の向かいに腰を下ろしては運ばれてきた熱い茶を啜り。
『取り引き先の調べは付いたのか』
「昨日終えたが」
『ほう、ならこちらもやっと銃を仕入れられるという事か』
「さぁな、興味ない」
( 男が依頼の綴られた紙を取り出しこちらに渡して来たのを受け取り開き見ると、今宵も中々気乗りしない内容の依頼で。
依頼内容は昨夜、銃の取引人の所まで相手を案内した金髪の女性の誘拐。
『暴れたら気絶なりなんなりさせろ、薬を使っても構わない』
「薬はいい、上手くやるさ」
( 報酬額は中々だがやはり気乗りしない、一度孤児荘へと戻り夜までに身体を休めるかと決めてはゆっくりと街を引き返して。
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(朝、寺子屋の準備をしていると腕にツキリと走った刺すような痛みに、昨夜のことが現実なのだと思い知らされる。傷は浅く出血もほとんどなく今は軽く包帯を巻いている(包帯は服で隠している)だけだが、何分精神的ダメージのほうが大きく、一晩中相手は気が付かなかっただけだと言い聞かせていて。
__顔こそ隠れていたが、あの身のこなし白い美しい鞘、そしてあの声。相手ではないと考えるほうが難題だった。
おかげで一睡もできず、どうやら取引先もバレてしまったしどうしたものかと溜息をついたところ、突然『おはようございます!』と声をかけられ振り返れば女教師がいて、そう言えばこっちもあったと頭を抱えたくなるのを堪えとりあえず微笑み挨拶をして。
『なんだか菊さんお疲れですね』
「まあ…いろいろあってね」
(流し目で女教師を見て、果たして今の彼女は本心だろうかと。
注意深く時間をかけて探ろうかとも思うが銃の取引が続くならこちらの素性がバレるのも時間の問題。
ならば面倒はやめにしようと女教師の腕をつかむと半ば強引に奥の部屋つれていき。
「あんた、昨日銃の取引場に居ただろ。」
『え……、なんでそれを……。っまさか、昨日の方、菊さん!?』
「ああ。…で、なんであんなところにいた?……もし今の顔が嘘で下手なことを考えてるなら今すぐここから出ていって貰う。」
『そ、そんな!私はただ仕方なく…。それに子どもたちを傷つけるつもりなんて絶対ないわ。…信用できないなら貴方の取引の信用が上がるように協力するわ』
(女の目は嘘を言っているようには見えなくその真っ直ぐな目は出会ったころと変わらず、とりあえずは子どもに危害が加わることはなさそうだと判断し、掴んでいた腕を離して。
「悪い…。俺も人のことを言える立場じゃないのにな。あと協力はいらないよ。協力してもらってあんたに何かあったら面倒だからな」
(それだけ言うと女教師と昨日と変わらず授業の話をして夕刻の授業まで済ますと、女教師が話がしたいと言うので迷ったが頷き、人の出入りが少ない酒屋にはいって。
(/女教師がいい人っぽく書きましたが、xxxさんが考えてくださったモブですし、全然悪女に仕立て上げても大丈夫です。ちなみに話とかなにも考えてません←
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( 夜、と言っても目覚めたのは夕方。
少し早いが女教師を探す手間を考えまだ空が完全に染まりきる前に孤児荘を出ては一度寺子屋の近くへと訪れる。
訪れたは良い物の、流石に女教師も帰ってる時刻だよなと判断してはさてどうするかと考えるも仕方なく探すしかないかと。
寺子屋の玄関口から回れ右をした所で女物の簪が落ちてるのに気付けばそれを拾い上げる。
橙色のそれから僅かに感じ取った匂いは微かに覚えてる女教師の物。
これは運が良いと、一度路地裏へと入り狼化してはスンスンとその匂いを人目を避けながら辿って。
( 匂いの先はどんどん人目のつかない場所へと入り辿り着いたのは一軒の酒屋。
人の姿へと戻り狼時よりその嗅覚は僅かに劣るがスンと鼻を鳴らせば嗅ぎ慣れた相手の匂いまで嗅ぎ取れぎょっとして中を覗く。
「………冗談きついな」
( 実に面倒な事になったと髪を掻き乱しては取り敢えず相手達が出て来ない限りは話にならないと酒屋の屋根上で相手達が出て来るのを待って。
( 夕方まで女教師は子供達の事や英語の授業の話をしてたが夜になった頃、どこか切なげな表情でやっと話の本筋へと持って来て。
『私、ずっと先生なりたくてね。日本の文化もすごく魅力的で、だから日本で英語を教える先生になるって決めてあっちで必死に働いてやっと日本に来たのよ』
( ポツリポツリと話し始める女教師は不意に着物の腕を捲り上げ、二の腕の所に歪に付いた焼印を見せてきて。
『日本人でも英語が話せなきゃ外国との取り引き不便でしょ?そこで組織に必要なのは英語も日本語も話せる存在。外国の私は特に狙われたの』
( 着物を戻しながらどこか切なげに微笑んでは『ほら、菊さんにはなんであんな仕事してるのか話さなきゃと思ったのよ!勘違いされてたら嫌だし…』とあたふたとして。
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