つくもがみ 2016-04-27 07:06:59 |
通報 |
すまない、遅くなった!呆れて愛想を尽かされていないと良いんだが、(ばたばた、はあ)
そうか?なら良いんだが。
(一瞬浮かない顔が見えたんだが、と手にしていた楊子を皿の中へ置いてしまい、両手を正面に居る相手の頬へ伸ばしてぐいっと左右へ引っ張り。「きみのここはどうにも強張っている様だからな、俺が解してやろう!」と一通りこねくり回すと満足げに手を離し、再び頬杖を突きつつ皿の中をつつき始め)
菓子が美味いだとか、演奏が出来て嬉しいだとか、きみも素直に顔に出せば良いものを。何を引け目に思うことがあるんだ。
ああ、そんなに慌てなさらないで。愛想なんてそうそう尽かしやしませんから。
__でも、良かった。( ほ )少しだけ、嫌われてしまったのか、なんて考えていましたから、正直安心してしまいました。( はにかみ、 )
……ふうはうはん、いはいれふ。
( 夜空の星屑の冴えた色を落とし込んだような光を持った相手の瞳は、少しの変化だって捉えてしまうらしく。自分の表情とやらは如何に写ったのだろうと脳裏でぼんやり思考していると、頬の肉が痛みを伴って伸びる感覚。原因である目の前の男に抗議の目を向けては、上手く発音できていない言葉で止めてほしい旨訴え。離してもらえれば片手で二、三度それを擦るも、ぽつりと溢すように聞こえてきた声にその腕も力なく垂れて )
……。貴方は、優しいひとですね。
まさか、伝わっていないなら残念だが俺は相当きみのことを気に入ってるんだぜ?(に、)
優しい?驚かせてくれるな、そんな評価は初めて貰った。
(くく、とおかしげに笑う声には僅かに照れもこもり、緩む口元を隠す風に手を当て。これでも一応平安生まれ、本丸の中でも年長の方として気遣いは出来る方だと自負はしているがそこを見抜かれ感謝されたりは性ではない。誤魔化す様にぱくぱくと皿の中の菓子をたいらげてしまうと、「そら、きみも早く食べて演奏を聞かせてくれ!」と促し)
おや、嬉しいことを。( ぱちくり )長くお相手できそうで。これなら日が開いても気長に待てそうです、なんて。( へら、 )
では一度、こちらは失礼しますね。
左様でしたか、それは良かった。
( 俄に現れた喜色に気づいてしまえばつられるように口元緩み。刀の付喪神という肩書の通り、確かに彼らは武人ではあるのだが、この目の前の男はこうも美しく笑うのだから、つくづく世界とは分からぬものよなと冷えた茶を煽り。いつの間にかさっぱり消えた奥の皿の内と掛かった催促にお早い、と小さく笑ってはそれを一度に口へ放り込み、少しばかり両頬を張って暫し咀嚼。終われば盆を手に取り皿の片付けと、少し口を漱がせて欲しいと申し出た後腰を上げて )
(あっと言う間もなく下げられてしまった盆に、持って来て貰ったのだから片付け位こちらでやろうと思っていたんだがなぁ、と頭を掻き。そのまま座り込んで待っていても仕方ない、相手が戻る前に場所だけでも整えておこうと今の今まで互いに腰を下ろしていた座布団を縁側へ並べ、手持ち無沙汰にぷらぷらと足を揺らしつつ待ち)
背後の都合があったといえ随分遅くなってしまいました、申し訳ありません。( はふ )幻滅されてなければ良いのですが。( 苦々しく )
此方の返事は無用ですから、お気になさらず。
( どこか上機嫌な様子滲ませながら厨へ再度顔を出し、隻眼の綺麗な伊達男と菖蒲の御髪の美しい男に美味しかったと感謝の旨伝えれば後者が照れたようにはにかんで。一方前者は此方の様子の変化に目敏く気付いたらしく何か良いことでも、と問い掛けられては気恥ずかしく、俄に頬を染めては肯定の意のみ返し。指示された通りに盆と机の上に置きそこを出ては最近やっと覚えたばかりの洗面所で手早く口を漱ぎ、廊下の道を急ぎながらも思考は何を披露しようかの一点に支配されて )
