雛鳥 2016-02-29 12:47:30 |
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>刹那
ひとたび湯水を注ぎたれば夜より黒く死の如く濃し。遠き灼熱地獄の國では大衆を堕落せし毒と評さるる……、あァ刹那、お人形遊びはもういいのか。
(陽光傾けば屋敷もセピアの光に染められ情緒ありげな顔をする夕暮れ。洋式の白いエプロンをつけ、カンバスの前ではなく台所に立つと白煙を吹くやかんから大輪の花が描かれた珈琲茶碗へそうっとそうっと湯を注ぎ。舶来品好きの洋画家から教わったこの珈琲なる飲み物は、苦く焦げ臭いけれども洒落た異国の味がする、と鼻歌代わりに誰かの受け売りを歌い上げながら居間まで茶碗を運んでくると朝から姿を見掛けなかった人形師の彼に出くわし揶揄うように声をうわずらせ。どうせ飯も食わずに人形を弄くっていたのだろう。白粉を叩かずとも白く透けるような頬にチラとだけ目をやると「そうだアンタも一杯飲んでご覧、甘い甘い洋菓子もある。そちらのガアルも是非ご一緒に、さあさあ、早く此方へお座んな。」ふと考えついて彼の分、そして彼が抱く人形の分、二つの椅子を引いて給仕のように恭しい仕種をもって思いつきの茶会へ誘い)
>お雛
――アハハッ、あァ、あァ、あの与太郎の言うとおり、お雛は天のお使いらしい。鬼は羽衣天女は般若、行きはよいよい帰りは怖い。美なるものこそ恐ろしい、この世の理屈を底の底まで見抜くとはねえ……いやはや参った。飴玉はぜえんぶ遣るからもう堪忍しておくんな。
(真黒いびいどろ、墨を塗りこめた雛人形の冷たいまなこ。血の通わぬものばかり思わせる童女の瞳は自分をじいと見つめるけれど、見つめ返せどそこに宿っているはずの感情を拾い上げることはかなわず。しかしそんな事よりも折角の洒落たスカアトが汚れぬかそればかりが心配で、チクリとも痛くない意地悪に吊り上げた唇の端だけで応えては少女が側へやって来るまでの一部始終を珍しく黙して見届けて。そして凍えたような菫色の唇――今しがた己を鬼と喩えたその口が羽衣さまと愛らしく紡げば瞬きひとつの間を置いてカラリと高らかに声を響かせて笑い。かの霊体愛好者の言葉を拝借しつつ出鱈目とも誠とも知れない世の理とやらを語ってみせ、白旗代わりに摘んだ羽織をヒラヒラ揺らすのも褒められて機嫌を良くした証。裾を気にしながらしゃがみ込み巾着を開くと飴玉ひとつつまみ上げ「そらお雛様、桃の味。」一言唱え、薄桃色の菓子を唇にそっと押し当ててやり)
(/私もお雛ちゃんの言葉遊びにずっと魅了されております、後ほど夜鷹さんに絡ませていただくのも楽しみで仕方がありません…!お二方とも仲良くしていただければ幸いです!)
>紅
――これは吃驚、貶せや笑えと言っときながら紅を見る目は一級品ときた。嬉しいねえご名答、上流のご婦人がた御用達の棒口紅も、今や男の身の上で扱える時代になったわけさ。ちぃと赤過ぎる気もするが……
(流れる血も心についた奇怪な癖も、自嘲する彼の声音に同じくお芝居のような他人事。わざわざ言われずとも怪我を案ずる気遣いなど見せずただクツクツ喉を震わせ面白がっていたが、その黒い目が唐突に赤く飾った唇へ向けばつい大仰に肩を竦めて。都市にてレエスの手袋やら細やかな美を好む女連中、己のシャツの皺や埃には敏感な男共でさえ他人の口紅の色など気にも留めないというのに。素直な喜びと感心とをよく回る舌で表せば、指を唇のふちへ添えてニイ、と悪童めいた顔をひとつ。「……"お似合い"と褒めてくれりゃァ紅師の坊や。些細な礼の一つや二つ、考えてやらんこともないがどうかな?ま、殴る蹴るだの此方の肌に痣がつくのは勘弁願いたいがねェ」それはほんの気まぐれの思いつき。相手の悪癖なぞさして理解してみたいわけでもないが、たった今自分が喜ばされたように、この男を少し喜ばせてみようかと薄く紅色の移った指を立ててどうだ、とゆったり首を傾げ)
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