【刀剣乱腐】スキキライ【燭へし/bI】

…う、うん。ちょっと待って。
( 視線の先に映る彼の小さく笑んだ姿を見れば、思わずどきっと胸が高鳴り微かに頬を染め。暫し見とれるも不意に声が耳に入れば、少し反応が遅れがちになりつつ若干慌てた様子で木箱の中に手鏡を仕舞い。紙障子の前に移動をし、手を掛けて相手より先に部屋から出ると襖の右側に寄って待ち )

嗚呼、分かった。
( そう頷いて相手が手鏡をしまうのを確認すると、己も続いて部屋の外へと出て行って。襖の横で待ってくれていた相手に心中で感謝しては、スッと扉を閉めていき。そのまま視線で 行くぞ と言う風に促せば、さり気なく相手の隣に並んで居間へと続く廊下を歩いて行こうとし )

( 襖の横で相手の行動を視界に収めつつ、隣に並んだ事を確認するように一瞥して。廊下を歩いて行こうとする相手と違って、己は太刀ゆえ夜目が利かず外はほの暗く燭台の上に立てたゆらゆらと風に靡いて動く蝋燭の炎を頼りに緩慢な足運びとなり。居間へと続く廊下を歩きながら、ちらっと彼の顔を見遣ればポーカーフェイスな表情に先程の小さく笑った姿が脳裏に焼き付いてほぼ無意識に本心を口走り )
──…長谷部くんの笑った顔好きだな。

─っ、何を藪から棒に言っているんだ。
( すっかり日の暮れてしまった廊下を歩きつつも打刀ゆえ夜目は利く方で、難無く歩いていれば突然横から聞こえて来た呟きにきょとんと目を丸くさせては、思わず緩んでしまう口元を誤魔化すように照れ隠しで眉を顰めて返していき )

本当の事を言っただけだよ。君はもっと笑った方が良いと思うけど…出来れば他の子達には見せて欲しくないな。…僕だけに、ね。
( 本心がそのまま口に出て聞かれた事に対し然程気にした様子は無く、前を向いて歩みを進めながら己とは正反対で普段から人前であまり笑顔を見せない印象が強くて。やっぱり好きな人の色んな顔が知りたくその中でも笑う顔は沢山見たいと思う反面、恋仲になる以前＿長谷部くんの存在を意識し始めた頃に他の子達と会話している場面を見掛けるたび嫉妬、独占欲と言った新たな心情が芽生え最初は嫌な気持ちではいたものの、今は己の知らない顔を仲間であっても向けないで欲しいという独占欲染みた発言をし。漸く居間に着けば、紙障子の前に立つと横に居るであろう相手に近付き最後は耳元で囁いて )

！…存外、独占欲が強いんだな。…分かった、出来るだけ努力はする。
( 中々に無茶な事を言うと歩きつつ聞いていればいつの間にか居間の前に着き、そこで最後に耳元で囁かれれば流石にこそばゆい感じを覚えビクリと肩を震わせてしまい。それを恥ずかしく思い、不服げに相手をジト目で見遣りつつ上記を述べ。しかし、いつも体裁の良い彼の意外な一面を知る事が出来たのでその部分は嬉しく思って口角を上げ。少し相手との距離を詰めれば、そっとその髪先を撫でて笑みを含んだまま目を細めて首を傾げ )
…それでだが、お前の方は俺だけに何を見せてくれるんだ？ 先程のように照れた表情か？

…僕のこと嫌いになった？
( 耳元から唇を離して少し距離を置くと不服げな顔が視界に入れば、独占欲という感情を表に出した事で嫌われたかなと、眉を下げて寂しそうな表情を浮かべ上記を問い掛け。二人の間は少しだが開いていて、その隙間を埋めるかのように己との距離を詰められれば髪先を撫でて笑う彼の姿が目に入り。その質問に視線を逸らしつつ卑怯ではあるが、主くんの名を出して話をはぐらかそうとし )
それは……あっ、長谷部くん！ それより早く中に入ろうよ。主くんを待たせて良いの？

まさか。
( 嫌いと言う単語が聞こえてくれば、如何してそうなるんだと十中八九自身の態度が悪いのだがそれを横に置いて思いつつ、一言で簡潔に即答しては心配性な相手に眉を下げて笑い掛け。――不意に、意図的に主の名前を出され、話題が逸らされた事に気が付けば答えを聞いていないため少々腑に落ちなかったものの、然し居間前で問い詰めるのもリスクが高過ぎるかと何時開けられるか分からない状況ゆえにそう思い直しては、相手の髪先から手を離して距離を戻していき )
はぐらかすとは狡いな。……まあ、良い。お前の言う通り、主を待たせる訳にはいかないからな。