お待たせしました、ただいま戻りました。
( 挨拶とともに部屋の敷居を跨ぎ、移動した座蒲団と縁に掛ける白い背中に気付けば少しだけ目を見開き、後に有難うございます、と小さく加えて )
やっと戻ったか、待ちくたびれたぜ。
(苦言を呈しているのはしかし口先だけ、待たされた時間の分だけ楽しみは増した様で瞳には分かりやすくわくわくとした色が宿っており。尺八の音をはっきり聞いたことはあまり無いが、少なくとも皇室にある間は居内のどこかで奏でられているのが風に乗り微かに聞こえてくることはあった。今もなお皇室にある本霊の自分にとって、退屈の中の数少ない面白味であるその音に悪い感情などあるはずも無く「何を聞かせてくれるんだ?」と問うて)
すみません、お待たせするつもりはなかったのですが。
( どうにも手間取ってしまって、と苦笑気味に肩竦めて見せて。襖を越して室内へ入り、相手の座るそこへ向かうも聴き手の隣で吹くのは演奏者として如何なのかと歩調に止めが掛かり。それでも己の為に用意された場所まで辿り着いて隣の男の喜色の滲む表情を一瞥してはそれも些細な問題に思えて腰を下ろし。曲目を問われてはふむ、と短く唸りながら携えた本体を取り出して。すっかり廃れた雅楽文化に尺八独奏となれば自然、浮かぶのは古い時代のそれだ。相手の知っていそうな曲が何かが推測し難く、考えても仕方が無いと諦めては江戸の時代に最も吹かれ慣れた曲を選んでは背に提げた笠に手を掛けて )
では、稚拙ながら一曲。
お忙しい、のでしょうか。
少々寂しくはありますが、あなたが退屈に殺されることもないような日々に追われているならば、そんなに幸せなこともありますまい。
迷子になっていた、と言ったらきみは驚くか?もしくは俺を嘘吐きと詰るのかもしれないな。間抜けなことに本当なんだが。
ぶっくまーくをしていなかったところから俺がうっかりしていたんだよなぁ、少し忙しくしていたらあっと言う間に見失っちまった。自分で作った部屋の名を忘れちまったのも、人に相談して初めて検索機能を知ったのも、全部嘘みたいな俺の失態さ。……いや何、とうに忘れられてると思うと今更上げることも出来んだろ?まさかきみがまだ見ていてくれたとは思わなかった。
詫びとしては安すぎるが、光坊に教えてもらってずんだを作ったんだ。言い訳がましく長々と話したが、またきみとこれをつまみに茶が飲めるならこれ以上の驚きは無いなぁ。
ま、いご……。( 目ぱちくり )っふ、くく、ははは、何ですかそれ、可笑し、( 肩震わせ )……失礼しました、つい。
正直に申しますと、再び貴方の言葉を拝見できるとは思っておりませんでした。お返事が返ってきていたことと貴方が存外抜けていたこと、両方に驚いていますよ、流石と云うべきですかね。
少し背後の都合が慌しくなってきたので以前のように、と言ってもそこまで頻繁にお返事できていた訳でもありませんが、日単位での遣り取りはできなくなるやもしれません。退屈を忘れる日々をお求めなら、新しいお相手様を探すも一つの手ということも視野にお入れしておいてくださいな。それでも構わないと仰るのなら、私はその手の内の豆打で簡単に釣られることに致しましょう。枝豆を潰して餡にした北の特産、でしたか。どんなお味か存じませんが、燭台切さんの監修なら安心というものです。
……驚いた、詰るでも呆れるでもなく笑われるとは。いや、きみが怒らず笑ってくれるのは嬉しいが、あまり過ぎると拗ねるぞ?(むう、)
まあ迷子の件に関しては申し開きもないと言うか……流石に二度目は無いから安心してくれ!
