絵琉 2016-04-24 20:33:08 |
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「宜しくおなしゃす」
9月。夏休みが明けて少し経ったところで、クラスメイトが1人増えることになった。
彼女の名前は影山静香。俺と同じ苗字だ。
「皆、仲良くしてやってくれなー」
先生はそう言うけど、正直仲良くなりたいとか思わないし、どうでもいい。一人増えたところで、何かが変わる訳ではない。
なのに、何で皆して転入生に群がっていくんだ?
ーーーーーー
side 静香
「ねぇねぇ、趣味は何?」
「特に無いけど」
「好きなこととかある?」
「強いて言うならバレーだな。俺166cmだからそこそこ高いし」
「へぇ、ポジションは?」
「セッター」
何でこんなに集まって来るんだよ......正直、迷惑。少しで良いから一人にさせてほしい。
「あ、そういえば。何処から来たの?」
今更かよ。さっきあんだけ色々聞いておきながら、ようやく普通の質問か。
という本音を隠し普通に答える。
「あー、岩手から」
「へー」
そんだけかよ!
人に聞いておきながら、反応薄すぎじゃないのか?
「彼氏とかいたりした?」
「や。恋愛興味無いし」
「好きな人は?」
「いないけど 」
「ほんと?」
「おう」
さっきからしつこいなぁこいつ。
恋愛興味無いっつってんのに、何で好きな人の話になんだよ。
本当、女子ってよくわかんねー......
俺も女子だ。それは認めるが、こういう面倒な奴等とは一緒に括られたくない。
元々男子といる方が気楽だった。だから、いきなり女子に囲まれても困る。コクられることも無くはなかったけど、全て断った。恋愛は面倒だし、よくわからなかったから。
ーーーーーー
次の日。
「はよーっす」
「おはよー」
「お早う影山さん」
その言葉にビクッと反応した奴が一人。
影山は自分だけのはずなのに、何で反応してんだ......?
「なぁ」
「なんすか?」
「お前、名前は?」
唐突に話しかけてきたのに驚いたのか、目を丸くしている。やっぱり、いきなりすぎたか?
「俺か?影山飛雄だ」
「影山あ!?」
吃驚して思わず叫ぶと、クラスの視線が此方に集まる。なんかすんませんでした。
「いきなりなんだよ...」
「あー、すまん。他にも影山がいるって知って吃驚した」
よくある苗字の佐藤さんとか鈴木さんとかなら全然驚かないけど、影山だぞ?影山。あまり被らなそうなのに、よりによって何で同じクラスにいるんだよ。
「俺も聞いたとき驚いたわ」
「だよな!」
「おう」
良かった、吃驚したのが自分だけじゃなくて。俺だけだったら普通に恥ずかしくて困ったわ。
「なんか気ー合うなお前ら」
「え、そうか?......あ。」
ハモった。綺麗にハモった。
まぁ、これくらいノーカンだよな、ノーカン。
「すげー。ハモった」
「いや、ただの偶然」
「お、まただ」
ハモり、再び。何故だ...
「お前、被せてくんなよな!」
「それはこっちの台詞だボ.ケが!」
「誰がボ.ケだ!」
「それはお前だ影山静香!」
「あ"?影山飛雄の間違いだろ?」
ほんとひでーな、言おうとしたことを同じタイミングで言うなんて。
「転入してからまだ1日なのによくそんなに仲良くなれるねー」
うんうんと関心するクラスメイト達。いや、仲良くなんてなってないから!
「影山君に影山さん、か......呼び方どうしよう」
「影山でよくね?」
「2人ともだとわかりにくいって」
「だよなー」
影山で良いだろ。シンプルが一番。拘りすぎてもめんどいしな。
「飛雄も影山、静香も影山なー...」
「ダメか?」
「被せんな!」
またかよ。いい加減止めてほしい。変な視線で見てくる奴もいるから凄い迷惑だ。まじやめろ、影山。
ーーーーーー
side 飛雄
なんだこいつ。さっきからすげえハモってきやがる。ふざけんのも大概にしろよなマジで。
「面倒だし、影山君と影山ちゃんでよくね?」
影山ちゃんか。影山ちゃん...
「おい、何笑ってんだよ!」
「いや、笑ってねーよ」
「嘘つくなよっ」
やべえ、凄いツボ。めっちゃウケるわ、影山ちゃん。
「宜しくな、影山ちゃん」
「笑いながら言うな、つかその笑みこえーよ!」
「そうか?」
よくわかんねー。そんなに言う程怖いのか?