そ、そうだよね…。良かった…。
( 一言だが簡潔に即答された言葉と共にその表情を見れば、先程までの不安が取り除かれ安堵の胸を撫で下ろし二つ返事で返していき。不自然なくらいに行き成り話題を変えてしまった事で、当然相手は気が付いて何処か腑に落ちない様子だったものの、一時的にだがあの質問から免れたためホッと息をつき。再び相手の方へと視線を戻せば、眉を下げて苦笑いと共に下記を述べたのち、居間に身体ごと向けて襖を開けると中に入り。相手が入り易いよう横にずれてスペースを作ってあげて、全体を見渡しながらまず謝罪の言葉を口にすれば何故遅れたか事の説明をしていき )
…ごめんね。じゃあ、僕から先に入るよ。

嗚呼、分かった。
( 相手が居間の中へと入って行くのを確認すれば少しタイミングをずらして己も中に入り、横にいる彼の皆に対しての説明を聞きつつ後ろの障子を静かに閉め。“大きな怪我を負った後なんだ、疲れているのは当たり前だ。気にする事は無い”と言った主の言葉を聞けば、己も同意する様に頷いて。そして、主はこちら側に席へと座る事を促して来たので自身は視線を食卓に投げていき )
あそこが空いているか。燭台切、座るぞ。

ありがとう主くん。それにみんなもね。
( その場から皆を見渡したあと最後に主くんへと視線を向けては、特に己を咎めるような口振りは一切無く。むしろ此方の身を案じてくれて、その優しげな口調に小さく笑みが零れてはお礼の言葉を言うと周りに居る皆にも心配を掛けたので視線を移しつつ後記を告げ。不意に、横から呼ばれてそちらに目を向けると、二人分の食卓が用意されていて一度頷けば席につくため移動をし )
うん、分かった。

( そのまま席へと座れば、偶々横合いにいた宗三に“おや、彼のお陰で上の空は治ったんですね”と、己と燭台切を見てはクスクスと見透かされているかのように笑われた為に、鋭い視線を向けては軽くあしらっていき。再び、夕餉へと視線を戻せば自身は大人しく主の号令を待ち )

( 彼の後を追うように左側の席へと座れば、己から見て二つ目の食卓についた宗三くんに意味深な言葉と共に笑われたので何の事かと疑問に思い。此方も夕餉に視線を遣れば ‘…よし、席についたな。頂きます’ と、主くんが食事の挨拶を言えば続いて己も両手を合わせ )
──頂きます。

頂きます。
( 主の号令が聞こえて来れば、周りや己も続けていつも通りに両手を合わせて食事の挨拶をし。箸を手に取ると、色とりどりの季節の野菜が使われた和食中心の夕餉へと箸を付けて、黙々と食べていき )

歌仙くんの料理って美味しいよね。
( 箸を手に取ると、和食中心の料理に箸を付けて口に運んではその美味しさから自然と頬を綻ばせ。一緒に炊事場に立つ事は多いが、何時もながらそう思っては隣の彼を見て話し掛けて )

嗚呼、彼奴の料理は美味いな。
( 昼餉の献立を監修して貰った時からより一層思っていた事だが、さすが雅に拘る刀ゆえ味は勿論のこと見た目も凝っていて。この夕餉も素直に美味いと感じつつ、春の野菜が入った味噌汁を飲み。しかし不意に相手の目を見ては周りに聞こえないように小声で )
…ただ俺はお前の料理が一番だ。

…本当に君は、僕を喜ばせるのが上手いよね。
( ふと、目と目が合えば小声だが自分の料理が一番だと言う彼に嬉々たる表情を滲ませて、何とか誉桜を抑えつつ同じく周囲に聞こえぬ程度の声のボリュームで言い。再び夕餉へと視線を戻しては、冷めないうちに残りの料理を味わっていき )

ふっ、そうか。…お前が喜ぶのなら素直に言うのも良いものだな。
( 相手が喜の表情を浮かべているのを見れば、その表情は自身が特に好きなものな為に周りに気付かれぬよう少し口元を緩めては、微笑と共に小声を零し。改めて箸を動かすと夕餉を食べ進めていって )

そうだよ。…僕の前ではもう少し素直になっても良いと思うんだけれど。
( 居間前で無茶な要求を言ったお陰か、微笑を湛えるその表情を見てより一層笑みを深めては本心をぽつりと。すべての料理を食べ終えれば ‘御馳走様’ と両手を合わせて締めの挨拶を告げると、膳を下げる為に腰を上げて )

…考えておこう。
( 本心のような相手の言葉に、素直ではない事の思い当たる節が沢山あったので彼の言う通り少しは直そうかと心中で思い。夕餉を全て済ませば、“ごちそうさま”と同じく締めの挨拶をして膳を持てば炊事場へと行こうと歩き出し )

(/昨日は寝落ち済みません…。蹴可)