それから何度か言ったとは思うが、俺はきみが良いんだ。長谷部ではないが、待てと言うならいつまでも、きみが来てくれるならな。……なんて、迷子が言っても説得力は無いか。ともあれ釣られてくれるなら食ってくれ、鶴丸特製の驚き溢れるずんだだぜ!なーに、食えない物は入れてないから存分に驚いていってくれ!(くくっ)
遅くはなったが返事もしておこう、改めてまた頼むぜ。
(始まった演奏に、すぐに聴覚以外を働かせることさえ惜しくなり目を閉じて聞き入り。自分はこの本丸の初期刀たる文系名刀ではなし、演奏への評もそう言葉巧みには語れない。一曲が終わるとぱちぱちと拍手をしつつ、「陳腐な上に、尺八の坊にわざわざ言うには驚きに欠けるだろうが、」と苦笑混じりの前置きをして)ーー綺麗、だな。
おや、それはいけない。綺麗な面が台無しですよ、美丈夫殿。( 頬突き )
二度目があればそれはそれで驚き、ですけれど……って止めてくださいね、流石に寂し、いえ何でもないです、お忘れを( 口押さえ他所向き )
……純白の翼を携えた鶴を、羽ばたかせぬまま待たせるだなんて。愈々来ないで居られぬではありませんか。( 苦笑いで )
ふむ、自信がおありのようで。ではそのお腕、然と拝見するとしましょう、頂きますね。( 楊枝一つ摘まんで口へ放り込み )!冷たっ、これは……餡に砕氷を?口当たりが良く食べやすいですね、美味しいです。( むぐむぐ )
こちらこそ。お相手の程、宜しくお頼み申します。
( 刹那、得た肉の間へ外気が入り込む音に空間の支配が叶い、強く張った糸を思わせる静寂が訪れ。一度瞼を下ろす間もなく筒状の無機物に自身の息吹を注げば、自然の物質と年月が織り成す暖かく深い音と、足の底から這い上がる生の感覚と、高鳴るなどでは生温いと吐き捨てられるような酷い高揚。嗚呼、私の音が響いている。私は今、生きている。この意識がまるで甘美な毒のように思考を絡めて離さなくて、恐らくこの心地は本来得るべきものでなかったことを覚り。隣で音を聴く同じ神様の端くれも似たものを感じることはあるのだろうかと視線だけ遣れば、彼は少し難しい顔で眠っているのではと錯覚する程綺麗に瞳を閉じていて、激しく存在を主張しない髪と睫の白が射した日光に照られて何処か違う世界へ来てしまったのかも知れぬと何とも阿呆らしい思考が導かれ。いつもより短く感じた曲の終わりと称賛が込められた凡ての演奏者の対価に肩の力を抜かれ、緩く笑んでは本体をしゅると片し。控え目に紡がれた導入、続くその邪念も世辞も何も知らぬような無邪気直球の感想に、綺麗なのはどちらだと出掛かった言葉を呑み込んで )__最上級の誉め言葉です。( どのような詞であれ、あれほど素直に放たれれば、自分には極上の褒美となりうる。そこに、“彼からの言葉だから”という邪念に近い理由を入れてしまっても良いものかと思考に駆られたのは自分だけの秘密。雲が緩和するとはいえやはり少なからず熱を持つ空気にいつの間にか髪も肌もしとりと濡れており、ぱたぱたと手のひらで煽っては戻りますかと話し掛けて )
あー、こっちは蹴っちまうつもりだったんだが、一つだけ。……以前俺の言葉に気恥ずかしいだの堪えるものがあるだの言ってくれたが、きみも大概だからな?“純白の翼を携えた鶴”なんてご高尚な例え、いくら鶴丸なんて名を持っているとはいえ俺には似つかわしくないし、何より普通に照れくさい!(ぱたぱたと手を振りつつ)
伝わったのなら良かった、また機会があれば聴かせてくれよ。(少なくとも言われ慣れて価値すら無くなった様な言葉ではなかったらしい、と安堵しながら笑みを返し。僅かな沈黙の後促された室内への退却はどこか幻想的な今し方の不思議な時間の終わりと同義であり、少しだけそれを名残惜しく思いながらもまた次を期待していれば良いのさ、と自己完結。「ああ、そうだな。流石に今日は日向ぼっこと洒落込むには暑すぎる」と何てことの無い風を装いながら、立ち上がると幾ばくか涼しくはある室内へ戻り。自分が演奏した訳でも無いのにからからに乾いた喉を、冷茶を一気に煽って潤してふと気付き相手の茶も再三注いでやる。蝉の声喧しく、今更ながら先程まではその鳴き声すら耳に入っていなかったのだと理解すると、ますますそこまで心奪う相手の演奏に感服し。むしろ今日になってようやく聴いたことが遅すぎたくらいだった、もっと早く、それこそ顕れたその日にでも聴かせてもらえば良かったと意味の無い後悔。はたと思い至り顔を上げ)誰に文句を言われるでもないだろうし、もっとそこら中で聴かせて回ればれば良いものを。きみの音を主や他の連中が知らないのは勿体無いだろう?