「動物が逃げていきそうな笑み。」
「なっ...」
最近動物に避けられている気がしてるのは、そのせいだったのか!?猫には毛
逆立てられるし、犬には思いきり吠えられる......。確かに、怖かったらそうなるかもしれねーな...
「自覚あんの?」
「いや、ねーよ?」
「それはあるって顔だな」
「どんな顔だよ!」
謎だ。俺、自覚あるって顔してんのか?...いや、まずどんなんだよ。顔が想像つかねーよ。
「鏡見れば?」
「あ、私持ってるよ」
「いや、いいよ」
待って、何で鏡見なきゃなんないんだよ。つか、ノリいいなおい!当然のように微笑みながら鏡取り出すか普通!?
「えー、遠慮しなくてもいいぞ?」
「してねーよ!?」
鏡を見たかったら洗面台行くし、女子から借りるのは流石にない。遠慮とか微塵もしてないんだが、何を勘違いしてるんだか。
「影山くぅん、鏡見て?」
「似合わなすぎて気持ち悪いわ!」
つか、何だその伽羅。ただウザいだけじゃないかよ。
「じゃあ...飛雄ちゃん?」
「却下!」
その呼び方だけは絶対ダメだ。聞くだけで及川さんの顔が思い浮かぶ。うわ、やばい......相変わらず、想像の中でもウザいですよ、及川さん。
ーーーーーー
その頃の青城では......。
「くしゅんっ」
「うわ。何だよ、風邪か?」
「ううん、及川さんは元気だよっ☆多分、誰かが俺の噂をしてるんじゃないかなっ」
「自意識過剰だバカ」
いつも通り、自分大好きな及川さんが岩泉さんに毒を吐かれてました。平和だな、うん。
ーーーーーー
side 静香
「えー、何でダメなんだよー」
「ダメなもんはダメだ」
「ええー」
良いと思ったんだけどな、飛雄ちゃん。飛雄ちゃん......。
「トビウオ!」
「は?」
「影山トビウオ」
「違うわボ.ケ」
「え、違わないっしょ?」
「俺は飛雄だ」
つまんねーの認めてくれれば面白かったのに。ノリ悪いなこいつ。
「トビウオといえぱさー」
「何だよ?」
そうそう。トビウオで思い出すことといえば...
「泳げトビウオくん!」
「どっから出てきた!?つか、それならたい焼きくんだろ!?」
つっこまれた。普通にスルーしてくれても構わないところだったよ、今のは。
「たい焼きって美味しいよね」
「何でそうなる!」
考えてるとお腹が空いてくる。久し振りに食べたいよな、たい焼き。やっぱり食べるならつぶあんだろ、つぶあん。
「お腹空いたから」
「まだ朝!朝だから!」
「だから?」
「ちゃんと朝ご飯食えよ」
朝ご飯な。まぁ、用意はされてたっちゃされてたんだけどさ。されてたんだけども......姉さんが作ったのだから。
「姉さんの料理なんか食えねーよ」
「お前姉さんいたのか。つか、そんなにやばいのか?」
「おう」
食べた人がお亡くなりになられても不思議ではないレベル。多分、気は失うんじゃねぇかな......
とりあえず。普段の朝食だと。焦げて真っ黒になったパンに同じく焦げたベーコンエッグ。熱く沸騰して湯気が立ち上っているスープは混ぜきれてないようで粉末がところどころ浮かんでいるのが見える。サラダはトマトの緑の部分が飛び出て、レタスは適当すぎて大きいものと小さいものの違いが激しい。
食べないと私の料理は食べれないの?って涙目になりながら言ってくるから我慢してるけど、母さんの方がどれだけ上手か...。
「...大変なんだな」
溜め息をつくと、影山は察してくれたようだ。理解していないよりは話が早い。
「ほんとだよ、マジ大変」
もうお手上げだというポーズをとる。嗚呼、こいつに姉さんを押し付けられたらどんなに楽か...
ーーーーーー
放課後。
することもないし、早めに帰るとするか。早く帰れば最近買って放置してあった月刊バリボーもゆっくり読めそうだしな。
「影山ー!」
その声に、反射的に振り返る。でも、こいなやつと知り合いになったような覚えはないんだよな...
