YUKI 2016-05-03 22:22:03 |
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真っ白な雪が溶けて、もうじき桜が咲く。
この半年間の僕の悲しい記憶も、雪とともに溶けてなくなってほしかったけれど、そうすることで幸せだった記憶もなくなる気がしてその心を押し込めた。
あの半年間の思いでは淡く儚く脆いものだけど、僕を強く成長させてくれたものだから。
そんなふうに内側に呟きながら僕は、まだ堅くつぼみを閉じた桜の街路樹をゆっくりと歩いた。
1時間目 家庭教師登場
「だからいらないっていってるだろっ」
藤白花月(フジシロカヅキ)は今、ご機嫌で朝食を食べていたたった今、ひどく不機嫌な大声をあげた。
「そりゃあ、花月の受けるところは偏差値は中の中。家からも近いし、今のままでもたぶん問題はないと思うけど」
花月の母はキッチンでコーヒー片手にため息をつきながら呟く。
「それならなんで『家庭教師』なんて話が出るんだよ」
最後に味噌汁を飲み干すと、嫌そうな顔で花月は母親を睨んだ。
「だって『ぎりぎり落ちました』とか、あるかもしれないじゃないの」
「ねぇよ!っていうかぎりぎり落ちるって何だよ!?」
母のどこか抜けた発言に、花月は思わず手持ちの箸でツッコミを入れてしまった。
そもそもこの母は今月が何月か、分かっているのだろうか?
藤白花月は今高校三年で、今日は九月一日である。
それなのに今更何故家庭教師?
雇うならもっと早い段階に雇うものじゃないのか?
そもそも成績に問題がないのなら、金の無駄じゃないだろうと花月は思っているのだ。
なによりも家庭教師とか鬱陶しい。
それが一番の本音であり、嫌な理由である。
「もう、勝手にしろよ」
ため息混じりに一言言い、花月が席を立つと、後ろから嬉しそうな母の声が聞こえた。
「勝手にして良いの?良かった、じゃあ来週の金曜日から来てもらって良いわよね?」
来週の金曜日?あまりにも急すぎじゃないだろうか?
今から探すにしては早すぎるし、つまりは最初からもう決定事項だったという事だったのだろう。
花月が断る可能性を、考えたりはしなかったのだろうか?
いや、今までの経験上この母には、勝てた試しがない。
つまりは母が『白』と言えば、どれだけこちらが試行錯誤しても、『すべての色が白になる』と言うことだ。
少なくともこの家では。
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