おや赤い。これでは本当に鶴ですねえ。( 大真面目に / けろっ )貴方は似つかわしくないとお思いのようですが、私はこれ以上ない喩えだと自負しておりますよ……なんちゃって。驚きました?( けらけら、 )これくらいの酬いはお許し下さいな、ほんの戯れです。( いひひ、 / 御機嫌 )
_ええ、また。( 保証のないふんわりとした口約束、これまでこの類いの約束はどれ程果たされていたのだろうと一度逡巡するも、なぜか誉められた自分よりも喜色の濃い顔で笑う相手に釣られてはにかんで。身の内から知らず出てくる塩辛い水の粒を裾で拭って相手の後ろを行き、日陰のありがたみを痛切に思い知り。それでも冷めぬ身体の熱をどうしたものかとぱたぱたと手のひらで申し訳程度ではあるが扇いでいれば、こぽこぽと注がれる先刻も飲んだ茶。生唾を呑むという最近書で読んだ言い回しを実際に体験し、相手が気付いてこちらの碗にも波々それを注ぐと表情は変わらないものの漫画なら顔の周りに星や花が散らされるだろう様子に早変わり。人の目も気にせず飲み終わったあとにぷはっと音を出してしまう程勢いのある飲みっぷりで嚥下し。濡れた口回りを擦るために宛がわれた手の甲は、相手から不意に投げられた疑問の答えに詰まった口を隠す役目を負うことになって )……江戸の時代、過去の所有者が庶民、或いはそれに近しいご身分でいらした方もいらっしゃるでしょう。貴方が例えばそれを許したとして、その方々はきっと少なからず不快に思うと思うのです。虚無僧の尺八の演奏は、物乞いと同義ですので( 「主様は、お忙しいみたいでしたので。邪魔になってはいけないと思いまして。」眉を八の字にして笑って、お気持ちだけ、と頭を下げて。これでいいのだ、聴きたいと思ってくれているひとに聴かせられれば。自分は物乞いの道具ではないと、自分で思っていたいだけなのかもしれないと嘲る自嘲の感情を噛み殺して。 )
……ああ、驚いたとも。きみは何と言うか、存外……自由な性格をしてるんだな。もう少し堅物なのかと、ああいや、それが悪いって言ってるんじゃないんだがな?むしろ驚きがあって良いんだが、人も付喪神も第一印象によらないもんだなぁ。(頬ぽり、)
きみがそう言うのなら無理にとは言わないが……。(相手の言い分に、それでもやはり惜しいという念は消えず眉を寄せながらどうにか納得し。過ごした時代も刃生もてんでバラバラな刀達が集うこの本丸で、時代差によるジェネレーションギャップなど日常茶飯事である。確かに不愉快に思う者も無くはないだろうが、それにしたってそんなものを気にしなくさせるだけの実力はあるはずなのだが。しかしまた、これ以上自分が無理矢理に演奏を勧めても仕方の無いことでもある、これは彼自身の考え方なのだから。余計な言葉の出そうな口に茶を流し込み、無粋な口添えは飲み込んで。ぺしょりと机に倒れ込む様にして、頬に天板の冷たさを感じながらぼそりと)……まあ、きみの音を俺だけが知っているというのも、悪くは無いな。
私だってこれでも楽器の付喪の端くれですからね、多少自由な面もありますよ。( ふふ、 )お琴の方々なんて凄いんですから、お転婆なんて比ではないくらいです。
それにしても、見掛けに因らないだなんて、他でもない貴方に言われてしまうとは。初めてお会いした時の私の衝撃をご存知ないんでしょう、出来ることならその言葉、そっくりそのまま返品して差し上げたい。( ずい、 )
何だかんだで三ヶ月ですね、遣り取りが亀の歩の如くではありますけれど……もう少し速くお返事できるように努力します。( 苦笑い、 )これからも何卒、よろしくお願い致します。
_返信不要です。