「あ?」
同時にオレンジ頭の奴に声を掛けると...目を丸くして驚いている。
「えーっと、影山?」
「影山だけど、何だ?」
最早1日だけどお馴染みとなったハモり。此処までくると流石に驚くことはない。
「影山が2人?......って、君も影山っていうのか?」
「おう、影山静香だ」
「すげえ!苗字被ることってあるんだな」
「それな」
俺らも朝は驚いたものだ。影山なんて苗字、其処らに何人もいないもんな。
「んー、俺こいつのこと影山って呼んでるし...どうしたらいいんだろ」
「影山でいいだろ」
「わかりにくいじゃんかよっ!目付きの悪い方呼びたいときに君まで呼んじゃったら迷惑だろうし...」
「誰が目付き悪いんだよこの日向ボ.ケ」
まぁ、確かに呼び方被ると困るよな。って、この会話朝もしたような。
「こいつ、クラスでは影山ちゃんって呼ばれてる、ぜっ...」
「笑うな!つか、それ却下したはずだろ?」
笑いながら影山ちゃんと連呼してくる。うわあ、凄くウザい...
「飛雄ちゃんっ☆」
「やめろ」
「やだ」
そっちが影山ちゃんって呼び方を変えないなら、こっちも飛雄ちゃんで貫き通してやる。絶対変えない。
「はぁ...って、何なんだよこれ」
無言で睨み合う俺らに呆れたオレンジ頭が溜め息をつきながら声を掛けてくる。
「ん...あ。そういや、お前の名前、なんて言うんだ?」
「ああ、そういえば自己紹介してなかった!おっす、俺」
「悟空」
「じゃねーよ!」
ある意味ナイス影山。此処がおらなら、もっと良かったんだけどな...
「おう、宜しくな。悟空」
「えええええ!?ちょっと待って、俺悟空じゃない!」
凄い驚きよう。これはちょっとからかってみるか。
「え、そうなのか?」
「そうだよ!俺のなま」
「えは悟空。だろ?」
「何で影山さんまでっ!邪魔すんなよっ」
「え、やだ」
ちょっと怒ったような表情を見せるオレンジ。影山なら怖いかもしれないが...全然怖くない。やっぱり、小さいせいか?
「え、何故...」
「さっき自分で悟空って言ったじゃん」
「言ってねーよ!あれは影山だからっ」
「へー」
「へーって!」
ふう。ちょっと可哀想だし、心優しい静香ちゃんだからこの辺で止めてあげようかな。
「で、悟空。本名は?」
「...日向翔陽」
弄りすぎたせいか元気がない。やりすぎたか?いや...でも、大丈夫だよな、これくらいは。
「宜しく日向」
「うす」
「ところで...お前小さいな」
笑いながら言う。俺は昔から背が高い方だ。中2で止まったものの、167cmだから5cmくらい日向の方が小さい。
「うっ、煩い!」
これで俺が163cmとかなら反論できたかもしれないが...身長差はちゃんとあるからか、何も言えないようでムスッとしている。何か、ちょっと可愛いかも?
「俺は男だ!可愛くない!」
「あ、声に出てたか」
ちょっとだけ、悪かった。謝らないけど。ちょっっっとだけだし。
「そうだよ...てか、影山いないっ」
「それな」
見回してみるが、本当に姿が見えない。透明人間になるなら教えてくれれば良かったのに。
「あれ......あ!」
窓から廊下を覗き、影山の姿を確認したらしい。言われて見てみると...ちっっちぇえ。もう端にいるから、多分声は聞こえないだろう。
「じゃ、俺行くな!」
「おう」
そうして教室を後にしようとした、が。
ドンッ
誰かとぶつかっている。ちょっとダサい...って。
「えええええぇぇぇ!?」
何あのデカイ人。本当に高校生か?いや......怖い怖い怖い怖い!さっき叫んだせいか、近づいてくる。ちょ、ま、俺が何したっていうんだよ......!
「すまん日向っ」
「いえ。それより東峰さん、何しに来たんですか?」
「あー、それがな。日向が遅いから迎えに来いって大地が」
「え、大地さんが!?......うおぉ、やべえ!時間経ってる!!!」
話から察するに、2人は同じ部活だ。で、大地さん?に、この巨人さんはパシられた、と。
「君もごめんな、怖がらせちゃって」
「いっ、いえ!此方こそ叫んじゃってすんませんっ!」
どうやら、悪い人ではなさそうだ。でも、どうしても...見た目が怖い。
「そういや、何部なんすか?」
「バレー部...だけど。来るか?」
「バレーすか!?」
引っ越す前までバレーやってたから是非やりたい。うん、凄くやりたい!俺、今目がキラキラしてるかもしれない。
「そ、そうか...じゃ、じゃあ行こうか」
食いつきっぷりに驚いたのか、苦笑いする巨人さんと、何故かまだ其処にいた日向とで体育館へ向かう。なんか、凄く...楽しみだ!
ーーーーーー
in体育館
「ちわーっす!」
「遅れてすんません」
「連れてきたぞー」
入っていくと、日向達に怒ったような先輩達の視線が降りかかる。
「日向あ、お前1年の癖して何遅刻してんだよ。あ゛?」
「すっ、すんません田中さん!」
何あの坊主の人。怖そうだけど頭悪そう...なんかウケる。
「田中さんも東峰さんがいなくなってから来た癖に」
メガネのっぽが小声で言う。にしても、アイツも背高いな...
「なんだとコラァ」
「事実デショ」
「そうだよね、ツッキー!」
一通り田中さん?達が話し終えた後に、俺がいることに気づいたらしくこっちを見る。気づくの遅くね?いや、気づかれたくもないけどさ。
「女子マネ希望の子かな?」
さっきの坊主が声色を変えて近づいてくる。何その言い方。
「うざっ」
思わず溜め息をついてしまう。この人はよくわからないけど、何か気持ち悪い。
「旭、どういうことだ?」
にっこりと笑顔で東峰さんに近寄る先輩。何あの黒い笑みは...普通に怖いんだが。
「あ、大地。これは、えっとだな...」
体育館まで案内してくれたときは普通だったのに、かなりの豹変ぶりだ。表すなら...小心者。
「バレー好きなんで、ちょっと見せてもらおうかと思ったんですが、やっぱりお邪魔ですかね?」
仕方なしに口を開く。普通は東峰さんが言ってくれるんじゃ...と思うが、あの調子じゃさっきの先輩に睨まれたまま固まりかねないしな。
「ははっ、そういうことか。いやあ、すまんすまん。こいつがへなちょこすぎて申し訳ない」
東峰さん...へなちょこって呼ばれてるのかよ......。
「いえ、へなちょこに関しては別に気にしてないので大丈夫です。それで、見学させてもらっても宜しいでしょうか?」
「1年にへなちょこって言われた...」
相当にへこんでいるのが見える気がするけど気にしない。うん、気にしない。
「おう、勿論。俺は3年で主将の澤村大地だ。宜しくな」
見学だと言った途端、優しそうに微笑む先輩。良かった、思ったよりも怖く無さそうだ。
「同じく3年で副主将の菅原孝支。旭が迷惑かけるかもしんないけど、宜しくな」
何この爽やかな人。爽やかですって感じのオーラがもろに滲み出ている。
「東峰旭だ。さっきはすまんな...」
「3年って言わないの?東峰」
「あ、忘れてた。3年だけど宜しくな」
「はぁ...あ、同じく3年でマネージャーの清水潔子です。宜しくね」
クール!知的!賢そう!それでいて何か可愛い...けど、これはある意味怒らせたら怖そうかもしれない。
「次、2年な」
澤村さんの声で数人が出てくる。あの一部オレンジの人、日向よりもちっさいとか爆笑だわ。
「リベロの西谷夕だ!」
「田中龍之介だ!」
「何なんだよ、暑苦しい。縁下力です」
2年は...うん。縁下さん以外暑苦しい。夏とか大変なことになりそうかも。
「最後。1年は月島、山口、谷地だけ紹介しろ」
「はいはい。月島蛍。
「ツッキー簡潔!山口忠だよ」
「山口煩い」
「ごめんツッキー!」
いや、そこで会話してんなよ。女子マネっぽい子が凄い可哀想。...very可哀想。
「月島と山口は黙れ」
思わず声を掛ける。うわ、月島って奴こっち睨んでるんですけどー。ガラわるー。
「マネージャーの谷地仁花です。宜しくね?」
申し訳なさそうに苦笑いしてる。十中八九、というか100%あの2人のせいだ。
「で、君の名前は?」
清水さんが問いかけてくる。うわ、近くで見るとかなり美しい。
「影山静香っす」
「影山!?」
ほとんどがハモる。え、何この驚きよう...苦笑いしていると、勿論隣の影山へと注がれる視線。
「え、なんすか?」
「この子とどういう関係?」
「昨日会ったばかりっす」
うん、事実。こいつは何もおかしいことは言ってない。言ってないんだが...暑苦しい2年2人は納得していないようで何やら話し込んでいる。面倒だなぁ、もう。
「君...影山さんと言ったね。どうお呼びすれば宜しいですか?」
「お望み通りにお呼び致します。...お嬢様の仰せのままに 」
何コレ!何か執事みたい。急に伽羅変わられると対応に困るんだけど。どうしたら良いかわからず先輩方に視線を送るも、苦笑いを返されるだけだ。えー、俺にどうしろっていうんだよ......