……すみません。( 明らかに納得ゆかぬと訴えてくる眉間、相手の善意を無下にする感覚に申し訳なさが募り。何かを呑み込むように茶を煽る様子は言いたいことがあるのだろうと容易く察せられ、やるせないなぁと目を伏せながら相手の正面に腰を落ち着け。雪崩込んできた上体に既視感を覚えれば、演奏前に戻ってしまったかと瞬き繰り返して。この人は気落ちすると脱力するらしい、また一つ賢くなったところで己の耳は小さく紡がれた言葉を聞き逃すことはなく )……そんなに大層なものでは( 気を、遣われているのか。ぐ、と喉の奥の熱いものが競り上がるのを呑み込んで、きっと酷いことになっているだろう顔を伏せてゆるりと頭を左右に振って。この話は頭が悲観的になるからいけない、もしかすると彼の本心かもしれぬだろうと奮い立たせて一度目を閉じ、再度顔を上げては目の前の脱力する彼の心が死なぬ方法を思索して )
亀並の速さなのは俺にも原因の一端があるからなぁ。大分遅くなってすまない、既に3ヶ月も過ぎたとは驚いた!……返信不要とあったが、詫びを言わないのも何だからな、これだけ。
言っておくが、世辞の類じゃあ無いぜ?俺は本当にきみの音を気に入ったし、独り占めできるのは皆と共有するのとはまた違う……どきどき?と言うのか?そんな感じがするじゃないか。(俯いて言葉を途切れさせた相手に、ずびしと人差し指を向けて再度同じ様な言葉を繰り返す。普段はそうと見えないが、案外この付喪神もスイッチが入ってしまうとどこぞの布お化け並の卑屈でいけない。こちらが本心で言った賞賛さえも世辞と取られてしまう前にと、依然机へへたり込んだままながら胸元をとんとん、と叩いてにっと口角を上げてみせ。机に乗せた頭からの目線でもなお下を向く彼の顔は見えない、というより見せたくない顔をしているから俯いているというのが正しいか。旧知の刀へやるように強引に顔を上げさせ、頬を軽く引っ張ってみたい衝動を押さえつつ、殊更柔らかな調子を心掛けて言葉を続け)きみはどきどきしないか?己の音が、俺だけのものにされているんだぞ?
……どきどき( 慣れぬ擬音語に鸚鵡のように相手の言葉を繰り返し。受肉してから胸の内で片時も休まず鳴り続ける鼓動が、それを口にした途端に意識を占領してくるような気がして。まるでそれを見透かしたかのようにそこを叩くこのひとに動揺などちっとも隠せるはずもなくて、少しばかり勢いづいて顔を上げれば優しく笑んだ琥珀の色と目が合い。何故だろうか、泣きだしてしまいたいと強く思った。泣き顔など見せまいと意思を反映した唇は横一文字に引き結ばれ、続いた途方もなく優しい言の葉の意味を解き )貴方だけの、音……。( 言葉に乗せると鼓動が一層喧しくなったらしく、どくり、どくりと生々しい脈打ちが聞こえるようになり。先程のような胸の高鳴りと表現される、高揚を伴うそれではなく、もっと何か、背徳的で、退廃的で、仄暗い色を持ったようなもの。それに触れることも、認識することすら禁忌である気がして。嗚呼、これは言えない、知られてはいけない、甚だ醜く質の悪い煩悩だと、必死に意識の外へ追いやって暫し沈黙し。不可解なことに思考の中ではあまりピンと来ておらず、自分が彼のような武人ではなく根っからの音楽人だからか、などと難しい顔で考え始めた頃、ふっと一つ降ってきた答えにあ、と小さく声をあげて )鶴丸さん。音楽はね、気持ちをうんと多く乗せられる言葉なんです。沢山の人の前で演奏することは、半ば演説するのと同じで、音楽を聴いて感動するのは、演奏者が乗せた気持ちに納得したり、感心したりするからなんですよ。ですから、貴方だけに贈る音は、謂わば内緒話。どきどきするのはきっとその所為です、おかしなことではございません。
長月に入りましたね。
朝夕は日差しがすっかり形を潜めて、随分と冷え込むようになりましたが、体調など崩されてはいないでしょうか。……なんて、武人にこれは、そんなに柔ではないと怒られてしまいますかね。
貴方の身に何かないことを祈るばかりです。また迷子、なんてことは流石にないでしょうけれど。
トピック検索 |