「静香で良いです」
「わかりました、静香お嬢様」
「うぜぇぇえええ!!!」
思わず叫んでしまう。...あ、そういえばこの2人って先輩だっけ。先輩相手にウザいとか叫んじゃったし。初日から何やってんだよ、俺。
「ウザい...ですか」
「わかりました、この伽羅は止めにしますね」
さっさと止めろよ!という皆の視線。やっぱり思うことは同じですよね。
「田中、西谷。お前ら、今度調子のったら...わかってるな?」
「ひっ、すみません大地さん...」
「やろうって言ったのはノヤの方なんすよ!」
「ひでえ!龍だって賛成したじゃんか!」
先程見た黒い笑みを再び見せる澤村さん。怖いのに平然としていられる2人って...ある意味凄いのかもしれない。勿論、尊敬なんてできないけどな!
「まあまあ。大地、こいつらがふざけるのはいつものことだろ?」
「スガさん...!」
「スガか。...まぁ、そうだな。確かにいつものことだが......」
スガさん、天使。うん、天使。笑顔が爽やかすぎんだろ。
「だからさ、今痛い目に遭わせた方が良いんじゃないか?」
「え......」
皆の声がハモる。あれ、さっきの爽やかスマイルは......?澤村さんと同じくらい黒いんですけど。普段とのギャップが凄い。何コレ、凄い怖い。笑顔でさらっと言うとか一番怖いですよ...!
「ああ、そうだな」
「おう、何にする?」
笑顔で話し合う先輩達とか、怖すぎか。
「んー、そうだな。静香はどう思う?」
「えっ、俺ですか!?」
思わず声をあげてしまう。いや、何で昨日まで無関係だった俺が決めるんだよ...
「だって、一番不快になったの静香だろ?」
「だから、思いきりやって良いんだべ」
や、優しい...!でも、内容は優しくないような気がするのは俺だけか?
「じゃあ、100本サーブ。それか、練習に参加せずにずっと見てて下さい」
「ある意味一番きついの出たな...」
笑顔で言ってみると、不満そうな声が。よし、此処は圧力でもかけてみますか。
「あれ、不満なんですか?不満なら、部活終わるまで外で走っててもらっても良いんですよ?あ、勿論休まないように監視してますから」
沈黙。え、何か不味いことでも言ったか?周りを見てみると、”予想以上にきついやつ出してきたな” ”田中達には良い薬になりそうだけどね”と顔に書いてある。いや、罰を与えるならこれくらいしなきゃでしょ。鞭とか手錠でSMプレイする訳じゃないんだから。
「で、どっちが好みだ?」
「両方でも良いぞー?」
笑顔で詰め寄っている。威圧感やばいな、あれ。まあ、俺がやらせたようなもんなんだけど。
「じゃあ、俺は練習見てるぜっ」
「ノヤっさんが言うなら俺もそっちで」
威圧に負けず笑顔のままの田中さんと西谷さん。意地なのか?いや、寧ろ意地にしか見えない。
「了解。じゃあ静香、こいつらがふざけないように見張っててくれるか?」
「勿論です」
そうして時間は過ぎていき...部活終了時刻となった。
皆で色々片付けて、挨拶をしてから帰っていく。主将は鍵まで閉めなきゃならないなんて大変そうだな...。本当、乙です。
「んじゃー、帰るかー」
「ですね。あざっした。さようなら」
「あ、ていうか、家どっち方向なんだ?同じなら送ってくけど」
「こっちです」
家の方向を指差すと、苦笑いするスガさん。どうやら逆方向らしい。
「残念ながら逆だわ。ごめんな」
「いえ、気にしないで下さい」
元々そんなに遠くはないから一人でも大丈夫だし。っていうか変な奴来たら殴ればいいだけの話だし。
「あ、そうだ。影山が確かそっちだった気がする」
「えっ」
「おーい、影山!方向同じらしいから静香送ってってやって!」
「うす」
良いらしい。嫌がりそうだが、案外そうでもないことが判明。うん、意外。凄く意外だわ。
ーーーーーー
「何かごめんな」
「いや、別に気にしてないから」
「さんきゅ」
「おう」
話しにくい。話したらすぐに沈黙が訪れてしまう。あー、やっぱりマネージャーさん達と帰りたかったな...
「おい」
「何だ」
「鍵忘れた」
「え」
流石に驚くよな、帰ってる途中で言われたら。でも事実。学校じゃなくて家に忘れてきた。だけど、親は仕事。姉ちゃん多分遊んでるから朝帰り。...つまり、OUT☆
「何処にだ」
「家にだ」
「親は?」
「仕事」
「姉さんは?」
「朝帰り。多分遊んでる」
半分呆れたような視線を送られる。うわ、何かすげー悲しい。ってかどうしよ。流石に家の前での野宿は虚しい。
「来るか?俺ん家」
「え」
転入してきたばかりの奴を家に上げるか?普通。女子同士ならありえるかもしんねーが、一応女子に入るんたよな、俺。
「一人寂しく閉め出されるか、家に来るか。どっちだ」
「すまん。お邪魔さして下さい」
「おう」
今の2択はずるいだろ。絶対前者を選ぶ奴はいない。有無を言わさず家行きってことだな。まぁ、見放されるよりか全然良いんだけど。
ーーーーーー
「着いた」
「おー、此処かー」
「ん。親いるから挨拶くらいしろよ?」
「わーってる」
ガチャッ
「ただいま」
「お帰りい」
「お帰りんご」
影山が声を掛けると、両親が出てきた。勿論俺の方に目がいくよな。
「飛雄、その子は?」
「あー、昨日転入してきたクラスメイト。鍵忘れたらしいから連れてきた」
「...ちわっす」
ちょっと気まずくて母親から目を逸らす。普通は転入したばっかりで上がり込むなんて無いもんな。
「へえ...名前は?」
「影山静香っす」
「影山ぁぁあああ!?」
うん、予想通り。...より、まあ反応はでかいな。皆こうだから既に慣れたけど。
「うす、宜しくおなしゃす」
「了解っす」
敬礼を返してくる母親。なんかノリ良いな。わりと話しやすそうかも。
「まー、何だ。影山が4人集まるってのも何かの縁だしな。さ、上がれ上がれ」
「うっす。お邪魔します」
ーーーーーー
「夕食。まだ食ってないだろ?」
「カレー!これ、ポークカレー温玉乗せっすか!?」
思わず声を上げてしまう。やべー、凄い美味そう......
「おいおい、興奮すんなよ」
「さーせん」
笑われた。絶対(笑)がつくやつだ、今の。
「しっかし、カレーで良かったわ。よそうだけで1人分追加できるし」
「つか、君もポークカレー好きなのか?」
「うす」
正確にはポークカレー温玉乗せ。無くても美味いけど、あると無いではかなり違う。
「奇遇だな、飛雄もこれ好きなんだよ」
「まじすか」
何かいらない情報ゲット。影山の好物とか、知ったところで無意味すぎるだろ。
「手、洗って来いよ?」
「へーい」
「おう」
ーーーーーー
「頂きます」
「頂きー」
「ます」
うお、まさかのちゃんと言ってんの俺だけ!?父親なんか無言で食い進めてるよ。てか影山、何だよ「ます」って。そして母親、親の癖に「頂きー」で良いんすね......
「うめぇ!」
「おー、良かった」
久し振りに食べるカレー、凄い美味い。つか、また叫んじゃったよ...何やってんだ、俺は。
数分後
「御馳走様でした」
「ごちさまー」
「ごちー」
「ゴチになります」
「ならねーよっ!」
父親のボ.ケに対して即座につっこむ母親...なんつーか、流石だな。めっちゃ鋭い。
「暇だ」
「なら片付けろよ」
「めんどい」
それな。と心の中で同意する。普段は全然やらないからな、そういうこと。姉ちゃんに任せるのも不安だからって母さんがやってくれてる。よく考えたら大変だよな、母さんも。まぁ、手伝う気とかは無いんだけど。
「やれよ」
「やらねー」
「やれよ」
「やらねー」
何この状態。言い合いにしても話題がおかしい。影山もそれくらいやれよ......って、俺もやってなかったわ。此処は影山ん家だし、せめて片付けくらいはしてや
るか。
ーーーーーー
とりあえず自分の分だけ片付けて戻ってきたのはいいんだが......。
「やれよ」
「やらねー」
「やれよ」
「やらねー」
まだ言ってるし。てか、カレーだから早く水につけとかないと後がやばくね?
「やれよ」
「やらねー」
「やれよ」
「やらねー」
「やれよ」
「やるよ」
その瞬間、影山がしまったという表情を浮かべる。その様子を見てニヤリと笑う母親。そして......ただただテレビを見て爆笑してる父親。
「なんっで俺がやんなきゃなんだよ」
「当然のことだ。だろ?静香」
「おう。...あ、はい」
いきなり俺に振ってくるなああ!当たり前のように「おう」とか言っちゃったじゃん。自分の親でもない癖にタメにしちゃったじゃん......!
「ほら。行け、飛雄」
「......おう」
渋々皿を持って立ち上がる。お父さん、何でそう良いとこ持ってくんすか...。
ーーーーーー
「じゃ、どうするか」
「暇だな」
「暇」
「暇なうぅぅぅう!」
いきなりどうした。皆呆れてますよ、お母さん?
「はいはい」
「一旦黙れよ」
え何でこんなに普通なんだよ。もしかして俺がおかしいのか?え、そんなことないよな?
「おい、静香が呆れてんじゃねーか」
「お前のせいだろ」
「何なの、お前のお母さん......」
俺が呆れてるのが自分のせいだなんて、まるで思っていないようだ。自覚無しか。いやー、怖いよね、無自覚って。
「トランプ?」
「百人一首とか」
「いや、そこはかるたにしようぜ」
「何その選択肢!」
暇なときに遊ぶための手段がトランプか百人一首かかるたって.....逆に凄いよ。もっと他の考えがあると思うけどな...。
「ババ抜きか」
「ジジ抜きだろ」
「大富豪も良くね?」
「トランプで良いんすか?」
いや、良いなら別にそれで構わないんだけどさ。3人いて何でひとつも被らないんだろうか。ていうか、ババ抜きもジジ抜きも大して変わんなくね?
「まー、これでいっしょ」
「おう」
「いっぎなーしっ」
「つーことだ。じゃ、やるぞ」
父さんノリノリ。何でいちいち「っ」を使ってんすか...まぁ、良いけど。
ーーーーー
「うわ、ババだ!」
「飛雄、ルールわかってるか?」
「っおい飛雄!俺にババ回すなよ!」
「勝手に引いたんだろーが」
「お前ら、わかりやすすぎるからやめろ」
うん、ダメだなこれは。ババ抜きでジョーカーの在処知らせたら、本当につまらなくなるだけじゃんか......。
「おっ」
「あ」
ババ来た。そして父さん、あからさまな笑顔はウザいですよ?
「今は静香か?」
「んな訳無いじゃないっすか」
「へー?」
母さんの表情もなあ...。というか、影山、父、俺、母ってどんな順番だよ。
ーーーーーー
「うし、一抜け。頑張れ飛雄たち」
「んー、よし!二抜け。負けなくて良かったわー」
父さんと母さんが抜け、俺と影山の対決だ。やべー、これは絶対負けたくない!!
「どれだ...」
「これか!......うわ、ちげー」
「お、揃った」
「静香ウザいぞ」
「これが俺だ」
やっているうちに影山1枚、俺が2枚になった。言うまでもなく、ジョーカーは俺の手元にある。これでダイヤ引かれたら負ける......と思いきや。
「あっ」
「ウケる」
ババ引いてったわ。これでまだチャンスはあるってことだな?
「どっちだ.......」
真剣に2枚のカードを見つめる。勿論ジョーカーだけ汚れてるとかそういうのはないから、凄いわからない。いっそ透視でもできたら...いや、それはそれでつまらないか。
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